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  [No.1115] ■第一回コンテスト校正スレッド 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/05/02(Mon) 21:18:42   29clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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第一回コンテストを校正いただいた方で再投稿をしていただける方はこちらのスレッドにてお願い致します。
お手間を取らせまして大変申し訳ありません。


  [No.1116] 【校正版】 旅ポケ『ドーブル』の見聞録 投稿者:巳佑   投稿日:2011/05/02(Mon) 21:35:16   37clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 この世には世界中のポケモンに出逢いたいと、旅をしている人間がいる。
 俗に言うポケモントレーナーという者の他には
 世界中のポケモンと出逢いたいと、旅をしているポケモンだっている。

 ベレー帽のような頭で、
 長い尻尾の先端は絵筆のような形をしており、
 そこから文字や絵の産声が上がる。
 彼の名はドーブル。
 世界中のポケモンと出逢う為に世界中に足跡を残して来たポケモンだ。

 
 
 がさこそと震えるような音は多分、誰かを誘っているかのような音。
 ボクはその音の源に逢おうと、件の茂みをかき分け――。
「ねぇ! 君、見たこともないポケモンだね!」
「あ……はい。え……と?」
「ボクの名前はドーブルって言うんだ! 君の名前はなんて言うの?」
「わ、わたしですか……?」
「うんうん! 君の名前、教えてよ!」
「は、はい……わたしはタブンネといいます……」
「タブンネさんかぁ……あぁ、それで早速、頼みごとがあるんだけど、いい?」
「……なんでしょうか?」


「君の足跡、取らしてくれない?」

 
 用意した紙にタブンネさんの右足が静かに乗る。
 可愛らしい音が一瞬した後、紙の上に現れて来たのは一つのハートだった。
「ごめんね。いきなり頼みごとなんかしちゃって。あぁ、そうそう。
 そのインクは本当に水で簡単に落とせるから心配しないでね」
「では……ちよっと洗ってきますね……」
 恥ずかしそうにタブンネさんは微笑むと、ゆっくりと立ち上がって川の方へと向かって行った。
 タブンネさんのふわふわんな尻尾が小刻みに踊っていて、とても可愛い。
 それにしても……タブンネさんかぁ。
 ハート形の足跡かぁ……とても可愛らしいなぁ。
 紙に映ったタブンネさんの足跡を改めて眺めながら、ボクは尻尾を揺らしていた。
 恐らく、今のボクの顔は生き生きしているに違いない。
「ただいま……戻ってきました……」 
 どうやら嬉しさあまり、時の流れを忘れていたらしい。
 川から戻って来たタブンネさんがいつの間にか、ボクの隣に座っていた。
「あ、タブンネさん。本当にありがとね! おかげでいい足跡がまた増えたよ!」
「いいえ……そんな、わたしはただ……その白いモノに、足跡を残しただけですよ……」
 両腕を後ろに回して、もじもじさせながらタブンネさんが答えてくれた。
 瞬きの数も忙しそうに、さっきから増えているような気がするんだけど。
「……あ、あのドーブルさん。一つだけ、聞かしてくれませんか?」
「うん? 質問ってこと? なんでも聞いていいよ? さっきのお礼は後で渡しておこうかな」
 お礼にとびっきりおいしいモモンの実を出そうとしてボクは手を止めた。
 そしてタブンネさんの小さな唇が動いた。
「ドーブルさんは……旅をしているかたで……。
 そして、足跡を、集めているみたい……ですが、どうしてなのですか……?」
「それって、ボクの旅の理由ってことでいいよね?」 
 誤解防止の為にボクは確認する意味を込めてタブンネさんに尋ねてみると、
 彼女は首を縦に振ってくれた。
「ボクたちポケモンってさぁ、ポケモンという同じ名前なのに一匹一匹の姿形が違うじゃない?
 なんか、それにロマンを感じたというか、なんというか…………」
 
 ボクは産まれたとき、この世界のポケモンってボクと同じ姿をしたモノしかいないのではないかって思っていた。
 けど、そうじゃなかった。
 巣から外へ出てみるとボク以外の生き物がいた。
 ボクと同じポケモンと呼ばれているのに、その子は丸くて桃色の体をしていた。
 歌がうまかったから今でも鮮明に覚えているよ。
 心地よくて思わず寝てしまったら、思いっきり『おうふくビンタ』をされたことも、
 「ワタシの歌をさいごまで聞きなさ〜い!!!」っていう言葉を浴びせられたのも覚えているよ。

「そしたらさ、世界中のポケモンってボク以外にはどんなヤツがいるんだろうって気になって
 気が付いたら旅に出てたんだ。そして……足跡はそのポケモンと出逢ったという、変わらない証として集めているんだ」

 ちなみにボクが足跡を押してもらう為に使っている紙は親切な人間からもらったものだ。
 人間は悪いヤツだから近づくなって母さんから耳にオクタンができるほど言われたけど、
 いざ出逢ってみたらイイ人もいたんだ。ポケモンと同じで人にも色々な人がいて、
 ボクの世界観がどれだけ小さかったことか、教えられている気がするなぁ、この旅は。

「大変……だったのでは、ないですか……? いろいろと……その…………」

 確かに色々と大変だった……って現在進行中だけど。
 心配そうにボクの顔をのぞき込んでくるタブンネさんの不安を晴らすかのようにボクは笑った。
 実際、旅は大変だけど苦しいことだけに限定されたわけではないしね。
 
「こうやって可愛らしいタブンネさんに出逢ったっていう嬉しいことだってあるんだから」
 タブンネさんの顔が若干、赤くなったような気がした……多分ね。

 ボクたちドーブルには不思議な技があるんだよ。
 『スケッチ』っていう技でね、相手のポケモンの技を自分のモノにできる技なんだ。
 それで、色々な技を自分のモノにしては自分の旅ができる範囲を広げていって…………。
 例えば……。
 
 ラプラスさんから『なみのり』や『ダイビング』などを『スケッチ』させてもらって、海にいるポケモン達に出逢ったりした。
 紙を使っている関係上、その場で足跡は取れなかったけど、代わりに鱗をもらったなぁ……。
 川辺付近のポケモンからは陸から上がってもらい、足跡をもらっていたりした。
 それにしても、あのラプラスさんは元気にしているかな。
 とても口笛が上手くて、思わず昔のことを思い出しちゃってさ……ちょっと涙が出てきたの覚えているよ。
 
 カモネギさんから『いあいぎり』を『スケッチ』させてもらって、細い木々を倒しては道を開いていったこともあるよ。
「いいかあぁぁぁあ!! いあいぎりぃ、とは! 侍の心を持ってぇええ!! 切り込むのだぞぉぉおお!!」
 ……協力してくれたカモネギさんはいつもテンションが高いお方……いや、かなりの熱いハートを持っている師匠で、 
 カモネギさん曰く、弟子入りの為の鍛練というものに合格しないと『いあいぎり』を『スケッチ』させてくれなかったんだ。
「侍のぉおお! 心をっ! 持たぬやつにぃいい! 中途半端なやつにぃいい!! この技はぁああ! 教えんっ!!!」
 …………恐らく師匠のおかげで根性という言葉が体の芯まで染みついたと思う。

