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  [No.1901] ミミロルと学生と幼き兄妹 投稿者:紀成   投稿日:2011/09/22(Thu) 21:44:10   33clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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「…」
ライモンシティ郊外。まだ緑が残り、野生のポケモンやバトルを仕掛けてくるトレーナー達がひしめき合っていたりする、昔ながらの道だ。
俺がそこを通ったのは偶然。ホドモエに少し用があって、まだ幼い妹と一緒に(親がいないため)大橋までの道を歩いていた。時折トレーナーが話しかけてくるも、あっさり打ち負かす。で、数人目のトレーナーを倒して賞金を貰って――
ふと、横を見る。

茶色い顔と耳。下半身にふわふわのクリーム色の毛。耳のあたりはピンク。目はくりくりしている。
これを同級生の女共が見たら、一斉にこう叫ぶだろう――『かわいい!』と。
俺は別に可愛いポケモンに興味は無い。現に今の相棒もレントラーというかなり目つきが鋭い、どちらかと言えば愛でるよりバトル向きのポケモンだ。
そのポケモンは茂みの中からこちらをジッと見ていた。木の影に隠れて様子を伺っているらしい。時折耳がぴくぴくと揺れる。妹が俺の視線に気付き、同じように俺の視線の先を見た。
「…兄さん、何、あれ」
まだ幼さの残る声が俺の耳を通り抜けていく。右腕を掴む力が強くなる。痛い。
「ポケモンだろ、どう見ても」
「ここらへんにあんなのいたっけ」
「新種かもしれないな」
自分で言ってからそれは無いと思った。ここらへんは人通りが激しい。もしいたとしてもすぐに誰かに見つかるはずだ。
「…どうすんの」
「え」
妹に聞かれて初めて気がついた。俺は只の通行人に過ぎないのだ。このまま通り過ぎて行くのが妥当だろう。だが、こうして目があってしまったことには無関係ではいられなくなった…気がする。
その時だった。
向こうの茂みから、再びガサガサという音がした。仕方無いので俺たちは周りの目を気にしながらもそこへ近づいていく。そのポケモンの目が輝いた。俺たちに向けてじゃない、別の何かに。
やがてそれはゆっくりと姿を現した。ポケモンじゃない、人だ。年は二十代前半。外見から見るに、『金なしの大学生』って感じだ。髪は短くて手入れが行き届いてない。服は何かのシミがついている。一度は洗ったけど結局落ちなくてそのまんま―
おまけにつけている眼鏡には皮脂が浮いている。
「何か見るからにだらしが無いって感じね」
「言うな」
妹がピシャリと言った。何でこういう時、女は遠慮が無いんだろう。
そいつ―― 男はポケモンの頭を撫でると、持っていたコンビニの袋から弁当を取り出した。俗に言う、コンビニ弁当ってやつだ。の蓋を開けて、何か薄い黒い物を取り出す。それをポケモンにあげると、ポケモンは両手で持って美味そうに食べている。
まさかとは思うが、あれって――
「…御握りについてる、シナシナになった海苔?」
「!?」
俺の声が聞こえたらしい。男がこっちを向いた。眼鏡の奥の目が驚きでビー玉みたいに丸くなっている。
「あ…こんちは。そのポケモン、貴方のですか」
次の瞬間。
男が走ってきた。いきなりのことだったので硬直してしまって逃げるという行動が取れない。妹も同じのようで、顔を引きつらせたまま直立不動になっていた。
男の長い腕が俺の肩に伸びる。必死な表情が目の前にある。そして――

