[掲示板へもどる]
一括表示

  [No.1904] 岩お伽ふたつ 投稿者:巳佑   投稿日:2011/09/23(Fri) 00:18:14   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5



【こおり に おおわれた いわ の おはなし】

 むかしむかし、とある冬の寒い日のこと。
 寒風もそこまで激しくなく、穏やかな冬の冷たい風が漂う日のことでした。
 辺りは白銀に塗られた雪原の世界。
 反対に空は灰色に染まっており、そこから雪原へと白い便りが届けられています。

 
 その灰色の空では一匹の水色の鳥が飛んでいました。
 水色の大きくてたくましい翼、蒼色の長くて美しい尾、額にあるひし形をした蒼色の飾り。
 フリーザーと呼ばれし、その水色の鳥の真紅に染まった湖が一匹の倒れている者の姿を捉えました。
 その者はうずくまっている様子で、ただごとではないと思ったフリーザーはその者の前に舞い降りました。 
 白い薄化粧を被ったその者は、茶色の体にクリーム色のふわふわな毛を持ったポケモン――イーブイでした。


 そのイーブイはどうやら気を失っているだけのようで命に別状はありません。
 しかし、このまま放って置いたら死んでしまうかもしれません。
 イーブイの命を狙う者は寒さだけとは限りません。
 もしかしたら、他の者にイーブイが食べられるという可能性もありました。
 

 フリーザーはこのイーブイを助けることにしました。
 自分の背にその小さな体を乗せますと、フリーザーは羽をはためかし、雪空へと舞いました。
 ふわりふわりと白雪が空に舞い、白銀に溶けていきます。
 フリーザーはイーブイを落とさないようにと、ゆったりとした飛行をしました。
  
 
 ようやく雪宿りが出来そうな洞穴にフリーザーはたどり着きました。
 フリーザーはそこでイーブイをゆっくりと降ろしてあげます。
 それからイーブイに被った白い薄化粧を払います。
 その後、寒くないようにと自らの翼でイーブイを抱擁しました。
 すると、気持ちよかったのか、イーブイの顔は寒そうな色から生気溢れる温かい色に変わっていきます。
 頬を赤らめて、口の端は微かに上がっているイーブイを見てフリーザーは安堵の息を零しました。
 すぅすぅ……という小さな寝息を聞きながら、フリーザーはイーブイのことを見つめています。
 フリーザーの心臓から早口の歌声が上がりました。


 しばらくしますと、イーブイが目を覚まします。
 最初は大きな水色の鳥に抱かれていることにイーブイは驚きました。
 しかし、このイーブイは聡いの者だったらしく、この鳥さんは自分を助けたのだと気付きます。
 ありがとうございます――イーブイは微笑んで言いました。
 大したことはしていないっ――フリーザーは顔を赤らめながら言いました。
 
 
 それからフリーザーはイーブイに色々と尋ねました。
 
 何をしているのだ? ―― 旅をしてまして。
 
 何故、旅を? ―― 自分探しの旅というものですかね、うふふ。
 
 どうして、あそこで倒れていたのだ? ―― それはその……。

 茶色のお腹から虫の鳴き声が上がりました。
 恥ずかしそうな微笑みを見せるイーブイに、フリーザーはやれやれと溜め息をつきました。


 木の実での食事にてフリーザーはここで少し旅の疲れを癒していけと、イーブイに勧めました。
 旅の疲れが溜まっていましたイーブイはそのお言葉に甘えることにします。
 それからイーブイとフリーザーの日々が始まりました。
 フリーザーの背中にイーブイが乗りまして、一緒に空の散歩をしたり。
 他にも一緒に雪だるまを作ったり。
 雪合戦をしあったり。
 楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていきます。


