正直,どうしてオーナーが私に店を任せてくれたのか分からない。
この店は,彼が頑張って作った店なのに。
『君に,この店を任せたい』
勝手に店名まで変えちゃって,もうここは自分の店じゃないって言っているみたい。
『戻ってきた時,美味しいコーヒーを飲ませてくれると信じてるよ』
オーナー・・。
今,何処にいるんですか?
「ハロウィンが近づいてきたわね」
ドン,という効果音が出そうなくらい胸を張ったフルメタルを見て,マグマラシはため息をついた。
「また新商品か。お前すっかりプロデューサーだな」
「ハロウィンといえばお菓子。キャンディとかクッキーとか,手軽につまめるお菓子がいいと思うの」
特に女の子受けするならいいわよね!と気合を入れている。
「まあ,別にアイデア出すのはいいんだけどよ」
「何よ」
「・・オーナーがな」
マグマラシの言葉に,フルメタルはカウンターを見た。
今日もオーナーは,きちんと制服を着て,店の中で何かがおきていないかを見ている。
だが。
「・・眼が,集中してないわね」
「気付いたか。三日前からあの調子だ。おまけにアレを見てはため息をついている」
金属製の看板。黒硝子で,『diamante』の文字。
「この店には随分合ってないわね」
「・・ペルトが知らないのも当然か」
「え」
マグマラシは一呼吸置いた後,はっきり言った。
「この店はな,元々ユエがオーナーじゃなかったんだ」
ユエは考えていた。いや,悩んでいたと言った方が正しいかもしれない。
「お客さんも増えた。この店の味を認めてくれる人も増えた。
・・でも」
あれは,何年前のことだったのだろう。
ユエは高校生だった。
入学してすぐに,ユエは中学時代の友達が骨折したというので病院へ行った。
そこで出会ったのが,後に共に大事件に巻き込まれることになる二人の人物。
片方は女性。もう片方が・・。
このカフェの,元・オーナー。
知り合ってすぐ,ユエはその二人と事件に巻き込まれた。その後に女性の方は外国へ旅立ったが,オーナーは自分でカフェを作った。
ユエは,高校から大学にかけてそこでアルバイト兼見習いをしていたのだ。
そして,大学を卒業した,ある日のこと・・。
「君に,この店を任せたい」
「え・・」
元々,オーナーはユエにこの店を継いでもらうつもりだったらしい。
でもいきなり『任せた』なんて。
結局,オーナーは一通りの手続きを済ませた後,外国へ旅立って行ったのだが。
そしてユエは・・。
「そろそろハロウィンか」
悩んでいても仕方無いので,ユエはユエでアイデアを練っていた。
「小さなお菓子をケーキセットとかに付け合せるとかね。
悪戯心をくすぐるような・・」
数日後。
「マグマラシー」
久々のお呼び出しにマグマラシが転がるように走ってくる。
その姿を可愛いと思いながらも,ユエは表情を引き締めた。
「どう?」
目の前に差し出した物は・・
「ハロウィン限定キャンディー,名づけて『アーケオス・クリムガンカラー』」
ブルーとレッドを基調にしたクリムガンカラーと,ブルー,グリーン,レッド,イエローを基調にしたアーケオスカラー。
ハロウィンらしいビビットが目に眩しい。
「イッシュ地方のポケモンって,お菓子のアイデアになる子が多いよね。
・・私も一匹欲しいなあ」
「スランプ脱出したのかしら」
キャンディーを舐めながら,フルメタルがマグマラシに話しかけた。
「さあな。とりあえず,オーナーって自覚はあるらしい」
「そうね。こんなアイデアを考え出すんだもの」
二匹の間には,大量のキャンディーが入った籠が置いてあった。
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久々のカフェシリーズです。
本当は他のアイデアもあったのですが,それはまたクリスマスの時期に。
何かアイデアありましたら,お気軽にどうぞ。