「言わないでくれ!頼むから!」
「…は?」

男は泣いていた。何か今時の草食男子って、こういう奴のことを言うのかと俺はふと思った。

男はミツハシと名乗った。今年の春からライモンにある大学で生態を学んでいるという。シンオウ地方から来たらしい。
「いや、すまん。てっきり通報されるかと思った」
「なあ、そのポケモン…何なんだ?」
「ああ、この子か」
ミツハシは側で海苔を食べていたポケモンを抱き上げた。
「この子はミミロル。シンオウ地方にしか生息してない、珍しいポケモンなんだ。ノーマルタイプ。可愛いだろ?」
「はあ」
親ばかにしか見えなかった。確かに可愛いが、抱き上げて頬擦りすることは無いと思う。まあかくいう俺もレントラーを連れてくるほどの電気タイプフェチだけど。
「ねえ、ニックネームとかあるの」
ずっと黙っていた妹が質問した。途端にミツハシが嬉しそうな顔になる。
「この子はな、ユキコちゃんっていうんだ。幸せに子供の子で、ユキコ」
「…随分と人間らしい名前を付けるのね」
「いやー、ちょっとした思い入れがあってね」
そう言って笑うミツハシさんの顔は、幸せそうだった。俺はずっと気になっていたことをチョイス。
「そんな可愛がってんなら、何でこんな場所に捨てたんだ」
「…」
ミツハシの顔が途端に曇りだす。眼鏡を取って、目を袖で拭く。泣いているようだ。
「聞いてくれるか?俺の借りているアパートはな、ポケモン禁止なんだ。それを知ったのがこの子連れてきた日でな…暫くは隠れて飼ってたんだけど、ついに大家さんに見つかっちゃって――」
『捨てないと追い出す』と言われ、ひとまずここに連れて来たらしい。数日分の食事を置いて、アパートに戻る。次の日様子を見に来たら、自分の姿を見るなりすっ飛んできたという。
「捨てれるわけないだろー。小さい時からずっと一緒なんだよ。…なんでミミロップにならないのかが不思議なくらいだ」
「ミミロップ?」
「ミミロルの進化系だよ。懐き度で進化するんだ」
流石生態を志望しただけある。よく知っている。


「あのままでいいのかな」
帰り道、妹が聞いてきた。俺はマメパトの群れを見ながら返事はしなかった。

次の日。久々に街に出るということで、俺は銀行でお金を下ろしていた。妹は近くのカフェで待たせてある。知り合いが経営しているからだ。多少お世話になっても大丈夫だろう。
「食料品と文庫本の新刊と――」

ぽんぽん

「ん」
いやに柔らかい感触が背中に当たった。叩かれているような感じだ。振り向いて――
「!?」
ミジュマルの着ぐるみが挨拶をした。左手には色とりどりの風船。白い文字で『シラハエ書店』と書いてある。どうやらキャンペーン用の風船らしい。いや、それ以前にこいつ誰だ?
『おーい、俺だ、俺』
一瞬新手の振り込め詐欺かと思ったが、この声には聞き覚えがある。ミジュマルが自分で自分の頭部をかぽ、と外した。
若い男の顔が隙間から現れる。
「あ」
「よ、また会ったな」
「ミツハシさん」
再び頭部を戻す。普通のミジュマルだ。いやにでかいことを除いて。
『妹ちゃんは?留守番か?」』
「いえ、近くのカフェで待たせてあります」
『ほー、大人だなあ。幾つだ?』
「俺が高三であいつが小六です」
遊園地から出てきたばかりの子供達が着ぐるみを見つけた。『わー巨大ミジュマルだー』『やっつけろー』と好き勝手に殴る、蹴る。子供って嫌だな、と思わず頬が引きつる。
だがミツハシさんの方が子供だった。風船を俺に預けるなり、叫ぶ。
『こらー何してるんじゃー! ミジュマルパーンチ!』
子供達が叫びながら逃げていく。俺は頭が痛くなった。風船を返し、とりあえず妹を迎えに行こうとする。
『あ、ちょいと』
ミツハシさんが俺のタンクトップの襟を掴んだ。
「何」
『今から本屋さん行くか?』
「シラハエ?まあ。新刊と漫画買いに」
『そっかそっか。あー…』
ミツハシさんが急によそよそしくなった。キョロキョロと辺りを見回す。本人は必死なんだろうけど、傍から見ると変な人にしか見えない。いや、ミジュマルか?
『実はな、そこにいる店員さん…女の子な。この時間帯はレジ打ちしてるはずだから、これ渡して欲しいんだ』
そう言って頭部から右手を出すミツハシさん。可愛らしい小さな袋だった。
「渡せばいいんですか」
『まあな。頼むぞ』
仕方なしに俺は財布と袋を片手に書店へと足をすすめた。あれ?何でこんなことしてるんだっけ…まあいいか。

