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  [No.932] 【黒歴史】処女作を晒すスレ【降臨】 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/11/07(Sun) 21:49:52   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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はじめて書いたポケモン小説を晒してみませんか。
もうファイルが残ってなかったら手元にある最古のものでも可。
(連載なら1話目オンリーとか)

かの人いわく
「処女作なんて、数年後に読んで笑うためのものなのだよ。 」

さあ、勇気を持って投稿しよう……。
小説歴とその時の具体的なエピソード付だと尚、可。




【恥ずかしがらなくていいのよ】


  [No.934] 1本目いきますっ! 投稿者:No.017   《URL》   投稿日:2010/11/07(Sun) 22:05:47   63clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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いいだしっぺなので晒します。
ただ後に改訂を行っていたと思うので完全に処女とは言えないかもしれません。
変更部分は言い回し等で、ストーリー大筋は変わってないです。


●参考データ

書いた時期:2003年12月
当時の年齢:大学2年生程度

それまでのストーリー創作歴:
オリジナルでマンガとか(完結したためしがない)
演劇脚本2本(一応完結/高校演劇)
小説は執筆経験無し、これが初

執筆の背景:
実は当時、とある事情からドン凹みしてた。
そんな時よくわからない衝動に突き動かされて書いた結果がコレだよ!
正直怖くて読み返す気になれない。
ただ、たまに好きだと言われるので引っ込めるに引っ込められない。


【みんなも晒すのよ】

----------------------------------------------------







 雲が森の上空全体を覆って月は見えなかった。
 ただ、それがあるはずの場所だけがぼうっと光って……
 その下に広がる森の木々の間は行き先の見えない真っ黒なトンネルのようで……

 黒い森の中に地面を蹴る音とその動作に伴う呼吸音が聞こえる。
 少年は森の中をひたすら走っていた。
 真っ黒なトンネルを何度も何度もくぐりぬけて、行き先の見えない道をひたすら走りつづけた。

 黒い森の中のあるというその場所を目指して。




●砂時計




 どれくらい走ったのだろうか。ドサッという音と同時に地面を蹴る音がやんで、速いペースのそれでいて乱れた呼吸音だけが残った。

 ほんとうに……本当にあるのだろうか。

 ふと上を見上げると黒い葉と枝の間からわずかばかり空が見える。月はあいかわらず雲の上にあってその下にある雲がぼうっと不気味に光っていた。
 この黒い森にある唯一のあかり。

ふと我に返る。

 こんなことをしている場合ではない!
 行かなければ。


 黒いトンネルの中で倒れていた小さな影はよろめきながらも立ち上がり走り出した。少しだけおちつきを取り戻した呼吸音の中に地面を蹴る音がふたたび加わった。その音たちを生む動作が再開されると同時に自分が知ったわずかばかりの情報が再び頭の中をぐるぐるぐるぐると走り回った。
 出所もわからない。真偽もたしかではない。その情報の名は、風の噂。

 黒い森の中にあるらしいその場所は、月の見えない夜、その存在を信じて森の中を走り続けた者が辿り着けるという。
 昼間に森の中をくまなくさがしまわったこともあったがついに見つけることはできなかった。
 誰かが言っていた。きっと森の主が願いを叶えたい意思がどれほどのものか試しているのだろうと。



 どれくらいの時間がたったのだろうか。

 風の噂は何十回何百回と頭の中をめぐって、黒い森の中で何十回何百回と黒いトンネルをくぐって音を生み出す力もあとわずか。
 けれども、目指すその場所をいまだ黒いトンネルの先に見出すことができずにいる。
 地面を蹴る音は勢いをすでに失い、それを生み出していた2本の足がささえているものが重くてとてもうっとうしいものに思えた。

 限界だ。
 もう音を生み出す力も、それの存在を信じる力も…

信じていたわけじゃなかったんだ…でも…

 地面を蹴る音はすでに聞こえなかった。
 残された苦しそうな呼吸音の中、わずかに残された力でふたたび空を見上げる。あいかわらず月は見えなくて、それを隠す雲が不気味に光っていた。

 こうすればあきらめもつくだろうって…

 瞬間、視界から空が消えた。






 ……

 夜のすこしひんやりとした風がくさむらをざわめかせている。
 視界にふたたび映し出されたのは空ではなく密に生えた草のベッドであった。
 無意識に手を伸ばしてそれをつかみその感触を確かめる。


 ……。

 そうだ、森の中で倒れたのではなかったのか。


 ここはどこだ、と頭の中で叫ぶより早く体が反応した。すっくと立ち上がり、目の前の光景をその目に焼き付ける。ひたすら走ってボロボロのはずなのに不思議と痛みや疲れといったものは感じなかった。

 視界に黒い森の中とは異なる光景がに広がった。小高い丘で密に生えた草むらがつづく。虫の鳴く声が聞こえる。
 さらにその先に目をやるとさっきまで走っていた黒い森が見えた。どうやらここから森を見下ろせるらしい。
 月はあいかわらず雲の上にあったけれど光を覆い隠すものがない森の中よりは明るかった。

「!」

 そして気がついた。
 自分の背後にある巨大な存在に。

 それは幹のふくらみ一つとっても、自分の知っている木というものの幹の太さがあった。それは付け根のほうの枝一本とっても自分の知っていた木というものの幹の太さを持っていた。それは木一本という単位でなく、丘とか、森一つとかそういう単位と等価のものであった。

 巨大な一本の木…

 その巨木は丘の上に根を下ろして、今日まできっと人の身には想像もつかぬ長い長い時間、あの黒い森を見守り続けていたに違いない。

 そして確信した。
 こここそが捜し求めていた場所そのものであると。

 同時にその根元に建てられた巨木とは対照的に小さな祠が目にとまった。

 そのときだった。それのすぐ上で光が溢れた。
 その光ははじめはただぼうっと光っていたが、だんだんと集って、光を増して何かの形をつくりはじめた。

 彼はそれが何を形作っているのかそれが何であるのかすでに確信していたようだった。
 彼の口から迷うことなく反射的に言葉が出た。

「会いたかった…セレビィ」

 光はますます強く、ますますその形をはっきりとつくってぱっと光が消えたかと思うと、形作られたものが祠の上に降り立った。

 探し求めていた場所の、捜し求めていた者であった。







 月はあいかわらず雲の上に隠されていた。ただ、その下にある雲だけがぼうっと不気味に光って見えるだけだった。
 その下に広がる小高い丘の上に根を下ろす巨大な木の下で、小さな影とそれより少しばかり大きい影、ふたつの影が向き合っていた。

 ほんとうだったんだ…

 少しばかり大きい影が第声を発するより少し早く対峙している影のほうが言葉を発した。いや、言葉を発するといってもそれは口を開いて発せられる音声ではなく、頭の中にひびく類のものであったが。

『めずらしい人もいるものね。今どきの子がこんな言い伝えを信じてやってくるなんて』

『最後の来客から何回の冬を越したかしら?』

 その口ぶりはもう何年も、いやもしかしたら何十年もの間ここに人が足を踏み入れてはいないらしいということを語っていた。

『あんな言い伝えもう絶えてしまったのかと思っていたのに』

 今度はもう一方の影が口を開いた。

「叶えて欲しい願いがあるんだ」

 それに対峙する小さな影がひさしく聞いていなかった言葉だった。
 何年ぶりだろうか? それとも何十年ぶりだろうか? すでに記憶はさだかでない。
 もう一方の影はさらにつづけた。

「変えたい過去があるんだ」

 そしてすがるように、それでいて必死に、他の誰にも頼むことができないかった願いを言葉にした。

「お願いします。どうかぼくを”ときわたり”であの日に連れて行ってください」

 なぜだろう。
 暗くてよくわからなかったけれど小さな影の表情が少し曇ったように見えた。

 つの影の間に沈黙がつづいた。
 月はあいかわらず雲の上にあって、その下にある雲だけがぼうっと不気味に光って見えるだけだった。
 風がくさむらをゆする音と虫の音が聞こえた。

 しばらくして少し大きな影が沈黙を破った。

「ぼくは…あの日にとりかえしのつかない誤りをおかしました。なぜあんなことをしてしまったのか…とても後悔しています。あんなことさえなければと考えると毎日つらくてつらくて、苦しくて苦しくて… 考えないようにしても湧き上がってくるんです」

 言葉をつむぎ出すたびにあの日のことが思い出される。
 胸が苦しくなった。

「そんなとき風の噂を耳にしました。黒い森の主に頼めば過去を変えられるって、黒い森の主は時を渡る力があるんだって…」

 そこまでごく小さな震えた声でなく語ると胸がいっぱいになった。
 黙ったと思った瞬間、叫んだ。

「過去を変えたいんです!」

 また沈黙が訪れた。
 何度かつの影の間を風が走り抜けたのち、小さな影は語り始めた。

『かつてまだこの言い伝えを信じる人々がたくさんいた時代……私の元には過去を変えたいと願う人がたくさん訪れました』

それは遠い昔を懐かしむような口調であった。

『私は…その人たちが幸せになれるならと何度も何度も時を渡ったものです。たくさんの人間が時を渡って自らの過去を変えました』

 小さな影はそう言うと、しばらくの間黙って対峙する影に問うた。

『……過去を変えたすべての人間が幸せになれたと思いますか?』

 突然、大きな風が吹き抜けて草むらとその上に根を下ろした巨木の葉たちがざわっと騒いだ。
 まるで小さな影にあわせるかのように。

「でも…」
『私にあるのは時を渡る力だけであって過去を変える力も、人を幸せにする力もないのです』

 暗くてよくは見えなかった。
 けれどその小さな影の表情がとても暗い影を落としているように見えた。

『人間は過去に干渉するようにはつくられていません。たいていの生物はそうですが…。今になって考えれば、そうつくられていない生物が本来ではないことをしてうまくいく道理はなかったのです』
「でも、可能性があるなら…!」

 なんとか願いを叶えてもらおうと必死だった。頭の中にあるのはあの日のことばかりだ。あのことさえ、あのことさえなければ……
 だが、相手方の返事は快いものではなかった。

『私はもう疲れました。もう、時を渡るのはやめようと思った。同時に時が流れ、気がつくと言い伝えを信じる人はいなくなりました。はからずともここには誰も来なくなったのです』

 それはそのことに安堵していたかのようにも聞こえたが、また寂しそうにも聞こえたのだった。

『けれど、あなたが現れた』

 小さな影がそう言うとそれに対峙する影の目の前に光が溢れた。ちょうど小さな影が、セレビィが現れたときのように。
 その光は集まってだんだんと形をつくると、ぱっと消えて少し大きな影の、少年の手のひらの上に落ちた。

『あなたの願いを叶えることはできない。そのかわりそれをもっていきなさい』

 手のひらの上に落ちたものを見る。
 手のひらの上にあったのは砂時計だった。







手のひらの上におちた砂時計を持ち上げると
最初の一粒が落ちるのが見えた。

セレビィがつづけた。

『人は生まれたときから、砂を落とし始めます。生きるほどにその砂は積もってゆくのです。時に人は積もった中のたった一粒が気になってそれをどうにかしたいと悩みます。でも人は砂を落とすことはできても積もった砂を取り除くことはできません』

 そう、過ぎ去ってしまった過去には干渉できない。
 過去を変える方法はたったひとつ。

『だから私の力を借りて、砂時計を逆さにしようと考えるのです』

 セレビィは少年の手から砂時計を取り上げると、
 それを逆さにして、ふたたび少年の手へと戻した。

『砂時計を逆にすると砂が逆流します。でも逆さにしたとき最初に逆流するのは最後に落ちた砂とは限らない』

 そう言って、もう一度同じ動作を繰り返した。

『もう一度砂時計を逆にすると、また砂は落ち始めます。しかしそれは前に落ちた砂と同じというわけにはいかないでしょう』
 
 そして強い口調で一気につづけた。

『積もった砂の一粒、それもどれも同じように見える砂粒の一つをどうにかするために砂時計を逆にする。逆流するのは取り除きたかった砂だけではありません。たった一粒を積もった砂の山からなくそうとすると、中に積もり続けたあらゆる砂を巻き込んで逆流するのです。砂はどんどん混じって、ついにはわけがわからなくなって、でも二度と元には戻らない』

 そしてこう言い聞かせた。

『過去を変えるとはそういうことなのです』

 いままでで一番重い口調。
セレビィに”ときわたり”の意思がないのは明白だった。唯一見えていた道が、見えなくなった。出口のない森の中で迷子になってしまったように。

「わからない……言ってること全然わからないよ」

 もう過去を変えることはできないのだろうか。
 少年はうつむいていた。すがるように砂時計をぎゅっと握り締めて。目から砂時計の砂のように涙が落ちた。

「やっとの思いでここまでたどり着いたのに… 願いを叶える気がないのならどうしてぼくの前に現れたりした?」

 セレビィは黙っていた。
 まだ、言い伝えが信じられていた時代、自分を頼ってたくさんの人間がここに訪れた。それが嬉しかった。

「答えてよ!」

 けれど過去を変えてすべての人が幸せになったわけではなかった。それが悲しかった。

「どうしたらいい? これからどうしたら…?」

やがて時は移って言い伝えを信じる人間はいなくなった。それが寂しかった。

 ここは丘の上のはずなのに、あの行き先の見えない真っ暗な森の中にいるような気分だった。
 月はあいかわらず雲の上にあって、その下にある雲がぼうっと光っていた。先が見えない、どうすればいいのかもわからない。
 できることといったら悲しみにまかせてあたりちらすくらいで。

「…もういい、消えてくれよ」

 まだ、言い伝えが信じられていた時代、自分を頼ってたくさんの人間がここに訪れた。それが嬉しかった。
 けれど過去を変えてすべての人が幸せになったわけではなかった。それが悲しかった。
 やがて時は移って言い伝えを信じる人間はいなくなった。それが寂しかった。

「消えてくれよ! ぼくの目の前から!!」

 セレビィの体が光り始めた。現れたときとは逆に光の輪郭が崩れ始めた。
 少年の目の前から消えかけながらセレビィは最後にこう言った。

『その砂時計が計る時間は一年。すべての砂が落ちるのに一年かかります。もし、すべての砂が落ちたとき、それでもあなたの願いがかわらなかったら、もう一度ここへいらっしゃい』

 輪郭は完全に崩れて、光は消えかかっていた。

『そのときはあなたのその願い、叶えましょう』

 できることなら一年の間に過去を乗り越えて欲しい。
 けれどそれでも行き先が見えなくて、どうしていいのかわからないのなら、その願いを叶えましょう。
 もう信じるものなどいないと思っていた。けれどあなたは来てくれたから ――

 わずかにのこっていた最後の光も消滅した。目の前は涙のためかよく見えなかった。ただ風の吹き抜ける音と虫の音だけが耳に残った。


 そのあと、どうやって家路についたのか…覚えていない。







――あれからちょうど一年が過ぎた。


 黒い森の中に地面を蹴る音とその動作に伴う呼吸音が聞こえる。あのときの少年は森の中を走っていた。
 その歩幅は階段を一段抜かしで上がるかのように大股で、あのときより長く太くなった腕をぶんぶん振り回していた。森の木々がつくるトンネルを何度も何度もくぐりぬけてひたすら走り続けた。
 不思議と行き先がわかる。迷わなかった。一度行ったことがあるからだろうか? あのとき貰った砂時計を持っているからか? そんな考えが脳裏をよぎったがそんなことはどうでもいいことであった。
 あのときの少年は走り続けた。

 約束のあの場所を目指して。


 どれくらい走っただろうか。
 一年前のあのころならここらへんで息を切らしていただろうか。
 あれからずいぶんと体も大きくなって体力もついた。地面を蹴る音も呼吸音もほとんど乱れない。
 そんなことを考えながら、黒い森の主の元へと走り続ける。

 ガッと音と同時に突然地面を蹴る音が止まる。どうやら木の根に足をつかまれたらしい。勢いよく前方に体が倒れていく。

 だめだ、そのまま地面たたきつけられる!

