[掲示板へもどる]
一括表示

  [No.846] 無題 投稿者:兎翔   投稿日:2010/10/26(Tue) 08:32:32   93clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

ねぇ、おうちに帰ろうよ。

おうちではお母さんがきっと温かいスープを作って待ってる。
ルークもクロコもハヤテもアリアも、みんな帰りを待ってるよ。
疲れてしまっただろうから、温かいスープを飲んで、熱めのお風呂に浸ってほかほかしたら、みんなでふかふかのベッドにくるまって眠ろう。
きっとみんな一緒にお砂糖菓子のように甘くてしあわせでふわふわした夢を見るんだ。
そして次の日はすこし朝寝坊をしちゃって、お母さんに怒られながら起きた君はすこし気まずそうな顔をしてボクらに笑うんだ。
一晩寝たら昨日の疲れなんてすっかり吹っ飛んでしまって、すぐに元気になるよ。

そしていつものようにボクらを連れて色んなところへ旅にいこう。
いつか雑誌で見た、海とか砂浜とかいう、広くて青くて楽しいところ。君も行きたいって言ってただろ?

クロコとボクは、水が苦手だから、海には入れないけれど。それでも君がいるならば、みんなと一緒なら、どんな場所でも楽しく過ごせるよ。

ねぇ、まだまだボク達行ったことないところがたくさんあるよ。


君とみんなで楽しい想い出作りたいよ。
いつものようにそのあったかい手のひらで僕の頭をなでて。
お前は小さいなぁって笑われても怒らないから。
いつか大きく強くなって君を守ってみせるから。
今のボクじゃ、この小さな尻尾の灯じゃ、冷えきってしまった君のことを温めきれない。

ほら、雨が降ってきたよ。
あたたかいおうちに帰ろうよ。
おうちではお母さんがきっと温かいスープを作って待ってる。
ルークもクロコもハヤテもアリアも、みんな帰りを待ってるよ。


だから――目を、あけてよ。







********

作品も何も投稿しないで、チャットでは大きな顔をして発言しちゃってすみません…><
それでもあたたかく迎え入れてくれる鳩さん始め皆さんに感謝。
とりあえず何か文章を書かなければ!と思って思いついたままを書き連ねたらこういうことに……
何のポケモンだか分かるように、なるべく描写を増やしたのですが伝わりましたでしょうか?
クロコ、ルーク、アリア、ハヤテは私のホワイトの手持ちの名前です。
とりあえずあんまりな内容の小説ですが大丈夫か?
(そもそもこれはポケモン小説と言えるのか?)

【タイトルつけてもいいのよ】【批評大歓迎なのよ】【何してもいいのよ】


  [No.848] 大丈夫だ、問題ない 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/10/26(Tue) 12:23:54   54clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

ヒトモシですね。わかります。



というのは大ウソで、ヒトカゲですねわかります。
クロコちゃんはメグロコですね。

メグロコかわいいよメグロコ。

主人公は体温下がってるだけで、ぶっ倒れてるだけと信じた(ry

そ、そうだ!
だれか〔書いてみた〕で救出するんだ!(待



> 作品も何も投稿しないで、チャットでは大きな顔をして発言しちゃってすみません…><

むしろ読み専の方にもどんどん参加していただきたいと思ってるので、そんなこと言わないで!><
作品を作ってるから偉いかというと別にそんなこともないと思うんで……
むしろ小説書いても読み手の方がいないと成立しないので、読み専の方にもどんどんでしゃばってきて欲しいのよ。
なんかうまい方法はないですかねぇ。


> とりあえずあんまりな内容の小説ですが大丈夫か?
> (そもそもこれはポケモン小説と言えるのか?)

ポケモン小説界というのはたぶんポケモン創作の中ではもっともフリーダムな分野だと私は思ってるんですけど、どうでしょう?
登場人物ねつ造し放題、オリジナル技、擬人化、オリポケ他、残酷表現にしたってやはり直接目に見える者よりは許容される雰囲気がある。
あんまりかっとばしすぐると読者がついていけなくなるんで、諸刃の剣ではあるんですが。

まぁそのなんだ。
私なんかホエルオーとって食ったあげくに、登場人物何人殺したか……
これから連載のほうでものすごいことになる予定ですし(おい
だからあんまり気にしなくていいのよ(


結論: とりあえず書いてみるのが重要


  [No.849] 行きずりの所業  【助けに行ってみたのよ】 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/10/26(Tue) 16:06:51   74clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

崩れた斜面をずっと下っていくと、張り出した岩棚に隠れて見えなかった場所に、小さな火明かりが見えた。

「あれか?」

声をかけた相手は、離れず従っている獣人めいた人型。  自らは直接地に足を付けながらも、中空にある彼よりずっと素早くガレ場を下り行くそれに確認を取ると、真剣な面持ちでこくりと頷く。

そのまま一気に下まで駆け下りるルカリオの背中を追って、彼もまた、背を借りているポケモンに向け、火明かりに向けて降下するように伝える。
背中の主人がしっかり掴まっているかどうかを確認するように首を捻じった後、急激に高度を下げ始めた彼女の綿雲のような羽からは、たっぷり吸い込まれた雨水が道しるべの様に、背後の空間に散っていく。

チルタリスが地に着くのももどかしく、彼は水溜りを無視して地面に飛び降り、激しく水飛沫を立てながら、倒れている人影とポケモンに向けて走り寄った。
そこでは既に、先に下り終えていたルカリオが、主人に寄り添うように倒れているヒトカゲを抱き上げ、雨のかからない岩陰に、運び込もうとしている真っ最中だった。

「リムイ、そっちは任せる。  フィー、こっちに来てくれ!!」

ルカリオに声をかけると、彼―もうそろそろ20に達するだろうかと言う風情の、やや色浅黒い青年トレーナーは、背後で体を激しく震わせ、濡れた羽に含まれている水分を飛ばしているチルタリスを呼ぶ。
同時に腰のボールを一つ掴むと、その場にまた一匹仲間を増やした。

「ラックル、この人を掘り出してくれ。  ・・・傷を負ってるかも知れないから、慎重にやってくれよ?」

ボールから飛び出したリオルにそう告げると、相手は勢い良く頷くや、早速作業にかかる。
『穴を掘る』と『岩砕き』で、リオルがどんどんと半身を土砂に埋めていたトレーナーを掘り出している内に、彼は素早く膝間付くと、倒れている人物の容態をざっと調べてみた。

見た所では、まだ若いその人物は、危険なレベルの低体温状態にはあるものの、何とか致命傷と思われるような負傷の類は、免れている感じである。
・・・今はとにかく、下がってしまっている体温を温めなければならない。

リオルが何とか覆いかぶさっていた土砂を取り除き終えると、彼は急いで触診によって骨折の有無を確認し、何とか短い距離を移動させるだけなら心配無い事を確認してから、件の遭難者を注意して抱き上げ、先にルカリオがヒトカゲを運び込んでいた、立ち木の隣にある岩陰まで、早足に急ぐ。
・・・雷が木に落ちる可能性もチラリと頭を過ぎりはしたが、知るもんか。
 
 
無事に岩陰に着くと、彼は運んできた相手を静かに下ろして、付いて来たリオルと、指示を待っているルカリオに向け、短く早口に命じる。

「リムイ、この人に『癒しの波導』。 ラックルは、ヒトカゲに向けて『まねっこ』だ。」

すぐに行動に出る両者の息は、親子だけあって流石にぴったりである。
次いで彼は、同じく付いて来た残りの一匹に向けて言葉を掛けると同時に、更に二匹の手持ちポケモンを、この場に加える。

「フィーは、取りあえず水気を切って置いてくれ。  ・・すぐに、働いてもらうからな。  コナムとルパーは薪を集めて欲しい。 雨の中大変だが、すぐにかかってくれ。」

指示を受け終わるのも待たずに、リーフィアとビーダルは冷たい時雨の中を駆け出して行く。
そしてこちらは、「心得た」とばかりに立ち木の反対側に回って、盛大に水飛沫を撥ね上げているチルタリスを尻目に、青年はすぐさま目の前の遭難者の介抱にかかる。

他国――海を越えたずっと先、『新奥』の出身者である彼には、北国で必須とも言えるこの手の応急処置は、手馴れたものであった。

 
先ず、着ている物を手際よく脱がせ、下半身の一枚以外は全て、脇に放り出す。  
・・・本人は意識が戻れば恥ずかしがるかもしれないが、それも命あっての物種。 こんな時に、羞恥心なんぞに構っている余裕は無い。

次いで水気を切ったチルタリスを呼び戻すと、半身を抱き起こしている救助者に向け、『フェザーダンス』を繰り出させた。
あっという間に綿毛状の羽毛で包まれた目の前の冷え切った体を、今度はチルタリスにも手伝わせ、懸命に摩擦する。

そうこうしている内に、パートナーと思われるヒトカゲの方が先に目を覚まして、技を切り上げたリオルと共に、慌てて此方によって来た。  ・・・流石にポケモンだけに、回復は早いものだ。

しかし、人間はそうは行かない。 
絶大な生命力を誇るポケモンだからこそ、これだけの速度で体力を取り戻すことができるわけであって、元よりポケモンに対して使う『癒しの波導』だけでは、早々救助者の容態を完治させることは叶わない。  

しかし、折り良くリーフィアとビーダルが薪の第一陣を背負って帰ってきたので、彼らに協力して薪を積ませ、ヒトカゲに着火してもらう。
更に、新たに生じた手空きをも総動員して、懸命に摩擦を続けた結果、何とかずっと青白かった救助対象者の頬に、微かな赤みが差して来た。  ・・・どうやら、最初の峠は越えられそうだ。
 
 
そこで彼は、摩擦作業はその場のポケモン達に任せることにして、バックパックから小さなアルミの鍋と水筒を取り出すと、水を注いだ鍋を枝を組んだ物に引っ掛けて火にかけた。

手早く一緒に取り出した干魚や木の実をポケットナイフで刻んで、沸騰した鍋の中に放り込むと、道中の道具交換に使う予定だった酒のボトルを引っ張り出して、中身を幾らか鍋にあける。  ・・・彼自身は飲酒癖は無いが、この手の品は出す所に出すと非常に喜ばれ、そこそこの品に化けることがあるのだ。
 
 
そこまで終えると、彼はリオルに向けて声をかけた。

「ラックル、悪いが今から道まで登って行って、誰か助けを呼んで来てくれ。  
・・・このままじゃ人手も足りないし、ここは土砂が崩れてくるかもしれないから、夜明かしするには都合が悪い。
お前の足なら、夜が来る前に誰か見つけてこれるだろう。」
 
頷いて飛び出していくリオルの背中を見つめながら、彼は空模様を見定め始めた。
 
 
・・・山の天候は気まぐれだ。  今はさっさと、ここから移動する手立てを見つけなければならない――
 
 
 
 
 
―――――

・・・またやらかした

仕事前ギリギリまで粘ってひたすらPCに向かう馬鹿。
『赤の救助隊』時代の思い出が立ち上ってきて、思わずやってしまった・・・  

取りあえず、解決してなくて御免なさい(爆)
 
 
【お好きになさってください】
【救援大歓迎なのよ】


  [No.850] 【好き勝手救助しようとしたのよ】 投稿者:CoCo   投稿日:2010/10/26(Tue) 20:33:42   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 

 上司から連絡が来る前に、既にアブソルが土砂崩れを予知していた。
 しかしそこは山中深く、谷を下ればすぐなのだがそれはあまりにも危険すぎる所業。道をひろいながら下っていたら遅くなってしまい、結果的に土砂崩れが起こる前に周辺の確認をすることはできなかった。

 アブソルは背中から飛び降りた俺を赤い瞳でみつめて悔しそうに呻いたが、とりあえず状況を確認しようとなだめてやると少し落ち着いた。こいつはまだ育ちきっていないので、足は速いが俺を乗せて長い距離を走ると消耗が激しい。とりあえず隣に控えさせて、この先は足で進むことにした。

 雨は降り続いている。
 彼は周囲にポケモン、そして万が一人間が巻き込まれている気配を注意深く確認しながら、土砂が崩れ落ちた地点へと身長に道を下っていく。

 すると突然、アブソルがぐる、と声を発し、ほぼ同時に茂みからリオルが飛び出してきた。
 この周辺にリオルが生息しているという話は聞かない。もしやトレーナーが巻き込まれているのでは……と脳裏を過ぎる不吉な予感。それを裏付けるかのように、リオルはたいへんな勢いで彼の泥まみれな足にすがり付いてきた。ちいさな腕を必死に伸ばして、どこかへ俺を連れてこようとしている。

「わかった、わかった」
 レンジャー本部の支給品である分厚い手袋を外して、ひどく取り乱しているリオルを撫でる。冷たい。どれだけの間この風雨にさらされていたのか。耳の下を撫でてやると少し吐息を漏らして、安心した様子ではあったがまだ俺の腕を引いて向こうを指している。この震えが寒さによるものだけではない、なにか差し迫った事情があることにはすぐに感づいた。

「大丈夫、すぐに助けに行く」
 本部に応援要請の信号を送った後、リオルを抱えて斜面を降りる。アブソルが藪を切り裂き、すぐに崩れ落ちた斜面が見えた。
 しかし雨が少しずつ強くなってきている。起伏の激しい南国の密林で生まれ育った俺ならこれぐらいの斜面は降りるに困らないが、どこにリオルをここまで心配させる原因が潜んでいるのかもわからないし、どこから再び崩落が始まらないとも限らない。

「ウツボット」
 レンジャーのボールは特殊で、万が一の状況を考え自動でも開閉するように設計されている。もちろんポケモンもそれにあわせて訓練されるので、俺の生来の相棒・ウツボットは難なくボールから飛び出してきた。

「ウツボット、つるのムチで俺を下まで下ろしてくれ」
 ウツボットは葉を振って答えると、ツタに俺の胴をしっかと絡めてゆっくりと降下させる。
 しばらく降りると、上からは死角になっている岩だなの影に、人とポケモンの一団が見えた。
 チルタリスと青年、しけって火の消えた薪、そしてどうやら手当てを施された後と思われる子供の影。そばに寄り添っているのはヒトカゲだろうか。向こうからリーフィアとビーダルとおぼしきポケモンが小枝を背負って駆け下りてくる。

「ポケモンレンジャーです! 大丈夫ですか!」

 声をかけると、健康的な体格の青年が笑顔で右手を上げてきた。どうやら、彼はここであのヒトカゲのトレーナーと思われる少年を救助して、リオルに助けを呼びに行かせたようだ。
 着地するとすぐ、リオルは青年にとびついた。

「彼が危険です」
 青年は言った。
「応急手当はしましたが、早いとこ病院に連れて行かないと」

 俺は頷いた。少年は適切な処置を受けてなんとか無事そうだが、傍目からも衰弱が激しいのがわかる。

「トロピウス!」
 ボールから飛び出したのは大柄なトロピウス。こいつなら問題なく遭難者を病院まで運んでくれるはずだ。
 少年の身体を鞍に固定して、俺は青年を振り向いた。あなたは、と聞くと集まってきた手持ちを差して口角を持ち上げる。チルタリスがばささ、と数度羽ばたいた。なんと頼もしい。

 しかし雨足は強まるばかり、暗雲には雷の気配も感じる。アブソルが崖の上で吼えている。
 はやく援軍が来てくれれば、それに越したことはないのだが。

 こんなことなら故郷を出てこっちへ研修へ来る前に、啖呵切って「俺にはウツボットがいるから大丈夫です!」なんて言わずちゃんと天気研究所でポワルンを受け取っておけば良かったなあと、少し思った。


 おわりんぐ



***

 だってアブソルが「まじ埋まってる人間救助しないとかお前人間じゃねぇ」って言うから。
 本当に申し訳ないです。


【もっと救助してもいいのよ】


  [No.851] Re: 【好き勝手救助しようとしたのよ】 投稿者:イケズキ   投稿日:2010/10/26(Tue) 21:23:15   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5


もしやこれはあの話を引いているんですか!?
僕はあの作品を読んでから、ポケモン小説を読みはじめたものでとても嬉しいです。

救助に奮闘するアブソルとか、ウツボット(進化してる!)とか出てきて始終興奮しっぱなしでした。

彼の新たなレンジャーとしての活躍が見れてよかったです。
ありがとうございました。


  [No.857] 見事な連携プレー 投稿者:砂糖水@携帯   投稿日:2010/10/27(Wed) 00:37:06   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

皆さん見事過ぎる連携プレーですね!

とりあえず、助かりそうでよかったです。
私だと多分、……なことになっちゃいますもん。

小説の中でも見事な連携で救助をしていてすごいです。
私も複数のキャラをきちんと書けるようになりたい…!



皆さんの連携プレーをにやにやしながら読んでいた人間がお送りしました。


  [No.859] どういうことなの…… 投稿者:兎翔   投稿日:2010/10/27(Wed) 04:02:56   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

朝起きたら、自分の思いつき書きなぐり小説の主人公が救助されていた。
びっくりしました。
それもお二人に…!
ありがとうございます!ありがとうございます!とりあえず助かってよかったなぁ主人公!これでヒトカゲや手持ち達を泣かせずに済むぞ!
これをハッピーエンドに持って行くのは主人公を窮地に追いやった私の役目でしょう。
一生懸命考えてきます!
取り急ぎ、お礼と感動の意を表明しに。クーウィさん、CoCoさん、そして救援信号を発信してくれた鳩さん(笑)、ありがとうございました!


【もっと救援してもいいのよ】


  [No.860] 増援だ、増援が来たぞ・・! 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/10/27(Wed) 14:56:17   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

一日経って見てみると、なんと増援の方が到着なされておった・・! 
CoCoさん、御助力の程、かたじけのう御座いますです。  ・・・レンジャーとは、まさに願っても得られないような人材ではないか・・! 

『適時の救援により、現地工作隊は勇気百倍。 
誓って当地を死守し、期を見て山積せし障害を排除、万難を排して今次作戦を完遂に導くよう、死力を尽くすものなり』

・・などと言うわけではありませんが・・・ 
良かったな、野良トレーナー。  この道の専門家の方がおいでたぞ!

アブソルどんは流石災いポケモン。  土砂崩れもきっちり守備範囲。
これなら、多分二次災害で全員抱き合い心中とか言う事態も無いでしょう・・・(笑)


これで何とかなる・・・筈だ、と思う。  ・・・しかし、手が増えたのを良いことに、「更にかき回してみたいかな」、と言う不純な思いも、何かしら頭をもたげて来ないでもない・・・(苦笑  爆)

重ね重ね、ありがとう御座いますです・・・



兎翔さんには、この度はどうもお騒がせ致しました・・・(汗)

正直書いていて、「このお話が『フランd(中略)の犬』見たいなお話だったら、どないしように・・・?」とか思ってましたので・・・
取りあえずは、今の所ストーリー崩壊を起こしてはいないような感触を頂いたので、ほっと胸を撫で下ろした次第です。

慣れもしない者が勝手に場をかき回してしまって、大変失礼致しましたね・・・  
お話自体は、ヒトカゲのけな気な思いが静かに滲み出ていて、とても好きなタイプの作品でした。


それでは・・この辺で、失礼致しますです・・・


  [No.862] あめが ふりつづいている 投稿者:CoCo   投稿日:2010/10/27(Wed) 19:18:17   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 

 兎翔さま、どうも好き勝手に申し訳ありません。
 とても自分好みのやわらかくせつない素敵な作品を書かれていたので、ほくほくしつつ本当はいつもどおり無言拍手で通り過ぎようとしていたのですが、通りがかりのトレーナーさんが救助に向かわれているのを見かけてしまって、するとそのあまりのクオリティにアブソルが(以下略)。
 クーウィ氏の研修中レンジャーなんか遥かに凌ぐ救助劇に水を差してしまったかと思っていたのですが……

【もっとかき乱してもいいと思うのよ】

 クーウィさま、華麗なる救助劇をありがとうございました。あの手際はぜひうちの研修生にも見習わせます。チルタリスしぼりたい。

 そしてイケズキさま、もしやそれは……。
 レンジャーと聞いて彼しか思い浮かばなかった結果であります。
 拙作を読んでいただいて、なおかつ……と嬉しい限りでございます。本当にありがとうございました。


【おうちに帰るまでが救助なのよ】




(サトチさんのお言葉から追記)
 つい思い込みで少年と書いてしまいました。女の子でしたら本当に申し訳ない、すぐに本文を直しますので。


  [No.865] すげえ! 投稿者:サトチ   《URL》   投稿日:2010/10/27(Wed) 20:47:03   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

救助に行きたいなあ・・・とか思ってるうちに、ぼんぼん救助が馳せ参じてるよ!(^^;)思わずバンバン拍手しちゃいました。
みんないい人ばっかりだなあ(笑)これなら遭難者は無事におうちに帰れそう。
[書いてみた]の思わぬ可能性をひしひしと感じました。そして皆様の神速恐るべし!

・・・それは置いといて、ワタシ遭難したのはなんとなく女の子だと理由もなく思い込んでいたので、
クーウィさんとこのシンオウトレーナー君は大胆にむいたなー(笑)と思っていたのですが、
CoCoさんとこのレンジャー氏が到着して少年と判明してあり?と思ったら、
確かに兎翔さんの作品にはどちらとも書いてなかった!(笑)

ええもん見せていただきました!


  [No.867] 【かき乱してみた】10,29話はそのままに修正  投稿者:てこ   投稿日:2010/10/28(Thu) 03:21:01   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 

 激しい雨が降り続いている。ここまで、急に天気が崩れるのは、いくら山だと言っても珍しい。この山はそれほど険しくはないが、天気によって山と言うのは豹変するものなのだ。遭難、土砂崩れ、落下――。雨は、足元を悪くし、視界を狭め、体温を奪う。
「何か起こるな」
 そんな胸騒ぎがした。とびきり悪い、何かが起こりそうな気がした。今夜、自分は眠れるだろうか。いや、今夜自分が生きている保障などないのだ。自ら危険な場所に赴く、そんなことが仕事なのだから。

 どこかで獣の吼える声がする。遠吠えとは違うその吼え方は、レンジャーの訓練を受けたポケモンだけが発する吼え方だ。深呼吸をして、耳を澄まし、雨の音の中から吼え声だけに全神経を集中させる。
 ――増援。

 やはり。傍らに居た相棒も険しい顔をしていた。うむ、頼むぞ。
「行こう、あの場所へ」
 相棒の左手をしっかりと握り締め、俺は目を閉じた。余計なことを考えると、普段からアレが下手な相棒の成功率がさらに下がってしまう。はやる気持ちを抑え、無心、無心と心の中で唱えた。内臓だけが浮くような気持ちの悪い心地。徐々に、意識が遠のき、ぷつんと切れた。

「大丈夫ですかって……ぅわーっ!!」

 気づくと、俺は2メートルほど藪の中をずり落ちていた。泥だらけである。相棒はちゃっかり地面のあるところに着地したらしい。泥だらけの俺を見て、両手を合わせて申し訳なさそうにしている。テレポートミスってごめん!みたいな。

 ……。

 ――――

「はぁはぁ……増援に参りました!――のポケモンレンジャーです!」

 「おう」と力強い言葉が返ってきた。一人は強そうなトレーナー、毛一人は同業者。そして、おそらく彼らの手持ちであろう逞しげなポケモン達がトロピウスの背中に乗せられた一人の少年を囲んでいる。少年に意識はなさそうだ。少年の身体に大量の出血や、大きな傷は見られなかったが、見えないところが余計に怖かった。小さな、ヒトカゲが彼の力なく下がった手を握り締めている。
 
「少年とヒトカゲが土砂崩れに巻き込まれました。ポケモンは無事ですが、少年の様態が危険です」

 アブソルを従えたレンジャーが言う。短い言葉だが、無駄がなく、不足した情報もない。目の前の二人はどちらも、本当に危険な状況を何度も切り抜けてきたような人たちなのだろう。互いのやり取りも、することにも、無駄がなく速く、正確だった。

 手袋をはずし、少年の身体に触れる。ふむ。体温が低い。意識レベルも低い。確かに危険だ。生死を彷徨うという状況ではないが、すぐに、病院で手当てを受けたほうがいいだろう。ついさっきまで大丈夫そうだった状況が一気に急変することだって、ありえないわけではないのだ。
 それに、また何かが起こらないとも限らない。今すぐにでも、この場所を離れた方がいい。
 だが、降り続く雨がそれを阻んでいる――わけか。雨は先ほどよりも、強くなっている。雲も黒い。雷雲である可能性が高い。下手に飛べば、少年もトロピウスも、命を落としかねない。
「なるほどねぇ……」
 だとすれば、少しでも時間に余裕をもたせるほかあるまい。
 俺の腰につけたモンスターボールから、一匹の小さなポケモンが飛び出した。魔女のような帽子の頭に、ひらひらとした紫の身体。ムウマージ。
 彼女は、ボールから出るやいなや俺を少しだけじっと見つめて力強く頷いた。自分のすることは、ボールに出る前から気づいていたのだろう。すまん。心の中で俺は謝った
 弱った少年の上に覆いかぶさるように俺のムウマージが擦りつく。そして、少年の身体と自分の身体を密着させるように、張り付いた。

「な、何を……?」
 リオルを連れたトレーナーがが不信そうに俺を見る。大丈夫ですと、小さく答えて俺は少年とムウマージを見ていた。ゆらりと、不思議な力が動く気配を感じる。徐々にムウマージの身体が光をおび、やがては少年をも包み込む。数秒程たって、ムウマージは少年から離れるとふらふらと俺のもとへ戻ってきた。俺は、頭を一撫でして、モンスターボールに戻した。ありがとう、おつかれさま。ゆっくり休んでくれ。

 少年の呼吸が、先ほどに比べて穏やかになったように感じる。身体も温かくはないが、冷たくもなくなっていた。これで、少しは時間が稼げるはずだ。

「様態が……何をされたのですか?」
「いたみわけですよ、いたみわけ」

 いたみわけは、自分の体力と相手の体力を同じにする技。つまり、ムウマージの体力が少年に分け与えられたということである。もっとも、この技を使うレンジャーは少ない。自分のポケモンを傷つける、犠牲にするようで嫌だと言われるし、俺は何て冷たい奴なんだと思われていることだろう。けれど、俺もムウマージもポケモンレンジャーの端くれとして、一生懸命に誰かを助けたい。そんな気持ちでやっているから、まあ、しょうがない。

 遠くの空は、白い。きっと、あと少しすれば雨が弱まるはずだ。いや、弱まってくれないと困る。この、黒雲が通り過ぎる、もしくは、少しでも雨が弱まるまで、少年がもってくれれば、大丈夫だろう。
「やっぱりポワルン……」
「気を抜くんじゃないぞ」
「り、了解です!」
 トレーナーもポケモンレンジャーも、今まで険しかった顔を少し緩ませ、同時にポケモンたちもほっとしたように、笑顔を見せた。何とか、最悪な状況は避けられそうだ。その場には、微かな安堵の空気が流れていた。その時だった。


 アブソルが急に立ち上がった。全身の毛を激しく逆立てて、赤い赤い目を大きく見開いて――

 ――まさか!