 疲れとお別れをしたイーブイがそろそろ出発するという日の夜。
 粉雪が舞う中、フリーザーはイーブイを天然温泉が湧いている所に案内しました。
 その温泉は誰も知られていない秘湯だったのか、いたのはフリーザーとイーブイだけです。
 もくもくと上がる湯煙に抱かれながら、フリーザーとイーブイは湯に浸かります。
 翠緑色を魅せる湯に広がる波紋。
 フリーザーは隣のイーブイの方に向きました。
 雫の衣を被ったイーブイの体からはとても艶かしい香りが漂い、フリーザーは息を飲みます。
 今まで旅をしていただけあって足の筋肉はしっかりとしており、美しいラインを描いています。 


 湯の夢から覚めたイーブイがフリーザーの視線に気がついて、顔を向けます。
 どうしたのですか? ――微笑みながらイーブイが尋ねます。
 なぁ……イーブイ――赤い双眸(そうぼう)はしっかりとイーブイを映していました。
 
 私と番(つがい)になってはくれまいか? ―― …………それはまたどうしてですか? 

 簡単なことだ。私がそなたが好きだからだ。 ―― でも、いいのですか? わたしなんかで。

 この白い世界をそなたと染めていきたい。 ―― あらあら、照れますわね。

 ………………。 ―― うふふ、恥ずかしかったですか? 

 い、いささかばかりな。 ―― あらあら。
   
 それからフリーザーとイーブイはお互いのことを見つめ合いました。
 そしてお互いの距離が縮まっていき――。
 フリーザーは天然の白い薄化粧を乗せたイーブイの唇に、自分のくちばしを乗せました。
 

 番になり、フリーザーとイーブイの日々は続いていきました。
 フリーザーのもふもふとイーブイのもふもふが重なり合い、それは離れることはありませんでした。
 しかし、幸せな日々にも終止符が打たれる時がやってきました。
 それはお互いの命が尽きることでした。
 その頃にはお互いをもふもふしあっても、体温からの返事はなく、冷たくなる一方でした。
 

 もうすぐ死ぬ。
 そう悟りましたフリーザーとイーブイは外へと出ました。
 外では粉雪がふわりふわりと舞い降りています。
 その白銀の世界の真ん中で、フリーザーとイーブイはいました。
 フリーザーはイーブイをその大きな翼で抱きしめています。
 二匹は空を見上げました。
 依然と粉雪がふわりふわりと舞い降りています。

 そなたと出逢ったのもここであったな。―― あら、そうでしたの?

 その日も同じ、粉雪が舞っていた。―― 粉雪で助かりましたわね。 

 確かに吹雪だったら……見つけられないな。―― うふふ、ですわね。

 ………………。―― ねぇ、フリーザーさん。

 なんだ? ―― このまま一緒に雪になるといいですわね。

 どうしてだ? ―― うふふ、一生溶けないまま、一緒にいれますでしょう?

 ……私が言いたかったな、それ。―― あらあら。うふふ。

 …………。―― …………。

 ……なぁ。―― ……はい?

 ……ずっと溶けない恋をしようか。―― えぇ。


 やがて、フリーザーとイーブイは雪に埋もれました。
 そして、時間がいささか経つと共にそこには氷に覆われた岩が出てきました。
 するとタマゴが一個、光を放ちながら氷に覆われた岩の前に現れました。
 それから間もなくヒビが入りますと、そこから一匹の生き物が出てきます。

 水色の体に、額には氷のような飾りが付いている生き物。

 その名はグレイシア。

 フリーザーとイーブイの愛の結晶の子でした。

 
 

【こけ に おおわれた いわ の おはなし】 

 むかしむかしのことです。
 とある大きな森に住んでいるイーブイがいました。
 花や木といった植物が大好きで、そしてこの森が大好きなイーブイでした。
 
 
 ある日のことでした。
 その森で大きな火事が起こってしまったのです。
 紅蓮の炎は狂気的な舞いを魅せ付けるかのように踊り続けていきます。
 木々は悲鳴をあげ、花はその踊りに捧げられるがの如く消えてしまいました。
 この大火事はやがて鎮火されましたが、森は真っ黒な平原に衣替えされてしまいました。
 森に住んでいたポケモン達が全て生きているかどうかさえも見失わせる程の大火事。
 少なくとも植物大好きなあのイーブイは無事、生き残っていました。


