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  [No.797] コマンド 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 04:04:57   76clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 全く、僕の上司は何を考えているんだろう。
 彼女がしっちゃかめっちゃかなのは百も承知だが、そのせいで蚊が飛び交う草むらの中で半日もしゃがむことになると、
自然と彼女への愚痴も増えてくるというものだ。

 草むらと低木をぬって向こうを見透かすと、灰色の、如何にも怪しい真四角の建物が、森の中に不自然に建っている。
 今回の任務は、あの建物で行われているという、研究の中身を盗み出すこと。
 蚊に刺されようが、足がしびれようが、僕は一応、警察の端くれ。
 今回のは、俗に言う、潜入捜査みたいなものだ。……が。


 僕はなるべく動かないようにして、携帯電話の時刻を確かめる。
 午前二時。ここに到着したのが真昼の十二時。上司が移動時間を思いっきり間違えたせいだ。
 しかし、だからと言って帰るわけにもいかず、僕が密偵を放ったのは、夜の九時。
 丸々、九時間を無駄にしたことになる。
 それとも、上司は僕が森の中で九時間も迷うと思ったのか?
 全く、何を考えているのか分からない上司だ。
 っていうか部下の能力信じろよ。

 そんなことを考えていると、密偵が帰ってきた。
 五時間。上出来だ。
「ありがとう、ウィリデ」
 僕は丸い羊の姿を持つパートナーの小さな手から、紙とペンを受け取った。
 それから、バッグを探ってポロックケースを出した。

 敵アジトの見取り図を作る、という大役を果たして帰ってきたフワモコのパートナーにポロックをやる。
 僕もバッグからひしゃげたパンを出して口にした。
 何も食べないよりはマシだ。
 見取り図に目を通し、「よし!」と小さく気合いを入れて立ち上がる。

 目指すはウィリデが探れなかった、地下一階の最奥の部屋。

 そこだけロックがかかっていたらしい。地図にはウィリデの手で鍵のマーク。

「行こう、ウィリデ」

 ……とその前に。

 携帯電話のカメラを向け、見取り図を電子データにして上司に送る。
 こんなことをしても、彼女が何かしてくれる可能性は皆無だろうが。

 液晶画面が送信完了の文字を映し出したのを確認してから、僕は建物に向かう。

 空気抵抗をたっぷり受けて、ふわふわと進むパートナーを抱き上げてから、僕は歩き出した。



「ウィリデ」
 僕が小声で呟くと、パートナーは合点承知と頷いて、草笛を使った。
 宵っ張りの研究員だか何だかは、あっという間に睡魔に落ちて静かになる。

 人間、夜は寝なくちゃな。
 軽いハイタッチをかわして、僕らは軽快に建物の中を進んでいく。

 元より、こんな森の中に警察なんて来ないと踏んでいたのだろう。
 警備員もいなければ監視カメラもない、ザルよりも目の粗い警備だった。
「楽勝、楽勝」
 このまま地下一階の部屋に進み、違法な研究――ポケモンを不当に苦しめるとか、そんな研究――をしているという証拠をカメラで撮って、とんずらだ。

 ……と、調子こいて部屋の前まで来て、大事なことに気付いた。
「ロックがかかってるんだった……」
 目の前には、頑丈そうな扉と、ひと抱えもありそうなモニタと、標準サイズのキーボード。
 キーボードからパスワードを入れる形式だろう。問題はそのパスワードだが……
 僕はどこかに隙がないか、扉を観察した。
 ウィリデが僕の腕からおりて、たっぷりした綿毛をふるわせる。

 ウィリデの、エルフーンの能力なら、わずかでも隙間があればその部屋に入り込める。
 それすら出来ない、隙間のない部屋ということは、やっぱり重要なブツが置いてあるに違いない。

 諦めるわけにはいかない。目的のものがすぐ目の前にあるのだ。

「とりあえず……」

 ダメもとでキーボードに触れてみる。
 途端に、モニタに光が灯り、赤青二色の姿がそこに映し出された。

 赤と青のY字の体、頭は少し離れたところに浮いている、ポケモン。
 目は奇怪な丸を描いている。
「ポリゴンZだね」
 己が電子データになってコンピュータ中を自由に飛び回れるという、アナログな僕には縁のなさそうなポケモンだ。
 ポケモンバトルでは高い特殊攻撃力から強力なノーマル技を出してくる。
 扉を守る番人かもしれない。

