夏は暑い。
それは自然の摂理、宇宙の法則。
異議を唱え、捻じ曲げようとすることは地球の自転を逆向きに、太陽を西から東に、重力を下から上に作用させようということに等しい。
受け入れ、耐え忍ぶことこそが動物としての当り前。細やかな涼を得て、暮らすことこそが正しい姿。
しかし、それも限度というものがある。連日連夜、三十度を超え、寝るのも困難になるほどの暑さ。いや熱さと言いたくなるほどの高い気温は、太陽が出ない夜間でさえ、寝るという生物にとって必要不可欠な休息の重大な障害に他ならない。
そして、その障害に悩むポケモンがとあるマンションの一室に居た。
ポピー(♂、六歳)である。
ポピーは青山美登里さん(二十二歳、OL)に飼われているケーシィである。
彼の一日のスケジュールは飼い主である美登里さんの抱き枕代わりにされながら朝を迎え、彼女を見送った後は日暮れまで留守番、そして彼女が帰る一時間前に持ち前のサイコパワーで部屋を整え、帰ってきた彼女に抱きしめられながら、一日を終える。
現在午後二時、気温が最も高くなる時間でもある。
ポピーは留守番の際の定位置、三十二インチプラズマテレビの目の前に陣取っている。
部屋を侵食する熱気に動じることなくだらりと脱力して座り、目を瞑った様子は悟りを開いた僧である。
さて、ここでひとつ特筆すべきはケーシィという種族は一日に十八時間を睡眠にあてる種族である。
しかし、ここ最近の暑さはポピーの睡眠時間を削ぐためにここまでのものになっているのかと疑ってしまうぐらいに暑かった。
そう、彼は暑さのせいで寝れていない。
寝れていないのだ。
睡眠とは活力の源。睡眠ができないこの天気、体力が回復どころか、どくどくでも食らったかのようにがりがりと削られていく。
これでは彼の日課、部屋の掃除をするための英気がどこかへ消えてしまう。
やらなくても困りはしない。しかし、それはポピーのペットとしての生き様に反するのだ。
飼い主の役に立てないポケモンなど、ただのポケモンである。家族でも仲間でも、ましてや道具ですらない。それがポピーの持論である。
寝ていても、この部屋の防犯は完璧だ。しかし、家事のような繊細な仕事は難しい。
そのためにも今は寝なくてはいけない。
実際のところは、目が覚めてる今のうちに家事をやればいいのだが、ポピーはそれに気づいていない。暑さが深刻なようだ。
さらに言えば、寝れない主たる原因はこの高温のせいなので、エアコンでもつけて、室温を下げればいいのだが、一匹のケーシィは気づいていない。脳みそが小さいせいか。
そんな細かい事情はさておき、彼はこの暑さに真正面から対抗して、寝ることに決めたようである。
寝るということがこんなに重労働とはいままで考えもしなかったがいい経験だと彼は孤独な室内で思った。その重労働も飼い主の喜ぶ笑顔が見れれば、それでいいのだ。
そう、今から目を瞑ろう。そうして、彼の努力が報われ、視界が真っ黒になっていく。とうとう安らかに眠れそうだ。
その夜、いつもの時間に目を覚ませば、そこは見知らぬベッドの上で、隣には怒った顔をした美登里さんがいた。
どうにも自分は熱中症になったらしく、自分の防衛本能そのままにポケモンセンターにテレポートしたらしい。
こうなる前に適当に対策しなさいという美登里さんの説教に頬を掻いた。
とりあえず、スポーツドリンクを常備しようか。
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タイトルままに、最近の暑さは油断ならぬ敵ってかもうラスボスレベルなので、水分はこまめに。節電のためにとか言って、過度なエアコンの使わなさすぎはやめましょうって話です
自分の体調を管理してからの節電ですねって話で