 アブソルは吼えた。救助を求める声ではない。それは恐ろしいほどに響く――災いを知らせる声。

「逃げろ!!」

 誰が言葉を発したのか、はたまた自分が発したのか。大木の折れる音がする。視界が斜めに揺れる。青年のレンジャーが何か叫んでいるらしいが、何も聞こえない。藪も木も地面も、下へ下へと、動き始めた。



――
何かかき乱してすみませんすみませんすみまえ(ry
ここでこそ、いたみわけだっ!とひらめき、救助してみました。

なんか、すみません!


10月29日 若干修正させていただきました
11,23 クーウィさんのトレーナーさんのこと、レンジャーさんと書いておりました。間違えちゃっててすみません……。


  [No.871] 立ち聞きしたのよ 投稿者:海星   投稿日:2010/10/28(Thu) 19:15:34   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

「……人間が3人……いや、4人。ひとり、小さくて消えそうな灯を持っているのね」
 長く紅い髪を潮風に揺らせて、彼女は呟いた。
 彼女が今立っているのは切立った崖の上で、海の音が良く響く場所。
 そして、切羽詰まった人間たちの声も真下で聞こえる。
「ああ、アブソルが予知している。やはり、これから何か来るのね……」
 彼女はふっと微笑んだ。
 そして、ふわりとしゃがみ込、足元で姿勢良く座っている艶めく紫色をした体毛の獣――エーフィに囁いた。
「私のことは考えないで。あなたの持つ能力でなら、あのアブソルを手助けできるでしょう。風が強いから、空気の流れをよむのは困難。だけど、あなたならできるはず……」
 それから、彼女は雲のように白いワンピースに風が入り込むのもかまわず、立ち上がり、エーフィを見た。
 ――彼女には何も見えていない。
 何故なら、その瞳には、もう何も映らないのだ。
 幼い時にとりつかれた病のせいで……。
 その代わり、彼女の聴力は異常な程に優れている。
 そして今も、彼女は鋭い風と波と土砂崩れの音の中、叫ぶ3人のレンジャーと苦しそうに呼吸をする1人の少年の存在を確認したのだ。
 エーフィが静かに鳴いた。
 彼女は、ゆっくりと頷いた。
「どうか、ひとつでも多くの命の灯を救ってあげて。何もできない私の代わりに」
 病の頃から共に闘ってきた彼女とエーフィは、心を通じ合わせることができた。
 エーフィは、彼女の足にすり寄り、それから少し名残惜しそうに振り返りながら、崖を身軽に下って行った。
 それを耳で感じ遂げると、彼女はゆっくりと歩き出す。
 エーフィが嵐の予感がすると告げていた、草むらへ向かって。
 もしかしたら、そこには、昔聞いたことのある、激しい雷雨を巻き起こす伝説のポケモンがいるかもしれない……そう考えて。



――――


 昨晩、救助に行こうと決心し眠りについたのですが、今になってみてみるとレンジャーが3人もいたので、流石にもうレンジャーは止めとこかな、と。
 とりあえずエーフィ派遣しました。
 少年よ、もちこたえてくれ……。


  [No.875] 【勝手に増援を出してみた】(微修正) 投稿者:サトチ   《URL》   投稿日:2010/10/28(Thu) 22:19:29   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 行方不明と報じられていた少年が発見されたという情報が入り、一度はほっとした空気が流れていたものの、
救助に向かったレンジャーからの連絡が途絶えたという知らせにセンター内は騒然となった。

「二重遭難か?!」
「すぐ救助に向かわないと……!!」
「ちょっと待て! 訓練されたレンジャーが巻き込まれるような状況だとしたら……!」

「あたし行きます!」
 口火を切ったのは一人の少女だった。
「行っても邪魔になっちゃうかもしれないけど、ここで待ってるだけじゃ絶対なにもできないもの!
草ポケモンだったら、大雨だって平気だし、きっと『つるのムチ』も役に立つ!」
 堰を切ったようにトレーナーたちが立ち上がる。
「俺も行くぜ! 鍛え上げたポケモンの見せ所だ!」
「ボクも行くよ! LV低いけど、『にほんばれ』覚えたポワルン連れてきたんだ!」
気勢の上がるトレーナーたちが、一斉に外へと駆け出し、ボールからポケモンを出す。

「おーい、トモコちゃんや! ウチのゴーリキーも手伝わせておくれ!」
老人が投げたモンスターボールを、ポケモンに乗った少女はしっかりと受け止める。
「ヤマノさん、ありがとう! さくらちゃん、お借りしまーす!!
  ……さあ、行くよ、ツボちゃん!!」


 これだけのトレーナーとポケモンがいれば、きっと大丈夫。みんな無事に戻ってくるだろう。……きっと。
 後に一人残った老人は、一斉に現場に向かうトレーナーとポケモンたち、そしていまだ安否のわからない
遭難者とレンジャーたちの無事を祈りながら、真っ暗な空を見上げたのだった。




山のように増援出しちゃいました(^^;)どっかで見たような名前の登場人物もいますけど(笑)同一人物とはカギラナイシー(^3^)
まあ、これだけ人数がいれば、必要なポケモン持ってるやつもいるでしょう。
救援出す人は、必要であれば使ってやってください。ちゃんと助けになるといいがなあ〜(^^;)


【こき使っても無視してもいいのよ】
10.29朝 人数増やしたり等微修正〜。


  [No.876] 暗雲の予兆【・・全然進まなかったのよ(爆)】 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/10/29(Fri) 13:18:20   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

突然降り注いでいた雨に横殴りの突風が加わって、鍋がこけた。

幸いこけた側には誰もおらず、熱湯で火傷したりする者はいなかったにせよ、大事な携帯食料をつぎ込んだ一品が舞台に立たずして玉砕したことに、彼の口からは思わず、罵り声が飛び出しそうになる。

「・・はぁ・・・」

が、しかし――唐突に脳裏を過ぎった亡き祖母の教えが、喉元まで出掛かっていた悪態を寸での所で押さえ込み、代わりに口からもれ出てきたのは、『よくある事』に対する、何時も通りの溜息だけだ。

『一人でいる時にも、軽々しく汚い言葉を使うものでは無い。  誰も聞いていなくとも、神様はちゃんと聞いていらっしゃるものだ。』――まだ彼が幼い頃、折に触れてぶー垂れる度に、当時まだ在命していた祖母は何時もどこからともなく現れて、彼にそう言い聞かせたものであった。
当時は、周りに人はいない筈だと思ってブツブツ文句を垂れていたのにもかかわらず、いつの間にか耳の不自由な筈の祖母に聞き付けられていた事に、何時も不思議な思いを抱いたものであった。
・・・まぁ今から考えてみれば、単純に老人性難聴の結果、低い声でブツブツと言っていた彼の言葉が、聞き取りやすかっただけの話なのだろうが。

しかしそれでも、今から考えればあの教えも、それなりに尊いものであった。
――現に悪態を吐いている様な状態と言うのは、往々にして興奮する余り、状況を冷静に判断できていないケースが圧倒的に多い。
この様な情勢下では、それは判断力の低下を招き、決断・決定の切れ味を、大いに鈍らせるのだ――
 
  
僅かな間にそう思い起こし、改めて気持ちを切り替えようとした彼ではあったが、しかし現実と言うヤツは、そう可愛い物では無い。
 
新たに生じた突風と言うヤツが、これまた予想外に強く、どんどん強くなる雨足と競合して、鍋を突き転がすに飽き足らず、続いて今の状況下では必須とも言うべき焚き火の火を、吹き消してしまったのである。  ・・・どうやらこの谷間は、ここら一帯の風の通り道になっているらしい。

低体温の患者がいる場面では、暖を取る焚き火はまさに命綱である。
すぐに彼は、救助者の周りで押し合い圧し合いしているポケモン達の中から、再びリーフィアとビーダルとを、薪集めに走らせた。  ・・・『百代の森』で修行を積んだリーフィアのコナムなら、この状況下でも乾いた枝を見つけ出して来るのに、それほど苦労はしないだろう。


と――そうこうしている内に、不意に技を収めて一休みさせていたルカリオのリムイが、崩れた崖の上に向けてハッと視線をめぐらせ、そのままかの方向をじっと睨み始めた。

それを受けて彼自身も、新たに現れた存在が何者であるか確認しようと、いつでも指示が飛ばせる状態で目を凝らす。  ・・・彼のチームの連中は、揃いも揃ってトンズラのスペシャリストだが、仮に現情勢で野生ポケモンの襲撃を受けたなら、救助者の安全確保の為にも、一当てで片付けなければならなかった。

しかし幸い、崩れた崖の上から姿を現せたのは、彼が使いにやったリオルを抱きかかえて崖を降下してくる、一人のトレーナーであった。

まだ若く、自分とそう歳も離れてはいないだろうそのトレーナーは、姿を現すや開口一番、嬉しい内容の言葉を口にする。

「ポケモンレンジャーです! 大丈夫ですか!」

望外の幸運である。
ポケモンレンジャーとはまさに、自然の中でポケモン達と共に生活し、環境の保全や一帯の安全の管理・取締りを任とする、この道の専門家である。
一時は彼も憧れた覚えのあるその職業者であれば、下手な通行人よりは遥かに頼りになるであろう。
相手の言葉に手を上げて応えつつ、青年は肩の荷が大いに軽くなるのを感じて、静かにほっと息を吐いた。

地に足が着くや泥だらけのびしょ濡れで、容赦なく彼の胸に飛び込んでくるリオルを受け止めてやりながら、その功を労って、背中を軽く叩いてやる。
――同時に背後からは、早くも薪を集め終えた二匹の手持ちが、急ぎ足に駆けて来た。

次いで彼は目の前の相手に向けて、救助者である若い人物の容態を、手短に伝えた。
頷く相手はすぐさま、ボールに手も触れずにただの一声で、大きな体格の草ポケモンを、一瞬でその場に呼び出す。

一瞬目を見張るも、レンジャー達が使用している特別仕様のモンスターボールのお陰だと聞いて、なるほどと納得する。  ・・・確かに、険しい場所に分け入る時に最も大切なことは、常に手の自由を確保しておくことだ。


――しかし、一時はこれで落着するかに思えたにもかかわらず、そうは問屋が卸さなかった。

間の悪いことに、丁度救助者をトロピウスの背中に括りつけ終わったところで、更に一段と雨足が強まり、風の勢いも激しさを増し始めたのだ。
  
トロピウスは大柄な体格で、積載重量には比較的余裕のあるポケモンだが、飛行方式自体は、多分に風任せなのである。  ・・・彼らは羽ばたいて飛翔するのではなく、草ポケモンならではの繊細な感覚を上手く用い、風に乗って空を舞うのだ。
よってこれでは、空に飛び出した所で、まともに姿勢をコントロール出来るとはとても思えなかった。  ・・・元よりこの風雨では、ピジョットやカイリュークラスのポケモンで無いと、まともに飛べるものではなかっただろうが。

一瞬彼は、自らの手持ちで何とか補助出来はしないかと考えたが、それもすぐに諦める。  ・・・現状況では、彼の飛行要員であるチルタリスは、ほぼ戦力外であった。
チルタリスのフィーは、シンオウリーグでも十二分に力を発揮したツワモノであったが、何分今は綿のようなその翼に大量の雨水を吸っており、満足に飛べるような状態ではなかった。
・・・元より、ここに降りた時も降下飛行だったから何とかなった訳であって、こんな大雨の中飛びながら技を繰り出したり、人を乗せて高く上昇することなど、幾らレベルの高い彼女と言えども、無理な相談であった。

ルカリオのリムイとリオルのラックルも、実は空を飛べない訳ではなかったが・・・所詮はコピー技に頼った、一時的な仮の飛行能力。  ・・・正直ネタにはなろうものの、翼も無い彼らが空に浮いた所で、実用性なぞは欠片ほどもありはしない。
後は、電磁浮遊が使えるぐらい。
 
仕方無しに彼らは、トロピウスを離陸させる事を諦めて、救助者を再び岩陰に戻そうと、申し訳無さそうに項垂れるトロピウスを慰めながら、その背中に向けて手を伸ばした。


――しかし、何故こうも急に、雨足や風の勢いが変動するのであろうか・・・?
青年自身も、幼い頃から新奥の厳しい自然環境の中で、野生児さながらに駆け回って来た経験があったが、ここまで急激に天候が変化し続けるような事は、嘗て無かった事である。

疑問に思う彼の脳裏に、この辺りの地方に伝わっていると言うある神々の伝承が、チラリと過ぎる。
『雷神・風神伝説』と呼ばれるその伝承によれば、この地方には昔から、雷雨を司るポケモンと突風を意のままにするポケモンの兄弟が棲んでおり、時折両者が出会う度に、激しい雨風を伴う何とも傍迷惑な兄弟喧嘩が、勃発するのだと言う。
・・・そう言えば、遠くに見えていた雷雲がこちらに近付いてくるに従って、吹きすさぶ風も、どんどん強烈になって行っているような気もする。

・・・まぁしかし、それはあくまで伝説の範疇であった。
少なくとも彼はそう片付けることにしたし、それが余所者である彼の思考の限界でもあった。  



――そう、その時点では。

崖の上に陣取ったレンジャー氏のアブソルが、吉兆か凶兆か、上空の暗雲に向けて、力強く咆えた。
  
 
 
 
 
―――――


・・・取りあえず、第3のレンジャーさんがいらっしゃるまでの前の辺りを、こもごもに書き連ねてみた。
全然進まなくて御免なさい・・・ それに何より、駆けつけて来てくれた方々を出せずに御免なさい・・・(爆)

応援してくださるみなさん、新たに救いの手を差し伸べてくださったてこさん、海星さん、サトチさん、本当にありがとう御座います。

相次ぐ救援の到着と参戦に、まさに心強い限り・・!
最早コイツも土砂に流されて、救助される方に回っても良い気がしてきた!(笑)


エスパー・ゴースト使いのレンジャーさんに、盲目の娘さんと相棒のエーフィ。
それに荒天にもかかわらず険しい山道を踏破して参戦してくれつつある有志の方々に、心より感謝です・・・

ツボちゃんとさくらちゃん来た!  何が来ようともこれで勝つる!!(笑)


・・では!  失礼致しました・・・

【埋めちゃって構わないのよ】
【どんどん救援しちゃってください】
【お好きになさって頂いて構いませんのよ】


PS. 【むくのは不味かったからフェザーダンスなのよ】


  [No.884] 近づく危険 【勝手に応援に来たのよ】 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/10/29(Fri) 23:08:21   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 強い雨。

 気象レーダーに映された黒い影は、ある時刻までは雲らしく動いていたが、山間のある位置まで来て急に止まった。
 まるで、そこで立ち止まらねばならない、何かがあるかのように。

 強い雨風が支配する空を、原色鮮やかな始祖鳥が飛んでいた。
 その背には、肩にバチュルを乗せ、黒い髪に赤いメッシュを入れた女性を乗せている。
 女性は目を閉じて、先程までテレビで見ていた天気図と、この辺りの地理を、まぶたの裏で重ね合わせていた。

 その目を開く。
 雨で視界は煙り、土砂崩れで地形が多少変わっていたが、目指す場所はそれと判別がついた。
「ロー、あそこだ。降下してくれ」
 始祖鳥はケェーッと威勢よく鳴くと、彼女の指差す先へ、墜落に近い速度で、勢い良く降りていった。


 激しく岩にぶつかる音がして、始祖鳥が着地した。
 ことによれば二次災害が起こりそうな激しさだが、彼女は気にしない主義らしい。
「ありがとう。今は戻ってくれ」
 水に弱いアーケオスのローをボールに戻し、周囲を確認する。
 テレビの言う通り、あちこちの斜面が崩れ落ち、茶色の土砂や木の根がさらけ出されていた。
 四十五度より急な山肌が、軒並み崩れたのではないかと思われる惨状。
 今立っている足場も、いつ崩れるや分からない。

 ……などど悠長に辺りを見回していたら、足場が流れ始めたではないか。
 すぐ隣に存在していた巨木が折れ、茶色い流れが彼女を押し流す方向に動き始めた。

 それでも彼女は眉一つ動かさず、
「やれやれ、ってとこだな」
 さっきボールに戻したばかりのローを出そうとして、
「おや」

 この雨の中、軽々と地を跳ね、駆ける、一匹のポケモンを見た。
 紫の体毛、大きな耳に、二又に分かれた尻尾。

 エーフィと呼ばれるポケモンはひらりと土砂崩れの中に身を踊らせた。
 倒れ始めた巨木を、エスパーの力で弾き飛ばす。
 そして岩石の陰の部分に飛び込むと、そこで虹色に光をばら撒く壁を展開した。

 展開されたリフレクターは、土色の脅威をその場に押しとどめた。
 元はポケモンの物理技の威力を半減させる技だが、こんな使い方もできるのか。
 女性が感心している間に、少しずつ、リフレクターが押されていく。

 やはり半減では辛いか、と呟いて、女性は手で弄んでいたボールのスイッチを押し込んだ。
「もう一度頼む、ロー。地ならししてくれ」
 再び姿を現した原色の鳥が、雨を振り払うように大きく羽を打ち振るい、リフレクターと土砂崩れが押し合うその渦中に飛びこんだ。
 青と黄の翼を広げ、茶色の流れを押し戻すように動かし、その次の瞬間、体を大の字に広げて、流れる土砂をを地面に押し込めた。
 アーケオスの体が触れた部分とその周辺の土の動きが止まる。
 安心するのも束の間、次の土砂崩れがアーケオスに向かって流れ落ちてくる。

 猫又がローの前に飛び出した。額の紅い宝玉が光り、淡い壁を作り出す。
 ローは空に飛び上がると、壁の前に飛び出して土を左右に散らし、地ならしを繰り出す。

 何度か繰り返すうちに、流れる土砂がなくなったらしい。
 土砂崩れの勢いが削がれてきた。
 エーフィが身を翻し、岩陰へ走っていった。
 ローは安心したのか、大きく息をついた。

「今のうちに休んでおけ、ロー」
 女性がかざしたボールに安堵の目を向けると、アーケオスは小さな光となって彼女の手元に戻った。

 水に弱い岩タイプのポケモンと言えど、雨が降るたびに死にかけるわけではない。
 とはいえ、強まる一方の異常な大雨の中で長時間活動するのは体に障る。

 この後に一戦控えているのだ。できるだけ良好なコンディションで挑みたい。
 どのようにバトルを組み立てるにしろ、その戦いではアーケオスのローの動きが鍵を握る。
 この地方に伝わる、大雨と大風、雷を呼び、作物を荒らすと言われるポケモン。
 どうしても、何としても倒したい。


 自分勝手な理由ではあった。
 相棒のゾロアの母親が、密猟者に奪われた。
 密猟者は山を越えて逃げた。
 彼らの起こした大雨で、山を越える唯一の道が崩れた。
 彼女は密猟者を逃がし、相棒の母の行方は未だ分からない。

 本当はただ、自分が愚かだったせいだ。
 警察だから、悪いやつはやっつけるというのも表向きの大義名分に過ぎない。
 それでも、自分勝手は百も承知で、彼女は風神、雷神と呼ばれる彼らに挑むつもりだった。


 ローの隣のボールがビクリと揺れて、中から紅いたてがみを持つ二足の獣人が出現した。
 獣人は自分もやると言うように、紅い爪のついた手を胸に当てた。

「いいけど、無茶はするなよ。スー」

 相棒のゾロアークはコクリと頷き、先程ローがならした地面へと飛び降りた。
 続いて、彼女も地面へと降りる。

「あ、……あなたは?」
 着地と同時に、後ろから声をかけられた。
 エーフィが走り回っていたから誰かいるのだろう、とは薄々感づいていた。
 ただ、いざ後ろを向いてみると、血の気のない少年を含め四人の人間がいたものだから、少しだけ驚いた。
 ポケモンも、どれが誰のポケモンかよく分からないが、多くいる。

 偶然居合わせたのか、助けに来て遭難したのか、彼女の知るところではなかったし、興味もなかった。

「遭難したんじゃ……ないですよね?」
 そう尋ねてきた若いレンジャーに短く否定の言葉を返す。
「日本晴れを使えるポケモンとか持って」
「いないよ」
 もうひとりの、ウツボットを連れたレンジャーにそう答えながら、彼女はトロピウスの背に乗せられた少年をじっと見ていた。

 離れた位置からでは詳しい容態は分からないが、少年が喜ばしくない状況にあるのは分かる。
 一刻も早く、病院へ連れていかねばなるまい。
 しかし、トロピウスも、若い青年の傍に控えるチルタリスも、この雨風の中で十分な飛行能力を得られるポケモンではない。
 飛ぶのより走る方が得意な彼女のアーケオスもまた然り。


 やっぱり、倒すしか無い。
 この嵐の元凶を。


 彼女はレンジャーたちに背を向けると、ローとスー以外の三つのボールを投げた。
 それを見たレンジャーの少年が「何をする気ですか」と彼女に声をかけた。

「野暮用だ。この雨を降らす奴らに用があってな」
「風神と雷神か」
 寒さを堪えているのか、彼女の行動は馬鹿げていると言いたいのか、低い声で言ったのはチルタリスを従えた青年だった。
 レベルの高そうなチルタリスだ、と思う。

「……さあな。私が遭難しても、助けに来なくていいぞ、レンジャー」
 そう言って、雨の中へ一歩進む。

 スーが雨を透かして一点を見つめている。
 危険を感じているのだろう、アブソルが吠え声を上げる。
 先のエーフィも立ち上がって、忍び寄る気配に細かな毛を震わせていた。


「さて、と」
 彼女はポケモンを呼び寄せた。
 その場に膝をついて、比較的小さな彼女のポケモンたちに目線を合わせる。
 自分の心を落ち着けるように、ポケモンたちを順番に撫でた。

「少し、状況が変わった。
 風神と雷神が来たら、全力で攻撃して、気を引いて。ここから引き離してくれ」
 四本の長く白い毛をもつ灰鼠が、小さく跳ねて敬礼のポーズを取った。
 つられるように、頭に花を掲げた少女のようなポケモンは胸に手を当て、薄紫のオコジョは片手を上げた。
 ありがとう、と言って立ち上がる。
 この場から引き離すことで、少しでも雨が弱まれば。
 目が合うと、相棒が大丈夫だと笑って頷いた。


 彼女は黙って、一歩進む。
 岩陰からは一歩離れ、雨はさらに冷たさを増す。

 急速に体が凍えていく。
 滝のように落ちる水で、辺りは暗く、閉ざされたように感じた。
 近くにいるはずのポケモンたちの温もりさえ、遠く感じる。
 けれど、まだだ。
 まだ、倒れるわけにはいかない。

 肩に乗せたバチュルが、フィフィフィ……と細い笛に似た音を立てた。
 危険が、もうそこまで迫っている。




【書いちゃったのよ】
【もっと救援に来ていいのよ】

てこさんパートを読んで、どうしても救助に行きたくなりました。
なのに、全然助けてくれなさそうな人でごめんなさい。
もし風神雷神さまとあうことがあれば、彼女をこき使ってやってください。
あと、サトチさんの救援を出せなくてごめんなさい。

海星さんの派遣したエーフィをお借りしました。
これで、土砂崩れは大丈夫なはず……!

【また土砂災害起こしてもいいのよ】
【バチュルかわいいのよ】

(11/3追記)
レンジャーさんたちを当然のようにお借りしてます。
そして伸びていくスレにドキドキ……
こっそり、彼女が美人に書かれてて嬉しいのよ、と言っておきます。


  [No.885] おまえらときたら… 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/10/29(Fri) 23:42:16   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

> そ、そうだ!
> だれか〔書いてみた〕で救出するんだ!(待

なぁんてうっかり書いたのが10月26日。
まさかこんなことになろうとは。

【うまいこといった暁にはアーカイヴ掲載で、大丈夫か?】


  [No.892] すべてはその一言から 投稿者:兎翔   投稿日:2010/10/31(Sun) 07:16:27   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

毎日伸びていくスレに驚きが隠せない当事者です。

もし鳩さんがその一言をコメントして下さっていなかったら、きっとこんなことにはなっていなかったでしょうね(笑)
書いてみたの書き手様含め、本当にありがとうございます!

