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  [No.940] 風合瀬の宴  上 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/11/08(Mon) 16:38:02   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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主人が小ぢんまりとした定食屋に入っていった時、彼は何時も通り、腰に付けられたモンスターボールの中で、静かに外の景色を眺めていた。
外の強い日差しに慣れた目に、やや薄暗い建物内部の年季の入った内壁が、実際以上に古ぼけた印象を伴って飛び込んで来る。

――彼の入っているモンスターボールは特別製で、ボールの中に収まっている時でも、周囲の様子を広範囲に見渡すことが出来た。  
何でも主人が話してくれた事には、まだ卵だった彼を譲り受けた時、彼を託した相手の望みを受け入れた結果が、こんな特製のボールを使っている理由なのだと言う。

「お前に『色々な世界を見せてやってくれ』って、頼まれたからな」 

その話を聞いた時、彼の主はそう語りながら、とても懐かしそうな表情を浮かべていたのを、今でも鮮明に覚えている。
普段余り他人(よそびと)について語ろうとはしない主人が、家族や幼馴染でも無いあかの他人に対してそんな反応を示したのが、珍しかったから――

 
定食屋の中は、何時も通り空いていた。  ……確かにここで出される料理は中々の物だったけれども、入店資格者を厳しく制限しているらしく、常に客の入り自体は非常に悪い。
 
しかし最近の彼の主人は、日に一度は必ずと言って良いほど、ここに足を運ぶのだ。  ……何でも、ここはその筋では中々有名な穴場の一つで、古馴染みの実力者達と顔を合わせるには、ピッタリの場所なのだとか。

そう話してくれた時の主人の愉しげな表情を、彼は店内に落ち着いた視線をめぐらせながら、脳裏にボンヤリと思い浮かべる。
――主人があれ程表情を輝かせるのは、そう無いことだ。
  
 
普段から一風変わった所のある彼の主人が、最も幸せそうな表情を見せる時―― 

それは、人里離れた森や山の奥で静かにくつろいだり、川のせせらぎや風の音に耳を傾けながら、何か美味しい物を食べている時。 
夜半満点の星空を、彼ら旅の仲間達と一緒に、ただ無心に見上げている時や、うららかな陽気の下、柔らかい草むらや暖かい大岩の上で、昼寝をしている時。  

――それにもう一つは、全力を出し尽くす事が出来る凌ぎ合いに、巡り会えた時だ。
 
卵の時からずっと今の主人と共に生きて来た彼には、主人が何時も抱えている心の疲れや悩み、孤独――それに温和な心根の奥底に潜ませている、人並み外れた野生と荒々しい闘争心の蠢く様までが、手に取るように分かった。
……まぁ、それについては彼の種族がルカリオだったと言うのも、大きいのだけれど。

――生まれた時から旅の空の下で、食事も宿りも殆ど野外。 ……例え何処かに落ち着いた所で、二週間と持たない。 
移ろう季節がダイレクトに身に染みる、漂泊の日々。 旅から旅のポケ勤めと、合間に挟まる厳しい修行。
故郷にろくに帰ろうともしない主人の下、生みの親の顔すら知らない彼は、そうやってずっと生きて来た。
  
 
……しかし、それを辛いと思った事は、一度としてない。

主人はその言葉通り、彼に色々な世界を見せてくれたし、様々な経験も積ませてくれた。
修行も他の手持ちポケモン達に任せ切りにはせず、時には自らの身を以って彼に『手』を教えてくれたし、終わった時には出来る限りの思いやりを持って、手当てをしてくれた。
身に付けさせて貰った知恵の類は数知れず、考え方や心構えの程も、『師』と呼ぶに相応しい薫陶を、未だ若い身であるにもかかわらず、彼に対して与えてくれた。

そして何より、何時も心の底から、彼ら手持ちのポケモン達に、『仲間』として接してくれた。  ……彼らを使う『主人』ではなく、同じ空の下で共に生きている、『仲間』として。

――卵の殻を突き破って、この広い世界を始めて知った時……一番最初に出会った相手が、今の主人だったと言う事。
それを幸せに感じた事は幾度もあったが、今の生き方を辛いと思ったり、変えたいと念じたりした事は、未だに一度たりともありはしなかった。
  
