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  [No.971] たまむすび 投稿者:巳佑   投稿日:2010/11/17(Wed) 19:32:43   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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「いい? 
 明日の夜以降に、もし青い光のようなものに出会ったら、
 上着の右の袖(そで)を結びなさい」
「えっ、お母さん。どうして?」
「そうねぇ……多分いいことがあると思うから。約束できる?」
「うん、分かった!」
満月がよく映える夜。
とある和室の一室で一人の母と一人の娘が指きりげんまんをしていました。
指から指に届け合う二人の温もりの手紙はこれが最後でした。
翌日、
白い雲が一切ない青空の下、
一人の娘の母は天国へと旅立たれました。


娘の母は幼い頃から体が弱い体質で、
一か月前に発症した病が元で帰らぬ人となってしまったのです。
娘は一人っきりになってしましました。
庭で一人泣いていました。
しかし、その泣き声は
ただただ青空に消えていってしまうばかりでした。
そのときでした。
娘の前に何かが現れたのです。
気配に気づいた娘が顔を上げてみると……。
そこには青い光のようなモノが浮かんでいるではありませんか。
娘はすぐに母との約束を思い出し、上着の右袖(長袖)を器用に結びました。
すると不思議な青い光のモノはその場に何事もなかったかのように消えていきました。


その翌日でした。
娘の前に一匹のポケモンが現れたのです。
不思議なガスを身にまとったポケモン…………。
ゴースでした。
朝に目が覚めた瞬間にいきなり顔をのぞき込んでくるゴースに娘はビックリ仰天(ぎょうてん)。
その姿にゴースはケラケラと玉を転がすように笑ってました。


そのゴースは人懐こい性格のようで、すぐに娘と打ち解けた関係になりました。
母以外身寄りのなかった娘にとってゴースと一緒に過ごす時間はかけがえのないものでした。
一人で住むには少々広い母の実家ですが、
ゴースが一緒にいてくれる娘の心はもう空っぽではありませんでした。
母がいなくなってしまって一人身になってしまった今、
娘には泣いている暇はありませんでした。
一人で生きていくために色々と行動を起こさなければいけません。
ですが、娘は徐々に前向きに元気になっていきます。
ゴースが娘の心を支えてくれたからです。
もうひとりぼっちではないのです。


当時、母を亡くしたときは十代前半だった娘はすくすくと成長していきます。


体が成長しました
「ねぇ! 見て見てゴース! この浴衣、似合うようになったでしょ!?
 お母さんが大きくなったらあげるって言ってくれたんだけど、ようやく着れるようになったよ!」
娘の着ている浴衣は不思議な群青色の中にサクラビスのマークが所々、散りばめられていて、
まるで夜桜をその身にまとった艶やかな(あでやかな)ものでした。
腰まで伸びた髪をお玉にして頭の上に止めました。
娘の浴衣姿がとても似合っていたからか、
ゴースはほほ笑むと大きくうなずき、娘の顔に一舐め(ひとなめ)しました。
「えへへ! ありがと、ゴース。それじゃ、お祭りに行こうよ!
 トロピウスのチョコバナナとか買って食べようね!」
「ごすごーす!!」


心が成長しました。
「ねぇ、ゴース。私、今日も失敗しちゃったね」
「ごす」
「ささいなことでケンカしちゃってさ。
 ……あのときは私は悪くない! なんて思ってたけど……。
 違うよね。お互いの本音を聞けたから、誰が悪いなんてことないのにね」
「ごすごす」
泣きそうな顔の娘の顔にゴースが目を閉じながら一舐めしました。
娘はくすぐったくて一瞬、笑いましたが、
その後、ぽろぽろとビー玉のように涙がこぼれ落ちました。
「彼の、気持ちが分かったから、ごめんって、ありがとうって、言わなきゃね。
 メールじゃなくて、今、から、彼の家に、行って、口、から、直接にね」
「ごーす」
ゴースは微笑みながら娘の涙の粒を舐めました。
娘は泣いていましたがその顔は強い笑顔に変わっていました。


それから、その数年後、娘はその彼と結婚することになりました。


結婚式前夜。
娘は白いウエディング姿の写真を母のお仏壇にお供えしてました。
「おかあさん。私ね、明日、ついに結婚するんだよ」
娘はお仏壇の中にある母の写真に微笑みながら言いました。

「おめでとう」

不意に娘の後ろから声が聴こえました。
娘の目が大きく見開かれます。
なぜなら、その優しくて、いつも温かい声は娘の聞き覚えのあるものでした。

「……ゴース?」

けれど、振り返ってみても娘の瞳に映るのはゴースのみ。

『うふふ、娘のウエディング姿をこの目で見れて、かあさん、幸せよ』

ゴースは微笑みながら娘に言いました。
けれど娘はどういうことだか分かりませんでした。
姿はゴース、けれど声は間違いなく自分の母。

『…………あの日、かあさんと約束したこと覚えてる?』

娘はとりあえず首を縦に振りました。
青い光のようなものに出逢ったら、上着の右袖を結ぶ約束。
今でも娘は鮮明に覚えています。

『あれね、ちょっとした、おまじないみたいなものでね。
 あの約束をしっかり守ってくれたから、
 かあさんはゴースとしてアナタのそばにいれたのよ』

驚きの顔の娘を見ながら、娘の母は続けました。

『それにしても、アナタが立派に生きてきて、本当に嬉しいわ。
 昔から泣き虫やさんだったから、心配もしたけど…………。
 もう、心配をしなくてもよさそうね。
 もう、アナタは強くなったのだから。
 今まで、そばにいさせてくれて、ありがとう。
 もう、時間みたいでね……。
 本当は孫の顔とか見てみたかったんだけどなぁ……。
 あっ、でもお盆のときとかに見れるかもしれないわね』