「バトルになるかもしれない。注意してね、ウィリデ」
 フワモコパートナーは「任しとけ」とばかりに自分の胸を叩いた。
 さて、とモニタとキーボードに向かい合う。
 適当にパスワードを入れたら開くかもしれない。
 そう思ってキーボードに手を伸ばすと、画面の中のポリゴンZとがっちり目が合った。

「…………」
 攻撃してくる気配はない。
 もしかしたら、パスワードを間違えたりしない限りは、攻撃しないようになっているのかもしれない。

 やってみるしかない。

 ……けど、

「……ヒントとか、ないかなあ?」

 キーボードには二十六個のアルファベットと十個の数字と、記号がいくつか。
 それらを組み合わせたパスワードとなると……

「だめだ。分からない」

 映画や小説なら、それまでにヒントが出てきて扉が開くようになっている。
 けれど生憎、僕らがここに辿り着くまでにヒントは出なかった。

 うーん、とウィリデに心配されるほど唸ってから、僕はダメもとで携帯電話を開いた。
 メールが来ていた。

 僕は上司からメールが来たことに驚愕しながら、その場にしゃがんでウィリデにもメールが見えるようにした。
 といっても、ウィリデは文字を読めないけれど。

 件名はなし。本文には簡素に、用件だけが書かれていた。

『ロック ↑↓↑↓←→←→LR』

 携帯電話の画面と、キーボードを慎重に見比べる。

 キーボードの右下には矢印、そして中程にはアルファベットのLとR。

「パスワードっていうよりコマンドみたいだけど……やるっきゃないか」

 僕の上司は何を考えているか分からない、メチャクチャな人だ。
 けれど、今まで間違えたことはなかったし、これからもないだろう。
 僕は彼女を信じて、キーボードに歩み寄った。


 上からのポリゴンZの奇妙な視線を感じながら、僕は静かにキーボードに触れる。


『 ↑ ↓ ↑ ↓ ← → ← → L R 』


 人差し指がエンターキーに触れ、カタンと軽い音をさせて押し込んだ。
 と同時に、カチッと音がして扉が――


 開かなかった。



 代りにモニタが開いて、ポリゴンZが飛び出してきた!

「げっ」

 なんでだよ、と思う暇もない。
 画面から飛び出して戦闘態勢に入ったポリゴンZは、景気よく破壊光線のチャージを始めている。
 ついでにザルのような警報装置も作動したのか、ワンワンと五月蝿い音を立てて、お決まりの赤いランプがくるくる回っている。

 破壊光線が壁に着弾し、壁を崩落させて盛大に轟音をぶちまける。
 何だ何だ、とおねむのはずの研究員たちが続々と集まってくる。
 そんだけ大きな音がしたら集まるでしょうよ。
 オマケに目がばっちり覚めてしまって、さっきまでのように簡単に草笛でグッナイとはいきそうもない。

「何だ、一体!?」
「侵入者だ!」
「本当に来たのか!」
 研究員たちの言葉にちょっと引っかかったが、今はそれを考えている暇はない。
 なにせ、到着した研究員が次々にポケモンを繰り出してくるのだ。

「もう……。ウィリデ、綿胞子!」
 足元から電光石火の勢いで飛び出した子羊が、フカフカした毛から白い綿を存分に生み出した。
 特性のいたずら心をいかんなく発揮して、相手のポケモンを綿まみれにする。
 素早さが落ちたところを、手数で攻める作戦だ。

「ウィリデ、エナジーボール! カリュブス、加勢して地ならし!」
 流石にウィリデだけでは心許ない。
 もう一匹、頭と爪を鋼の装甲で覆った土竜ポケモンを呼び出す。

「さて、ガンガンいくよ!」
 後ろのポリゴンZが、破壊光線の反動から回復していた。
 カリュブスが一撃を加えると、まだまだと言うように破壊光線のチャージを始める。

 ……もしかして、破壊光線しかやらないのか?