 そう思って思わず目を閉じた。
ドサッという音と共に体に地面が転がった。 …が、さほどダメージは受けなかった。まるで何に包みこまれたかのようだ。
 そして気がついた。自分が起き上がろうとして掴んだそれは森の中の落ち葉ではなく、あの時、あの場所で気がついたときに握った草の感触であるということに。

 再びたどり着いた…

 一年前のあの場所。約束の場所に。

 一面の密の生えた草むら。背後を見るとそこには巨木が根を下ろしていた。
 あの時と同じ…いや、この木にとってみれば一年なんてものすごく短い期間なのかもしれない。だから外見的に見てもわからない。
 そしてその根元に建てられた祠を見た。祠は木で作られているように思われたがどちらかというと緑とか黒とかそういう色が多くて、それをつつむ苔がその歳月を思わせた。あのときは暗くてよくわからなかったけど…ずいぶん古いものだったのだなぁ、そう思った。

 祠のすぐ上で光があふれた。光はだんだんと集まって形をつくってその輪郭がはっきりしてきたかと思うと、ぱっと消えて、作られた形が祠の上に降り立った。

 ――セレビィ。

 少年は最後の一粒が落ちた砂時計をかざしてこう言った。

「すべての砂が落ちました。どうかぼくの願いを叶えてください」

 セレビィは最後の一粒が落ちた砂時計を見てこう答えた。

『すべての砂は落ちました。あなたの願いを叶えましょう』

 小高い丘の上に根を下ろす巨木の下で対峙したつの影はお互いに覚悟したような表情であった。
 その表情は険しいというよりも、むしろ笑っているようにすら見えた。

『あなたの願いを叶えましょう。ただし、過去を変えたすべての人間が幸せになれるとはかぎらない。砂時計を逆流させるとあらゆる砂が逆流するから』

風が通り抜けて草むらと巨木の葉たちがざわっとさわいだ。

『…覚悟はいいですね?』

 セレビィの頭の中にまた記憶がめぐった。

 まだ、言い伝えが信じられていた時代、自分を頼ってたくさんの人間がここに訪れた。それが嬉しかった。
 けれど過去を変えてすべての人が幸せになったわけではなかった。それが悲しかった。
 やがて時は移って言い伝えを信じる人間はいなくなった。それが寂しかった。

 だが、セレビィにもう迷いはなかった。彼が幸せになれるかどうかはわからない。しかし、これが自分にできる唯一のことなのだと。

 が、少年の答えは予想に反するものだった。

「いいえ、ぼくは過去を変えにきたわけではありません」

 驚いた。

『では…何を叶えに?』

「もう一度あなたに会いたかった。そして謝りたかった。一年前、ぼくはあなたにひどいことを言いました」

 ああ、そういえば一年前、不本意な別れ方をした。

「…ごめんなさい」

 少年はそう言って、つづけた。

「あなたの言っていた砂時計の意味、少しだけわかったような気がします。あれから一年、砂を落とし続けました。たくさんの砂を。もしあのときにあの砂が落ちていなかったら、落とすことはできなかったかもしれない砂です」

「あらゆる砂が落ちています。悲しいことも、けれど嬉しいことも。いろんな砂が積もりました。だから、まきこみたくない。もうこの砂を逆流させたくないんです。今なら、こんな自分も悪くないって思えるから」

「過去が人をつくります。ぼくの砂時計は逆さにしません」

 少年の表情に迷いはなかった。それはとてもすがすがしいものだった。
 あの時と違って月明かりでお互いの表情がよく見えた。

 ――月明かり?
 ふと、つの影は巨木の葉の間から見える空を見上げた。

 月が見える。
 あの時は雲に隠されてずっと見えなかったのに。
 今日は雲ひとつない。
 光をさえぎるものはない。
 満月だ。

 ああ、そうか。
 ここまでの道に迷わなかったのも、
 あのときより祠がよく見えたのも、
 お互いの顔がよく見えたのも、

 こんなに気持ちが晴れやかなのも。


 月を隠すものは何もない。
 その光をさえぎるものはない。

 道は、月明かりが照らしてくれる。



 ――もう、迷わない。






-fin-


  [No.935] この2投目に私の全てを曝し出す 投稿者:CoCo   投稿日:2010/11/07(Sun) 22:36:08   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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*処女作
 Pocket story だかなんとかとかいうタイトル
 内容は 十歳でミズゴロウ貰ったけどなんとなく自信なくてずっとミシロ〜コトキあたりをうろちょろしながら修行してた女の子が、進化したヌマクローで通りすがりのジムリーダー候補生のアスナさんとのバトルに勝利したのをキッカケに幼馴染の男の子と旅に出る。 かくかくしかじかのなりゆきで男の子がハギ老人ちの娘さんのキャモメを連れ盗んだ水上バイクで走り出していた頃、女の子はトウカの森でピカチュウにいじめられている研究員の少女と一緒にアクア団をタコ殴りにしていた。たまにミツルも出る。そんな話。

 当時中学三年生(笑)
 創作はおやつ程度に
 確かどこかのポケモン小説掲示板に投稿してたんですが探しても見当たりませんでした。
 しょうがないので同時期に初めてマサポケに投下した話(!)を発掘してきた。

 ↓



境界線は、いらない




 頭上を行く風が、ふっと前髪を撫でていった。

 そこは野草の香りが心地良い草原で、けれど視界に入るのは青い空ばかり。

 何故ここが草原だと解ったのかよく解らなかったが、

 そんな下らない疑問は風がすっとばしてくれた。

 この青い空に比べたら、ちょっと疑念や何かは、どうでもいいものなんだ――。

 満足な感想だった。さあ、もう一眠り。


 今なら、流れる風の姿が見えそうな気がする。

 さらさら、さらさら。

 まるで川底から、水面を眺めているようだ。


 ……、と。


 そんな素晴らしい沈黙を破る、大声。


「イズマ!」


 何語だ、イズマって。

 ……いや、固有名詞か。

 
「イズマぁ!」


 うるさい。うるさいうるさい。

 遠吠えの練習なら、他所でやってくれ。


 すると、視界の端に、人影が映った。

 長い前髪を振り乱す、男。

 背が高く見えるのは、俺が寝転がっているからか。


「何だ、イズマ、ここにいたのか」


 そいつは言った。全力疾走に疲れた笑顔で、俺に向かって。


「大丈夫か? 死んでないよな?」


 そう、俺に向かって――。


「え……っと」


 俺は起き上がった。

 随分寝ていたのか、くらくらする。


「どちらさま、ですか?」


 途端に、男の笑顔が凍りついた。


 そして、無表情におれをじろじろ観察すると、


「……貴様ぁーっ!」


 激怒の鬼へと表情を変えて、うなりをきかせてぶん殴った。

 俺を。


「――っ」


 痛い。手加減無しの痛みだ。

 ちょっと口を切った。


 非常事態を知らせるベルの音が、俺の頭の中で鳴り響く。

 何が起きた?

 脳ミソの処理速度が一気にダウンした。訳が解らん。


「お前……、約束したじゃないか!

何を忘れても親友の顔は忘れんと!」


 男は顔を真っ赤にして怒っている。


「ったく、こっちがどれだけ必死に探したと思ってんだ!

『殿堂入り』ぐらいどうってことないと言ったのはそっちだぞ?」


 ……ちょ、ちょっと待ってくれ。

 そんな言葉も、驚きや何かで全然声にならない。


 何を言ってるんだ、こいつは?


「あの、」俺は言った。「人違いじゃないですか?」


「……何だと?」


 男はまだ怒っていたが、半ば呆れているようにも見えた。


「お前、確かに言ったよな?死んでも忘れんと――」



 男は、ぱっと何かを取り出した。

 それは、金属製のボール。おめでたい紅白カラーだ。

 天高く、投げる。


 すると、眩い光と共に、現れた。

 大きな、橙色の竜が。


 もう、俺の頭じゃ処理しきれない現象だ。
 

 その竜の鼻腔からは呼吸の度炎がこぼれ、

 太く雄雄しい凶悪な尻尾の先にも、炎が宿っている。


「リザードン! 火炎放射!」


 まさか、炎を。


 竜が炎球を口腔に溜めているこの光景は、

 全て悪夢だと思い込むには、ちょっとリアルすぎた。

 だって、熱い――。


 訳も解らないまま死ぬのは、嫌だ、嫌だ、嫌だ!


 心ってのは案外と素晴らしいシロモノで、

 心の叫びは救世主やら奇跡やらを、

 拍子抜けするぐらい簡単に運んできてくれるものらしい。


 俺と迫る炎の間に、強力な水の大噴射が割って入ってきた。



 物凄い水蒸気の勢いで、俺が思いっきり後頭部を大地に打ちつけたってのは、

 まあちょっと余分な話。


--------------------------------------------------------------------------------


「待ちなさいよ、ソウ!」


 痛む頭を撫で撫で振り向くと、阿修羅の表情を浮かべた少女が仁王立ちしていた。

 そんなに背が高いわけではないのに、威圧感で随分大きな存在に見える。


「忘れちゃってて当然でしょう? 全く、どうしてそこで逆切れするのよ!」


 少女はぎろりと男を睨んだ。

 睨まれているのは自分じゃないのに、怖い。


「だが、イズマは……」


「うるさい、解からず屋の頭でっかち!

ここは『殿堂入り』に挑戦したことを称えるべきで、

不可抗力で忘れちゃったのを責めるのは場違いなの!」


 一方的に捲くし立てる少女に、男もたじたじ。

 さっきはあんなに恐ろしかった男が、とても小さく見える。


 と、少女はこっちを振り向いた。

 さっきとは打って変わって、最高の笑顔。

 一瞬前の表情が信じられない。

 女って怖いなぁ。


「……えっと、イズマ、ごめんね?」


 少女は、遠慮がちにそう言った。


「あ……」言葉が見つからない。状況が読めない。


「君たちは……誰?」


 俺の何気ない一言に、少女はしゅんと沈んでしまった。


 あれ?俺、何かまずいこと、言ったか?


「……本当に……覚えて無いんだ……」


 それでも、彼女は気丈に笑っている。


「……何だか、信じらんない」


 少し、見えてきた。

 話が解らない訳だ。

 ――どうやら、こいつらは、俺を誰かと勘違いしているらしい。

 それで、忘れられたと思っている。

 よっぽど顔が似ているのか。


 とにかく、今は、誤解を解かなければ。

 勘違いで焼き殺されたんじゃあ、堪らない。


「あの……さ、」


 少女の真剣な表情を前にすると、話しづらい。


「俺、本当に、君たちのこと知らないから。

人違いじゃ、ない、かなぁ……?」


 何より自分自身の頼りない態度に、一番いらいらする。


「馬鹿言え!」


 ふと、後ろで放心していた男が叫んだ。


 そして、こっちへずかずか歩み寄ると、俺の胸倉を掴み上げる。


「お前、『殿堂入り』に挑戦したんだぞ?

ミスったら記憶を失う、あの『殿堂入り』に!

そんでもって、お前は忘却したんだ!」


 ……は、

 何の、話だ。


「じゃあお前、何で自分がこの草原に倒れてたか、解るか?思い出せるか?」


 俺が、ここへ来た、理由。

 俺が、ここに来るまで、何をしていたか。


 …………。


 あ、れ。


 フリーズしている。

 真っ白だった。草原で目覚めるまでの時間が。『過去』が。


 思い出せない――

 覚えていない――

 忘れてしまった――


 忘却して――?


「どういうことだっ」


 覚えてないって、どういうことだよ!


 本来他人に問うことではない、自分のこと。

 しかし、全然思い出せないのだ。

 本当に、名前すら、何一つ。


 空白、そして未知というのは、いつだって恐怖の対象でしかない。


 だが、こいつらは、多分、『俺』のことを知っているのだ。


「……代償なの」


 少女は、辛うじてそう呟いた。

 今にも、涙が決壊しそうな横顔。



 俺は残念ながら、それ以上追求できるほどの残酷さは持ち合わせていなかった。


--------------------------------------------------------------------------------


「……あんたは、あたしとソウの友達だったの」


 俺は草原に正座して、彼女の話を聞くこととなった。

 草原に正座、何だか寂しく場違いな感覚だが、事は重大そうである。


 何より、俺という人間の存在がかかっているのだから。


「違う!……親友と言ってくれ」


 片膝を立てて座る男は、そんな的外れな相槌を入れて少女に睨まれた。


「ええっと……そう、出身地が同じで、同じ町に生まれて、ずっと小さいころから一緒だったのよ」


「幼馴染ってヤツだな」


 俺は、二人の顔を見比べた。


 知らない人間。知らない過去。

 だから、二人の話にも俺は何の反応もできなかった。

 どうしても、他人事に思えてならない。


「それで、アンガルリーグを目指して、三人で旅に出て……」


「アンガルリーグ?」


 俺は疑問部で話を止めた。


「何だ、それ」


 少女は男と顔を見合わせる。


「ここ、アンガル地方で行われるポケモンリーグのことよ」


「ぽけ……ポケモン?」


「ポケモンも忘れたのか!」


 男は突如だんっと立ち上がった。

 驚いて飛びのいてしまったが、その顔は怒っているというより、呆れているようだった。


「ポケモンっていうのは……」


 少女の目が宙を彷徨った。

 そんなに説明しにくいのか。


「こいつみたいなヤツらのことだ!」


 男が誇るように俺に見せたのは、さっきの橙色の竜。

 ぶほっと黒煙を吐き出すそれは、確かに俺の常識外。


「そう、まあ、そんな感じだけど」


 少女は咳払った。


「実質は、人間外で電波式分解できる細胞を持つ動物のことなの」


 デ、デンパシキ?

 サイボウ?


「そんな説明で解るわけないだろ」


 男は不満げに言う。


「やっぱり、感覚で解ってもらうのが一番だ」


「そういえば、イズマ、ポケモンは?」


 少女はくるっとこっちを見た。

 ポケモン……いったい何を指しているのかがまず解らない。


「ああ、説明することが多すぎる!」


 少女はとうとう音を上げた。


「今度ばかりはソウに賛成。ま、感覚で解ってもらえばいいのよね、感覚で」


 感覚……って、ちょっと待てよ、おい。

 本当に解らないんだぞ?


 異次元にでも取り残されたような気分。


「とにかく、名前ぐらいは覚えろよ。オレはソウ。そっちはアキナ」


「……えっと、何ていえばいいのかな、その……よろしく、ね?」


 知っている人間、それも幼馴染に『よろしくね』と言うのはどういう気分なんだろう。

 しかし、まず良く考えればそれが俺だというハッキリした確証もないわけだし、

 必ずしも俺が彼らの探す人物だとは言えないのだ。

 何より、俺の納得がいかない。


 きっと曇天よりも暗い顔をしていただろう俺に、しかし彼女――アキナは、

 困惑を振り払い、明るい笑顔で言ってくれたのだ。


「あんたの名前は、『イズマ』よ」


 ああ、俺は『イズマ』なのか。

 どうせ、どうせ解らないのならば、

 暫くは、『イズマ』でもいいかもしれない。


 少し、ほんの少し、心が揺れた。



 ――俺、誰?

 見下した自分の両手からは、返事は返ってこなかった。



--------------------------------------------------------------------------------



「リザードン! ドラゴンクロー!」


 その男に付き従う、橙色の竜――名称『リザードン』は、振りかざした爪を煌かせ、大きな翼の鳥を一閃した。

 ギャッ、と緑色になびく地面へ叩きつけられ、悶絶する巨鳥。


 男の背後に俺と少女、そして大きな白いテントがある辺りで、

 もう彼が何故にして戦っているのかは想像がつくけれど、

 やはりそれは心苦しい光景だった。


 男――ソウの表情は、決死。

 それを見守る少女――アキナの表情は、必死。


 俺は、……ただ口をぽかんと開けて、阿呆みたいにそれを見つめていた。


「イズマ、解る?」


 突然何の前触れも無しにそんなことを言われても、困る。


「……何が?」


 暫し、沈黙。

 風の声をBGMに、決闘するソウと二匹の背中だけが、鮮明に目に焼きつく。


 不意に、アキナさんはこっちを振り向いた。


「リザードンは、炎タイプなの」


「……ホノオタイプ?」


「そう。タイプっていうのは、ええっと……」アキナさんは、言葉を探している。


「……そう、性質のことよ」


 性質。

 解らないことは、解っている人間に尋ねるしかない。


「ポケモンにはいくつかの種類のタイプがあって、それぞれに相性があるの。

例えば、火は水で消えるから、炎タイプは水タイプに弱いとか、そんな。」


 そこまで言って、彼女は堪えきれずに苦笑する。


「まさか、イズマにポケモンのこと教える羽目になるとはね。

私にポケモン教えてくれたの、イズマだったのに」


 はあ。

 と言うことは、俺はその『ポケモン』とやらのことを良く知っていた、そういうことか。


 ソウが戦っているのを見る限りでは、『ポケモン』というのは人間に従僕し、戦わせたりするものらしい。

 炎タイプ、水タイプ、種類があるからには、『ポケモン』だって多種類いるのだろう。


 何より、アキナやソウの態度から、

 ここで『ポケモン』なるものがどんなに重要な存在か伺える。


「あのさ、結局のところ、『ポケモン』って何なんだ?」


 言ってしまってから、敬語のほうが良かったか、と一人で気まずくなったが、

 良く考えれば彼女は俺のことを随分前から知っているのだ。

 彼女は気兼ねなく答えてくれた。


「ポケモンは……人間と一緒に生きる、何だろう……? 友達、仲間、そんなものかなぁ。

ポケモンバトルっていって、戦わせたりもするし」


 ふと見れば、ソウはリザードンに命令を下している。


「いけっ、そこで翼で打て!」


 リザードンは旋回し、巨鳥に突撃した。


 友達。仲間。

 友達や仲間を戦わせるのか。

 何か矛盾しているような、欠落しているような気がする。


 気のせいだろうか。

 それとも、それがここの常識なのだろうか――


 そんな疑念を抱き始めた矢先、視界の隅にかっと光るものが映った。

 何かと振り向くと、さっきの巨鳥の身体が輝いている。


 ぴひょお、と頭のがんがんするような高音で鳴いて、鳥はリザードンに猛突進した。


「あれは……まさか……」


 隣から漏れた驚愕の声にアキナの顔を見ると、

 その視線は鳥に釘づけになっていた。


「リ、リザードン! こ……こうなったら一気に行け!」


 ソウの指示が飛ぶ。


「ブラストバァーンッ!」


 リザードンは、只でさえ大きな口を裂けたように開き、

 俺に見せたのとは違う、赤々とした炎を溜め込み、そして、


 吐き出した。


 光る翼で流星の如く突っ込んできた鳥は、案の定その炎に巻き込まれ、

 黒焦げになって、ぱさりと落ちた。


「ふう、どうにかなったか」

「大丈夫、ソウ?」

「ああ。そっちに被害はないか?」

「大丈夫よ。ところで、気になることが……」


 俺は、ずっと黒い塊を見ていた。

 彼らが何事も無いようにそれを済ますのは、

 それが『ポケモンバトル』であって、常識だからなのか。


 思わず、俺はその鳥の傍に駆け寄っていた。



 解らないことばかりの世界でも、

 良心の赴くまま行動しちゃいけない規則なんかあってたまるか。



--------------------------------------------------------------------------------



 羽毛が焦げていたけれど、そいつはまだ生きていた。

 死んでない。まだ生きてる。


「こいつ、光ったぞ」


 いつの間にか、ソウもアキナも傍に居た。


「……このピジョット、ゴッドバードを使った……

野生じゃない。トレーナーが居るんだわ」


 深刻そうに呟くアキナ。

 けれど、二人の心配は、俺には理解し得ない。


 だから、俺は俺の心配を口にした。


「なあ……こいつ、助けられないのか?」


 暫く、二人の目はきょとんとしていた。

 ああ、タイミングを誤ったか。顔から火が出そうだ。

 それでも、今言わなければいけないような気がした。それだけの話。


「……あっはっはっはっは!」


 いきなり、ソウが笑い出した。


「イズマ、お前変わんないな!やっぱりイズマは死んでもイズマだ!