 ゴーリキーさんから『かいりき』や『ロッククライム』などを『スケッチ』させてもらって、山や谷などにいるポケモン達に出逢ったりした
 ウリムーさん達の案内で雪山の温泉に赴いたこともあったなぁ…………。
 雪山だったから、そこで出逢ったポケモン達と雪合戦をしたりとかしたんだ。
 そして寒い寒いと身を震わせながら再び温泉へ……本来は疲れを取る為の温泉だったのに、
 雪合戦と温泉の鬼ごっこで逆に疲れちゃった……けど、なぜだか心地よい疲れだったのを覚えているよ。
 ……また、皆と雪合戦したいなぁ…… 

 ピジョンさんから『そらをとぶ』を『スケッチ』させてもらって、空にいるポケモン達に出逢ったりした。
空を飛ぶ感覚って、まるで自分が雲になったかのようで摩訶不思議なんだよね。
 そして空を飛んでいるポケモンたちには悪いんだけど、
 足跡を取らしてもらう為に地上まで降りてもらったこともあったなぁ……。
 あっ、そうそうボクは普段は歩いて旅をしているんだけど、
 ある程度、足跡を映してもらった、または絵を描いたりした紙がたまると、一回、自分の巣に戻っているんだ。
 荷物がかさばるといけないしね。
 その巣に戻る際に『そらをとぶ』が結構活躍するんだよな、これが。

「……あの、いつも空を飛んで移動すれば……いいのでは……ないでしょうか……?」
 ボクの冒険談を聞いていたタブンネさんからもっともな質問が飛び出てきた。
 確かに、普段から『そらをとぶ』を使えば楽かもしれないけど……。
「う〜ん……それなら空を飛んでいるポケモンには簡単に出会えるけど、
 逆に地上にいるポケモンたちには会いにくくなるから、いつも……というわけにはいかないんだ。
 それに、ボクは空を飛んでいるより、こうやって地上を歩いて行くほうが性に合うしね」
「……ふ、ふくざつな事情があったの、ですね…………」
 心配そうな顔を見せるタブンネさんを安心させるかのようにボクは微笑んだ。
「そんな深刻な問題じゃないから大丈夫だよ。要は適材適所ってやつ……って言って、分かるかな?」
 タブンネさんの頭の上から疑問符が浮かび上がったかと錯覚したぐらい、タブンネさんの青い瞳はきょとんとしていた。
 それがとても可愛らしいものだったから、悪いと思いつつもボクはつい笑ってしまった。
「それと言い忘れてたけど、ボクは歩く方が好きだからさ」
「歩くのが……大好き、なんですか……?」
 
「うん、大好き」
 ボクは自分の足を示しながら答えた。
 
「歩くとさぁ、地面に足跡が残るでしょ? ……ボクはその足跡が大好きでね。
 なんか……自分の物語を残してきた感じがして、ボクにとっては自分の足跡を見ることで、
 生きている……っていう想いと感覚がすごくするんだよ。
 色々とある、生きている、という絵を描くということの一つに、
 きっと足跡があるんだって思った瞬間に、すっごいロマンを感じてね。
 ……それ以来かな、歩くことが大好きなったのは」

「なんか……カッコイイですね、ドーブルさんって…………」
 ボクの話を聞いたタブンネさんが感心したかのようにボクを見つめてくる。
 うわ、わわわっ。
 女の子からそんなに見つめられるとボク、困るんだけどなぁ……と言いたげにボクの尻尾は揺れていることだろう。
 
 あ、ちなみに誤解がないように補足説明をさせてもらうと……。
 足跡がないヤツは駄目なヤツ、というわけではなく、
 本当に、ただ単純にボクが足跡大好きポケモンというだけの話で、
 出逢ったポケモンに足跡を取らしてもらっているのはボクの大好物が足跡、というのと、
 それと、もう一つ、この方法の方が相手に時間をあんまり取らせなくていいかな、と思ったからである。
 ……ボクは一応、絵描きができるけど、早く描くというのが苦手というか、
 ついつい凝っちゃって、時間がかかってしまうんだよね。
 納得いかない! って感じに。
 ……足跡を持たないポケモンに関しては鱗などをもらう他に、その姿を描かしてもらうことがあるんだけど、
 時間をかけすぎないようにしなきゃ! って、いつも意識して描くようにしているから大変なときもあるんだ。

「……ドーブルさんは……とても絵が上手なんですね……」 
 ボクがトートバックから出した、今まで初めて出逢ったポケモンに足跡を取らしてもらった紙と、
 ボクが描いたポケモンの絵をタブンネさんはまじまじと見ていた。
 ちなみにボクが使っているトートバックは森を連想させる深い緑色で、
 その身には誇りという名の汚れとボロをまとっていた。
 これも親切な人間からゆずり受けた物である。
「あの……よろしければ、わ、わたしの絵も描いてくれません……か?」
 いきなりのタブンネさんの提案を映したボクの目は丸くなった。
 今まで、自分からボクに描いて欲しいと言ってきたポケモンが少なかったからである。
「す、すいませんっ。……だ、だめでしたら……」
 しゅん、とうなだれそうになるタブンネさんにボクが慌てて声をかける。
「い、いや! 突然の提案で驚いただけで、もちろん、大歓迎だよ!」
 その言葉を聞いたタブンネさんの顔色が明るくなったような気がした。
 ……タブンネさんって分かりやすいところもあって、本当に可愛いなぁ。
 「じゃあ、描かせてもらうね」

 
 真白の紙の上で踊り続けてくれたボクの尻尾は、
 可愛らしい桃色、独特な柔らかい肌色、ふわふわで甘い白色、そして癒されそうな青色を紡ぎ、
 一匹のタブンネさんを描いた。
「あ、ありがとう、ございます……! こ、これ、ほんとうに、もらってもいいんですか……?」
 タブンネさんが大事そうにボクが描いた絵を優しく抱きしめるように持ちながら尋ねてきた。
「もちろん。こっちも喜んでもらって嬉しいよ」
 さて、タブンネさんも喜んでもらっていることだし、これでめでたしめでたし……という頃には、
 もう月が昇り始めていた……って今夜はどこで泊まろうかな……と迷い始める。
「あ、あの今夜は、ぜひ、わたしのところで休んでいって……ください……」 
「え? いいの?」
「は、はい……狭い場所かも……しれませんが……」
 折角のタブンネさんのご好意を無駄にしたらいけないし、
 それと正直言って、こんな可愛い子と一緒に寝られる機会なんて……そうそうないしねって言ったら怒られるかな?
 とりあえずボクはタブンネさんの住みかに案内してもらうことにした。
 