まさか私も書いたときにはこんなことになろうとは思ってもみませんでした。
毎日のように馳せ参じてくれる救助隊の皆様を、すごくワクワクしながら読ませていただいてますw

これは是非私も何かストーリーに参加を……。
いずれ、書き手の方お一人ずつ返信をさせていただきますね。

とりあえず、私は
【大丈夫だ、問題ない】
【一番いいアーカイヴを頼む】
→私の意見だけじゃなく、書き手様方の意見もお聞きしたいです。

【もっとかき乱していいのよ】
【もっと救助してもいいのよ】


  [No.895] Re: おまえらときたら… 投稿者:こはる   投稿日:2010/10/31(Sun) 16:46:10   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

豪雨の日は読み手に徹するに限る精神発動なので、読み手に徹する。……つもりなのに、気づけば書いてしまう自分がいる。でも、載せないけどね。こんな楽しい流れを止めるなんてもったいないじゃないか!(←ハッピーエンドまっしぐら主義なので


> だれか〔書いてみた〕で救出するんだ!(待
> 【うまいこといった暁にはアーカイヴ掲載で、大丈夫か?】
 そう、すべてはこの一言から始まったのですよ。なので、できればしっかりとまとめていただきたい。
 と、読み手が言ってもよろしいですか?
【アーカイヴ賛成に一票なのよ】


  [No.891] 進まない【どろどろ】 投稿者:てこ   投稿日:2010/10/31(Sun) 02:21:47   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5


 崖が崩れはじめる。俺よりも上の方にいたフーディンが、足を取られ、転ぶのが見えた。
「だああぁぁぁっ!」
 渾身の力を振り絞りフーディンの体を受け止める。重いなぁぁぁ!!ちくしょううぅぅ!!この頭でっかちいぃぃ!足を泥に沈ませ、何とか転ばずに耐える。つもりだった。
 かかとがわに草か何かがまきつき、重心が一気に後ろに傾くのを感じた。視界が上へと向いた。空が見えた。
「うぐっ!」
 そのときだった。背中が弓なりに反る。人生で一番、背骨が反ったとか思った。その背骨の反った形のまま、俺の体は静止した。きうぅ。小さな声がした。俺の背中を後ろからぎゅうぎゅう押しているのは、いつの間に出てきていたムウマージだった。サイコキネシスの光が、ゆっくりと俺とフーディンを包み込む。指の先、足の先までが紫の光に包まれている。
 けれど、いつもより、弱い。普段の彼女ならもっと強い力を出せるはずだが、体力のない今、長くは持たない。
 時間はない。目の前には、フーディンの頭がある。――やるしかない。俺たちがどうなろうとも、これをやるほか、ない。大きく深呼吸をして、唾を飲み込む。フーディンの耳に届くよう、わずかに顔の向きを変え、俺は言った。
 
「フーディン……頼む!」


 ――黄金色に輝く二本のスプーンが、大きく折れ曲がった。


 土砂は崩れない。木も倒れない。その場所で止まってしまっている。否、止められている。時間が止まってしまったかのように、泥も木も動かない。
 突然の状況に戸惑っている彼らに俺は傾いた姿勢のまま叫んだ。フーディンのサイコキネシスの力で、土砂や木々の動きを止めている。
「行ってくれ!はやく、ここから逃げてくれ!」
 俺とムウマージがフーディンを支え続けなければ、あっという間に土砂は流れ出すだろう。だから、俺は逃げられない。
 ――フーディンの力が切れたら?
 考えたくもない。

 トレーナーは苦い顔をしていた。彼の隣で、彼のポケモンであるリオルが一生懸命に彼の手を引っ張っている。彼の拳が、白くなる見えるほどにきつく握り締められていた。彼のポケモン達も、同じ表情をしていた。けれど、すぐに彼らはずぐに身体を翻し、走って行った。 こういうとき、レンジャーはどうしなければならないか。彼はわかっている。レンジャーの鉄則。より多くを助けられる道を選べ。もし、俺が彼だったら、ああいうふうにできただろうか。ぐずぐずして、困らせそうな気がする。もし、そんな機会があったら俺もあの人のように振舞うようにしよう。――あれば、だけど。
 アブソルとリーフィアが道の先導をしている。まぶしい光を放つルカリオの波動弾が藪や木々を吹き飛ばす。
 
 地面が動きはじめる。

「もう少しだ、フーディン!」
 フーディンが苦しそうに唸る。いくら、強い超能力を持ったポケモンだとは言え、これだけ多くの物体を一度に操るのは簡単なことではない。だが――

 まだ近い。この土砂崩れの規模は分からないが、ひどい場合には広範囲にわたる場合もある。彼らを巻き込まぬよう、少しでも時間を稼がなければ。
 俺も全身に力を入れる。超能力はないけれど、やれることをやるしかないのだ。
「ムウマージ、フーディン!力の出し惜しみなぞするなよおぉ!もし、力が切れて土砂に飲み込まれたって必ず死ぬわけじゃないんやぞおぉ!!死ぬかもしれんが、そんなことは考えるな!!」
 体の筋肉が悲鳴を上げているような気がする。いや、サイコキネシスで支えられているはずなのだから、体に負担がかかるはずはないのだ。ムウマージの力が、弱く、なってきている。

 地面が滑る。パラパラと小さな小枝が顔に降りかかってくる。力を入れて無理やりに木の棒を折ったような、軋んだ音が耳に届く。そして、一気に、滑り落ち始めた――。


 もう、無事に逃げ終わったか――?


 泥が視界を覆い隠していく。フーディンにまわした腕に力をこめ、背中側に手をまわしてムウマージを抱き寄せる。体が浮いた。自分を支えるものは、もう一つもない。あとは、落下をしていくのみ――。

 あ――。

 一瞬ではあったが、何か輝くものが見えたのだ。それは光を纏った猫のような形をした、何か。未確認生物カーバンクルのような、額の赤が光っていた。そして、その後ろから古代の翼竜が流れ落ちる土砂をその身体に受け、勢いを止めた。そこまでしか、見えなかった。直後、体の右側に強い痛みを感じ、頭を打った。激しい頭痛が徐々に消えていくよう。そこで、意識が切れた。 


――――


 痛い。身体中が痛い。
「ん……?」
 痛い?
「痛いということは……つまり、俺は生きている!」
 腕の中のムウマージとフーディンが嬉しそうに微かに鳴く声が聞こえた。俺は二匹をぎゅっと抱きしめた。温かい。動いている。息をしている。俺達は、まだ、生きている。何だか目頭が熱くなって、頬に温かいものが零れた。嗚咽が、漏れる。死を覚悟はしているけれど、死ななくて良かった。本当に良かった。
 けれど、そう。まだ、仕事は終わっていない。喜ぶのは帰ってからにしないといけない。両手で、顔をこすり、涙を拭きとった。二、三度叩いて、気持ちを入れ替えてようやく体を起こした。体の上に降り積もった土や落ち葉が落ちる。全身、泥だらけ。腰のモンスターボールを確認する。きちんと三つある。そのうちの一つがぐらぐら揺れている。が出せない。こいつはあまりにも血の気が多すぎて、トラブルをよく起こしがち、すなわちトラブルメーカーである。だから、自分で出てこられないようなモンスターボールに入れてあった。まぁ、今でてきたいという気持ちは分からなくもないが、お前は駄目だ。
 ムウマージは抱きしめていたおかげでそこまで負傷はしなかったようだ。フーディンのほうは若干、傷が目立つが……まぁ、だいじょうぶだ。こいつなら。俺の身体も痛みはするが、骨折したり、大量出血はしていない。不幸中の幸い、か。
「フーディン、ムウマージ。緊急事態のアレ、頼む」
 合点承知之助だい!とばかりに、フーディンがスプーンを前にかざす。あれだけ、崖を転がり落ちたと言うのに、こいつはスプーンを手放さなかったのだ。見上げた根性である。ある意味。フーディンがじこさいせいをし、それにムウマージがぴったりとくっついていたみわけをする。そうすれば、ある程度までは体力を回復できる。

 俺はぼんやりと崖へと目を向けた。まだ、頭がぼうっとして記憶が曖昧だ。一つ、一つ、何が起きたかを思い出していく。
 そうだ、輝く猫のようなポケモン。あれはエーフィだ。恐らく、がけ崩れの被害を緩和してくれたのだろう。きっと、フーディンの力だけじゃ、俺たちは今生きていなかったと思う。土砂に埋もれて、死んでいたか、もしくはあの少年のようになっていたと思う。命の恩人、いや恩ポケモン。誰の、ポケモンだったのだろうか。

 ムウマージが俺の体にぴったりと張り付く。いたみわけ。
「ん……あと、あれ。なんだっけ。エーフィだけじゃなくて、えーっと……」

「――休んでおけ、ロー」
 古代の翼竜――アーケオロスが赤い光となって消えた。泥まみれの俺を一瞥もせず、前をすたすた歩いていったのは赤い女性だった。その女性の顔は一瞬しか、見えなかったが、どこか、危うさを感じた。その人が凶悪とか、怖いとかそんなんじゃない。冷淡な顔に、鋭い眼光、低い声。だが、その奥に重いものを秘めているような気がした。あふれ出してしまいそうなほど、重いものを必死に秘めているような、そんな危うさ――だった。

「大丈夫か!」
 レンジャー達が走ってくる。怪我はなさそうだ。少年も、無事なようである。
「大丈夫です!重傷ありません!」
 何とか立ち上がる。うん。フーディンとムウマージのおかげで、大分痛みが引いた。
「あの人は……?」
 青年のレンジャーが顔をしかめて、彼女を見る。
「あぁ、なんか助けてくれたみたい、です」

「あ……あなたは?」
 赤い彼女が振り向いた。風が巻き起こり、雷が近くに落ちた。木の葉が舞い上がり、彼女の赤い髪も舞う。
 そんな中、彼女は一切動かずに、ただ平然と直立していた――。





 
【続けていいのよ】
【むしろ、続けて欲しいのよ】


きとかげさんの彼女さんと、海星さんのエーフィお借りしました。イメージ違ったらごめんなさい。
救助隊は次号で!(すみません

みんな、救助頼んだ!

きとかげさんのアーケオロスをプテラと書いていました。化石=鳥=プテラ の考えはもう古いのかっ


  [No.896] 【とりあえず展開を進めようとしたのよ】 投稿者:海星   投稿日:2010/10/31(Sun) 17:16:44   39clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 娘は、生い茂る草むらの前で座り込んでいた。
 この――血生臭い殺気は、明らかにこの草むらの奥で発生している。
 力の無いただの盲目の女である自分を強く恨めしく思った。
 もしも、私の目が見えたら……力強い男であったら、力強い仲間が手元にいたら……。
 そんなことを今更思ったところで何も無いのはわかっている。
 しかし、娘はただ震える手を握り締め、見えない目で草むらを睨み付けるばかりだった。
 何度も勇気を奮いだして立ち上がろうとした、そして、何度も恐怖に打ち負けて再び座り込んだ。
 もう泣きそうだった……娘は、ここに来れば、災害の元凶を見れば、なんとかなると考えていたのだ。
 誰かが行かなければ、災害は酷くなるばかり。
 そう考えて飛び出してきたまでは良かったのだが。
 やはり、自分はそんな大事を成し遂げる器じゃない……娘は引き返そうかと思った。
 あの海辺の崖まで戻ってエーフィと合流し、家に帰ろうか。
 ここまで来たのに。
 そのときだった。
 不意に鋭い頭痛が娘に届いた。
 娘は涙を流さぬ為にぎゅっと強く閉じていた瞳を開けた。
 頭を手で押さえようとし、気付く。
 目の前の景色が違う。
 いや、目が見えている!
 目の前で、崖がぼろぼろと崩れ落ちていた。
 慌てて腕で身体を庇おうとする。
 しかし、瞬間的に薄い紫色の壁が土砂の前に現れ、押さえつける。
 これは……リフレクター。
 振り返ってエーフィを探す。
 しかし、後ろは真っ黒だった。
 ふと気付く……崖の景色は、まるで映像のように、映し出されている。
 目線からして、これは、もしかしたらエーフィの額の宝玉が見ている景色かもしれない。
 そして、エーフィは、エスパーの能力で私にそれを見せている……。
 娘は映像に見入った。
 リフレクターは固く強く土砂を押さえていたが、一枚の壁では無理がある。
 すぐに鈍い音がして、壁が消えかけた。
 その瞬間、地面が大きく揺れ、壁諸共土砂がならされた。
 もしも揺れていなかったら、エーフィは今頃土の中だっただろう。
 振り返ったように、画面が横にスライドする。
 そこには色鮮やかで目に眩しい原色の始祖鳥が飛んでいた。
 そしてその下、始祖鳥に指示を与えていたのは、黒髪に紅色のメッシュの、すらりと背の高い美女だった。
 女性は切れ長の瞳でちらりとエーフィを見ると、目を逸らし、そのまま始祖鳥にじならしを命じた。
 エーフィも察したようで、リフレクターを繰り返し、始祖鳥を降ってくる波からカバーしながら土砂をしずめる。
 ある程度静まったところで、女性は別の方向を向いた。
 そこでは、一人の大柄な男性が土砂にのみこまれそうになっていた。
 サイコキネシスだろう、淡い色のサイコパワーが男性を包み込み、辛うじて土砂から離している。
 良く見ると、男性は、濃い紫のゆらゆらした身体に紅い玉を散らせた妖獣――ムウマージに背中を押さえられており、立派な髭をこしらえ銀のスプーンを握り締めた黄色の超獣――フーディンを太い腕で支えていた。
 サイコキネシスはムウマージとフーディンが繰り出しているのだろう。
 しかし、サイコパワーは今にも弱々しく消えそうになっている。
 もしも今途切れたら……男性は仲間と共に土砂に巻き込まれ、もしかしたら還らぬ人となってしまうかもしれない。
 画面――エーフィは男性の近くに飛び出して、超能力を発揮した。
 咄嗟の判断だ。
 ギリギリのところで、エーフィのサイコキネシスは男性に届き、間に合った。
 零れ落ちてきた少しの土砂も共に、サイコキネシスはゆっくりと男性とその仲間を少しは安全な地に寝かせ、消えた。
 エーフィはそのままの勢いで、崩れかけた土砂に向き合い、リフレクターやサイコキネシスを放つ。
 女性の始祖鳥もじならしを繰り出して、どうにか、そこもおさまった。
 「――休んでおけ、ロー」
 静かに優しく女性がモンスターボールの閉開スイッチを押し、始祖鳥をもどす。
 目を覚ましたらしい男性と仲間の歓喜の声が近くで聞こえる。
 そして、その奥で、アブソルの悲鳴のような叫び声も……。
 女性の表情が瞬間的に引き締まる。
 エーフィは女性がどこかへ歩き出したのを確認し、軽調に駆け出した。
 視界に吠えるアブソルが入ってくる。
 まるで、怯えているように見えた。
 アブソルは災害を頭の鎌のような部分で予知といわれている。
 きっと、大きな災害をその身体で感じ――怯えているのだろう。
 エーフィはしなやかにアブソルの隣に飛び移ると、俯いた――画面の向きが若干下向きになる。
 神経を集中させているのだろう、空気から伝わってくる力を感じる。
 空気を必死になって読もうとしているのだ。
 命をどうにか落とさなかったあの男性に、若いレンジャーたちが駆け寄っている。
 女性が髪の毛を風に靡かせ、何かを決心したように前を見据えている。
 動き始めた未来、崩れ始めた未来。
 過去は変えられないが、未来は変えられる。
 エーフィの鼓動を感じられなくなり、映像がぷつりと消えた……。
 ……娘は覚悟していた。
 こんなにも多くの人たちが、協力し合い、命を危険にさらしてまで救助活動をしている。
 そして、私は、災害の源の一番傍にいる。
 エーフィさえも頑張っているというのに、帰ろうと一瞬でも考えた自分が恥ずかしい。
 娘は今度こそ力強く立ち上がり、手の平を強く握り締めると、草むらに足を踏み入れた。
 争いの悲鳴が耳に突き刺さってくる。
 恐怖が襲ってくる。
 だが、今災害を止められるのは私だけだ――。
 草むらが開けたのを、当たってくる空気の流れで感じた。
 ふっと風が止む。
 雨が止む。
 雷の音が聞こえなくなる。
 何かに凝視されているような嫌な感じが娘を取り巻く。
 これが、伝説の風神と雷神の威圧感。
 娘に、神々の争いを止める力など無かった。
 それは一番娘自身がわかっていた。
 今私にできること――娘は必死になった。
 風神と雷神の争いを止める神を呼ぶこともできない。
 ならば、神々を移動させるしかない!
 あの女性は神々を受け止める力と意志を持っていたように思う。
 だから――!
 娘は首から下げていたペンダントの先端にくっ付いていたモンスターボールを握り締め、鎖からはずすと宙に投げた。
 ぽん、と軽い音が頭上で響く。
 そしてそれと同時に威嚇するような叫び声も辺りを震わせた。
 「お願い、言うことをきいて、リザードン! あなたが私を認めていないのはわかってる、だけど今頼れるのはあなただけなの! 風神と雷神をエーフィのところまで弾き飛ばして! ドラゴンテールっ!!」
 リザードンの火の混じった熱い息の音がする。
 「お願い――」
 次の瞬間に巻き起こった突風に娘は飛ばされて、何かに頭を強く打ちつけた。
 あまりの痛さに意識の糸が切れそうになる。
 どうやら、この風はリザードンのものではないらしく、すぐ近くで、リザードンの苦しそうな鳴き声が聞こえた。
 何もなかったかのように、再び争いの音がし、激しい嵐が荒れ狂う。
 駄目だったのか、と娘が諦めたとき、突然熱風が巻き起こった。
 「リガァアア!!」
 奮い立たせるようなリザードンの叫び声。
 続いて、地面を震わせる攻撃。
 娘は地面に伏せて揺れがおさまるのを待った。
 あまりの恐怖に心臓が飛び出そうだった。
 やがて揺れが静かになり、辺りに静寂が戻った時……。
 雨は降っていなかった。
 雷は落ちていなかった。
 風は少しも吹いていなかった。
 そして、争いの声も聞こえなかった。
 「……!」
 信じられない。
 フゥ、とため息をつく音が隣でする。
 その、安堵と「どや!」感。
 娘はリザードンに思いっきり抱きついた。
 風神と雷神は弾き飛ばされ――アブソルの悲鳴が轟く海辺に急降下していった。



 ――――――――――

 まず、すいませんでしたぁああ!!
 なんか急展開にしてしまいましたorz
 あとはよろしくおねがいしますすいませんでした……。
 黒髪美人のおねえさんと始祖鳥をはじめ、たくさんのレンジャーさんやアブソルさんをお借り致しました。
 
 【とりあえず飛ばしてみたのよ】
 【ドラゴンテールでそこまで飛ばないとか言わないで欲しいのよ】
 【エーフィ扱使ってくださいなのよ】

 うん、後は任せたぜ!(待


  [No.920] 戦機は熟して 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/11/03(Wed) 15:30:52   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

増援――二人目のレンジャー隊員が現場に到着したのは、一人目の若い人物が現場に現れてから、幾らも経たない内にであった。
・・・どうやらこの地方のポケモンレンジャーと言うやつは、彼の故郷の同職達より更に優秀で、訓練も行き届いているらしい。

しかも彼は、現れ方こそ少々アレではあったものの、相当経験を積んだベテランであるらしく、到着するや否や少年に応急処置を施し、容態を安定状態にまで持っていくことに成功したのだ。
――流石は、プロの仕事である。

今まで殆どバトルの経験ばかり積んできた青年には、『痛み分け』にあのような活用法があろう事など、考えた事すらなかった。
まさにポケモンの技の活用法は、トレーナー次第で何処まででも広がるものである事を、彼は改めて認識させられた。

今や少年の頬は、ちゃんと血の通った生者のそれにますます近付いて来たし、呼吸の程も安定し、意識を取り戻す見込みすら見えて来ている。
そこで彼は、再び岩陰に薪を積み上げると、何とかもう一度焚き火を作ることが出来ないかと、吹き込んでくる雨粒を顔から拭いつつ、試行錯誤してみた。
そんな彼の隣では、ビーダルのルパーが器用な手つきで、せっせと雨水でアルミの小鍋を洗っている。  ・・・冷え切った体を手っ取り早く温めるには、やはり熱い汁物が一番である。

救助対象者の容態が安定した事への安心感から、彼と若いレンジャーは思わず頬を緩めて、それぞれの作業を続けながらも、軽く無駄口を叩き始める。
――何でも彼は、自分と同じく海の向こうの出身で、故郷の豊縁地方から遙々と、この地方まで研修に来ているらしい。

同じ海を越えて来た身の上でも、知り合いの人物が渡海したついでに、気楽な思いで金魚のフンを演じただけの彼にとっては、なんとも耳の痛い話であった。
何のかんのと理由を付け、未だに当ても無い根無し草の身分で通している青年には、まだまだ若いにもかかわらず、自らの夢に向かって一途に走る駆け出しレンジャー氏のその姿は、正視するのも戸惑われるほどに、純粋で眩しい。

しかしそんな中でも、件のベテランレンジャーは、一人神経を張り詰めたままで、気を緩めかけた両者に対して、鋭い声で注意を呼びかける。

そして、そんな彼の言葉と心配のほどは、遠からずして現実のものとなったのだ。
 
 
漸く小さな炎が生まれ出で、更に遠くの空に雲の切れ目を確認出来た、まさにその時――
突然蹲っていたアブソルが立ち上がって、天に向けて咆えた。
続いて間を置かずに、足元の地面が不気味に揺らぎ、目の前のガレ場の上部が溶けて流れるアイスか何かの様に、形を崩してずり落ち始める。

「えぃ、くそったれ・・!」

今度ばかりは思った言葉がそのまま、口をついて出た。  ・・・そして、罵り声を上げる暇も有らばこそ。
滑落し始めた土の塊は、そのまま最も崖際に位置していたベテランレンジャー氏と手持ちポケモンのフーディンに、まっしぐらに迫ってきた。

例え瞬時に状況を把握して反応したところで、到底手当てが間に合うタイミングではなかった。  ・・・そんな中彼に出来た事は、ルカリオのリムイにヒトカゲを託す事と、チルタリスのフィーに、トロピウスが救助者共々飛び立てるよう、『追い風』の支援を命じる事。
――それに、土砂崩れに巻き込まれた時にどのように体を動かせば良いかを、頭の隅で微かに、反芻する事ぐらいであった。 
 
 
だがしかし、どう見ても絶望的であったレンジャーとフーディンのコンビは、突然自らを襲ったこの突発的な災害に、見事なまでの反応を見せる。
倒れ掛かったフーディンをレンジャーが支えると、間髪を入れず腰のボールからムウマージが飛び出して、諸共に後ろにのめろうとしていた両者を、サイコキネシスで受け止める。
更に支えられたフーディン自体は、強烈なサイコキネシスで流れ出した土砂の波を単身食い止め、一時的にではあろうとも、この緊急事態を押さえ込み、時を稼ぐ態勢を確立してのけたのである。

目の前のその一連の出来事に、押し寄せる泥土の波を、如何にして乗り切るかにのみ考えが集中していた彼は、一瞬だけ息を詰めて、視線の先で人柱になっている、三者の姿を凝視した。
・・・今ならまだ、何か手を打てる筈だ。 彼の腰のボールには、まだ最後の一匹の手持ちポケモンが、出番を求めて待機している。  

けれども件のレンジャーが彼に向けて発したのは、助力を求める救援の叫びではなく、人命に責任を負っている、プロとしての指示であった。

「行ってくれ! はやく、ここから逃げてくれ!」

それを耳にした瞬間、彼は己の拳を反射的に握り締めて、そのまま食い入るような視線を、相手に向けて注ぎかける。
――己の生業に誇りを持っている者にのみ可能な、確固たる意志の表示。  ・・・この場に彼を置いていくことは、情に於いて決して、肯んじ得るものではない。

しかし、ここで情に流されてもたつく内に、全員が諸共に全滅してしまえば、彼のこのプロとしての行いが、全て無為に帰してしまう事になる。
――結局彼は、相手の必死な視線に背中を押されるようにして、理に従った。

身を翻して仲間達の方向へと取って返すと、既に行動に出ている若いレンジャーとウツボットに手を貸して、迅速に後退出来る退路を確保すべく、アブソルの先導に従って手持ちを動かす。
・・・背後では、自身と共に身を以って盾と為している手持ちポケモン達への、ベテランレンジャーの激励の叫びが、吹きすさぶ風と雷鳴を圧し、聞こえてくる。
見捨てることだけは忍びない――今は兎に角一刻も早く退路を確保し、彼らに救援の手を差し伸べられるよう、努力しなくてはならない。
 
 

――しかし、彼らにも限界はあった。  

遂に何とか避難経路を切り開き、全員が崩落の範囲外まで、達し終わった頃・・・振り返った彼と若いレンジャー隊員との目に、再び動き始めた泥土の流れが飛び込んでくる。

間に合わなかった――そんな思いが、奥底から湧き上がって来る怒りとなって、彼の心を満たす。
・・・ずっと各地を回って修行を重ねて来たと言うのに、こんな大事な時に何の手も打てなかった自分の無力さ加減が、腹立たしいほどに情けなかった。

だがその時、同じく唇を噛んでいた傍らの若者が、不意に声を上げた。
それに反応してハッと顔を上げた青年の目にも、流れ落ちる土砂が再び何かにつっかえた様に動きを止める様が、はっきりと映る。

「行ってみましょう・・!」

そう声をかけて来た豊縁出身のレンジャーに頷き返すと、彼らは急いで、元来た道を引き返す。

驚くべきことに、現場に戻った頃にはすっかり泥土の崩落が収まっており、静まり返った土くれの海は、何かに均されたが如く、平らに押し固められている。

「これは『地均し』・・・  あっ・・!」

信じられない光景に唖然とする彼の隣で、その有様から使われた技を的確に見て取った若いレンジャー隊員が、泥にまみれた件のレンジャー隊員とポケモン達を、やや下降した位置に見つけ出す。  ・・・その傍らには、また新しく一匹のエーフィが、二股の尻尾を風になぶらせ、額の宝石のような赤い輝きを稲光の中に煌かせながら、静かに佇んでいた。
エーフィの所属が誰のものであるかは分からないにせよ、あのポケモンがレンジャー隊員の命を救ったことは、確かな様である。
そして更に、その直後――突然彼らの目の前に、一人のトレーナーが、ポケモンと共に降って来た。

驚いて立ち止まる彼らに気付くと、その人物 ― ゾロアークを連れ、肩にパチュルを乗せた黒髪の女性トレーナーは、一瞬感情の揺らめきをその面上に走らせたものの、直ぐに元の冷徹な風貌を取り戻して、彼ら一行を静かに見回す。
傍らの若者の質問にも、素っ気無い返答を返すのみの彼女は、次いで泥だらけのベテランレンジャー隊員の元に走り寄り、介抱を始めた彼らに背を向けて、3匹のポケモンを解き放ちながら、自らの用件を簡潔に口にした。

