昔々――と言ってもバブルがはじけて間もない頃でございましたが――あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
ある日、おじいさんは不動産売買に、おばあさんは精肉工場へパートに出掛けました。
おばあさんがパートから帰ってくると、家の前に赤ん坊が置き去りにされていました。
「――赤ちゃんポストじゃあらへんのになぁ」
おばあさんは困惑しながらも、放っておくわけにもいかず、赤ちゃんを家に連れ去りました。
おじいさんは、おばあさんの話を聞き言いました。
「育てます」
おばあさんとおじいさんはその子に「桃太郎」と名付け、育てることを決意しました。
桃太郎は、その名前のおかげで学校でいじめに遭うことが多く有りました。しかし、桃太郎はとても精神力が強かったので、とめどなく繰り返されるいじめにも耐え、すくすくと育っていきました。
ちょうどこの頃、世の中には「ロケット団」という悪い人たちが、ポケモンを使ってとても悪いことをしていました。政治団体への違法な献金や耐震偽装は日常茶飯事。時々人のポケモンを盗る「どろぼう」もしていました。
実はかくいうおじいさんとおばあさんも、昔飼っていたミュウツーをロケット団に「どろぼう」されてしまったのです。
大きくなった桃太郎は、自分を育ててくれたおじいさんとおばあさんにとても感謝していました。そして、こう言いました。
「なんでミュウツーなんて飼ってたの? てかなんでミュウツーをもっておきながら盗られたの? 僕疑問で仕方ないよ。ちょっとロケット団泣かしてくる」
桃太郎は、ロケット団を泣かしに出かけました。
桃太郎が草むらを歩いていると、突然けたたましい音と共にポケモンとエンカウントしました。
「あ! やせいの ガーディが とびだしてきた!」
桃太郎は、ロケット団を泣かせるためにガーディが必須だと判断しました。
「ガーディさん。この『森の羊羹』をあげるから、僕と一緒にロケット団を泣かしにいこうよ」
ガーディは少し考えました。
「まあガーディ的にはありなんだ。けど正直ダルいし。オレ彼女いるし。付き合って今二ヶ月なんだ、めっちゃ楽しい時期」
「随分と不必要な情報を混ぜるガーディだね。けど、僕は君の力が必要なんだ。ねぇ、だから僕と契約してパートナーになってよ」
「遠距離になるのはごめんだよ。すぐに帰れるんだろうね?」
「もちろんさ。そもそもここはタマムシ近郊。ロケット団のねぐらはヤマブキのシルフカンパニーだよ? そんなに遠距離恋愛ともいえないよ」
「言っているのは心の距離さ」
「良く分からんけど、それはキミ次第だよ」
「なかなか面白い人間だな。気に入ったよ。共にロケット団を泣かしに行こう」
こうして、桃太郎はガーディという心強い味方を手に入れました。
桃太郎とガーディが岩山を歩いていると、突然ビックリするほど大きな音と共にポケモンとエンカウントしました。
「あ! やせいの オコリザルが とびだしてきた!」
桃太郎は、ロケット団を泣かせるためにオコリザルが必須だと判断しました。
「オコリザルさん。この『いかり饅頭』をあげるから、僕と一緒にロケット団を泣かしにいこうよ」
オコリザルは答えました。
「私がいつも怒っていると思ったら大間違いです。私が憤怒の感情をあらわにするのは、この世の平和を乱さんとする不条理が生じたときのみ。そもそも「憤怒」は人間に置いても七つの大罪といわれ――」
「随分と面倒なオコリザルだね。けど、僕は君の力が必要なんだ。ねぇ、だから僕と契約してパートナーになってよ」
「先日、私にもようやく春が訪れました。相手は優しい心をもったロコンです。幸せ絶頂の私を満足させるインセンティブが、そのロケット団とやらを泣かせることにあるのでしょうか?」
ガーディが、それを聞いてにわかに焦り出しました。
「え? ちょっとまって。そのロコン、名前なんて――」
「もちろんさ」桃太郎は気に留めず、返します。「ロケット団はこの世の平和を乱さんとする不条理の権化だよ? 君が彼らを裁かないでだれが裁くって言うんだよ」
