――今日はオムライスがおいしいと評判の喫茶店に来ています。
「どうも。オムライス担当、バイトの宇品鉄男です。店ではトレインって呼ばれてます」
――えっ、バイト? 評判のオムライスを作っていたのはバイトの方だったんですか?
「はい。れっきとしたバイトです。大学生です。2回生です」
――はー、そうだったんですか。この店で働き始めてどの位になりますか?
「俺が大学1年の秋ごろからだから……1年とちょっと、ってところですかね?」
――意外と短いですね。それでここまで評判になるとは。
「オムライスだけは小さい頃から作っていたので、自信はありますよ」
――どうしてこの喫茶店で働くように?
「元々、俺はこの喫茶店の常連だったんです。ちょっと、趣味で小説のようなものを書いていて」
――ほほう、小説ですか。
「まあ、今はそれは置いといて(笑) で、よくこの店で執筆させてもらってて、店長とも顔なじみになって」
「トレイン、ここに来たらいっつもコーヒーとケーキセット頼んでたからねー。嫌でも覚えるよー」
――あ、店長さん。
「……で、ある日料理の話になりまして、俺がオムライスだけは自信あるって言ったら、店長がじゃあ作ってみろって」
「それがあんまり美味かったからさー、お前ここでバイトしろ! とりあえず明日から来い! って」
「無理やりでしたね(笑)」
「無理やりだったなあ(笑)」
――そんなに簡単だったんですか(笑)
「いやー、俺は最初、ちょっとばかり躊躇したんですけどね。俺そんなに生き物好きな方じゃなかったし、トレーナーの免許も取ってないし」
――そういえば、このお店は通称『冥土喫茶』と言われるほど、たくさんのポケモンが住み着いているんでしたね。主にゴーストタイプが。
「住み着いてるって言うか、勝手に居付いてるって言うか」
「そもそも副店長からしてヨノワールじゃないですか」
「僕より働き者だしな」
「(笑)」
「トレインも大学卒業したら正式に雇うからな!」
――もう就職先も決定済みですか(笑)
「まあ、このご時世、ありがたいことですけどね。でも店長がますます働かなくなりそうです(笑)」
「ひでぇ! でも言い返せねぇ!(笑)」
「あ、副店長がすごく冷めた目でこっちを見つめてる」
「お前ら本当ひどいな!(笑)」
――そういえば、トレインさんは小さい頃からオムライスを作っていた、と。
「そうですね。中学校に入るちょっと前にはもう作ってました。しかもほぼ毎日。だから……もう10年くらいになりますかね?」
――それはすごい! 親が料理人だったとか、そういう感じですか?
「いいえ、両親は普通の会社員でした。共働きで、毎日遅くまで働いていて。それで毎日、自分で夕食を作っていたんです」
――なるほど。しかし、なぜオムライスを?
「ハル……ああ、俺の幼馴染で近所に住んでた、鈴ヶ峯陽世って奴なんですけど、そいつがオムライスが大好きで。ハルの両親は海外出張が多かったから、自然と一緒に夕飯を食べるようになったんです。ハルが壊滅的に料理が下手だったから、いつも俺が作ってて。で、そいつがいっつも、オムライス食べたいしか言わなかったんです」
――毎日ですか。
「ほぼ毎日です(笑)」
――そりゃ上手くなりますね(笑) そのハルさんは今どこに?
「……。……5年前に、事故で……」
――あ……こ、これは申し訳ありませんでした。
「いえいえ、気にしないでください」
――では、この喫茶店のオムライスは、トレインさんとハルさんの思い出の味と言うことですね。
「まあそうとも言えますけど、俺としてはあまりその辺は意識しないでもらいたいかな」
――と、言いますと?
「これは、俺がこうやってお客さんたちに料理を出していて思うようになったことなんですけど」
「ただ単純に、おいしいものをおいしいって食べてもらえるのが、一番幸せなんですよ。ハルとの間も元々そうでした。おいしいって喜んでくれるから、もっと上手くなろう、おいしいものを作ろう、って思うんです」
「だから、俺のオムライスを食べてもらう時は、難しいこと何も考えず、とにかく食べることを楽しんでもらいたいんです」
「おいしいってことは、幸せじゃないですか」
――なるほど。「おいしいものをおいしく食べる」。それがトレインさんの示す、「オムライスの作法」なんですね。
「作法って言うほど大それたものじゃないですけど(笑)」
「おう。トレインのオムライスはすげー美味いから、とにかくまずは食べてもらいたいな」
――あ、店長さん。
「言っておくけど、僕だってコーヒーには自信あるよ? ここ一応喫茶店だからな! メインはコーヒーだからな!」
「確かに店長のコーヒーはおいしいです。悔しいですけど」
「おい(笑)」
――なるほど、店長さんも自分の腕には大いに自信あり、ですか。
「そう! 僕のコーヒー、副店長のケーキ、そしてトレインのオムライス! 3つそろえばうっかり天国に行けちゃうレベルだと自負しているね!」
――本当の意味で「冥土喫茶」になってしまいますね(笑)
「面子は野郎ばっかりだけどな(笑)」
「そのうち1匹はポケモンですしね(笑)」
――では、その自慢の3品、私も頂いてよろしいですか?
「もちろんです!」
「そうこなくちゃ! おーいみんなー! お客さんだぞ!」
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いずれリセットされるし、と心おきなく投げ込んでおく。