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  [No.2043] 強くなりたくて 投稿者:きとら   《URL》   投稿日:2011/11/08(Tue) 00:22:00   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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「よろしくお願いしますね、ナエトル」
 私と主人が出会ったのは、私をひろってくれたナナカマド博士の研究所だった。ヒカリという春風のようにかわいくて、それでいてひかえめ。野性的な私とは正反対の人間の女の子だった。
「ヒカリ、よろしく。私はモエギよ」
「うん、モエギさんよろしくね」
「さんは要らないよ。モエギでいいわよ」
 いちいちひかえめで、本当に女の子らしいってこういうこと言うんだよね。同期のエンゴもマゼランも私のことを雌とは見てないし。エンゴはヒコザル、マゼランはポッチャマなんだけど。やつらはそれなりに性格が似てるコウキとジュンっていう男の子と一緒なのよね。

 ヒカリは宇宙人みたいなギンガ団っていう謎の人間から戻って来いって言われていた。戻るということは元がそうなのかしら。私には解らない。けれど、ヒカリは戻る気はないっていって、コウキもジュンもヒカリを連れてはいかせないっていって追い払っていた。
 その時、見たの。私は……エンゴ、マゼランたちと自分の差。コウキの合図にあわせて火の粉を出すエンゴは、私の知ってるただのやんちゃくれじゃなかった。ジュンの合図より前に泡を吹き飛ばすマゼランは私の知ってる傲慢ちきじゃなかった。
 トレーナーのポケモンだった。トレーナーを守るために戦うポケモン。一緒にいる時間はそんなに違わないのに、何が2匹と違ったのだろう。
 私の体は重たいばかり。つい最近来たジュンの赤ちゃんスボミーの草技よりも頼りない私の技。
「モエギ」
 ヒカリが声をかけてきた。
「暗い顔しないでくださいね。私には一番強い味方ですよ。本当にそう思ってます」
 ヒカリはそういうけれど、私の技なんて本当に相手にダメージらしきものなんて与えられてない。なんで、なんで?エンゴはもう次の技を覚えてる。マゼランはジュンを従わせる勢いで強くなってる。なんで私だけ強くなれないの?

「ジュン」
 コウキの側で寝てるヒカリから抜け出して、私はジュンに話しかける。この子ならいつでも元気だし、今話しかけても大丈夫だと思ったの。
「お、モエギじゃん。ヒカリの側から離れていいのか?」
「ヒカリには内緒にしたいの。私に強い技、何か教えて!」
 そういったら、目をキラキラさせてとびはねた。落ち着きが無いのが、この子の唯一の欠点、だと思う。
「そりゃあ、草タイプっていったらソーラービームだ! いいか、これは日光の……説明するのめんどくせえ、見てろ!」
 この子、本当すごいわ。もうすでにポケモンであったころの体を無くしたというのに、こんな特大のソーラービーム、しかもこんな小さな灯りから生み出すなんて。コウキはそのことを「ただの威力バカ」ってバカにしてたけど。エネルギーが夜空に消えていくまで、私はずっと見続けた。
「これが出来なきゃ草タイプなんて言えないってばよ!」
「凄い……」
「まずだな、お前のその頭の芽で光を吸収し、それを全力でぶつけるんだ。そうすれば水に住むポケモンなんてイチコロよ!」
 そうは言うけど、今は夜。日が出てないから技に変換できるほどのエネルギーは感じられない。必死で小さな灯りに頭の芽を向けるけど、私自身のエネルギーとなるだけで、全く溢れ出す気配はなかった。
「練習あるのみ! これが出来たら草タイプはマスターしたも同然だ!」
 こういうときはしっかりしてると思うんだけど、その後はマゼランにめっちゃ突っつかれていた。寝てるのに騒ぐなうるさい、と。どっちが主人か解らないコンビはとりあえずとして、私はヒカリの側に戻る。
 私はヒカリと一緒にいたい。初めて出会う人間というのもそうだけど、エンゴやマゼランに追いつきたい。そして、彼らと同じようにヒカリを守って活躍していきたい。別にヒカリが特別好きとかじゃないの。ヒカリの役に立ちたいだけ。