 そう思っている合間に、二度目の破壊光線が発射された。
 軌道は大きく逸れ、別の壁に穴を開ける。
 反動で動けない間にカリュブスが攻撃を加える。
 ついでに、破壊光線にビビってる研究員のポケモンにも。

「レベルは低そうだし、数が多いだけなら勝てるかな」



 なんて考えて、戦い始めてから十五分ほど経過した。

 相手のポケモンは一向に減らなかった。
 戦闘不能になる傍から次のポケモンを投入してくるので、キリがないったらありゃしない。
 補助に回っているウィリデはともかく、主砲を務めるカリュブスは疲れ気味だ。
 ちなみに、番人のポリゴンZは悪あがきで自滅した。

「ああ、もう!」

 僕も流石に、終わりの見えない戦いに焦れてきた。
 ポケモンが増えるだけならまだしも、研究員連中まで増えている。
 そして増えた研究員が、また新たにポケモンを投入する!

「やってられない! ウィリデ、カリュブス、引こう!」

 ウィリデは素直に賛成と手を上げたが、カリュブスは不機嫌そうだった。
 ここまで戦わせといて逃げんのかよ、と言いたいのが手に取るように分かる。

「それは、ごめんね、カリュブス。でも、もうひとつ頼まれてくれるかい?
 ……天井にドリルライナー」

 言うが早いか、カリュブスは鋼となった爪を閉じ合わせ、体を高速回転させた。
 そのまま飛び上がって天井に突っ込み、今度は天井を崩落させた!

 ぎゃああ、と研究員たちの悲鳴が聞こえる。
「ごめんね、でも僕、そろそろ帰りたいから」

 カリュブスをボールに納め、ウィリデを抱えて、僕は瓦礫の山を登るとさっさと灰色の建物から出て行った。




「遅かったなあ、キラン」

 思いがけず、名前を呼ばれた。
 森の出口には、思いがけない人がいた。

 黒い髪にダルそうな目、左側に一房赤のメッシュ。
 間違いなく、僕を森に送り込んだ上司その人だ。
 しかし、なぜここに?

「一体何して……」
「何って、ほら」

 僕の疑問を聞いているのかいないのか、上司は小さなデータカードを見せた。

「意味が分かりませんが」
「違法な研究の研究資料だよ、お前が取りそこねた」
「そう、結局研究のは取りそこねて……って、ええええええ!?」

 あ然として立ちすくむ僕に、彼女は大事はなかったかのように、淡々と説明し始めた。


「十二時頃だったかな、お前が着いたの。
 その前にあの建物に入り込んで、お前みたいな格好の怪しい奴が来るって言い触らしておいたんだ。
 研究資料とかの大事そうなデータを、奥の部屋から出してきてパソコンに移してたっけなー。
 元の紙のデータとかも燃やしてて」

「じゃあ、僕が見取り図送ったのとか、パスワードとかは……」

「ああ、あれ。
 怪しい奴がいるぞー、って確固たる証拠になったよ。
 連中に見せたら信用してくれてな。
 ロックのかかった扉に誘いだして捕まえるって案に賛成してくれた。
 お前、警報装置作動させたろ?
 お陰でみんな出払っちゃって、こっちはデータ取り放題だった」


 色々な感情が体を駆け巡った。
 怒りとか、怒りとか、怒りとか。
 というか、僕を囮として利用したのか、この人は!

「ま、いいだろ?
 無事だったし、こうして証拠も手に入ったしさ」

 脳天気そうに夜明けの空に向かって手を振る上司を見ると、こっちは何だか気勢を削がれてしまう。

 まあいっか、と上司と同じことを思いながら、僕はひとつのことを心に誓った。


 上司のコマンド(命令)には、もう易々と従うまい。







お題 ↑↓↑↓←→←→LR


23日土曜の夜のチャットの結果がこれだよ!


  [No.798] うまい 投稿者:兎翔   投稿日:2010/10/24(Sun) 08:04:06   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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さすがきとかげさん。そういう持って行き方をするとは…!
最後のオチも秀逸でした。
上司の手の上で転がされた部下君が不憫ですw
そしてエルフーン可愛い…!
密偵として見取り図も書けちゃう可愛くて使える子。
確かに特性や図鑑説明を見るとスパイ活動には適任かもですね…盲点だった…!
朝からほんわかした気分になりました、ありがとうございました(´`*)


  [No.816] Re: うまい 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 21:22:07   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> 上司の手の上で転がされた部下君が不憫ですw

彼にはこの後、潜入捜査の度に上司に嵌められる運命が待っていますw

> そしてエルフーン可愛い…!
> 密偵として見取り図も書けちゃう可愛くて使える子。
> 確かに特性や図鑑説明を見るとスパイ活動には適任かもですね…盲点だった…!

