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  [No.1143] モミジム三連戦! 1/3 投稿者:久方小風夜   《URL》   投稿日:2011/05/05(Thu) 12:00:05   159clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 豊かな自然と歴史、温かな人柄で名を知られるチューゴク地方。
 その中で、穏やかな気候と豊富な資源を持ち、物流の拠点、政治・経済の中心、信仰と歴史の舞台として最も繁栄してきた街、モミジシティ。
 ポケモンリーグに向かうトレーナーたちにとっての、最後の関門がこの場所にある。

 モミジシティポケモンジム、通称モミジム。

 場を守るのは3人のジムリーダー。
 モミジシティの全てを表す草・炎・水の使い手。

 山と自然の「草」、『ジョウ』。
 人と歴史の「炎」、『ケンタ』。
 海と信仰の「水」、『セトナ』。

 これはそんなモミジムの、ある日のお話である。





※※※ 以下、この話はジムリーダー視点で進められていきます ※※※





「たのもーっ!」

 おぉ、元気のええ声じゃのぉ。キセルをふかしながらワシはぼんやりとそう思ぉた。
 挑戦者か、えらい久しぶりじゃのぉ。しばらくだぁれも来とらんかったけぇ、何か懐かしいわ。

 ベンチに寝転んだまんまぼんやりしとると、頭をぶたれた。何すんじゃ、とワシは後ろにおった男……ケンタにゆぅた。

「挑戦者が来ているよ。ちょっとは動いたらどうだい?」
「わぁーっとるわ。ちぃとぼけっとしとっただけじゃろぉが」
「また飲んどったん? ほどほどにしとかんと、体によぉないよ?」

 枕元にある白牡丹の一升瓶(みてとる)を拾い上げてた女……セトナはため息をついた。

「そりゃあ昨日の夜の分じゃ。さすがに今日はまだ飲んどらんわ」
「ほいじゃあこっちのまだ開いとらん方は?」
「そっちゃあ今日の分じゃ。ええじゃろ別に」
「もういいから、早く起きなよ。一番手だろ」
「あぁすまんすまん。今行くわ」

 キセルの灰を落として、賀茂鶴の瓶を片手に、ワシは起き上がった。



 挑戦者を見て、ワシはちぃと驚いた。

「何じゃぁ、挑戦者が3人おるんか」

 ジムに来とったんは、男が2人と女が1人。3人で旅をしとるらしい。
 それにしても3人旅。まぁ仲のええことじゃ。


 このジムはジムリーダーがワシ、ケンタ、セトナの3人。
 挑戦者は、ワシら3人を全員勝ち抜きで攻略せんと、このジムのジムバッジ、メイプルバッジは渡せん。
 ワシらは1人2匹使ぅとるけぇ、まぁ普通のトレーナー1人相手にするんと数は変わらんのんじゃけどな。

 にしても、どがぁしようかのぉ。
 何とゆうても今日は5月5日。鯉のぼりの日。ワシらモミジシティ人の愛する野球チーム、モミジ東洋マジカープの日じゃけぇのぉ。ちぃとぐらいはサービスしちゃってもええと思うんじゃけどのぉ。

 ……あ、ええこと思いついた。
 ワシは3人の挑戦者に向かってゆぅた。

「そうじゃのぉ、ほんまは3人抜きせんにゃあいけんのんじゃけど、せっかく3人で来てくれたんじゃけぇ、1人ずつ相手しちゃるわ」
「えっ」
「おいおい、勝手に決めるなよ。酔ってるのか?」
「酔ぉとらんわ。ええじゃろぉが。今日は祝いの日で。それに、そんくらいの方が面白いじゃろ?」

 うちは別にええけど、ってセトナがゆぅて、ケンタもしょうがないのぉゆぅてため息。
 とはゆぅても、こん中でいっちゃんバトルが好きなんはアイツってこたぁ、ワシゃぁよぉ知っとるけど。

「勝負は2対2の勝ち抜き。回復禁止。誰か1人でもワシらに勝てりゃあ、あんたらぁがバッジを持っていきんさい。ええか?」
「は、はい」
「じゃ、ワシが最初に行くわ。アンタらぁは誰から来るんじゃ?」