 タブンネさんの案内でボクがたどり着いたのは一本の大きな木。
 その大きな木の幹には穴が開いていて、その中の空間は二匹ぐらい入っても大丈夫そうであった。
 更に暖かそうなワラがしきつめられていて、くつろげそうな雰囲気がそこにはあった。
 夕食の時間、ボクは渡そうと思っていたモモンの実を『ひのこ』で少しあぶり、タブンネさんにごちそうした。
 程よく熱が通ったモモンの実から……とろけるような甘い蜜が口の中に広がる。
 タブンネさんも青い目を一気にキラキラと輝かせるほどの衝撃を受けたらしく、大絶賛してくれた。
「……ドーブルさん、ちょっと、いいですか…………?」
 夕食を食べ終わると、後はもう寝るだけかなと思っていたところに、タブンネさんの顔がボクに近づいてきた。
 タブンネさんから先程のモモンの実とは違う、甘い香りがしたような気がした。
 なぜだかボクの心拍数が速度を上げているような感覚が……。
「ちょっと……失礼しますね……」
「え?」
 戸惑っているボクをよそにタブンネさんは耳から垂れている、先端が可愛らしく、ぐるっと曲がっているモノをボクの体に当てた。
 そのままタブンネさんは目を閉じて…………しばらくすると、ゆっくりと目を開けた。
「…………少し、疲れ気味、のようですね……少しばかり、ここで、休まれていっては……いかがですか?」
「……………………」
 タブンネさんの真剣な青い眼差しを受けて、ボクは、もしかして…………と思った。
「す、すいません。いきなり、
 そ、その……わたしたち、タブンネはこの耳の触覚で、相手の体調を……調べる……ことができるんです……」

 …………。
 
 ……これは、多分、ばれたかも。

 う〜ん、今まで秘密にしてきたことなんだけど……実は…………。


 ボクの命はもう数年ぐらいしかないらしいんだ。


 あれは……数ヶ月前、ハピナスさんに出逢ったときのことかな。
 足跡を取らしてもらったとき、ボクはどこか、体調がだるかった。
 心配をかけさせないように、ボクはポーカーフェイスを顔に描いたつもり……だったんだけど、
 それを見抜いていたんだろうね、きっと……ハピナスさんは。
 すぐにボクの体を調べると言って、診査をしてくれた結果――。

 ……ボクの命は、もって、後、三、四年らしい。


 そう、ハピナスさんが告げたのだった。


「ごめんね、心配かけさせちゃって。でも、ボクは明日の朝には出発するよ」
「えっ!?」
 タブンネさんの青い目に驚きの色がにじみ出ていた。
 ……これはもうカンペキに、タブンネさんは知ってしまったとみて、間違いなさそうだった。
 タブンネさん自身、なんて言えばいいのか分からないのかもしれない。
 気まずい沈黙の間が降り注いでくる前に、ボクは自分の意思を言うことにした。
「これまで……色々なポケモンに出逢ってきたけれど……タブンネさんは伝説と呼ばれるポケモンを知っているかい?」
「でんせつ……ですか?」
「うん。人間たちやポケモンたちの間で語り継がれているだけで、
 実際に姿を見たものがあまりいないポケモンのことなんだけど……。
 そのポケモンについての有力な情報を手に入れてね、それを元に、これから、そのポケモンがいるって言われているところへ行くんだ」
 ポケモンの中でも伝説とも言われているポケモン。
 真の姿は分からないものの、その伝説という言葉だけで新たなロマンを感じさせてくれるポケモン。
 一体どういうポケモンなのか、
 手足を持っているとしたらどんな足跡なのか、
 それを見ないまま、死ぬのはごめんだった。
 ……まぁ、ご覧の通り、ボクは最期まで新たなポケモンを求めて、新たな足跡を求めて旅を続けることだろう。
 それが使命とか、宿命とか、そういう堅いものじゃなくて、
 ……まぁ、もちろん、世界には色々なポケモンがいるということを知ってもらいたいという気持ちは少なからずあるけど。
 ボクみたいにさ、自分の世界を広げていってほしいなっていう想いもある。
 
 だけど、一番の理由は――

 大好きなこと、だからかな。

 そうじゃなかったら、今まで、ここまで、足跡をこの世界につけてこなかったと思うんだ。


「……あの、ドーブル、さん」
 ボクを見ていたタブンネさんの青い瞳が若干、うるんでいた。
「……そ、その、『スケッチ』と、いう、わざは、まだ……つかえ、ます、か?」
 今にも泣きそうなタブンネさんだったが、必死に青い湖からあふれ出そうな雫を押さえ込んでいた。
「うん……まだ二、三回使えるはずだよ」
 自分のだいたいの感覚から数値を出したボクに、タブンネさんが微笑みを努めようとした。
「よ、よろしけ、れば……わたし、の……『リフレッシュ』と、いうわざを『スケッチ』して、くだ、さい……」
 タブンネさんが声を上げて泣くことはなかった、しかし、その青い湖から数粒が空中へと羽ばたいた。
「きっと……くるしく、なった、とき、に……やくに、たつ……と、おもい、ます、から……」
 
「ありがとう……タブンネさん」

 ボクは感謝の気持ちを込めてタブンネさんを抱き締めた。



 
 翌朝、青い空が大きく広がっている中、彼――ドーブルさんは新しい足跡を一歩一歩つけながら出発しました。
 わたしは迷いました。
 ……あのとき――ドーブルさんを初めて見たとき、とても嫌な予感がしました。
 そして、その嫌な予感は当たってしまいました。
 わたしはドーブルさんを止めたほうがいいのではないかと思いました。
 これ以上、自分の体を傷つけて欲しくなかったから……単なる、わたしのわがままだった想いかもしれませんが。
 しかし、わたしは迷いました。
 ドーブルさんの足跡を止めるようなことをしてもいいのだろうかと。
 彼の言う生きている証や想いを消してしまってもいいのだろうかと。
 ………………結局、ドーブルさんの意思が強かった。
 わたしなんかでは、止めることができなかった。
 
 ………………。
 
 わたしは、ドーブルさんに出あえて、誇りに思っています。

 どうか、彼が一つでも多くの、足跡を残せるように。


 


 この世には世界中のポケモンに出逢いたいと、旅をしている人間がいる。
 俗に言うポケモントレーナーという者の他には
 世界中のポケモンと出逢いたいと、旅をしているポケモンだっている。

 ベレー帽のような頭で、
 長い尻尾の先端は絵筆のような形をしており、
 そこから文字や絵の産声が上がる。
 彼の名はドーブル。
 世界中のポケモンと出逢う為に、世界中に足跡を残して来たポケモンだ。
 