「野暮用だ。 この雨を降らす奴らに用があってな。」

その言葉を聞いた途端、青年の脳裏に、先程思い浮かべた伝説の内容が、改めて蘇って来る。  ・・・同時にそれは、普段は彼の心の奥底に息を潜めているある感覚を、唐突なタイミングで目覚めさせていた。

「風神と雷神か」

突然低くなった彼の声音にも全く動じずに、彼女は背を向けたまま遠ざかりつつ、言葉を返した。

「・・・さあな。 私が遭難しても、助けに来なくていいぞ、レンジャー」

いずれもこの地方で初めて目にする事になった彼女の手持ちポケモン達は、みな一様にトレーナーである彼女に対して強い信頼感を持っているらしく、何処か超然としたその言動と共に、彼女の実力の程をはっきりと物語っている。

5匹のポケモンを引き連れて離れていくその背中を見つめながら、彼は遂に堪えきれず、ある決心をして、傍らで同じくその背中を見送っている二人のポケモンレンジャーに向け、用件を切り出す。

彼の郷里では、『神』もまた一個の命――天と地の間に生きる、兄弟の一人として扱われる。  ――よって、『神』は敬われる一方で、それに値する振る舞いをも、同時に求められる事となっていた。
だがしかし、今日この場で起きている『神』の振る舞いの程は、彼が幼少時より親しんで来たその価値観からは、大きくかけ離れているものだった。  ――彼の郷里ではそんな時、人間達はその怒りを鎮める為に祈るのではなく、憤りと反省を促す意味を込めて、強い調子で抗議する事を旨としていた。

・・・そう――つまりは、そう言う事だ。


「済みませんが、しばしこの場をお任せしても宜しいでしょうか?」

そう口にした彼に対し、両者は既に彼の目論見を悟っていたらしく、一瞬彼の方を見つめて口ごもったが、やがてどちらからとも無く頷いてくれた。

「任せてください! これでも俺だって、レンジャーの端くれですよ!  なぁ、ウツボット! アブソル!」

若者のその言葉に、手持ちのポケモン達も一様に力強い反応を示して、主人の決意を後押しする。

「こっちも大丈夫だ。 ・・・彼の意識が戻ったなら、ついでに加勢もさせて貰うさ。」

フーディンとムウマージに代わる代わる手当てを受けているベテラン隊員の方も、体調の回復もあってか余裕を持って、彼の願いを受け入れてくれた。
そしてその言葉を首肯するかのように、腰に付けているモンスターボールの一つが、ガタガタと揺れる。  ・・・どうやら、ここにも一匹、頼りになる暴れ者がいるようである。

彼は念の為、その場にルカリオとビーダル、それにチルタリスの三匹を残して行く事にすると、更に残りの手持ちの内の一匹であるリーフィアに、付近の斜面を補強することを命じる。
そんな彼に向け、泥だらけのベテラン隊員の方が、急に改まった口調になって、こう指摘する。

「さっきの女性(ひと)なんだが・・・ 助けは要らないとか言ってたけど、どうも見たところでは、体調が万全とは思えなかったんだ。  ・・・後を追うのなら、その辺も心得ておいて欲しい。」

「えぇ、分かってます。  ・・・そっちこそ助太刀は有難いですが、無理してまで追っかけて来ないで下さいよ?  ・・・命の恩人にもしもの事があったら、俺はこの地方に足向けて寝られなくなっちゃうんですから。 そんなのは、真っ平ご免ですよ。」

――流石は本職だ。 彼自身はルカリオに諭されたその事実を、この人物は既にあの時目にした後姿だけで、しっかりと見抜いている。
内心は舌を巻きながらも、敢えて彼は軽い調子で言葉を返して、相手の懸念と心配の程に対し、余裕を持って受け答えする。

「じゃ、後は宜しくお願いします。 ・・・どうせ加勢は断られるでしょうから、勢子としてでも使ってもらって来ますよ。  ちょっとばかりして片付いたら、またちゃんと戻って来ます。」

「約束はちゃんと守ってくれないと困るぞ?  これ以上あんな目に合わされるのは、俺達だってもう御免だからな。」

お決まりとも言える去り際の一言に、笑顔で答える泥だらけのベテラン隊員。
あんな出来事の後でも、すぐに気持ちを切り替え軽口を合わせて来た相手の態度に、彼は改めてレンジャーと言う職種に対し、強い敬意の念を抱いた。
・・・もし無事にこの事態を乗り切って、更に何時の日か、漂泊の生活に終止符を打つ決心が付いたなら――その時は自らもまた、この道に足を踏み入れられるよう、挑戦してみるのも悪くはないだろう。

――まぁしかし、無論それが何時になるかは、皆目分かったものではなかったが。


その一方で、指示を受けたリーフィアが動き出し、崖際や斜面に苗床となる『タネマシンガン』を撃ち込み始めると、救助者を背負ったトロピウスの側から離れようとしなかったヒトカゲが、不意にここに至って、青年の下へと歩み寄ってきた。
何事かとヒトカゲに視線を集める一同の前で、そのポケモンは真っ直ぐに彼を見つめて、三本指の小さな拳を握り締め、降り注ぐ雨を物ともせずに、よく響く声で鳴く。
――倒れた主人の背中を怯えた表情で揺すっていたその目が、今は自らが為すべき行いを見つけ、力強い決意に満ちている。

そんなヒトカゲと、共に付き添って駆けつけて来たリオルとを交互に見つめる内、ふと青年の剃り跡の濃い、浅黒く精悍な面上に、誇らしげな微笑が浮かぶ。

「お前も来るか。 ・・よし、なら存分に暴な!」

しゃがみ込んでヒトカゲの頭を軽く掴んで揺すぶってやると、彼はチラリと主人である少年の様子を確認してから、立ち上がった。  ・・・少年の容態は安定し、意識を取り戻すのも遠くはなさそうであったが、今のところはまだ、泥のような夢の世界から帰還してはいない。
目が覚めていれば、この頼もしい相棒の『名前(ニックネーム)』を、聞いて置きたい所であったが――今は残念ながら、それは叶わないようだ。
 
 
リオルとヒトカゲを引き連れ、彼が闇の中に溶け込んだ女性トレーナーの背中を追いかけて、出発した直後――突然背後の崖の方で、再び雷鳴と風の唸りが激しさを増し、アブソルが一際高々と、天に向けて咆えた。
傍らに位置していたエーフィは俯いて神経を集中し、待機していたルカリオが、何かの波導を感じているのか、崖の方へと気遣わしげな視線を向ける。

「お出ましか・・・」

そうポツリと呟いた彼の表情は、つい先刻までとは打って変わり、相手を求めて各地を流離い、自らを研ぎ澄ますべく僻地に分け入る、ポケモントレーナー本来のそれに立ち返っている。  ・・・元々周りからどう見られようと、例え異端視されて疎外されようとも、自分の考え方・スタイルを靡かせないのが、彼の選択した生き方だ。
稲光をよく光る眼に反射させ、風にはためいた上着の内側には、海の向こうで手に入れた、幾つかのバッジが垣間見える。
他人を忌避する訳でなく、かと言って合わせる訳でもない孤独な根無し草の動向は、その場その場の成り行きと、『狩人』としての天性の本能で決まる。

背後で見送ってくれるレンジャー達の生き様に憧れながらも、彼らの世界に素直に溶け込む事を拒むそれは、押さえ切れない闘争心と言う形で、常に彼の生き方を制限して来た。
――しかしそれは同時に、ここまでずっと彼の命とトレーナーとしての人生を支えてくれた、最良の守護神でもある。

「借りを返さないとな。 ・・・一発お見舞いしてやって――」

そう口にして、ニヤッと愉しそうに笑う彼に答えるように、腰に付けている最後のモンスターボールがガタリと動き、リオルとヒトカゲが前方に佇む三匹のポケモン達の影に向けて、勢い良く走り出し始めた。
 
 
 
 
 
 
―――――
 
 
長いしひたすら無理矢理気味な展開・・・  しかも止めに、全く進んでいない!!(爆)

とにかく、好き勝手やりたい放題に流してしまいました・・(汗) 
大勢の方々のキャラクターをお借りしましたが、果たして彼らのイメージを崩壊させていないかが、何処までも心配な今日この頃。  ・・・お叱りがあり次第修正いたしますので、突込み所があらばどうぞお願いします(汗)

特に兎翔さんのヒトカゲ君を連れ去ったことについては、今一際の謝罪の程を・・・  すまん、少年・・・瀕死にさせたりしないように気を付けさせる故、勘弁してけれ・・・(爆)

結論として、進展はしておりません・・!(爆)
この後に海星さんがお膳立てしてくれたバトルシーンが控えておりますが、どなたか勇士の方、どうぞ一筆!(オイ)

仮にやられちゃっても、個人的には後続のツボちゃんやさくらちゃん辺りが何とかしてくれると信じてますので、かなりお気楽な感じですね(笑)


では・・・取りあえずは、これにて逃げちゃいます――


【戦力に不足は無いのよ】

【煮るなり焼くなりお好きに為されたし】

【少年も起きて参加しちゃったらどうかなと思うのよ】


PS.アーカイブは皆さんの御意見にお任せしますです。  ・・・取りあえずは賛成票も投じられているので、自分もそちらに加担しまs(チキンめ・・・)


  [No.929] 雷神と戦ってみた 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/11/07(Sun) 04:49:36   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 一歩、二歩、アーケオスが均した地面から離れ、木々が折れ飛び、けもの道のようになった場所を進む。
 さっきのレンジャーたちの誰かが、道として切り開いたのだろうか。
 彼女は先の青年たちの顔を思い浮かべながら、有り難く使わせてもらうよ、と呟いた。
 風神雷神をあの場所から引き離すのに、使えるかもしれない。
 途中からは森に入ることになるだろうが、それも策のうちだ。

 そこまで考えて、彼女は雨で額に張り付いた髪をかき上げた。
 ……少し、調子が悪い。
 気のせいと思いたかったが、それは事実だった。
 伝説に謳われる風神と雷神。
 この機を逃せば、十中八九、次はない。
 怪我なんかで寝ている場合ではないのだ、と自分自身に喝を入れる。

 近くで雷が落ちた。風が乱れ、右から左から、不規則に吹いては彼女の体を揺らした。

 顔を上げ、ゾロアークの視線の先を探るが、人間である彼女には暗闇と雨以外何も見えない。

 不意に、雨の中に明かりが灯った。
 相棒のゾロアークの様子を窺うが、彼は明かりの方に興味を示していない。
 危険ではないらしい、と判断する間にその正体が知れた。

 彼女は顔をしかめた。
 さっき岩棚の所にいた青年が、何を思ったか、リオルとヒトカゲを連れて、ここに来ていたのだ。

 戻って、救助でも待ったらどうだ。彼女がそう口にする前に、青年が口を開いた。
「助太刀に来ました……と言っても貴女は断るでしょうが、俺も手伝わせてもらいますよ」
 青年が連れて来たリオルとヒトカゲが、彼女の足元まで来て、やる気満々だよという風に彼女を見上げた。

 青年は、どこか底の知れない瞳で彼女を見ていた。
 トレーナーとして、長い間修行してきたのだろう。
 隠そうとしても隠しきれない、彼の強さと闘いを求める心がその奥にあった。

 彼女には分かった。彼は、帰れと言っても絶対に帰らない。自分もそうだから他人のことをとやかく言えないが。
「勝手にしろ。ただし、技に巻き込まれて瀕死になろうが、知らないからな」
「じゃあ、勝手にしますよ」
 そう言って、不敵な笑みを浮かべる。
 青年の腰に付けられたモンスターボールが、カタカタ揺れた。
 彼の体全体から、一挙一投足から、彼の戦士としての技量、隙の無さが見えた。

 青年の、意味ありげな視線が自分に向けられているのを感じて、体の向きを変えた。
 無意識に鳩尾を庇っていた手を外した。
 治りかけた傷が、どうなっているか……だが、倒れるとしたら、奴らを負かした後だ。

 リオルとヒトカゲに手で戻るよう促すと、二匹は青年の近くへ寄っていった。
 その様子を見て、とりあえず邪魔になることはなさそうだと判断する。

 肩に乗せたバチュルが、細い笛に似た音を出し続けている。
 ゾロアークのスーが、視線を固定させて、低く唸っている。
 他のポケモンたちも、それぞれのやり方で、トレーナーの彼女に近づく危険を知らせていた。
 いつの間に現れたのか、先程土砂崩れを防いだエーフィが、雨の中、彼らを見上げていた。
 エーフィがひと声鳴くと、スーが応えるように鳴いた。

 スーが彼女のコートの裾を、軽く引っ張った。
 数メートル下がると、黒狐は肯定するように鳴いて、彼女の斜め前に回った。

 エーフィが彼らに背を向け、耳と尻尾を、ピンと立てた。
 リオルは静かにトレーナーの隣で待機し、ヒトカゲは自分を奮い立たせるように小さく鳴きながら、尻尾の炎を爆ぜさせた。

「……来るか」

 右手を上げ、バチュルの視界を遮ると、小さな電気蜘蛛はピタリと鳴くのを止めた。
 他のポケモンたちが、動作を止めて、彼女を見上げる。

「いつもやっている通りだ」
 息を吸う。雨が口の中に入り込む。
 ちょっと危ない奴を逮捕する時と同じだ、と言って笑う。

「スー、先導を頼む。グンとユンは陽動。ナンは、」
 灰鼠と紫オコジョが片手を上げる。
 彼女がドレディアに目を向けると、特性がマイペースの彼女は、気が早いのか呑気なのか、離れた場所で蝶の舞を踊っていた。
「……それでいい」


 雨と、風と、雷鳴。
 ひたすらにうるさいのに、妙に静かに感じた。
 音が消え、冷たさが消え、この時間がずっと続くのではないかと思われた、その時。


 時間が目に見えるなら、壊れて弾けた。


 頭を打ち割る大音響と、目が潰れそうな眩い一閃。
 何もかも白くなって、たったの数秒が引き伸ばされて、延々と白の景色を見ていた気がした。


 視界が戻り、雨風が場を支配する。
 さっきの閃光で大きさの狂った瞳孔はすぐには戻らないが、そこに何がいるかは、見ずとも分かる。

 風神と、雷神。

 ……危なかった。エーフィとゾロアークに言われて下がっていなかったら、さっきの白光が彼女の命を奪っていただろう。

 青年を押しのけて、前に出る。
「ここじゃ、また土砂崩れが起こったらフォローできない。まずはここから引き離す」
 ぎりぎり雨に消されない大きさの声で、青年に伝える。
 了解です、とこの状況にしては軽い調子で青年が答えた。


 雨の中で、二つの影が動いていた。

 ひとつは地面で、腕を支えに起き上がろうとしている姿。
 もうひとつは、地面に這いつくばる兄弟を嘲るように、中空を旋回していた。
 地面に落ちていた方が、体を起こし、宙に浮かび上がった。

 二つの影は、よく似た形をしていた。
 どこか人間に似ているが、雲を支えに空を飛び、一本の輪のような尻尾を持っている。
 互いが互いに、似ている。
 だから争うのだろうか。

 右手を半端にバチュルの前に持っていく。
 バチュルは彼女の意図を察したように、小さく鳴いた。

 紫を多分に含んだ虹色の光が、兄弟神の間を割くように飛ぶ。
 争いの邪魔をされた兄弟神が、光の出所を睨んだ。

 空気が変わった。
 気まぐれな雨が、風が、雷が、彼らの眷属であるというように、意志を持って彼女たちに敵対していた。
 
「風神と雷神だな」

 静かに発した彼女の声を、黙って聞いているのは、神の気まぐれか、憐れみか。

「お前たちがところ構わず暴風雨を撒き散らすせいで、迷惑してる」

 片方が、クックッと笑った。
 何がおかしいのか。

 彼女は静かに、人差し指を向ける。

「だから、成敗させてもらう」

 人間ごときが。そんな声が聞こえた気がした。
 怒りを含んだ空気が膨れ上がる。
 神が、雷鳴、豪風に似た雄叫びを上げた。



 彼らが攻撃の予備動作に入る前にさらに数歩下がり、三匹のポケモンの名を呼んだ。
 すべきことを弁えている三匹は、彼女が名前を呼び終わるより先に、攻撃を繰り出した。

 チラチーノが小さな手にエネルギーを込め、無数の岩を撃ち出す。
 ゾロアークが闇色の刃を撃ち、その行く末を見極めたコジョンドが風神との距離を一瞬で詰め、眉間に腕の体毛の一撃を加えた。

「下がれ、スー。グン、ロックブラスト。ユン、ストーンエッジ」
「ラックル、まねっこ」

 黒狐が大きく跳躍して切り開かれた道に降りた。
 数歩下がり、チラチーノたちを道の奥に少しずつ移動させる。
 青年のリオルが、コジョンドを真似てストーンエッジを撃ち出す。
 ヒトカゲとエーフィも、自分で技を選んで彼らに放つ。
 尖った岩と炎が飛び交い、大量の礫に全身を打ち据えられながら、なお風神雷神は泰然自若と笑っていた。

 雷神と風神は顔を歪めて笑うと、尾を光らせ始めた。
 神の力を見せてやろう。
 そう言いたげに雷神が雷鳴と、風神が豪風と同じ声を上げた。

 二体が輪のような尾をしならせ、弾いた――と同時に雷竜が天に昇り、弧を描いて地面への走路を選ぶと、道の後方で大口を開けた、竜のようなような竜巻に迷わず突っ込んだ。
 後方の道の部分でで爆発音が起こり、細かい砂が雨に混じってバラバラと降ってきた。
 ゾロアークの安全を確認しようと後ろを振り向くと、そこにはすり鉢状にえぐれ焦げた地面だけがあった。

 スーの姿が見えない。地面に倒れていなければ、あいつは無事だ。
 前に向き直ると、勝ち誇ったような笑みを浮かべる雷神と風神の姿があった。

 しかしなおも、ポケモンたちは負けじと攻撃を続けていた。
 彼女たちも足場を確認しながら、後ろに下がっていく。

 えぐれた地面の縁まで来て、彼女は足を止めた。
 場所ではない。音だ。
 雨の中を、こぉーん、と高い声が通ってくる。彼女のゾロアークは仕事をひとつ済ませたようだ。
 土砂崩れで消えているかと思ったが、目を付けていた天然のバトルフィールドはしっかり存在しているようだ。

 傍らの青年を肘でつついた。
「何ですか」と青年が答える。
 その横顔にふと安心感を覚えた気がして、慌ててそんなことはないと心の中で否定する。

「場所、変えるぞ」
「いいですけど、どこに?」
 こぉーん、と雨の中、かすかに聞こえる遠吠え。
 その音の方向を黙って指し示す。青年は静かに頷いた。
 ポケモンたちに陽動の指示を出そうと、口を聞く。

「グン、ユン、こっちに……」

 突然、鳩尾に鉛の大玉を入れられたような感覚に襲われ、喉も、声も、体の動きも機能しなくなった。
 倒れかけた彼女に、風神が強風を撃ち出す。
 技でも何でもないただ強いだけの風だが、彼女を吹き飛ばすには十分だった。

 棒のようになった彼女の体が、すり鉢状にえぐれた地面の底へ転落した。

 すり鉢の底に着いた彼女は、すぐさま痛みをおして立ち上がった。
 そして、状況が如何に悪いかを知った。

 豪雨で泥と変じた地面は、ただえぐれただけでなく、即席の蟻地獄の巣のように彼女の足を絡めとっていた。
 今の彼女では、ここから出られない。
 ボールからアーケオスを呼び出し、その背に乗る。
 色鮮やかな始祖鳥は、彼女を乗せるや否や、鳴き声を上げる間も惜しんで蟻地獄から駆け出した。

 ――青年がいる方向とは逆向きに。

「ロー、何やってる!?」

 不可解な動きをした始祖鳥に少しの間戸惑った彼女だが、後ろを向いてようやく事態を把握した。

 雷神が体に余るほどの雷を身にまとい、憤怒の形相で追ってきている。
 奴が、彼女と青年を引き離すよう動いたのだ。その上、道を塞ぐように暴風で出来た壁が出現していた。
 最初からこれが狙いだったのか。
 ポケモンのいないポケモントレーナーなど、魚の卵より簡単に潰せると踏んだのか。
 神の名を冠するとはいえ、一介の野生ポケモンが彼女だけをあの集団から引き離そうとした。高らかに成敗すると宣言した彼女を狙って……悪いことばかり考えても仕方ない。

「ロー、スーの声だ。あいつの声を追え!」

 飛ぶよりも走るのが速い始祖鳥は、僅かに余裕が出来たのか、クエッとひと声鳴いた。
 狐の声を頼りに、身を翻し、道から外れて脇の山林に飛び込む。
 雨でぬかるんだ地面を蹴り、風で倒れた木々を越えて、アーケオスはひたすらに走り続ける。
 後ろから、低い雷の音が聞こえる。
 至近距離で雷が落ちた。
 アーケオスに立ち止まって技を出す余裕など、ない。しかし。

 雷の音に消されそうなスーの鳴き声を拾いながら、彼女は人差し指を立てて、肩のバチュルの前で軽く振った。
 小さな蜘蛛は、心得た、と彼女の背中側に回り、技を繰り出した。

 パチパチ、と雷に比べると可愛らしいぐらいの電気を込めて、特別な糸で編んだ網を、追いかける雷神に向けて広げた。

 大きな唸り声を上げて、雷神が網に突っ込んだ。
 粘着力と電力両方を備えた糸を払いながら、なおも彼女を追いかけてくる。

 スーの声が、近い。

 木々をかき分け、彼女は相棒の示す場所へ、一目散に飛び出していった。
 森の中でそこだけ、自然に開けた広場となっていた。ポケモンバトルにはおあつらえ向きだ。

 合流を果たした彼女に、おかえりと言うようにゾロアークが鳴いた。
 ここまで駆け抜けた始祖鳥に、奥の山林に隠れるよう指示を出す。アーケオスはすぐさま木々の中に飛び込んだ。
 雷の音を聞きつけた化け狐は、指示を仰ぐまでもなく、彼女の姿を真似た。

 広場に、雷神が姿を現す。
 人間の女の姿を探していた雷神は、探す姿が二つに増殖して、面食らったと見えた。しかし、それから雷神が次の決断をするまでの間は短かった。

 雷神の考えとはつまり――二人いるなら、両方攻撃すればいい。

 さっきとは比べ物にならない程太い黄竜が、広場の中央を穿った。
 彼女とゾロアークは慌てて左右に分かれて飛び退く。
 雷の直撃は免れた。しかし、その余波で撒き散らされた電気は、人間の彼女には耐え難かった。
 体勢を崩し、その場に倒れ込んだ彼女の上に、追い打ちをかけるように雨が降ってきた。

「ガウゥッ!」

 ゾロアークが焦燥の声を上げた。
 自ら尻尾を出してしまった狐をギロリと睨みつけると、雷神は、地に転がって動けない彼女に、尾を突きつけた。
 今までに、見せつけるように地をえぐる雷撃を撃ち出した、その銃口の部分が、ピタリと彼女に向けられた。

 雷神の持つエネルギーが、肥大化していく。
 その全てを銃である輪っか状の尾に溜め、その先には彼女がいる。

 雷神が勝利を確信し、雷と同じ声を上げて笑った。
 エネルギーが尾の先に収束していく。
 尾の先が放電を始める。

 尻尾の先が下方に揺れ、いよいよだと彼女に突きつけられ、尾の先が眩く輝いた。


 と思うや否や、尾の輝きが消えていく。
 雷に変換されたのではない。
 尾に蓄えられていたはずのエネルギーが、どこかに消失したのだ。

 尾の先には、彼女と――雷神に取り付いたバチュル。

「フィィィッ!」

 笛のような音を上げて、雷神が尾を地面に打ち据えるより先に、バチュルが雷神から吸い取ったエネルギーを、元の持ち主へ打ち放った。
 かつて雷神のものであったそれは、今は雷神を襲うものとして、光を放った。

 尻尾が地面に当たり、小さな蜘蛛が跳ね返って飛んだ。
 再び雷神がエネルギーをチャージする。

「ロー、原始の力!」

 体の痺れを振り払って、叫ぶ。
 緑の中から原色の鳥が跳躍し、翼を振るって白い光体を打ち出した。
 白の発光体が、雷神に直撃した。ぐう、と雷神が唸った。効いている! コジョンドたちの攻撃が、ここまで来て功を成した。
 始祖鳥はすかさず、第二、第三の原始の力を撃つ。
 負けじ、と雷神が雷を放つ。
 初撃を避けたローだったが、二撃目は避け切れず、右の翼を麻痺させた。
 バチュルが飛び出し、弱気になりかけたローにすかさず胃液を使った。
 気を取り直したローは地を駆けながら、残った左の翼を打ち振って原始の力を使う。
 雷神の放つ雷が、地面に焦げ跡を作っていく。
 太い光の柱のような雷撃の間を潜り抜け、地を駆ける始祖鳥は確実に雷神の体力を削っていた。

 焦れた雷神は咆哮を上げると、鳩尾を庇い、未だ立ち上がれない彼女に向かって突き進んだ。

 アーケオスが彼女と雷神の間に立った。
 繰り出された雷撃がアーケオスを直撃した。
 雨に打たれ、雷に打たれ、それでも倒れない始祖鳥を見て、雷神が口角を上げ、尾に溢れるほどのエネルギーを充填した。

「ロー、撃ち落せ!」

 漆黒の尖った岩が、雷神が背にした山林から、銃弾のように飛び出した。
 岩が背骨の中央をしたたかに突いたのに耐えきれず、雷神が高度を下げる。

 雷神の目の前にいた鳥が、ニヤリと笑った。
 輪郭が歪み、元の姿を現す。
 騙し合いを楽しむそれは、化け狐のもの。
 ゾロアークは残った力を振り絞り、雷神に向けて草結びを発動した。急成長した蔦が、雷神の尾に絡みつき、離陸を阻む。

「今だ。ロー、地ならし!」

 始祖鳥は、雷神と至近距離にいる彼女を困惑の眼差しで見た。
 しかし、このチャンスを逃すことは出来ない。
 黒狐が彼女を守るように抱きしめると、ローに向けて叱咤するように鳴いた。

 ローが不満げに鳴き、両の翼を地面に叩きつけた。

 大地に叩きつけられたエネルギーが、衝撃となって地に接するもの全てを襲った。

 彼女を守るように立っていた黒狐が、苦悶の声を上げる。
 腹の古傷を強く、何度も強く殴られたような衝撃が走った。
 意識を手放すまいと、黒狐の腕を探り、強く握りしめた。

 そしてそれは、地に伏した雷神とて例外なく襲った。
 地面の衝撃が収まり、真っ赤な目で狐と、その向こうにいる彼女を睨みつける雷神は、轟雷の声を三度上げ、いざ飛び立たんとした。

「フィ、フィッ!」

 突然の、高い声。
 見れば、上空に、一本の糸を頼りに風に遊ばれる、黄蜘蛛の姿があった。
 バルーニング。通常は旅立ちのために使われるその手段で、黄蜘蛛は空に飛び、地ならしを逃れたのだ。
 黄蜘蛛は風に吹かれるまま、雷神に向けて多量の糸を吐いた。
 空で幾何学的多角形を描いたそれは、雷神に被さると、雷神の体を地に縛り付けた。

 蜘蛛の糸で白い団子状になった雷神に、バチュルはさらにもうひと山ほどの糸を吐いた。
 糸の奥から、雷神の怒声が聞こえる。
 雷神は雷を使うだろうが、電気蜘蛛一族の網は、電気ごときで焼け溶ける代物ではない。

 バチュルは勝ち鬨を上げると、始祖鳥と共にトレーナーの元へ駆け寄った。
 彼女はゾロアークにもたれかかっていた。
 小さな蜘蛛は彼女の名前を呼ぶように何度も鳴いた。
 始祖鳥はそんな蜘蛛の様子を見て、申し訳なさそうに項垂れた。

「大丈夫。……大丈夫だ」
 何とか声に出し、意識を繋ぎ止める。
 雨はまだ降り続いていた。



〜〜〜

ここぞとばかりバトルシーンに挑戦してみたきとかげです。
クーウィさんとこのトレーナーさんとラックルくんと、兎翔さんとこのヒトカゲくんと、海星さんとこのエーフィさんをお借りしました。
でもなんか、活躍できてなくて申し訳ない。だって皆さんいたら容易く倒せちゃうから、とまあ言い訳です。

風神は……任せた!

