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  [No.1814] 苦痛 投稿者:ラクダ   投稿日:2011/08/30(Tue) 00:13:37   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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※注意! このお話には不快・残酷描写が含まれます。苦手な方はご注意下さい。














 甲高い悲鳴をあげて、小柄なガーディは床に倒れ伏した。目を剥いて鼻面を引っかき、荒い息を吐きながら悶え苦しんでいる。僕の放ったスモッグが、彼の顔面に直撃したのだ。嗅覚の鋭い種族にとっては凄まじい苦痛に違いない。ごめんね、と言いたかったけれど……側にご主人様がいるから、口に出すことは出来なかった。少しでも指示以外の行動をとったら、酷い目に合わされてしまうから。
 のたうつガーディと彼に駆け寄る白衣の男性に、薄ら笑いを浮かべたご主人様は嘲りの言葉を吐いた。

「あーあ、お宅の番犬は使えませんねぇ。もう少し鍛えておけば、大事なデータを盗られる事もなかったのに。研究熱心なのはいい事ですが、ちっとはバトルについても勉強した方が良かったんじゃないですか?」
 
 まあ、今更ですがね。そう言ってにんまりと笑い、机の上の資料を鞄に詰め込む。プリントやらファイルやら、パソコンのメモリーカードやら一切合財。仕上げに換金できそうな小物を二、三ポケットに詰め込んで、ご主人様は僕に向き直った。

「お前はしばらくここにいろ。いつも通りに、な」
 
 鞄から取り出した通信機を机に置くと、ガーディの手当てに必死になっている研究員を完全に無視して、さっさと非常階段へ歩いてゆく。ドアを開けると、煌々と光に照らされたフロアと正反対の、星一つない闇夜が広がっていた。手持ちのゴルバットを呼び出したご主人様は、その足を掴んで闇の中へと消えてゆく。大蝙蝠の微かな羽音が遠ざかっていった。
 残されたのは、静寂の中に響く呻き声と怨嗟の声。

「畜生……畜生! ロケット団なんかに侵入されるなんて、警備の連中は一体何をやってたんだ! 俺の、俺の研究の全てが……おい、しっかりしろ!」
 
 ガーディの体が小刻みに痙攣している。吸い込んだ毒が全身に回ってしまったらしい。青黒く変色した舌を垂らして、ひゅうひゅうという苦しそうな呼吸を繰り返している姿は酷く痛々しかった。
 ああ。僕の、せいで。
 
 ごめんね。思わず呟いた声に、反応したのは研究員の方だった。

「お前のせいで……! お前らのせいで何もかも滅茶苦茶だ!」
 
 憤怒の形相で叫びながら、手近にあったガラス瓶を掴んで僕に投げつける。避けることは出来たけど、僕はあえて動かなかった。ぼこっ、というくぐもった音を立てて命中した瓶が、弾んで落ちて砕け散る。ガラスの破片がぎらぎら光って目を刺した。
 体に感じた鈍い痛みより、心に感じる鋭い痛みの方が辛かった。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。僕はこれから、もっと酷いことをしなくちゃいけない。ご主人様はきっと、あれを命じてくるはずだから。
 
 
 突然、通信機が耳障りな雑音を吐いた。びくりと肩を震わせる研究員に向けて、徐々に鮮明になってゆく音声が語りかけてきた。

『もしもし? 聞こえますかね? 先程頂いたデータの受け渡しが、無事終了しました。本部の方で本物だと確認できたそうで、こっちも一安心でしたよ。いやぁ、無防備に机に放り出しておいてくれて、助かりました』
 
 くくっ、と笑う声。研究員の体が怒りで震えている。首をもたげたガーディが、擦れた声で唸り声を立てた。
 この悪党めが、と喉の奥から搾り出すように呟いて、彼は相棒の仇の声を伝える通信機に憎悪の視線を向けている。視線で物が害せるならば、目の前の機械は木っ端微塵に弾け飛んでいただろう。
 その声が聞こえているのかいないのか、ご主人様はこちらの様子に頓着せずに、淡々と話を続けていく。

