空を飛ぶ夢を見た。
頬に当たる風は冷たくて、翼にかかる雲はふんわりとしていた。
遥か眼下に見える海は太陽を反射してきらきらと光っていた。
私はそんな夢を見たんだ。
滝の音にまぎれて、飛び込む音が聞こえる。空から石が落ちてくることが多いこの場所で、そのような音がするのは珍しくない。飛び込むものがタツベイであっても、それは珍しいことでもない。
流星の滝では、よくタツベイが飛び込む。空を飛ぶことを夢見て、滝の上からその足を踏み込んで飛び立つ。
でも誰も飛べなかった。タツベイには翼がなかった。風を受けるための羽毛もなかった。
けれどあきらめなかった。生まれてこのかた、ずっと空を飛ぶ夢を見続け、今も空への憧れは捨てきれない。いつか飛べると信じて、今日も滝から空を目指して飛び立つ。
それでもタツベイを待つのは重力と冷たい滝壺。仲間の中には、この滝壺に飲み込まれてそのまま浮き上がってこないものもいた。そんな仲間を見てもなお、飛び立つことはやめられない。
今日もタツベイを迎えたのは冷たい水。固い頭は、突っ込んで水底の岩にぶつかっても傷つきそうにもなかった。細かい傷だらけになりながら、今日もタツベイは残念そうに水面へと上がる。そして岸へと寄っていき、滝の上を見上げる。仲間のタツベイが飛び込むのを見た。
それと共に、今日はやけに雲が低いと思った。
違う。他のポケモンがいるんだ。仲間のタツベイは見た事もないポケモンの出現に岩の影に隠れた。けどそのタツベイだけはそのポケモンを見続けた。
空の遠くにしか見えない雲がすぐそばままで来ている。ここは空ではないのに。
タツベイがじっと見ていたら、その雲と目があった。どうしたの、と。
空を飛びたい。タツベイは雲に向かってそう言った。
飛んでみるかい? 雲が聞いてきた。タツベイは真っ先に飛びたいと言った。
タツベイは雲の背中に乗った。本当に空を飛べるのだろうか。そして無事に帰ってこれるだろうか。その疑問は一瞬だけ。
これから夢にまで見た空へと飛び立つ。誰よりも先に。風は冷たいだろうか。どれくらい高くまで行けるのだろうか。
雲は羽ばたく。ゆっくりと地面が離れて、気付いたら滝はすでに自分より下にある。冷たい滝壺はほとんど見えない。初めて見る空からの景色。近づく青い空、小さくなる流星の滝。全てがタツベイの目に新鮮に映る。これが空を飛ぶということなのだと。
落ちないように必死に雲につかまりながらも、タツベイはどんどん小さくなる地面を見続けた。もう流星の滝は見えない。
タツベイは雲に聞いた。どこまで行くのかと。
雲は答えた。レックウザのところだと。それはどこかとタツベイが聞く前に、雲はタツベイを乗せてあっという間に凍えそうなくらい寒い空の頂点へと飛んだ。
タツベイは見た事もないくらいに大きな緑の竜に、初めて怖くなった。空を飛ぶことが怖くなった。降りたいけれど、ここは地面も見えないくらいに高い空。とてもじゃないけれど降りることなんて出来ない。
タツベイは叫んだ。怖いと。雲はそんなことおかまいなしにレックウザに近づいた。大きな目でレックウザはタツベイを睨みつける。
ほほう、今日のメインディッシュ活きが良いとレックウザは満足そうに言った。雲の背中からタツベイを軽々もちあげた。そして身動きがとれなくて、暴れるのをお手玉をするかのように、違う手に持ち帰る。その空中お手玉に目を回し、タツベイは今自分がどうなってるか解らない。
頭に衝撃が走る。空を飛ぶ夢を見た。
頬に当たる風は冷たくて、翼にかかる雲はふんわりとしていた。
遥か眼下に見える海は太陽を反射してきらきらと光っていた。
そして大きな竜に食われるかと思った時、タツベイは頭を岩にぶつけた痛みで目を覚ました。
ああ夢だった、良かったと思うと同時に、空を飛んだ感触が嫌に現実的だった。
きっとそのうち現実になるのかもしれない。この夢をおいかけてる限りは。
だから今日もタツベイは流星の滝を飛ぶ。
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タツベイが書きたかった。
反省はしていない。
【好きにしてください】