 頭のはっぱが大きくなってきた頃。はっぱを飛ばして切り刻む技を覚えた。
「モエギ! 本当、すごい技です! やっぱりモエギは強いんですよ!」
 自分のことのように喜ぶヒカリは、やっぱりいい子だと思う。本当、私が頼りなさ過ぎてもそれでも全力でフォローしてくれるのが凄い解る。なんで私でいいのだろう。なんで私なのだろう。
 博士に貰ったから?違うでしょ。
 ヒカリ、貴方は私しか扱えないんじゃないかな。だって他にはいつも寝てるケーシィのディランくらい。
 ポケモンじゃないの。私たちじゃないの見ているのは。
 貴方が見ているのはコウキの後ろ姿でしょう? 置いて行かれたくないからこそ、私たちを使って!
「そんなことないよ」
 ヒカリを突き放した。何を思ったのか知らないけれど、ヒカリは驚いたような顔をしてた。何か悪いことを言った覚えはないでしょうね。思い当たらないからこそ、ヒカリは絶対に自分の何が悪かったか反省するでしょうね!
 けど、私の気持ちなんて一生解るわけがない! 私のこと見てないんだから!


「お主」
 後ろから見てたマゼランが声をかけてきた。
「少しの間我が輩についてくるがよい。ジュン、ヒカリを頼むぞ」
 偉そうな態度は変わらずで、マゼランは私の目の前を歩く。足どりがしっかりしてきたのは、あの落ち着きないトレーナーと一緒にいたからかしら。
「嫉妬しても仕方なかろう。ヒカリは本気でお主のことを心配しておるというのに」
「あんたに言われなくても解ってるよ」
「ふむ、解っているといいながら、なぜコウキのことを……いやこれは我が下僕のジュンも関係するからあまり言わないでおくが。同じ種族の生き物であり、性別が違えば惹かれて当然というもの。お主も解ってやるがいい。努力家であるお主をあのヒカリが放置することはまずなかろうて」
 これだけ書くと、マゼランがやたらと理解がいいように思えるかもしれない、けど。実はただの受け売りだったりする。
「はっぱカッターを覚えて嬉しくないトレーナーがいるわけもなかろう。お主は少しヒカリを信用しなければならない」
 

 マゼランに言われて、後から来たエンゴにも心配されて、とにかく恥ずかしかったやら嬉しかったやら。2匹とも私をまだ仲間だと思っているんだなと思ったし、そのトレーナーも仲間なんだ、と思った。
 だから、ヒカリがコウキのことを見るのは当たり前なんだ。仲間だから。そこにそれ以上の思いがあっても当然のこと。
 私を見てないなんてただの甘え。見てるよヒカリは私のこと。突然コウキやエンゴが話しかけてきたりするのもきっと相談したから何だと思う。