 今、私たちが様々なポケモンを知っているのは、
 旅ポケ『ドーブル』が残してくれた足跡が起こした、キセキなのかもしれない。









【ちょっと手直しをしました】

●今回の経緯など。

誤字発見マスターのサトチさんからのアドバイスを元にちょっと手直しをしました。
No.017さんから恐れ多くも、今回のコンテスト作品とともにこの作品もアーカイブ掲載しませんか? と誘っていただき、
ちょっとした改稿版を書く次第になりました。

今回の物語は、最初の文にも書いてあるとおり、
ポケモンに出逢う為に旅をしている人間がいるのなら、
ポケモンに出逢う為に旅をしているポケモンもいるのではないか? という考えから生まれた物語です。

テーマとしては『足跡=旅=生きるということ』な感じで書いていったのですが、
終盤の方で、どうやって、話を結ぼうかと迷いました。
ドーブルとタブンネさんがラブラブになって一緒に旅をして…………。
子孫がドーブルの旅を受け継ぐ=足跡は受け継がれていく=生は繋がっている、という感じにしようかと思いましたが、
それだと、詰め込み過ぎなってしまうかなぁ……と感じて、断念しました。

タイトル名はドーブルの今までの旅を示せるように、シリーズものな感じにしてみました。
実は旅人にしようか、旅ポケにしようか、どちらにしようかと迷いましたが、
旅人にしたら、ポケモントレーナーになってしまうのでは? と思って、旅ポケの方に決めました。

書くときに注意したのは、
タブンネさんのセリフで、あのキュートな雰囲気を壊さないように気をつけたのと、
泣くときのセリフでは、どこに句点が入るのか? と考えながら書いたところです。 

ちなみに最後のキセキは奇跡と軌跡の両方の意味を含みます。



感想 & 批評をくださった方々ありがとうございました!

それでは失礼しました。




      


  [No.1890] アーカイヴ掲載しました。 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/09/19(Mon) 22:38:21   22clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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載せると言ってからだいぶ経ってしまいましたが、アーカイヴ掲載いたしました。
修正版をあげる、修正箇所がある等がございましたら遠慮無くどうぞ。    


  [No.1124] 海岸線 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2011/05/02(Mon) 23:44:50   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 寄せては返す波。
 耳に響くその音色。
 私は歩く。伝承の地の海岸線を。
 そこにつく足跡は一人分だけ。

「ほうら、みなさいよ。やっぱり私に相棒なんていなかったんだわ」
 それを見て、振り返った私は言った。
 波に攫われ消えていく足跡。
 消えていくのも一人分だけ。




●海岸線




 初心者用ポケモンは、だいたい草、炎、水という相場が決まっている。
 昔は地方によって貰える種類が違ったらしいのだけど、最近はいろんな地方の十五匹くらいから選べるようになっている。草の五匹、炎の五匹、水の五匹っていう寸法だ。彼らは非公式な言い方で「御三家」と言われていたこともあったけれど、今じゃすっかり死語になってしまった。
 カタログというと言い方が悪いけれど、ポケモンの姿と特徴が書いてある冊子を事前に渡されていた。ようするに結婚式や葬式のお礼に渡されるあれと一緒だ。この中から好きなのを選べって奴。

「ねーねー、最初のポケモンもう決めた?」
 私と同じ年頃の子達は男の子も女の子もそんな話でもちきりだった。
 ある一定の年齢になるとポケモンを所有することを許され、子ども達は旅立ってゆく。
 私はずっとずっと後になって知ることになるのだけれど、実はこれには地域差があって、わが子を旅立たせることに積極的な町とそうでない町があるらしい。とりあえず私の生まれ育った町は間違いなく前者のほうだった。 
「私、チコリータ!」
 と、一人が言った。
「僕はアチャモにする!」
「俺はミジュマル! なんたって進化系がイカすよな」
 彼らはカタログを広げて次々と自分の相棒になるポケモンを指差した。正直そんな話題を聞くのにウンザリしていたし、ウザかった。
 みんなは相棒と出会える日を楽しみにしていた。この町を旅立つ日を今か今かと心待ちにしていた。そんな彼らに比べると、私のテンションはすこぶる低かったと言っていい。
 カタログの一番後ろのページには、キリトリ線のついた希望票がある。欲しいポケモンに丸をつけるのだ。これを町の博士に提出するのだけど、私は触ってもいなかった。
「ミミ君、初心者用ポケモンなんだけど、決めてないのキミだけなんだってね」
 可愛い子には旅をさせよ主義のママの差し金だろうか。
 今日の授業と帰りの会が終わって、教室から出ようとした時、担任にそう言われた。
「先生には関係のないことです」
 私はそう返すと教室を出た。
 廊下に出ていた下級生が、私の顔を見てすっと道を開けた。



「ミミちゃん、おかえりなさい」
 庭に伸びるテラスで、ママがリザードンの尻尾の炎をコンロ代わりにしてフライパンを操っていた。
 私のママは今でこそ専業主婦だが、結婚前はやり手のトレーナーでブイブイ言わせていたらしい。弱小トレーナーだったパパ情報によると"火竜使いのミオ"としてリーグでは恐れられる存在だったんだとか。そんなママだからして、次の一言は決まっていた。
「で、ミミちゃん、最初のポケモンは決まっ……」
「いい加減にして! 私、旅には出ない! 最初のポケモンもいらない!」
 昼間のイライラが頂点に達して、ここで爆発した。
 私はママの言葉を遮るとドカドカと階段を上り、二階の自室に駆け込んだ。
 ドアを閉める。鞄を部屋の中に投げ出すと、私はベッドに潜り込んだ。
 そうして誰にも聞こえない布団の中にくるまって呟いた。
「放っておいてよ。どうせ仲良くなれやしないんだから……」

 私はママやパパとは違う。
 トレーナーにならずに進級して、ポケモンとは縁のない、そういう人生を送るのよ。
 目を閉じた。頭の中で何度も何度も、同じ言葉を繰り返した。



 一ヶ月くらい前だった。
 学校のポケモン学科、その体験授業にこの町から旅だったというトレーナーさんがやってきた。
 トレーナーさんはいろいろなポケモンを見せてくれた。
 他の地方の変わったポケモン、地を駆けるたくましい獣ポケモンや、空を舞う優雅な鳥ポケモン、そして、はじめて手に入れたポケモンの、その最終進化の姿。
「うわー!」
 私達は歓声を上げた。私もみんなもポケモン達を前にしてすごく興奮していた。わくわくしていた。
 体験授業では模擬バトルが行われた。
 具体的にはポケモンとクラスメートを二組に分けて、トレーナーの連れてきたポケモンに命令をして技を出してもらうというものだった。
 鍛えられたポケモン達が繰り出す華麗な技。大技もあったし、美しい技もあった。
 自分の思い通りの技を出してもらってみんな喜んでいた。一回技を出すごとに次の子に交代していく。
 ドキドキした。早く私の番が回ってこないかなって。
 あと三人、あと二人、あと一人……そうしてとうとう私の番になった。