 ワシがゆぅと、挑戦者は何か話し合うて、女が前に出てきた。

「ふーん、アンタか。ほいじゃあ、早ぉ来んさい」
「あ、あの……怒ってます?」
「怒っとらんよ。じゃけぇ早ぉ来んさい」
「ううっ……絶対怒ってる……」
「ええから早ぉ来ぃやぁ!」

 ひぃっ、すみませんっ! ゆぅて女は走ってきた。
 名前は? って聞いたら『アキ』ってゆぅてきた。

「ほぉか。ワシは『ジョウ』。使うのは草タイプじゃ。ま、よろしゅうな」



 手持ちん中から2匹選び、更にボールを1つ選んだ。
 ほいじゃやろぉか、とゆぅと、アキはお願いします、と頭を下げた。

「行くよ、ウルガモス!」
「おぉ、最初っから容赦ないのぉ。ほいじゃあ、頼むで、えいちゃん!」

 ワシはヤナッキーのえいちゃんを出した。名前はもちろん、あの谷沢永一(通称永ちゃん)からじゃ。
 セトナが、まーほんまやれんねー、とため息をついた。

「あんたぁ、ほんまにそのネーミングセンスどうにかしんちゃいや」
「ええじゃろぉが別に」

 あのー、初めてもいいですかー? ってアキがゆぅてきた。ああすまんすまん、勝負に戻らんとのぉ。


「ウルガモス、『ぎんいろのかぜ』!」
「ひゃあ、いびせぇいびせぇ。えいちゃん、『かげぶんしん』!」

 何とかよけれた。あーいびせぇいびせぇ。
 こっちが『ふるいたてる』を出したら、あっちも『ちょうのまい』。
 ふぅ、さて、どう来るかのぉ……ん?

「! えいちゃん、跳びんさいっ!」
「ウルガモス、『ねっぷう』!」

 跳んでかわしたんじゃけど、かすってしもぉた。じゃけどそれでも相当なダメージ。いやぁさすが、ぶち強いのぉ。
 えいちゃんはマゴのみを取り出して食べた。うーん、かすっただけでこれとは、ほんまひでーひでー。
 アキはそれ見ぃ、とでも言いたげな顔でこっちを見とる。

「相性最悪ね。私が負ける要素が全然ないわ」
「……わしゃーこーしゃくたれーは好かん。最後までやらんとーわからんじゃろ?」
「ジョウ、なにはぶてとるん?」
「はぶてとらんわ。ちぃと待っとりんさい」

 キセルをもっかいくわえ直す。いっぺん大きゅう吸い込んで言うた。

「『アクロバット』!」

 持ち物がないなって軽ぅなったえいちゃんは高ぉ高ぉに跳び上がった。ほいで体をひねってウルガモスに蹴り。
 頭と体の付け根に直撃した蹴りは、そりゃあばちよぉ効いたようで、ウルガモスはへたった。
 アキはなんとのー、いうた顔でぽかんとしとった。
 煙を吐き出してワシぁゆぅた。

「ワシらぁのぉ、リーグん前ん最後の砦なんで。そがぁに簡単に越えられちゃー困るんじゃ」
「一……撃……」

 ぽかんとしとったアキは息を吐いて、頭を下げた。

「……すみません。モミジジムなめてました」
「ん、わかりゃええよ。ワシゃぁ強いもんが好きじゃけぇのぉ。ま、きばってきんさいや!」

 ワシがゆぅと、アキはしっかりとうなずいた。


「お願い、ジュペッタ!」

 アキの放ったボールから、ジュペッタが出てくる。なるほど、ええ目をしとるわ。
 ワシはえいちゃんにもう1回『ふるいたてる』を命じた。

「ジュペッタ、『シャドークロー』!」

 黒い爪がえいちゃんをかぐる。はぁ、こりゃ、よぉやるわ。

「えいちゃんっ!」
「ジュペッタ、『トリック』っ!」

 跳び上がったえいちゃんが、地面に落ちた。えいちゃんが持っとったはずのない、黒い玉が背中に縛り付けられとる。
 くろいてっきゅう、かぁ。素早さと身軽さが第一のえいちゃんにはきついのぉ。