【風神誰か懲らしめてなのよ】
【っていうか遭難寸前でごめんなさい】

あと、
【アーカイブ賛成なのよ】

この場を借りて。
ちょっと曲者な彼女を使ってくださってありがとうございます。なんか、美人になって帰ってきました。
てこさんへ。
むしろイメージ通りです。 ありがとうございます!

海星さんへ。
>  黒髪美人のおねえさん
 美 人 だ と !

クーウィさんへ
加勢! 百人力なのですよ!


  [No.957] 風神に飛ばされてみた(オイ……) 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/11/12(Fri) 04:00:46   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

一瞬の隙を突かれたと言って良かった。


ポケモン達へ指示を下す際の言動から、どうやら警官のようであるらしいと、察しが付いた女性。 
その女性トレーナーより、彼が陽動開始の指示を受け終わった、その直後――突然雷神と風神が、見事なチームワークで彼女の体を吹き飛ばし、『雷』と『竜巻』が穿った大穴の中へと、落とし込んだのである。

しかも、雷神の方が間髪を入れず女性トレーナーの方へと追撃を試みたのに対し、風神の方は『追い風』によって雷神を送り出した後、強烈な『暴風』を繰り出して進路を塞ぎ、彼女と青年達との横の連絡を、完全に断ち切ってしまったのだ。
……女性トレーナーは何とか立ち直ると共にアーケオスを繰り出して、雷神に死命を制される事だけは避けられたものの、手持ちポケモンの半数と切り離されてしまった彼女が、非常に『不味い』状況にあるのだけは、疑いようが無かった。

「くそっ…!」

一言だけ小さく悪態を吐くも、青年はすぐに目線を戻して、今や自らの一身に課せられる事になってしまった当面の課題と、真っ直ぐに向き合う。  ……視線の先では、不敵な笑みを浮かべた風神が『追い風』に乗りつつ、自らの獲物となるべき人間とポケモン達の一群を、自信たっぷりに見下ろしている。


――状況は、お世辞にも良いとは言えない。

彼らは確かに頭数には不足は無いものの、彼女の残りの手持ちである三匹は、突如として指揮官を失って動揺を隠せない有様だし、彼が連れている三匹の方も、ヒトカゲは今同行し始めたばかりで持ち技すら定かではなく、残りの二匹はこの地方に来てから相前後して手持ちに加わった新米であり、新奥で活躍した主力はみんな、救助現場に置いて来てしまっていた。
元々彼は、女性トレーナーの『獲物』を横取りするような真似は頭から考えておらず、純然たる勢子働き―獲物を討ち手が仕留めやすい位置まで追い立てる、サポート役に徹する心算で、ここに足を運んで来ていたのである。  ……つまりは完全に彼女の戦力を当てにしていた訳で、自力で神と呼ばれるほどの相手と雌雄を決するだけの戦力は、持ち合わせていなかった。

一言で言えば、彼らはただの烏合の衆―単なる寄せ集めの集団に過ぎなかったのである。

そんな彼らを前に、風神はまるで、逃げるのは今の内だぞとでも言うかのように、余裕の表情で風の刃を生み出した。  ……瞬く間に彼らの人数の倍以上の数に達した『エアカッター』は、そのまままるで無力な相手を追い立てるかのように、そこ等中に向けて解き放たれる。
全員が慌てて逃げ惑う中、風神は更に猛烈な突風を吹き荒れさせて、その場にいた全員を、激しく煽り立てた。

難を逃れるべく、素早く木陰に飛び込んだ青年の目の前で、懸命に付いて来ていたヒトカゲの小さな体が、風にあおられて宙に浮く。 
間一髪のところで、リオルのラックルがその小さな手を捉まえると、そのまま痩せた体に似合わない腕力で引っ張り寄せ、自分の背中にヒトカゲを背負い込んだ。
咄嗟の処置を青年が褒めるまでも無く、それを当然の反応と心得ている小さな波紋ポケモンは、続いて隣の木の陰に飛び込んだ後、新しく出来た友達を背負ったままの状態で主人の方に顔を向け、頼もしげな笑みを浮かべる。

そんな不敵な表情を目の当たりにさせられれば、不肖なりとは言え主人としては当然、答えてやるより他にない。 
リオルとヒトカゲに向けてニヤリと笑い返してやると、気を取り直した青年はゆっくりと腰のボールに手をやって、中のポケモンに指示を伝えるべく、素早く二本の指で数回表面を叩いて、合図を送る。

彼が隠れ場所を飛び出して、腰のボールの開閉スイッチを操作するのと、ヒトカゲを背負ったリオルが疾風の如く駆け出して、片手を空に向けて掲げたのは、ほぼ同時であった。 


三者が隠れ場所から飛び出して来た丁度その時、風神は主人と分断されて孤軍となった三匹を追い詰めて、止めを刺そうとしている最中であった。

――幾らレベルが高くとも、コジョンドとドレディアは飛行タイプとはすこぶる相性が悪く、残る一匹のチラチーノにしても、独力で伝説クラスのポケモンと渡り合えるほどに、強力な技を持ち合わせている訳ではない。
常にはトレーナーが連携を組み立て、指示を与えて彼らの力を最大限に引き出しているのだが、今はその優れた指揮官もおらず、互いの連携は的確さを欠き、チグハグに動くばかりで、決定打を与えられるチャンスを作り出せないでいた。
三匹は果敢に技を繰り出すが、『追い風』で機動力の上がっている風神は軽快に身をかわして『ストーンエッジ』を避け、『ロックブラスト』をすかす。 ……『蝶の舞』で威力の上がっている『花びらの舞』も、常に逆風の状態であるならば、相手に届きさえせず、ただ吹き散らされるばかり。

やがてPPが尽き、岩を飛ばせなくなった二匹のポケモンを、『蝶の舞』によって防御力の上がったドレディアが庇うようにして、何とか持ち堪えていたところ――急に仕上げとなる大技を暖めていた風神の注意が、後ろに逸れた。
次いで勢い良く振り返った風神は、折角追い詰めた三匹に対して止めも刺さずに、新たに目に付いたターゲットに向けて、真一文字に突っ込んでいく。
――その視線の先には、片手を空に向けて高々と挙げて、ヒトカゲを背負ったまま不敵な表情で佇んでいる、リオルの姿があった。

相手の注意を『この指止まれ』で惹き付けたラックルは、無事に三匹から風神の矛先(ターゲット)を引き継いだ事を確認するや否や、くるりと向きを変えて、脱兎の如く逃げ出した。
――20キロを超える体重を支え、一晩で幾つもの山谷を越える事の出来るリオルの足腰は、短時間であるならば、背中に6キロほどのヒトカゲが乗っかったところで、ビクともするものではない。

リオルが時間を稼いでいる間に、青年は素早く三匹の元へと駆け寄ると、予め用意していた木の実を、彼らに対して投げ渡す。  ……宙を飛んで彼らの元に届いたのは、PPを回復する効果のある、『ヒメリの実』だ。

「好きにしてくれ。 こっちの味方に当たらなきゃ、何をしてくれても構わない。」

与える指示は簡潔無比。  ……元々ポケモン達に対して、細かい指示を飛ばして行動させるのは彼の主義では無いし、それが今回の様に他人の手持ちポケモンであったのならば、尚更の事である。

人が知識を駆使して作戦を立てるのと同様、ポケモン達は生まれもって携えている本能によって、己が為すべき事柄とそのタイミングとを、的確に読み取る事が出来るものだ。  
――基本的な戦略や戦術は自らが組み立てるも、行動すべき秋(とき)は、各々の判断によって決定させる。  ……それが、彼が常に自らの手持ちポケモン達に課している、行動の原則だった。 

次いで彼は、拍子抜けするような指示に呆気に取られている三匹はそのままに、自らの腰にあるボールを取り外して、ぽいと放り投げた。
中から出てきたポケモンには、先刻既に、指示を出し終えている。  ……解き放たれて直ぐに、自らに与えられた指令を的確に実行し始めた最後の一匹を尻目に、彼はじっと動かず、リオルが消えて行った林の奥を見つめる。    

真剣な表情で立ち尽くすその隣に、先程の『エアカッター』を壁技で凌いだエーフィがゆっくりと近付いてくると、目を閉じて意識を集中し、逃げ回っている二匹のポケモンと、離れて戦っているであろう女性トレーナーの様子を感じ取ろうと、静かに身を振るわせ始めた。
 
 

木々を縫うようにして全速で走るラックルを、これまた全力で追いすがっている風神は、なかなか捕まえる事が出来なかった。
小柄なリオルは、ヒトカゲを背負ってはいるものの尚まだ小さく、風神が通れないような狭い隙間を巧みに選び、茂みを潜り木の幹を蹴って、予測もつかない軌道を描く。
対する風神は空中から追いかけているものの、密生した木々は飛行している追跡者側にすこぶる不利であり、しかも今まで自らの動きをサポートしていた『追い風』は、狭い場所ではスピードが出過ぎて小回りが利かず、ともすれば立ち木に激突するような事態を、招きかねない有様であった。
風の力で纏めて薙ぎ払おうにも、密生する草木の抵抗力はまさに天然の要害そのものであり、放たれた『エアスラッシュ』や『エアカッター』と言った技は、全く以って相手の背中に届く気配は無い。

余りに思う様に任せない追跡に苛立って、猛り狂う風神が少しでも精密な機動を確保する為、自らを後押ししていた『追い風』を解除した途端、今度はリオルの背中に位置するヒトカゲが、後ろに向けて『煙幕』を放った。
本来なら未然に吹き払ってくれる『追い風』のサポートが無いところに、ただでさえ機敏な反応が求められる木立の中で、視界を遮られてしまったから堪らない。
あっという間に立ち木に激突し、顔を樹皮にくっ付けたまま動きを止めた風神を尻目に、リオルのラックルは素早く反転すると、足取り軽く傍らをすり抜けて、元来た道を引き返す。  ……波導を感じ取る能力を持つ彼には、濃密な『煙幕』による視界の不良も、全く苦にはならない。

漸く立ち直った風神が、赫怒して走り抜けて行ったリオルを追いかける頃には、既に身軽な波紋ポケモンは、己の仲間達と合流していた。
 


無事に飛び込んだ茂みから戻って来たリオルの姿に、迎えた青年は会心の笑みを浮かべた。
――そんな彼の背後には、残っていた最後のボールに入っていたポケモンが、これまた活躍の時を待ち焦がれているかのように、うずうずしながら出番を待っている。

青年の背後に立っているのは、戻って来たリオルそっくりそのままな姿の、特徴的な顔をした波紋ポケモンであった。
ヒトカゲを背負って戻って来たラックルと違う点は、まるで子供の悪戯書きのように縦線と横線で構成された、単純な形状の両の目と口。  ……残念ながらまだ彼は、表情まで完璧に相手を模(かたど)るまでには、経験を積めてはいなかった。

「良くやった、お前達。  ……さーて、じゃあ戻ったばかりで悪いが、早速歓迎の準備に掛かってくれ。 配置はラックル達は東の茂み、ガロは道を挟んで反対側だ。  ……お客さんには、彼らが心を込めて御馳走してくれるだろうから、お前らも心置きなく舞って見せてやれ。」

彼のそんな指示に対し、二匹のリオルが同時にコクリと頷くと、それぞれが指示された場所へと、素早く身を伏せる。 
既にチラチーノら三匹も、新たに指示を下している臨時の指揮官に従う意思を示しており、馳走云々と彼が口にした時には、意向返しが出来る瞬間を待ちかねているかのように、思い思いの反応を見せる。
次いで彼は、残ったエーフィに対してもそっと手を差し伸べると、雨に濡れた柔らかい毛並みを乱さぬようにそっと背を撫で、声をかける。

「お前さんには、全体のサポートに当たって貰いたい。  ……守備が出来る要員は貴重だから、期待させて貰うぞ?」

微笑んだ彼に対し、猫叉は柔らかい声で鳴くと、直ぐに近くの茂みの方へと歩み寄って、他のポケモン達に習って身を隠す。

そして――やがてそれから幾らも経たない内に、彼らの客人である怒り狂った風の神が、生い茂った木々の間から、張り巡らされた罠の中へと、勢い良く踊り込んで来た。
 
 
 
飛び出して来た風の神に最初に技を仕掛けたのは、予め最も近い位置に伏せていた、ドレディアのナンであった。

憤怒の形相で茂みを飛び出し、手当たり次第に攻撃せんものと、既に技の準備を整えていた風神に対し、ドレディアは出てきたばかりのそれにおっ被せる様に、各種の『粉』を撒き散らした。
様々な状態異常をもたらす花粉が、木立を抜ける為に『追い風』を解除していた無防備な風神を包み込み、大技を解き放とうとしていたその出鼻を挫いて、最初の一撃(ファースト・インパクト)を未然に防ぐ。
次いで、同じく周辺に待機していたチラチーノのグンとコジョンドのユンが攻撃を開始し、花粉の攻勢に体勢を崩した風神の体を、岩石の礫で滅多打ちにする。  ……既に動揺から立ち直っている彼らの攻撃は、レベル通りの破壊力を持って、風神の体に幾つもの傷や打撲を作り出す。

怒りと苦痛の唸り声を上げた風神は、すぐさま自らを襲っている花粉の霧を吹き飛ばすべく、自らの尾を弾くようにして、『追い風』を繰り出した。
――『追い風』は、自らのスピードを大幅に高めるフィールド変化技。 これさえ発動させてしまえば、『粉』や『煙幕』のような類の技は完全にシャットアウト出来る上に、劇的に高まった機動力によって、戦況は圧倒的に優位になる。

……だがしかし――事態の推移は、風神の思惑とは、全く反対の方向へと進んでいく。 

風神が『追い風』を使って、周囲を取り巻く三匹に向け、降りかかる粉を吹き戻そうとしたその刹那、突然横合いから現れたエーフィが、『神秘の守り』でその場のポケモン達一同を、状態異常の危険から解放する。 そして更に、別の茂みから顔を覗かせた二匹のリオルが、風神が『追い風』発動させるや否や、同時に『まねっこ』を繰り出したのだ。
これによって、その場のポケモン達全員の機動力は著しく上昇し、風神側のアドバンテージは、全く無に帰した。  ……しかも、もし風神側が『追い風』を中断したり、何か大技を仕掛ける為に一時的に風の勢いを弱めたりしようものなら、立ち所にスピードの上がっている周囲のポケモン達から、滅多打ちにされる事になるだろう、というオマケ付きである。

『追い風』の利点を解消され、大技と言う牙を抜かれた風神を更に苦境に追い込んだのは、それから直ぐに二匹のリオルが使い始めた、延滞戦術であった。
小癪なポケモン達の連携に、怒り心頭に達した風の神は、こうなったら一匹ずつでもと、手近にいたドレディアに向け、『エアスラッシュ』を放とうとしたのだが……いざ技を繰り出す直前となって、不意に彼の体は本人の意思とは無関係に別の方向を振り向き、狙っていた花人に攻撃を仕掛ける事が、どうしても叶わない。

その向き直らされた視線の先では、先程彼を立ち木に正面から激突させた、あのヒトカゲを背負ったリオルが、片手を天に向けて差し上げて、不敵な面構えで此方を見つめていた。
好き放題にやられた上に、今また再び、神である自分の行いを邪魔する小童――  沸きあがってきた新たな憤怒に、風神は自らの身を打つ岩礫の存在も忘れて、遮二無二小さな波紋ポケモンの方へと、突き進み始める。

――だが、執拗に攻撃を受けつつも、漸く逃げ回るリオルに追いついて、いざ一撃を叩き込もうと、身構えた瞬間――またしても彼の体は、唐突に別の方角を振り向かされる。 
今度はヒトカゲを背負っていない方のリオルが、馬鹿にしたような間の抜けた表情で、片手を高々と差し上げ、余裕の表情で取り澄ましていた。
向きを変えさせられた彼の背中に、先程まで追い回していたリオルが『まねっこ』で放った『ストーンエッジ』が、次々と食い込んで来る中――風神に出来た事は、ただ新しく出現したターゲットに向けて、真一文字に突っ込んで行く事だけであった。
 

青年の取った戦術は、単純極まりないものであった。
正面から相手と戦える戦力を持ち合わせていない彼は、それならばと自らの最も勝っている点を、相手に向けて押し付ける事に決めたのである。
――その最も勝っている点とは、『数』であった。

個々の戦力から言えば、彼らの集団は全くと言って良いほど、神たる風神には敵わない。
相手の火力、耐久力、攻撃範囲、突破力と、どれを取っても青年側のポケモン達とは桁違いであり、更に『天候』と言う本来なら中立であってしかるべき要素までが、相手側の味方と来ているのだから、普通に総力を挙げて正面からぶつかった所で、勝ち目なぞはある筈が無かった。

だがしかし――如何に能力が高かろうとも、所詮相手となるポケモンの数は、一体こっ切りである。
攻撃範囲が広く、火力も高いのは厄介だったが、攻撃基点自体は一つ切りであり、それさえ無力化し続けていれば、此方に損害が及ぶような事態を、完全にシャットアウトする事が出来るのだ。
――ならば、後はそれが可能なところに、相手を落とし込んでやれば良いだけの話である。

単体攻撃技のみであるなら、リオルを二匹にして『この指止まれ』でリレーしてやれば、何の問題もなく完封出来る。
突破力を抑制するには、相手のアドバンテージである天候やフィールド変化効果を、ある程度まで打ち消してやればよい。
後は広範囲に影響が及ぶ大技であるが、そういった技は大体少なからず『溜め』の要素が必要であるので、それを許さない状況を作り出せれば完璧であった。

そして今、己の誇れる力を頼みに猛進して来た風の神は、彼が思い描いたとおりの渦の中に、完全に嵌まり込んでしまっていた。
……仮に相手が、自らの力に驕る事無く、もう少し用心深く行動していたならば、こうも簡単に泥沼に落とし込まれるような事は、決して無かったであろう。
あるいは、同じ姿を持った兄弟と力を合わせて戦っていた場合でも、同様である。

如何に能力が高かろうとも、その勝れるところを無力化されてしまえば、立ち所にその優位性は崩れ去る―― 各地を廻って様々な経験を積んできた青年には、力に恵まれた強大な神には思いも至らぬその道理が、良く理解出来ていた。
――力で劣る小さな者達の存在を顧みず、我にのみ従って縁(えにし)を分けた兄弟で争い、己の力に依って立って驕り高ぶった結末が、この事態であった。


翻弄される風神の体力は、更に時間が経過するに連れ、確実に――そして、急激に消耗していった。

『ロックブラスト』も『ストーンエッジ』もタイプ上の弱点である上に、エーフィにしても二匹のリオルにしても、自らの役割が空いている時には、決して手を拱いてはいなかった。
やがて十分にダメージが蓄積し、風神の動きが目に見えて鈍って来たのを見て取った青年は、そろそろこの戦いを終わりにするべく、最後の一撃の準備に取り掛かった。

腰のボールを手に取ると、リオルの内の一匹に向けて差し向けて、合図と共に手元に戻す。
漸く鼬の走るように縦横に閃きつつ舞っていた、素早っこい舞い手達の陽動合戦から解放された風神が、傷だらけで力無く漂いつつ、彼の方を振り向く。

そんな軽くグロッキーになりかかった風の神に向け、青年は真剣な表情で真っ直ぐに視線を向けつつ、声高に呼び掛けた。  ……一応降伏勧告だけは、形式的にでもしておく心算である。

「我は北西の果て、新奥は双葉の地に生を受けし者なり。 彼の地より海を越えて来たりし謡い人が末裔が、汝この地方を統べし風の神に問う。 我等が望み、汝に選択を求めし事柄は、次の二つなり。  一つには、我等が願いの程を聞き入れ、今後この様な諍いを収めて穏やかに振舞うと誓い、この風雨を天に返してこの場を去るか。 もしくは、このまま我等と矛を交えて決着をつけ、以って力によって、己が運命を定めるか。  我ら汝自らに、その選択を委ねん――」  

……正直、我ながら陳腐な呼び掛けだなと内心苦笑しながらも、青年は故郷で祖父に教えられた仕来たり通りに、目の前のポケモンに向け、真面目な表情で言葉を紡ぐ。
一応彼の祖父の先祖達は、『神』が過ちを犯した時には、反省を促して強く抗議した後に、「かくあるべし」と語りかけた――と、言うのだが……残念ながら彼には、こんな儀礼的な言葉や説得ぐらいで目の前のポケモンが行いを改めようとは、とても思えなかった。
大体この相手を見る限り、彼の故郷で実際に『神』と呼ばれている幾匹かのポケモン達とは、性質も性格の程も、まるで違っているのだから――


案の定、彼の御大層な勧告を聞き終えるや否や、既に消耗し切っていたように見えた風神は、まるで「生意気千万」とでも言うかのように再び唸り声を上げて、輪になった尻尾を鋭く弾き、新たに戦う意思を示し始めた。  ……それと同時に風の唸りや雨脚の方も、弱まるどころか尚一層に、その激しさを増すばかり。
――やはりこの手の連中は、祖父の血を引いた格式張った説得よりも、あの女性警官の方式に則り、大分前に始終対峙させられた宇宙人モドキ達と同様、すっぱりド突き倒してしまった方が、手っ取り早いようである。

新たに戦闘態勢に入った風神に対して、エーフィが素早く『サイコキネシス』を繰り出し、その動きの程を、強引に封じ込めようとする。
念力の波に捕まり、風神の動きが止まった所に、女性警官の手持ちポケモンである三匹が、手控えていた攻撃を再開して、風の神に対して引導を渡そうと試みる。

それに対して風神の方は、最早一気に勝負をかける魂胆であるらしく、重なる打撃にも直接の反撃はせずに、自らの持てる破壊力を最大限に引き出すべく、その特徴的な尻尾に、刻一刻とエネルギーを蓄えていく。
――光り輝く尻尾に凝縮されたエネルギーが解き放たれた時が、恐らくこの場に集っている青年達の、タイムリミットとなるであろう。

無論それを理解している青年の方には、それを待つような心算は毛頭無い。

彼はすぐさま、ボールに戻したポケモンをもう一度その場に解き放つと、中から現れた紫色のポケモンに、『変身』する対象を指し示す。
即座に形を変え始めるメタモンをそのままに、彼は次いで、この対決でフィニッシュワークを受け持つべき立場のポケモンに向け、力強い声で指示を飛ばした。
此方に顔を向け、今か今かと指示を待ち焦がれているヒトカゲに対し、彼はニヤリと笑い掛けてから、こう叫ぶ。

「出番だぞチビ助! 一発、思いっきりお見舞いしてやれ!」

それを聞き、待ってましたと言わんばかりの表情で、ヒトカゲが大きく頷いた。
次いで彼は、思いっきり息を吸い込んだ後、キッと宙に浮く風神を睨み付けると、尻尾の炎を激しく燃え上がらせながら、紅蓮の『火炎放射』を、真っ直ぐ相手に向けて吹き付ける。
――程なくしてそのオレンジ色の火炎の帯は、ヒトカゲ自身の激情を体現して、尻尾の炎と共に美しい蒼炎へと、その姿を変える。

更に丁度、ヒトカゲが炎を吹き出したそのタイミングで、メタモンのガロは『変身』を完了した。
新たに戦線に加わった二匹目のヒトカゲが繰り出した技も、当然『火炎放射』。
空中で斜めに交じり合った二色の炎は、互いに螺旋状の渦を巻きながら、風神目掛けて殺到していく。

