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  [No.1162] [再掲載?]カゲボウズが虫歯になったようです。 投稿者:紀成   投稿日:2011/05/09(Mon) 20:19:43   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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「はい、あーん」
『…』
ファントムが外見にそぐわない声を出した。右手に歯医者が使うような小さな鏡を持っている。
「口開けて」
ブンブンと首を振るカゲボウズ。何が何でも口を開けまいとしている。だが、その理由は一目瞭然。諺で言えば頭隠して尻隠さず。頬の下部分が赤く腫れている。
虫歯になっていることは誰が見ても分かることだった。
ことの始まりは、久々に甘味の店を見つけたのでカゲボウズ達に食べさせてやろうかと思ったこと。カゲボウズは甘い味が大好きらしく、感情だけでなく人間が食べる物もそれは変わりないようだった。
だが、一匹だけがそっぽを向いて食べようとしない。ファントム自らアイスを目の前に差し出しても、ちょっと横目で見て(涎を垂らさんばかりの表情で)ハッとしたようにそっぽを向くだけだった。
「…」
不審に思ったファントムがふと彼の身体を掴み、真正面に向けた。カゲボウズはしまった、という表情をしたが、主人には何も出来ない。
「これって」
ファントムの言葉に、周りのポケモン達全てが覗き込んだ。全体が紺色の彼の下頬が、赤く腫れている。
「虫歯、だよね」

で、今に至る。既に二十分が経過している。彼の性格は『頑固』だろうか。
「デスカーン」
『何だ』
痺れを切らしたファントムが呟いた。
「こじ開けろ」
『了解!』
四本の黒い腕がデスカーンの後ろから飛び出した。そのままカゲボウズの口の端にヒットする。力を入れる。だが小さなカゲボウズも負けていない。必死に口を踏ん張っている。本人達からすれば大切なことなのだが、傍から見ればただのギャグにしか見えない。
「シュールだね」
そんな彼女の声も耳に届かないようだった。周りのポケモン達は、ある軍艦の艦長と名探偵の助手がテーブルを挟んで、テーブルクロスを引っ張り合っているシーンを思い浮かべた。

数分後。力尽きたデスカーンと、誇らしげな顔をしたカゲボウズが立っていた。その姿を見たファントムはため息をついた。だが、これで終わらせるようでは彼女ではない。
ファントムが言った。
「総攻撃」
途端に彼女の周りで状況を見守っていたポケモン達が飛び掛った。ゴース、ゴースト、ゲンガー、ムウマ、ムウマージ、ヨマワル、サマヨール、ジュペッタと当の本人を除くカゲボウズ達。
全てのゴーストタイプが、たった一匹のカゲボウズの口をこじ開けるために凄まじい攻防を繰り広げている。
力尽きたデスカーンが、ファントムの元に寄ってきた。
『俺を行かせた意味はあったのか』
「見れば分かるだろ。こういうこと」
『ただの当てポニータか』
「さあね」
もうもうとする砂埃の中に、彼らの手足、はたまた触角のような物が見える。まるで一昔前の漫画に使われていた表現のようだ。
ファントムは、砂埃が目と口に入らないように細心の注意を払った。

「あー、やっぱりなってる」
さらに数分後、二体のサマヨールに口をこじ開けられたカゲボウズが耐えていた。そしてその口の中に、ファントムが鏡を入れる。
微妙に黒い穴が出来ていた。しかも結構深い。放っておいたら大変なことになっていただろう。
「こんなになるまでよく耐えたね。進化したら、ジュペッタには珍しい長期戦タイプになるんじゃない?」
『冗談言っている場合じゃありません、マスター。このままでは彼は歯が無くなってしまいますわ』
♀のプルリルが焦ったように問いかけた。ファントムは帽子を被りなおす。
「分かってるよ。流石に歯が無いなんて気の毒だからね。
…とりあえず、カゲボウズを診てくれる歯医者を探そうか」


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cocoさんのコールに応えて(?)再アップしました。ただ、前の原稿が無かったので覚えてる限りで書きました。ところどころ違うかもしれませんが、どうぞ。

[治してあげて欲しいのよ]
[書いてもいいのよ]