「ジュペッタ、『ダストシュート』!」

 えいちゃんがあずっとる間に、ジュペッタの技が決まった。
 ふぅやれやれ、やれんのぉ。強い強い。

「……よぉやったのぉ、えいちゃん。たばこにしときーやぁ」 
「私も、負けるわけにはいきません。あなたたちに勝って、リーグに行きます!」
「ほぉか……ほじゃね、ワシらぁジムリーダーは乗り越えられるためにおるようなもんじゃけぇのぉ」

 ワシはボールを取り出す。もっかいキセルをふかして、ゆぅた。

「……じゃけど、ワシもそがぁに簡単にゃあ負けるわけにゃあいかんけぇのぉ。行きんさい! アスベスト!」

 ほうじゃ。ワシゃあ、そがぁに簡単には負けられん。
 ワシは昔知り合いにもろぉた、エルフーンのアスベストを場に出した。

「……ほんまに、アンタぁそのネーミングセンスどうにかしんちゃいや。ほんまに」
「知らんわ。ワシにこいつぅくれた奴にゆうてくれぇや」

 ワシじゃったら、『タツさん』(もちろん由来はかの名(迷)キャッチャーの『竜川影男』)ってつけるのぉ。ちなみに。


「ジュペッタ、『ふいうち』……」
「アスベスト! 『コットンガード』!」

 あっちゅーまに、アスベストをもふふっと綿に包まれる。あれにダイブするのがほんまたまらんのんよねぇうんうん。
 ジュペッタの攻撃はもふもふの綿に阻まれて身体にたわん。アキは気を取り直してゆぅた。

「ジュペッタ、『シャドークロー』……」
「アスベスト! 『おいかぜ』!」

 ぶわっと風が起こる。アスベストは風にのってふわふわと漂っとる。まぁただ単に漂っとるわけじゃのぉて、自分で起こした風じゃけぇ自分の思うところに飛んで行けるんじゃけど。
 アスベストはけけけっとまぁおちょくっとるように笑ぉた。さすが『いたずらごころ』じゃのぉ。

「アスベスト、『やどりぎのタネ』!」
「ジュペッタ、『ダストシュート』!」

 ひゅう、攻めるのぉ、とワシはつぶやいた。
 相手は『やどりぎのタネ』でじわじわと体力を削られよる。じゃけどまぁ決定打にゃあならん。
 じゃけど、ジュペッタの攻撃もよぉ効かん。

「泥沼ですけど……絶対、勝ちます!」
「ワシも……負けるわけにゃあいかんのぉ」

 ワシはちらっと後ろを見た。ケンタとセトナと眼が合うた。

 そうじゃ。ワシがここにおるんはこいつらのおかげ。
 こんなところで、この先の勝負を終わらせるわけにゃあいかん。




 モミジシティの北のはずれ、何もない田舎がわがた。

 ガキん時に、親父の都合で、モミジシティの外へ出た。
 じゃけどそれからは、毎日が地獄じゃった。


 しゃべりゃあいびせぇゆわれ、話しかけりゃあ怒っとるんかゆわれ、

 何も出来ん、何も言えん、鬱積ばかりがたまる日々。


 あん時もそうじゃった。怒っとらんのに怒っとるゆわれ、普通にしゃべっとるのにいびせぇゆわれ。


 しごーしたら、すっきりした。


 ほいじゃけぇ、毎日毎日、ごーがにえる奴をしばきあげてまわっとった。
 最初ん時、たまたま近ぉにあった盆灯篭をぶん回しよったけぇ、いつの間にかそれがトレードマークになっとった。
 まぁ、あん頃のワシは、ほんまにどうしようもないクズじゃった。