――現在の天候は、依然として暴風雨。  一筋の『火炎放射』では雨に消え、二筋の炎では風に負ける。  
……しかし、その炎が三本であるならば。

二色の『火炎放射』を追いかけるようにして、三本目の炎の帯が、既にチャージを完了しつつある風神に向けて、槍の穂先の様に伸びていく。
三番手を務めたリオルが繰り出した『まねっこ』により、更に勢いを増した火炎の塊は、素早く飛び退いた四匹のポケモン達を赤々と照らし出しながら、力を蓄えた風神の体を、情け容赦無く包み込む。
神と呼ばれるポケモンが凄まじい唸り声を上げて、技への集中力を途切れさせた、まさにその瞬間――突然溜まっていたエネルギーが突風となって、辺り一帯を激しく薙ぎ払った。
 
周囲に存在していた者達の体が、その凄まじい風圧に煽られて軽々と宙を舞い、そこ等中に吹き飛ばされる中――青年は自身も空中に投げ出されながら、件の伝説のポケモンが尚もしぶとく、藪の中に切り開かれた道を、一目散に逃走して行く姿を見た。


……後に残して来たレンジャー達と、救助した少年が存在している、その方角へと――
  
 
しかし当の彼が、それが意味している所を、おぼろげながらも認識し始めている内に――宙を舞う彼の体は、生い茂った木々の間を綺麗にすり抜け、崩れた斜面の遥か下の方へと、まるで冗談か何かの様に、音も無く落下し始めていた。
不意に現実に立ち返り、自らの身に迫る危機に、彼が愕然とした時――その時にはもう既に、彼の体はずっと下の方に見えている泥土の地肌へと、まっしぐらに突っ込み始めていた。

そんな僅かな間に彼に出来た事は、闇に染まりかけている遥か地表との距離を勘で割り当て、無駄な足掻きとは悟りつつも、幼少時から体に叩き込んでいた受身の態勢に、自らの意識を持っていくことだけ。


だがしかし――地上に叩き付けられる筈の彼の体は、唐突にまだ地上に達するには早い段階で、何者かによって受け止められた。

体に衝撃が走った瞬間、無意識の内に片手を受身の要領で振り下ろした彼は、土砂や泥濘(ぬかるみ)の代わりに、何か固くて暖かいものを、力強く掌で叩き付ける。

「ナイスキャッチ、さくらちゃん!!  ツボちゃんも良くやったよ! ありがとう!」

次いで耳に入って来たその声に、青年はハッと我に返って周囲を見回し、自分の身に一体何が起こったのかを、己が目で確認する。
……しかしその現実は、彼にはとても直ぐには、飲み込む事が出来ないような代物であった。

「マダ…ツボミ……?」

辛うじてそう呟いた彼の体が存在していたのは、地面からずっと高い所に位置している、巨大なマダツボミの片腕代わりの葉っぱの上に立った、ゴーリキーの腕の中であった。
逞しい怪力ポケモンの腕の中に抱かれながら、尚も間一髪の所で一命を救われた青年は、自らの顔をじっと覗き込んでいるゴーリキーの双眸を、ただただ唖然とした表情で、言葉も無く見つめ返す。 
 
 
――結局、彼が何とか正気を取り戻し、その場に駆けつけてくれていた大勢の一般トレーナーの有志達に、救助対象者である少年らの位置と、分断された女性警官が向かった先を指し示す事が出来たのは、それから少し経ってからの事であった。
彼と同じく海の向こうから、近所の商店街の慰安旅行でやって来ていたと言うその集団は、青年の言葉を聞くや直ちに二手に分かれて、それぞれの元へと急行し始める。

巨大なマダツボミ―どうやら、『ツボちゃん』と言うらしい―と、そのトレーナーである少女とを先頭に押し立てたチームに同行する事になった青年は、自らの不始末が生んだ事態がどの様な進展を見せるか、気が気ではなかった。
依然ゴーリキーにお姫様抱っこされたままの状態で、彼は激しい焦燥感に駆られつつ、未だに雨の止む気配の無い暗い空を、もどかしげに見上げる。

――気のせいか、空を切り裂いていた稲妻の輝きが、幾分遠ざかったようにも思えたものの……少年やレンジャー隊員達、それにあの女性警官の安否を確認するまでは、とても我一人だけ、まんじりとして居られるものではない。
一緒に戦っていたポケモン達の安否の方も、気にならない訳ではなかったが――どうやら一匹も姿を見せに来ない所から、それぞれ思い思いに風神を追いかけたり、女性警官の安否の程を、確認しに行ったものだと思われた。


そして、更にその時――そんな彼の心配を、まるで裏付けるかの如きタイミングで、一行が向かっている方角のずっと先の方から、あの聞き慣れたアブソルの警告を意味する遠吠えが、雷鳴の衰えた曇り空を切り裂き、はっきりと聞こえて来た。
 
 
 
 
 
―――――


最早謝ってばかりの状況ですが、今回も先ずは謝罪しとかねぇと不味いだろ……ってぇなワケで……  済みませんでしたぁ!!(土下座)
……好き勝手やっておいて、普通に風神様取り逃がしちゃいました(爆)

ここまで引っ張っておいて、まさかのスルーパスならぬトンネルエラー。 しかも、結局何一つ解決していないと言うグダグダっぷり。  ……お 前 は 何 を や っ て る ん だ
きとかげさんとこの女性警官は、半数の手持ちで雷神を捕らえたと言うのに、うちのフーテンは倍の兵力を動員して、見事大失敗…!  ……これが、責任ある立場にいるかいないかの違いか。
この失態の責任、果たしてこの後どうやって取るべきか……?(汗)


途中でなにやら何を書きたいのか分からなくなったり、何時もにも増して内容の混乱振りも一入の出来。  ……誰かこの面でもお助けくd(爆)


後またしても、大勢の方のキャラクターさん達をお借りいたしました。

きとかげさんの所のチラチーノどんにコジョンドさん、それにドレディアどん。 
海星さんの所のエーフィさんに、兎翔さんの所のヒトカゲ君。
それにサトチさんが送って下さった大勢の一般トレーナーの有志の方々と、どうしても使いたくなってしまう例のポケモンさん達(笑)

相も変わらずの筆致ですので、御期待に沿えるような描写は到底出来てはおりませんでしょうが…取りあえず、突っ込みどころがあらばお願い致しますね……(汗)


……さくらちゃんの腕の中に落っこったのは確信犯です(爆)
ナオキさんじゃなくて、ワケの分からない変人で御免なさい〜〜

彼らのこの場での存在理由については、適当にでっち上げちゃいました(汗) 
商店街の慰安旅行―個人的には、団体さんを転送する際に用いる、切り札その一です(爆)



【風神取り逃がしちゃったのよ……】

【取りあえずは増援の道案内役に回るのよ】

【離散したアイツのポケモン達は、必要でしたらお使いください】

【楽しんでた割には役に立っていないのは内緒ですのよ】


あとこの場を借りて


きとかげさんのバトルシーンの秀逸さに圧倒されました……(汗)
バルーニングが出てきたところなんかは、まさに発想の勝利の一言。
蜘蛛が空を飛ぶのって、初めて知ったときは驚いたんだよなぁ・・・(しみじみ) 

てこさんの土砂崩れを止めようとするシーンも、レンジャー氏の体に掛かっている負担が容易に想像出来て臨場感が半端無かったですし、海星さんとこのリザードンやエーフィも、なかなか機敏に動き回ってくれてみてて楽しいです(笑)


こちらは引っ掻き回してばかりで御免なさい…(爆)
悪い癖なんだよなぁ…二転三転させちゃうの……


……では。


  [No.960] 勝手に一部救助してみた 投稿者:サトチ   投稿日:2010/11/12(Fri) 22:00:26   41clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

激しかった雷の勢いが弱まり、暗い空はわずかに明るさを取り戻していた。
しかし依然として雨の止む気配は無く、冷たい雨は無情に降り続いて黒に紅のメッシュの髪を彼女の肌に張り付かせ、体温を奪う。

なんとか雷神は捕らえたものの、予想以上のダメージを食らってしまっていたようだ。
動きの取れぬまま不安げなポケモン達に寄り添われ、消えかかる意識を必死に繋ぎ止めようとしていた彼女の耳に、
突如、場違いなほどににぎやかな人声が飛び込んできた。

「あそこに誰かいるぞ!」
「さっきの兄ちゃんの言ってた、警察の人じゃないか?!」

またたくまに何人もの人やポケモンが駆け寄ってきて、彼女たちをわっと取り囲む。

「大丈夫ですか、怪我はありませんか?」
「体を温めなきゃ! ……おい、誰かヒノアラシ持ってたよな! あと炎ポケモン持ってるやついないか」
「暖かいお茶ありまっせ! このタオルも使ってください。いやー、大荷物かついで来た甲斐があったわー」
「この人のポケモンも大分疲っちゃ様子だない。こういう時ゃ、モーモーミルクが一番だぁ。花子、頼んだべ!」
「あら〜、可愛らしポケモンいてはるわぁ。ちょ、そこの黄色いクモちゃん、あんたアメちゃん食べる?」
「フィ?」
「こらこら! ヒトさまのポケモンに、勝手にふしぎなアメちゃんあげたらあかんていつも言うとるやろ!」

極限まで張り詰めていた緊張が緩む。彼女は安堵とともにゆっくりと目を閉じ、気を失った。





【緊張感ゼロでごめんなさいなのよ】
【風神だれかよろしくなのよ】



いやもう、構成の妙といい描写の迫力といい、展開されるバトルが本当に素晴らしい。みなさま凄すぎです!
そしてワタシのギャグに傾く体質を誰かなんとかしてくださいー(^^;)<コラ

>きとかげさん
美人警察官さん雷神制圧おめでとうございます! バチュルたん良くやった!くれ!(笑)(≧▽≦)
とりあえずこちらは一段落したと見て勝手に救助しちゃいました。すんません。

>クーウィさん
その手があったか!(笑)>商店街の慰安旅行
・・・じゃなくてー!!(笑)

>……さくらちゃんの腕の中に落っこったのは確信犯です(爆)
>ナオキさんじゃなくて、ワケの分からない変人で御免なさい〜〜

さくら(目の中を少女マンガの星でいっぱいにしつつ)「ナオキさんごめんなさい! あたし、運命の人に出会っちゃったの!」(笑)
空からイケメンが落ちてきたら、そりゃパズーじゃなくとも力いっぱい受け止めちゃいますがな(笑)

次の方、よろしく!

おっといけねえ、アーカイブ楽しみにしてます〜vvv


  [No.986] いざ風神!!(11/23 書き加え 投稿者:てこ   投稿日:2010/11/22(Mon) 03:23:10   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 
 座り込んで大きくため息をついた。体は泥だらけ。おまけに濡れているので、うーん、体が冷える冷える。相棒のフーディンはじこさいせいですっかり体力を回復させ、座り込んで寝こけていた。そのフーディンのでっかい頭の上でムウマージもすやすや寝ている。
「大変なことになると思いましたよ……」
「まあ、なんとかなってよかったじゃないですか」
 アブソルの頭をなでながら、笑顔で相槌をうったのは、一人のレンジャーだった。山での活動によく慣れているのだろうか。彼が非常に早く崖をすべり降りてきたのを見た時はこんな状況ながらも、感心して見とれてしまった。反対に俺はかっこ悪く滑り落ちたのだが。彼はレンジャーの中でもかなりの技術の持ち主だろう。
 彼の隣に座っているトロピウスの背中の上には一人の小さな少年がいる。今回の仕事はこの土砂崩れに巻き込まれた少年を助けることだったはずなのだが、予想外に大変な仕事になってしまった。俺もこんな仕事をするのは始めての経験かもしれない。最も、土管に顔のつまったリザードンを助けるなんて仕事もなかなかに大変なことには大変だったが。
 少年の目は開かないが、息は荒いながらも続いている。ウツボットが大きな葉を彼の上にかざし、少年の体に雨が当たるのを防いでいた。少年の様態の経過を見る限り、命に別状はなさそうに見えてきた。ただ、意識がはっきりとしないところが問題である。

 彼の話によると、この嵐の原因はこの地方に住む風神と雷神なる二匹のポケモンの喧嘩なのだそうだ。迷惑なやつらである。喧嘩は人のいないところでしてほしいものである。まったく。
 先程会った赤い女性は彼らに何か用があるようである。あーんな感じで、人の助けはいらん。みたいな人は、人の助けを必要にするんじゃねーかなぁ、なんて漫画みたいなステレオタイプな考えをする俺は結構バカなような気がする。ただ、あーいう風にこう強い気持ちを持ってる、いや持ちすぎてると、ふとしたときに足を何かにとられたりするんじゃねーかなぁ。まぁ、これも単純すぎる考えか。
 そして、それに加担するように後を追っていったのは、青年のトレーナーである。六匹ものポケモンに同時に指示が出せるなんて普通のトレーナーのなせる業ではない。かなりの腕前と見た。持ってるポケモンも相当レベルは高そうであった。
 いくら強いポケモンと言えど、あの二人と十二匹にかなうのはそうそういないんじゃないだろうか。二人とも、戦いの中でやってきたような強い目をしていた。平々凡々なレンジャーの俺はここらでレンジャーのきっちりこなすくらいが精一杯だ。戦いを好むような性質でもない。……いや。
「お前は戦いを好む奴だったな……」
 俺の腰についている三つのモンスターボール。一つはフーディン、一つはムウマージ、そして揺れに揺れている最後の一つは――。
 外に出してやろうかとも考えたが、やっぱりやめた。非常に好戦的で血の気が多すぎる。奴を出すと丸く収まりかけていたものもおじゃんになる。出すとややこっしいことになる。出来れば、めんどくさいときは出したくない。そんな奴、である。

 少し離れた空に雷がはぜる。あの空の下でどんな激闘が繰り広げられているのだろう。何にせよ平凡レンジャーである俺に出来るのは戦いに加担することではなく、人を助けることである。盾になることは出来ても、矛になることはできない。

「大丈夫……ですかね」

 レンジャーが不安げに呟く。ないとは思うが、万が一あの二人が倒されたものならこっちに来る可能性が無いことは無い。いや、高い。俺は戦い慣れをしていないし、何よりここに残ったポケモン達は雷にも飛行にもあまり相性がいいとは言えない。しかし、だからと言って下手に動けるものでもない。雨は弱まらない。風はさらに勢いを増している。八方塞がりとでも言うべきか。

 遠くから何かのうなる声がする。大地を揺らし、気持ちを不安にさせる声が、する。


―――――――――


 ち。

 小さく舌打ちをする。遠くではぜていた雷が止み、ほっと安堵していたときに、ものすごい突風が吹きアブソルが吠えた。安堵して、構え、安堵して、構え。どうやら、今回一筋縄どころか二筋輪でもうまくいきそうになさそうだ。

 ――来るのは、風。どう、戦う。


 突風が吹く。顔を腕で庇い、少し顔を上げる。

「っ!?」

 すぐ目の前に雲があった。大きな体を雲に乗せ悠々と俺たちを見下しているのは、風神。だいぶ、ダメージを受けているらしいが、俺達を一通り見ると鋭い牙をのぞかせた。笑っている、のだ。
 ――あちらさんにとっては、余裕に見える、か。
「ムウマージ!」
 ムウマージの瞳が妖しく輝く。俺は腰につけていた最後のモンスターボールを放り投げた。放たれた赤い光が徐々に形を作っていく。
「あなたがたは、向こうへ!挟み込む形に!」
 アブソルのレンジャーに叫ぶ。レンジャーは驚くほどの身軽さで山の斜面を駆け、風神を挟んで向こう側に立った。トロピウスの背中に乗せていた少年を下ろし、彼は少年を背負い、何歩か後退した。彼の前に壁のように立ちはだかるウツボットとトロピウス。苦手なタイプの相手だと言うのに、その彼らの様子におびえなんてものは微塵も感じられない。
 ただ強い意志を持ち、風神を見ていた。
「いくぞ!」
 ボールから出た赤い光は風神の後ろから先制攻撃をかます。宙を飛ぶ風神にふいうちをかましたのは同じ飛行タイプの――ドンカラス。俺の最後の手持ちである。風神が起こした強い風がドンカラスに襲いかかる。だが、そこは強靭な羽ですぐに体制を整える。さすがそれでこそ、ドンカラス。得意げにげぇあぁ!と鳴いて見せた。あいつ、自信過剰ではない、はずだよなぁ。血の気が少し多いだけなはずなんだが。
 悔しそうに顔をゆがめた風神に、次の攻撃。
「うわぁ……」
 敵のことながら、つい声を漏らしてしまう。勢いよく風神の顔面にぶつかったのは紫色の液体。ウツボットのヘドロばくだん。怒り狂った風神は、向こう側のレンジャーの方に突撃し



――はしない。否、できない。

「フーディンはムウマージのサポートを」
 フーディンがムウマージの目の前に立ち、自分の身代わりを作った。そこですかさず、減った体力をスプーンを曲げて回復。ムウマージの瞳は妖しく輝き続けている。風神はムウマージを憎憎しげに睨みつけていた。くろいまなざし。ムウマージが倒れたりしない限り、風神は動くことはできない。これで、向こうのレンジャー側に攻撃が行くことはないだろう。向こうは三体のうち、二体が草タイプ。風神の攻撃を受けて、長く持つことが出来るとは思えない。その点、この方法ならば、こちらにしか攻撃は向かない。
 そして、もう一つの理由。それは――。
 突風が吹き、近くにあった木にしがみつく。足が、後ろに動く。風の力は強く、つかまっていても飛ばされそうなほど。だが、そのとき、またもや風神が悔しげに顔をゆがめ、唸り声を上げた。

 そう。風神が俺たちの方を攻撃しようと風を起こせば、風神の後ろ――すなわちレンジャー側から攻撃すれば、その攻撃は風にのり、強く、威力を増して、風神を傷めつける。風に乗ったヘドロばくだんが後頭部に直撃したんなら、風神でなくともご立腹だろう。俺でも怒る。つまり、風神が俺たちをお得意の風で攻撃すればするほど、風神が受けるダメージも大きくなる、ということ。

 風神が膝立ちのような体勢を変え、どっかりと雲の上に座り込んだ。何かにつかまっていなければ立っていられないような風が、木を揺らす程度のそれに変わる。

 トロピウスが大きく息を吐いた。あまいかおり。風神の動きが一瞬鈍くなったところに、アブソルが飛び掛り大きく鎌を振るった。大きく風神はのけぞり、腕を振り回す。その腕が勢いよくほっそりとしたアブソルの身体に叩きつけられる。しかし、アブソルの身体はそこで霧のように消え、風神は視線を彷徨わせた。遅い。そのとき、アブソルは風神の真上。落ちてきたアブソルが風神の身体にとがった爪をたてた。風神が大きく鳴いた。相手でつめをといで自分の能力を上げるなんて、すごいというか、なんというか怖い。
 ドンカラスが俺たちの前に舞い降り大きく羽ばたいて、あまいかおりを風神側へと押し流し、風神のまわりをあまいかおりで満たす。これで、風神の動きは若干鈍くなるはずだ。これで、なんとかなってくれればいいが。
 
 風の使えない風神はなんとか、抵抗しようとするが、その威力は風の攻撃に比べればなんてこともなかった。すでに体力をある程度消耗していたし、おまけにあまり自由に動けないとなっては、もう勝負は見えていた。





「なんだかなぁ……」
 抵抗できないポケモンをたこ殴りにしているような気がしないでもない。この状況ではしょうがないことなんだろうけど。
 さまざまな補助技を使い、自分を有利にするというよりかは、相手を不利にするような戦法。木綿で首を絞めるように、じっくりと。これが、俺の得意な戦い方だった。だから、バトルは苦手だった。小手先のテクニックに頼りすぎだと、正々堂々戦えと何度言われたことだろうか。強い技と強い技がぶつかりあい、そしてお互い、気持ちよく試合を終えられるバトルをしろと言われるたびに俺は、何と言っていただろうか。
『勝てばいいじゃないですか、勝てば』
 道端のトレーナー百人に勝てても、ジムリーダー一人にすら勝てない。試合に勝っても、試合に負けても、相手からは睨みつけられる。勝負とは、勝てばいいものじゃない。それが分からなかった俺は、バトルトレーナーの道をあきらめ、レンジャーになった。

 レンジャーの仕事は俺にあっていたのだと思う。
 例えば『かぜおこし』。バトルの場面では風を相手にぶつけてダメージを与える技だが、砂を巻き込み相手にぶつければ目潰しにもなる。ポケモンの花粉を巻き込めば、目潰しと同時に相手に状態異常の効果を付加することが出来る。『サイコキネシス』も『みがわり』もたくさんの使い方がある技だ。そして、それも相手にダメージを与えるだけじゃない、別の使い方がある。一つの技を、たくさんの技に化けさせる。それが、俺にとってはとても楽しかった。

 そして、今。レンジャーの経験を生かしつつ、俺はバトルをしている。こんなに、本格的にやったのはいつぶりだろう。風神に勝てるだろうかという不安の中に、どこかどきどきわくわくとした気持ちがあった。

 ドンカラスが赤い光を纏いつつ、風神に突撃する。あんまり、タフじゃないんだからゴッドバードやらギガインパクトやらするもんじゃないと思うのだが、彼の十八番がそれであるからにはしょうがない。あくのはどうでもふいうちでもなく、それなのである。ドンカラスがげきりんを覚えられるようになったら、彼はまっさきにげきりんをマスターするに違いない。
 ゴッドバードやギガインパクトは発動する直前や、発動した直後は動けなくなってしまう。つまり、その技の前後に隙を作ってしまうし、その隙に倒されてしまう可能性も高い。だが、その分、一発のダメージは大きい。まさに運任せ。ギャンブルみたいなものである。
 ただ、このスタイルをずっと貫いていられると言うことは、このスタイルでもそれなりに結果を出せているということである。

 ……単なる強運な気もするが。


 アブソルとドンカラス。あく同士通じ合うものがあるのか抜群のコンビネーションで風神に交互にダメージを与えている。トロピウスはあまいかおりで風神の動きを鈍くし、ウツボッドはグラスミキサーで風神の視界を妨げている。フーディンはムウマージをサポートしつつ、サイコキネシスでその場の状況を有利に変えていた。 


 いける。そう、思った。そう誰もが思っていた。


 
 弱りかけていた風神の目がかっと開いた。鬼の眼だった。その場の空気が一瞬で変わる。
「ムウマージ……?」
 今まで冷静だったムウマージの身体が、がたがたと震えていた。呼びかけても反応がない。もっと、ムウマージに近づこう。そう思って、一歩踏み出した。

 その時、突如凄まじい突風が風神の身体から放射線状に周囲に吹き出された。その強い風が直でムウマージの小さな身体に襲い掛かる。ムウマージは吹き飛ばされ、離れた場所にあった木に突っ込み、気を失った。
「なん、しようとや!!フーディン!フーデ……」
 ふと気づく。さっきまであったはずのフーディンの身体もそこにはもう無かった。みがわりをしていたはず、だった。

 ――みがわりを一発で剥ぎ取り、吹き飛ばしたってことか?

 強い風が吹き荒れる。俺は飛ばされそうになりつつ近くの木につかまり、伏せた。向こう側でも、ウツボットとトロピウスの姿が見えない。吹き飛ばされたのだろう。レンジャーは俺と同じように地面にうずくまり、少年を暴風から庇っていた。
 熱い。目の上が熱い。触ってみるとぬるりとした感触がした。手が真っ赤に染まっていた。風の刃か、飛んできた枝か何かか。まぶたの上が切れている、らしい。
「ドンカラス!」
 ドンカラスは暴風の中、まるで紙切れのようにあっちにふらふら、こっちにふらふら。おかしい。どんな風でも耐えられるとは言わないが、あんなふうになるわけがない。声をかけても、全く聞こえていない。聞いていない、まるで無視でもしているくらいに。そして、空中でもがいている。落ち着かない。――混乱。

 風神は弱りつつも、俺を笑顔で見下していた。腹のたつ奴。俺は眉間にしわをよせて思いっきり睨みつけてやった。こういうところは気迫がものを言うのだ。もし、俺がポケモンだったら直接かみついてやりたい。
「やばい、な」 
 もうポケモンがいない。ポケモンのいないトレーナーなんて、絹ごし豆腐よりもろいなんて有名な話じゃないか。唇をかみ締める。風神が、ゆっくりと俺に近づいてくる。 生暖かい液体が頬をつたって、地面に落ちる。
「ここ、までか」
                                      アームハンマー 
 風神が顔を緩ませたまま、腕を振り上げる。なるほどね。直接、手を下してくれるなんて、光栄なこった。

 ――安堵して、構えて、安堵して、構えたんだ。次にくるのは安堵。それしかない。

 風神の太い腕が落ちてくる。俺は目を閉じ、息を吸った。


 風神が鳴いた。しかし、それは喜びの声ではなく、苦しみの断末魔だった。
 赤い、赤い竜が全身に炎を身に纏い、風神の身体を強く山の斜面に押し付けていた。地面が揺れた。
「リザードン、か?」
 救援のポケモンだろうか。なんにしろ、俺はあのポケモンに命を救われたのだな。
 風神が苦しそうに、悶え鳴いている。飛行の風神に炎は効果が抜群。全身に炎を纏ったリザードンは、憤怒の表情で風神を見た。風神がおびえたように動きを止めた。風神を鋭い爪で斜面に押し付けたまま、リザードンは炎を纏った牙で風神の首元に噛み付いた。風神が力なく苦しげに呻く。あの太い腕も、リザードンの体を払いのけることは出来ない。それほど、あのリザードンは、強いのだろう。
 風神が完全に身動きしなくなると、リザードンは大きな翼をはためかせ、斜面から離れる。そうして、山の下の方へ体をくねらせ、飛んでいった。長い尻尾の先にともった炎は風に揺らぎつつも、煌々と赤く、強く、燃えていた。


 すっかり抵抗しなくなった風神が斜面を転がり落ちて、やがて、動きを止めた。苦しそうに、腹だけが上下していた。
 


 空から、羽をボロボロにしたドンカラスが舞い降りてきた。リザードンの炎に巻き込まれたかと一瞬考えたが、そのときにはどうやら混乱は解けていたらしい。向こうで、フーディンが驚いたように身体を起こしキョロキョロと辺りを見渡していた。吹き飛ばされたこと、分かってないかもしれないな。落ち葉に埋もれかけているムウマージを抱きかかえ、頭を撫でてやる。おつかれさま。本当に、おつかれさま。
 向こう側ではウツボットとトロピウスがレンジャーの元に駆け寄り、きのみか何かをもぐもぐと食べている。少年は無事だったようだ。レンジャーの隣にはアブソルが横たわっている。おそらく、あの暴風を一番近くで受けたのではないだろうか。だが、真っ赤な眼はきっと開かれ、強い力を持っていた。怪我はひどいが、命に別状はなさそうである。アブソルを撫でていたレンジャーと目が合う。彼は握りこぶしを前に出して笑って見せると、上空を指差した。




 ――青空、だった。
 まわりは雲に覆われているのに、風神を倒したところだけ、台風の目のようにぽっかりと穴が開いている。そこから、丸い青い空が少しだけのぞいていた。まぶしい。久しぶりに見た光。太陽の光が、筋のように雲の隙間から差し込んできていた。先ほどとは打って変わって穏やかな風が、草木を揺らしている。木の葉についた水滴が、葉の擦れ合う音と共にぱらぱらと降ってくる。


 気を失っていたムウマージが、目を覚ましたのか体を摺り寄せて、きう と鳴いた。腕のなかで、傷だらけの彼女は穏やかに笑っていた。
 ほっと、した。目の奥が熱くなって泣きそうになった。涙を拭おうとしてぬるりとした感触を感じたとき、力が抜けた。膝から座り込み、地面の上に横たわった。もう、体を起こしていられなかった。どこか、遠くで数人の人々の喜ぶ声と足音が聞こえた。聞き覚えのある声も、あった。

「少し、眠い……な」
 青空を背景に、俺のポケモン達が笑顔で俺を見つめている。
 もう、目を開けていられなかった。意識が、ゆっくりと消えた――。






――――――――――――――――――


【バトルシーンが苦手でごめんなさいなのよ】
【勝手に終わらせていいのか不安なのですよ】
【どうしてくれてもいいのよ】
【むしろ、この続きが大事なのよ】


CoCoさんのレンジャーさんとそのポケモンたち、ヘドロばくだんごめんなさい。ウツボットの技で草以外だとヘドロばくだんしか思い浮かびませんでした。
海星さんのリザードン使わせていただきました。ちょっと、あまり書けなくてすみません。(強すぎた

クーウィさん、きとかげさん のようなかっこいいバトルシーン書けなくてすみません。彼自身もそこは分かっているのでなんとか許してやってくださいませ。

風神、雷神 最初は架空のポケモンかと思っていましたが BWに出てらしたんですね!「風神 ポケモン」でグーグル先生でぐぐったときまさか出るとは……。

もちろん、アーカイブには賛成ですが
こんだけ長い量がアーカイブとなるからには自分のはちゃめちゃな文章書き直し!しなきゃなんて思ったり!


