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  [No.893] 前 陰陽師と式神 投稿者:リョウナ   投稿日:2010/10/31(Sun) 15:04:41   82clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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       陰陽師と式神






 遠い昔、城都(ジョウト)と呼ばれる国に縁寿(エンジュ)という都があった。

 虹色の翼をもつ神鳥を祭る「鈴の塔」、銀色の翼をもつ神鳥を祭る「鐘の塔」の二つの塔がそびえ立ち、
気品あふれる美しい都であったが、ここに住まう人々を困らせているものがあった。




 それは「妖(あやかし)」、または「妖怪」と呼ばれる存在である。
妖は他の動物のように大人しくて、こちらから手を出さなければ何もしてこず、家畜や愛玩動物のように飼われているものもいる。

 しかし、中には後ろから髪の毛を引っ張ったり、夜の暗闇の中で突然奇声を上げたりなどの悪戯をするものもいれば、
畑で実った作物を食い荒らすもの。
極めて凶暴で人に襲いかかったりするものなど、様々な形で住民の暮らしを脅かしているのである。




 その様な妖から人々を守り、妖を鎮める「陰陽師」という者たちがいた。
妖術に似て全く異なる陰陽術を用いり、強い力を持つ妖とも対等に戦うことができるそうだ。
更にはボングリという木の実から作られた玉状の器の中に一匹の妖を封じることにより、その妖を己の僕として操ることができるという。
陰陽師たちは他の妖と区別をつけるため、僕となった妖を「式神」と総称している。
この式神の術を身につけることで半人前、そして六匹の式神を従わせられるようになって初めて一人前の陰陽師とされるらしい。



 縁寿の都のある一角に凄腕の陰陽師が暮らす屋敷があり、多くの者が弟子入りし、そこで修行を行っていた。
そんな立派な陰陽師となることを夢見る「琥珀丸」という一人の少年も、見習いとしてその屋敷に身を寄せていた。

 琥珀丸は陰陽師になりたくて弟子入りをし、陰陽術の修行をするためにやってきたが、屋敷に身を置いてから修行どころか勉強の一つもさせてもらえず、
それどころか毎日掃除や兄弟子たちの衣服の洗濯、食事の準備などの家事ばかりやらされることに不満を抱いていた。

 一体いつになれば修行をさせてもらえるのか師匠本人に訊こうとしたが、忙しいと理由をつけられ会うことはできなかった。
ならば兄弟子に訊こうとしたが、まともな答えをもらえず、終いには馬鹿にされる始末。
どうすればいいのか思考を巡らし、来る日も来る日も考え続けたが結局答えは見つけられなかった。
こんな所に来るのではなかったと後悔し、逃げ出そうと考えたこともあったが、それではまるで自分が負け犬になってしまうような気がして断念した。
夕暮れ時に飛んでくる妖の一種である闇鴉たちの鳴き声が「アホー」と聞こえ、妖にさえ馬鹿にされたように感じ、何だか虚しい気分になる。


「僕は、僕は陰陽師に向いてないのか……?」


 屋敷内の広い庭にあるこれまた広い池に住み着いている、小さくて大人しい水の妖たちに琥珀丸はしゃがみこんで話しかけていた。
玉のように丸い体をもつ青い水鼠と、腹にある渦巻き模様が特徴的なお玉じゃくしの妖たちは水面から顔をのぞかせ、困ったような表情でお互いの顔を見合わせた。
そんなことを言われても自分たちにはどうしようもないといった様子である。
言葉の通じない妖に言っても仕方のないことだとは分かってはいたが、こうして困ったような顔をされると流石にしょげる。
何とも間抜けそうな顔をして悠々と池の中を泳ぎまわる赤い鯉の妖が時折恨めしくなる。
こいつ等に聞くんじゃなかったと軽く後悔しながら、そろそろ屋敷へ戻って残りの仕事を片付けようかと立ち上がろうとした。

 が。




    ゴツッ。




 鈍い音が聞こえたと同時に琥珀丸の頭に衝撃が走った。
いきなりのことで軽く困惑し、それが何であるか脳が理解する前に衝撃が起きた部分から強い痛みが生じる。
それと同時に、どぼん、と何かが池の中に落ちた音が聞こえた。