『とまあ、そういうわけでですね。もうそちらに用は無くなりましたので、うちのヤツが最後の仕事を済ませたら、今後一切関わる事はありませんと言明しておきましょう。どうぞご安心を』
 
 ああ、とうとうきた。うなだれる僕を怪訝そうに見ながら、最後の仕事とは何だと問い返す研究員に、いたって簡潔に――そして楽しそうに、ご主人様はこう言った。

『こういう事です。……ドガース、大爆発』

 ひっ、と息を呑む音を聞きながら、目を閉じた僕は大技に向けて集中を高めていく。いつもの仕事、現場の証拠隠滅という作業の為に。体内に強大なエネルギーが満ちてゆくのを感じる、限界まで凝縮したそれを一気に解き放てば……それでお終いだ。
 技に渾身の力を込める一方で、僕の頭の片隅には解き放てない思考が渦を巻く。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! どんなに嫌でも、どんなに辛くても、僕はご主人様に逆らえない。あの小さなボールに縛られた身では、逆らうことなんて決して出来ないんです。無理に抵抗して殺された仲間を沢山見ました。殺されるより酷い状況に追い込まれた仲間も見ました。僕はそれが恐ろしい。たとえ道具として使われようとも、生きていたいんです。使える道具である限り、ご主人様が僕を手放すことは無いだろうから。今回もきっと、全てが終わった後に迎えに来てくれるだろうから。
 ごめんなさい、ごめんなさい、どうか許して……!

 

 
 
 頼む、やめてくれ! 迸る絶叫を引き金に、僕の意識は真っ白に染まった。







――――――――――――――――――――――――――

 
 
 もうなんていうか、色々とすみません。書いといて何だが、陰気すぎるわ……!

 元々、表現の練習用として「自作50のお題で掌編創作」という無謀突発企画の為に書いていたのですが、予定より長くなったので単独投下に踏み切りました。タイトルはそのまま【苦痛】、お題としては悪、かな……?
 “悪の組織”ロケット団(完全悪役でごめんなさい、でもこれくらいの事はやってると思うんだ……)のポケモンにも、きっとこういう奴いるんじゃないかなぁ、と。トレーナーがこうだからって、その手持ちもそうだとは限らないんだぜ的なことを書きたかったんです、確か(

 何の研究所に押し入ったのか、どんなデータを盗んでいったのか、爆破した後はどうやって手持ちを回収するのか。使いきり掌編のつもりだったので、深い設定は全く考えておりません! お読みくださった方のご想像にお任せいたします。
 おっそろしく暗い話とちゃらんぽらんな後書きにお付き合いくださいまして、どうもありがとうございました!

【なにをしてもいいのよ】


  [No.1817] だいばくはつ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/08/30(Tue) 17:42:37   20clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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金銀ロケット団のアジトにある地雷には苦労しました。
なぜかその思い出が淡々と浮かんできました。
途中まで、ヘルガーだと思っていたのは秘密。


  [No.1821] ダイバクハツ 投稿者:ラクダ   投稿日:2011/09/01(Thu) 21:33:13   21clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> 金銀ロケット団のアジトにある地雷には苦労しました。

 ありましたねえ。いつも、嬉々としてペルシアン像に引っかかりに(遠回りして)行ったので、あまり地雷原については知らないんですが……あれも、今考えると怖い仕組みですね……。アジトを損なうことなく、侵入者と共に吹き飛べと強制しているわけで……。ヤドンの尻尾切り取りといい、ギャラドスの電波の件といい、真面目に考えると結構エグいことやってる。個人的には、それくらいやっててこそ“悪”と呼ばれるんだろうなー、と納得はしているのですが。(正直、未だにギンガ団がよく分からない……)

> 途中まで、ヘルガーだと思っていたのは秘密。

 私としては嬉しい限りです。最後の、大爆発を命じる場面まで正体を伏せておきたかったので、あえて名前や特徴を省きました……って、その前に一回「ドガース」って言っちゃってるよ! ミスったー、いつも詰めが甘いorz
……後でこっそり直しておこうっと(

 感想をいただきまして、どうもありがとうございました!