 住処をなくした森のポケモン達は真っ黒な場所から旅立っていきます。
 新たな住処に希望を求め、旅立つポケモン達。
 しかしあのイーブイだけは違いました。
 この場所が大好きだったイーブイはここに希望を植えることを心に決めたのです。
 他の者達からにはできないできないと言われても、イーブイの志は変わりませんでした。
 

 まずイーブイは真っ黒な土を小さな手で掘り返すことから始めました。
 生気のなかった土地が少しずつ息を吹き返していきます。
 しかし、広大な土地にイーブイ一匹、小さな手はみるみる内にボロをまとっていました。
 更に、雨の雫で喉を潤させることはできたのですが、お腹を満たすものはありませんでした。
 やがて空っぽなお腹の訴えにイーブイは倒れてしまいます。
 

 手も足も言うことを聞いてくれない状態の中、イーブイの瞳には虚ろが陰りが漂っていました。
 すると、空から一匹のポケモンがイーブイの前に降り立ちました。
 それは赤い羽根を持ち、白い袋を持ったポケモン――デリバードでした。
 イーブイの衰弱ぶりに驚いたデリバードはすぐに自前の白い袋から食料を出します。
 モモンやオレンといった木の実、『おいしいみず』といった飲み物をイーブイに与えました。
 やがてお腹や喉が癒えてきて、みるみる内にイーブイの顔色は生気を取り戻していきます。
 
 どうないしたんや、あんさん。こないなところで。―― 地面を掘り返してるんだよ。

 また、どうしてそないなことを? ―― 森を元に戻したくて。

 え、あんさん、本気で言うてはります? ―― 何を?

 どう見ても広いこの森を一匹だけやと、無茶ちゃいます? ―― それでも僕はやるよ。

 え? ―― 僕はここの森が好きだから。

 あんさん…… ―― あ、忘れててごめんね。食べ物と飲み物ありがとう。

 ……うぅ、あんさーーん!! ―― わわっ!? ど、どうしたのっ!? いきなり抱いてきてっ

 あんさんの心意気にあっしは感動したで! ―― え?

 あっしには食べ物を届けることしかできへんけど……。―― ……あ、ありがとう!

 ついでに種も仕入れてこれたら、持ってくるで。―― わぁ……! 色とりどりな森になるねっ! 


 こうして一匹だけだったイーブイに心強い仲間ができました。
 イーブイは地面を掘り起こしていき、デリバードからもらった種を地面に口づけさせます。
 デリバードは世界各地に飛び回り、イーブイの活力になるものを集めたり、種を集めたりします。
 更にデリバードは苗木も手に入れたりしてきて、木々も増え始めていきます。
 そしてイーブイの小さな手はボロをまといながらも、掘り慣れから硬くなっていました。
 その硬さは、ここに森を蘇させたいという強い意志を映すかの如くのものでありました。
 ちょっとずつ、ちょっとずつではありましたが、緑が産声を上げています。
 デリバードからもらった種が地面から芽をのぞかせていたのです。

  
 あんさん、少しずつ緑が増えていってるな。―― うん。まだまだこれからだけど。

 あんさんと出会ってからよりもマシになってきてるで、ホンマに。―― うん、本当にいつもありがとう。

 ……あんさんはこの場所がホンマに好きなんやな。―― うん。そうだよ。

 …………ここに森が戻ったら、いっぱいのポケモンがくるとええな。―― うん、そうだね。

 そういや、あんさんはいつも一匹だけで悲しくはないんか? ―― 大丈夫だよ。

 大丈夫って、やせ我慢はよくないで? ―― えへへ。我慢でもなんでもないよ。

 え? ―― だって、自分のしたいことしてるんだもん。我慢も何もないでしょ?

 ……。―― 僕ね、森に住んでいて思ったことがあるんだけど。

 ……なんや? ―― 植物になってみたいなぁ〜……って、おかしいかな?

