「ひばな、あなたにはね……改造の血が流れているの」
言いにくそうに顔を逸らしながら少女が告げた言葉に、キュウコンは目を丸くした。
月明かりが美しい夜のことだった。
「改、造……?」
「ひばな、「ねっぷう」って技覚えてるでしょ? その技を遺伝させてくれたあなたの親の親の親の、そのまた親が……人の手によって作られた、改造ポケモンなの。……その子達は、逃がしちゃったけど……」
ひばなは、信じられなかった。でも、自分が熱い風を出す技を覚えているのは本当だし、自分の親に会った記憶が無い。
それでも、信じたくなかった。知りたくなかった。何故自分のトレーナー、コモモはそんな事を告げたのだろうか。
「ひばな!?」
ひばなは、気付くと走り出していた。野宿をしていた森の中を、9つの尻尾を縮めてがむしゃらに走った。
◇◇◇
ああ、言ってしまった。コモモは頭を抱える。
ずっと、隠し通そうと思っていたのに。あの子がバトルで「ねっぷう」を出す度、胸が締め付けられた。言わなければと思った。
でも、あの子を傷つけると知っていた。
言わなければという思いと、傷つけたくないという思い。2つが複雑に混じり合うなかで、ついに言ってしまった。
追いかけて、謝らなければ。コモモは座っていた切り株から立ち上がると腰についていた小さなボールを手に取り、軽くほうった。
ポンと控えめな音と共に中から姿を現したのは、白い体に同じ色の翼を持ったトゲキッスだった。
「ハピリル、話は聞いてたわよね……」
「勿論。でも、本当に言って良かったの……?」
ハピリルは、コモモが1番最初に育てたポケモンだ。最初のメンバーが次々と引退しても、ハピリルだけは残っていた。今やコモモのバトルパーティーのリーダーとなったこのトゲキッスは、ひばなの体に流れる血のことも知っていた。
「今は後悔してる。でも、ずっと言わない訳にはいかなかったの。追いかけて、謝らなきゃ……ハピリル、ひばながどこに行ったのか探してくれる?」
「うん、分かった」
ハピリルは、白い翼を軽くはためかせて空に浮かび上がると、キョロキョロと辺りを見回し始めた。
「あっ……! 川の方に居るみたいだよ!」
「分かった、案内して!」
「オッケー!」
コモモは、空からハピリルの案内を受けながら川の方へ走って行った。
◇◇◇
静寂が戻った森の中。ガサガサと茂みが鳴って、3つの頭が顔を出した。
「ね、聞いた……?」
ひそひそと小声で話し始めたのは、純白のスカーフが自慢のチラチーノ、レオナルド。コモモからは、レオくんと呼ばれている。
「本当、びっくりだね……」
レオナルドの話に綿を揺らしながら頷いたのは、エルフーンのコットン。
「改造の血が流れているなんて……ショックだろうな、ひばなちゃん。あたし、明日会ったらなんて言おう……」
思い詰めたような顔で呟くのは、ひばなと仲が良いリーフィアのひすい。バトルではほとんどひばなとペアで出されている。
「自分達に何か出来ないかな……?」
レオナルドがそう呟くと、3匹共腕を組んで考え始めた。
「とりあえず、いつもと同じようにしてようよ。僕達に知られたって分かったら、更にショックだろうし……」
「そうね……」
それっきり、森にはまた静寂が戻った。
続く