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  [No.936] 君がいたから 投稿者:海星   投稿日:2010/11/07(Sun) 22:50:18   27clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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あるとても寒い山の奥で、小さな電気鼠は凍えていました。
吐息は淡く曇り、消えてしまいます。
身体は静かに、カタカタ震えています。
仲間はついさっき、ぱったり倒れて動かなくなりました。
寒さに強いはずの甲羅にはうっすらと氷が張り始めています。
電気鼠はすっかり冷たくなった小さな手で、横になっている仲間の甲羅を撫でました。
いつもは感じた温もりが感じられませんでした。
電気鼠はこのまま、ここでじっとしていたいと思いました。
勿論わかっています……このままでは自分も仲間のようになってしまうと。
しかし独りぼっちになった今、考えられることは、仲間に寄り添うことだけでした。
悪戯のように吹く、凍りかけの風。
氷から響いてくる、自分たちの名前を呼ぶ声。
そしてそれと共に耳に入るのは、激しい怒りを露わにした罵声。
もうすぐ彼らはここまで来るだろう、と電気鼠は悟りました。
彼らが自分たちを見つけ次第、何らかの形で自分たちを傷つけるのはわかっています。
このままここにいては、いけない……ここに来るまでに何度も、仲間とお互いに励まし合ってきたことを思い出しました。
電気鼠はゆっくりと、足元に置いておいた革の袋からオレンの実を取り出しました。
これが、最後の食糧でした。
数秒間愛おしそうにその実を眺めると、電気鼠は決心したように微かに頷き、実を齧りました。
口の中に、何とも言えない味が広がります。
それから、悴んだ指で実を千切り、その欠片を仲間の口元に当てました。
もう動かないその口は――励まし合い、笑い合い、ときには喧嘩の悪口を言った、その口は、実を拒むようにきゅっと結ばれています。
電気鼠が手を離すと、欠片は引力に従ってぽとりと落ちました。
もう一度、欠片を拾い上げ、仲間の口元まで運びます。
しかし、仲間は実を受け入れてくれません。
また実が冷たい地面に落ちました。
電気鼠はそれを拾い、仲間の口元に当てました。
実は、落ちました――。
もう一度……電気鼠が実に手を伸ばしたとき、その腕に温かい何かが落ちて、弾けました。
これは何だろう、電気鼠は不思議に思いましたが、それは止むばかりか、次々と落ちてきます。
顔を上げると、表面のつるつるした氷に、涙をぼろぼろ零している自分の顔が映りました。
どうして自分は泣いているのだろう、電気鼠は良くわからなくなって、困りました。
答えを聞こうと仲間を見ます、しかし、仲間の瞳にかつての活気と知性は無く、ただ固く横たわっています。
電気鼠は辺りを見回しました。
冷たい氷や氷柱と動かない仲間の身体と齧りかけと欠片のオレンの実の他、何もありません。
必死に耳を立てました。
自分たちを責める重い言葉しか聞こえません。
電気鼠は本当に困り果てました。
自分にはもう何も無いことに気付いたのです。
何だか、脳が正常に機能してくれなくなってきました。
ぼうっとして、身体も怠く重くなって、急速に眠気が襲ってきます。
このまま、仲間と同じようになるのだな、と思いました。
電気鼠はゆっくりと仲間の甲羅を撫でながら、その上に顎を乗せました。
瞼を閉じました……。
何故か寒さと心細さを感じられなかった瞬間がありました――そう感じたときには既に、電気鼠の身体は仲間の身体と共に冷えていました。


―――――

ポケダン、青の救助隊で、逃げている途中に寒い山に登ったときです。
一応書いておきます。
電気鼠→ピカチュウ
仲間→ゼニガメ、です。

青の救助隊しかやったことないんですけどね;
ゲームでは途中で倒れると少し前に戻ってしまいますが、リアルに考えると……という発想で書いてみましたが、悲しい感じが伝われば幸いです。

【書いてもいいのよ】
【批評していいのよ】
【描いてもいいのよ】