 植物好きなあんさんらしいんやないか。―― えへへ、ありがとっ。それとさ。

 うん? ―― 一匹だけじゃないよ。

 ……え? ―― デリバード君もいるじゃないか。

 順調にこの土地の緑化が進んでいった、ある日のこと。
 夜空の下、イーブイとデリバードは語り合いの中、デリバードから涙が零れ落ちていきます。
 ぽろりぽろりとデリバードの感情の雫が、草の上に跳ねて、散って、キラキラと消えていってました。
 一匹だけではきっとできなかった。
 空っぽになったお腹が手を動かす力をずっと奪い去ってしまうかもしれませんでした。
 潤いをなくした喉が足を動かす力をずっと奪い去ってしまうかもしれませんでした。
 ここに森の産声を上げたいというイーブイの希望の種に、水をくれたのはデリバードでした。


 それから時が更に経っていきます。
 苗木はぐんぐんと背を伸ばしていき、辺りは草原がどこまでも敷かれており、色とりどりな花を飾っています。
 少しずつ他の所からポケモン達がやってきて、この場所に暮らし始めていました。
 イーブイの種は大きな花を咲かせていました。
 この場所は見事な森へと生まれ変わっていました。
 

 しかし、そこにイーブイの姿はありませんでした。
 イーブイが住処にしていた大きめな岩のある場所にに一匹のポケモン――デリバードがいました。
 その岩は木々の影に抱かれているからでしょうか、緑色のコケを生やしています。
 デリバードはその岩に手を触れながら、微笑んでいました。
 
 なぁ、あんさん。ここが立派な森になって、もう何年も経つんやな。―― …………。

 あんさん、夢叶えた瞬間、倒れるなんて、寂しいやないか。―― …………。

 なぁ、あんさんは今、大好きな植物になってはるんやろうか。―― …………。

 今日はあんさんにな、新しい植物の種をって思ってな。―― …………。

 これをここに埋めといて……っと、ほな、わいはもう行くな。また、来るで。―― …………。

 返事のない岩に――イーブイにそう語ったデリバードはその岩の近くに種を一粒埋めました。
 イーブイは、もう生きてはいませんでした。
 ここが再び森と呼ばれ始める頃のこと。
 今までの疲れによる毒牙が一気に襲われ、そのまま帰らぬポケモンになってしまったのです。


 デリバードは空へ舞うと、思わず涙を零しました。
 その涙が空へと舞い降りて、偶然にもデリバードが植えた種の上に着地します。
 すると、地面から芽が出てきて、それは瞬く間に大きくなっていきます。
 そして大きく膨らんだ蕾をつけますと、それはやがて大きな花を咲かせ――。

 一匹の生き物が現れました。
 
 薄いクリーム色の体に、葉っぱの尻尾が芽吹いている生き物。

 その名はリーフィア。

 植物がとっても大好きな子でした。



【書いてみました】

 フリーザーとグレイシアの額にある、あの氷の飾り。
「もしかして、グレイシアってフリーザーの子だったりしてね。じゃあ氷に覆われた岩って――」
 そんな妄想から生まれた物語です。

 最初は上記の通り、氷に覆われた岩の話だけだったのですが……。 

 グレイシア――氷に覆われた岩への大胆な解釈もしたのだから、コケに覆われた岩――リーフィアに関してもやろうかと思い、植物大好きなイーブイさんの話を書かせてもらいました。



 ありがとうございました。


【何をしてもいいですよ♪】
       


  [No.1918] Re: 岩お伽ふたつ 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/09/23(Fri) 22:59:49   19clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

拝読させていただきました(´ω`)

無駄を削ぎ落としたシンプルな構成で、「何が書きたいか」「何を伝えたいか」がとても分かりやすいお話でした。優しい語り口がストーリーにマッチしています。

言われてみると、フリーザーとグレイシアの額の飾りは似た印象を抱かせますね。こういった外見的な特徴から話を組み立ててみるのも面白そうだなー、と思いました。

手短ですが、読了報告に代えて。今後の更なるご活躍を期待しております(`・ω・´)