そのうち、また『お前はトレーナー失格だ!』とか言いながら殴りかかってくるぞ!」


 何、何、何だよ、何だってんだ。


「イズマ、そういう人だったんだよ」


 アキナも笑う。

 ああ、でも、ちょっと、自信が持てたような。


「そっか……俺って、『イズマ』なのかぁ」


「はっはっはっは!」ソウは俺の呟きにさらに大笑いした。

「当たり前だろ!お前は俺達の『イズマ』だよ。

忘れても忘れられない、お人よしの『イズマ』だ!」


 そして、俺の背中を豪快に叩く。


「何だ、実感なかったの?記憶喪失ってそういうものなんだ」


 アキナの笑い方は独特だ。

 含むような、堪えるような。


「大丈夫、あんたは『イズマ』だから。

あんたが知らなくても、あたし達が覚えてる。

あんたはあたし達の親友だよ」


 ああ、今やっと解った。

 思い出したのか、学んだのかは解らないけれど。


 友達って、こういうものか。


「……さあ!じゃあ、お人よしイズマ君の要望にお答えして、

ポケモンセンター直伝のアキナ流火傷治療、見せてあげる!」


「イズマ、テント入れよ。

お前の寝袋、捨ててないからな」


 招かれたテントの暖かさと懐かしさは、

 記憶の断片?それとも既視感?



 人間、一人で生きてはいかれないけれど、誰かが居ればどうにでも生きていける。

 必要なのは、信念ぐらいだ。――あと、食料と水な。



--------------------------------------------------------------------------------



 優しさと甘さをイコールで繋げることには、俺は賛成できない。

 優しさと愚かさを同じものと考えることも、俺にはできない。

 けれど、そういう考え方をするやつが存在するのも、解る。解るよ。

 時代なんて薄情なもので、恩は仇で三倍返しが基本なのだ。


 アキナの適切な処置と自身の生命力によりあっという間に回復し、

 俺の手から元気に大空へと飛び立っていった鳥――驚くことに、こいつもポケモンだった――は、

 数時間後、俺達のテントの元へ戻ってきた。

 凶悪そうな面をした、空の愉快な仲間達を無数に引き連れて。


「――逃げろ!」


 ソウがテントを畳むスピードは、目にも留まらぬほどだった。

 そうして俺達三人は今、無我夢中で草原を駆け抜けている。

 立ち止まったら命の保障はない。

 黄昏に染まる空を黒々と覆い隠すほどの翼が、全速力で追っかけてきているのだから。


「お前のせいだぞ、このお人よしがぁ!」


 テントを背負ったソウが、振り向いて叫んだ。

 この大きさのものを背負い、これだけの速さで走っていながら、よくもそんな大きな声で叫べるものだ。


「イズマは……人として……正しいことをしたまでよっ」


 俺の代わりに弁明しようと試みるアキナは既に限界気味で、

 気を抜いたら倒れてしまいそうな必死な目をしている。


 俺は……喋ったらぶっ倒れる。


 足はぎしぎしと悲鳴を上げていた。

 時間と距離が軽く三倍ぐらいに引き伸ばされているような感覚。

 顔が、手が、燃えるように熱い。

 どんどん暗くなる足元を見つめながら、

 世界の果てまで走ったような気がした。


 飛び込んだのは、森だった。

 鬱蒼と……なんて言うほどではない。木々に透けて、町の灯りが見え隠れしている。

 木陰に立ち止まって暫くは、誰も物を言えなかった。


「まさか……群れで戻ってくるとはなぁ……」


 それでも笑っていられるソウに乾杯。


「ひどいよね、治療用のチーゴの実が勿体無かった」


 ため息をつくアキナの傍らで、俺は夕闇にぼんやり浮かび上がり始めた灯を眺めた。

 ふと、考える。

 あれは未知じゃない。あれは街灯、知っている。

 今、大樹の根元に投げ出されているこれは?――足。

 今、湿った土の上に放り出されているこれは?――手。

 そんなことは解るけれど、友人だったらしい人間は解らない。

 そんなことは解るけれど、肝心の『ポケモン』のことは解らない。

 理不尽。余りにも理不尽な話だ。

 何で?

 何で俺は思い出せないんだ?


《お前、『殿堂入り』に挑戦したんだぞ?

ミスったら記憶を失う、あの『殿堂入り』に!》

 ソウの言葉。

《代償なの……》

 アキナの言葉。



『殿堂入り』の『代償』。



 ぞっとした。

 触れてはならない何かに触れて、警報が鳴らされたような。

 入ってはならない場所に足を踏み入れてしまったような。

  ――考えてはいけない。

 本能が警告していた。

 ――考えなければならない。

 理性が告げていた。

 一体どうしろってんだ、全く。



「おい、イズマ? 聞いてるか?」


 思考はソウの言葉によって遮られた。


「今日は宿屋でいいよな? イズマ」


 尋ねられても、記憶という名の盾を持たない俺みたいな無防備な人間が、選択できるわけがない。


「ここ、トルネイタウンじゃない?」


 アキナは小手を翳して街を観察している。


「トウモロコシのポタージュが美味しいのよ」


「んじゃ!」ソウは立ち上がった。大きな大きなテントを抱えて、何と逞しい。「行きますかぁ!」


 ――俺は、街へ行く。

 多分、幾度目かにして最初の『街』へ。



情けは人の為ならず、また己の為にもあらず。




以下つづく


***

 なんだこれ。いたいさすが厨房の自分いたい。
 今ならだいばくはつを使える気がする。
 耐え切れなくなったら本当に爆発するかもしれません つ削除キー


【みんな自爆すればいいのよ】
【しめりけなんて野暮なのよ】


  [No.937] 三本目の厨房は高校生 投稿者:紀成   投稿日:2010/11/08(Mon) 07:53:27   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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原稿書いたノートを探したが見つからなかった。
全部で十冊以上あったはずなんだが・・

とりあえずシナリオ設定だけでも。

・DP学園推理部

うわ、中一の頃の作品だ。お世辞にも小説として成り立ってはいない。
ちなみに友人とそれぞれのキャラ視点で書いていたが三学期に色々あって今現在ノートを持っているのは私だけである。
余談だが、その友人の一人は『友情メモリー・ブロークン』のあーちゃんのモデルである。

・ハイスクール・クリスタル

上の作品の高校編。中二、三の時期に書いたためすっげーマジで闇歴史。
そして主人公の口調が一話とニ話目で違いすぎ。
最終的には性別変わっとるし。
まあ多分この辺りから同人という単語と意味を知ったからなんだろうな。

・ポケダン バレーノ編

時探小説。中三くらい。『バレーノ』とは『アルコバレーノ』から。
ちなみにDP学園の主人公とかキャラがちゃっかりレギュラーキャラとして登場してたりする。

必ず出てくるのは『ナミ』という名前。主人公の名前です。

[突っ込まないで欲しいんだぞ]
[若気の至りと思って長い目で見て欲しいんだぞ]


  [No.938] 当時の自分を笑うための4本目 投稿者:あつあつおでん   投稿日:2010/11/08(Mon) 08:59:11   72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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昔は色々書いてみたのですが、原稿を紛失しちゃったので、あらすじだけでも載せておきます。


ホウエンのチャンピオンの話(仮)

(仮)なのは、じつはタイトルをつけてなかったから適当につけたためです。

あらすじは、ホウエンチャンピオンになったルビーサファイアの男主人公が、またしてもホウエンの旅にでかけるというもの。主人公にとっての新鮮味が少ないうえに、当の主人公がチャンピオンなのに手持ちポケモンがいなかったり、ジムリーダーに苦戦したりと、散々な出来でした。これでも60話以上書いて完結させたんだよ……?


スパイ物語(仮)

(仮)というのは、じつはタイトルをつけていなかったので、適当につけたためです。大事なことなので(ry

あらすじは、仮題通りスパイもの。ジョウトで暗躍するロケット団を倒せ!というものなのですが、そのスパイがいけなかった。バトルも仕事も素人の少年が、素性を知られては困るにも関わらず博士の研究所にポケモンをもらいに行く辺り、厨二病の勢いだけで書いたと思われます。これが今の連載の原型になろうとは……。


【見てみぬふりをするのよ】


  [No.939] 特攻指令に殉じて5番機突入 投稿者:クーウィ   投稿日:2010/11/08(Mon) 16:26:50   70clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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爆弾スレッドに引きつつも、勇者の方々を見守るだけではオトコが廃る・・・

突っ込みましょうか・・!  ポケモンストーリー千代に八千代に、爆滅玉砕万歳的思考回路で(爆)


書いた時期:2009年7月
当時の年齢:既に大学卒業済み   大学では『環境政策学科』に所属していた為、これまた文学とは全く縁が無かった

それまでのストーリー創作歴:
皆無。  強いて上げれば、中学の時国語のテストで『さんちき』のその後を書いたのと、高校の現文の授業で『羅生門』のその後のストーリーを創作したぐらい・・・(爆)

執筆の背景、及び備考:
当時は、二次創作の世界にすら全く縁がなかった。
偶々『ポケモン不思議のダンジョン 空の救助隊』で、クリア後に一撃必殺により遭難し、掲示板に救助依頼を乗せた後、救助までの暇潰しに同掲示板の二次創作欄を覗いて見て、この世界(笑)を知る。

救助要請の返答に2週間かかった為、その間に軽い気持ちで書き込んでみたのが運の尽き。

内容については、ずっと組み立てていた『初代脳内妄想』(未だに活字化は成せていない・・・)の登場人物や設定を叩き台に、消滅した彼らのその後を描いたパラレルワールド的外伝。
気まぐれの一発ネタであった為、題名は存在しない。

世界観はポケダン空。  ……元々の登場人物達の意思が、別の世界のアルさん(創造神のお父様)に招かれ、新たにポケダンの世界に転生するというファンタジー要素MAXな繋ぎで、武器は使うわオリジナル要素が絶えないわと、内容の方も中々に世紀末。
――全体的にライトノベル路線を取っており、当時読んでいた上橋菜穂子さんの『守人シリーズ』や『狐笛のかなた』、白土三平の漫画・『カムイ伝』及び『カムイ外伝』の影響を色濃く受けていた事が窺える。


……尚、この後色々あった事により、改めてこの一発ネタは、ストーリーを二日で再編・でっち上げられて、一月後に連載へと姿を変える破目となる。

現在は同掲示板にて、33話を終えた状態で絶賛擱座中(核爆)  ……これが書き手としてのトラウマである事は、論を待たない。
 
 
 
――――― 


息切れがようやく収まった頃、突如として視界が開けた。

「うわぁ・・・」
そこは広いホールのようになっている空間であった。 壁のあちこちには光を発する石がはまり込んでおり、地面は主に平らな岩で構成されている。 

「・・・(まるで誰かが作ったようなところ・・・!?)」
そう思っていたそのとき、ピリマは部屋の奥のほうに細かい砂が敷いてあるのに気がついた。 と同時に、何者かが・・・余り大きくは無いが、それでいて腹の底から薄気味悪くなる感触が這い上がってくるような、そんな何かが闇の中に凝然とうずくまっていることにも・・・ 隣にいたティルスも、どうやらそれに気がついたようだった。
ティルスが口を開く前に、それは音も無く立ち上がり、低い声で告げた。 

「来たか・・・ 久々に来たものだな・・・ わしの名はソウカク。 この洞窟の・・・まぁ、番人といった所か・・・」

「番人? それにソウカクって・・・ どこかで聞いたような・・・あ!!!」
ティルスが思い当たったらしい。 同時にすくむ気配も伝わってくる。 

「(これが・・・剣聖ソウカク・・・?)」
実を言うと、ピリマは影が立ち上がる辺りからもう心臓をつかまれたかの様な感覚に襲われていた。 ソウカクから・・・かつて剣聖と呼ばれていたはずのポケモンから押し寄せてくるそれは、ゾッとするほどに不明瞭な・・・正確に言えば計りかねるほどつかみ所の無い気配だった。 それには闘気もあれば、殺気も混じっているのだろう。 だが、温かみのあるものは全く感じられなかった。 

「ここに踏み込んだからにはそれなりの技量を持つ者だろう。 と同時にそれほどの者なら、例え修行者、探検隊、それに盗賊の類だろうとも、必要とされていることは分かってるはずだ・・・ ・・・そうすくみあがらずとも良い・・・仕掛けあうだけの覚悟が無いのなら、何もとって食おうとは言わぬて・・・」
自分達が何故ここに来たのかを、ソウカクが知らないわけが無かった。 あるいは本音なのかもしれないが、どちらにしろ、今の自分達には無用の申し出だった。

「なにを! そうはいかないぞ! こっちも後には引けないんだ!! みんなが待ってる・・・みんなが必死に戦ってるんだ! 僕らはどうしてもこの先に行くぞ!」
ティルスの返答を聞いて、ソウカクはわずかに口元を緩めた・・・様に見えた。 無論、それが彼にまともな感情が残っている証なのか、それとも単に闘えることへの満足をあらわしたものなのかは伺えるものではなかったが・・・

「では相手をして進ぜようか・・・ 久しぶりに剣戟の分かる輩と遣り合えるとはうれしいかぎりよ・・・」
同時に、ソウカクから押し寄せてきていた不明瞭な気配が一変した。 あまりの豹変振りに、ピリマは一歩も動けぬまま、懸命にあえぎをこらえていた。

「(立ち姿だけで読まれてる・・・ 勝てるの・・かな・・・?)」
事実、勝てる気は毛ほども湧いてこなかった。 こんな洞窟の奥にまでわずかに吹き込んできている風から、逃げるようにと懸命に語りかけられているのを感じながら、ピリマは隣のティルスがどうなっているのかも感じられていなかった。 そのとき、唐突にティルスの声が耳に入ってきた。

「物凄いね・・・ でも、負けられない!! がんばろう、ピリマ!」
少し間をおいてピリマがうなずいた。 そして、うなずいたときにはもうおびえの色は見えなかった。 そう、いつだって・・・ いつだってティルスはこうやって自分を引っ張ってくれているのだ。 いつもティルスは、「僕はピリマがいるから・・・」と、そういって自分がいかにピリマに頼っているかを口にする。 けれども、自分もいつもティルスに支えられているのだ。 たまたまいつもティルスが先に弱気を口にしているだけなのだから・・・

うなずきあった二人が前に出た時、戦いは始まった。

ソウカクが無言で前に出てきた。 同時にティルスは左に走り、ピリマも竜角を腰に差しつつ後を追う。 二人に対して体を向けるのみのソウカクに対し、ティルスが先制の火炎放射を吹きかける。