 そんなワシんところに、あの2人はやってきた。


「あんたが『盆灯篭のジョウ』ゆー奴か?」
「あ? 誰じゃワレら」

 カリッ、っちゅうこまい音が聞こえて。
 声をかけられるなり、ワシは男の方……ケンタに頭をぶちまわされた。

「何すんじゃワレぇ!!」
「何しょーるんやはこっちのセリフじゃワレ!! このパープーが! 盆灯篭はご先祖様をリスペクトするもんで人を殴るためにあるんじゃなぁで!!」
「怒るとこおかしゅうないか!?」
「まあまあ、ケンタもジョウ君も、そのへんにしときんちゃいや」

 そういって、女の方……セトナが割り込んできた。

「噂で聞いたんじゃけど、ジョウ君、ポケモンバトル強いんじゃろ?」
「ん……まあ、の」
「じゃあええじゃん。ねえケンタ」
「ほうじゃのぉ。ま、ちゃんと戦うて、ちゃんと見てみんにゃあわからんけどのぉ」

 よぉわからんワシに、2人は言うてきた。

「わしらはモミジシティジム・ジムリーダー。アンタ、わしらの仲間にならんか?」




「……どーしょーもないクズ人間だったワシを、こいつらぁが拾ぉてくれたんじゃ。こんなところで、このバトルを終わらせるわけにゃあいかんのぉ」

 口に出して、気合を入れ直した。

「アンタぁ、そがぁに恥ずかしいことよぉゆえるのぉ」
「まぁ言い辛いけど君は確かにパープーだったよ」
「悪ぃのぉ……じゃけど、今日はちゃんと守りとおすで、ここを」

 さて、バトルに集中せんとの。


 じわじわと体力が削られて、アスベストも相手のジュペッタもだいぶへばってきとった。やどりぎはかなり成長しとるし、綿もだいぶ少のぉなってきとる。
 こりゃあ、もうひと押しじゃのぉ。

 先に動いたんは、アキの方じゃった。

「ジュペッタ、よーく狙って……『ダストシュート』っ!!」


 ……じゃけど、動かん。

 ぽかんとしとるアキに、ワシはゆぅた。

「アンタぁ、『サイジョウ』ゆう場所を知っとるか?」

 アキは知らん、ゆうように首を横に振った。
 ワシは傍らの賀茂鶴の酒瓶を掲げて見せた。

「『サイジョウ』はのぉ、アサギの『ナダ』、エンジュの『フシミ』と並んで、この国の三大銘醸地いわれとる場所じゃ。何でか知らんが、知名度は低いんじゃけどのぉ。賀茂鶴、白牡丹、福美人……ワシゃあ日本酒が好きじゃけぇえっと飲んどるわ」
「日本酒……」
「ところで……アンタんところのジュペッタ、性格は……『ゆうかん』、か?」
「……! まさか!」

 ジュペッタの手から、マゴのみの破片が転がり落ちよったのに、アキはようやっと気がついた。
 まるで酔ぉとるように、あっちゃぁこっちゃぁ、ふらふらとしとる。かと思うたら、自分の頭をぽかぽかとぶちまわし始めた。
 どう見ても、混乱しとる。

「いつの間に……! 『トリック』!?」
「よぉわかっとるじゃないか」
「で、でも、確かあの時もうヤナッキーはマゴのみを使って……」

 アキが、はっとしたよぉにこっちを見た。

「……『リサイクル』……」

 正解、っちゅーてワシは笑ぉた。
 
「アスベストは耐久はあるんじゃけど、決定力にかけてのぉ……ぎりぎりまで削らせてもらわんと、なかなか倒せんのんじゃ」
「そ、それにしても、相手にマゴのみが効くかなんて、トリック使うかなんて、完全に運じゃない……」
「そうじゃのぉ。じゃけど、残念ながら、ワシゃぁ結構な博打うちでのぉ。当然、他の手も考えてはあるけどのぉ」