エルフーンいいですよね。どんな建物も偵察できるお役立ち。敵にまわすと恐いですが。
エルフーンに限らず、黒白の新ポケは図鑑説明が素敵なのが多くて、話のネタになりそうです。


  [No.799] ちょwww はやいwwww 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 09:34:22   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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私が寝てる間に一本小説出来てるってどういうことなのwww
きとかげさん仕事早すぎwwww

そ、そうかエルフーンの素早さのせいかっ


  [No.817] ジェバンニが一晩で 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 21:32:10   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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「チャットをして寝て起きたら、チャットで出てたネタがもう小説になってたぜ」を実現してみました。

実を言うと、チャットをしながら書いていました。多分その所為です。


  [No.808] ヤリオッタワァアア・・! 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/10/24(Sun) 15:32:06   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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どうも、夜分にはお世話になりました。

『さて、寝るか・・って、もう終わっとるぜよ!?』・・・とかなっちゃったのが、今朝の4時過ぎでした(汗  笑)

流石に早い・・と言うか、早過ぎですって・・!  それだけ早く書ける秘訣があるんなら、本気で師事させて頂きたいのですが(本気)

しかも内容についても、全然やっつけ仕事じゃないし・・・ オソロシか・・・


内容は特に、肝心のコマンド入力時に盛大にばれた所で激しく笑いました・・!
・・しかも、ポリゴンZ拘り眼鏡臭いし・・・(汗)
大量にいた研究員が、外部から入ってきた侵入者に完全粘着してる部分が、古き良き時代の潜入ネタを髣髴とさせて好きです(笑)

エルフーンは可愛いけど凶悪です。  ・・・悪戯心は神速やフェイントで無いと凌げないもんなぁ・・・
この先、どの様に対戦界で発展していくんだろう・・・?
個人的には、新しく悪戯心に目覚めたリオルとヤミラミが欲しくて堪らないザマス。  ・・・遂にリオルやオニドリルが、ネタではなくて実戦に起用できる時代が来た・・!(小躍り)
 
最後の上司に対する主人公の心の叫びが、彼の人生の教訓として機能することを願って・・・

では。  本当に、お疲れ様です。
・・・いい仕事を拝ませて頂きました・・・! 


  [No.819] Re: ヤリオッタワァアア・・! 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/10/24(Sun) 22:21:06   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> 流石に早い・・と言うか、早過ぎですって・・!  それだけ早く書ける秘訣があるんなら、本気で師事させて頂きたいのですが(本気)

うーん、そこら辺は人によるというか。
私は短時間でつめて集中して書くタイプなので、元々製作時間が早いんです。でもそんなの人によりけりだと思うし、締切りに追われてるわけじゃないから、毎日ちょこちょこ進めて、のんびり書いたっていいと思うのです。

> ・・しかも、ポリゴンZ拘り眼鏡臭いし・・・(汗)
> 大量にいた研究員が、外部から入ってきた侵入者に完全粘着してる部分が、古き良き時代の潜入ネタを髣髴とさせて好きです(笑)

笑ってもらって嬉しいです。
なるほど、拘りポリ乙でしたか(ぇ
なぜかこういう所の人は、侵入者にたかってくる傾向がありますw

> この先、どの様に対戦界で発展していくんだろう・・・?
> 個人的には、新しく悪戯心に目覚めたリオルとヤミラミが欲しくて堪らないザマス。  ・・・遂にリオルやオニドリルが、ネタではなくて実戦に起用できる時代が来た・・!(小躍り)

オニドリル!オニドリル!
小説の対戦描写も、おいおい考えないといけませんね。
 
> 最後の上司に対する主人公の心の叫びが、彼の人生の教訓として機能することを願って・・・

主人公「ふー……(遠い目)」


  [No.841] は、早い! 投稿者:砂糖水   投稿日:2010/10/25(Mon) 23:16:40   40clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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は、早い! それになんて時間!

チャット中に書いてたなんて恐るべしきとかげさん。
短時間でよくまとめられましたよね…、すごいです。
話の展開が流れるようにテンポよく進んでいてスイスイ読めました。
オチまでの持って行き方もうまいし、早いしで羨ましいです…!