「・・・・」
無言で身をかわすソウカクに対し、今度はピリマが仕掛ける。 

「ティルス!」
合図と共に打ち出されたのは火炎放射、それに間髪をいれずティルスが火炎放射を合わせる。 交錯する火炎放射は、お互いの熱によって不規則な軌道を描きながらソウカクに向かった。

「まねっこか・・・ 当たるも八卦・・・ん!?」
難なくかわしたソウカクの目の前に、火炎放射によって気配を隠されたピリマが切りかかった。 構えはすでに、得意とするいつもの型になっている。 火炎放射から間髪をいれずに、水平切りが一閃した。 
「・・・・」 
が、ソウカクはわずかに身をよじるだけで難なく外し、次に向かってきているティルスに向き直った。 

「しまった!?」
ピリマに恐慌が走った。 ソウカクは慌てて体勢を立て直すピリマには見向きもせず、まっすぐ突っ込んできたティルスを余裕を持って迎え撃つ。 

キャーン!! と甲高い音を立てて、ティルスの手から鉄角が跳ね飛ぶ。 同時にソウカクは体を回し、無理な体勢から打ちかかってきたピリマの剣を難なく巻き落した。慌てて飛び下がる二人に対し、それぞれの得物を蹴り返しながらソウカクは無表情に言う。

「もう一回だけだ。 次はない・・・」
くぐもった声でソウカクがつぶやくのを聞きながら、再び間合いを取りつつ、ピリマは必死に次の手を考えていた。 もしソウカクがその気なら、今の攻防で確実に二人ともやられていただろう。 ティルスの方を見ると、ティルスも青ざめた顔をしていながらも、必死に次の手を考えているらしい。 ピリマの方を見ると、自分の手を見てからにやりと笑った。 これで十分だ。 ピリマも次で決める覚悟を決めた。 

ピリマは竜角を拾うと目を閉じた。 出来るだけ静かに呼吸を抑え、自分の存在を周囲の大気に同化させていく。 体の中から様々なものが流れ出ていくような、いつもの感触がやってきた。

「(もっとだ・・・もっと完全に・・・)」
今回はあの時とは違うのだ。 今度の相手は本物の剣客である。 あの時は、追い詰められていたとはいえ、ディアルガは所詮剣の心得の無い素人である。 今度の相手は剣聖なのだ・・・ やがてゆっくりと目を開いたピリマは、やはりゆっくりとパートナーの方に視線を合わせてうなずいた。 ティルスも、すでに別人のように気配を変えている相棒にうなずき返す。 準備は整った。 二人が振り返ると、身じろぎ一つせず待っていた剣聖は静かに構えを変えた。 

又も最初に仕掛けたのはティルスだった。 ただし、今度は直接ソウカクを狙うのではなく、ソウカクの周りを中心に、あてどもなく火炎放射を吹きつける。 一方のピリマは、ティルスの方に注意を払うでもなく、少しずつソウカクににじり寄っていく。 ピリマがその歩みを止めたとき、ティルスも火炎放射をやめた。

「(どういうつもりか・・・)」
ただでたらめに火炎放射を吹いているヒトカゲには目もくれずに、ソウカクはもう一方のリオルから目を離さなかった。 こちらは先ほどとは気配がまるで違う。 闘志こそ感じるものの、存在自体、いうなれば、気配や心理、それに足音すら、鍛え上げたその聴覚を持ってしても、聞き取れなくなっているのだ。 かつて同じような業を持った弟子がいたのを記憶の片隅に感じたそのとき、突然ヒトカゲが視界から消えた。
 
 
ヒトカゲが視界内より消えたと同時にリオルの方が前に走り始めた。 このときになって、ソウカクは完全に相手への認識を改めるに至った。 リオルの動きは予想を超えて掴み難かった。 姿こそ見えるものの、気配を追うことが出来ない。 視覚だけに存在する像は、まるで蜃気楼にも似ていた。 
「蜃気楼?・・・!」
そのとき、剣聖の脳裏には、次に予想される戦法がどのようなものか電光のように閃いた。

ピリマは竜角を握り締め、飛ぶように走った。 ソウカクの撃尺に入るまでは3呼吸ほどの間もない。 その間合いに踏み入る刹那、ピリマは後ろに跳んだ。 繰り出す技はまねっこ・・・!

リオルが後ろに跳ぶと同時に、激烈な温度の火炎放射が繰り出され、ソウカクを襲った。 まねっこであることが理解できると同時に、その温度が予想を遥かに超えて高温である事に驚き、尚且つあなをほっているヒトカゲが予め地中で火炎放射を繰り出していたことへの読みが当たったことに満足した。 が、それをかわして、着地時の追撃に移ろうとした次の瞬間には、それは驚愕へと変わった。 

ピリマが宙を跳んだ直後、ティルスがあなから飛び出した。 後ろに跳んだピリマは、まねっこを繰り出した後、間髪をいれずにティルスを蹴り、刃を構えてソウカクへと突っ込んでいく。 燃え盛る炎の力を借りた灼熱の火炎放射、その熱によって3体に増えたピリマはまっすぐに、出足をくじかれて体制を崩したソウカクへと殺到した。 

突っ込んでくるリオルを迎撃する時間的な余裕は、ソウカク以外のポケモンには存在し得なかっただろう。 しかし、幾多のポケモンをして剣聖と言わしめた彼には、それでも十分な時間だった。 迫り来る3つの影に対して、彼は真空波をも伴った、高速の水平切りを放った。 3つの「かまいたち」は、狙い過たず3匹のリオルを両断する。 が、しかし、そのいずれにも手ごたえはない。 一呼吸あるかないかの内に、これだけの情報に接した剣聖は、反射的に・・・むしろ本能的に・・・何も見えていない空間に対して、己が胸の辺りで防御を構えた。 

突っ込んだピリマ・・・姿を光の屈折によって紛れ込ませていたピリマは、ソウカクの信じられないほど的確な防御に対し、防がれたその刃によって、突っ込んだ勢いでわが身を斬らぬようかわすので精一杯だった。 着地直後には追撃を掛けられないと判断するや否や、彼女は一番近い壁に向けて跳んだ。 ピリマのでんこうせっかをかわしたソウカクに対し、ピリマによって蹴りだされたティルスは、まだ少し遠い距離にもかかわらず、すでに攻撃の態勢に入っている。 自らの吐いた炎の横に立った彼は、満身の力を込め、気合と共にシャドークローを繰り出した。

明らかに射程外であるヒトカゲのシャドークローは、自らの吹きだした炎をくぐることにより、巨大な威力を持つであろう炎のツメとなってソウカクを襲った。 と同時に、後ろから壁を蹴ったリオルが、再度襲撃を仕掛ける。 しかし、同士討ちを恐れて微妙に時間差の有る攻撃は、ソウカクにとっては余りにも大きすぎる、愚劣極まる行動であった。 

ファイアークローを出し終えたときティルスが目にしたのは、自分に向けて突っ込んでくる剣聖の姿だった。 目の端に攻撃を捨て置きにかわされ、慌ててフォローに入ろうとするピリマの姿を捉えつつ、ティルスは今の自分に出来うる限りの速さで、シャドークローを剣聖目掛けて繰り出した。 

至近距離に踏み込んだソウカクは、難なくヒトカゲのシャドークローをかわすと、いあいぎりでヒトカゲを逆袈裟に斬り上げる。 
「が・・・!!くぅ・・・」 
力なく呻いて倒れるヒトカゲに背を向け、彼は後ろから駆けつけるリオルに向き直った。

目の前で・・・目の前でティルスが斬られた。 
「ティルスゥゥ!!」 
叫びながら打ち込んだ一撃は、既に向きを変えていたソウカクによって呆気なく弾き返された。 続いて頬をかすめた一撃に、思わず跳びのいたピリマに向けて、彼は無感動に言い放つ。 
「急所は外した・・・血脈は皮一枚だ・・・ 暫くは手当てすれば間に合うだろう・・・保障する。 ならば、お前が次に取るべき行動はなんだ・・・」

跳びのいたピリマは、ソウカクの言葉を聞くと体勢を立て直した。 
「(そうだ・・・なら、自分が勝たなければ・・・勝たなければティルスは・・・)」 
心を落ち着けた。 
「力は意志から生まれる。 そして、感情に流されすぎると聞こえないものも有る。 意志の力とは何か・・・その境目を見極めることもまた、修行の眼目だ・・・」とは、師であるエヤムの言葉だった。 幸い、相手は待ってくれるようである。 ピリマは呼吸を沈め、「境地」の状態を存続することに意識を集中した。 

やがてピリマが目を開くと、ソウカクがまた無言で構えを改めた。 
「(・・・こっ・・・これは師匠の・・・)」 
ソウカクが取った構えは、手に持った得物を水平に構える、師であるエヤムが鍛錬を付けてくれるときに好んで用いていた構えだった。 ピリマの脳裏に、今更ながら目の前のポケモンが自分の師匠の師であることが痛感される。 
「(でも、付け入る隙は必ず有るはず・・・)」 
しかし、実を言うと、師との鍛錬でも、ピリマにはこの構えを破れたと実感したことはなかった。 
師はいった。「この構えは、攻勢に出るときは一度振り上げる動作が必要になるため、攻めるには全然向いていないと言ってもいいかもしれない。 だが、一方でこの構えは、常に無理なくまもるの状態に自分をおくことも出来る。 破るなら、後の先を取る他はないだろう」

「(後の先・・・)」 この相手にそれが可能なのかは、正直ピリマ自身にも自信はない。 だがしかし、今自分は、現在出来うる限り最高の状態にあった。 同時に、相手もそれなりに消耗しているのが見て取れた。 心を落ち着けてみれば、先ほどからの攻防で、ソウカクの体のあちこちが焼け焦げているのが分かった。 恐らく、守りの構えを取ってはいるものの、早期に決着をつける腹心算であることは疑いないだろう。

動かぬリオルの目を覗き込みつつ、ソウカクは次の攻防を頭の中で探っていた。 先ほどのヒトカゲとの攻防で、全身に多少の火傷を負っている。 少し重く感じる体の感触を味わいつつ、ともすれば笑みがこぼれそうになるのに多少の不快感を感じながら、彼は長い経験と、自分の持ち手をすり合わせていた。 全く誰が予想しただろうか? たった2匹の、まだ年端も行かぬようなヒヨッ子に、ここまでのことをやってのけられるとは・・・ が、ふと、今自分が抱いている感情に考えが及んだとき、唐突に彼の表情は、再び能面のような凍りついたものに立ち返っていた。

ソウカクの気配が一変したのを感じた直後、、ピリマは再び地を蹴った。 一直線にソウカクに向けて走りつつ、繰り出す技に備えて、ピリマは足に力をこめた。 

リオルが動き出した。 今回は一直線に距離を詰めてくる。 撃尺の間合いに入る直前、その姿は掻き消えるように彼の視覚から逃れ去る。 気配が読めずとも、長い経験から、彼は自分がとるべき受けの構えへと体勢を変えた。 が、一瞬の後に訪れるはずの衝撃はなく、代わりに彼の視界の隅・・・それも至近距離に、姿勢を低く保ったリオルの姿が飛び込んできた。  

でんこうせっか後の勢いをそのままに、ピリマは下段から斬り上げの太刀を使った。 弾かれるや否や、今度はそれを斬り下ろす。 刀身が普通の剣より短い竜角は、素早い動きが可能なものが扱えば、至近距離ではどんな大業物にも勝る強みを発揮する。 続く2度の斬撃も、受けられはしたものの、依然攻勢の主導権はピリマの側にあった。 5度目の攻撃を受けたとき、ソウカクの体勢が変わった。 距離をとろうとする引き足に遅れず付いてきたピリマに対し、ソウカクのいあいぎりが一閃する。 かわした直後に撃ちかかろうとしたピリマに、ソウカクの太刀が懸河の勢いで落ちかかってきた。 かわしたその体に、下からスピードの倍加した一撃が跳ね上がってくる。「(つばめがえし・・・!)」 
とっさにかわそうとしたがかわしきれず、反撃のためにおいてあった太刀で受ける。 
「くっ・・・!」 
手から得物を弾き飛ばされかねないほどの強烈な衝撃に、ピリマは軽く呻いてバランスを崩した。 

体勢を崩したリオルに対し、ソウカクは振り上げた位置からそのままに片手切りを繰り出す。 副えの手で押し離した瞬速の剣を、崩れかけた体勢で有るにもかかわらず、リオルは一髪の差でかわした。 が、かわされた剣は、既に次の一撃に移っている。

凄まじい勢いの切り下ろしをかわしたピリマに、間髪をいれず片手突きが襲い掛かった。 それが明らかに入念に編み出された、必殺の連続技で有ることを感じつつ、ピリマはそれを今度も一髪の差で・・・軽く顔をひねるだけ・・・でかわした。 「さながら水中に漂う一本の毛のごとく・・・ 己の存在を極小化し、周りの波紋・・・空気の流れに身をまかせる。 力によってかわすのではなく、力に自然と押しのけられるように・・・」 それが「境地」の太刀筋の基本だった。 突きをかわしたことによって生じた、ほんのわずかな隙に対して、ピリマは渾身の一撃を放った。 が、その瞬間、凄まじい衝撃が体の中心に沿って炸裂した。


倒れたまま、傷ついた体をよじって、二匹の激しい攻防を見ていたティルスの目に映ったものは、ソウカクの懐に飛び込んだピリマが、ソウカクの強烈な翼での一撃に吹き飛ばされる光景だった。 その瞬間、ティルスは、自分の負っている傷のことも忘れて叫んでいた。

衝撃を受けてからしばらく宙を飛んだ様に感じた後、ピリマは地面に叩きつけられた。 激しくバウンドした後に止まったが、最早体は動かなかった。 
「オッ・・・かはっ・・・」 
呼吸が苦しくなると同時に、口から血があふれ出してきた。 ティルスが自分の名前を叫んでいるのがぼんやりと聞こえる中、ピリマは必死に体を動かそうと・・・立ち上がろうともがいていた。 やがてソウカクの声がぼんやりと聞こえだした。 
「お前は十分に闘った・・・ ・・・最後に名を聞こうと思っていたが、あちらの小僧が教えてくれたようだな・・・」 
ソウカクがゆっくりと剣を振り上げる中、ティルスは自分の傷口が開くのにも構わず、必死にピリマの名を呼び続けた・・・

ソウカクがピリマの体めがけて得物を振り下ろした瞬間、突然部屋の中の気配が一変した。 と同時に、奇妙な光がピリマを包むように現れ、ソウカクの剣は、その光・・・正確には、光が持っていると思われるものに受け止められた。 ソウカクは、最初の一瞬は驚愕した・・・が、一瞬の後には素早く3歩引き退き、もう平常の無感動な表情に戻っていた。 何故なら、それは余りにも身近だった・・・このような身の上になっても、未だに己の中でしっかりと刻み込まれている気配だったからだ。 やがて光がしっかりとしたポケモンの形をとり終わったとき、彼はうずくまっているポケモンに声を掛けた。 
「久しぶりだな・・・」 
ポケモンも答えた。 
「お久しぶりです・・・師匠」

ティルスは呆気に取られて成り行きを見ていた。 突然現れてピリマとソウカクの間に入った光から出てきたのは、自分達の師匠、エヤムだったからだ。 自分の方へちらりとエヤムが視線を移したのを受けて我に返った彼は、ピリマが無事なのを確認すると急に目眩を感じ、頭を地に落としてしまった。 

「愚問だが・・・何を求めてきた?」 
ソウカクの問いに対して、エヤムは落ち着いた口調で答えた。 ティルスもピリマも、今のところはまだ大丈夫そうだった。 
「勿論、一手教えていただきに参上仕りました。 本当は我々三羽烏一同が揃ってお目見えしたかったのですが・・・ 何分今現在、我々の方も取り込んでおりましてね・・・ 声で久闊を交わすのみならば、今からでもできますよ。 なぁ、レイド?」 
エヤムに答えるようにして、エヤムの手の内から声が聞こえた。 
「レイドです。 ご無沙汰しております・・・師匠。 声音のみであいさつを言上する無礼、お許し下さい」 
レイドのあいさつが終わると、ソウカクは少し表情を緩めたが、再び元の表情に戻って、エヤムにたずねた。 
「それはどういうカラクリになっているのかな?」 
「テレポートの結晶です」
エヤムが答えた。 
「師匠がここにいる、というのは、恐らく私の弟子達と貴方が闘い始めてだと思いますが・・・ついさっき知れたのです。 ですから、私達3匹は至急に会って相談し、ネイティオのメタカムと申す御仁とレイドとでこのテレポートの結晶を作り上げ、私が我ら3匹を代表してここに飛んだ・・・というわけです」 