新刊片手にレジへ向かう。カウンターにいる女の人は一人だけだった。カチューシャをした茶髪の女の人。美人だ。ミツハシさんが言ってた人って、この人か。
「いらっしゃいませ」
営業スマイル。危うく頼まれごとを忘れそうになった。気を取り直して商品と袋を見せる。
「あの、この袋、貴方に渡して欲しいって頼まれたんですけど」
「…」
驚くかと思いきや、彼女の視線は俺の後ろの方に釘付けになっていた。俺も釣られて後ろを見る。
「!?」
店内の客が全員ビビッていた。当たり前だ。ショーウインドウにへばり付きながらこちらを見ている巨大ミジュマル。流石の俺も引いた。そして即座に理解した。この女の人が――ユキコさんなのか。
ユキコさんはカウンターの下からスケッチブックとサインペンを取り出し、おもむろに何か書き出した。数秒のち、それを片手につかつかとウインドウに歩み寄り、バン、とスケッチブックを叩きつける。

おそらく、『あっち行って!』とでも書かれていたのだろう。ミジュマルの着ぐるみはすごすごと退散していった。その背中が物悲しいような、情けないような二つの雰囲気を醸し出していて、俺は何を言っていいか分からなかった。
「貴方、お名前は?」
「え?」
ユキコさんに突然そう言われて、俺は返事に詰まった。一度落ち着けてから、声に出す。
「ナミです。那覇の那に、海の海」
「そう。ナミくん。綺麗ね。名前も、容姿も」
「…」
あまりにもサラリと言われた。容姿について褒められることはよくある。だがこの場合は突然だ。
「あの、」
「分かってる。ミツハシくんでしょ?彼、私と同じ大学で、同じシンオウの生まれなの。中学、高校も同じなのよ」
「へー…」
意外だった。まさかずっとここまで追って来たとか…
ユキコさんは本を包んだ後、カウンター下から一つの何かを出した。
「はい。サービス。シママ消しゴム」

「こんにちは」
カフェ『diamante』の店内は、相変わらず空いていた。こんなにもガラガラなのに潰れないのは、マスターの警部時代の部下が休憩時間に必ずやって来るからだろう。
「いらっしゃい、ナミくん」
「妹がお世話になりました」
「いや、いい子だったよ」
俺は店内を見渡す。いつもここでマスターと話をしているノッポの影がいない。
「ミナゴシは」
「今日は部屋の片付けだそうだ。マグマラシが手伝ってくれるから、夜はここで食べるそうだ」
「そうですか」
妹がお金を置いた。マスターが右手を挙げる。
「ユエさんに何か伝言かな」
「いえ、また来ます」
「毎度有難う」
マスターには敵わない。何となくだけど、顔を合わせる度にそう思う。ミナゴシはあの人と年齢を超えた絆で結ばれている。部活じゃあまり笑わない彼女が、ここで彼と話すとよく笑うのだ。
「ユエさん来てなかったの」
「みたいだな」
俺は何故か心の中で黒い何かが渦巻いているような気がしてならなかった。


数日後、ある大学の食堂でミツハシはラーメンを啜っていた。ここのラーメンが彼は好きだった。醤油だが、そこまでしょっぱくは無い。一人静かに食事をする彼には、他のテーブルの話し声が嫌でもよく聞こえてくる。
「えー!?ここまで追ってきたの?いやだー」
甲高い女の声だった。隣には彼女と数人の男性。
「ユキコ、それって絶対ストーカーの域に入ってるって!キッパリ断ればいいじゃん」
「ありえねー、別地方まで追ってくるなんて」
「ユキちゃん、何なら俺と付き合わない?いい相性だと思うんだけど」
その声が聞こえているのかいないのか、彼女は静かにサンドイッチを齧っていた。