ゴースの姿が少しずつ消えていくのを娘の瞳は捉えました。
光の粒子が少しずつ天に上っていきます。

『これからも、嫌なことがあるかもしれないけど』

娘の涙腺が熱くなっていきます。
これは本当に自分の母がゴースになって今までずっとそばにいてくれたと、信じたのです。

『けれど、生きていれば、きっといいことだってあるから』

学校のテスト勉強に夜遅くまで付き合ってくれたこと。
自分の手作り料理をいつも味見してくれたこと。
夜の帰り道ではガードマンみたいなことをしてくれたこと。
眠れない夜では、おしゃべりに付き合ってくれたこと。
面白すぎるテレビ番組で笑いすぎて、翌日、お互い声が枯れ気味になったこと。
百面相で笑わしてくれた日もあった。

『そして、アナタは、もう一人じゃないから』

色々な想い出のグラデーションが娘の頭の中に描かれていきます。
そばに……。
ポケモンになっても、
そばにいてくれて……。
自分に愛をくれた。

『だから、これからも強く、生きなさい。いいわね?』

娘は泣きそうになりながらもちゃんと顔はゴースの方に。

「おかあ……さん……」

『ん? なに?』

「産んで……くれて……そばに、いてくれ、て……」

幸せをしっかりと受け取った笑顔。

「ありがとう……!!」

娘の瞳に一瞬ですが、娘の母の姿が映りました。
その顔は優しい微笑みに満ちていました。

「お……かあ……さん……!!」

娘の声とともに光の粒子は消えてしまいました。
その光を最後まで見送った後、
娘は泣きました。
しかし、その涙は悲しみではなく、
感謝の気持ちが詰まった温かい雫でした。




「ねぇ、ママ。なんかポケモンのおはなしをしてよ〜!」

「分かった分かった。
 そうねぇ……『ミミロルとコータス』は昨日、お話しちゃったし……。
 …………あっ、そうだ!」
 
「なになに!?」

「とあるゴースのお話をしてあげる!」

「……えっ、こわい、おはなし、なの?」

「もう、今にも泣きそうな顔をしないのっ!
 ……泣き虫なところは私似かしら、やっぱり」

「ママ……?」

「ともかく、これは怖い話じゃないわよ」

「じゃあ、どんな、おはなしなの?」

「これはね……ありがとうと幸せが詰まったお話よ」




【書いてみました】

「人間がポケモンになっちゃった!?」というフレーズで
有名なポケモン不思議なダンジョンからの影響で、
親子の絆が伝わりますようにと願いながら、
この物語を書いてみました。

それにしても幽霊ポケモンって、
例えば、死んでしまった人やポケモンから誕生したポケモンなのかな……と
謎が深まっていくばかりの今日この頃です。




ありがとうございました。


  [No.972] Re: たまむすび 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/11/18(Thu) 18:57:38   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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某民俗学系の書物によれば、紐を結ぶことには特別な呪力があるそうです。
(この場合は袖だけど)
袖を結んだ時に出来る玉とゴースの形が一致しててなんかいいなぁ、と。
同時に死者をこの世に結びつけておく効果もあるのかもしれませんね。
ところで、青い光はお母さんの魂ということでok?

あえていうと
お母さんに貰ったのを結婚式に使う着物にするとよかったかもしれません。
玉を結んだ着物を着れなくなり、大きくなったらともらった着物に着るモノが変わるとき、それがまじないの効果が切れる時だって感じが出せたかも……
まぁあくまで私の好みですw

あと別パターンとして、お母さんが娘を心配していつまでも成仏してくれないので、
玉結びの相反するなんかの儀式をしてあの世に返しちゃうってパターンもおもしろいかもなどと、ひねくれた私は考えるのでした(おい


では


  [No.973] Re: たまむすび 投稿者:巳佑   投稿日:2010/11/18(Thu) 20:29:28   36clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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感想ありがとうございます!

[No.017さんへ]
> ところで、青い光はお母さんの魂ということでok?

はい! あの青い光は娘のお母さんの魂ですよ。
ちなみに、今回の物語に出てくる『おまじない』は
民俗学の授業で教えてもらった『人魂を見たときのおまじない』を基にしてます。
書物によると……。
おまじないの呪文を三回唱えた後、
男性の場合は身に付けている着物の左側の裾(すそ)を結んで、
女性の場合は身に付けている着物の右側の裾を結び、
三日後に結び目を解く……だそうです。

この物語では袖を結んでいるだけですが。(汗)
『結び』という言葉は改めて考えてみると不思議な言葉ですよね。
今、思いついた例えだと……『縁結びの神社』とか。


> あえていうと
> お母さんに貰ったのを結婚式に使う着物にするとよかったかもしれません。
> 玉を結んだ着物を着れなくなり、大きくなったらともらった着物に着るモノが変わるとき、それがまじないの効果が切れる時だって感じが出せたかも……
> あと別パターンとして、お母さんが娘を心配していつまでも成仏してくれないので、
> 玉結びの相反するなんかの儀式をしてあの世に返しちゃうってパターンもおもしろいかもなどと、ひねくれた私は考えるのでした(おい

……そこまで、考え付きませんでした。(汗)
すごいです。
別の展開が複数、出てくるとは……。(汗)
しかも、ドラマティックになりそうで、しびれました。

それと結婚式はウエディングドレスだけではありませんよね。(汗)

今後、物語を書く際に是非、参考にしたいです!!




それでは失礼しました。