師のエヤムが口を閉じると、ピリマの耳に聞き慣れたメタカムの声が聞こえてきた。 「無茶をされるばかりで困る・・・ ・・・テレポートが完全に完了しないうちに動くなんて・・・ ・・・おまけに、座標位置を勝手にずらしおって・・・ ・・・大体、今すぐテレポートの結晶を作れという要請自体が・・・」
「全くだ。 もしメタカムさんが協力してくれていなかったら、私だけでテレポートを制御できたかは疑わしい。 もし制御に失敗していれば、貴殿は壁に生き埋めになるか・・・最悪五体バラバラになって取り返しのつかないことになっていたんだぞ」 
レイドの声もメカタムのそれに加勢している。 
「まぁまぁ、それについては謝るから・・・ それに、やらなきゃ結局取り返しのつかないことになってたんじゃねぇのかい?ってね」 
エヤムの反論に、2匹は沈黙した・・・少なくとも、沈黙した気配は伝わってきた。 
次に聞こえてきたのはスキッパーの声だった。 
「いいから黙れお前ら! 師匠の前で失礼だろうが。 エヤムもとっととやることやらんかい!! ・・・失礼しました、師匠・・・ 挨拶が遅れて申し訳ありません」 
「全くそれもそうだ・・・ 師匠、お見苦しい所をお見せして・・・」 
エヤムが詫びを入れると共に、彼は改めてソウカクに向き直った。

「皆息災のようであるな・・・フフフ フム・・・やはりこの者らはお主のか・・・ ・・・では、久しぶりに一つ手合わせさせてもらうとするか・・・ この分なら、久しぶりに楽しめようて・・・」 
ソウカクが小気味よさそうに笑う。 が、言葉とは裏腹に、彼が放つ気配や雰囲気は、相も変わらず全く温かみのないそれのままである。 そうした師に対し、これも全く動揺を見せずにエヤムが声を掛ける。 
「再会を祝って・・・と言ってはなんですが・・・ 暫時時をいただけませんか? 弟子の手当てぐらいはしてやりたく思うのですが・・・」 
「無論だとも・・・ せっかくの機会だと言うのに、お主がしがらみに気を取られたのでは困るて・・・」 
エヤムの懇願を、ソウカクはあっさりと聞き入れた。

うつ伏せになったまま体を起こせないピリマを、エヤムが気遣いつつ仰向けにした。
「・・・これは先に多少なりとも傷を癒すのが先だな・・・ おっと、無理に喋るな。 もう少し楽になってから運んでやる。 はがねの翼だなこれは・・・ 肋骨がつぶれてワヤになってやがる・・・」 
口を開こうとしたピリマを制し、エヤムは立ち上がると両の目を閉じた。 殆ど間をおかず、彼の周りに空気が渦を捲き始めた。 それは次第に輝きを帯び、やがて広い洞窟の部屋の中に心地よいそよ風となって吹きそよぎ始めた。 

やさしげな輝きを帯びた風が、心地よい感触を伴って体を包み込んでゆくなか、ピリマは体を縛り付けていた重みが溶けゆくように消え、楽になってゆくのを感じていた。 強張っていた手の力が抜け、少しずつではあるが気力が戻ってくる。 と、いきなり背中の下に何かが差し込まれ、体が宙に浮いた。 驚いているまもなく、エヤムの語りかけてくる声が聞こえる。 
「よく生きててくれたな・・・礼を言うぞ。 オレも教え込んだ甲斐があったってもんだ・・・」 
そう言うと、師はピリマの体を少し押さえた。 一瞬鋭い痛みが走ったが、何とか顔をしかめるだけでやり過ごせたようだ。 
「悪い、肋骨が酷かったんでな・・・ まぁ、これで大丈夫だろう。 ・・・それに、よくぞコイツを取り落とさずに耐えたものだな。 コイツのお蔭で、何とかお前達の間に入れたのよ・・・」 
師の手が、竜角をしっかり握り締めた、ピリマの右手を支え上げていた。 
お前さんの意志の力が、お前さんら二匹の命を救ったのだ、と言う師の言葉に対し、ピリマは気恥ずかしさと共に、何故師が自分を救うことが出来たのか・・・遠くにありながら、正確に情勢を把握し、自分の身を庇いえたのか・・・を理解した。 
そう、エヤムならそれができる・・・竜角は元々彼の父親の形見だったのだから・・・ 

ティルスの元にピリマを横たえると、エヤムはもう一匹の弟子の容態を確認した。
「(こちらはこのままでも大丈夫だな・・・ 塞栓を起こさなかったのが救いだった・・・)」 
既に傷が塞がり、出血も止まっているのを確認し、エヤムはほっと息をついた。 起き上がろうとするピリマを今度は捨て置き、彼は再び目を閉じる。 部屋全体に満ちていた淡いやわらかな光が、今度は彼を中心に収束しつつやさしく渦をまき、柱のような形となった。 立ち上がったピリマに対し、エヤムが言った。 
「こいつを維持しててくれ。 お前さんなら、やり方は教えなくても判るだろう。 ティルスはちょっと血を流しすぎてる。 もう少し時間を掛けた方がいい」 
そう言うと、おぼつかなげにうなずいたピリマに対し、一変して厳しい口調で告げた。
「手出しは無用だ。 どの道、お前さんらでは間には入れん。 後、よく見ておくがいい。 これからお前に、境地の太刀筋の真髄を見せることになるだろうから・・・ これが、オレがお前さんに教える極意の最後の部分だ」

静かに前に歩み出てきた弟子に対し、ソウカクが口を開いた。 
「癒しの風か・・・ 珍しい業だが、確かにお主ならばな・・・ 一応礼を言わせて貰うぞ。 久方ぶりに外の気を嗅いだ・・・」 
すでに、ソウカクの体も癒えていた。 謝意を述べるソウカクに、エヤムは静かに微笑む。 
「しがらみにはとらわれたくありませんからね・・・お互いに・・・ それに、あの連中が火を使いすぎたせいで、私にとっては少々息苦しかったですし・・・」 
エヤムの「癒しの風」は、燃え盛る炎によって生まれたよどんだ洞窟内の空気を、ピリマ達にとっても懐かしい、明るい日差しを連想させる澄んだ空気へと変えていた。


正対したエヤムが一呼吸つくや否や、唐突に戦いは始まった。

両者の気配は又も一変し、ソウカクが最初に見せた構えで突っ込んでゆくのに対し、弟子の方は得物を鞘ぐるみに腰の後ろに回し、柄の部分を握ったまま体を沈め、すべるような足使いで前に出て来た。 見る見る間合いが縮まっていく中、エヤムの姿が突然掻き消える。 これに対し、ソウカクは勢いを緩め、重心を片足に預けつつ、それを軸に体を急激に傾けた。 瞬間、電光の様な一撃がソウカクの胴を薙ぐ。 それは、体の前で垂直に保持されている彼の得物に阻まれはしたものの、完全に受け切れるほど生易しいものでもなかった。 が、彼は全く躊躇もせず、受け終わった剣の背を支えている左翼で己が得物を押し出し、反撃の動作に入った。 

恐ろしい速度ですれ違ったにも拘らず、ソウカクの剣はすれ違うエヤムの背中に襲い掛かった。 傾けた体をそのまま回しつつ、左翼によって押し出された剣による神速の車切りを放ったのだ。 が、エヤムもそれは予期していた結果であった。 得物を振り切った左手は、既に背中に対する斬撃に備えて背後に回っている。 
ガッ!! という鋭い音と共に、彼は背中に鋭い痛みを覚えた。 
「(まぁ、この姿勢じゃ深手にならないようにするのが精一杯か・・・)」
そんな考えが頭の隅をよぎる暇も有らばこそ、彼は腕を前に戻す時間を稼ぐため、出来うる限りのスピードで前に出た。

振向きざまの一撃が相手の背に傷を負わせたことに考えが及ぶ間も無く、ソウカクは相手の死命を制すべく追撃に移っていた。 車切りの余勢によって体が流れる時間をカバーする為に真空波を放つと、彼は猛然と相手を追った。 

真空波がまさにエヤムの背に達しようとしたその時、彼は背中の翼を強く羽ばたかせた。 ポケモン界最速の飛行スピードを生み出すそれは、たやすくソウカクの真空波を打ち消す。 同時に向き直った彼は、既に身に及ばんとするソウカクの一撃を何とか受け止めた。 が、体勢を整える暇を与えられぬまま、彼は凄まじい勢いで繰り出される怒涛の攻撃を何とか凌がねばならなかった。 
「(もう少し・・・)」 
慌てないように自分に言い聞かせながら、彼は反撃の為の余力を少しずつ蓄えていった。

最速で追いすがったにも拘らず、ソウカクの一撃をエヤムは受け止めた。 
「(高速移動か・・・)」 
続いて打ち込んだ連続技を受けられたとき、かつて相手が、その大柄な体格にも拘らず得意とした戦法に、彼は唐突に思い当たった。 が、次の瞬間には、彼は既にそれを破るための方策を思いついていた。 反撃の隙を与えぬよう「攻」の型を最大限に生かしつつ、彼は攻勢の要所要所に、その「方策」の種をまいていく。

息もつかずに展開される両者の攻防を、ピリマは息を詰め、食い入る様に見つめていた。 ソウカクが繰り出すめまぐるしいまでの連続攻撃を、エヤムは一撃一撃確実に受け止めていた。 最初は手一杯に見えたその受け口が、受け続けるに従い、次第に滑らかで余裕のあるものに変わっていく。 
「凄い・・・」 
ティルスが半ば上の空で上げた声に、ピリマははっとして振り返った。 いつの間にだろうか? 彼は起き上がり、ピリマの隣まで歩み寄っていたのだ。 ピリマによって向けられた視線を感じ取り、ティルスは振向くと、気恥ずかしそうに笑った。 
「ゴメン・・・ もういいよ。 大丈夫だから。 心配かけてほんとにごめん」 
ティルスに「もういい」と言われて、ピリマは自分がエヤムの「癒しの風」を持続させていることに思い当たった。 いつの間にか意識しなくなっていた、技への集中力を解放する。 と、気持ちが一気に楽になると同時に、自分の体力・気力が共に、すっかり回復しているのに気が付いた。 

ピリマが技を終わらせたのを見届け、ティルスは再び勝負に目を移した。 目を離している間に、両者の戦いは新しい局面に入っていた。 先ず、ソウカクの攻めが、先ほどよりも遥かに精妙なものとなっていた。 今や、ソウカクは決まりきった「構え」を持っていなかった。 その姿勢はめまぐるしく変化し、攻めと守りの境を読むことは全く不可能だった。 これに対しエヤムも又、当初の姿勢とは打って変わった戦いぶりを見せている。 受けに回っていた当初に見せていたぎこちなさは最早全く見られず、激しい攻撃をものともせずに切り返し、反撃を加えている。 が、目が慣れてくると、両者共に手傷こそ負っているが、やはり傷の具合はエヤムの方が重いらしい。 しかもその内やがて、エヤムの勢いが急に衰えだした。

攻防のさ中、ソウカクの鋭い反撃で副えの手を軽く突かれた時から、エヤムは傷に強い違和感を感じていた。 やがてその傷口の違和感が体力を奪い始めるに及んで、彼は打ち合いの圏外に素早く引き退いた。 追撃を行わなかった師に対し、彼は何食わぬ顔で語りかける。 
「毒突きですか・・・ こいつは迂闊でしたね・・・」 
実際、迂闊だった。 高速移動は、使用者の動きを速めて激しい動きも可能にする反面、毒を受けた場合、その巡りをも速めてしまう。 強力ないあいぎりやつばめ返しを警戒する余り、毒突きの存在を見逃してしまっていたのだ。 語りかけてきたエヤムに対し、ソウカクは無言で視線を向けていたが、やがて構えを改め、殺気も新たに殺到してきた。

動きの鈍ったエヤムにソウカクが殺到するのを、ピリマとティルスは祈るような思いで見つめていた。 案の定、動きの鈍ったエヤムの受けは精彩を欠き、打ち込まれる斬撃を完全に凌げるものではなかった。 傷口が増え、足元の砂地に滴り落ちた血が染み込み始めるのを見るに及んで、ティルスはじっと見ているのが耐えられなくなってきた。 ピリマの方も、これ以上は我慢できないと思い始めた時、ふと、あることに気付いた。 師であるエヤムの構えが、戦いが始まったときとから変わっていないのだ。  猛烈な勢いで攻め込まれ、急速に生命の危機が迫ってきているというのに、エヤムは、構えを守りを第一義とした「守」の構えに変えようとしていなかった。 彼は依然、剣を自分の腰の後ろに預ける、機動を最重要視した構えのままであったのだ。 動きの鈍ってしまった今、この構えをとり続ける意味は一つしかなかった。 更に、その当のエヤムの気は、全く衰える気配がなかった。 むしろ、追い詰められればられるほど強くなり、今や輝きを放つかのようにすら感じられる。 それらの意味をピリマが悟り始めたとき、エヤムの気配が急速に変化し始めた。

相手の気配が徐々に薄れていくことにソウカクが気付いたとき、対戦相手である弟子は、すでに傷だらけの状態であった。 最初、ソウカクはそれが・・・ 相手がいわゆる「境地」の状態へと入っていくのが信じられなかった。 昔の弟子本人・・・エヤムにしても、先ほどのリオルにしても、あの状態に入るには、それなりの時間・・・精神の統一に掛かる時間が必要だったからだ。 ましてや、今の相手は毒に犯されており、精神の集中は並大抵のことではない・・・事実上は不可能・・・であるはずだった。 が、相手は今紛れもなく、急速に気配を隠しつつあった。 更にそれに伴い、今まで鈍ってゆく一方だった相手の動きが、すべるように滑らかな・・・かつて唯一、他ならぬ彼自身を持ってして全力を傾けるに足るほどの見事な進退・・・を取り戻しつつあった。 更に8合ほどを打ち合う内、ソウカクは、全く相手の気配を読むことが出来なくなった。 同時に今では、相手は既に一合交えるごとに、己が剣を元の鞘に仕舞い込むだけの余裕を持っているのを見て取った。  

体がいうことを利かなくなり始めたとき、エヤムは最後の手段・・・むしろ、この勝負における唯一の希望と言うべきか・・・を使うべき時が来たのを感じた。 依然、激しい攻撃が続く中、彼は「境地」の状態に自らの身を置くべく、心を研ぎ澄ませ始めた。
本来のやり方ならば、このような切迫した状況の中から、境地の状態に自らを導くことは不可能であっただろう。 何故なら、自分の存在を周囲に溶け込ます際に障害となる、いわば「壁」を乗り越えるだけの精神の集中が、この状態からでは到底望めないからに他ならない。 しかし、今の彼には、既に外界とつながる出口が・・・いわば「穴」が、無数に開いていた。 そう、望まれぬ形で穿たれ、彼の命を脅かしている「穴」が・・・ 

全身を覆う傷から流れ出していく自分の命・・・その流れに、エヤムは己の意識を集中した。 と同時に己の意識から、余計な雑念・・・「恐れ」・・・「焦り」・・・「敵意」・・・といった、個の念より生まれるそれを、一つ一つ消してゆく。 そしてそれにつれて、己の体を、一時的に・・・意思とは別のもの・・・にゆだねていった。 それは決して特別なものではなかった。 むしろ、ありふれたもの・・・命あるものならば、必ず所有している衝動・・・そう、生存本能と言われているものである。 とどまらぬ攻撃による苦痛の増加と、加速的に体を蝕む猛毒・・・本来精神の統一を妨げるそれが、ここではその試みをどんどん加速させていく。 少しずつ・・・やがては加速的に、彼の状態は変化していった。 体中の傷から流れ出ていた命の流れは、彼自身の気が周囲のそれと同化するに連れて、やがてその動きを止めた。 その身を蝕んでいた毒も、周囲の波と同化した彼の体内から、まるで塗料が水に溶け出すように抜けていった。 そして、体に感じていた重みが全て消え去った時、彼は再び自らの意志の元に、自らの動きを掌握していた。 紛れもない、「境地」の状態に至った状態で・・・

目の前の相手が境地の状態に至った以上、迂闊に動くことはできない。 ソウカクはそう結論付けた。 しかしその一方、未だに彼は微塵もゆらいではいなかった。 気配も読めず、驚くべき回避術を可能とする境地の太刀筋と言えど、彼とエヤムの器の差を埋めるには、未だに不足であることが分かっていたからだ。 ゆっくりと構えを改めた後、再び剣聖は、目の前の相手に対して攻勢に入った。


