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  [No.995] ファントムガールと死神の対話 投稿者:紀成   投稿日:2010/11/28(Sun) 15:14:55   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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しばらく前,私は一人の人間と出会った。魂の回収をしていたら,あちらから話しかけてきたのだ。
彼女は,私が見えていた。見えていた上で,驚きもせず,怯えもせず,私に話しかけてきた。
驚く私に,彼女は言った。

『私,見えるんだよね。それだけじゃなく,懐かれるの』
その言葉の通り,彼女の背後には沢山のゴーストタイプが集まっていた。

それから数ヶ月経って,私は海辺の街へ仕儀とに来ていた。高台にあり,歩いて数分すれば海岸にたどり着く。
別に都会ではないから少量の魂だったが,それでも人ある場所に迷う魂はある。人がいなくならない限り,魂が無くなることはない。
そこへ行ったのは,ほとんどの魂を回収し終わった後だった。海上で命を落とした者の魂が無いかどうか調べるためだ。そんなに海岸自体は広くなく,人もいなかった。
ただ一人を除いては。

異様な雰囲気を漂わせていた。普通の人間には分からないだろう。だが,霊感が強ければ分かるはずだ。彼女の周りに纏わりつく,沢山のゴーストタイプの気配が。
だが,それも見ることはできない。見えるのは,おそらく・・
私とその主人のギラティナ,そしてやぶれたせかいのレントラーだけだろう。
彼女は砂浜に座って海を見つめていた。かなり海の方に近いため,履いているスニーカーが白波に濡れているが,全く気にしていない。
不意に。彼女の後ろで砂をいじっていたジュペッタがこちらを見た。赤い目が大きく見開かれる。彼女の着ているセーターを引っ張る。
「どうしたの」
ジュペッタの指す方向を見た彼女の目が驚きの色に変わった。丸い目がさらに丸くなる。
が,それも一瞬だった。すぐに落ち着きを取り戻した彼女は,私に言った。

「また会ったね」と。

ゴーストタイプが波打ち際で遊んでいる間,彼女・・カオリは私と砂浜に立っていた。塩辛く冷たい風が吹き付けても,彼女は表情一つ変えなかった。
「ちょっと驚いたよ。いきなり後ろにいるんだもん」
「私の気配なら分かるんじゃないのか?」
彼女は首を横に振った。
「集中してる時とか,夢中になっている時は後ろまで気が回らない。特に本を読んでいると,なおさら」
カオリはジーンズのポケットから棒つきキャンディを二つ取り出した。片方を私に持ってくる。
「食べる?」
「いや,いい」
私が食べるとなると,少々むごい姿になる。何せ,私の口は腹にあるのだから。
「キャンディは嫌いってこと」
「そういうわけではない」
行き場所を失ったキャンディを見て,一匹のムウマージが飛んできた。片方を口にくわえて,また波打ち際に飛んでいく。
「あの子,甘いものが好きなんだ。チョコレートとか食べてると,必ず寄ってくる」
「区別がつくのか」
「うん。同じ種類でも個性はあるから。カゲボウズとかも全く違うし」
確かに,同じでも性格は全く違う場合が多い。そしてそれによって伸びやすい能力や伸びにくい能力の差が出てくる。
「それで,ゴーストタイプ達と一緒にいればそれで良かったんだけど・・」
またポケットを探る。薄いようで厚い,キラキラ光る何か。
それはどう見ても,硝子の破片だった。
「それがどうしたんだ」
「鏡にして,毎晩話しかけてるの」
鏡。その言葉を聞いた途端ゾクッとした。彼女のしていることの意味が,分かりかけている。
「・・何故」
「会いたいポケモンがいるから」

確信した。
彼女は。カオリは。
「何に会いたいんだ」

「やぶれたせかいの王,ギラティナ」

時間が,止まった。

「何故会いたい」
声が震えないようにして話す。
「ゴーストタイプで伝説って,あんまりいないでしょ。別に手持ちにしたいわけじゃない。彼は王様なんだから。人間が従えていいものじゃないでしょ」
硝子の破片を太陽に翳す。反射して,虹が砂の上に出来る。
「私は,彼とトモダチになりたいの」

「共通に近い目的を持った子を,この前図書館で見つけた。そのこはルギアを探していた。アルジェント・・銀って名前を付けて,そう呼んでた。どうして会いたいのかって言ったら,こう言われた」

『私,彼を愛してるの』

「アルを見つけるためなら,何だってするって感じだった。馬鹿にする人は皆,手持ちのポケモンで氷漬けにしてきたって。
・・歪んだ愛って,こういうことを言うんだよね。きっと」
どことなく冷めた口調だ。自分が思うことの意味を分かっているのだろうか。
「私は歪んだ愛を捧げるつもりはないよ。人間なんだから。ならせめて,トモダチってポジションにいるくらいはいいよねって思うの」
カオリの言葉に,嘘も何も無かった。本音を言っていた。
私は,どう答えればいいのだろうか。

「・・会えると思う」
「いつか?」
「いつか,のいつかは永遠に来ない。ただこの場合は,いつかと言った方がいいのだろう」
「そうだね」
カオリは満足げに笑った。やはり,嘘ではなかった。

「私,そろそろ帰るね」
夕日が海を照らしかけた頃,カオリは言った。既にポケモン達は集まっている。今日は特に増えてはいないようだ。
「きっとまた会うんだろうね。何処かで」
「・・そうだな」
カオリが背を向けた。ポケモン達も続こうとして・・止まった。
「彼女に何故ついて行く」
全てのゴーストポケモンがこちらを見ている。さっきも言った通りの面子,ゲンガー,カゲボウズ,ヨマワル,サマヨール,プルリル,ブルンゲル。etc,etc。
そして,彼女のパートナーのデスカーンが言った。テレパシーのような物で。

『お前にはカオリの気持ちなんて分からない。二つの壁に押されて,潰されかけたカオリの苦しみなんて分かりはしない』

二つの壁。その言葉が引っかかった・
「どういう意味だ」

『その壁を壊すためなら,俺たちはどんなことでもする。
・・たとえ,人間に危害を加えることになろうとも』

そのまま,ポケモン達はカオリの後に付いて言った。その姿が,夕闇に包まれて溶けていくように,私には見えた。

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