「なるほど。確かに。いいでしょう、お供させていただきます」
「ちょ、そのロコン――」ガーディはまだ気にしていました。
こうして、桃太郎はオコリザルという心強い味方を手に入れました。
桃太郎とガーディとオコリザルが森の中を歩いていると、性懲りもなくバカでかい音と共にポケモンとエンカウントしました。
「あ! やせいの ピジョンが とびだしてきた!」
桃太郎は、ロケット団を泣かせるためにピジョンが必須だと判断しました。
「ピジョンさん。この『フエン煎餅』をあげるから、僕と一緒にロケット団を泣かしにいこうよ」
ピジョンは答えました。
「――いいよ」
「随分と話の早いピジョンだね。『僕と契約してパートナーになってよ』って言いたかったのに言えなかったよ」
「――でも条件。彼女がいるんだよ。優しいロコンのナナコちゃん。尻尾が六本なのにナナコちゃんなんだ。もう付き合って二年にもなるかなあ。彼女に一言言ってから出掛けたいんだ。ちょっと待っておくれよ」
「え、ちょっとまって!! そのロコンのナナコちゃんって――」
「聞き間違いでしょうか。今、ロコンのナナコと――」
ガーディとオコリザルが、それを聞いてにわかに焦り出しました。
「いいよ。挨拶は大事だよね」と、桃太郎。
「じゃあ、待ってて」と、ピジョン。
ピジョンが帰ってくるまで、ガーディとオコリザルはずっとぶつぶつなにかを言っていました。
こうして、桃太郎はピジョンという心強い味方を手に入れました。
桃太郎とガーディとオコリザルとピジョンが草むらを歩いていると、うざい音と共にポケモンとエンカウントしました。
「あ! やせいの ルナトーンが とびだしてきた!」
桃太郎は、ロケット団を泣かせるためにルナトーンが必須だとは判断しませんでした。
「行こう」桃太郎は真顔で言いました。
「まあ、そういうときもある」ルナトーンは彼らの後姿を見て言いました。
桃太郎一行は、とうとうシルフカンパニー本社に辿り着きました。
「ナナコちゃん……」と、ガーディ。
「どうしたものか、これは明らかに平和を脅かさんとする……」と、オコリザル。
既に二匹、戦意を喪失しています。
「どうしたんだい? 早いとこロケット団を泣かしに行くよ?」
桃太郎は何も考えずにそればかりです。
「どうしたんだろうナナコちゃん。いつもいるはずの場所にいなかったんだ。行ってきますの挨拶ができなかったよ」
ピジョンはそう言って俯きました。ナナコちゃんは一体どうしたというのでしょう?
彼らはシルフカンパニーに乗り込みました。
「ナナコちゃん!!!」三匹は叫びました。
シルフカンパニーの最上階には、檻に入れられたロコンがぐったりしていました。
「若僧が一人で何をしに来た?」ロケット団のボスっぽい人が言いました。
「お前ら全員泣かしに来た! 覚悟しな! さあみんな!」
桃太郎はポケモンたちに号令をかけました。
「やっていいの?」と、ガーディ。
「泣かすどころじゃ済みませんが」と、オコリザル。
「殺すお☆」と、ピジョン。
桃太郎は、ロケット団のボスっぽい人の断末魔を聞きました。
◇ ◇ ◇
「――断末魔を、聞きました、と」
彼女はそこまで書き終えて、ボールペンを机に転がした。プラスチックの乾いた音がむなしく響いた。
「ナナコは美人ですごくモテるから。他のみんなが夢中になっちゃうんだよね、うん」
かつてポケモントレーナーとして旅をしていた彼女は、今はすっかり書くことに夢中だった。
彼女の書くお話はいつも昔話をモチーフにしたギャグ小説だった。くだらなくて、バカみたいで、内容は酷く浅くて、そして読む人をあきれさせた。そして登場するポケモンは決まってこの四匹だった。
「ディン、モンすけ、ポッくん、ナナコ――」
彼女は彼らの名前を呟いて、机の脇に置かれた写真を見た。四匹のポケモンたちが周りを囲み、中央に昔の彼女が写っている。満面の笑顔だった。
彼女の頬に、涙が伝った。
――――――――――
スケベクチバシ「最後、五匹の間違いじゃないか」