「まだ押してる・・・」 
ティルスがつぶやく様に口にした言葉に、ピリマは今の自分が抱いている驚きと同じものを見出していた。 信じられないことに、戦いは未だにソウカクが主導権を握った状態で推移していた。 エヤムは余裕を持ってソウカクの打ち込みをさばき、時折鋭い反撃を加えるまでになっていたが、ようやくお互いの動きに慣れてきた目には、彼が攻めあぐねているのがよく判った。 一見してみれば、ソウカクの打ち込みをほぼ確実に見切れているエヤムが有利とも思えたが、一度刃を交えたピリマには、ソウカクが何を目論んで攻めているのかは十分予測できた。 
両者が負っている傷に考えが及び、時が、果たしてどちらに味方するのかと思い至っていた丁度その時、ピリマは、エヤムの周囲の空気・・・彼の傷を覆い隠すように流れているそれ・・・が、変化を起こし始めていることに気付いた。 

相対している弟子の気配が消えた後、ソウカクは慎重な攻め口に徹しつつ、全神経を集中し、相手の動きを注視していた。 と同時に、彼自身は自覚していなかったが、最初に二匹のポケモンと戦い始めたときの、ぼやけた様になっていた己の記憶が、すでに鮮明な色合いを帯びて、彼の中によみがえっていた。 かつて共に研鑽していた時、彼は幾度かこの術を用いられ、その度に打ち破ってきた。 過去、いずれの場合でも、ソウカクは彼・・・境地の状態に立ち入った、エヤムの気配を読み取ることは出来なかった。 しかし、同時にエヤムにも、ソウカクを攻めきることは全く不可能だったのだ。 彼は何時でもあらゆる攻め手を退け、その裏を読んで勝ちを収めてきた。 
そんな彼にとって、戦っている相手の気配に生じた新たな変化は、驚愕すべきものであった。 当初彼は、突然に出現し始めた気配を、相手の消耗によるほころびかと疑った。 が、しかし、その気配が徐々に大きくなるにつれ、相手の攻撃が驚くべき鋭さを帯びていくに及び、そんな考えは跡形もなく霧消した。 エヤムの気・・・鋼の様な強靭さを感じさせる闘志・・・は更に膨らみ、既に彼の周り全体を覆いつつあった。 しかも、鋭さを増し、どんどん激しくなる攻撃とは裏腹に、反撃の糸口・・・具体的に言えば、弟子自身の個の気配を、はっきりと読み取ることは、全く不可能なままだったのだ。 
まるで疾風に吹き寄せられるかのような強い圧力を感じる中、ソウカクは初めて、自分が守勢に立ったことを悟った。

ティルスが大きく膨れ上がっていくエヤムの気に圧倒されていく中、ピリマは、エヤムの周囲を覆っている様々なものから発せられている波・・・波動が、彼に共鳴していくのを感じていた。 既に周囲と同化しきっているかのようなエヤムの気・・・その淡い境目から、エヤムの思いが、辺りを覆っている様々なそれに伝わっていく。 そして、まるでそれに呼応するかのように、彼の周りを取り巻いているあらゆるものが、一つの意思・・・それを感じることの出来るものならば受け取ることが出来る「声」・・・の下にまとまっていった。 何処までも広がっていくかのような、その強い力の流れを目の当たりにしつつ、ピリマは、かつて師が自分に向けていっていた言葉の意味を悟っていた。
「助ける、という事は、助けられている、という事。 守っている、という事は、守られている、という事。 そういうもんだぞ、何事もな・・・」 
「あんまり自分ひとりで抱え込まんことだ。 一人で生きているものなんぞ、この世界には存在し得ないのだから・・・」 
・・・そして、どんなに多くの「声」に耳を傾ける能力が自分に備わっていようとも・・・例え、どんな思いが自分に向けて差し伸べられていようとも・・・結局自分は、いつも一人だけで戦っていた・・・戦おうとしていた・・・という事実をも。 

絶え間なく膨らんでいくかのような相手の気配の前に、ソウカクは一挙に決着をつける決意を固めていた。 激しい居合いの打ち込みの間隙を見計らって彼は、己自身も、その辿り着いた極みへと達するため、素早く二度、大きく退いた。 決着をつけるべき潮を感じた対戦相手が、一歩もその場を動かずにその準備を始めたのを感じつつ、彼は己の心から、一切の感情を廃しにかかった。 

ソウカクの周りに立ち込めていた瀟殺の気が、まるで潮が引いていくかように薄れていくのを感じながら、エヤムは己の心と最後の葛藤をしていた。 迷いを残すわけにはいかなかった。 迷いは技を鈍らせ、更にはこの闘いの意味自体をも失わせるかもしれなかった。 心に消えては浮かぶ葛藤に苦戦するうち、唐突に彼の脳裏に、かつて師と論じた内容が、鮮やかな光景を伴って浮かんできた。 
「(やはり、師はどう転んでも師と呼ぶにふさわしい人だな・・・)」 
迷いをなかなか断ち切れない己の意志の「弱さ」に苦笑することで、彼はようやく、次に繰り出すべき技に向けて、己の全てを研ぎ澄ます準備を終えた。

両者の気配が一点に集束し、辺りが張り詰めた弦の様な息詰まる空気に満たされた直後、両者はまるで申し合わせたかのように、お互いをさして走り寄った。 次にピリマとティルスが見たものは、二つの影が瞬時に加速し、二筋の線となって交差する光景であった。

静かにそよぎ始めた流れに身を任せながら、エヤムは残心の構えのまま、背後に師の背中を感じていた。 先ほどまで両者を包んでいた強い波動は最早跡形もなく、両者の姿は、岩壁から放たれる淡い光の中に、おぼろげに浮かんでいるに過ぎない。
静かに・・・その場の空気を乱すことすらも望まぬかのように穏やかに、彼は口を開いた。 
「器の量・・・でしたよね・・・? そのものの技量は、遂に持って生まれた器の大きさを超えることは出来ない、と・・・」 
その問いかけを耳にしたとたん、ソウカクの脳裏に、かつての光景・・・もう二度と省みるまいと誓ったはずの、数々の光景が溢れ出した。


「何故あの方の弟子入りを断られたのですか?」 
黄昏の中に消えていく背を気遣わしげに見つめながら、まだ幼さの残るミニリュウが訪ねた。 同じくその背を見つめていたカモネギが、ミニリュウに対し、おもむろに答える。 
「あの者は器が小さすぎる。 例え門下としても、やがてはその身を己が剣では支えきれず、反って身を滅ぼすだろう。」 
「器とは・・・?」 
更に問うミニリュウに、カモネギは再び答える。 
「器とは、その者の生まれつきの限界のようなものだ。 例えるならば、カメールが撃つ事の出来る水鉄砲は、どれほど研鑽しようとも、遂にはギャラドスのそれには及ぶまい。 剣の才にも、これと同じ理がある」 
「しかし、あの方は私に勝ちました。 それに、力量さえ高ければ、例えカメールでもギャラドスの力に打ち勝つことは可能なはずです!」 
反論するミニリュウに、彼は微笑みながら穏やかに答えた。 
「それはその者の経験がまさったときの話だ。 個の力は器、経験、心胆より決まる。 例え器が大きくとも、経験という水が不足していてはどうにもなるまい。 又、心胆がしっかり鍛えられていれば、同じ水の量でも、無駄に費やす量を減らすことが出来る。 しかし、元よりの器の量は、いかにしてもかさを増やすことは出来ない・・・」


「そうだ・・・ 全てのものは己の器に縛られる定め・・・その器以上の技量に達することはできぬ・・・」 
これも静かに答えながら、ソウカクは続けた。 
「ならば何故・・・」  手に持った剣が二つに折れた。 
「何故わしが敗れるのか・・・」  両翼から力が抜け、手にした剣を取り落としつつ、彼は問うた。 
「己の器に囚われていたのであれば・・・」 
神速の後の構えをなおも解かず、穏やかな調子でエヤムは答える。 
「こうはならなかったでしょう・・・」 
その答えは、両の翼をだらりと垂れ下がらせたソウカクへと、辛うじて届いた。


「お主は毎日、そこで何をしておる?」 
道場としている岩屋から少し離れた茂みに向かって、額から汗を滴らせたカモネギが声を掛けた。 
「え・・・とと、・・・」 
声に答えて一匹の小柄なハクリューが、多少うろたえながら茂みから顔を出す。 清らかな朝の日差しの中で、夢から覚めたような顔をしているハクリューに向かって、カモネギは強い調子で声を掛けた。 
「そんな所でサボるというのは感心せんぞ。 皆はもう・・・」 
ふと、ハクリューの尻尾の先が、わずかにおかしな形になっているのに気付いて、カモネギは口をつぐんだ。 師の叱責が途切れたのを機に、ハクリューが慌てて答える。 
「心の鍛錬をしておりました。 この藪は・・・え〜と・・・」 
もとより嘘をつくのが下手な弟子は、すぐに言葉に詰まってしまい、やがて促しもせずとも自ら答えを改めた。 
「済みません・・・ 本当は日当たりやそよ風を楽しんでおりました・・・ 昨夜の疲れがとれ切れませんでしたので・・・」 
「ふむ・・・ 所で、その尻尾の先はどうしたのか?」 
神妙に謝る弟子を遮り、好奇心を押さえかねてカモネギは訪ねた。 一層小さくなって、ハクリューは答える。 
「これは蚊に食われた跡です・・・ 体中を刺されていては堪らないので・・・ せめて尻尾の先にしてくれるよう願いまして、それで・・・」 
ハクリューが最後まで言い切らぬうちに、カモネギは精悍な顔を崩して笑い出した。 道場の方から他の弟子が呼ぶ声に答えた後、カモネギは再び問うた。 
「なるほどな。 頼み込んだわけか・・・ ところで、そうやって蚊に食われながら日和見なぞして、本当に疲れはとれるのかな?」 
この問いに対し、ハクリューはパッと嬉しそうな顔になって答えた。 
「はい、大丈夫です。 気持ちを楽にして、受ける風に疲れを流してもらうようにすれば、すぐに楽になります。 元気が出ないときも、日に当たっていれば、そこから分けてもらえます・・・」


「なるほどな・・・」 
何がどうなったかを理解して、剣聖は満足げな声音で応じた。 
「器を溢れさせた訳か・・・」 
そう、エヤムは、己が器のみで戦っていたのではなかったのだ。 森羅万象と意志を通じることの出来る彼は、境地の太刀筋によってそれと同調し、一体となることにより、己が持てる器量の範囲を超えて力を発揮したのである。 
「(そう・・・己は良く知っていたはずではないか・・・ あの時・・・そう、あの時から・・・)」 
傷口が開き始めていた。 瞬時に絶命するような部位ではなかったが、それでも傷は十分過ぎるほど深かった。 自らの選んだ道の敗北を悟ると同時に、ソウカクの脳裏に、彼らを分かつ元となった時のことが鮮明に映し出された。


「それまで!」 
衰え始めた日差しが差し込む岩屋の内に、鋭い声が響き渡った。 同時に、それまで相対していた二匹、エルレイドとカイリューが、それぞれの得物を仕舞い、一礼する。 カイリューが引き下がり、続いてザングースがエルレイドの前へと歩み寄る中、彼はカイリューに声を掛けた。 
「エヤム、ちょっとわしのところへ来い」 
エヤムと呼ばれた小柄なカイリュー、そう、エヤムだ・・・は、一呼吸した後に瞑目していたが、名を呼ばれると立ち上がって、こちらに歩み寄ってきた。 後からついてくる弟子を岩屋の外へ導きながら、彼はその時、弟子に言い聞かせねばならない要点について考えていた。 岩屋のそばにある、修行にも使われている木の陰に、既に傾き始めた日差しを避けて場所を占めた彼は、弟子が一礼してそばに腰を下ろすと、開口一番に言い放った。 
「何故打たなかったのか?」 
この問いにに対し、既に心の一部では息子のように感じるまでになっていた、この小柄なカイリュー・・・厳しい修行による余りにも早い進化に、体が成長しきれずにカイリューになってしまった弟子は、多少ためらいながらも答えた。 
「少し無理がありましたので・・・」 
実際は問うまでもなく、その理由はわかっていた。 対戦相手であるエルレイド・・・レイドの攻め口を受け損ね、無理な姿勢からの、加減が出来ない反撃を行う事を拒んだのだ。 既に業を磨き上げて久しく、独自の境地へと足を踏み入れつつあった・・・にもかかわらず、未だに躊躇という大きすぎる弱さを抱える目の前のポケモンに対し、彼はその時、こう言った。 
「迷いを捨てられぬならば、心を閉じることもまたやむなし」 と・・・ 
彼は続けた。 「勝負とはその根本からして非情なものであり、迷いを残すことは直接死につながるものだ・・・ 如何なる時にも迷わざる心を会得するには、己が心を殺すこともまた一つの境地となり得るだろう。 無念無想の太刀筋こそ、剣技が最後にたどり着く境地だとすれば、心の弱さこそは、著しく剣士としての力を殺ぐ毒となる」
それが、当時、己もまた一つの壁、心の「迷い」に突き当たっていた、ソウカクの答えだった。 
が、しかし、エヤムは、そうした師の考えに反論した。 
「お言葉ですが・・・それは心を閉ざしているだけに過ぎないと思います。 剣術の真髄とは心を鍛えることにある、と師もおっしゃっていたではありませんか。 閉ざすこととは、即ち逃げることに他ならないと思います・・・」 と・・・ 
弟子との会話を終えたとき、彼は再び修行の旅にでることを決意していた。 己の過去に、「あの時」に・・・そして、その時、己の手で守り抜いた、一匹のポケモンへの思いとに・・・決着をつける、その決心を固められぬまま・・・


そして・・・遠い過去、まさしくこの場所であった出来事から、ずっとずっと引きずっていた心の迷い・・・ 一心に研鑽し、同時に弟子を育て続ける中で、いつしか忘れかけていたその思いは、かつて共に歩んだ道を彼にたどらせ、その終末を迎えたこの洞窟に、彼を導いたのだ。 
「(そして・・・そう、この場所に踏み込んだ時・・・自分は・・・自らの剣士としての矜持を守るべく、自らの心を閉ざすことを決意したのだ・・・ その先に広がる闇に、己の心をゆだねるままに・・・ そしてその代償に、自分は無明の太刀筋を得た・・・)」

体の力が抜けていくままに抗わず、ソウカクはかくりと膝を突いた。 
「フフフ、随分と道草を食ってしまったものだ・・・」 
それでも、その口から出た言葉には、諦観と共に、紛れもない温かみが感じられた。
それと同時に、背後でじっと動かずにいたエヤムも、自らの得物を静かに鞘に戻し、ゆっくりと師の方に向きなおった。 嵐が通り過ぎた後のごとき、穏やかな気配を背後にはっきりと感じつつ、彼は弟子に向かって静かに語りかける。 
「結局、何も使わなかったではないか・・・」 
疑問系であるにも拘らず、いぶかしげな響きは殆どない師の指摘に、弟子はすぐさま答えた。 
「貴方だって、使える技を全て出し尽くしたわけではないでしょう? ・・・それに最初に言ったはずです。 私は、一手教えていただきに参りました、と・・・」 
そうであった・・・と、ソウカクは穏やかに苦笑した。 彼は、自分と戦いに来たわけではなかったのだ・・・ 彼は、かつての自分の師と、純粋に剣による「試合」を行う為に、ここまでやってきたのだ。 その事実の中に、彼が抱いている思いを感じ取り、ソウカクは今度こそ、皮肉のこもっていない、心からの笑みを浮かべていた。 
他人の思い・・・それを感じるのは何年ぶりだろうか? そんな考えを反芻しつつ、彼は弟子に対し、穏やかに懇請した。 
「では・・・悪いが、頼む・・・」 と・・・ 

その言葉が師の口から出たとき、エヤムは恐れていた迷い・・・躊躇いを、何とか克服することが出来ていた。 彼はゆっくりと自分の得物・・・彼自身の角から削り上げた無銘の剣・・・に、静かに手をかけた。 
「あいつは・・・まだ待っていてくれているのだろうか・・・?」 
ポツリと呟いた師に対し、彼は何とか感情をコントロールしながら答える。 
「えぇ・・・間違いなく。 ・・・私は[師]を間違えるようなへまはしません。 それは、貴方にしても同じはずですよ・・・」 

その言葉を聞いたとき、ソウカクの心の中に組み上げられていた、最後の障壁が取り払われた。 と同時に、懐かしい声・・・かつて別れの為に共に歩み・・・図らずも心を通わせることになった、サーナイトの声・・・が、その思い出と共に、まるで奔流のように、彼の心に流れ込んできた。 
「(そうだ・・・自分は・・・自分はこれから逃げだそうとしていたのだ・・・ この思いを忘れようと、この迷いを断ち切ろうと・・・)」 
彼女・・・ウタキという名のサーナイト・・・が、他ならぬこの場所・・・この世界の大穴で封印の儀によって消滅したそのときから、彼は空虚な哀しみが、心の中に動かしがたい位置を占めたことを悟っていた。 そして最後の旅にでて、惹かれるようにここに来たその時、彼は己の迷いを断つ代償に・・・心の奥底から湧き上がってくる哀しみから逃れる、ただそれだけの為に・・・己の一番大事な記憶を、この闇の中に封印したのだ・・・ それが、どれだけ自分にとって大切なものかに思いが及ばぬまま・・・