楽しいお話ありがとうございました〜。


  [No.855] Re: は、早い! 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/10/26(Tue) 23:32:25   47clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> 楽しいお話ありがとうございました〜。

こちらこそ、もったいないくらいのお誉めの感想ありがとうございます。
当方うかれています。非常に浮かれています。

> は、早い! それになんて時間!
> チャット中に書いてたなんて恐るべしきとかげさん。

眠すぎて記憶がなかったりします。


  [No.914] コマンド・リターンズ 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/11/03(Wed) 01:43:35   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 目の前には、侵入者を拒む、重厚で隙間のない扉。
 その横にはキーボードとモニタがあり、パスワードを入力せよと待ち構えている。
 前にもこんなことがあった気がする。
 悪の組織はこう、奥まった部屋にでかい扉をつけてロックをかけて、重要なブツを保存するのが好きなんだろうか。

「でも、まあ、今回は大丈夫だよね」
 例によって紙を貼っていない障子なみに穴だらけの警備を潜り抜けた僕は、抱きかかえていたパートナーのエルフーンを降ろして、ポケットから一枚の紙を取り出した。
 組織の構成員の誰かが、お間抜けにもパスワードを書いた紙を机の上に置きっ放しにしていてくれたのだ。
 今回はいつかのように半日も草むらの中に座る羽目にもならなかったし、すこぶる好調だ。
 悪い連中を一網打尽にするための証拠その他を手に入れて、さっさとオサラバしよう。

 手の中の紙切れと、キーボードを見比べる。数字が十一個並んだパスワード。
「楽勝、楽勝」
 そう言ってキーボードに手を触れようとした時、携帯のバイブが鳴った。

 なんだよこんな時に、と悪態をついて携帯を開く。
 ……上司からだ。
 内容は、


『ロック ↑↓↑↓←→←→LR』


 僕は黙って携帯を閉じた。

 なんだろう、あの人は。僕をカモかなんかだと思っているのだろうか。
「僕だって、騙されてばっかりじゃないぞ」
 キーボードに手を伸ばす。
 慎重に、紙切れに書かれた、十一個の数字の並びを入力していく。
 最初にゼロ、次にハチ、次はまたゼロ……
 ゆっくり、確実にテンキーを押していく。

 そして、深呼吸してから、エンターキーを押し込んだ。


『侵入者ハッケン! 侵入者ハッケン! タダチニ撃退セヨ!』
「えええええっ!」

 いつぞやと同じくるくる回る赤ランプが辺りを照らし出し、悪の組織の皆さんが続々と到着する。
 次々にモンスターボールを投げ、ザコ敵の嵐。

「やってられるかあっ! カリュブス、ドリルライナー!」

 色々とどす黒い念のこもった台詞を吐きつつ、ボールから出したドリュウズに技の指示。
 壁をぶち抜いて逃げようとしたが、いっぱい人が追っかけてくるので、技の指示を飛ばしながら、全力で撒いた。



 驚かないぞ。この人とこんな所で会っても、絶対に驚かないぞ。
「遅かったなあ、キラン。鬼ごっこでもしてたか?」
 なんで上司がここにいるんだよ……。

 僕の憂いなんかどこ吹く風、彼女は呑気にヒウンアイスを食べている。

 僕は横を向いて、ため息をついた。
「また失敗したんだな。それで落ち込んでるのか」
「失敗はしましたが……それで落ち込んでるんじゃありません」
「やっぱりあのパスワードは不味かったか」

 そうですよ、と言おうとしたが、何故か自然にため息が出た。
 僕の幸せいくつ逃げたんだろう、と切ない思いに囚われた。

「折角ハッキングして、パスワード変えといたのにな」
「そうですか」
「まあ、警報装置を作動させて大暴れしてくれてたから、その隙に証拠は押さえたけど」

 そうですか、とため息をつく。
 今回は、素直にあのコマンドを入力しとけばよかったのか。
 何もかも虚しくなって、僕はポケットから紙切れを取り出し、風に乗せた。


「ゴミを捨てるなよ、キラン」
 上司が紙切れを拾って、僕に差し出した。
 いいです、と片手を上げて断ったが、なおも上司は食いついてくる。

「良くないよ。これ、誰かの電話番号だろ」
 そう言って僕の胸に紙切れと、どさくさに紛れてヒウンアイスのカップを押し付けると、さっさとアーケオスを呼び出して飛んでいってしまった。