『ミツハシくん、お手紙ありがとう。私も好きだよ。一緒の高校行けるように、頑張ろうね』

「…」
色あせた記憶が目の奥からぽつりと流れてきて、ミツハシは静かに席を立った。

「ミツハシくん」
大学からの帰り道、ミツハシは彼女に声をかけられた。変わらない顔が、そこにあった。
「ユキコ、ちゃん」
「あのね、さっきの皆の言葉…気にしないでね。私はミツハシくんのこと…嫌いとか思ってないから」
本人は気付いていないだろう。だが、彼には分かった。微妙な変化。おどおどしているような、怯えているような―

「…嫌いか」
「え?」

パシン

「っ」
「何で…何で無理すんだよ!嫌いならそう言えばいいだろ!これじゃまるで俺が…俺が悪者みたいだろ!」
ミツハシは泣いていた。そのまま彼女を振り返らずに走り出す。大学前の道路。ハッとした時には彼女が追ってきていた。
そして、その空気を歪ませるような、
「ミツハシくんっ!」
「来るな!」

衝撃。だが不思議と痛みは感じなかった。
気がつけば、ミツハシの体はコンクリートの道路に叩きつけられていた。
広がっていく真っ赤な影。眼鏡は割れていて使い物にならない。
何だ何だと野次馬が集まり、あっという間に道路の中心に人だかりが出来た。だが、誰も彼を助けようとするものはいない。
「ミツハシ、くん…」
頭と口から血を流し、全く動かない。ユキコが崩れ落ちた。右手を掴む。
「どうして、どうして… こんなことにならなきゃいけないの?何でミツハシくんがこんな…」
涙が溢れてくる。彼の手から温かさが引いていく。熱い涙がいくらかかったところで、再び手が熱を帯びることはない。
「ミツハシくん…」


死んだら、許さないわよ…?


数日後。ユキコはいつも通りシラハエ書店でレジ打ちをしていた。だが平日とあってあまり人の姿は見えない。夕方になれば漫画や雑誌を立ち読みする学生を追い出すので忙しくはなるが…
ピンポーン、という音がした。店のドアが開いたチャイムだ。
「あ、いらっしゃいま…」
ユキコの顔が曇った。目の前に立っている人影。服装はこの前会った時とは違う、学校の制服だ。だが、顔は忘れていない。
「ナミくん」
「こんちは」
ナミはおもむろに側に置いてあったハードカバーの新刊を手に取った。ピジョンに囲まれている女性の肖像。題名は『私とピジョン 一年日記』作者名は―― なんばじゅうなな?
「これ、カバーかけてくれ」
「千二百十円になります」
「なあ」
ユキコの手が止まった。ナミが仁王立ちでこちらを見つめている。相変わらず顔立ちは綺麗で、でも目つきがいつもより鋭かった。そのまま射抜かれてしまいそうな感じだ。

「ミジュマルのミツハシさん、死んだって知ってるか」

嗚咽を漏らさないようにして話すのが精一杯だった。「ええ、知ってるわ。 その場にいたもの」
「噂じゃ、自ら突っ込んだってことになってるけどな」
「違う! ――彼は、私を庇って死んだのよ」
カバーに雫が落ちた。目元を拭うと、また新しいカバーを取り出す。
「何でそんなことしたのか… 俺は当事者じゃないから分からない。だがその時どう判断するかでそいつの命にも関わってくるっていうのは確かだな」
「多分、ミツハシさんが死んでなけりゃ、アンタが死んでただろ」
「そしておそらく今俺と話していたのは――」
「やめて!」
ユキコが叫んだ。ナミは見下すような視線を向けている。
「泣き叫ぶだけか。それで終わりか。何でミツハシさんがアンタを生かしたのかは考えないのか」
「…」
「アンタに、生きていて欲しかったからだろ」
長い腕が、カバーされた本をレジから取り上げた。器用に手を使い、代金をユキコの目の前に置く。
「人って残酷だよな。何かを叶えるためなら、どんなこともする。他人を蹴落とし、蹴落とされ、足掻き、それでも這い蹲って前へ進む。
アンタもそうしてみろよ。せっかく生かされてるんだ。アンタにしか出来ないことを――」

