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  [No.616] 夕時雨 投稿者:   投稿日:2010/09/09(Thu) 14:28:23   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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――――ねぇ、知ってる? 雨の時はお化けが出やすいんだって。
は? なにそれ。
――――雨の時はみんな傘差してるでしょ? 傘で顔が隠れるから、お化けは雨の時に出るんだってさ。
……お化けって傘差すもんなの?
――――さぁ? 知らない。

友達とそんな会話をしたのはいつだったっけか。

俺は雨の降る暗い夜道を1人で歩いていた。
右手にはコンビニの安物の透明ビニール傘。左手には漫画雑誌の入ったビニール袋。
何で俺の家からコンビニはこんなに遠いんだろうか。納得できない。
漫画買いに行くだけでも往復30分なんて、ありえねぇよ。何のためのコンビニなんだか。
そうぶつくさ言いながら、俺は傘を透かして空を見上げた。
空は鉛色の雲ですっかり覆われている。星どころか空すら見えない。これだから雨の日は嫌なんだ。
ため息をついて視線を前方に戻した俺は、ふと立ち止まった。
今俺の歩いている道の両端には、等間隔でボロい街灯が立ち並んでいる。
その街灯の内の1つ、とりわけ汚い街灯の下に誰かが佇んでいるのを発見したのだ。
よくよく眼を凝らすと、人影は少女のようだった。
そして頭の上には……どうやらハスらしき大きな葉っぱ。
見間違いかと思ったけど、そうではないようだった。俺はふとガキの頃に見たアニメ映画を思い出した。その中で、主人公の幼い姉妹が雨の降るバス停で親を待っていると、少女の隣にお化けがやってきて同じくバスを待ち始めるというシーンがあった。そういえばそのお化けも頭に葉っぱを乗っけていたっけ。
俺は再度ため息をついた。雨の中で頭に葉っぱを乗っけて1人佇む少女なんて、どう考えてもおかしい。
気にしないでさっさと通り過ぎようかと思った。
だけどその時、しとしとと降っていた雨が急に勢いを増した。ドウッとすごい音を立てて、雨を伴った強風が吹きつけてくる。少女の肩がビクッと跳ねた。よく見ると、少女はすっかり濡れてしまっていた。寒いのか、肩が震えている。
俺はしばし逡巡した。だけど結局俺はその少女の元へ歩み寄っていった。……言っておくが俺にロリコンの趣味はない。
「どうしたの?」
出来るだけ優しい声で話しかけると、少女が驚いたようにこちらを見た(ようだった)。葉の下から、明らかに戸惑いと警戒の入り混じった視線が飛んでくる。俺は慌てて言った。
「あ、どうしてこんな所にいるのかなって思っただけだよ。お母さんは?」
「……今待ってるの」
ようやく口をきいてくれた。か細い声だった。俺はほっとしてさらに聞いた。
「君、傘かなんか持ってないの?」
「……」
沈黙がその答えを物語っていた。すると俺は自分でも驚いたことに、右手に持っていた傘をすっと少女に差し出した。
「あ、あの、風邪ひいちゃうといけないからさ、俺の傘貸してあげようか?」
自分でもアホらしいくらい紳士的な行動だ。馬鹿か俺は。だけど少女はしばらく黙って傘の柄を見つめていると、おずおずと手を出した。俺はその手に傘を握らせてやった。
傘を差すと、最初の内はおどおどしていた少女も、やがて濡れなくなったことにほっとしたのか、張りつめていた雰囲気が緩んだ。少女は小声でつぶやいた。
「ありがとう」
「いいよ」
俺は笑ってその場を離れようとした。その時、小さな手が俺のパーカーを掴んだ。
驚いて振り返ると、少女は空いた片手でワンピースのポケットを探っていた。
小さな手がポケットから何かを取り出して、俺の手に握らせた。わけが分からぬまま俺がそれを受け取ると、少女は不意に背後を振り返って嬉しそうに叫んだ。
「あ、お母さん!」
目をやると、闇の向こうで何かがボウッと燃えていた。ギョッとした俺を尻目に、少女は嬉しそうに駆け出して行った。
その時視界の端で何かが揺れた。