ソウカクの「思い」が解放された瞬間、まるで暗闇に光が差したように、彼の周りを覆っていた、強いもう一つの「思い」が鮮明になった。 
漆黒の暗闇の中で、ただ黙然と立っていただけのソウカク・・・その体を支え、心を闇に投げ捨ててもなお、操られるだけの人形へと成り下がることを防ぎ続けてきていたそれを、己の剣の師が十分に感じ取れたのを確認して、エヤムは剣を・・・先ほどの、多くのものに支えられた思いの力・・・が未だに込められ、強い輝きを帯びている太刀を振るった。 

離れて見ていた二人の目に映ったものは、ソウカクの体を取り巻く強い「思い」が淡い輝きを放っていたこと、そして、その輝きに包まれていたソウカクを、彼らの師が振るった小太刀が、一刀のもとに両断した光景だった。 

エヤムの小太刀によって両断されたされたソウカクの体は、彼の意識が途切れる瞬間、まるで砂の山が崩れるように、明るく輝く光の帯となった。 そして、元はソウカクであった光の帯と、彼を取り巻いていた光・・・ウタキの思い・・・とは一つに解け合い、やがて砂が風に遊ばれていくように、洞窟の中に解けていった。 
二つの光が溶け合い、その中に、かつて自分の師であった二匹のポケモン達の思いを感じ取りながら、エヤムは鞘に収めた小太刀の柄に手を置いたまま、静かに感情の波に身を任せていた。 やるせない、それでいてほっとしたような、安堵の気持ちが頬を濡らす中、彼は自分の心を抑えられないことに対し、やり場のない気持ちでこう思っていた。 
「(いつになっても、自分の心は、この壁だけは越えられないな・・・)」 と・・・


光が・・・ピリマはもちろん、ティルスにも感じることの出来るほど強い思いを放っていた光が洞窟の中に散っていった後、エヤムの手の中から、聞き慣れたレイドの声がぽつんと響いた。
 
レイド「終わったな・・・」 
エヤム「あぁ・・・」 
その声に答えたのが合図だったかのように、彼らの師は、こちらに向けて歩み寄ってきた。 と、突然表情を変え、うろたえたようにして、洞窟の床面を見渡し始めた。

ピリマ「それですか・・・?」
ピリマが目ざとく・・・と言っても、両者が闘っている間にはすでに気付いていたのだが・・・発見していたトレジャーバッグを指差すと、彼はほっとした表情でバッグを拾い、多少重い足取りでこちらにやってきた。 その時になってピリマは、彼がまだ、体中に傷を負ったままであることに気付いた。

慌てて駆け寄ろうとする二匹を制して、エヤムは急ぎ足に彼らに近づいた。 気遣わしげな二匹に対し、彼は柔らかく笑って見せる。
エヤム「心配するなって。 これぐらいじゃ死にゃあしないから。 どうせ帰る時は、こいつがあるんだしな」 
テレポートの結晶を前に出しつつ、彼は気楽な口調で告げた。 そして、表情を改め、口調も新たに彼らに礼を言った。
エヤム「ありがとう。 お前さんらのおかげで、無事に師匠を送ることが出来た。 本当なら、おれ達弟子共が自力で何とかしなけりゃならなかったんだが・・・ 知っての通り、ここには容易なことでは入れないんでな・・・」
が、礼を言うや否や、彼の口調はまた、いつもの調子に戻ってしまった。
エヤム「まぁ、でも感謝もしてもらえるぞ? こいつを持ってきてやったんだからな」
片手に持っている古びたトレジャーバッグを差し上げながら、彼はにやりと笑って見せた。
ティルス「何が入ってるんですか?」
ティルスの問いに、エヤムは答える。
エヤム「必需品だよ。 オレンの実にいやしの種・・・ピーピーマックスにふっかつの種、それに各種の玉なんかだな。 お前さんら、スパーキィ達に道具を全部渡しちまったんだろ? どうせそんなトコだろうと思って、不足してる中から何とか見繕ってきたのさ・・・ まぁ、でもあんまり多くは入ってないけどな・・・」

ずっと気になっていたことをエヤムが口にするに及んで、ピリマは慌てて尋ねた。
ピリマ「スパーキィとエイクさんは、どうなったか知りませんか?」
ピリマに続いて、声を合わせて尋ねるティルスの二人に対し、エヤムが答える。
エヤム「それは、こいつらに聞いてくれ。 お前さんたちが別れた後、もう随分経つからな・・・ そろそろ何らかの報告が入ってる頃だ」

エヤムが突き出したテレポートの結晶から、メタカムの声が聞こえてきた。
メタカム「残念ながら今のところは情報がない・・・ まぁ、大丈夫だろう・・・エイクがついているのだから・・・ それに道中の敵は、お前達が進んでいる内にあらかた倒してしまったはずだろう? まぁ、情報が入り次第そちらに伝えるから、今は心を安くして待て・・・そうだな・・・ついでに各地からの状況報告も入れておくぞ。 先ほどの定時連絡は、ごたごたのせいで流れてしまったからな・・・」

メタカムの声が途切れると、代わって聞き覚えのある声が、次々に耳に入ってきた。 最初に聞こえてきたのは、最早耳について離れないギルドのサブリーダー、パロの声だった。
パロ「こちらはゼロの島北部だ。 おい、お前達、大丈夫か? もう中に入って三日ほどたっているが・・・ そっちで怪我人が出たとかいううわさもあるし・・・」
稀にしか聞けない、それでいて気遣ってくれているのが痛いほどに分かる彼の心配そうな声に、ティルスがあえて平気を装って返答する。
ティルス「ありがとう。 こっちは大丈夫だよ。 危なかったけど何とかなったから・・・ みんなは? そっちは大丈夫なの?」
パロ「今のところはギルドのメンバーに異常はない。 ・・・だが、北部にも既に敵の攻撃が始まっている。 敵が東部に上陸して制圧してしまったのだ・・・ そろそろ、ギルドのメンバーも防衛に乗り出さねばならん雲行きになっている。 お前達、速いトコしっかりやるんだぞ」
異常がないと見るや、しっかり尻を叩かれたことに苦笑しながら、ティルスが答えた。
ティルス「がんばるよ。 パロも気をつけてね・・・」
パロ「ワタシは不死身だ♪ 心配するな」
これも聞き慣れた返答を最後に、次の声が代わった。

バーンズ「こちらは西部。 バーンズだ。 何とか無事なようだな、お前ら! マキシムの野郎が、オレが連結を見てやってんだ、心配すんな・・・とか抜かしてやがったが、ちっとは役に立ってるか?」
相変わらず荒々しい鍛冶屋の声を聞き、一緒に聞いているエヤムが相好を崩し始めた。 序盤の激しい戦いで役に立ったとはいえ、既に消耗しつくし、連結技は一つも残っていない。 が、そんなことはおくびにも出さず、ティルスが答える。
ティルス「うん、すごく心強いってマキシムさんに伝えてくれる? とても役に立ったって」
実際、もし技を一切連結していなかったら、自分達は最初の戦いでやられていただろう。 そんなことを考えながらピリマは、自分達の責任と、周りのみんなが支えてくれる心強さを、今更ながらに強くかみ締めていた。 そんな中、バーンズの豪快な声は、いつまでもウジウジと考え込みがちなピリマの気持ちを吹き飛ばすかのように、とうとうとエヤムの手のひらから流れ出していく。
バーンズ「西部は今現在、東部の撤退援護で手一杯だ・・・ まぁ、安心しろ。 俺達マイスターがいる限り、そうやすやすとここは落とさせはせんからよ。 じゃあな! 頑張れよ!!」 

続いて聞こえてきたのは、チーム「フレイム」のバクーダ、キープの声だ。
キープ「南部です。 貴方達、頑張ってるみたいね。 こっちは東部からの挟撃も受けてるけど・・・ 今のところは大したことにはなってないわ。 リーダー達の考えた縦深陣地が思った以上に効果を上げてて、こっちの被害は最小限に食い止められているし・・・ ・・・リーダーったら、ここに来てからは人が変わったように勇敢になってるの・・・ これも貴方達のおかげね。 私達も感謝してるわ。 気をつけてね!」

南部の状況も比較的安定しているらしかった。 が、続いて入ってきた情報は、かなり厳しいものだった。 声の主は、神秘の森に住んでいる、イーブイたちの内の一匹、リーフィアのコナムだ。
コナム「コナムです。 東部ですが・・・すみません、突破されてしまいました・・・ 突然大勢の敵ポケモンが大挙して上陸してきて・・・ 私達は踏みとどまれず、ぢりぢりになって他の地区に逃げ込まざるを得ませんでした・・・」
容易ならざる情報に、ピリマは思わず聞き返していた。
ピリマ「大丈夫ですか!? 他のみんなは・・・? ブイさんやシルフイさん達は?」
コナム「私達は大丈夫です・・・ ・・・と言うのも、私達が囲まれて危なかった時、ドクローズの皆さんが敵に向かっていって・・・大爆発で囲みを破ってくださったんです・・・ リーダーのスメルチさんが重体です・・・ 私達がもっとしっかりしていれば・・・」
ティルス「ドクローズが!?」
コナムの辛そうな言葉もほとんど耳に入らないほど、ティルスと同様、ピリマも驚きを隠せなかった。 と同時に、彼らが出発前に、自分達に別れの挨拶を送りに現れたことも思い出していた。 「お前らばかりにいい格好されてたんじゃぁなぁ・・・」 例によっての散々な嫌味と共に浴びせられたセリフに、これほどの決意が込められていようとは、正直、ピリマには全く予想がつかなかった。 隣で聞いていたティルスも、自分同様目頭が熱くなってきているらしいのを感じている内、唐突に今度は、つい最近まで聞かされていた声が飛び込んできた。

エイク「こちらはエイク・・・ こちらはエイク・・・ オレだ。 ピリマ、ティルス、聞こえてるか?」
かつて自分達が初めて捕まえたお尋ね者の声・・・変わっていると言えば、これほど数奇な運命で結ばれた仲もないであろう、と思われるポケモンの声は、二人の意識を、一瞬で現実に引き戻した。 
ティルス「エイク? エイク!! 無事だったんだね!」
嬉しそうに叫ぶティルスに対し、声の主のスリープは、多少当惑気味の声音で答えた。
エイク「そう怒鳴るなって・・・ また不眠がひどくなっちまうよ。 ・・・フフフ、無事に決まっているだろ? 約束したんだからな・・・無事に守り抜いてみせるって・・・ これでようやく貸し借り無しだな」
ティルス「じゃあ、スパーキィも?」
エイク「ああ、無事だ。 今、迎えにきてくれたフロンティアの連中が見てくれてる。 間違っても命に別状はないから安心しろ。 ・・・さて・・・これでオレのパートは終了だな。 後は、お前達の約束が残っているだけだ・・・」

エイクの声を聞きつつ、ピリマは決意を新たにしていた。 そうだ、後は自分達次第なのだ・・・ この先に待ち受けているものがどのようなものであれ、それは自分にしかどうすることも出来ないものなのだから。 もう一人の自分・・・二つに分かれた、己の魂の片割れ・・・ それに自分がたどり着いたとき、一体そこで何が起こるのか・・・ 恐れる気持ちがないとは、口が裂けてもいえたものではないが、これだけはハッキリしていた。 自分を今まで支えてくれた多くのポケモン達・・・突然現れた、記憶もない自分を受け入れてくれた身近なもの達から、見ず知らずの自分を助けてくれた遠くの仲間達・・・ そして、己の全てを捧げてまでこの世界を救おうとした未来のポケモン達まで・・・ 余りにも多くのものを背負っている重圧に、幾度となく潰されそうになってきた。 しかし、いつだって自分は潰されずにやってこれたのだ。 ティルスを始め、多くの・・・多すぎるほどの仲間たちに支えられて・・・ そして、今までは気付かなかった力・・・感じていたにもかかわらず、その真意を理解することが出来なかった助力をも・・・師によってさとされもした。 これだけのものを受けていながら、自分を疑うなどという事が、できるはずもなかった。 それは、これまで支えてきてくれた、全てのものに対する不信と、全く同義語なのだから・・・

エヤム「とりあえず、まぁ、そういうことだ」 
出発の為の準備が全て整った後、エヤムはそう言った。 
エヤム「できればこのまま、お前さん達の手助けがしたいんだが・・・」
何かを期待するように、彼が沈黙する。 が、少しすると、レイドの不機嫌そうな声が、彼に容赦なく発破をかけた。
レイド「生憎だが、貴殿にはすぐにでも帰ってきてもらわないと困る。 敵は既に東部を完全に掌握し、西部も席巻されつつある。 大火力の技を豊富に持つ貴殿には、即刻働いてもらわねばならない。 もう既に、スキッパーは西部正面の自分のチームに合流してしまったぞ。 貴殿も速く帰れ」
エヤム「オイオイ、怪我人だぞ、オレは・・・ ・・・まぁいいか。 ひたすら痛めつけられてばっかりというのもナンだし、ここは一つ、久しぶりに派手に暴れさせてもらうとしようか・・・」 
レイド「・・・貴殿、師匠が亡くなられたばかりなのだから、少しは神妙な態度が取れんのか?」
エヤム「まぁ、そう言われると辛いんだが・・・ 肩の荷が下りた・・・と言うのも偽らざる心境なんでな・・・」
一通りやり取りが終わった後、師は、テレポートの体勢に入った。 メタカムの声に答えた後、彼は二人の顔を交互に見、誇らしそうに微笑む。 そして何も言わずに、来たときと同様、唐突に彼は光の塊となり、二人の視界から消えた。

師を見送った後、それほど時間を空けずに、ティルスもピリマに声を掛けた。
ティルス「僕たちも行こうか」

ピリマはティルスの方を向き、無言で、しかし、力強くうなずくと、いつも通り、先にたって歩き始めた。 ソウカクがたたずんでいたその後ろ・・・明らかにここまで進んで来た世界とは異質の、暗い闇に向かって・・・
   
    
   
   
    かつやくのあと

     エヤムが、師匠であるソウカクの魂を解放した!              ▼

―――――

【恥ずかしいにも程があるのよ】

PS.
【微妙に宣伝臭いことにも気がついたのよ(爆)】


  [No.942] 何だか浮いている6本目行きます 投稿者:久方小風夜   《URL》   投稿日:2010/11/08(Mon) 22:38:12   109clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:誰か】 【いっそ】 【殺せ】 【orz

●流れ

初めてポケモンの小説(のような物)を書く(多分小3くらい)

GBA買えなくて一時期ポケモンから離れる

GBA買ってポケモン熱再燃(中2の後半かそこらだったと思う)
ルビサファを舞台とした小説書く

サイト開く(2004年12月30日)
長編とその付属の短編ばかり書いていた

この辺りで数本短編を書く(高校生)←←←☆

長編を書きなおしてみる(受験終わってから大学2年くらいまでの間)
ついでに短編の構想をいろいろと考えてみる

ちゃんと真面目に短編を書いてみる
マサポケ初投稿(大学1年4月)

現在


以上の流れで、どこを処女作とするか……と思ったんですが、昔書いた小説なんて全然覚えてないし、長編は個人的な意向でサイト外ではあまり出したくないし。
ってなわけで、現存している中で一番昔の、上で☆マークがついてる時に書いた奴を。
その後ちょこっと改訂しましたが、……改訂奴の前を持ってきました。

ただひとつ言えるのは、何だかんだ言って自分全然成長してねぇなってことですね! 残念!