 だけど――


 汗だらけになってハッと私は目を覚した。
 いつの間にか眠っていた。思い出したくもない嫌な夢だった。
「ミミちゃーん、ゴハンよ。降りてらっしゃーい」
 不意に下の階からママの声が聞こえた。



 そんな我が家の夕食はいたって静かだった。
 箸やスプーンが容器に触れる音がするだけで、目立った会話はない。さっき私が怒鳴り散らしたせいだろうか、ママは何も言わなかった。いつの間にか帰ってきていたパパもそういう空気を察したのか、ただ口の中に食べ物をかきこむだけだった。
 なんだか気まずいなとは思ったけれど、どうにもならない。私はさっさと食事を切り上げて部屋に戻るつもりだった。
 けれど、私が皿に乗った料理をすべて口に運ぶその前に、そんな静寂は突如として破られることになった。
 ピンポーンと、玄関のインターホンが鳴ったのだ。
 私はドキリとした。
 町の博士が未提出の希望票を回収しにきたのではないか。そう思ったからだ。
 けれどそれは玄関に立ったママの声ですぐにいらない心配だとわかった。
「ミキヒサじゃないの! もー、来るんだったら連絡くらいよこしなさいよ!」
 という、ママの嬉しそうな声が聞こえたからだった。
 おじさんだ! 私はママの声につられて玄関に駆け出した。

「いやーミミちゃんひさしぶりだねえ。すっかり大きくなって。元気にしてた?」
 テラスの席で出されたビールを飲むおじさんは上機嫌だった。
 ミキヒサおじさんはママの弟だ。ママとは歳がだいぶ離れていて、まだだいぶ若くって、現役のトレーナー。だから私にとっては大きいお兄さんみたいな感じで、ちょっと憧れだった。もっともママに言わせると、トレーナーとしての腕前は大したことないらしいのだけど。
「はい、おみやげ」
「うわー、ありがとう」
 おじさんは紙袋に入ったお土産を手渡して、旅先の話をしてくれた。なんでもこの近くの町でコンテストのようなものがあって、それで寄ったということだった。私とおじさんはしばし旅の談義に花を咲かせた。
 そのうちにパパは明日も仕事があるからと寝室に上がっていって、ママは布団を敷いて来るわと言ってやはり同じように上がっていった。
 次第に会話の勢いも落ちてきて、二人でお菓子をつまみながらなんとなくテレビを見る。そんな展開になった。
 画面が切り替わって、フレンドリィショップのキャンペーンCMが流れる。モンスターボール十個で一個オマケ! もれなくプレミアボールプレゼント! すっかりおなじみのフレーズだ。
 お菓子の中からポップコーンを何個か掴んで口に運ぶ。お菓子の皿の横には土産袋から顔を覗かせたネイティオこけしが立っていた。その木彫り念鳥と目があったその時、不意におじさんが言った。
「そういえばミミちゃんそろそろ十歳なんじゃない?」
 がりっと奥歯が何かを噛んだ。さっき口に入れたポップコーンの中に硬いのが混じっていたからだ。その歯ざわりを口に残したまま私は硬直した。
 悲しいかなトレーナーの性。
 やはり「年頃」の子どもにはこういうことを聞かずにはいれないらしい。
 が、硬まった私の様子を察したのだろうか。
「ん? もしかして俺、まずいこと聞いちゃった……? …………ごめん」
 と、おじさんはとっさに謝ったのだった。
「え? あ、あの……」
「いやいや、いーんだ! 俺もその、ミミちゃんは姉ちゃんの子だからそういう思い込みがあったってゆうか。いやそういう人生もあるさ。ポケモン連れて旅立つばかりが人生じゃないって」
「え! あ、ああ! そ、そうだよね」
 むしろおじさんのうろたえぶりに、こっちが慌ててしまった。
 ママもパパも先生も、回りの大人の人はみんな、子どもは十歳になったらはじめてのポケモンを貰って旅立つのが当然って態度だったから。
 けど、おじさんはそのどの人達とも違った。だから私も素直になれたんだと思う。
「そっかー。でもミミちゃんはポケモンが嫌いなようには見えないけどなぁ。なんかあったの?」
 だからおじさんがこう聞いてきた時に、私は初めて一ヶ月前のことを白状したのだ。


 一ヶ月くらい前。ポケモン学科の模擬バトル。
 トレーナーさんの連れてきたポケモンは、ちっとも私の言うことを聞いてくれなかったのだ。ほかのクラスメートの言うことは素直に聞いたのに、だ。「おや」のトレーナーがいさめても、他のポケモンに替えてみてもぜんぜんダメだった。
「気にしないでいいよ。ポケモンの機嫌とか相性もあるし、よくあることなんだよ」
 そう言って、先生もトレーナーさんも慰めてくれた。
 ポケモンではよくあること。それは些細なこととして受け取られた。
 けれど、私はすっかり自信をなくしてしまった。
 だって私だけ。私だけだったのだ。
 きっと私はポケモンに嫌われる体質なんだ。こんなんじゃ、はじめてのポケモンを貰ったってうまくやっていけるわけがない。
 ママはかつてのリーグ上位経験者だ。とてもそんな事が理由とは言えなかった。もちろんパパにも言えなかった。


「なるほどねー。それは落ち込んじゃうよねー」
 おじさんは私の話をうん、うん、と一通り聞いて、そう言った。
「でもねミミちゃん、世の中いろんな性格な人がいるように、君と仲良くなれるポケモンだってきっといるよ」
「……そうかなぁ」
 私は半ば涙ぐんで答えた。カタログで選べるポケモンは十五もいるけれど、そのどのポケモンとも仲良くなれるとは思えなかったから。
 訓練されたポケモンでさえ、ろくに言うことも聞いてもらえなかった私。そんな私がポケモンを貰ったって……。
 私はうつむいて黙ってしまった。
 するとおじさんが思いがけないことを言った。
「ミミちゃん、ムスビ海岸に行ってみたらどう?」





 ……私が思うに、たぶんおじさんは女の子は占いが好きだって思ってるんじゃないだろうか。それはある種の女の子達にとっては真実だけれど、私はあんまり信じていない。きっとママに似てリアリストなんだと思う。
 けれどなんだか話を聞いてくれたおじさんに悪い気がして、次の日は土曜日だったこともあって私は出かけることにした。
 タタン、タタンと音を立てて、列車が線路の上を軽快に走っている。
 街を抜けて、何かの工場地帯を抜けて、移り変わっていく窓の外には時折海が見えた。
 最初の駅で電車に乗ってから、もう三時間が経過していた。まったく私も物好きだよなって思う。
 でも「最初のポケモンはまだか」の喧騒から離れられたのは結構ありがたかった。なのでおじさんにはどっちかっと言えば感謝してる。
 ただし、おじさんの語ったムスビ海岸とやらの言われ自体は結構眉唾モノだよなって私は思った。
 おじさんいわくムスビ海岸の言われはこうだ。