 紙切れには、080で始まる十一桁の数字。

 僕は呆けたみたいに、アイスのカップを持ったまま紙切れを見つめてつっ立っていた。
 ウィリデが僕を突っついて、いつの間に取り出したのか、メール着信のライトが付いた携帯を差し出した。

『証拠の提出、代わりにやっといてくれ』

 アイスのカップの底がパカっと取れて、中から小さなデータカードが出てきた。
 データカードを手の平に移すと、なぜだろう、泣きたいのに笑いたい気分になってきた。

「……帰ろうか、ウィリデ」
 フワモコパートナーと手をつないで、僕はゆっくり歩き出した。





【書いてもいいのよ】
【タグ付け忘れてたのよ】
【↑↓↑↓←→←→LRなのよ】
【携帯番号をそこらに置きっ放しにしちゃ駄目なのよ】

お題 すれ違い


  [No.928] 続編、続編じゃいやぃ! 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/11/07(Sun) 03:21:33   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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まさかの続編が到来・・・何と言う嬉しい展開か・・!?(笑)

何度も読み返したけど、最初に読んでからは大分経ってるのは内緒。  ・・・色々あったのよ(爆)


夜分遅く・・つーか未明ですけど今晩はです。
前作がとても好きでしたので、またシリーズとして続編が来たのが凄く嬉しい深夜徘徊魔です。

『瓢箪から駒』が現実になったようなお話なのに、これだけ登場人物のキャラクターがしっかりしてる所は、恐ろしい限りっすね・・・


取りあえず、今回も大いに楽しませて頂きました・・・!
落ちの『電話番号』は、最後のシーンまで気が付きませんでした・・・  不覚ナリ・・・

前作もそうですが、主人公の所々に見え隠れする本音と愚痴が、兎に角楽しくてしょうがない(笑)
『悪の組織はこう、奥まった部屋にでかい扉をつけてロックをかけて、重要なブツを保存するのが好きなんだろうか』 とか、メタに近いこの手の表現は、読む傍から自然と笑いが込み上げてきて、個人的に大好きです。

『色々とどす黒い念のこもった台詞を吐きつつ』 ・・ま、人生そう言う事ほど良くあるもんさ――()


しっかしあの上司・・ハッキングも出来るのか・・・
それでどうして主人公が、毎回こんな目に合うのかと言えば・・・まぁ、そう言う間柄だからですね(爆  ナンマイダ・・・)

言葉を喋れないにもかかわらず、毎度主人公をそっと精神崩壊から救ってくれるエルフーンさんは、まさに得難きパートナー。
大事にしてあげて下さいです・・・


・・そう言や、俺は何時になったらヒウンアイスを買えるんだろ・・・(爆)


では。  失礼致しました・・・


  [No.930] 続編でーす 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/11/07(Sun) 11:21:41   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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> 何度も読み返した

照れます。照れますから。

> 取りあえず、今回も大いに楽しませて頂きました・・・!
> 落ちの『電話番号』は、最後のシーンまで気が付きませんでした・・・  不覚ナリ・・・

引っ掛かってくれると作者冥利につきます。

> これだけ登場人物のキャラクターがしっかりしてる所は、恐ろしい限りっすね・・・

実は、別に考えている話からキャラを引っ張ってきてたりします。部下の彼が上司に告白して撃沈したというのは秘密。

>『悪の組織はこう、奥まった部屋にでかい扉をつけてロックをかけて、重要なブツを保存するのが好きなんだろうか』 とか、メタに近いこの手の表現は、読む傍から自然と笑いが込み上げてきて、個人的に大好きです。

私もメタが好きなもので、そう言っていただけると幸い。
なんでボスは最上階にいるんだろうと訝しがりながら、今日も階段を登っていきます。

> 言葉を喋れないにもかかわらず、毎度主人公をそっと精神崩壊から救ってくれるエルフーンさんは、まさに得難きパートナー。

上司のいびりがないときは、エルフーンが彼にイタズラします。

> ・・そう言や、俺は何時になったらヒウンアイスを買えるんだろ・・・(爆)

バニリッチを代りに……