 ようやく気持ちの整理がついたところで、無事に解決できるわけでもない。
 相変わらず、ソーラービームが出来ない。出来たとしても、日が一番高いところにある時で、しかも威力は地面を熱くする程度。こんなのじゃ技なんていえない。
 ハヤシガメになった今でも、毎日練習して、エンゴやマゼランと共に戦ってる。それでも2匹はどんどん強くなるのに対し、私は取り残された気分だった。
「モエギ、ちょっといいか」
 モウカザルとなったエンゴをボールに入れて、コウキが話しかけて来た。
「お前、草技苦手だろ」
 そう、私がヒカリを理解できない理由の一つがこれ。コウキはジュンより落ち着いているけれど、オブラートに包んでものを言うことが出来ない。こんなやつのどこがいいのよヒカリ。それが一番聞きたいよ。
「そうだけど」
「やめとけよ。どうせ草なんて相性いいやついないんだし。他の技を極めた方がいいって」
「……そんなの解ってる。けど、私はハヤシガメだ。草タイプなんだから草技を覚えたいよ」
「いや解ってないだろ。エンゴもそうだけど、どうしてポケモンって自分のタイプと同じ技にこだわるかな。そんなの覚えてたって仕方ねえっていうのが多いのに解ってないというか」
 ああ、そうそう。コウキがむかつくもう一つの理由。ポケモンより人のが優秀って思ってるところ。エンゴもそれで一回キレて追い出されかけたのを見た。でもコウキの戦闘を冷静に分析して指示を出す能力は凄いの。だから逆らえない。逆らって違うことをしたところで、負けるのは見えてるから。だからこそこう言われると悔しい。すっごく悔しい。
 大きく地面を踏みならした。コウキに何も反論できないのが悔しい。
「コウキくん」
 振り返ればヒカリがそこに立ってる。きっとコウキを探して来たんだろうな。
「モエギにそんな失礼なこと言わないでください!!! モエギだってがんばってるんですっ!」
 コウキにこんな刃向かうヒカリを初めて見た。コウキは平然と当たり前のことだと言うだけで、相手にしてなかったけど。

 ヒカリにかばってもらっても、私が草技が上手くなることは一向になかった。はっぱカッターもコントロールが上手くいかなくてよく外す。メガドレインも吸収しきれなくて全然効果がない。あの赤ちゃんスボミーがいつの間にかロゼリアになってたんだけど、その子の方が上手なの。しかもマジカルリーフなんていう綺麗な技も覚えて。
 私は草タイプなのに草技に向いてなさすぎる。なんでだろう。草タイプなのに。新緑っていうピンチになると草タイプの技の威力が上がる特性だって持ってる。それなのに生かしきれないで、最後に倒されてしまうことなんて数えきれない。ユンゲラーとなったディランがいつもその片付けをしてる。
 でも向いてない出来ないだけじゃダメ。そんなの解ってる。
 目の前の敵はギンガ団。ヒカリが戻らないから苛ついてるのが解る。私はヒカリとギンガ団との間に立つ。
「今日はいつものお友達は一緒じゃないのか」
 この人間からは尋常じゃないほどの威圧感がある。私の太い足が震えるくらい。けどそんなことが解ってしまったら、きっとなめられる。
「アカギさんには感謝しています。今の今まで、悩みや苦労、そういったことと無縁だったくらいに。けれど私は人間です。私は自由を知りました。だからこそ、私は戻りません。かみくだけモエギ!」
「あはは、トロいなあ、ハヤシガメ」
 私の遅い動きで、とらえられるほどトロいポケモンじゃなかった。相性は最悪。ニューラっていうすばしっこいやつだった。私を見るなり、にやりと笑って自慢の爪で攻撃してくる。
「モエギ!」
 ヒカリの声が聞こえる。ここで倒れたらダメだ。私が倒れてどうするんだ。草技なんてどれも完成してないものなんかニューラに当たるわけがない。だからといって私の顎でニューラをとらえられる訳が無い。だったらニューラが次に近づいた時に跳ね返せ。
「ヒカリは渡さない!」
 大きな木が背中に乗っている。それらを振り回すようにニューラへと全身の力を込める。少しばかりの草のエネルギーをこめて、ドダイトスの大きな体を大岩が降るかのごとく。
「とろくて悪かったね。草技が出来ないなら、私は草技の物理攻撃を極めるよ。そこらの草だと思わないで欲しいわね」
 

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唐突に書きたくなったシンオウ。
特殊と物理が別れてワクワクしてたのはシンオウ。
ナエトルがそういう葛藤あったらいいなあくらいの話。
ヒコザルは器用そうだし、ポッチャマはどうだろう。
※マゼラン=世界一周を初めてした人と言われてる
【好きにしてください】