 昔むかし、小さな国を統べる領主の息子がいた。彼は十歳になった時、自分のポケモンを選ぶことになった。すると城下のポケモン使い達が自慢のポケモンをこぞって献上しようとしたらしい。領主の最初のポケモンに選ばれることは大変な栄誉だったからだ。自分の家から領主のポケモンが選ばれたとあれば箔がつく。自分の育てたポケモンを高く買ってもらえるし、商売繁盛ってわけだ。
 しかし困ってしまったのは当の本人だ。あまりに数が多すぎた。困った領主の息子は神様にお伺いをたてることにした。
 自分に相応しいのはどのポケモンか。そのお伺いを立てたのがムスビ海岸にある小さな社であるらしい。

「きっとその息子さんとやらも、私と同じだったんだわ」
 海の喧騒を聞きながら私は呟いた。あんまりにも周りがうるさくてうるさくて、だから離れたかったに違いない。きっと庶民だろうと、領主の息子だろうと世間のわずらわしさからは逃れられないのだ。
 社は砂浜を一キロほど歩いたその先にあるとのことだった。ザクッ、ザクッと砂を踏むと足にその感触が伝わってくる。私は寄せては返す波をよけながら、砂浜に足跡をつけながら歩いてゆく。
 静かな海だ。シーズンオフだからか、駅を離れてしまったら人の姿は見られなかった。
 たぷんと波が寄せて、私の足跡を攫ってゆく。

 そうして、領主の息子はムスビ様にお伺いを立てた。
 どうか私に相応しいポケモンを教えてください、と。
 このお話のキモは、彼が参拝を終えて帰るその時のことだ。

 砂浜を一キロほど歩くとそこそこ大きい松の木が生える小高い丘がある。松の下にその社はあった。
 祀られているのはムスビ様。おじさんいわくラルトスの姿をしているとかしていないとか。話には聞いていたけれど、ラルトスなら寝泊りできそうな程度の、本当に小さな社だった。
 誰かが定期的に手入れしているのだろうか、こぎれいにしてある。私はおじさんに持たせてもらったオレンの実を置いて、五円玉を賽銭箱に入れた。
 ぱんぱん、と手を叩く。
「ムスビ様、ムスビ様、どうか私に相応しい相棒を教えてください」
 手と手を合わせ、しばしの沈黙。一礼して私は社を後にした。

 参拝を終えて領主の息子は社を後にした。神託はいつになるだろうと思いながら。そうしてそれは思いがけない形で現れたという。
 不意に彼は名を呼ばれた気がして、元の道を振り返った。そうして自分の歩いてきた砂浜を見て驚いた。
 そこには自分以外の何者かの足跡が、自分の足跡のとなりに歩くようについていたのだ。それは間違いなくポケモンの足跡だった。
 里に帰った領主の息子はさっそくその足跡の主を探した。
 そうして見つけた。それは粗末な格好の若者が差し出したポケモンの足跡だった。
 領主の息子はそのポケモンを受けとり、その若者を傍付に取り立てたのだそうだ。
 ポケモンは有事にあたっては領主を守り、若者は領主を支える重鎮となった。領主の息子は名君と呼ばれるようになり、国は大いに栄えたという。

 五百メートルほど歩いただろうか。私は後ろを振り返った。そして、自分の足跡の、そのとなりを確かめた。

 何も無かった。


「ほうら、みなさいよ。やっぱり私に相棒なんていなかったんだわ」
 と、私は言った。
 別に信じちゃいなかった。期待なんてしていなかった。
 だって、普通に考えて足跡なんてつくわけないもの……。
 だから、眉唾だって最初から疑ってかかっていたじゃないの。
 バカね、私ったら。何を期待してたっていうのよ。最初から期待なんてしていなかった。期待なんか、していなかったんだから……。
 私のとなりに足跡はつかなかった。ポケモンの足跡はつかなかった。
 すぐに波がやってきて、私の足跡を攫った。そうして海岸は元通りになった。
 おじさんもおじさんだわ、と私は思う。
 そうよ、当たり前じゃない。最初から決まっていたことじゃないの。結果なんか見えていたじゃないの。私にこんなことさせてどうするつもりだったのかしら……。
「帰ろう」
 私は呟いた。
 寒くなりそうだったから駅への道を急いだ。

 帰ろう。帰ってちゃんと私の意思を伝えよう。私はポケモントレーナーにはならないって。
 私は旅に出ることはない。進級して、ママやパパとは違う道を歩むんだって。

 そんな風に私が決心を固めたその時だった。
 不意に二つの影が私の横を通り過ぎた。





 参拝から帰ってきた私を見て、ママとパパ、そしておじさんは目を丸くした。
 私が両手に奇妙なものを抱えていたからだ。
「ミミちゃん、それどうしたの?」
 ママが聞いた。
「ムスビ海岸で、その、ちょっと……」
 私はもじもじと答えた。


 帰ろうとしていた時、不意に二つの影が私の横を通り過ぎた。二匹のポケモンだった。
 一匹は一つ目の銀色に光るポケモンで、磁石の腕をキリキリと回して電撃を放っていた。そうしてその磁石腕に追いかけられるポケモンがもう一匹。紫色の小さなポケモンだった。
 二匹は私の横を瞬く間に通り過ぎると、しばらくしてまた戻ってきた。
 一方的な展開だった。
 銀色のポケモンが電撃を放って、紫のポケモンが懸命にそれを避けている。反撃はしない。ひたすら逃げ回っているだけだ。私はポケモン学科で学んだ知識を総動員する。思うに相性が悪い。紫のポケモンが打って出たところで、銀のポケモンに大したダメージは与えられない。それが私の出した結論だった。
 もうとっくに勝負などついているだろうに銀色の一つ目はしつこかった。
 バリバリッ、と電撃が放たれる。紫のポケモンがよけきれず、痺れた。銀色がとどめとばかりに両腕を構える。
 いつのまにか私は、海岸の砂を一握り、掴んでいた。
「いい加減にしなさい!」
 私は砂の塊を磁石ポケモン『コイル』に向かって投げた。そこまで正確に狙っていたわけではないのだけど、いい感じに塩水を吸っていた海岸の砂は、べちゃ、とコイルの一つ目に直撃した。コイルはしばらく磁石腕をぶんぶんと振り回した後、あわててどこかに退散していった。
「大丈夫?」
 紫のポケモンに私は声をかける。
 すると球体にでこぼこをつけたようなそのポケモンは振り返り、私を見たのだった。