 
そしてそんな彼の主人は、今日も誰か、見知った顔を見つけたらしい。

ボールの中からでもはっきりと感じ取れるほどに、ぱっと喜びの感情を開花させた少年トレーナーは、そのまま早足に店の奥にあるカウンター席まで進んで行って、そこに座っていた人物に対し、控えめながらも丁寧な口調で、声をかける。
彼の入ったモンスターボールは少年の腰の辺りに位置している為、彼は直接は、相手トレーナーの姿を見ることは出来ない。
……しかし、どうやら相当の手練であるらしい事だけは、主人の雰囲気やその余裕のある受け答えの程からも、十分に窺い知る事が出来た。

やがて、程なく弾んでいた話も纏まったらしく、彼の視界はぐるりと180度反転して、主人の少年はもと来た道を踏み辿り、店の外へと歩み出て行く。
それを受け、店に来ていた他の客達も、数こそ少ないものの一様に注文した品物を置いて席を立ち、これから始まる出来事に対する興味も露わに、出て行く両者に付いて来る。 

――いよいよ、今日も始まるのだ。  ここ数日、一日一度はお約束の様にやってくる、鍛え上げられた精鋭同士のぶつかり合い――真剣勝負の幕開けである。 
 
 
 
 
店の裏に設けられている、小さな食堂には似つかわしく無いような、しっかりした造りの試合場に着いた時――そこで初めて彼は、相手トレーナーの姿を目にする事が出来た。
特徴的な帽子を目深に被った男で、何やら怪しげな雰囲気を纏った、奇妙な人物であった。
しかしその一方、その人物に同時に見て取れたのは、傍目にも自信の程が窺える物腰と、対戦相手を真っ直ぐに見つめている、静かな瞳。  ……やはり非凡な相手である事だけは、確かなようである。

試合が始まる前に、先ず彼の主人が腰のボールの一つに手を触れると、いたわる様に声をかけた。

「ルパー。 悪いけど今回は、控えに回っててくれ。」

それを聞くや、少年の指が保持しているモンスターボールが、無念そうにかたりと揺れる。  ……どうやら今回の試合形式は、5on5であるらしい。  
6匹の仲間達の中から、控えに選ばれたポケモン―ビーダルのルパーが浮かべているだろう表情を思い、彼は心の中で軽く苦笑した。  ……彼にも、その気持ちは痛いほどに良く分かるからだ。

主人と相手トレーナーとが改めて向かい合い、寸時お互いの表情を確認しあった両者が、判定役を買って出た、食堂の老店主の宣言に合わせて同時にボールを投げ合った所で、試合が始まった。
 
 
 
最初に主人が場に繰り出したのは、黄緑色の四足獣―常にチームの先発を務める、リーフィアのコナムであった。
対する相手が送り出して来たのは、真っ白い体に黒い爪と顔、それに三日月を思わせる、鋭利な形状の角を備えた獣―悪タイプの災いポケモン、アブソルである。

互いに似たような姿勢で疾駆し、鋭い斬撃を得手とする二匹のポケモンは、それぞれの姿を確認するや否や、剥き出しの闘志も露わに、逸り立ちつつ主人の指示を待つ。
――タイプの相性は、現状況ではトントン。 故に双方とも、今は引く気配を見せていない。
主人である少年の指示も、交代ではなくGo指令。  ――寸刻を置いて命を受け終わった両者は、間髪を入れず行動に移る。

最初に動いたのは、リーフィアの方。  ……普段は争いを好まぬ大人しい彼女だが、あの主人から特に見込まれて『栄えある先鋒』を任せられているだけあって、こう言った場では一転して激しい気迫を見せ、大体何時でも先手を取って、自らの手で戦端を開く。
無数に放たれた『タネマシンガン』が、一帯を激しく掃射しながら、アブソルに襲い掛かった。

対するアブソルの方は、踊るような身のこなしでそれに対応。 雨注される小さく硬い植物のタネを、かわせる物はかわし、避け切れぬ物は身に受けつつも堪えながら、徐々にその動きの程に、凄愴な凄みを加えていく。
ボールの中で様子を見ている彼にも、一種の戦慄が走るほどまでに戦意が高まった、次の瞬間――アブソルは放たれた矢の様な勢いで、真っ直ぐにタネを発射し続けているリーフィアに向けて、疾走を開始した。
不気味に光る鋭い鎌状の角が、体に似合わぬ強靭な重みを伴って、リーフィアの体に振り下ろされる。  ……『剣の舞』で強化された『辻斬り』の一太刀は、生半可な小細工ぐらいは平気で跳ね飛ばすほどの、凄まじい威力を秘めている。