 アキは首を振った。こがぁに低確率の賭けに負けたんなら、勝てん、って言うて。
 ほいじゃあ、終わらしょーか、ってワシはゆうた。

「アスベスト、『ぼうふう』!!」

 バトル場に、突風が吹き荒れた。




「ジョウ、また控用のベンチめげたでー。アンタんじゃけぇええけど、直しときんちゃいよー」
「やれんのぉ。もちぃと狙いをしぼれりゃあ相手への威力も上がると思うんじゃけどのぉ」
「だから、まだまだ詰めが甘いんだよ君は」
「はっはっは、すまんのぉ」

 アキががっくり肩を落として仲間んとこに戻るんを見て、ワシも賀茂鶴の瓶を抱えてベンチがあったとこに座った。
 酒を猪口に注ぎ、キセルをくわえ、ケンタにゆぅた。


「ほいじゃあ、後は任せたで、ケンタ」




Next battle → VS Kenta

++++++++++++++++++++


ある日のチャットに現れた面子のうち、3人が広島人だったという奇跡から始まったこの話。
しょっぱなはワタクシ久方小風夜が務めさせていただきました。

まぁ自分がしたことと言えば、合作を言いだしたことと、3人のビジュアルを妄想してたことくらいです。
当方、バトルはからっきしなので残るお2人にお任せします。

念のため言っておきますが盆灯篭は全力で笑うところです。


……広島出てから長いので、広島弁がわからなくなりつつある。゜(ノД`)゜。
では、次の作者はあつあつおでんさん! よろしくお願いしまーす!



【気が向いたら翻訳ver.も作るかも】




【詰まらんこぉ読めりゃあアンタも仲間じゃ】


  [No.1155] 【標準語】モミジム三連戦! 1/3【翻訳】 投稿者:久方小風夜   投稿日:2011/05/07(Sat) 07:51:32   121clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:翻訳して】 【違和感を感じたら】 【広島人

※こちらは「モミジム三連戦! 1/3」の標準語翻訳版です。
 広島弁が読めなかった方は、ぜひこちらもご覧ください



「たのもーっ!」

 おぉ、元気のいい声だなぁ。キセルをふかしながら俺はぼんやりとそう思った。
 挑戦者か。随分と久しぶりだなぁ。しばらく誰も来ていなかったから、何か懐かしいなぁ。

 ベンチに寝転んだままぼんやりしていると、頭を叩かれた。何するんだ、と俺は後ろにいた男……ケンタに言った。

「挑戦者が来ているよ。ちょっとは動いたらどうだい?」
「わかってるよ。ちょっとぼけっとしてただけだろ」
「また飲んでたの? ほどほどにしておかないと、体に良くないよ?」

 枕元にある白牡丹の一升瓶(空になっている)を拾い上げた女……セトナはため息をついた。

「それは昨日の夜の分だ。さすがに今日はまだ飲んでないさ」
「それじゃあこっちのまだ開いてない方は?」
「そっちは今日の分だよ。いいだろ別に」
「もういいから、早く起きなよ。一番手だろ」
「ああごめんごめん。今行くよ」

 キセルの灰を落として、賀茂鶴の瓶を片手に、俺は起き上がった。



 挑戦者を見て、俺はちょっと驚いた。

「何だ、挑戦者が3人いるのか」

 ジムに来ていたのは、男が2人と女が1人。3人で旅をしているらしい。
 それにしても3人旅。仲のいいことだなぁ。


 このジムはジムリーダーが俺、ケンタ、セトナの3人。
 挑戦者は、俺たち3人を全員勝ち抜きで攻略しないと、このジムのジムバッジ、メイプルバッジは渡せない。
 俺たちは1人2匹使っているから、まあ普通のトレーナー1人を相手にするのと数は変わらないんだけどな。

 にしても、どうしようかなぁ。
 何と言っても今日は5月5日。鯉のぼりの日。俺たちモミジシティ人の愛する野球チーム、モミジ東洋マジカープの日だからなぁ。ちょっとぐらいサービスしてあげてもいいと思うんだけどなぁ。

 ……あ、いいこと思いついた。
 俺は3人の挑戦者に向かって言った。

「そうだなぁ、本当は3人抜きしないといけないんだけど、せっかく3人で来てくれたんだから、1人ずつ相手してやるよ」
「えっ」
「おいおい、勝手に決めるなよ。酔ってるのか?」
「酔ってねえよ。いいじゃないか。今日は祝いの日だぜ。それに、そのくらいの方が面白いだろ?」

