チャットルームワールドという異空間がある。
そこでは様々な世界のキャラクター達が各々好きなときに現れ、他世界のキャラクターと夢の一時を過ごすことができるという不思議な場所である。 最近出番がないなどといった愚痴トークや、このポケモンいいよね〜この人物いいよね〜とキャッキャッ声があがる恋バナとか、ジャンルは様々である。 おや、ここにも……。
「なんや、先客がおったか」 「ん? あなたは誰?」
ちなみにチャットルームワールドは複数の部屋があり、その部屋の内容もそれぞれ異なる。 赤茶色の毛並みに、赤い髪の毛と六つの尻尾を持った一匹のロコンと、黄金の毛並みで九つの尻尾を持った一匹のキュウコンがいる部屋は畳がどこまでも広がる和の部屋であった。
「名乗るときは自分からって、まぁええか。ウチは灯夢(ひむ)っちゅうんや。よろしゅうな」 「私は火花(ひばな)。よろしくね」 大阪弁を扱う赤髪に白銀のかんざしを刺したロコン――灯夢と、金色の九尾狐であるキュウコン――火花は座布団を置くと適当なところに座った。 このチャットルームには部屋に応じて色々な物が揃っており、この畳の部屋ならば、座布団やお茶飲み、後は軽い茶菓子などが所々に置かれていて、くつろぎ感を訪れた者に提供しているようだ。 二匹の狐が座った後、灯夢が背中にくくりつけていた風呂敷を外し、結び目を解いて膨らんだソレの中身をポイポイと出していく。黄土色の葉っぱに包まれた桃色の餅や、琥珀色のタレが艶やかに光る団子や、香ばしい香りがする煎餅などなど、おいしそうな和菓子が次々に出てきた。 「これは?」 興味津々に和菓子を眺める火花の口元からはよだれが垂れてきている。 「ウチの大好きなみたらし団子に、桜餅、フエン煎餅しょうゆ味にミソ味に塩味、水ようかん、たい焼き、他にもあるで」 「お、おいしそう……」 「なんや、初めてかいな?」 「ええ、ポケモンフーズとかポフィンならあるけど……これは初めてね」 「なら、折角やし一緒に食べへんか? うまいで?」 「い、いいの?」 心配そうに、けれど食べたいな〜という感じの眼差しを向けてくる火花に灯夢は白い歯を見せながらニカっと笑った。 「ほな、食べようか」 「うん! ありがとう!」 火花は早速、桜餅に手を伸ばし、灯夢は大好物のみたらし団子に手を伸ばした。 火花の口に桜餅が入り、桜の香りと甘い味が口内に広がると火花の目が大きく開かれて、らんらんと輝かせていた。一方の灯夢もみたらし団子を一個、口にほおばり、クセのある甘いタレに酔いしれる。 「う〜、ひょく、のひる〜!(訳:う〜、よく、伸びる〜!)」 「もぎゅもぎゅ……おぉ、よう伸びとんなぁ」 火花が口にした桜餅はかなりの弾力があったからか、火花に負けじとその身を切られずに伸ばし続けていて、灯夢はそれを面白そうに見ていたのであった。
初めて同士でも酒を交わせば、場の空気は緩和し、語り合える。 そのような感じで和菓子を通して、お互い溶け込めた灯夢と火花は和菓子と熱い緑茶を片手にFGT――フォックスガールズトークを交わしていた。 「灯夢さんは野生のロコンなの?」 「まぁ、そうやな。さすらいのロコンやで、ウチは。そういう火花はんは?」 「シュカっていうトレーナーが私の主人なんだ」 「(……まぁ、ウチは今、人間の男と一つ屋根の下で共同生活しとるんやけど)」 「ん? どうしたの灯夢さん。なんか苦笑いして」 「へ……? あぁ、なんでもあらへん、あらへんでっ」 「あ、そうだ。灯夢さん行くところがなかったら、私達の仲間にならない!? 灯夢さんなら強そうだし、シュカも多分許してくれるだろうし」 「なんかウチが捨てられロコンみたいな感じがするんやけど……あぁ、すまへんな。ウチにはやることがあってな。折角の誘いやけど行くことはできへんわ、すまへんな」 「そうか……残念」 しゅんとうなだれる火花に灯夢は申し訳なさそうな顔を向けた。 実際に灯夢にはやることがある。 火花がシュカと共に目的に向かって旅をしていると同じように、灯夢にもやらなければ、いけないことがあるのだ。 