人生を歩いて行く上で、大切なことは何か。
そんな哲学的なこと、アンタは考えたことある?
私?うん、あると言っていいかもしれない。答えも出した。ただ、大抵それはまどろみの最中だから、絶対というほど忘れてしまう。
それは朝のバスの中だったり、午後の授業だったり、はたまた夜眠る時だったりする。
そんな時、彼はいつも四本の腕・・腕って言っていいのかな・・で、頭を撫でてくる。
これじゃあどちらが主人か分からないじゃない。
ヘッドフォンをしているため、街の音が入って来ない休日の午後、私は一人でショッピングモールに来ていた。
昼食を済ませ、好きなアイスクリームを買って外のベンチに座る。隣は二十代の女の人。煙草を吸っているから煙が流れてくる。
休日だからだろう、家族連れが多かった。私の両親はいつも仕事だ。幼い記憶でも何処かに連れて行ってもらったことなんて一度も無い。
でも平気だった。私にはポケモンがいるから。彼を見ると皆怖がるけど、私にとってはトモダチなんだ。
かけがえのない、トモダチ。
アイスクリームはミックスだったため、舐めていくうちにマーブル模様になっていく。
ぐるぐる、ぐるぐると。
冷たくて味が分からないため、私は気にせずコーンをかじった。
遠くで子供が泣いている。私は子供が苦手だ。私だってあんな時があったに、他人はどうしても許せないのだ。
「この世界の人間がさ」
私は隣にいるトモダチに話し掛けた。
「みんな、感情が無かったら良かったのにね」
『それは無理な話だ』
即答された。私は手の平に残っていた紙をビリビリに破く。
「冗談だよ。感情の無い人間なんてつまらない」
『じゃあ何故言った』
「んー」
四本の腕が伸びてきた。そのうちの一本を掴む。
「ポケモンのアンタなら、どういう反応するかと思ったんだ」
二本、三本、そして四本。
腕は私の両手を握った。
『お前は不思議な人間だ』
「何で」
『まどろみの中で、』
世界がぐにゃぐにゃ歪む。
『これだけまともに過ごせるんだからな』
「アンタも私もちゃんと存在しているでしょ」
『まどろみで夢を見る人間は多い。現に、今お前はそうしている』
「・・」
『だが、夢の中で自由自在に動ける人間は珍しいだろう』
気が付けば、私はベッドの上で座っていた。目がしょぼしょぼしているから、やはり眠ってしまったのだろう。
右手には好きなライトノベル。最近アニメ化もした話題作だ。
「非日常、か」
私もこうなりたいと思った。そうしたら、夢の中で生活出来るようになった。
楽しい。
だけど、
いつか、それが普通になり、一生こちらに戻る事が出来なくなるんじゃないかと・・
そう思うのだ。
怖い、と感じる。
その感情が無くなれば、私は夢の世界の住人になるんだろう。
デスカーンも、一緒に。
黄昏時の色が、部屋を染めて行った。
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[書いてもいいんだぞ]
[批評してもいいんだぞ]