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  [No.1985] ポケダン妄想 投稿者:逆行   投稿日:2011/10/12(Wed) 17:11:04   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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警告 残酷な描写があります。苦手な方はご注意下さい。







 警告 残酷な描写があります。苦手な方はご注意下さい。
 
 
 薄暗く、淋しげな森の中を、一匹のヒトカゲが彷徨っていた。その足取りは重いというわけではないが、彼は常に不安そうな目をしていて、これから絶望の淵に立たされるという予言が、的中する事を心配していた。周りには、彼の味方と呼べる存在はいなかった。皆、彼を襲う事に必死になっている敵ばかりだった。彼はずっと敵に見つかっては、逃げるという事を繰り返し、戦う事をしなかった。決して、彼に戦えるだけの力が備わっていないわけでは無い。力の発揮の仕方が分からないのである。

 ほんの数分前の事である。その時、ヒトカゲはヒトカゲでなかった。彼は正真正銘の人間であった。けれども何故か。何故かポケモンとして姿を変え、何の予兆も無く、この世界に落とされてしまった。いや、もしかしたら、何らかの前振りはあったのかもしれない。どうであったか分からない。彼は不都合な事に、人間であった時の記憶を、全て忘れてしまったのだから。
 
 「君、どっからどう見てもヒトカゲだよ」

 最初に出会ったとあるポケモンに、こう言われた時の驚きは、極端を超えるものであった。すぐさま頬をつねる。夢である事を願った。頭部に髪の毛が生えているか確認した。パニックになり「え?」と、何度もつぶやいた。正式に、自身の体がヒトカゲである事を認識すると、彼は大声で叫んだ。この世が、不条理である事に対して叫んだ。しかし、叫んだところで新しい変化が、訪れるわけでもなかった。ここで、まだ何とかなるという薄れた確信が、完全に消え去った。彼はポケモンになった事実を受け入れるしかなかった。

 その後、いろいろあってバタフリーというポケモンに頼まれ、穴に落ちた子供のキャタピーを助ける事になったのだが、一緒に協力して探す事になったゼニガメというポケモンと、はぐれてしまった。何故かここでは我を忘れたポケモン達が、ヒトカゲを見て襲ってくるので、一匹でいるのはこの上なく危険であった。この世界で最も情弱な彼は、口から火を吹く要領を知らず、戦いようがなかった。一応、殴ったり蹴ったりはできるが、果たしてそんな事で、相手を倒す事ができるのか、怪しいところだ。十分なダメージを与える事ができず、反撃されたらどうする? そんな不安が、敵の姿を見る度に頭をよぎる。結局逃げ続ける、それしかなかった。彼はとにかく怖かった。攻撃を喰らう際の痛みに怯えていた。

 しかし、それでも。絶対に戦わなくてはならない状況に、遭遇してしまった。ヒトカゲが進んだその先は、実は行き止まりで、これは駄目だと振り返ると、そこに敵がいる。しかも彼が進んだその道は、とても狭く、敵の横の隙間から逃げる事もできない。この場合、彼はいったいどうするのであろうか。

 とりあえず、殴ってみた。相手の顔に向かって、今の自分にできる精一杯の力をこめて、拳をぶつけてみた。これは技では無い。ただのパンチである。こんな事でダメージを与えられるとは、とても思えないが、敵はどうやら痛そうだ。悲鳴を上げる程では無かったが、殴られた箇所を触りながら、体を丸めていた。完全に隙だらけであった。これはチャンスだと思った。ヒトカゲは接近し、相手の腹部を思い切り蹴り上げた。これはかなり効いた。蹴られた体は宙に浮き、仰向けになって倒れた。
 その後、ヒトカゲは殴ったり蹴ったりを繰り返した。とうとう相手はピクリとも動かなくなった。恐らく、もう死んでいるだろう。気が付けば、彼の手と足は真っ赤に染まっていた。敵の体のいたる所から、血が噴き出していた。

 ヒトカゲはやや表情が元に戻った。戦える事を知ったからである。技を使わなくとも、十分に敵を倒す事ができる。さっきの敵のみが弱いという可能性もあるが、そういう事はなるべく考えないようにした。とにかく嘘でもいいから、安心感を得たかった。本当の胸を叩いてみれば、まだ不安だ大量に残っている事が分かる。さっきの敵か
ら攻撃を一発喰らっておけばよかったと、後悔した。どのくらい痛いのかが明確になれば、もっと不安が軽減されたかもしれない。

 それからすぐにゼニガメと、再会する事ができた。しかし、良かったこれで助かったと、完全な安堵の表情を浮かべるのはまだ早かった。
「どう、キャタピーちゃん見つかった?」
 ゼニガメは、比較的落ち着いた口調で話した。体にはとくに目立つ傷痕は無い。ダメージを与えられる前に倒したのか、それともずっと逃げてきたのか。もちろんヒトカゲは前者である事を願った。
「全く見つからない。もうこの辺にはいないと思う」
「もう少し先に進んでみようか」