「ママ、私、最初のポケモン、この子にする! この子とだったらうまくいく気がするの」
 そんな経緯を話し終わった頃の私には、1ヶ月前に失った勢いが戻ってきていた。
 両腕にむんずと掴んだポケモンを「どや!」と前に突き出して私は言ったのだった。
「え、ええ。ミミちゃんがいいならママは何も言わないけど……」
 少し困惑した様子でママは言った。パパも最近の子の好みはわからないなぁって顔でこっちを見てる。でもおじさんはニコニコしていた。
「やったあ! これからよろしくね」
 そう言って私は紫色のポケモンを手から放した。ポケモンはぷわーっと浮かび上がって回転した。腹に描かれたドクロマークがくるくると回った。
 ドガース、毒ガスポケモン。
 そんなわけで私のはじめてのポケモンは炎でも草でもなく水でもなかった。


「そういえばミミちゃん、海岸の足跡どうだった?」
 私がドガースと戯れているとおじさんが聞いてきた。
「足跡? あれ、ぜんぜんだめだったよ。私の足跡しかついてなかった」
 私は答える。するとおじさんが笑って言った。
「そうかぁ、じゃあ神託は当たったんだね」
「え?」
「だってさ、ドガースって宙に浮いてるから足跡なんてつかないじゃない」
「…………、……………………」
 ドガースを抱きかかえた私はなんだかわるぎつねポケモンにつままれた気分になった。
 ……いやいやたぶん偶然でしょ? そんなことを思いながら。

 でもいいや。
 今はそういうことにしておいてあげる。





 ねえ、知ってる?
 海岸の向こうにある小さな神社にお参りするとね、神様があなたの相棒を教えてくれるの。
 砂浜を歩いていると、相棒の足跡があなたの足跡のとなりにつくんですって。
 でも、もしも足跡がつかなくてもがっかりしないでね。
 あなたにぴったりの相棒はきっとどこかであなたを待っているって、私はそう思うの。



 寄せては返す波。
 耳に響くその音色。
 私は歩く。伝承の地の海岸線を。
 そこにつく足跡は一人分だけ。

 けれど今、私のとなりにはこの子がいる。


  [No.1203] 再会【ver1.1】 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/05/19(Thu) 00:22:12   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 広く、荒野を渡る風の音。

 見渡す限り、土が面(おもて)を見せ、雑草の一本さえ生えていない。

 少年がひとり、銀色の棒を杖がわりに、不毛の地を歩んでゆく。

 標なき大地に、少年の足跡が道となって続いていく。

 彼が顔を上げ、微笑むその先には、白レンガを積み上げた有史の街の跡が、悠然と存在している。


 風が吹き、一枚の紙が、誘われるように壊れた窓から身を踊らせた。




 少年は、時折手に持った金属の棒を振り回しながら、まっすぐ、できるだけまっすぐ街へ進んでいた。
 レンガで区切られた外側に、緑はない。
 天然に存在し得ない、ベンゼン環や多価元素の組み合わせが、大地に萌ゆる命を枯らしたのだと、少年は聞いていた。

 この荒れ果てた大地も、壊れた市壁も、先の戦争の負の産物だと、少年は聞いている。
 金属探知機を杖がわりに進みながら、少年は、そんなことは関係なく、ただ目前の遺跡がかつてどれだけ美しかっただろうかと考えている。

 戦争の最中(さなか)、岐路に立つ度に、この街は戦場となったのだという。

 かつては、市壁が遥か大地の向こう側まで伸びゆき、天から見るとひとつの象形を成したという。
 五芒星であったとも、神格の鳥獣であったとも言われるが、それを確かめる術はない。
 一番内側の一枚を遺して、大戦の時に全てが崩落してしまった。
 そして人は、壊れた壁を見上げるしかない。


 少年は、ひとつの街で、三度夜を明かすことを習わしとしていた。
 そう決めたわけではなく、街に着き、街を見て回り、眠り、次の日は午後まで寝過ごしてから街を見、そうして最後の日に出立の準備をして眠ると、自然と前を向き、歩き出す心が整うからだった。
 だから、少年はこの街でも三夜過ごすつもりだった。
 まず、一日目は街を見て回る。見て回りながら、連泊のための宿を確保する。
 その心づもりをした少年が、杖を置き、一旦腕を休めてから、再び歩き出そうとした時、何かが風に誘われてヒラリと舞い飛んだ。

 何だろうか。
 少年の上向けた目に、青空と、ヒラリ、真白な紙が見えた。
 ふと誘われて数歩進み、紙を手に取ると、その真白の面に黒い模様があるのを、少年は見て取った。
 円を基調とした模様に、わずかに凹凸がある。円の中にもうひとつ、黒が掠れて小さな円の形を示していた。
 凹凸のある方を上に見て、小さな円を肉球だと考えれば、これは獣の足跡に見えなくもなかった。さりとて、何の足跡かと問われれば、少年には分からなかった。
 けれど、それを郷里の土産にと、畳んでいくつもある内ポケットに仕舞い、細かな探索は明日にしようと、まずは宿を探し始めた。


 最後に市壁を壊したのは、人間らしい。多量の爆弾を降らし、大地を荒れさせたらしいが、その頃はもうこの街に人はいなかったはずで、何の為にそうした行動に出たのか、大きな謎のひとつだった。
 ただ、その為に美しい景色がひとつ失われたことを、少年は悲しんでいた。


 次の日、少年は相変わらず金属探知機を握りながら、街の中を巡っていた。服屋に機械屋、旧時代の店には色々と面白いものがある。
 少年が選んだのは、過去、デパートメントストアと呼ばれていた建物だった。戦争が起こる前、人はここに行けば、お金を出すことで何でも手に入れられたという。果たして、それは嘘か真か。少年は、いくらなんでも季節でない食べ物は手に入らないだろう、嘘だと思っていた。

 少年は壊れて動かないエスカレーターを登り、二階へ向かう。
 この地域の文字で、食べ物と書かれている看板を目印に、内部を巡った。
 やはり、食べ物の売られていた場所には、何もなかった。
 通路を作るように置かれた区切りのある棚が、かつての、食べ物が並んでいた時代の盛況を匂わせた。

 少年は三階に上がろうとして、フロアの片隅に置かれたゴミに目を止めた。
 一見、丸い、枯れた木の実のようなそれは、何かでコーティングされ、ただ中身を抜かれ捨てられたのではないことを匂わせた。
 力を込めると開いて、しかし中空の木の実である。
 そこに捨てていこうかと考えて、いや、けれど、先人が壊れないように大事にしていたものだからと、少年はたくさんの内ポケットのひとつに木の実を入れた。

 三階、四階と服屋と機械屋を見て回って、五階に辿り着くと、少し変わった風景が広がっていた。
 服屋とも機械屋とも、食べ物屋とも違う、虹の色で彩られた壁。
 ポケモン、と書かれた昔の文字が見える。
 かつて、ポケモンと人が共に在りし時代、人はポケモンの為に買い物をしたのだという事実が、少年の胸に波紋を起こした。

 そこでさらに、少年は奇妙な物を見つけた。
 ポケモン用の食料品なのだが、幾箱か残り、しかもそのいくつかが開いている。
 人の手でない、何かで乱暴に開けられた跡で、中を見ると、綺麗に食べ尽くされているか、腐って残っているかだった。