 頭に何かをぶつけられた。そう思った時にはもう遅かった。


「いいいぃぃぃぃったああああぁぁぁぁぁ!!?」


 ぶつけられた所を両手で押さえながらうずくまっていると、後ろからいかにも楽しげな男の笑い声が聞こえてきた。
涙のにじんだ目で後ろを振り返ると、そこには両腕が切れ味鋭い鎌になっているカマキリの妖を従えた青年が、
右手に白いボングリをもって馬鹿笑いしながら立っていた。
青年の姿を見たとき、琥珀丸はこの青年が自分にボングリをぶつけたのだと思い、またやられたと思った。
そして、池に視線を移すと、案の定青年が持っていたのと同じ色のボングリがぷかぷか浮いており、先ほどの水鼠とお玉じゃくしが状況が把握できず唖然としていた。


「霧彦さん……」
「あっははははは、まさかまた当たるとは思わなかったぜ琥珀ぅ。お前本っ当鈍いなぁ。何回も同じ目に遭うなんてな! ぶっははははははははは!」
「笑わないで下さい! もういい加減にしてくださいよ! これで何回目だと思っているんですか!」
「丁度二十回目だ♪」
「……なんで楽しそうに言うんですか」
「楽しいからさ」


 何の迷いもなくかえってきた返事に琥珀丸は深くため息をつく。
この悪戯小僧のような霧彦と呼ばれた青年は琥珀丸の兄弟子の一人である。


 霧彦は、若いながらも才能あふれる優秀な人物であり、一番弟子とまではいかないが、師匠も期待と信頼を寄せている。
聞いた話によれば弟子入りをしてわずか一年目にしてカマキリの式神を手に入れ、そして妖の中でも厄介とされる九尾の狐を封じるなどの功績を残している。
現在では五匹の式神を従え、多くの妖を退治するほど陰陽師としての頭角を現している。
人柄も良く天才と称されても謙虚に振る舞い、弟弟子にも気さくに接して面倒も見てくれる。
琥珀丸自身も世話になっており、霧彦のことを本当の兄のように慕っている。

 だが、そんな彼に一つ困らされていることがある。
先ほどのボングリをぶつけてきたなどの悪戯をしてくるのだ。
普段はとても優しく気軽に振る舞ってくれ、相談にものってくれるのだが、琥珀丸を含めた弟弟子をからかったり悪戯したりするのが好きらしい。


 琥珀丸にやったようにボングリなどの物を投げつける。(流石に石など硬い物は危険なので投げない)


 池に突き落とす。


 食事にとても辛い木の実や酸っぱい木の実の汁をこっそり混ぜる。


 せっかく洗った洗濯物を汚す。


 掃除したばかりの部屋や庭を散らかす。


 挙句の果てには自分の式神を使って水をかけてずぶ濡れにしたり電撃で痺れさせたりするなど、
ここまで来るともはや可愛いからかい程度のものではない。軽い悪意のようなものを感じる。
本人曰く、「これが俺なりの愛情表現!」らしいが、悪戯されている側にしてみればいい迷惑である。
こっちの身にもなっていい加減止めて欲しいと弟弟子たちは思ってはいるが、
この人のことだ。言っても素直に応じてくれるはずがないと誰もが諦めている。
もちろん、琥珀丸も例外ではない。


「霧彦さんもういい歳なんだからこんな子供っぽいことしないで下さいよ。こんなこと毎度毎度されたら僕の身が持ちませんよ……」
「だーいじょうぶさ。立派な陰陽師になりたいんだろ? これも修行だと思えばいい。
第一、こんなことでへこたれてるようじゃ陰陽師にゃなれねーぜ。俺は手加減しているからまだいいが、妖は情けをかけちゃくれねぇぞ」
「話を別の方向へ持っていかないで下さい! それに、僕が言いたいのはそういうことじゃないです!」
「そりゃしっつれい♪」
「……っ!」


 反省? 謝罪? なにそれおいしいの? とでも言わんばかりの満面の笑みと共に出てきた反省の色が全くない言葉に、何やら殺意や憎悪に似たものが込み上げてきた。
自然に握りしめた両手の拳に指が食い込んで血が滲み出そうなくらいありったけの力が込められ、いつでもこの青年のアホ面に向けて殴りにかかる出撃準備が整う。