少女のワンピースの裾から覗いていたのは、6本の先が丸まった赤い尾。
そして、駆けだした拍子にずれた葉っぱの先から覗いた、髪の毛を掻き分けて突き出した赤い耳。

それが何なのかを俺の脳が認識する前に、少女の小さな後ろ姿は闇に溶けて消えてしまった。


茫然と突っ立っていた俺は、ようやく手に握らされたものに視線を落とした。
しばらくそれをじっと見て、俺はちょっと笑ってから再び歩き出した。


――――『ねぇ、知ってる? 雨の時はお化けが出やすいんだって』


……まぁ、でもたまにはこういう雨の日もいいもんだ。
俺の掌の中で、雨粒で濡れたチーゴの実が街灯の光を受けて煌めいた。
雨はようやく小降りになってきていた。


―――――――
お題:きつねポケモン

こんな感じでよろしいのでしょうか?
初めて投稿します、「柊」という者です。よろしくお願いします。
アドバイスなどありましたら、下さると嬉しいです。

【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】【批評していいのよ】


  [No.618] 拝見! 投稿者:サトチ   投稿日:2010/09/09(Thu) 19:03:37   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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ほのぼのとした雰囲気が暖かい、なんともかわいらしい小品。
新美南吉の「手袋を買いに」を思わせる少女の愛らしさがよい。

それにしても、炎ポケモンが雨の中で長時間待ってるって結構デンジャラスなのでは(笑)


  [No.621] Re: 拝見! 投稿者:   投稿日:2010/09/09(Thu) 23:15:27   45clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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感想ありがとうございます。

>ほのぼのとした雰囲気が暖かい、なんともかわいらしい小品。

そう言ってくださってとても嬉しいです。
初めての投稿だったので、いい作品が書けるのかどうか心配だったのですが、ほっとしました。

>新美南吉の「手袋を買いに」を思わせる少女の愛らしさがよい。

実は「手袋を買いに」って、あらすじしか読んだことがないんです(汗
ですが雰囲気的にはそういう作品に近づけるよう頑張ってみました。

>それにしても、炎ポケモンが雨の中で長時間待ってるって結構デンジャラスなのでは(笑)

そうですね。下手したら命にかかわりますから(笑

感想、ありがとうございました!


  [No.786] なんかトトロ思い出した 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/10/23(Sat) 19:23:24   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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柊さん、はじめまして!
ご挨拶が遅れてしまってすみません。
ポケストの中の人、No.017です。

こんなのに会えるなら、雨もいいなぁ。
カゲボウズとか傘に入ってこないかしら。

狐が嫁入りするときに晴れているのに雨が降るといいます。
案外そんな感じなのかも。
雨自体も狐の幻術かなにかでだまされているのかもわかりません。
だとしたら炎ポケモンも説明がつくかもよ!
なぁんて思った土曜の夜19時半。


  [No.890] Re: なんかトトロ思い出した 投稿者:   投稿日:2010/10/31(Sun) 01:16:37   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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パソコンの調子が悪かったせいで、返信が遅れてしまい申し訳ありませんでした(あれ? 2回目だ

感想ありがとうございます。

>こんなのに会えるなら、雨もいいなぁ。
>カゲボウズとか傘に入ってこないかしら。

雨の日って気分がブルーになる時もあるけど、どこか不思議な雰囲気もありますよね。といいながら小雨に打たれてしょっちゅう風邪をひく自分(笑
でも確かにカゲボウズが入ってきたらいいですよね。
本当に入ってきたら即お持ち帰りするけどね!(←

>狐が嫁入りするときに晴れているのに雨が降るといいます。
>案外そんな感じなのかも。
>雨自体も狐の幻術かなにかでだまされているのかもわかりません。

な、なるほど……! 自分で書いていたのにそういう視点に気付きませんでした(おい
というか、そう考えなければ矛盾だらけですもんね、この話(笑

感想、ありがとうございました!