 少年は、箱の周りにさらに何かないか、調べてみた。
 綺麗に拭き掃除されていただろう床は白く、汚れがないのに、その箱の周りだけ黒ずみ、あちこち黒点が散っていた。

 少年は、点々の後を追った。
 床のそこここに残る黒は、よく見ると先日の紙の模様に似ている。
 ポケットから紙を出して検めると、大きさから形までそっくりであることが分かった。
 少年は紙を仕舞い、このイタズラの主が誰なのか、見極めようと先へ急いだ。

 少年は、バルコニーへ出た。
 なぜそこに足跡があるのか分からなかったが、確かにここに、模様は続いていた。
 少年は、何か手がかりがないかと周囲を見回す。
 見ると、バルコニーの隅で、小さなプランターに名の知れぬ木が植わってあった。
 名の知れぬ木は実をつけ、その実も名の知れぬものだったが、どこか少年の食べ物と同じ姿形をしていた。
 プランターの周りには、さっきと同じ模様があった。
 結局その日は足跡の主を見つけられず、少年は宿に戻った。


 戦争が始まった頃は、ポケモンと人間が手を組んでいたらしい。
 ならば、何と戦っていたのかと思われるが、少年はうーんと唸って、何かと、と答えるしかない。
 何か諍いがあって市壁を壊したらしい。
 その時はポケモンと人間が協力したのだろうが、少年に委細を知る術はない。


 少年はバッグの中身を改めていた。
 折良く宿とした家にあった保存食料を頂き、如何に保存が効くのかは知らなかったが、バッグに入れるところだった。
 内地の、少年の郷里に近い街ならば、何かしら買い足し、整理、破棄などできるが、無人のこの街では何もやることがなかった。
 外には雨が降りこめ、雨漏りのないこの家に閉じこもるしかない。
 少年はため息をつくと、内ポケットから、先日の紙を取り出し、これは置いていこうか、破棄しようかと考えていた。

 くー、と小さな声がした。
 少年はハッとして顔を上げた。
 雨が降りこめる中、聞き違いかと思った矢先、もう一度くーと声がする。

 少年は立ち上がり、壊れた蝶番に揺れるドアを弾き飛ばし、くーと音のする方向へ走った。
 二階から一階へ、一階からエントランスへ駆け抜け、音の記憶を頼りに扉を開くと、外は土砂降りの雨で、視界も何も効かなかった。

 諦めて部屋に戻る少年の目に、昨日と同じ模様が、今度は水で床に描かれているのが入った。
 もう一日、ここにいよう。
 少年は雨の向こうに消えた、見えない隣人を探すことに決めた。


 二度目の市壁の破壊は、はっきりと歴史に残っている。
 ポケモンが、ポケモンたちだけで、市壁を破壊したのだ。
 それが、この街が岐路にありきと言われる由縁。
 その日から、その時から、戦争は人とポケモンのものになった。
 原因は人がポケモンに撃ちこんだ兵器とも、ポケモンを裏切った人間ともその逆とも言われているが、本当のことは何も分からない。
 ただ、ポケモンたちは人の元から去り、人もまたポケモンたちの元から去った。
 後に壊れた市壁だけが残った。


 空はカラリと晴れ、あちこちに水たまりが残っていたが、石畳で作られた道に、昨日の隣人の足跡は残っていなかった。
 少年は金属探知機を宿に置いて行き、街に辿り着いた日に模様のある紙を手に入れた、あの場所まで来ていた。

 少年は空に手をかざし、待った。
 またあの紙が現れるのではないかと、窓のひとつから隣人が手を振るのではないかと、空(くう)を探りながら、待っていたのだ。

 白レンガの街並みと、窓の並びが沈黙を守り、風が静寂(しじま)を縫って吹き抜けた時、空はひたすら空っぽで、日は早くも沈み始め、少年も、明日にはここを発たねばならないかと思っていた、その時。

 いくつもの風が、空が、いくらもある紙を舞い遊ばせていた。
 少年の求める模様のある紙が、いくつもいくつも、赤と紺の空から降ってきた。
 ある一点、壊れた窓からその紙が舞い飛ぶのを見た少年は、一目散、その建物のその場所へと駆け抜けていった。

 階段を上がり、かつてドアのあった場所から中を覗くと、そこには、一束の紙と、そして今は誰も使っていないインク。
 あの戦争の前、あるいはポケモンと人が分かたれる前、誰かがそこにいて、今は誰も使わなくなった言葉を、一枚一枚の紙にインクで書き記していた。
 その面影に、誰がいたずらしたのか、文字を知らぬ彼か彼女は、言葉の代わりに足跡を、紙に書き記していたらしい。
 床に広がった紙に、ぞんざいに歩きの跡が付され、それらは風に乗って、壊れた窓から外へと羽ばたき出す。
 事の始終を見た少年は、もうここには用はないと、背を向け、出口へ向かった。
 隣人には会えなかった。
 それもまた一興、と思い決め歩き出す。
 部屋を出て、階段を下り、建物の外へ、その目の前に、フラリ、獣が姿を現した。

 犬に似て、犬ではない。
 中型犬ほどの大きさで、顔にはヒゲに似た毛を多く蓄えている。
 背には紺の毛を羽織り、それはマントのように、首元から尻尾の先までの部位を覆っている。
 かつて、人にハーデリアと呼ばれ、人を支え、人と共に生きていたポケモン。少年は、そのことを知らなかった。
 ただ、その者の喜びを感じた。

 その者はワン、とひと声鳴いた。
 少年が、まるで決められていたことのように内ポケットから木の実を出すと、その者は鼻先でそれに触れ、吸い込まれ、そしてまた何事もなかったように木の実の中から姿を現した。
 それが、ポケットモンスターと呼ばれる生き物たちの特徴であることを、少年は知らなかった。
 しかし、木の実を掲げ、隣人が歓喜の遠吠えを上げれば、これからかの者と築くべき関係が、自ずと見えた気がした。


 夕焼け時に挨拶を交わし、次の朝日に共に発つ。
 少年の隣には、新たな隣人の姿があった。


 荒野を風と渡る。

 標なき不毛の大地に、少年とポケモンの足跡が、新たな道を描いて地の果てまで続いていく。



○後書き
 どうしたもんかとすったもんだした結果、コンテストとあまり変わらない形で投稿することにしました。
 改正に向けて数々のアドバイスをくださったサトチさんには、ある意味“未完成”のまま改稿を終えることの謝罪と、何かにつけて言葉の拙い私に丁寧に助言してくださったことへの感謝を申し上げます。

 言い訳開始。これ以上、「再会」に構う気力が起きませんでした。もらった批評・感想はこの「再会」という作品にこれ以上活かすことはありません。その代わり、別の、新しい作品で活かします。言い訳終わり。

 では、この作品を読んでくださった皆様、ありがとうございました。