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  [No.1822] スカージ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/09/02(Fri) 01:40:23   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 好きな色、好きな花。確かそう記憶していた。赤とオレンジ、そして添うようなかすみ草。白いユリは香りを振りまいていた。あんまり匂いのきつい花はいけないと聞いていたけれど、あいつは好きだった。たまには喜ばせてやろう。そうしたってこれ以上の罰は当たらないだろう?

ーScourgeー

 部屋のドアは開いていた。けれどカーテンはしまっていた。一応、入り口で声をかけた。俺だよ、と。名前なんて言わなくても解っていた。もう10年の付き合いだから。そしていつものようにマネキンのように固まった表情で迎えた。その顔の右半分は焼けただれて。
 そうだ、今日は包帯を初めて取る日だった。そのお祝いだったのに、一瞬それが抜けてしまった。それで鏡を見ていたのか。想像していたより酷かったのか、軽かったのかは解らないけれど、俺をみて無事な方の顔が笑った。
「ホムラ!」
「おうよ。せっかくの包帯取る祝いだし、どうだ?カガリの好きな花」
 花束を目の前に見せる。嬉しそうに目を細めた。やはり片方の顔だけで。
「ユリと、マーガレット!って、これ高かったんじゃない?」
「そーでもねえなあ。生けてやろうか?」
「うん、ありがとう!」
 無理して明るく振る舞ってる。そんくらい解るっての。マグマ団でずっと一緒に活動していた。そのくらい、すぐに解るんだよカガリ。俺が解らないようなちゃらんぽらんだと思ってるのかよ。

 マグマ団の目的は陸を増やして住む場所を広げること。生き物が進化する過程で海から陸へ上がり、その多様性を増やして来た。それに、人は陸でしか生きられない。
 環境を破壊せず、陸を増やす方法があった。古代のポケモンのグラードンの力を借りること。幾多の文献をあさり、幾多の時間をかけてようやくグラードンを目の前にして……
 あのガキだ。あのガキどもが暴れるグラードンの目の前に飛び出すから。マグマ団だって死人を出してまで復活させようなんて思ってなかった。だから、カガリはそいつらの目の前に飛び出したんだ。あのガキどものポケモンが瀕死だったから、庇うように。
 そして、並のポケモン以上の攻撃を顔面と、後は腹に受けた。ほとんど意識がなかった。その連絡を受けた時に思ったことは一つ。なぜカガリの側についていてやれなかったのか。リーダーの命令とはいえ、なぜそんな危険なことを理解してやれなかったのか。アジトに残って団員をまとめる役を代わってやれればこんなことにはならなかったのに。
 意識が戻る数日の間、ずっと側にいてやった。リーダーは残った団員をまとめるのに忙しくて来れないから、代わりに。
 初めて目を覚ました時、カガリは俺のことをまっすぐ見て言った。「天罰だ」と。環境を変えようとして、古代のポケモンを復活させたマグマ団への天罰だとカガリは言う。そんな事は無いと言ったのに、カガリは頑として言葉を変えなかった。
 これが天罰ならなぜカガリだけに降り掛かるんだ。リーダーだって、俺だって、他の下っ端たちだって、天罰ならば平等に与えることだって出来るはずだろう。それなのに、なぜカガリにだけこんな酷い火傷と傷跡を残した。