 私は別にいけど、ってセトナが言って、ケンタもしょうがないなぁって言ってため息。
 とは言っても、この中で一番バトルが好きなのはアイツってことは、俺はよく知ってるけど。

「勝負は2対2の勝ち抜き。回復禁止。誰か1人でも俺たちに勝てたら、君たちがバッジを持って行きなよ。いいか?」
「は、はい」
「じゃ、俺が最初に行くよ。君たちは誰から来るんだ?」

 俺が言うと、挑戦者は何か話し合って、女が前に出てきた。

「ふーん、君か。それじゃ、早く来なよ」
「あ、あの……怒ってます?」
「怒ってないよ。だから早く来な」
「ううっ……絶対怒ってる……」
「いいから早く来いって!」

 ひぃっ、すみませんっ! って言って女は走ってきた。
 名前は? って聞いたら『アキ』って言ってきた。

「そうか。俺は『ジョウ』。使うのは草タイプだ。ま、よろしくな」



 手持ちの中から2匹選び、更にボールを1つ選んだ。
 それじゃあやろうか、と言うと、アキはお願いします、と頭を下げた。

「行くよ、ウルガモス!」
「おぉ、最初っから容赦ないなあ。それじゃあ、頼むぞ、えいちゃん!」

 俺はヤナッキーのえいちゃんを出した。名前はもちろん、あの谷沢永一(通称永ちゃん)からだ。
 セトナが、もう、本当にどうしようもないねぇ、とため息をついた。

「アンタ、本当にそのネーミングセンスどうにかしなさいよ」
「いいだろ別に」

 あのー、始めてもいいですかー? ってアキが言ってきた。ああごめんごめん、勝負に戻らないとな。


「ウルガモス、『ぎんいろのかぜ』!」
「ひゃあ、怖い怖い。えいちゃん、『かげぶんしん』!」

 何とか避けられた。あー怖い怖い。
 こっちが『ふるいたてる』を出したら、あっちも『ちょうのまい』。
 ふぅ、さて、どう来るかな……ん?

「! えいちゃん、跳べっ!」
「ウルガモス、『ねっぷう』!」

 跳んでかわしたんだけど、かすってしまった。だけどそれでも相当なダメージ。すごく強いなぁ。
 えいちゃんはマゴのみを取り出して食べた。うーん、かすっただけでこれとは。本当にむごいな。
 アキはそれ見ろ、とでも言いたそうな顔でこっちを見ている。

「相性最悪ね。私が負ける要素が全然ないわ」
「……俺は小理屈を言う奴は好きじゃない。最後までやらないとわからないだろ?」
「ジョウ、何拗ねてるの?」
「拗ねてねぇよ。ちょっと待ってろ」

 キセルをもう1回くわえ直す。1回大きく吸い込んで言った。

「『アクロバット』!」

 持ち物がなくなって軽くなったえいちゃんは高く高く跳び上がった。それで体をひねってウルガモスに蹴り。
 頭と体の付け根に直撃した蹴りは、そりゃぁものすごくよく効いたようで、ウルガモスは力尽きた。
 アキはなんてこったい、といった顔でぽかんとしていた。
 煙を吐き出して俺は言った。

「俺たちはな、リーグの前の最後の砦なんだ。そんなに簡単に越えられたら困るんだよ」
「一……撃……」

 ぽかんとしていたアキは息を吐いて、頭を下げた。

「……すみません。モミジジムなめてました」
「ん、わかればいいさ。俺は強い奴が好きだからな。ま、張り切って来いよ!」

 俺が言うと、アキはしっかりとうなずいた。


「お願い、ジュペッタ!」

 アキが投げたボールから、ジュペッタが出てくる。なるほど、いい目をしているな。
 俺はえいちゃんにもう1回『ふるいたてる』を命じた。

「ジュペッタ、『シャドークロー』!」

 黒い爪がえいちゃんをひっかく。へぇ、こりゃあ、よくやるなぁ。

「えいちゃんっ!」
「ジュペッタ、『トリック』っ!」

 跳び上がったえいちゃんが、地面に落ちた。えいちゃんが持っていたはずのない、黒い玉が背中に縛り付けられている。
 くろいてっきゅう、か。素早さと身軽さが第一のえいちゃんにはきついな。