しかし、それを敢えて正面から迎え撃ったコナムの方は、素早く『タネマシンガン』を中断するや、自らの体をくるりと反転させ、流れる様な動きで己の尻尾を打ち振るい、相手の斬撃をからりと受けた。
正面から受け止めるのではなく、横様に当てて勢いを流し、角の軌道をずらしてやり過ごすと、そのまますれ違う雪獅子の背中に向け、追撃の種礫を再開させる。  ……『居合い切り』の妙技に攻撃を外されたアブソルの体が、更に重なった立て続けの被弾に対し、ヨロリと揺らめいた。

だがそれでも、先鋒の意地をかけた一対一の勝負は、そう簡単には終わらない。  
素早く立ち直ったアブソルは、力押しが通じないと見るや、今度は反転すると猛烈に加速して、飛び来るタネを物ともせずに、リーフィアに体ごとぶつかっていく。
流石のコナムも『電光石火』には反応し切れず、そのまま一撃をまともに受けて、草一本生えていない乾いた土のフィールドに、強かに叩き付けられた。  ……普段なら軽いはずのその一撃も、攻撃力が大きく上昇している今では、十分な威力が伴っている。
ふら付く彼女に立ち上がる隙も与えないまま、アブソルが角を閃かせ、目にも止まらぬスピードは維持したままで、真っ直ぐ止めを刺しに殺到して来る。  ――そこで、勝負(けり)は付いた。

突っ込んで来るアブソルの動きが、突然足元から伸びて来た無数の蔓に引っ掛かって、つんのめる様にして止まる。 そのまま黒い足元は、伸びる蔓に絡め取られて、全く身動きが取れなくなる。
そこら中から生えて来た蔓状植物の『草結び』を、アブソルは必死になって頭部の鎌で切り払おうとするが、後から後からフィールド一面に蔓延って来る緑の洪水に、最早抗う術は無い。
――それを見て、対戦相手のトレーナーが状況不利と察したらしく、アブソルを手元に返して交代させようとするが、完全に蔓草に巻きつかれ、地面に縛り付けられた状態のポケモンを手持ちに戻す事は、不可能であった。

対してこちらは悠々と立ち上がったコナムは、指示を受け取ると改めて体勢を整えたと見るや、今度は初めて自分から、相手に向けて突っ込んでいく。
相手トレーナーの警告に、蔓にかかりきりになっていたアブソルが慌てて姿勢を戻し、間髪を入れずに頭部の鎌を光らせて反撃に出るも、最早何の意味も成しはしない。
リーフィアの両前足に突き出た短い葉っぱが鋭く輝き、軽やかに踏み込みつつ『サイコカッター』をかわしたその体はタンと地面を蹴ると、飛び違え様に鋭い一撃を、動けぬアブソルの胴体に刻み込む。

為す術も無く急所に『シザークロス』を打ち込まれた雪獅子の体が、戦う力を失って崩折れた時――漸く振り向いたリーフィアの意思によって、蔓草の戒めが解き放たれた。
それを受け、倒れたアブソルをボールに戻した対戦相手が、次のポケモンを繰り出す。
勝負の場に姿を現したリングマが、善戦空しく討ち取られた仲間の仇を取らんものと眦を決し、怒りに満ちた戦いの雄叫びで、蔓草に覆われたフィールドを揺るがした。
 
 
しかし既に、地の利は完全にリーフィアのものである。
  
新たに現れた大熊もまた、それこそ相手に対して身構える暇すら与えられないままに、フィールドを埋め尽くした蔓草によっての、『草結び』の洗礼を受ける。
――最初に乱射した『タネマシンガン』による場作りからの、『草結び』による一方的なイニシアチブの掌握。  ……地に芽吹くものの心を知り、その力を最大限に引き出すべく修行を重ねて来たコナムの、必勝パターンである。

パワーを生かして荒れ狂う大熊の爪が、足元を覆い尽くす蔓を苦も無く『切り裂く』も、その都度放たれるリーフィアの『タネマシンガン』によって随時蔓草の海は強化され、リングマの動きは自由になるどころか、ますます雁字搦めとなっていく。
やがて重なるダメージもあってか、リングマの動きが目に見えて鈍り、完全に蔓の中に膝を屈するに及んで、再びリーフィアは『タネマシンガン』を中止すると、先程と同じように『シザークロス』をお見舞いすべく、動けぬ大熊に向かって地面を蹴る。
リングマの体はやはり完全にロックされており、交代しようにもボールに戻す事は叶わない。  ……それを理解しているのか、今回は相手のトレーナーもモンスターボールを構えようとはせず、ただ冷静な目付きで、黙って成り行きを見守っているのみだ。