火花はキュウコンだ。これから何年、何百年と生きていくことだろう。その長い時の間にシュカと別れなければいけない日がやがて訪れるだろう……そのときになったら火花と一緒に旅をするというのも悪くないかもな……と思ったところで灯夢は自分自身に向かって、心の中で「たわけ」と呟いた。 「まぁ、その分って言うても、おかしいかもしれへんけど、今、このときを大いに楽しもうや、な?」 「……うん。そうね!」 和菓子と緑茶を片手に狐二匹の談話が再開された。 「灯夢さんって、キュウコンにはならないの?」 「ウチは不思議なロコンでな、千年生きないとキュウコンになれへんの」 「へぇ……! 千年も!」 「あんなぁ……火花はんも千年生きるポケモンっちゅうことを忘れんようにな」 「あ、そうだった。でも、私、今何歳か分からないなぁ……今度、シュカに訊いてみようっと」 コロコロと笑う火花に灯夢も思わず笑みが零れる。 「それで、今灯夢さんは何歳なの?」 「九百九十七歳やな」 「すごい、覚えてるんだ! そして後三年じゃない!」 「確かに、長生きしてくると、歳なんか関係なくなって忘れそうな気もするけどな、ウチの場合はどうしてもな」 「キュウコン姿の灯夢さん見てみたいなぁ」 「なら三年後にまた会うっちゅうのもええんちゃう?」 「うん! それいい! 他にもいっぱいキュウコンさん呼んでも面白いかも!」 「それ、何パラの話やねん」 あははは! と笑い声が二匹の狐からあがった。 和菓子を酌み交わし、酔ったかのように、心底から楽しそうに灯夢と火花は笑った。 「あ、そうだ。私の仲間にも会って欲しいな」 「ほう」 「まずね、雷夢(らいむ)っていうマイナンがいてね。その子――」 楽しい時があっという間に過ぎていく中、火花の意識はいきなりシャットアウトされた。
「ほわぁ……あれ? ここは……」 青い空、白い雲、広大な草原、その中にある一本の大木。 その下では、一匹のキュウコンに、そのふわふわな尻尾を枕代わりにして眠っている少女が一人。他にも近くにはマイナンやロズレイド、ドンカラスやエンペルトが同じく、キュウコンの尻尾を枕にしてすやすやと眠っていた。 「あ、そうか……ここで皆で昼寝でもしようってシュカが言い出して……」 思い出しながら、キュウコン――火花は大きなあくびを一つあげた。 眠そうに、あくびから出た目頭にある涙一粒を前足で落とすと、空を見上げた。 「不思議な夢……だったなぁ」 夢と口にしたものの、なんか夢じゃないような気が火花にはした。 桜餅を食べたり、みたらし団子を食べたり、そして――。 「……また、あのロコンさんに会えるかな? きっと……また会えるよね。灯夢さん」 再び、大きく口を開けた火花はもう一眠りしようと、目を閉じた。 また、あのロコンと和菓子を食べながらおしゃべりできる日を夢見て。今度は自分だけじゃなくて仲間も一緒にと願いながら。
木陰でそれぞれが夢にたゆたいながら、火花の口元から小さな桃色の欠片が一つ落ちていった。
【リクエストもらいました】 某日のチャットにて、akuroさんから『灯夢さんと火花さん』をイラストで描いて欲しいとリクエストをもらいまして。(ドキドキ) ポケストにあげて欲しいというお願いから、折角なので灯夢さんと火花さんの一時も書かせてもらいました! 火花さんの特徴がちゃんと出ているといいのですが……もし出ていなかったらスイマセンです。(汗)
そして『チャットルームワールド』(PDWみたいなものと考えて大丈夫かもです)いう謎の異空間を引っ張り出してしまった私。(汗) よ、よろしければ、皆さんもこのチャットルームワールドを活用してくd(以下略)
改めて、akuroさん、リクエストおいしくいただきました! ありがとうございました!
それでは失礼しました!
【みたらし団子もぎゅもぎゅ♪】
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