 だが相手は仮にもお世話になっている兄弟子であり、自分なんかと比べ物にならないくらい陰陽師としての実力を持つ人だ。
そんな人を殴る訳にもいかず、第一そんな事をしたら彼の一番の相棒である鋭い刃を持つカマキリに何をされるか分からない。
あのカマキリは主人である霧彦には絶対服従で、主に何かあれば只じゃすまないだろう。
それに、こんなことをしても悪戯が止むことはないし、それで気分が晴れるのはその時だけ。
どうせ何回も同じ目に遭うのだから、殴っても仕方がない。
おまけに以前に霧彦の悪戯に堪忍袋の緒が切れた奴が彼を池に突き落としたら、お師匠様にこれ以上ないくらい叱られ、まるまる二日食事抜きといった罰を受けたという話を聞いた。
池に落とすくらいならずぶ濡れ程度で済むが、殴りかかって怪我なんてさせてみろ。二日飯が食えない程度じゃ済まないかもしれない。

 そんなことを自分に言い聞かせながら冷静さを取り戻し、拳に込めた力を少しずつ抜いていく。


「僕はこれで失礼させてもらいますよ。まだ仕事が山ほど残っているので」
「おいおいおいおい、そりゃねーだろ冷て〜なぁ」
「これ以上貴方といたら時間を無駄にするだけですからね」
「そんなこと言うなよ。今からこの俺が兄弟子としてありがた〜い助言を授けてやろうとしてるんだ。聞きたくないのかね琥珀君?」


 琥珀丸は少し驚き、思わず霧彦の顔を見た。そこにはもうふざけた笑顔ではなく本当に自分のことを心配をしてくれている親のような微笑みがあった。
悪戯好きでよくからかってくる霧彦だが、こんな時は血の繋がった兄のように親身になって心配をしてくれる優しい人物なのだ。
恐らくは薄々自分が悩んでいることを察していたのかもしれない。だから元気づけようとからかったのかもしれない。

 だがしかし、そう簡単に悪戯を許せる琥珀丸ではない。


「お気持ちだけで結構です。それに先程の行為は弟弟子に助言をしようとする態度には見えなかったので」
「ははは、悪かったよそりゃ。でもさっきのお前の後ろ姿は悩んでますよ〜って感じだったぜ」
「それは……、まあ、否定はしませんが……」
「だろ? だろ? だからさ、ここは兄弟子として何か手助けをしなければと思ってだな」
「手助けしようとしてボングリを投げたと?」
「わりぃ。ついな」
「ほう。つい、ですか」
「琥珀お前……、結構根に持つな」
「それは何度も痛い思いをしている訳ですからねぇ。ええ」
「こんな時お前が執念深い九尾の狐じゃなくて良かったと思うぜ。俺、千年呪われるのは御免だし」


 彼はまあまあとなだめる様に両手を前に出し、とりあえず俺の話を聞いてくれと困った表情をする。
まあ、折角天才と称される陰陽師に助言をしてもらえるのだ。話は聞いておこう。


「お前さ、陰陽師の勉強させてもらえなくて苛立ってんだって? んまあ俺もその気持ちはよ〜く分かる。何を隠そうこの俺も弟子入りした頃はそうだったのさ」
「え? 霧彦さんが?」


 意外だった。てっきり彼は最初から師匠から陰陽師の手解きを受けているものだとばかり思っていたからである。


「そ。んじゃなぜ俺がここに入って一年で式神を捕まえたか分かるか? 俺も兄弟子からある陰陽術を教えてもらったからさ!」


 霧彦の話によれば、その兄弟子からなんと式神を捕まえる術を彼に話したらしい。兄弟子は毎日修行をさせてもらえない可哀そうな弟弟子を慰めるために教えたようだ。
方法を教わってもその術を使えるようになるには最低でも三年はかかる。使えるようになれば師匠もきっと認めてくれるだろうと話してくれた。
しかし、まさか話してからわずか四カ月以内に式神を手にするとは思ってもいなかっただろう。


「可笑しかったぜぇ、あの人や師匠様の唖然とした顔! お前にも見せたかったよ」
「…………き、霧彦、さん」
「ん?」
「も、も、もしか、して、ぼ、僕に、僕に式神の術を……」
「ああ、教えてやるよ」