読んでくださったかた、ありがとうございます。
まだ、つたない文章ですが、今後精進いたしますゆえ……!

11,23 01:00 少し、書き直しました……。


  [No.989] 配給してみた 投稿者:海星   投稿日:2010/11/22(Mon) 21:32:09   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 潮のにおいと血のにおいが混じった変なにおいが充満していた。ザザザ、と波が引いていく。そしてまた、引き返してくる。その繰り返し。

ここに戻ってくるまでの道の途中で、何だか賑やかな声がたくさん聞こえたが、こんなところに観光客だろうか。危ないなぁと思ったけれど、本音を言えばほっとした。非力なくせに出しゃばっている気がして不安になっていた気持ちを温かくしてくれた。

しかし、相変わらず雨は降り続いている。風神と雷神がどうなったのか、その詳細はまだ知らない。だけど自然に分かる気がする。だって、傷を手当している声や勝利に歓喜する声ばかりが聞こえるから。

濡れた草を踏みしめた時、頭上でリザードンが力強く吠えた。血のにおいに反応したのか、私を置いて飛んで行ったのだが、どうやら無事にここまで辿り着いていたらしい。少しでも役に立っていたら良いのだが。

 女の子にしては大き目なリュックサックを肩から下してきのみを出していると、すっと足にすり寄ってくるものがあった。少しの時間だったのに随分と会っていないような気がして、何故か胸が痛んだ。

「…エーフィ。そうなのね?」

 いつもより小さくか細い鳴き声が私の声に答えた。しゃがみ込んで、手探りでパートナーを探し、抱き寄せる。

「本当にありがとう。貴方が映像を送ってくれてなかったら、私、きっと諦めてた」

 雨で冷えた毛並の揃っていない身体からは、土や血のにおいがした。それでも気にせず抱き締めた。エーフィは優しく私の頬を舐めた。

「…あ、ごめん。回復が先だよね。ほら、オボンの実」

 ふと気付き、慌てて鞄の中に手を突っ込む。特徴的な…人間でいうくびれみたいな形を確かめると、手に取り、差し出す。そっと地面に置いてから、空に声をかけた。

「リザードン、オボンの実…」

「ガァアアアアア!!」

 どうやら必要無いようだ。十分に元気な叫び声が響いてきた。苦笑してからエーフィの方に顔を向けると、もう食事は終わっていた。

「もう一個要る?」

 首を横に振っているのが空気の流れで分る。もう一度、私はエーフィの頭を撫でると、リュックサックを背負い直して声をかける。

「さぁ、まだ仕事は残ってるわ。行こう」

 立ち上がる。それから口のまわりに手のひらを添えて、慣れない大きな声で叫んだ。

「きのみがありまーす! 必要な人は、声をかけて下さい! 今から歩き回ります!」

 更に、足元のエーフィに指示する。

「貴方は“あさのひざし”で、できるだけ多くの人を回復させてあげて。天候は優れないけど、少しでも良いから」

 すぐにエーフィは駆けて行った。そうそう、と、頭上にも叫ぶ。

「リザードン、雨で冷えてる人がたくさんいるから、炎で温めてあげて! あ、火傷を負わせては駄目よ! 加減してね!」

 了解という意味なのか、更に元気な遠吠えと炎を吹き出す音が聞こえる。本当に加減できるだろうか…多少、いや、かなり心配だ。あの子はすぐ調子に乗るから。ため息をついていると、近くで「おぉい」と声がした。返事をして駆け寄る。

「すまないが、ヒメリの実があったら分けてくれないか」

 静かだが太くて優しい声。そんな風に思いながら、鞄から長い葉っぱを掴んでヒメリの実を2つ取り出し、手渡した。

「どうぞ…あの、回復のきのみは要りませんか?」

「ああ、いや、手持ちに“じこさいせい”ができる奴がおるんだが、使用上限を超えたんだ」

 成程。頷いて、私はもう一個ヒメリの実を取り出して渡した。“あさのひざし”もだが“じこさいせい”など回復系の技は使用回数が僅かしかない。風格からしてベテランの彼はきっと手持ちがまだいるはずだ。PP回復の実はたくさんあったほうが良いだろう。ありがとう、と言う声がじんわりと心に沁みていく。嬉しい、素直にそう思った。

「まだあるので、いつでも声をかけて下さい」

 優しい口調を心掛けて言ったその時、強い日差しを感じたような気がして空を見上げた。雨の粒が当たってこない。

「晴れた!」

 あちこちで声があがる。また、「あのポワルンだ!」という声も聞こえた。ポワルン――天気ポケモン。一体誰のポケモンだろう。歓声と共に、ざわざわと騒ぐ声が近づいてきた。思い出す…これは、ここまでの道のりで聞いたあの賑やかな人達?

「えー、誰か、このおねえちゃん回復してくれへん!?」

 強い訛りで叫ばれる。急いで声のする方に向かうと、いつの間にかエーフィがいた。晴れている今、“あさのひざし”の回復力は体力の半分を癒す程の威力を持つ。緊急に回復を必要としているこちらに向かうのを優先したようだ。こっちこっち、と背中を押されて人込みの中に入ると、足元で「フィ…」と柔らかい鳴き声が聞こえた。きっと怪我人のポケモンだろう。

「エーフィ、“あさのひざし”!」

 太陽が近くなったような暑さを一瞬感じる。見えなくても眩しい。すぐに光は収まる。しかし反応は無い。気を失っているようで、微かな息遣いは聞こえるものの、それ以外の動きは感じられなかった。もう一度指示しようと口を開けた時、別の方向で声が上がった。

「こっちのおにいさんもお願いできますか?」

 女の子の声と、背の高いポケモンの息遣いが近づいてきた。どうやら、怪我人を運んできたらしい。

「さっき崖から落ちてきて。でも、このさくらちゃんが大活躍してくれたんだけどね! ねっ、ツボちゃん」

 周りで歓声が上がる。知り合いなのだろうか。『さくらちゃん』『ツボちゃん』と何度もコールされていた。とにかく、大活躍、の中身は知れないが、崖から落ちてきただなんてどんな大怪我だろう。恐る恐る近づくと、不意に、「あのぅ」と男性の声が聞こえた。

「そろそろ…降ろしてもらっていいかな」

 何故か「いやいや」をするような、甘えた鳴き声がする。どっと笑いが巻き起こったが。



――――――――――――



 うわああああ
 
 てこさん家のベテランレンジャー様、サトチさんの商店街のトモコちゃんをはじめまして、夢見るオトメさくらちゃんやツボちゃんやポワルンちゃん、たくさんの皆様をお借りしました。

 リザードン! リザードンが戦場にいる!
 興奮してつい書いてしまいましたww

 関西弁とかの訛りに滅法自信が御座いません、変な口調でしたらすみませんorz

 とりあえず回復係に回ります^^\

【あれ、風神雷神どこ行ったの? ハイ気にしない】


  [No.1050] My Hometown  【無理矢理進めてみた(オイ)】 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/12/21(Tue) 04:04:50   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

台風一過とは、よく言ったもの。  


良く晴れ渡った青空の下、急ごしらえの物干しの上で、一揃いの上下はさっぱりと乾き、遠ざかる千切れ雲を運んでいく風に抱かれて、緩やかに揺れていた。
……突き立てた木の枝の根元には、乾燥作業に一役買ったとかげポケモンが、尻尾の炎をそよ風になびかせながらもたれ掛かって、静かに目を閉じている。


そんな場の空気を乱さぬよう注意しつつ、青年は静かに木の枝を組んで作った物干しに歩み寄ると、すっかり乾いたシャツに上着、それにズボンを取り外して、元の持ち主の所へと運んでいく。
……その道に心得のある人間ならではの、気配をも殺した忍び足。 身に付けていたその技芸により、彼はすやすやと寝息を立てているヒトカゲを起す事無く、当面の目的を遂行し終える。

横になっている救助者の周りには、大勢のトレーナーが集まっていた。
彼らは青年が近付くと、好意的な態度と共に脇にどいて、道を空けてくれる。

道を空けてくれた人々に対し、軽く頭を下げて謝意を示した彼は、やがて横になっている少年の脇へと辿り着くと、しゃがみ込んで容態を見守ってくれている一組のコンビに、運んで来た衣類を差し出して、黒髪を指で掻きつつ頭を下げる。
――着替えさせてやって欲しいと言う、彼の些か一方的な頼み事にも、少女とゴーリキーは嫌な顔一つせずに、笑顔で頷いてくれた。

早速受け取った上下を、気を失っている救助者にあてがっている怪力ポケモンを眺めつつ、青年はその器用な手付きに、彼女の仕事が生花園の手伝いであるという話を、ボンヤリと思い出す。
……救助者の面倒を見て欲しいと頼み込み、何とか地面に下ろして貰った時は、正直ホッとしたものであったが――他人の振りをしていたルカリオに天誅を下し、ちりぢりになっていた全員の無事を確認し終えた今では、甲斐甲斐しく少年の世話をしている命の恩人に対し、このまま何の返礼もしないまま立ち去るのは、如何にも非礼な事のように思えてきた。

そこで彼は、その場に放り出してあった自分のリュックを無造作に掴み上げると、暫く中を漁った後、赤く輝く親指の頭ほどの欠片を取り出して、ゴーリキーに向けて差し出した。
……少し戸惑ったようにこちらを見返してくる相手に対し、手の内に包み込ませるように握らせたそれには、故郷の守り神である、ヨルノズクの彫刻が施されている。
次いで、更にもう一つ。 今度はハクリューの姿を刻み込んだものを引っ張り出して、それは傍らの少女に手渡した。
――偶々拾った星の欠片に、暇を見つけては趣味の彫刻を施してきただけの代物ではあったが、何もしないよりはマシだろう。

貰ってもいいのかと尋ね返してくる相手に対し、「命の恩にしては、安過ぎるけどね」、と苦笑してから、彼は改めてリュックを背負い、別れの挨拶を述べる。
……もう先の目途も立った事であるし、これ以上ここに留まる必要性は、無さそうだった。
 
「もう行くのか」と聞き返してくる周囲の人間に、重ねて礼を述べた後――彼は次いで、残りのメンバーに別れの挨拶をして置くべく、少し離れたもう一つのグループに向け、ゆっくりと足を運んでいく。
……行く手の道際には、今回行を共にした三人のトレーナー達と、視力が不自由ながら様々なサポートを与えてくれていたらしい一人の少女が、それぞれのポケモン達を引き連れ、思い思いに身を休めていた。
 

 
荷を背負った青年が近寄っていくと、彼らはみな、彼の意図を察したらしい。
口々に簡単な挨拶を交わして行くだけではあったが、あんな事があった後であるならば、今はもうそれだけで十分、言葉は足りた。

「救助者の意識が回復するまで待たないのか」とも聞かれはしたが、彼は苦笑いしつつ、手を振って断りを入れる。
……自分に出来る事が無くなった今、この場に留まった所で、青年には何の甲斐もありはしなかったからだ。
彼は寧ろ、こう言ったごたごたの後に訪れるであろう一連の後始末から逃れる為に、早急にこの場を離れる事を望んでいた。

口を聞く彼の方を見えない目で見据えつつ、少し寂しそうな表情を浮かべた少女に対し、青年は改めて手を差し伸べると、打って変わった丁寧な口調で、リザードンとエーフィを派遣してくれた礼を言う。  ……更に、尚も何か言いたそうな彼女に対し、こう付け足した。

「若葉もやがて、大樹になるだろうから。  ……あのチビ助が、君のリザードン見たいになった時――その時に縁があったなら、また会うさ。 何せ俺達は、トレーナーだからね」

『礼は実力で示して貰うのが礼儀だから』と結んだ青年は、最後に、「こんな奴にはなって欲しくないけどね」と、自らを揶揄してにやりと笑う。
少女の表情が再び和らぎ、エーフィがその背をそっとフォローするのを見届けると、彼は握手を終えた手を外して、次の方角を向く。


視線を向けた先で目が合った二人のレンジャーに対し、彼は開口一番に、先に抜ける事への謝罪の意を述べた。  ……次いで自分の不手際を謝罪し、更に無責任さに言及しようとした所で、謝罪先である両者から、ストップが掛かる。

「最初に彼を発見したのは、あなたでしょう?」

「当初の応急処置やったのも、応援呼び来んだのも君。 そう一々、遜りなさんな。  ……寧ろ、こっちはレンジャーじゃないと知らされて、仰天させられたわ」

それに、お陰で久しぶりに楽しめたしな――そう口にしたベテランレンジャーの隣で、うずうずと何処か落ち着かない様子だったドンカラスが、翼を差し上げ誇らしげに啼く。
額に包帯を巻かれながらも、何か忘れていたものを取り戻したような、満足げな彼の笑みを見ているうち、青年もこれ以上無粋な言葉を続ける事の愚を悟って、苦笑いしつつ首を振り、大人しく言を収めた。
その周囲に控えるフーディンとムウマージも、激しかったであろう戦闘の片鱗も見せない健在ぶりで、彼らのチームワークの強かさを、無言の内に示している。

「これからどうするんですか?」

そう質問してきたのは、傍らにアブソルとウツボットを引き連れた、豊縁出身のレンジャー隊員だった。  

「取りあえずは、一番近いジムにでも、足を運んでみます。  ……実は当初は、そんな気なんか無かったんですけど……気が変わりました。 あなた方みたいなレベルの方達がレンジャーや警察官をやっておられるのでしたら、この地方のジムは相当楽しめそうですから」

自らの胸の内を、答えと共に包み隠さず告げながら――彼は自らの気の持ち様が、この短い期間の間に180度変わってしまった事に、内心驚いていた。
――故郷・新奥での苦い経験から、もう二度と人目に付くような真似はやるまいと、固く心に決めていたのだが……どうやら今回の出来事は、自身の抱いていたその手のトラウマに対し、相当に効用があったようである。

本来助ける側に身を置いていた筈である自分が、終わってみれば様々な面で、反って助けられている。  ……考えるだに、情け無い話ではあったが――それは決して、不愉快なものでもなかった。
それにもし、今回の出来事が無ければ、彼は結局、来年の春に知り合いが帰って来るその日まで、延々人気の無い山の中を、散策するだけに終わっていただろう――  そう思うにつけ、彼はこの短い間に起こった数々の出来事が、避けられなかったにも拘らず、とても掛け替えの無いものであったと、今更ながらに思い返す。 
 
 
やがて、それらの応答が一段落した後――彼は不意にその場の一同から、ある質問を投げかけられる。
――どうやら彼ら四人は、今回の騒動の元凶である二匹のポケモン達の処遇について、相談していた所らしい。

「お前はどう思う?」

そう聞いてきたのは、一同の中で一番多くの手持ちに囲まれている、精悍な顔付きの女性警官であった。
この場所に運ばれてきた時は、消耗とダメージに意識も定かではなかったにも拘らず、早くも自力で身を起こして、強い意志を帯びた眼差しを取り戻している彼女に対し、彼はまたしても苦笑をこらえられずに、軽い溜め息と共に言葉を返す。

「どう思うと言われても、ヘマした俺には発言権無いですよ。 耳と尻尾はあなたのものです」

そう、軽い口調で流しつつも――続いて彼は、これだけは言って置こうかと言った感じで、ただ一言だけ、自分の意見を付け加える。
……雨は万物の精であり、風は新たな命を旅へと誘う。 天から轟き落ち、地に伏す者を撃ち貫く稲妻でさえも、地に生きる者に刺激を与え、恵みを齎す事があるのだから――

「……ただ、俺の故郷にはこんな言葉があります。  ――『天から下ろされたものに、役目の無いものは何一つ無い』、と。  ……少なくとも俺自身は、ガキの頃からそう言い聞かされて育ちましたし、それが間違ってると思った事もありません」

そして、それだけ言い終えるや否や――青年は唐突にくるりと踵を返し、半身だけを後ろに向けてぺこりと頭を下げながら、「じゃあ、後の事は宜しくお願いします」と言い添え、「縁が会ったら、またお会いしましょう」と続けると、そのまま後は振り返る様子も無しに、スタスタと山道に続く斜面の方へと、出発を開始する。


……勿論内心では、まだまだ名残惜しくもあったが――これ以上居座って結局出られなくなる事だけは、避けて置きたかったのだ――



最初に降下してきた、急峻な崖――今は蔓状の植物で覆われている、その際まで辿り着いた所で、青年はすぐさま集まってきた手持ちのポケモン達の殆どを、再びモンスターボールの中に収容した。 
彼らの入ったボールを、いつも通り腰の定位置にセットした後、彼は残ったチルタリスの背中に自分のリュックを置いて、中からややくすんだマフラーと、使い古されたバンダナを引っ張り出す。  ……常々身につけているそれらは、嵐が来ると同時に急いで仕舞い込んだお陰で、ややジメついたままの着衣とは違い、まだほんのりと日向の匂いを留めている。
家に代々伝わって来た紋を刺繍したバンダナを頭に頂き、何代目かはもう忘れてしまった、緊急時の包帯代わりも兼ねたマフラーを軽く首に巻きつけると、彼はそこでもう一度、リュックを背負い上げながら、後を託した人々に頭を下げる。 それらが済んだ後に、彼はチルタリスの背中に跨った。

そして更に、飛び立つ前に――彼は未だボールに収容していないもう一匹のポケモンに向け、そのポケモンのボールを手に取りながら、身を屈めて語りかける。

「……お前は、好きにしな。 そろそろ、自分で自分の歩む道を決めてもいい頃だしな」

自らを見つめるリオルにそう告げると、彼はリオルの入っていたモンスターボールを、ポケットから出した万能ナイフの柄尻の部分で、一打ちに打ち割った。
……プラスチックの破片はその場に捨てず、バックパックのサイドポケットに放り込むと、少し戸惑っている様子のリオルに対し、もう一度言葉をかける。

「まだこっちに未練があるのなら、後から追いかけて来てもいい。 野に出て自由に生きるのもいいし、受け入れて貰える相手が居たのなら、そこで厄介になってみてもいい。  ……兎に角、一度自分自身で、自分の生き方を決めてみな」

青年が言葉を終えると、リオルは改めて元の主人の顔を真っ直ぐに見つめ返し、次いで頼もしげな表情を浮かべると、こくりと一つ、頷いて見せた。
――それを受けた青年の方も、限られた期間とは言え直接手を取って技前の程を仕込んできた相手に対し、優しく名残惜しげな微笑みを浮かべると共に、片腕を差し伸ばす。

一人前のポケモンとなった相手の頭を、最後に柔らかく撫でさすってやった後――彼はリオルの父親であるルカリオが入った半透明のボールを軽く叩いてから、チルタリスのフィーに合図を送り、短い間とは言え多くの感慨に彩られた、狭い谷地を後にした。
……背中を見送ってくれているであろうリオルの、その壮健を祈りつつ―― 一際目立つ存在である、巨大なマダツボミに手を振りながら、彼は一番近い町に向け、風を切って進路を取る。



――故郷の新奥から、嘗ての好敵手でもある知り合いの女性が帰ってくるまでは、後半年足らず。  ……彼女が携えて来てくれる予定の帰りの航空券を、果たしてその時、素直に受け取れるのかどうか――?

その答えは、漸く傾き始めた太陽の光を褐色の肌に反射させ、各地の風に染め上げられたバンダナとマフラーを風になぶらせている彼自身にも、まだ分からない事であった――


―――――


…相当無理矢理な形での進行に、先ずはお詫びを……(何度目やねん)
後上げ下げの方法が分からないので、かなーり下の方から上げちゃいました……(汗  済みません……)

例によって沢山の方のキャラクターとポケモンさんをお借りしましたが……済みません! 今回はコイツを退場させる為に飛ばしちゃったので、描写はまさに散々です……(爆  お許しを〜〜)


ちょっと詰まっていた感もあったので、勝手に進行させちゃいましたが(汗)  ……取りあえず、いきなりどっか飛んでっちゃって御免なさい(爆)
後始末もせずに逃亡してしまったアイツに関しては、呪いの練習台にでも……  ……マジすんません(汗)


放置しちゃったリオルについては…まぁアレです。 お好きになさってください()
拾ってやって頂いても結構ですし、野に帰しても後を追わせてもOKです。  ……あのバカモノの主義で、タマゴからの子は一度はこうやって、『親離れ』させるんですね(爆)
取りあえず、もう『親』としての関係は、一度断たれてますので……単に、野生の個体として扱っていただければ(オイ)


う〜む……  …で、では……!(汗)


【書き逃げで御免なさいなのよ……】

【風神雷神の後始末に困っちゃったのよ(爆)】

【あともう一息かもなのよ】


  [No.1060] ひと息ついて 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/12/24(Fri) 04:19:35   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5


 瞼の向こうに、朝の日差しを感じた。

 もう朝か、と女性は思った。
 布団の中が暖かい。
 もう少し寝ていたい。
 女性が寝返りを打とうとして、腕の中にポケモンがいることに気付く。
 またゾロアか、チラチーノあたりが布団に入り込んだのか、と思う。
 それにしては、何だか平べっちゃくて……

 何だか細いものを掴んだ。

「ぷぎゅぇっ!?」と腕の中の物体が声を上げた。慌てて女性は掴んだ手を離して、起き上がった。

「あら!? ちょっと、お姉さん起きはったで!」
 彼女の姿を見た知らないおばさんが、嬉しそうに声を上げ、周囲に伝える。
 体の上には見覚えの無い毛布と、ヒノアラシ。
 さっき彼女が鼻先を掴んでしまったのだろう。ヒノアラシは頬を膨らませて怒っている。

「悪かった、謝るよ」

 ヒノアラシを膝から下ろし、自力で立ち上がると、女性警官は周囲の状況を確認した。

 付近に、風神、雷神と思われるポケモンの影はない。
 さっきまでのバトルが夢のようだった。
 観光客と覚しき賑やかな一団が、毛布やモーモーミルクを配給している。
 雷神と戦う前はトロピウスの背に乗せられて、具合悪そうにしていた少年は、今は毛布を重ねた地面の上に寝かされていて、その周りに人だかりができている。顔色が随分良くなっていた。
 遠くには平和そのものといった顔で巨体を揺らす、マダツボミの姿。
 ぬかるんだ地面と、ところどころで倒れている木があることを除けば、あの大嵐の爪痕など見るべくもない。


 晴れていた。


 空は青く、風神雷神が呼んだはずの、重たげな黒雲は取り払われ、薄い白い雲が少し残っているだけ。
 いつの間にやって来たのか、誰かのポワルンが赤く小さな太陽の姿で飛んでいる。

 とにかく、バトルは終わったのだ。

 彼女は毛布を綺麗に畳み、その上にヒノアラシを置いておばさんに託し、それから近くで彼女を見守っていた三匹のポケモンに労いの言葉をかけた。
 そして、雨に濡れて重くなったコートを脱いで相棒のゾロアークに持たせた。
 ゾロアークは心配そうに顔を覗きこんでくる。
「大丈夫だよ」
 バチュルをいつも通り肩に乗せると、彼女はそう言って笑った。
 少し麻痺の残る体をおして、人だかりの方へ歩き出す。


 仮にこさえられた木製の物干し場に、誰かの上下服がはためいていた。
 その下では、ヒトカゲが安らかな寝息を立てている。おそらく、毛布の上で眠っている少年の服だろう。
 彼女は人の群れから離れてた位置で休んでいる、自身の手持ちの三匹を見つけ、そちらに近寄った。