「ジュペッタ、『ダストシュート』!」

 えいちゃんが手こずっている間に、ジュペッタの技が決まった。
 ふうやれやれ、参ったなぁ。強い強い。

「……よくやったな、えいちゃん。休んでなよ」
「私も、負けるわけにはいきません。あなたたちに勝って、リーグに行きます!」
「そうか……そうだな、俺たちジムリーダーは乗り越えられるためにいるようなもんだからな」

 俺はボールを取り出す。もう1回キセルをふかして、言った。

「……だけど、俺もそんなに簡単には負けるわけにはいかないからなあ。行け、アスベスト!」

 そうだ。俺は、そんなに簡単には負けられない。
 俺は昔知り合いにもらった、エルフーンのアスベストを場に出した。

「……本当に、アンタ、そのネーミングセンスどうにかしなさいよ。本当に」
「知るか。俺にこいつをくれた奴に言ってくれよ」

 俺だったら、『タツさん』(もちろん由来はかの名(迷)キャッチャーの『竜川影男』)ってつけるな。ちなみに。


「ジュペッタ、『ふいうち』……」
「アスベスト! 『コットンガード』!」

 あっという間に、アスベストはもふふっと綿に包まれる。あれにダイブするのが本当に本当にたまらないんだよなぁうんうん。
 ジュペッタの攻撃はモフモフの綿に阻まれて身体に届かない。アキは気を取り直して言った。

「ジュペッタ、『シャドークロー』……」
「アスベスト! 『おいかぜ』!」

 部わっと風が起こる。アスベストは風にのってふわふわと漂っている。まあただ単に漂っているわけじゃなくて、自分で起こした風だから自分の思うところに飛んで行けるんだけど。
 アスベストはけけけっとからかうように笑った。さすが『いたずらごころ』だなぁ。

「アスベスト、『やどりぎのタネ』!」
「ジュペッタ、『ダストシュート』!」

 ひゅう、攻めるなぁ、と俺はつぶやいた。
 相手は『やどりぎのタネ』でじわじわと体力を削られている。だけどまあ決定打にはならない。
 だけど、ジュペッタの攻撃もあまり効かない。

「泥沼ですけど……絶対、勝ちます!」
「俺も……負けるわけにはいかないな」

 俺はちらっと後ろを見た。ケンタとセトナと眼があった。

 そうだ。俺がここにいるのはこいつらのおかげ。
 こんなところで、この先の勝負を終わらせるわけにはいかない。




 モミジシティの北のはずれ、何もない田舎が俺の家。

 子供の時に、父親の都合で、モミジシティの外へ出た。
 だけどそれからは、毎日が地獄だった。


 しゃべると怖いと言われ、話しかけると怒ってるのかと言われ。

 何も出来ない、何も言えない、鬱積ばかりがたまる日々。


 あの時もそうだった。怒ってないのに怒ってると言われ、普通にしゃべってるのに怖いと言われ。


 ぶちのめしたら、すっきりした。


 だから、毎日毎日、癇に障る奴を懲らしめて回っていた。
 最初の時、たまたま近くにあった盆灯篭をぶん回していたから、いつの間にかそれがトレードマークになっていた。
 まあ、あの時の俺は、本当にどうしようもないクズだった。


 そんな俺のところに、あの2人はやってきた。


「あんたが『盆灯篭のジョウ』って奴か?」
「あ? 誰だてめぇら」

 カリッ、という小さな音が聞こえて。
 声をかけられるなり、俺は男の方……ケンタに頭を殴られた。

「何すんだテメェ!!」
「何してんだはこっちのセリフだ貴様! この馬鹿が! 盆灯篭はご先祖様をリスペクトするもので人を殴るためのものじゃねぇぞ!!」
「怒るところおかしくないか!?」
「まあまあ、ケンタもジョウ君も、そのへんにしておきなさいよ」