シラハエ書店の前でナミは、小さく呟いた。
「少なくとも俺はそうしてきた。親父とお袋が全てをかけた守ってくれた命を―― 無駄にしないために」


放課後。
「確か、ここらへんだったな」
「うん」
妹を学校へ迎えに行ったその足で、ナミはバイクを飛ばしていた。ライモン郊外。季節が変わっていくのが、空の色と木々の色で分かる。現時刻は午後五時半。
ナミと妹以外に人影は無い。ナミは鞄の中からミルタンク印のミルクと、御握りについていたシナシナになった海苔を取り出した。
「おーい、ユキコちゃーん、餌持ってきたぞー」
「いるなら出てきてー」
曲りなりにも高三の男子がこういうことを言うのはかなり恥ずかしい。だが、それよりも安否の方が気になった。ミツハシが最後にいつ餌をやったのかが分からないのだ。
「手分けして探すぞ。そろそろ暗くなってくる」
「分かった」

ナミは跳ね橋側を捜索していた。この巨大な橋を渡れば、隣のホドモエシティへ行くことができる。だが、ここ数日跳ね橋は上がったままだという。
「あの体で泳ぐことも出来ないだろうしな…」
夕日が沈む。影に隠れてあまりよく見えない。早いところ見つけなくては、野性ポケモン達が騒ぎ出す。
「ユキコちゃーん…」
その時、後ろからガサガサという音が聞こえた。思わず振り返る。
「!」
だが、ミミロルではなかった。一匹のヤブクロンだった。人に慣れていないのか、怯えた顔でこちらを見つめている。
「なあ、この近くにお前達の仲間じゃないポケモンがいたのを見なかったか?探してるんだ」
ポケモンが人の言葉を分かるかどうか。だが、今は可能性があるならそれに掛けたかった。
ヤブクロンはしばしナミの顔を見つめた後、おもむろに後ろを向いた。そのままピョンピョンと跳ねていく。ついて来い、と言っているようだ。
「…」
ナミは歩き出した。


「兄さん!こっちは見つから…」
妹の声が後ろから響いてくる。相変わらずよく響く声だ。だがその声もすぐに消えていく。
「兄さん…?」
「美海、」
妹…美海は兄であるナミの背中を覗いた。そして、息を呑んだ。
綺麗だった毛並みは何処にも無い。風雨にさらされ、ボロボロになっている。以前見た時の体系とは一目で分かるくらい、やせ細っている。
「ユキコ、ちゃん…?」
「ああ」
美海はそっとユキコに触れた。手を引っ込めることなく、そのまま撫でる。
「こんなにやせ細って… 何日も食べてなかったのね」
「食べようと思えば周りの木の実も食べれたはずなんだがな…」
「きっと、ミツハシさんが持ってくる物が大好きだったのよ。 ううん、ミツハシさんが持って来てくれることが、何より幸せだった…」
美海が顔を覆った。そのまま嗚咽が漏れる。雫が冷たくなったユキコの頬を濡らす。ナミは美海の肩を抱いた。
「ああ…」

きっと、こちらのユキコは、ミツハシさんを待ち続けていたんだ
トレーナーを信じて、待っていたんだ…


数時間後。カフェ『diamante』の店内で、マスターが頭を抱えていた。カウンターでゼクロムを飲んでいたサクライが笑う。
「クロダさん、どうしちゃったんですか、その二人。十分前にドロドロ、目元は真っ赤の状態で帰って来て、マスターに抱きついて…
こんな場所で寝ちゃうんだからなあ」
「クロダはやめろ。…まあいい。今夜はソファ席はこの二人の貸切だ」
マスターは裏へ行くと、一枚のタオルケットを持って来た。そして、表のパネルを裏返す。
「お、じゃあ俺も夕食ここで食おうかな」
「言っておくが、奢りは無いからな」
「えー」
カップを下げようとしたマスターの目に、二人の寝顔が飛び込んで来た。少し驚いた後、フッと笑う。
「久々に見たな。こんな顔は」
「おー… そうですね」


「いい夢でも、見てるんですかねえ」


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