――しかし場を見守るその表情には、焦りや無力感の類は、全く感じられはしない。  ……それに気が付いた事により、主人の腰のボールの中から戦いの様子を見つめていた彼は、微かな不安を覚える。

案の定、今回は先程の様にはいかなかった。
リーフィアが攻撃軌道に移った瞬間、突如としてリングマが、蔓草を引き千切って立ち上がったのだ。

『シザークロス』の構えで飛び掛かるリーフィアを、リングマの逞しい腕がまともに捉え、情け容赦無く自分の足元に叩き落すと、続いて天に向けて雄叫びを上げ、生み出した大量の雪の塊を、立ち上がろうとするリーフィアに向け、勢い良く叩き付ける。
怨み骨髄に達したと言わんばかりの、カウンター効果を乗せた強烈な『雪なだれ』が収まった後には、弱点を突かれて耐え切れず、力なく横たわるコナムの姿。
倒れた彼女をボールに戻し、心からの労いの言葉を掛けた少年トレーナーは、続いて次のポケモンを、勝負の場に向け解き放つ。
……相手がノーマルタイプのリングマだったので、彼は内心自分が選ばれるのでは無いかと思っていたのだが、主人の手指は彼のではなく、別のボールを掴んでフィールドに投げた。
 
 
ますます猛り狂うリングマに立ち向かう少年の二番手は、小さな白い体に水色のストライプが鮮やかな、大きな尻尾の電気リスだ。
普通のパチリスよりも更に一回りは小さいかと見えるそのポケモンは、今度こそは自分が先手を取ろうと、大柄な体格に似合わぬスピードで殺到するリングマを確認するや否や、素早く生い茂る草の海に飛び込んで、姿を暗ます。

そして直ぐに別の場所から顔を出すと、虚しくシャドークローを空振りし、草むらを薙ぎ払うだけに終わった大熊の背中に向け、膨らんだ頬袋の中身を、勢い良く吹き出した。
『タネ爆弾』が背中に炸裂し、ダメージの分凶暴性を増したリングマが勢い良く振り返って、その血走った目を向ける頃には、既にパチリスは草のフィールドの中に首を引っ込めており、影も形も無い。

そのまま更に幾度かに渡り、パチリスのテブリは必死に相手を探すリングマを嘲笑うかのように、あっちに顔を出し、こっちに姿を見せては、相手を翻弄しつつダメージを稼いでいく。
……チームで一番小柄で迫力に乏しく、傍目には悪戯好きの小リスにしか見えないテブリだが、実は仲間内では二番目の古株で、戦い慣れたその敏捷な身のこなしの程は、波導使いである彼を以ってしても、容易に捉える事が出来ないほどのもの。 
見通しの悪い草むらの中で、縦横無尽に走り回る彼を捕まえる事など、敏捷さに欠けるリングマには、到底無理な相談であった。
 
 
やがて相手のトレーナーも、このままでは埒が明かないことを悟ったらしい。
反対側の手にもう一個のモンスターボールを素早く掴むと、リングマの巨体を手元に戻し様に、一瞬で控えポケモンと入れ替える。
手負いのリングマに代わって場に現れたのは、巨大な四本足の鋼鉄獣、メタグロスであった。

すぐさまテブリは、新たに現れたこの重厚な雰囲気の怪物に対しても、狙い済ました『タネ爆弾』の一撃を御見舞いする。
しかし、鋼タイプな上に極めて強固な防御力で知られているメタグロスには、そんな程度の攻撃は、蚊が刺したようなもの。
逆に繰り出された、反撃の『アームハンマー』に追い立てられ、草地の中を逃げ惑う破目になったパチリスを、少年はすかさず手元に戻して、次のポケモンを送り出す。

フィールド上を走り回っていたパチリスが戻されると、メタグロスは次に繰り出されたポケモンの姿を確認もせずに、鋼鉄の爪が付いた太い腕を振りかぶって、現れた相手に向け一撃を放つ。
草原を横様に薙ぎ払うようにして繰り出された『コメットパンチ』は、完全に点ではなく面での制圧を意識しており、如何に身が軽くとも回避は困難。 加えてその威力の程も、元より強力な技の破壊力に遠心力も相まって、生半可な力のポケモンでは、到底受け切れる物ではない。

しかし新たに場に現れたポケモンは、防御・回避共に困難なその攻撃を、空中に飛び立つことで、難なく無効化した。
次いで綿雲の様な美しい翼を羽ばたかせる彼女は、開いた口から紅蓮の炎を噴き出して、全てを跳ね返す強固な鋼の装甲を、熱の力で簡単に打ち破る。

