川のせせらぎとは少し違う。
ちゃぷん、と跳ねる水の音。ばしゃん、と起きる波の音。
退屈そうにひれで水面に絵を描いている、ラプラスの子。
ゆらりと浮かぶ影。とぷんと現れる家族の顔。
「これ、用もないのに陸に上がるな」
「じいちゃんっ」
せっかく作った綺麗な波紋を消されてしまい、子ラプラスは咎めるような目で祖父を見た。
孫に睨まれた老ラプラスは、顔の皺数をくしゃっと増やし。
「なんじゃ。とにかく陸は危ないと言ったじゃろ」
「……はぁい」
やっぱりまだまだ敵わない。子ラプラスは拗ねたように、ざぶんと飛び込んだ。
きらきら光る白い川底。きりきり差し込む眩しい日差し。青くて、澄み切った世界。
ああ。なんてつまらない場所なのだろう。
老ラプラスのゆったりした動きを追い越し、くるりと先回り。
辺りがしんと暗くなる。ここは川の端から端まで覆う、長くて広い橋の下。
「あ、足音だ。誰かが橋を渡ってるよ。きっと人間だ!」
「しっ。これ静かにせんか」
あれも駄目。これも駄目。子ラプラスは頬を膨らませ、鼻の穴からぷくぷく息を漏らした。
「じいちゃん。どうして人間に見つかっちゃいけないの?」
「前にも言うたじゃろ」
老ラプラスはごぼごぼと咳をしてから、何か言いたげな幼い孫の顔をじっと見つめる。
「人間はいい奴ばかりとは限らん。姿を見せんに越したことはない」
「でもばあちゃんは、若い頃人間と旅して楽しかったって。僕もいつか、いい人間を乗せてあげたいな」
川面を見上げる子ラプラス。頭の上を、ひゅうひゅう流れるぎざぎざの葉っぱ。
川砂を見下ろす老ラプラス。目の前を、ころころ転がる角の取れた小石。
「少なくとも、今時わしらの背に乗って旅したがる人間なんぞおらん。こいつのせいでな」
「橋? 橋のどこがいけないの?」
「わしらに乗れん波があるとすれば、それは時代の波じゃよ」
老ラプラスはゆっくり泳ぎ出す。子ラプラスは首を傾げ、その年老いた背を追った。
おわり
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はじめまして、こんにちは。レイコと申します。
随分昔にマサポケさんで書かせて頂いたこともありますが、おそらく記憶にない方が大半のはず……
と言うわけで、改めてよろしくお願いします。
今回お題の秘伝技、その一つの「波乗り」に挑戦のつもりが、力不足なためか今一つ活かせきれませんでした。
またちょくちょく投稿させて頂くかもしれません。それでは。
【書いてもいいのよ】【描いてもいいのよ】【批評していいのよ】