 花瓶から水が溢れ出ていた。昔のことを思い出し過ぎた。水道を止めて、花瓶の水を少しだけ捨てて、花束を解く。輪ゴムでしばってあるのを一つずつとって、花束と同じ配置になるように花を刺す。
 再び部屋に戻ってみれば、やっぱり鏡を見ている。笑顔を作る練習のようだった。やはり無事だった方しか笑うことが出来ない。火傷を負った方は、笑うことはおろか、目も見えてないのだという。
「ホムラ」
「どうした?」
「マグマ団はどうしたの?こんなところに毎日何時間も来てられる身分じゃないでしょうに」
「リーダーがなんとかやってるよ。これからどうするかはカガリが退院しないことには決まらないっていうし。だから早く元気になれよ。そんでいつもみてーに高笑い響かせて下っ端を脅かしてやれよ」
気が強くて、特別美人とかでもなくて、やたらポケモンでいじめて来る。それなのに下っ端からは頼りにされててリーダーも何かとカガリを頼りにしていた。俺はというと、カガリよりは慕われていた覚えはあるけれど、頼りにされていた感じはあんまりない。リーダーも必ず連絡はカガリからだったし(ただ名簿を作った時にあいうえお順だっただけらしいが)、会議の時も資料や下調べが一番出来ていたのもカガリだった。
 だからみんなカガリを待っている。そういったのだが、カガリには通じなかったみたいだ。
「ホムラは何も解ってない!」
いきなり怒られた。思わず固まる。
「何が待ってるっていうの。私は以前のわたしじゃないわ!もう別の顔よ!こんなので、誰がついてくるっていうの!」
「っていわれても、俺にはカガリにしか見えないし……」
「だから何も解ってないっていうのよ!もう片目も見えない、笑うこともできない!言葉だって全てがはっきりと音にならない!もう私じゃないのよ!」
カガリの両目から涙がこぼれる。見えなくても涙はそこにあった。けれど火傷した方の目ではそれが感知できないようで、無事な方だけの涙を拭う。
「こんなんじゃ、生きても行けない。こんな顔で、生きて行くなら死んだ方がまだマシだった!」
「カガリ……」
「そうよ、これが天罰なのよ。こんな人間じゃないような顔で生きて行かなきゃいけないのよ。かわいそうとも思われず、当たり前だと嘲笑されながらね!そうして一人で死んで行くのよ!」
「落ち着けよ。誰もお前のこと当たり前だなんて思ってない。それにカガリはカガリだ」
「きれいごと言わないで!ホムラは良いわよね、マグマ団だって言わなきゃ普通の人間にまぎれるんだから!」
「そんなことねえって。俺の居場所はマグマ団しかない。それとマグマ団のやつらはカガリがどんなになってようが、まじで待ってる」
「そんなの上辺だけよ。事実を見てないからみんなそう言うだけ!」
「カガリ……」
情けない。今のカガリに一番必要な言葉が解らない。ただ事実を述べるだけでは、カガリの心に届かないことなんて解ってるのに。10年以上の付き合いが嘘のようだった。
「もう誰も私のことを人間だなんて思ってない。妖怪を見るように見てくる。誰からも人間だなんて思われない!」
「そんなことねえよ。俺はカガリは人間だし女だしマグマ団の大切な同僚だと思ってる」
違う、俺の言いたい言葉が出て来ない。死ぬな、なんて都合のいい言葉じゃない。ただ、ずっとこれからも一緒に生きて行きたいだけなんだ。出来るならまた一緒にマグマ団としてやって行きたい。
「だから、生きていけないと思う前に、俺のところで良かったら来いよ。世の中、そう思ってるやつばかりじゃないって」
「何言ってんの?」
少しだけ表情が変わった。声も少しだけ晴れてきてる。
「え、だから俺の家に来いよってこと」
「ホムラの家、足の踏み場がないからやだ」
「ちゃんと大掃除したんだぜ。泊まりに来ると思って一応」
「あれが初めて女の子を泊める家か。その辺にエロいビデオだの雑誌だの放置して、洗濯物はその辺に投げてある部屋が」
「あれエロくねえよ!思い出した、その後俺のことエロビデオだのなんだの呼びやがって、下っ端にまでそれがうつったんだぞ。あの時は名誉毀損で訴えようかと思ったくらいだ」
その後、カガリはずっとあのDVDのこととを言っていた。確かにカガリが来ると知ってれば真っ先に片付けようと思うが、突然泊めることになったんだから仕方ないと思わないか?
「じゃあそれは私の勘違いとして、寝る場所なくて洗濯物の上で寝た事実はどうしますかホムラさん」
「それは認める。うひょひょ、カガリがあれ全部洗濯して片付けてくれたおかげで、あの時だけは綺麗になったんだよ一応」
「は?またあのゴミ屋敷状態なわけ?マグマ団のアジトだって一人で散らかすし。片付けろっていったでしょ!」
「うひょひょ、だからカガリが来てくれると助かるんだけどなあ」
心なしか、火傷をおった方の口角が上がっているように見えた。完全に元には戻らないにしても、カガリはカガリ。俺にとって、大切な同僚で、パートナー。
「ホムラ、ありがとう」
「俺は何もしてねえ。ただ、マグマ団のやつらは待ってる。早く元気になって戻って来いよ。そうしたら、今度の作戦が開始だ」
カガリはあのガキどもをグラードンから庇った。そして傷を負った。それが天罰というならば、なぜあのガキどもは一度も見舞いにすら来ない。あのガキどもへ天罰を与えるのは俺たちだ。
 そのためにグラードンを利用するだけさせてもらう。くだらないと思うやつらもいる。けれど俺はリーダーの案に賛成だ。あのガキどもに、カガリより酷い天罰を。

ーーーーーーーーーー
ホムラさんかっこいい。
気の強い同僚と。といったら
カガリさんしか知らねえ。

Scourge(スカージ)=天罰
宗教的な意味合いが強い。英語。
(以前、アルファベットで投稿したところ、正しく読まれなかったことがあるのでそれ以来全てアルファベットのタイトルはしないのですいません)

【好きにしてください】【うひょひょ】【ウシオさん?】