チルタリスの『火炎放射』がメタグロスを包み込み、その重量感溢れる体を地響きと共に地に横たえさせた事で、対戦相手の男の手持ちは、残り三体となった。

男の表情がチラリと動き、賞賛を意味する淡い微笑が面上を走る。  ……対する少年の浅黒い顔には、全力を傾注して戦っている時にのみ現れる、精気に満ちた不敵な笑み。 
―― 一瞬の空白の間に、互いが求め合う物を交錯させた両者は、周囲の感嘆も歓声も耳に入らぬまま、再び盤面の形勢へと、己の意識を戻して行く。


 
 
流れ行く者同士の競宴も、そろそろ酣(たけなわ)――

交わった風は旋風(つむじ)を巻いて、互いに持てる限りの力を振るう。
得られた機会を決して逃さず、勝負師は自らの意地と誇りを掛けて、周囲を巻き込み火花を散らす――
 
 
 
 
―――――

我がメモ帳にのたくられし妄想、其の二。

内容は、まぁ見ての通りです(爆)
……ただ、メインテーマはガチバトルではなく、ルカリオさんの個人(?)的な出来事です。  ……ほんとだよ?
書いてる間に、流す心算だったバトルが膨らんじゃったのは否定しませんが……(汗)


取りあえず、未だ書き終わっては無いのですが…一応出来た所まで上げておいても構わないかしら? と思い、ぶち込んでみました。  ……異論があられましたら御免なさい(汗)


そいでは……


【批評してもいいのよ】

【描いてもいいのよ】

【もち、好きに書いちゃってもいいのよ】


  [No.1205] 風合瀬の宴  中 投稿者:クーウィ   投稿日:2011/05/19(Thu) 18:53:54   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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戦闘不能となったメタグロスを引かせた男が繰り出したのは、またしてもリングマであった。
対する少年の方も、それを見るや見切り良くチルタリスを手元に戻し、代わりに先程リングマと相対していたパチリスのテブリを、再び試合の場に送り出す。 ……先程見せたリングマのタフネス振りと、『雪なだれ』の威力とを考えれば、このままドラゴン・飛行タイプのチルタリスで戦う事は、危険であると判断したのだ。 
 
その新たに仕切り直しとなった両者の対決は、先刻のそれとは打って変わって、じっと動かぬリングマの隙を、草むらに隠れたパチリスが虎視眈々と窺うと言う、持久戦の様相を呈する事となった。
チルタリスのフィーとメタグロスとの戦闘により、草の海の一角がミステリーサークルの様に薙ぎ倒され、あまつさえその中央付近に至っては、炎によって生い茂っていた蔓草が焼け果てており、身を隠す場所が全く無かったからである。

大熊はその開けた部分の真ん中に陣取っており、距離のある周囲の草むらの中からでは、『タネ爆弾』は届かない。 ……元より体の小さなテブリの攻撃射程は、普通のパチリスと比べてもかなり短く、距離を置いての遠隔戦闘は、全くの不得手であった。
リングマの方もトレーナーの指示を受けたのか、先程までの激情とは打って変わった冷静な面持ちで、自らを狙う小柄な影を、五感を研ぎ澄ませて待ち受けている。 ……体が固まってしまわないように、時折体に小さく律動をくれている様が、場馴れしたその経歴を、無言のままに物語っていた。

やがて息詰まる膠着状態が、永遠に続くかと思われた時――突然パチリスの方が、蔓草の茂みを真っ二つに割り、リングマに向けて背後から殺到した。  
風向きが変わり、背後を探る聴覚と嗅覚が、乱される瞬間――その一瞬の揺らめきを当て込んでの、電撃戦法である。

しかしリングマの方も、流石にそこは心得たもの。 トレーナーの指示を受けるまでも無く、振り向きながら繰り出された『シャドークロー』が、小柄な襲撃者の体を捉えるべく、地を舐めるような低い軌道で一閃した。
ところがパチリスの体は、大熊の漆黒に染まる爪をその身に受けた途端、呆気なく真っ二つに裂け割れて、風に流れて消えていく。 ……『身代わり』を盾にした本体は直ぐ後ろに続いており、既に腕を振り切って体勢の流れかけているリングマに向け、帯電状態で殺到する。