 そう言って、女の方……セトナが割り込んできた。

「噂で聞いたんだけど、ジョウ君、ポケモンバトル強いんでしょ?」
「ん……まあ、な」
「じゃあいいじゃない。ねえケンタ」
「そうだな。ま、ちゃんと戦って、ちゃんと見てみなきゃわからないけどな」

 よくわからない俺に、2人は言ってきた。

「僕たちはモミジシティジム・ジムリーダー。君、僕たちの仲間にならないか?」




「……どうしようもないクズ人間だった俺を、こいつらが拾ってくれたんだ。こんなところで、このバトルを終わらせるわけにはいかないな」

 口に出して、気合を入れ直した。

「アンタ、そんな恥ずかしいことよく言えるわね」
「まぁ言い辛いけど君は確かに残念な馬鹿だったよ」
「悪いな……だけど、今日はちゃんと守り通すぜ、ここを」

 さて、バトルに集中しないとな


 じわじわと体力が削られて、アスベストも相手のジュペッタもだいぶ疲れてきていた。ヤドリギはかなり成長しているし、綿もだいぶ少なくなってきている。
 これは、もうひと押しだな。

 先に動いたのは、アキの方だった。

「ジュペッタ、よーく狙って……『ダストシュート』っ!!」


 ……だけど、動かない。

 ぽかんとしているアキに、俺は言った。

「君、『サイジョウ』っていう場所を知ってる?」

 アキは知らない、というように首を横に振った。
 俺は傍らの賀茂鶴の酒瓶を掲げて見せた。

「『サイジョウ』はな、アサギの『ナダ』、エンジュの『フシミ』と並んで、この国の三大銘醸地って言われている場所だ。なぜか知らないけど、知名度は低いんだけどな。賀茂鶴、白牡丹、福美人……俺は日本酒が好きだからたくさん飲んでるよ」
「日本酒……」
「ところで……君のところのジュペッタ、性格は……『ゆうかん』、かな?」
「……! まさか!」

 ジュペッタの手から、マゴのみの破片が転がり落ちていたのに、アキはようやく気がついた。
 まるで酔っているように、あっちへこっちへ、ふらふらしている。かと思ったら、自分の頭をぽかぽかと殴り始めた。
 どう見ても、混乱している。

「いつの間に……! 『トリック』!?」
「よくわかってるじゃないか」
「で、でも、確かあの時もうヤナッキーはマゴのみを使って……」

 アキが、はっとしたようにこっちを見た。

「……『リサイクル』……」

 正解、と言って俺は笑った。

「アスベストは耐久はあるんだけど、決定力に欠けてな……ぎりぎりまで削らせてもらわないと、なかなか倒せないんだ」
「そ、それにしても、相手にマゴの実が効くかなんて、トリック使うかなんて、完全に運じゃない……」
「そうだなぁ。だけど、残念ながら、俺は結構博打うちでな。当然、他の手も考えてはあるけどな」

 アキは首を振った。こんなに低確率の賭けに負けたのなら、勝てない、と言って。
 それじゃ、終わらせようか、と俺は言った。

「アスベスト、『ぼうふう』!!」

 バトル場に、突風が吹き荒れた。




「ジョウ、また控用のベンチが壊れたよ。アンタのだからいいけど、直しておきなさいよ」
「参ったなぁ。もう少し狙いを絞れたら相手への威力も上がると思うんだけどなぁ」
「だから、まだまだ詰めが甘いんだよ君は」
「はっはっは、悪いな」

 アキががっくり肩を落として仲間のところに戻るのを見て、俺も賀茂鶴の瓶を抱えてベンチがあったところに座った。
 酒を猪口に注ぎ、キセルをくわえ、ケンタに言った。


「それじゃあ、後は任せたぜ、ケンタ」




++++++++++++++++++++

翻訳してみました。
広島弁でどの程度ニュアンスが伝わりましたでしょうか……?