 琥珀丸はあまりの嬉しさに飛び上がりそうになった。もう感激で天に召されてしまってもいい気分だ!
良かった良かったああ本当に良かった! 神様はちゃんと自分を見ていてくれていたのだ! きっと毎日汗水流して頑張って来たご褒美なのだろうこれは。
天才陰陽師と呼ばれる兄弟子から、しかもいきなり式神の術を教わることになろうとは! 幸せすぎて何だか怖い!
霧彦のように早く習得するのはまず無理だろう。しかし、もしこの術を使って己の力で式神を手に入れることができれば、きっと師匠は陰陽師の勉強や修行をさせてくれるに違いない。
そしたらいずれ夢だった立派な陰陽師になれる日は近い。今まで心配をかけてきた故郷の両親にいい知らせができそうだ。

 色々と妄想が頭の中に膨らんで、しばしの間現実から離れてしまっている弟弟子を霧彦はあきれた目で見つめ、軽く咳払いをして妄想から引き戻そうとする。
はっ! としてしばらく現実離れをしていた自分が急に恥ずかしくなり、感激の興奮を少し残したまま慌てて兄弟子へ顔を向ける。


「だが、その前に話しておくことがある」


 へ? と間抜けな声を漏らしてしまう。舞い上がりそうなまでにあった喜びはプシューと音を立てて一気にしぼんでしまった。
はて話とはなんだろうかと話を聞く体制を整える。今この時は自分と彼は兄弟弟子ではなく教師と生徒の関係なのだ。失礼があってはならない。




「唐突だが、琥珀。お前さ、梅姫のこと好きか?」
「………………へ? え? ほにぇっ!?」




 一瞬言葉の意味が理解できなかった。だがすぐにその意味を理解してしまい思わず奇声をあげてしまう。
何故か顔の温度がどんどん熱くなっていくのを感じ、無意識のうちに両手で顔を覆い隠した。何やっているんだ自分はこれじゃまるで女の子じゃないか!!


「な、なななな何を聞くんですかいきなりぃ!!」
「へぇー。そんなに取り乱れるってことは、やっぱ好きなのかぁ? 姫のこと」
「ちょ、ちょ、ちょっとまってくりゃひゃいよああもうなにきくんれふかにりふぃこひゃんろうろつにひょひょろあありまふようみぇひめがふきなんれひょんなうあああああああやみぇれくりゃひゃいあああああああああああありぇんりぇんひょんにゃこひょありましぇんかりゃあああああああああああああ」
「……うん。琥珀。とりあえず落ち着け。取り乱れすぎ。そうか。ここまで混乱するほど好きなのか。そうかそうか」
「にゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 頭が混乱しすぎてうまく舌が回らず、自分でも何を言っているのか分からない。あれおかしいな、自分は確か日本語しか喋れないはずなのにいつの間にこんな奇妙な言葉を覚えたんだ?
ああもう止めてええええええええええええええ!! それ以上追及しないでお願いだからああああああああああああああああああああああ!!



 さて、この少年をここまで混乱させている梅姫とはいったい誰なのかというと、実は琥珀丸がひそかに思いを寄せている美しい姫君のことである。

 梅姫はその名の通り桜よりも先にその白くて可愛らしい花を咲かせ、春の訪れを告げる梅の花がよく似合う可憐な少女であり、祖父に上流貴族を持ち、その祖父が琥珀丸たちの師匠と古い友人なのだそうだ。
前に一度祖父とこの屋敷へ訪れた際、琥珀丸は一目でその麗しき少女に心を奪われてしまった。
運がいい事にあるきっかけで琥珀丸は梅代姫と話すことができた。実際に言葉を交わしてみると、やはり貴族の娘らしく淑やかで上品な人だと思った。
気品ある言葉遣いに優雅な立ち振る舞い。そして桃色の唇から発せられるその声は鈴の音を思われる透き通った綺麗な声はより一層彼女を美しくさせていた。
梅の花が刺繍されている薄紅色の着物が良く似合っていると言ったら、普通の女の子のように頬を少し赤らめ、嬉しそうだけど少し照れくさそうに微笑んだ。あの微笑みはまさに梅の化身。または花の精と呼ぶにふさわしい可愛らしさだ。
こんなに愛くるしい笑顔をされたらまず惚れない男はいないだろうと本気で思ったくらい見惚れてしまった。可愛すぎるにも程がある。
そして彼女はとても優しくて思いやりのある性格で、今飼っている妖の小判猫のサクラは、傷を負って自宅である屋敷の前に倒れていたのだという。
祖父や屋敷の使用人たちは妖であるという理由で陰陽師に処分してもらおうとしたが、梅代姫がそれを泣きながら止め、自分が世話をして面倒をみるという条件で愛玩動物として屋敷で飼うことを許されたのだという。
なんて優しい人なのだろう。もし彼女が貴族でなかったとしても、きっと将来この人の伴侶となれた男は幸せな生活を送れるに違いない。