 二匹は少し急ぎ足で、奥の方へと進んでいった。途中敵が一匹、行方を塞いだがゼニガメが「みずてっぽう」で、いとも簡単に倒した。水系の技はそんなに威力が高くないと、ヒトカゲは考えていた。炎は危険だが水は大丈夫と普通は思う。
 水鉄砲。水圧がダメージの原因になるのだろうか。単に水を浴びるだけでは、痛くもなんともないだろうから。

 ヒトカゲはある異変に気が付いた。倒された筈の敵の尻尾が、まだ微かに動いていたのだ。まだ死んでいないという事だ。それなのにゼニガメは止めを刺す事無く、先へ進もうとしている。
「あれ、殺さなくていいの?」
 ヒトカゲは怪訝そうな顔をして質問した。同じく、ゼニガメも怪訝そうな顔をして回答した。

「何言ってるの? 普通は殺さないよ」

 途端に、体の至る所から冷たい汗が、滝のように沸いて出た。しまったという後悔が、彼を襲った。

「ちょっと、もう一回言って」
「だから、普通は殺さないんだって」
「…………そっち!?」
「そっちって何?」
「殺しちゃ駄目なの?」
「当たり前でしょ。同じポケモンだよ」
「だって敵だから」
「敵とか関係ないよ」

 先入観。彼にはそれがあった。彼は「戦闘とは殺しあうもの」だとばかり思っていた。「倒す=殺す」だと思っていた。

「気絶させるだけでいいの?」
「そうだよ」
「手加減しろって事?」
「手加減はしない」

 彼は後悔した。最初に蹴り上げた時点で、攻撃を止めるべきだった。此処は彼が思っていた世界とは、基準が
ずれていた。重要である事がずれていた。この世界で最も情弱な彼は、何も知らなかった。記憶を全て失っていた。しかし、先入観というものだけは、ひっそりと頭の片隅に残っていた。それが原因で彼は大きな過ちを犯した。
戦いの原理、ゲーム設定を勘違いしていた。


 ――残酷な描写があります。苦手な方はご注意下さい。


 本来ならば、この警告は嘘になる筈であった。しかし、彼の迷惑な過ちによって、どうやら本当の事となってしまったようだ。彼はもう手遅れである。この世界に落とされて、いきなりこんな事になってしまった。運が悪かった、とでも言うべきか。ゼニガメとはぐれなければ、こんな事にはならなかったかもしれない。しかしもう遅い。取り返しがつかない。このまま後悔と罪悪感を引きずっていくしかない。

 穴に落ちたキャタピーを見つけ、無事にバタフリーと再会させた後、ゼニガメはこんな提案をした。

「僕と救助隊やらない?」

 今日のように、困っているポケモンをこれからも助けていこうと言うのである。この誘いを受けたヒトカゲは迷った。ポケモン殺してしまった自分が、ポケモンを助ける事で生活していく事は、果たして許されるのだろうか。違う、本音を言え。たしかに殺した事に対する、罪悪感はあった。しかし、迷いの根源はそこでは無かった。もっと重要な事があった。彼は、ここにきてまだ攻撃を喰らう際の痛みに怯えていたのだ。殺しあうわけでは無いと分かっていても、その不安は消えて無くなるわけではない。救助隊をやるのであれば、今日みたいに襲ってくる敵と、戦う事になるだろう。もっと強い敵と戦う事になるかもしれない。殺しあわなくても、戦闘は痛みを伴う。それは彼にとってこの上ない苦痛であった。彼はできるだけ、痛くないように生活していきたいのだ。
 とは言え、ここでゼニガメの誘いを断ってしまっては、これから何をすればいいのか分からなくなる。見知らぬ世界では、誰かについていく方が無難であろう。それに、人間に戻るための手掛かりか見つからない今、とにかくここで生活していけるようにしなくてはならない。
 
「どうする、やる?」
 ヒトカゲはゆっくりと頷いた。飯を食っていくためには、仕方がない。苦渋の決断であった。
「じゃあ明日から頑張ろう!」
「分かった。一緒に頑張ろう」

 こうして、ヒトカゲとゼニガメは救助隊を結成する事になった。これから彼らには、どんな困難が待ち受けているのだろう。彼らの冒険が今、始まる!



 そんな彼らが、「倒す」では無く「殺す」事を目的とした集団に追いかけられる生活を送るのは、まだ先の話である。


 この話はフィクションです。実際のゲームとはストーリーが大きく異なります。

 
 完





 

 この話はフィクションです。実際のゲームとはストーリーが大きく異なります。