だがリングマ側も、それだけでは終わらない。
自らの目をまんまと欺いて、真一文字に突っ込んで来る敵の姿――それを咄嗟に走らせた視線の先に確認するや、ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、振り切っていた腕を逆手に返し、リスの背中に切り返しを見舞う。  
必中の技・『燕返し』である。

リングマの妙技に対し、パチリスのスピード。 ……しかし軍配は、やはりタイプ相性に分がある方へと上がる事となった。

リングマの爪は、テブリの形の良い尻尾に届きはしたものの、飛行タイプの技なれば、やはり効果は今一つ。 自身のタイプがノーマルなのも相まって、その一撃は電気リスポケモンの尻尾に生えているふこふこの毛を、ただ一房削り取ったのみ。
対するパチリスの方は、身軽に大熊の二の腕辺りに飛び乗ったと見るや、そのまま腕から肩を伝って、己を叩き潰すべく屈み込んだ相手の頭頂部まで、一気に駆け上がる。 ……その時には既に、やや形を崩した大きな尻尾は、白銀の輝きを帯びて日差しを弾き、躍動感溢れるその痩身は、相手の頭部を軽々と蹴って宙に浮くと、そのまま前方に向け、くるりと一回転する。

――大熊とそのトレーナーは、テブリの神出鬼没の戦い振りに翻弄される余り、戦っている相手であるパチリスの『型』を、完全に見誤っていた。 ……彼は決して、ヒット・アンド・アウェイを重視した、ランニングファイターなどではない。
本来の彼―素早っこく、主人の帽子やスカーフを奪って、あちこちと逃げ回るのが大好きな悪戯小僧の正体は、素早い動きで相手の懐に飛び込み、見た目に合わない高火力で一気に片を付けに行く、生粋のインファイターなのである。

宙返りした事により、天に向けて高々と差し上げられたテブリの尻尾は、そのまま遠心力と落下の勢いとを伴いつつ、鋼鉄の輝きを帯びて、リングマの脳天目掛けて振り下ろされる。
……如何に頑丈な頭骨を持ったリングマと言えども、頭頂部に直接叩き込まれた『アイアンテール』の衝撃を受け流す事は、不可能であった。

目から火花を散らし、ゆらりとよろけた大熊の頭上で、更に間髪を入れずパチリスが、全身に溜め込んでいた電気エネルギーを、ここぞとばかりに解放する。
一瞬にして天地を結んだ光の柱が、倒れ掛かるリングマの巨体をまともに貫いた時――見守っていたトレーナー達とポケモン達は、巌(いわお)の如き大熊の命運が、尽きた事を悟った。
 
 
毛先をチリチリに焼かれたリングマがボールに戻ると、男の手持ちは残り二体。
彼はその内一方が入っているボールを、頽勢著しい戦況もまるで眼中に無いかのように無造作に外し、揺らぎの無い表情のまま、フィールドに向けて放り投げた。
尻尾に向かい傷のような爪痕を残しながらも、ますます意気盛んなパチリスの前に姿を現した男の四匹目は、ボールから出るや天地を轟かせて咆哮を上げ、待ち構えていた小さな相手を『威嚇』して、その矛先を鈍らせる。
獰猛そうな面構えに、薄青色の体の背には、鋭角かつ直線的な形状の、一対の赤い翼。 男が待機させていた副将格は、豊縁の空の王者・ボーマンダだった。 

だがしかし、豊縁竜が『威嚇』によって成果を上げられたのは、ホンの一瞬だけであった。 ……元々他の同族よりも体の小さなパチリスのテブリは、よく言われている『小男ほど大事を好む』と言う俗説そのままに、相手が大柄で威圧感に満ちているほど、反って反骨心を燃え立たせるのである。
負けん気のテブリはそのまま真っ直ぐ、数あるドラゴン達の中でも最も破壊的な力を誇る目の前の竜に向けて、正面から戦いを挑んだ。
――主人の少年の方は、その姿勢を幾らか危ぶんでいる様であったが、突き進むパチリスのその双眸には闘争心が満ちており、既に飛礫の如き勢いで疾走し始めたその寄せ足を止めるような術は、何一つ有りはしない。

……もし仮に、ここで相手の竜がパチリスの俊敏な強襲を嫌(いと)うて空へと逃れたのなら、展開はまた違ったものとなったであろう。 空高くを旋回する大柄な飛翔物は、地対空雷撃(『かみなり』)の格好の標的となり得るからだ。