 三匹は配給されたらしいきのみを食べ終え、体力を回復させたところだった。
 彼女らのうちの一匹、ドレディアだけが物欲しそうに、次のきのみをねだった。
 体力は十分なのに。彼女は手渡されたきのみをドレディアの手から奪った。

「ナン、体力が回復したのにねだるな、はしたない。……すいません」
 そう言って元の持ち主にきのみを返すと、持ち主の女性はいいえと微笑んで、彼女の手にきのみを押し付けた。
「まだたくさんありますから、遠慮しないでください」
 そう言う彼女の瞼は閉じられている。どうやら目が見えないらしい。
「じゃあ、……ありがとうございます」
 好意に甘えてドレディアにきのみを渡し、お礼を言うように促すと、ナンは他の二匹から離れた位置に移動し、きのみを持ったまま踊り始めた。

 彼女の目は見えないのに、と思ったが口には出さなかった。
 横を見ると、紅い髪に白いワンピースの彼女は、踊り出したドレディアの方を向いて穏やかに笑っていた。
 視覚以外の感覚が優れているのかもしれない、と思ったが、野暮だと感じて口には出さなかった。

 歩いて二匹のポケモン、コジョンドとチラチーノの間まで行き、そこに腰を降ろした。
 きのみをもらった二匹はすっかり元気になっていた。
 どうやら今回のバトルでは自分が一番ダメージを負ったらしい、と思い苦笑する。
 眠たげに瞼を落としてボールをつついて来たコジョンドをボールに入れ、チラチーノを膝の上に乗せて、暫くの間、ナンの舞を見ていた。

 彼女の近くに、紫の猫又が駆けてきて、続いて橙の火竜が飛んできた。
 おそらく、誰かを暖めたりする手伝いをしていたのだろう。二匹のポケモンに、彼女は労いの言葉をかけていた。

「そのエーフィ」
 彼女は猫又の背を撫でる手を止めて、女性警官の方を見る。
「えっと……世話になったよ。ありがとう」
 アーケオスだけでは土砂崩れを防げなかっただろう。
 それから、彼女のミスでバトルの場から弾き飛ばされた後、エーフィはその場に残ってサポートをしてくれたに違いない。
 雨の中を走り回ったであろう猫又の体は、まだ少し泥で汚れている。

 ふと、大事なことを思い出す。
「風神と雷神はどうなった……?」
「どっちも“ひんし”状態ですよ。風神の方はまだ近くに転がってるはずです」
 答えたのは盲目の彼女ではなく、最初にここに着いた時に目にしたレンジャー二人のうち、アブソルとウツボットとトロピウスを連れた若い方のレンジャーだった。
 彼はレンジャーたちの装備なのであろう、小型の通信機を取り出しながら、
「俺は遭難者の保護に必死でした。皆さんのお陰ですよ」と言った。その皆さんの内のひとり、先輩レンジャーがドンカラスに掴まって、額に包帯を巻いた状態で姿を見せた。
「こっちは問題ない。二次災害の心配なしだ」
「こっちも見回り終わりました。大丈夫みたいですね。帰り道も確保されてます」
 嵐の爪痕を見回り、無事を確認した二人のレンジャーは、嵐の後の詳しい地理情報をレンジャー本部に伝えている。
「あと、嵐の原因となったポケモンですが、彼が懲らしめました」と少年レンジャーがおどけた調子で付け加えると、
「俺だけじゃ無理でした。他の人たちとポケモンの協力あってのものですよ」と先輩レンジャーが訂正する。
 その“他の人たち”の内、彼女と少しの間共闘した、あの青年はここに姿を見せていない。
 通信を終えた二人は、女性警官と盲目の彼女の方を向き、
「さて、あのポケモンたち、どうしましょうか」
 どちらともなく、そう言った。

 中々結論は出なかった。
「警察の方ですよね。逮捕とか出来ません?」
「野生のポケモンを逮捕する法体系はない」
「ですよねー」
 いつ自分の身分がバレたのだろう。仮にも休職中の身であるから、こんな所に出歩いていることがバレたら不味いことになる。
「それより、レンジャーたちの方でどうにか出来ないのか? 保護するとか」
「どうでしょう。伝説に出てくるポケモンを保護したなんて前例、聞きませんし……」
「あの……」
 今まで黙っていた紅い髪の女性が、声を出した。
「ゲットする、……というのはどうでしょう? 皆さん程のレベルなら、彼らも認めると思うんですが」
 今まで話を続けていた三人が黙った。
 ゲットする。トレーナーとしてこんなに基本的なことを、どうして思い付かなかったのだろう。
「私は遠慮するよ」
 他の三人の顔がこちらを向いて、何か言う前に女性警官はそう言った。
「自分を殺す気で技を出してきた奴を手持ちに入れる程、心が広くないんでね」
「そういえば、体の具合、大丈夫なんですか?」
 心配そうに声をかけたレンジャーの額には、中央が赤く染まった白い包帯が巻かれている。
「そちらこそ、怪我は? 私が未熟なせいで、迷惑をかけた」
 申し訳ない思いでそう口にした彼女に、
「いやあ、元気、元気。ピンピンしてますよ!」
 とレンジャーは快活に笑って答えた。その隣でドンカラスが血気盛んな風で、大きな声で鳴いた。
「どちらにしろ、あの青年の意見も聞かないと決められませんね」
 若いレンジャーがそう口にした。

 ずっと踊り続けていたドレディアが、気が済んだらしく、一礼した後、身を翻して森の中へ飛び込んでいった。
 入れ替わりに件の青年が、リュックを背負った状態で姿を現した。
 簡単な挨拶を交わし、今回の事の次第に言葉少なに触れて厚い謝辞を述べた後、青年は先に抜ける意を伝えた。
 その彼に、レンジャーの二人が、先程までの議題であった風神雷神の処遇について問いかける。
「どう思う?」と尋ねた彼女に、彼は苦笑しながら、
「どう思うと言われても、ヘマした俺には発言権無いですよ。耳と尻尾はあなたのものです」
 そう軽い口調で答え、「ただ」と付け足した。

「俺の故郷にはこんな言葉があります。
 『天から下ろされたものに、役目の無いものは何一つ無い』、と。
 ……少なくとも俺自身は、ガキの頃からそう言い聞かされて育ちましたし、それが間違ってると思った事もありません」

 そう言い残して、彼は体の向きを変え、頭を下げた。
「後の事は宜しくお願いします。縁が会ったら、またお会いしましょう」
 そう言って、彼は足早にその場を去って行く。
 青年の背中を見送ったその後は、またさっきの議題に逆戻りした。

「どうします? やっぱりゲットしますか。耳と尻尾はあなたのものだそうですよ」
「耳と尻尾だけゲットしてもなあ」
 そう言ってから考え込んだ彼女に、
「でも、雷神を打ち破ったのはあなたなわけだから」
 そう意見が述べられた。

 彼女は少し考えて、結論を出した。ゾロアークからリザードンの尻尾の炎で乾かしたコートを受け取り、膝の上のチラチーノをボールに戻すと、その場に残った三人に向けて、こう告げた。
「風神の処遇はあなた方に任せる。……片を付けたのはあなた方なわけだし……。私は、雷神の方の始末を付けるよ」
 了解しました、と答えたレンジャーたちを残して、彼女はアーケオスに乗ろうとした。

 その時。

「あのポケモン……」
 一番早く気付いたのは、目の見えない彼女だった。
 彼女が示すその先には、青と黒の小さな獣人、リオル。
「あの子、彼のポケモンですよね」
 女性警官は静かに頷いた。青年と共同戦線を張った時にもいた、あのリオルだ。
「確か、ラックル、だったか」
 現場を心配して戻って来たのか、しかしトレーナーである青年の姿は見えない。

 リオルは自分を見つめる四人に、大丈夫だと言う風に頷いて見せて、今は助太刀に来た人々に囲まれている少年の方へ視線を向けた。
 ふと、バトル中、ラックルが少年のヒトカゲと懇意にしていたことを思い出す。

 彼女の考えに、紅い髪の女性も気付いたようで、
「彼らと一緒に行くことを選んだのかもしれませんね」
 そう呟いた。その後ろでリザードンと、そして何故かドンカラスが勇ましく鳴いた。未来の好敵手を思っているのかもしれない。
 ラックルを迎え入れるかどうかは、少年たち次第だが、仮に断られてもあの青年のリオルなら問題あるまい。
 そう判断した彼女は、待っていた原色の始祖鳥の背に腰を落ち着かせ、森の中へ駆けて行った。


 辿り着いたのは、もう二度とごめんだと思っていた場所。
 森が拓かれた、天然のバトルフィールド。例の雷神の目の前だ。
 ドレディアのナンは先に来ていて、待ちくたびれたように彼女を見上げた。

 彼女はアーケオスから降り、相棒のゾロアークが付いて来ていることを確認すると、バトルフィールドの中央にある、不自然な白い糸の塊に近付いた。
 中にいるであろう雷神は、今は静かにしていた。
「ベー」
 静かにバチュルの名を呼ぶと、肩に乗った黄色蜘蛛は、心得たとばかり彼女から飛び降りて、雷神を包む糸を切り始めた。
 大方切り終わると、雷神は自分で糸を払って這い出してきた。
 その目にさっきのバトルで見せた覇気はない。バチュルの糸に電気を吸われたらしく、フラフラしている。
 雷神はどうにでもせい、と言わんばかりに、残った力と生意気さでもって彼女を睨めつけた。

「ナン」
 花人の手から体力回復のきのみを受け取ると、それを雷神の方に差し出した。
 驚いた表情で、きのみを断った雷神に向けて、彼女はこう言った。

「さっき言われた。……どんな生命にも役割があるらしい。お前たちにも、役目があるんだろう。……私には分からないが。
 ただ、少なくともそれは、ところ構わず暴風雨をまき散らして、民家や畑を壊すことじゃない。人を遭難させるなんて、論外だ。
 そんなことをしたら、私はもう一度お前たちを倒しに行く」

 そして、雷神にきのみを押し付けて、こう付け加えた。

「それ以外は、勝手にしろ」

 きのみを齧りながら、雷神は彼女を不思議そうに眺めていた。
「個人的に恨みがあったが、それももうどうでもよくなった」
 と正直に答える。相棒の母親の問題はまだ彼女の心に深く根をはっていたが、それとこの雷神とは、最早無関係な別問題だ。

「……何か言うことはないか、スー」
 水を向けた相棒は、ゆっくり頭を振って彼女に寄り添った。
 相棒のたてがみを撫でる、その目の前で、雷神が離陸した。

「お別れだ。もう会うこともない」
 彼女は静かに呟く。
 その声が聞こえたのか、雷神は力強く頷いてから、遠くへ飛び去って行った。

 もう、すっかり日は落ちている。

「とりあえず……地均しであの大穴を直して、……それから、お礼を言いに行くか。ひとりで息巻いて来たが、随分助けられたよ」
 そう言うと、夜目にも鮮やかな原色の始祖鳥の背に乗って、彼女は元来た道をゆっくり戻り始めた。




【風神のほうは任せたのよ】
【あともうひと息っぽいのよ】

 とりあえず雷神は厳重注意の後、釈放となりました。
 クーウィさんとこの青年と、Cocoさんちのレンジャーさんと、てこさんちのレンジャーと、海星さんとこの女性をお借りしました。
 サトチさんとこのツボちゃんと、お人好しそうなおばちゃんも。
 今回会話シーン多いですが、【変なところあったら指摘して欲しいのよ】

 クーウィさん、てこさん、風神討伐お疲れ様でした! この指とまれと補助技を最大限利用する戦いも、相手の風を利用してこちらの攻撃を強化する戦いも、読んでいて非常に心踊るものでした。
 そして海星さん、女性からきのみを大量に頂きました。ナンがあんなんですいません。
 サトチさんからは毛布とヒノアラシを、ありがとうございます。
 まさに「ひとりで息巻いてやって来て、たくさんの人に助けられた」状態。
 そんな迷惑千万な彼女も、そろそろ退場です。地均しぐらいはするかもしれませんが。
 そうだ!みんなでキャンプファイアーすればいいよ(謎

 というわけで、
 きとかげ は 逃げ出した! ▼

12.25 微修正
バチュルはあげません。


  [No.1097] 彼らの 投稿者:てこ   投稿日:2010/12/27(Mon) 01:50:21   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5


 声が飛び交っている。その声が悲鳴でも怒声でもなく、喜びの声であり笑い声であることを俺はとても嬉しく思う。
「あ……」
 鼻をすする。目の前の景色がぐにゃりと歪む。慌てて俺は真上を向いた。眩しい光が目を射る。太陽の光がこんなにもありがたいものだとは思わなかった。眩しさに幾度か瞬きをすると頬の上を水滴が転がる感覚がした。くそっ。涙腺が弱いってのは……不便なものだな!
「あの……」
 小さな声と共に右腕の袖を掴まれ、ごしごしと目を拭い振り向くとそこに立っていたのは、木の実を分け与えてくれた少女だった。先ほどまではぱんぱんに膨れ上がっていた背中のリュックは、すっかり中身がなくなり小さくなっていた。もう、木の実は十分に行き渡ったのだろう。身の丈に不釣合いな鞄を背負っていたから重くないかと心配していたが、ほっとした。
「手当てしますよ」
「ん……手当て?」
 手当て? はて、どこだったか。と考え込む。そのとき、少女が顔を自分の顔のほうに近づけてきたので驚いた。少女は目を閉じたまま、幾度か息を吸った。さらに驚いて、女性に対して極端に免疫の無い俺の身体はそこで硬直した。視線だけを彷徨わすと、少し離れた場所でムウマージとフーディンがあきれたようなじと目で俺を見ていた。違うんだぞ、お前ら……これは、アレだよ! アレ!
 少女が一歩下がり、ふわりと長い髪が軽やかに踊る。「ちょっと、座ってくださいね」いわれるがままに座り込むと、彼女がリュックを背中から下ろし中をあさる。少しして、中から出てきたのは、包帯や消毒液。
「強い、まだ新しい血の匂いがしていたものですから……きっと、目の上らへんですよ、ね?」
「あ、あぁ」
 少女の手がそっと額に触れる。そういえば目の上切ってたっけかとかと思い出すと同時に、彼女が盲目であったことを思い出した。あぁ、だから匂いか。そう、匂い。
 ――お前ら! 匂いだぞ! 匂い! 匂いだからだぞ! 何も、やましいことなんて考えてないぞ! 近くて、どきどきしたとかないからな!
 目で離れた場所から俺を見ているムウマージとフーディンに訴える。もとから細められていたムウマージの目がさらに細くなる。おい!
「いていて」
「すみません、消毒液染みますよね……。ちょっとだけた」
「いや、違うんです……あ、いや、大丈夫です!」
 傷跡に消毒液が染みる。でも、それ以上に痛い。奴らの視線が痛い!
 ぷいっ。ムウマージは顔を背け、ふよふよとどこかに行ってしまった。えっ、どうする? みたいな顔でフーディンがムウマージと俺とを何度か交互に見比べ、彼女の後にのそのそついていった。何か言って挽回しろよお前! 上空を旋回するドンカラスが、何やらギャーギャー喚いている。どいつもこいつも……。俺はがっくりと肩を落とした。
 
「あの子は、何か悪さをしませんでしたか?」
 俺は何を言うものか分からずただ固まっていると、少女はやわらかな声で言った。額に器用に包帯が巻きつけられてゆく。彼女の指の腹が俺の肌に触れるたびに身体はいちいち硬直する。やきもち妬きなムウマージのせいだ。ここまで、女性慣れしてないのは。自分に言い聞かせるように、頭の中で繰りかえす。
「あの子?」
「あ、リザードンのことです。暴れん坊の」
 あぁ。あの、リザードン。この子のポケモン……だったのか。
「いやー、助けられましたよ。あいつがいなきゃ、俺たちゃ今頃全身血まみれだったかもしれないですよ」
 風神の暴風が吹き荒れた時、俺のポケモンたちももう一人のレンジャーのポケモン達も相当なダメージを負った。あの状態から、風神を倒すのは恐らく無理だっただろう。彼女のリザードンが現れ、猛烈なたいあたりをかましてくれたおかげで、風神を倒すことが出来たのである。
「よかった……。本当によかっ」
 彼女の言葉を遮る大きな音。その方向へ視線を向けると炎の線が空へと一直線に伸びている。耳を澄ませば、リザードンの吼える声も。
「もうっ!あの子ったら!」
 俺はつい笑ってしまった。はっと息をのんだ色白な彼女の顔が下の方から真っ赤に染まってゆく。恥ずかしさからか、彼女は指をてきぱきと動かし、少しきつめに包帯の端と端とを結びつけた。その結び目を自分でも少し整えると、俺は立ちあがった。体の節々が悲鳴を上げている。特に腰。最近、歳を感じるようになった。そんなに歳はとっていないはずなんだが。
 少女がもう一つの包帯を出したところで俺はそれを遮るために、少女の美しい赤の頭に手を置いて撫でる。「あ、あの?」困惑したように少女は俺を見上げる。俺は頭だけを下げ、礼を述べる。そして、最後に一言。
「次お会いしたときには、一戦願いたい」
 正直、見てみたい。彼女が成長して、あのリザードンとエーフィとどのような関係を築けているのか。彼女と彼らの間にある絆の太さはどう変わっているのか。――俺みたいな端くれをとっくに凌駕して、はるか上にいるんじゃなかろうか。それは、彼女がポケモントレーナーとして修行をしても、しなくても変わらない――そう。修行したって手に入らないようなものをすでに彼女は手に入れているような気がしたから。
「――じゃあ」
 彼女の頭から手を離し、背を向けて歩き出す。奴らの始末を話しあうため、彼らが待っている。彼女もまた、後からやってくるだろう。指笛を吹く。高い音が響き、肩にドンカラスが舞い降りてくる。先でムウマージが不機嫌なまま、フーディンがにやにやしたまま、俺を待っている。彼らのもとまで走り、フーディンの頭に一発拳骨を落とし、俺は振り返った。エーフィとリザードンを従え、また手当てに向かう彼女の後ろ姿があった。

―――――――――
  
 さて。
 あの、やんややらかしてくれたあいつらをどうしようかという話し合いである。
「ゲットする、……というのはどうでしょう? 皆さん程のレベルなら、彼らも認めると思うんですが」
 一人が言う。うん。名案。ただ、やっぱり、それは――。
「私は遠慮するよ」
 俺が言葉を発する前に、彼女は毅然と言い放った。彼女に向けた俺の言葉は行き場を失う。えーっと、
「そういえば、体の具合、大丈夫なんですか?」
 ……我ながら何たる付け足し。警官らしいその女性は、思いのほかすまなそうな顔をして「そちらこそ、怪我は? 私が未熟なせいで、迷惑をかけた」なんて言うので、俺はまた言葉に詰まってしまい
「いやあ、元気、元気。ピンピンしてますよ!」
 ガッツポーズをしてみせる。ドンカラスがギャーギャー鳴いたが、俺を馬鹿にしてるのは丸見えだった。ちくしょう。
 ふうとため息をついた彼女の横顔に、以前の張り詰めた空気のようなものはすっかり消えていた。そういえば、彼女はなぜここに現れたんだか聞いていなかったなぁなんて思うけれど、少しだけ笑みを浮かべゾロアークを撫でる彼女を見て、どうでもよくなった。何であれ、マイナスでなければいいのだ。ものってのは。

 青年が現れたのはそれから少し経ってからであった。彼は到着するなり、頭を下げた。そして、謝罪の言葉を口に――する前に俺はそれを遮った。謝罪の言葉なんていいんだ。むしろ、こっちから言わせて欲しいくらいだ。
「これからどうするんですか」
 アブソルを連れたレンジャーが彼に問う。彼も俺もこの後は通常任務に戻るだけ。無線なんて便利なものが発達すると、報告しに戻ります! なんてのが極力少なくなるのが、便利なゆえに不便なところである。
「取りあえずは、一番近いジムにでも、足を運んでみます。……実は当初は、そんな気なんか無かったんですけど……気が変わりました。 あなた方みたいなレベルの方達がレンジャーや警察官をやっておられるのでしたら、この地方のジムは相当楽しめそうですから」
 嬉しいことを言ってくれる。その時、ふと、警察である彼女をみると、ふいと顔を背けていた。心なしか顔が少し赤いような――気のせいか。気のせいだよな。
 彼もまた最初に見たときよりも、どこか清々しい表情だった。なにか、憑き物が落ちたかのように、澄み切っている。土砂に覆われる寸前に垣間見た彼の表情にあった不完全燃焼のような感情は、あの雨でどこかへ流れてしまったに違いない。風神と雷神、彼らの残したものはけっしてプラスではないが、完全にマイナスでもない。彼にも、彼女にも、新たな旅立ちと気持ちを与えてくれたのではないだろうか。

―――――――――

「さあ、風神。貴様をどうしてやろうか」
 先ほどの場所に戻ると風神はまだ、そこに蹲っていた。そりゃ、あのリザードンのたいあたりをくらえばダメージは大きいだろう。風神を頼むと言われてしまったのだが、もう一人のレンジャーである彼は無線の呼び出しが入り、次の仕事へ向かってしまった。俺の手の中には、その際彼がこれ、お礼にもならないですけど、すっごいうまいんで!と言って放り投げてくれたトロピウスのバナナのような果物の房がある。
「お前にはさんざんなことをされたからなぁ……こらしめてやろうかねぇ……はっはっは」
 と、悪役らしく高らかに笑……俺は悪役じゃねぇ。そういえば。風神はただ俺を睨みつけている。俺は風神に近づき、息を吸い、覚悟を決め――

 ――果物を二本彼の手元に置いた。

「お前のおかげっちゃなんだけど、俺もう一回バトルをしてみようかななんて思ったわ。それから、お前たちと戦ったおかげで、あの人たちの悩みも吹き飛ばされちゃったみたいだし……感謝するよ。それが一本」
 俺のポケモン達も彼のまわりに集まった。ムウマージが傷ついた彼を癒す。彼は驚いたらしく、わずかに目を見開いた。
「ただーっし、風だの吹かせて暴れられちゃ困る。そこでもう一本。貸し。貸しを作っとくから。だから、お前がまたどこかで暴れたら俺が行くから」
 我ながらきたないやり方だ。相手に無理やり、貸しを作らせるなんて。

「じゃ」
 俺は歩きながら、振り向かずに手を振った。彼が後ろで立ち上がる音がする。もしかしたら、このまま後ろから殺されるかも。なんて思うと背筋が冷えた。だけど、振り返らない。
「また、どこかで会ったら、お手合わせ願んますよ」
 落ち葉にかかとを沈め、歩く。後ろで彼の唸る声がする。

 風が吹いた。強く大きな風の塊のようなものが後ろからぶつかってきて、倒れそうになるところをこらえる。その風は落ち葉や枝を巻き込んで森のどこかへ駆け抜けていった。
 その風の音に混じって、かすかに聞こえた低い音。

『――良かろう――』


「ったく。普通に言えっての!」
 今はもうここにいない風神さんに向かって俺は叫んだ。なぜか笑いがこみ上げてきて、俺は一人で笑い続けた。笑いつかれて、落ち葉の上に横たわる。吹き付ける風は冬のそれ。秋の嵐が過ぎ去れば、冬の冷気がやって来る。季節の変化はめまぐるしいほどにはやく、あっという間に過ぎていく。雪をつかさどるは、誰だ。雪王か、雪女か、鬼氷か、冷鳥か。

 ムウマージとドンカラスをボールになおす。お前ら、じっくり休めるのはまだ先になりそうだ。晴れ渡った空を見上げる。思い切り息を吸い込む。心にあるのは少しの不安と、少しの楽しみ。それらをしっかり携えて、俺はフーディンの持つスプーンを握る。次の仕事はどこにある?
「さあ、行くぞ!」
 冷風の吹きぬける中、フーディンの金色の長い髭が得意げに揺れている――。





―――



 思い起こせばあれは十月の末。ふとパソコンを眺めれば、弱った少年と助けを待つトレーナーとレンジャー。それを助けにいこうと立ち上がったのはこともあろうにあのフーディンの彼であります。(正式にどうといったつながりはございませんが)そして、その彼が彼らを助け、文末には「――の空には晴れ間がかいま見えていた」そう書かなかった――いえ、書けなかったのは何故でしょう。それは、それは――






 ドラエモンの道具だって故障しなけりゃ、映画のあの尺は実現しないし、ジャイアンだっていい奴にならんやい! とそんな心境だったからな気がいたします。さあ、崖を切り崩し、彼は助かり、あれよあれよと話は進み、これはただの嵐ではなく神々の戦いなのだ。となったとき、そこで一気に路線は変更。 救助から、倒すべき敵 へと目的は大きく変わったのであります。


 迷いを抱えた青年トレーナー。あなたのおかげで彼は崖から落っこちることが出来ました。いなかったら、単に落ちてたから! ホウエン出身の陽気なレンジャー。レンジャー一人では荷が重すぎた! でも、二人だったから荷が重過ぎなかった!(何の理由 狐を従えたクールな女性警官。クールすぎた!命救われた!今後の活躍に大期待!盲目の赤い少女。最後はちょっぴり変態臭が漂いました。美人さん。慰安旅行の方々(w いろいろお世話になりましたw


 恐ろしいほどに(w 個性豊かな役者が揃い、そして彼らも動いていく。あやまりのないようにその役者を書こうと文章文章をじっくり読むと、普段は見落としてしまいそうな細かな情報もふと手に入れることが出来たりして、そんなところに人のこだわりのようなものを感じることができました。うん!


 そして、季節は過ぎ去り、十二月の末。二ヶ月に及ぶ激闘の末、嵐は無事に収まったのであります。




 ――さあ、次はどんなお話が広がるのだろうか。



 まあ、ひとつ言いたいのは



 彼に携わってくれて、ありがとう!言い尽くせないくらい、ありがとう!
 読んでくださった方も、拍手してくださった方も、ありがとうございます!


 またこんな流れになってたら、また彼は出てくるかもしれません! まあ、相棒のテレポートの調子次第なのは言うまでもございません!それでは!