 それから幾度か話していくうちに梅姫と琥珀丸は親しき友人の中となり、月に一度お互いに文を送りあっている。他の弟子たちは琥珀丸をよく羨ましがる。
しかし、琥珀丸は淡い思いを募らせる一方で未だに自分のその思いを伝えられずにいた。
どんなに思い焦がれていても相手は貴族の娘。平民である自分。例え気持ちが伝わっても梅姫と結ばれることは永遠にない。そう思うと胸が苦しくなり、ならばいっその事友人のままでいる方がいいと考えていた。
陰陽師の勉強もさせてもらえない駄目な自分と結ばれるより、もっとカッコ良くて素敵な男と結ばれた方が梅姫にとっても幸せなことだ。



「とにかく落ち着け。深呼吸しろ深呼吸」


 そう霧彦に促され、ゆっくり空気をたくさん吸い込み、そしてゆっくり吐き出す。またゆっくり吸いこみ、ゆっくり吐き出す。そうした呼吸を何度か繰り返すうち、次第に冷静さを取り戻す。


「はい……、とりあえずおちつきました……」
「うむ。よろしい。ではさっきのことは置いといて本題に入る。確か梅姫は三月後が誕生日だったよな?」
「はい……」
「よし、俺が聞いた情報では梅姫はその誕生日に丁子の村に出かけるらしい」


 丁子の村。その名を聞いた瞬間、琥珀丸は心の臓が止まりそうになり冬の風にあおられたような寒気に襲われた。


「ちょ、丁子の村!? あの怒りの湖のある!?」
「そうだ。梅姫は怒りの湖を見たいらしいぞ」
「そ、そんな……。だって、あそこは水妖の中でも凶悪で一度暴れ始めたら惨事は免れないと言われる竜鯉が棲んでいるんじゃ!」


 竜鯉とは、この屋敷の池にもいる赤い鯉の妖が一転、青い竜へと姿を変えた妖であり、鯉であったときは跳ねることしかできない最も弱い妖だったが、それとは正反対にその怒りに触れたら最後、村や町の一つを消滅させてしまうといわれるほどの強大な力を持つ妖である。
丁子の村の北にある「怒りの湖」は、その竜鯉が暴れまわって生まれた湖であるとの言い伝えがあり、別名「竜鯉湖」と呼ばれる。


「ああ。性格は極めて凶暴で俺ら人間が戦を始めると姿を現し、辺り一面を焼け野原へと変えてしまう最強の水妖。竜鯉。おっかない奴さ。でも滅多に人前に現れないから気を付けてさえいれば大丈夫だと師匠が判断したみたいだぜ」


 この時初めて琥珀丸は師匠を呪った。
そんな判断をするなぁ!! 何を考えているんだあの爺さん!! 滅多に現れないってもし現れたら危険すぎるだろうがあああ!!


「んまぁ、一応念のために何人か陰陽師をお供っていうか護衛につけるってさ。実は俺もその護衛の一人だったり♪」
「それはだいたい予想してました。というより、お師匠様何勝手にそんな判断してんですかぁ! 姫の身に何かあったらどうするつもりですかぁー!!」


 大切な人が危険な場所に旅行気分で行く。そんなことを聞いて冷静にいられる人物がいたらぜひお目にかかりたい。
これで何度目になるだろうか。再び頭に血が上って、思わず霧彦に当たり散らしてしまう。
もっと怒鳴りつけるつもりで口を開きかけていたが、彼の隣のカマキリが両腕の刃を構えてこちらを鬼の形相で睨んできたので、あまりの気迫に恐怖を感じ、口を閉じる。そしてそのことに霧彦は全く気付いていない。


「俺に言われてもだぜそりゃ。ん、んんっ。話を戻す。で、師匠は俺を含めた優秀な弟子だけをつけようとしたが、心して聞け。実は、梅姫がさ、お前も一緒は駄目かって師匠に聞いたんだってよ!」
「へぇ、そうですか。でもお師匠様は僕を入れることなんてなさらないでしょうね。だって僕はまだ………………」