しかし相手のボーマンダは、突っ込んでくるパチリスを正面から受け止め、迎え撃つ意思を示した。
直線的でシャープな印象を与える両翼ははたとも動かず、代わりに鋭い爪を備えた太い腕が、小癪な挑戦者を叩き潰すべく活動を開始する。
振り下ろされた右腕での『ドラゴンクロー』を、テブリの小さな体が上手く掻い潜る事に成功した時――その瞬間は誰もが、パチリス側が勝利を収めたものと、信じて疑わなかった。  

しかし、軽捷に過ぎるその動きの程が、反ってテブリの命取りとなる。
『ドラゴンクロー』の回避に成功した次の瞬間、相手に向けて飛び掛ろうと地を蹴ったパチリスの体は、予め動きを予測していたボーマンダの顎によって、がっちりと捕らえられてしまった。 
次いでそのまま、小さな体は反撃する時間ももがく暇も無しに、灼熱の炎を纏った鋭い牙によって、情け容赦無く締め上げられる。 

『炎の牙』自体は、決して威力の高い技ではない。 ……しかし、ボーマンダの高い攻撃力も相まって、打たれ弱い軽業師の体力を奪い尽くすには、これだけで十分であった。
力尽きて後無造作に吐き捨てられたパチリスの体は、加減されて致命傷こそは免れているものの、焼け焦げた傷跡は痛々しく、最早首をもたげる余力すら残ってはいない。

無策に対する悔恨に微かに口元を歪めつつ、少年がパチリスを手元に戻し終えると、勝者であるボーマンダは轟々たる咆え声で周囲を圧して、高々と勝鬨を上げた。
――俊敏な相手の機動力を、長き実戦経験によって練り上げられた『勘』によって一蹴した豊縁竜は、フィールドの真ん中に堂々と立ち、次なる相手を待ち構えている。
 
 
少年がパチリスを回収したボールを、彼の入っているモンスターボールの隣にあるポイントに、ゆっくりと気遣いながらロックした時――不意にその向こう隣に位置するモンスターボールが、カタカタと揺れ出した。
そこに入っているポケモンは、先程『火炎放射』でメタグロスを撃破した、チーム唯一の飛行要員―チルタリスのフィーである。

フィーは普段からテブリとは仲が良く、悪戯三昧で遊び疲れたパチリスは、彼女の綿雲のような翼を借りて、のんびり昼寝をするのを日課としていた。
チーム内でも指折りの実力者である彼女は、目の前でやられた親友の借りを返さんものと、俄然主人に対して直訴に出たのだ。 ……言うまでも無く、三次元の自在な機動を可能とする飛行ポケモンに対しては、自らもまた飛行能力を持ったハンターを送り出す事が、最も確実な手段となる。

それを受けるや、彼らの主である少年トレーナーの方も、曇り勝ちだった思案顔を和らげるとニヤリと笑い、カタカタ揺れるそのモンスターボールを手に取った。 
開閉スイッチを起動させたそれを、空高くに向け力一杯投げ上げつつ、解き放たれたポケモンに対して、力強い声で下命する。  
「飛び方を教えてやれ」と言うその命に、ボールから飛び出したチルタリスが透き通った鳴き声で応じた時、対戦相手であるボーマンダの方も、その主人の指示によって翼をはためかせ、遮る物が何も無い新しいフィールド目掛け、一直線に翔け登る。

長い忍従の末に翼を獲得したドラゴンポケモンは、相手方の思い上がった内容の指示に、反って闘争心を煽られたらしく、先に上空に位置して高度の優位を保った相手に対し、真一文字に挑みかかった。
一直線に吐き出された『火炎放射』を見事な空中機動でかわした豊縁竜は、そのまま速度も落とさずに急上昇し、目の前に浮かんでいるチルタリスのどてっ腹に向け、『ドラゴンクロー』で反撃する。
対してこれも身軽に、くるりと難なく身をかわしたハミングポケモンの回避行動を切っ掛けに、両者は互いに相手の後方に位置しようと、自らの飛翔能力の粋を尽くして、くんずほぐれつの空中サーカスを展開し始めた。

何れもチーム唯一の飛行タイプである二匹のポケモンは、絶えずお互いの位置を首を曲げて確認しつつ、機動に殆ど制限を受けない中空を、所狭しと飛びまわる。
両者が地上に近付くと、高速飛行が生み出す風圧が土煙を巻き上げ、たまには外れた『火炎放射』が、流れ弾となって飛んで来るにもかかわらず、地上に位置するギャラリー達は、そんな事にもまったく動じず、食い入るようにその様を眺める。
最早両者の主人達も、彼らに余計な指示を与えようとはしない。 ……既に目の前の両者の対決は、彼らトレーナーの手を離れていた。

仮に何か指示を下したところで、それが状況を好転させる材料になり得る事は、決して無かったに違いない。
確かに少年にはまだ手持ちに余裕があったし、男の手元にも、最後の控えが残されていた。 ……だが、問題はそういう事ではないのだ。

――互いが互いを力で捻じ伏せ、己の方が上だと証明する為の、純粋な力比べ。 
如何に主人とは言えども、当事者同士が全てを傾けて行っているそれに水を差す様な振る舞いは、そうそう許されるものではない。


上空でもつれ合う両者の形勢は、争いが長引くに従って、徐々に変化し始めていた。  
スピードで大きく上回るボーマンダが、小回りの利くチルタリスの俊敏な機動を制して、圧倒的に優位となる相手の後方位置に、喰らい付いたのである。

火炎を吹き出して相手を狙い撃つアウトレンジのチルタリスに対し、ここまでボーマンダは終始反撃を試みず、相手を自らの手で直接叩き落せる位置に捉えようと、辛抱強く渡り合ってきた。
今や豊縁竜は、とうとう相手の背面を勝ち取る事に成功し、何とか振り切ろうと懸命に飛び続けるチルタリスとの距離は、刻一刻と『ナイフとナイフでやり合える』ぐらいにまで、狭まりつつある。
――自らよりもずっと繊細な動きが可能な相手に対し、スッポンの様に喰らい付いたまま離れない彼の目には、幾多の相手との凌ぎ合いを制してきた、揺ぎ無い自負が窺えた。

だが、しかし――ボーマンダは結局、最後のその瞬間まで、相手が何を企んでいたかを、見抜く事が出来なかったようだ。
漸く相手を追い詰め終えたボーマンダが、満を持して攻撃機動に転じると共に、『ドラゴンクロー』を振り上げた次の瞬間……突然彼の視界は、不意に覆い被さって来た真っ白い羽毛に遮られ、全く機能しなくなってしまった。

――チルタリスと言うポケモンは、本来攻撃面に於いて、それほど優れた能力を持ち合わせているわけではない。 あくまでその本分は、多様な補助技を生かした搦め手であり、それは優れたバトルスキルを有したフィーと言えども、例外ではなかった。
優れた攻撃能力を元々に持っているボーマンダには、その手の補助的とも言える戦法への執着は、それほど無い。 ……従って、対戦相手のそう言った要素にも、警戒感が希薄であった。

十分に相手を引き付けたフィーは、ボーマンダが攻撃の態勢に入ったその瞬間、急激な右旋回を打って切り返すと同時に、相手の目と鼻の先に向け、『フェザーダンス』を繰り出した。
両翼から吐き出された大量の羽毛(チャフ)は、追尾する豊縁竜の視界を完全に奪い去り、同時に体中に纏わり付いて、その攻撃力を大幅に低下させる。 
後の先を打たれたドラゴンポケモンが、なす術も無く必殺の一撃を空振りさせられ、中空で顔を振り立ててもがいている内に、ハミングポケモンは真っ直ぐに上昇した後、漸く視界を確保した相手に向けて、逆落としに突っ込んで行く。
トレーナーの警告を受けた彼は何とか正気には戻ったものの、残されていたその時間の程は、余りにも僅少に過ぎた。
僅か0.2秒の後に激突して来たチルタリスの『ドラゴンダイブ』は、柔和なその見た目に似合わぬ圧倒的な破壊力で周囲の空気を震動させ、ターゲットであるボーマンダの意識を、一瞬で暗黒の彼方に消し飛ばす。
『バーン!』と言う衝突音が鳴り響いた直後には、既に豊縁竜はダラリと首を垂れたまま地面に向けて落下しており、やがて土煙を上げて墜落したその上空では、密かに積んでいた『竜の舞』によってステータスを大きく向上させていたハミングポケモンが、悠然と旋回しつつ高らかに鳴いた。


対戦相手の男の手持ちは、後一体。
トリを努める最後のエースの正体に思いを馳せつつ、固唾を呑んで行方を見守っていたボールの中の彼は、その時不意に自分の視界が、伸ばされて来た主人の手指によって遮られるのを感じた。


―――――

今更続きを放り込む。 ……sageのやり方が分からない(爆)
くっそ古いものを上げてしまい、誠に申し訳ありませんでした……

【誰か下げの方法を教えて欲しいのよ】

【批評してもいいのよ】

【描いてもいいのよ】

【好きにしていただいて構わないのよ】