 カマキリの事に気を取られていたので反応が遅れてしまった。そして言いかけてからはっ! と気づく。
え、何この人今何て言ったの。


「え? き、霧彦さん? 今、なんて仰いました? 姫が、梅姫が、僕を? じょ、冗談や、止めてくださいよ!! いい加減にして下さいからかうのは!!」
「冗談言ってねーしからかってもねーよ。マジな話だぜ」


 頭の中が瞬く間に何も見えないほど濃い霧の中へと迷い込んでしまったかのように白一色に塗りつぶされていく。それとは反対に顔だけでなく頭の温度がどんどん上昇していく。きっと自分の頭から湯気が出ているに違いないと思ったくらい頭が暑かった。
それはつまり、梅姫は琥珀丸とともに丁子の村へ行きたいということなのだろう。


「そんな、姫が、僕を、う、わ、どうしよぉ……」
「良かったなぁ琥珀。梅姫直々のご指名だぜ。羨ましいぜあんな美人と名高い姫君に気に入られててさ!」
「止めてください!!」


 もう付き合っちまえばという霧彦のからかいにますます顔が暑くなってくる。いい加減にしてもう本当に。
琥珀丸の頭の中は照れ臭さと恥ずかしさでいっぱいだった。今まで梅姫とあっていたのはこの屋敷の敷地内だけで、外に出かけることなんて殆どなかった。姫と一緒に旅行ができるなんてまるで夢のような話。心の臓の鼓動が大きく動いているのが分かるくらい嬉しかった。

 しかし、その喜びを断ち切るように霧彦は淡々と話しを再開する。


「でさ、また話し戻すけどさ、このボングリやるからもし一緒に丁子に行けることになったらお前姫の護衛ついでに妖を一匹捕まえてこい」
「はいぃ!?」


 意味が全く分からなかった。


「待ってください。ちょっと待ってください。とりあえず、今言ったことを分かりやすく、かつ正確にきちんと僕に理解できるよう説明してくださいお願いですから」
「説明って今言っただろ」
「だぁーかぁーらぁ!!」


 なんか今日はこの人に振り回されっぱなしだ。そう思いつつもこうして霧彦に式神の術を教わることになった琥珀丸であった。





     ◇  後 書  ◇


はじめましてリョウナというものです。

初投稿なんですか、なんか色々とすみませんorz
こうして小説を長々と書くのも投稿するのもはじめてなものでして、なんか結構グダグダ文になってしまって申し訳ないです(T_T)
やっぱり素晴らしい小説を書いてらっしゃる管理人様や他の皆様方には敵いませんね(^^ゞ
でも自分なりに一生懸命書きましたし、誤字脱字さらにはなんじゃこりゃwとかいみふwな訳分からん所があっても皆様の広くて温かい心で許しt(殴

さて、ここで登場した妖がどのポケモンなのか分かりやすいようにちょっと補足を入れます。
 闇鴉=ヤミカラス  そのままです(爆
 水鼠=マリル
 お玉じゃくし=オタマr……すいません嘘ですニョロモですごめんなさい。
 赤い鯉=コイキング
 カマキリ=ストライク
 小判猫=ニャース  これまたそのままでs(いい加減にしろ
 竜鯉=ギャラドス  中国の伝説の生き物だそうです。読みは「りょうり」です。料理ではありません。

陰陽師とかそういうのが大好きで、そういえばポケモントレーナーとポケモンって日本の陰陽師と式神みたいだなと思って書いてみました。
エンジュシティは京都がモデルなので舞台はジョウトなのですが、できればBWの新ポケモンも出したかったです(´Д`;)
でも調べてみたらなんとイッシュ地方はまさかのアメリカニューヨーク州がモデルという衝撃の事実。
他の地域からやってきた旅人がイッシュのポケモンを連れているという設定にしようかと思ってたのに、遠すぎるということで断念しましたorz

また近いうちに続きを載せようと思っています。兄弟子の霧彦さんに振り回されっぱなしの琥珀丸君は次回で一体どうなってしまうのでしょうか。
ここまで読んで下さって本当に感謝しています! ありがとうございました!(^∀^)ノシ




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