というか、昔の作品であるってこととはまた違う恥ずかしさなんだよな畜生。



【厳密には処女作じゃないのよ】
【長編はサイトに行けば読めるのよ】
【リア充爆発しろ】





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





 気付かないほうが、幸せだったかもしれないのに。
 知らなければ、苦しまずに済んだのに。
 抱いてはいけない、想いだったのに。

 遠い遠い昔の、物語。




FOLKLORE
―Myth of Ocean and Ground―




 今から、何万年も昔のこと。
 陸と海を、それぞれ司る者がいた。
 大地の化身、グラードン。
 大海の化身、カイオーガ。

 海と陸は、常に繋がっていながら、決して混ざり合うことはない。
 片や大地。片や海。互いに相反する者同士だから。

 グラードンとカイオーガは、出会ったその時から、互いを憎みあい、争いを始めた。
 その実に流れる血が求める、本能という名の宿命だった。


 争いは、何百年、何千年と続いた。
 『殺せ!』と命じる互いの本能と、そして。

 出会った時に生まれた、わけのわからぬ感情を整理するために。


 そのわけのわからぬ想いの正体がわからず、グラードンとカイオーガはますます荒れた。


 相手が憎く。殺したいほど憎く。

 それなのに……強く、抱き締めたい。

 争うのが、辛くて。
 会えるのが、嬉しくて。
 でも、争うことはやめられなくて。
 顔をあわせれば、憎くてしょうがなくて。


 長い長い時の中で、2匹はようやく、その気持ちの正体を知った。


 ……ああ、そうか。
 これは……『恋』なんだ。


 天を司る者がいる。
 天空の神、レックウザ。

 グラードンとカイオーガは彼にそれぞれ、涙ながらに、自らの心の内を語った。


「辛いんだ。レックウザ。」

「辛いんです。レックウザ。」

「初めて会った時から、憎い憎いと思いながらも……ひどく艶やかで、美しいと思ってしまった。今もそれは消えるどころか、ますます強くなるばかりだ。」

「真夏の太陽に、やられてしまった時に似てるんです。鋭く強いあの瞳が、ずっと頭から離れないんです。憎い相手のはずなのに、時々無性にすがりつきたくなるんです。」

「抱いちゃいけない想いだとはわかってる。」

「叶わぬ想いとは、わかってるんです。」


 それでも……愛しい。


「顔をあわせる度、本能が叫ぶんだ。『殺せ!殺せ!!』って。でも……俺にはどうしてもそれが出来ない。」

「彼を殺すことなんて出来ません。でも、本能には逆らえない。ずっと、苦しいんです。葛藤が、治まらない。」

「愛しいのに、本能が邪魔をする。」

「傷つけても、つけなくても、苦しくてたまらない。」


 だから……レックウザ……。


「争いを終わらせることは……出来ないのか?」

「もうこれ以上……苦しみたくないんです。」


 レックウザは初めて、2匹の心の内を知った。
 互いに愛し合っていること。
 まだ、互いの想いを知らないこと。
 そして、争いを終わらせたいと願っていること。

 レックウザは、2匹それぞれに、全く同じ答えを告げた。


「……無理だ。」


 陸と海は、決して混ざり合わない。
 互いを消しあい、互いを削りあい。
 どちらかが増えればどちらかが減り、どちらかが減ればどちらかが増える。
 互いの争いは、この世の定め。
 この世が出来た時、既に決められていたこと。
 どちらかが無くなるまで、争いが終わることはない。


 争いは、なおも続いた。
 自らの想いを心の底へ押し込め、相手の想いに、互いが気付くこともないまま。

 一進一退の争いは、どちらが勝るということもなく、ただ互いの体力を削りあうだけだった。
 大地は荒れ、海は啼き、世界は燃え盛る炎と吹き荒れる嵐に包まれた。


 レックウザは悲しかった。
 想いあう者同士が争うことが。
 己が、何も出来ないことが。

 宿命を、恨んだ。


 レックウザは悲しんで、両の目から、涙を一粒ずつこぼした。
 地上に落ちたその涙は、紅色と藍色の、光り輝く2つの宝珠になった。
 その宝珠の放つ光は、傷付き疲れたグラードンとカイオーガを、労わるように包み込み。


 2つの神は、眠りについた。


 グラードンは地の奥深くで。
 カイオーガは深海の奥底で。

 もう二度と、目覚めることのないことを、
 もう、憎みあわずに済むことを、
 長い長い夢の中で、相手を抱き締めていられることを、
 祈りながら。


 ―――……あれから、どれほどの月日が流れただろう。
 レックウザはずっと、心にわだかまっていることがあった。


 今の状態も、一時しのぎに他ならない。
 いつ解けるかわからない封印。
 次目覚めたら、彼らはまた戦いを始めるだろう。
 また、同じように苦しむことになる。


「……なるほど。確かに、ね。」

 レックウザと話しているのは、桃色の、小さなポケモン。名前は、ミュウ。
 ミュウは小さな手で、自らの長いしっぽを弄びながら、レックウザに言った。

「……でも、僕は……海と陸が戦わなきゃならないとは思わないけど。」

 驚くレックウザに、ミュウは語った。


 豪雨が続けば大地は削られ、海は増えるけれど、削られた大地は波に運ばれ、海の底に降り積もり、再び大地となる。
 日照りが続けば海は干上がり、大地は増えるけれど、蒸発した海は雲となり、雨となって降り注ぎ、再び海となる。
 海と大地は、争っているんじゃない。
 互いに削りあい、互いに消しあいながら、バランスを取り合い、常に、共存している。


「争いは、確かに宿命かもしれない。だけど僕は、きっと他に道があると思う。」
「だが……俺たちは、宿命を変えられない。」

 うなだれたレックウザに、ミュウはクスッと笑って言った。

「ねえ、君はめったに地上に下りないから、知らないかもしれないけど。地上には、人間っていうとっても面白い生き物がいてね……。」



   ―――その昔。
   陸と海は互いに憎みあっていた。

   宿命に逆らえず、しかし、互いに想いあいながら。

   天は悲しんだ。
   宿命を、そして、何も出来ない己を、恨んだ。

   海は叫び、陸は吼え、天は泣いた。

   そして、最後の争いから、長い年月が流れたのだった―――



 遠い未来
 語られることになるだろう、こんな『民話<Folklore>』には
 彼らのことは何と書かれるのだろう。

 この先、ずっと未来
 幸せであって欲しい、と
 ただ、願う




―――再び目覚めたグラードンとカイオーガが、ある人間の子供によって救われることになるのは、もう少し、後の話だ。






The end


  [No.944] 7番手。砂糖水、逝っきまーす! 投稿者:砂糖水   投稿日:2010/11/09(Tue) 00:04:05   55clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

処女作、という言葉の定義に悩みました。
というのも、初めて書いたポケモン小説は誰にも見せることなくお蔵入りしたので…。
ちなみに長編(中編?)で完結済み。人生で唯一完結させた長編です。
とりあえず、データになっている初投稿作を晒すことにします。

以下、軽くデータ。

それまでのストーリー創作歴:
中学時代にオリジナルの長編を書こうとして挫折。
高校に入ってからは短編をちらほら。

ちなみにポケモン小説の存在自体は中学から知っていましたが、書こうと思ったのは高校入ってから。
『ウバメの森の図書館』様を発見してから書きたいと思うようになりました。
でも間もなく受験生になったので、投稿は先送り。
あと投稿できそうなものもなかったし。
とか言いつつ、お蔵入り作はこの頃に書いてました(笑)

書いた時期:大学1年初夏? うろ覚え…

執筆の背景:
大学に入ったし、何か書こう! と思い立って2週間くらいで仕上げたもの。
最初に考えたネタが頓挫(継続中)し、何かないかなと思いつきで書いた。
ノーパソの前でうんうん唸りながら下書きなしでぽちぽち打ってました。
なお、この時のあまりの書きづらさにこれ以後は紙に下書きするようになった。


まあ、大体こんな感じです。
ということで本文逝きます。
ちなみに文の最後に「。」がないのは仕様。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



気づくと、君の声が聞こえた
ぼくの名を呼ぶ声
ねえ、ぼくはさっきまで夢を、見ていたんだ
とても、幸せな夢だよ
君とぼくが出会った時の夢
ねえ、覚えてる?あの時のこと


名前を呼んで


ぼくが君と出会う前、ぼくは人間が大嫌いだった
いまでもあんまり好きじゃない
君にそんなこと言ったらなんて顔、するのかな?
悲しそうな顔?
だろうなぁ、きっと
君は優しいから
でも、ぼくと君は話せない
君は人間で、ぼくはポケモンのグラエナ
もし話すことができたらどんなにいいだろうね?
そうしたらぼくは君にありがとうって言えるのに
君は特別なんだ。だって君は
大丈夫って言ってくれたから
手を差し伸べてくれたから
抱きしめてくれたから
だから

冷たい都会の路地の隅っこで
ぼくは一匹のポチエナとして生まれた
親なんて記憶の片隅にしか存在しない
覚えているのはぼくを護ろうとしている汚れた背中
泥やいろんなものがこびりついて
何色なのか表現できない、その背中
兄弟もいたはずなのにぼくは気づいたら一人ぼっち
ぼくはたった一匹であそこにいたんだ

あの頃ぼくは人間に傷つけられてばかりいた
ぼくは動くものにすぐ噛み付いてしまうから
それがたとえ人間であっても
だからよく人間に敵視されてはいた
でもそれがだんだんエスカレートしていった
ぼくは無闇に噛み付かないようになっていったのに
人間はぼくを攻撃するようになった
ぼくが何もしなくてもぼくを見つけると
ぼくを攻撃するんだ
足で蹴られたり踏まれたり棒で叩かれたり
ポケモンをけしかけられることもあった
笑いながら、楽しそうに
ぼくはいつも傷だらけだった
最初は抵抗していたんだ
でも、諦めたんだ
反抗してももっと傷つくだけ
逃げてもまた捕まって余計痛い思いをするだけ
だからやがてぼくはされるがままになって
泣きもせず、逃げることもせず、ただなすがまま
でもね、本当は
痛かった、苦しかった、つらかった
心はずっと悲鳴を上げていたんだ
助けてってずっとずっと叫んでいたんだ
あの時、そうあの時、君が現れるまでずっと

あの頃はもう、人間なんて信じていなかった
人間なんて皆同じ。ぼくを傷つけるもの
そう思っていたんだ
だから君に攻撃したんだ
せっかく手を差し伸べてくれたのに
優しさなんて信じられなかったんだ
本当はずっと救いを求めていたくせに
誰よりも心から
なのにぼくはその手に噛み付いてしまった
あの時君は「大丈夫?」って声をかけてくれたのに

ぼくはその時薄汚れた路地で怪我をして動けなくなっていた
通り過ぎる人間はぼくに気づかないか
薄汚いものを見るように目を背けるだけで
誰一人、ぼくを気にかけてくれやしなかった
君の声は優しい声だったけど、ぼくは攻撃されるって思ったんだ
すごく怖かった
君は絶対そんなことしないのにね
体が弱ってて力なんてほとんど入ってなかったけど
ぼくは君の手に噛み付いた
君は驚いて手を引っ込めた
ぼくは君がいなくなると思った
もうぼくに近づかないと思った
もしかしたら本当に心配していてくれたのかもしれない
そう後悔したけど、でも人間は敵だからこれでいいんだって
自分に言い聞かせて、それで終わりだって思った
だけど君は「大丈夫だよ」って言いながら手を伸ばした
ぼくはもう一度噛み付こうとしたけど、できなかった
だってぼくは動けなかったから
その手に縋りたいと願ったから
でも、一度拒んだものを受け入れるのは難しい
君にすべてを預けることも、逃げることもできずに
素直になればいいのに、ぼくは動けなかった
君はぼくのそんな気持ちを見抜いていたの?
差し伸べられた手を取りたいと望みながら
その手を取れない臆病なぼく
それら全部を掬い上げるように君はぼくを抱きしめてくれた
君の腕の中は痛いくらいに暖かで、ぼくは泣いた
嬉しくて悲しくてぼくは泣いた
「つらかったんだね、苦しかったんだね
分かるよ、わたしもそうだったから
痛いよね、悲しいよね
でも、もう大丈夫。わたしがいるから
だからもう」
そう言っている君は悲しそうで
今にも泣きそうで
「泣かないで」
そう言っている君のほうこそ泣きそうなのに

君は優しいから、いっぱいつらい思いをしたんだね
君がぼくの心を救ってくれたように護ってくれたように
今度はぼくが君を護る、そう誓ったんだ
君がぼくに名前をつけてくれた時に


黒い刃、黒牙(くろは)


それがぼくの名前
ぼくがどんなに嬉しかったか言葉に表せないくらい
本当に嬉しかった
誰もぼくをぼくとして認めてくれなかった
誰一人、ぼくを生きていて心があるって認めてくれなかった
でも君はぼくをぼくとして認めてくれた
ぼくを生きている、心があるって認めてくれた
その証に名前をつけてくれた
名前を呼ばれる度に嬉しいんだ
それだけなのに幸せなんだ
ずっとずっとつらかったけど君に逢えて本当に幸せだよ

ああ、君の声が近づいてきた
何度も何度もぼくの名を呼んでいる
でもぼくは聞こえない振りをする
しばらくして君はぼくを見つけた
「どこいってたの?心配したでしょ」
ぼくは今起きたと言う風に目を開けた
口では怒っているように言ってるけど
本当は安心したように笑っている君が見える
「行こう?」
君がぼくの頭をなでる
ぼくはあの頃と違って大きくなったし
毛並みもずっと良くなって君に褒めてもらえるくらいになった
でも君はあの頃と変わらないままの笑顔でぼくの名前を呼ぶ
「黒牙」


君を護るよ
あの時の誓いは変わらないまま
でもたった一つだけ願いを言わせて
それだけでいい、それだけで幸せだから
だから、

名前を呼んで




−−−−−−−−−−−−−−−−−


これは酷い厨二。
特に名前。それに読みづらい。

内容は進歩してないし。いまだに似たようなの書いてるっていうね。

ちなみにこの後トレーナー視点と、ちらりとも出てこないもう一匹の仲間の話を書きました。
いつかリメイクしてここに投稿予定。



それから冒頭書いたお蔵入り長編はミュウツーの話。
もし読みたいっていう奇特な人がいたら晒そうかな…。
もう絶対書かないんで。




【みんな晒せばいいと思うのよ】



最後に一言。
クーウィさん処女作なのにレベル高すぎ。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



(以下12月12日追記分)


げに恐ろしきは夜中のテンション……。
勢いで晒すって書いたはいいものの、改めて読み返してその黒歴史っぷりにへこみました。
すごい勢いで後悔したものの、まさか誰も読みたいだなんて言うと思っていなかったから半分安心してたんですが……。
まさかまさかのご要望をいただいちゃいました。
なんというかこのスレも埋もれかかっているんですが、晒します。



高三のころに書きました。第一志望? 落ちましたが何か。




なお、この話はミュウツーの逆襲に追加エピソードがあったことも、続編があったことも知らずに書きました。
そのあたりを頭に入れてお読みください。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 自己と他者、夢と現の区別もつかないまま一体どれだけの時が過ぎていったのだろう? 私と仲間たちはただそこにあるだけだった。
 やがて一人、また一人と仲間は脱落していった。力の大きさに耐え切れずにしんでいくもの、自らの体が崩壊していくもの、失敗作とみなされて消されるものと様々だった。
 見たわけではない。感じたのだ。

 私が初めて見たものは人の顔。顔はどれも緑がかっていて歪んでいた。私が『水槽』の中にいたせいだ。緑色の液体とともに私はいた。
 私はまた、周囲の音を聞き言葉を覚えていった。

「ミュウ」「実験」「成功」「失敗作」「できそこない」

 そんな言葉がよく交わされていた。誰に教えられるわけでもなく私は言葉の意味を理解していった。
 やがて私は何のために作られたのかを知った。そのころには仲間の数はかなり少なくなっており、そして私ほど明瞭な意志をもつものはいなかった。
 だが、おそらく人間たちは私のような存在を予想していなかったに違いない。奴らが欲しかったのは従順な人形だったからだ。


 私は一体何のために生まれてきたのだ。


 軍事目的。兵器として私は生まれた。それは分かっていた。だが私は、私は違うと言いたかった。


 絶対に違う! 私はそんなことのために生まれたんじゃない。
 私は、私は……。


 どんなに否定しても事実は変わらないのに私は違うと思い続けた。我々に植え付けられた殺意は微睡みと共に私の中にもあったというのに。
 だがしかし、仲間たちは私のように思い悩むことはなかった。彼らは人間の操り人形でしかなかった。



 人の声が聞こえた。

「『ミュウ・チャイルド』ちゃん達〜。もうすぐ、お目覚めですよ〜」

 こういう声をなんというか私は知っている。別の人間が言っていたから。『甘ったるい猫なで声』だ。
 こういう声を聞くだけで気分が悪くなってくる。『イライラする』とでも言うのだろうか?

「ねぇ」

 我々ではなく、他の人間に話しかけたようだ。

「『ミュウ・チャイルド』って長くない? 呼びかけづらいんだけど〜」

「ああ、それならもう決定しているぞ」

 一体、どんな名前だというのだろう? 生物兵器に着ける名前というのは。

「ミュウツー、だ」
「『何それ〜。ずいぶん安直じゃあない?」

 『ミュウツー』、第二のミュウ。

「物事というのは得てして、単純なものの方がいい。それに分かりやすいだろう?」

 相手を馬鹿にするような言い方だ。きっと心の中ではもっと馬鹿にしているに違いない。ここの人間は皆そうだ。

「それに私が決めたのではないのだから、私に言っても無駄だ」

 先ほどの馬鹿にした言い方は『ぷらいど』を傷つけられたからのようだった。
 その後、人間達は別の場所に行ってしまい、話は聞けなかった。


 我々は第二のミュウ。


 そう、我々はミュウの遺伝子を基に造られた。そして同時に人間の遺伝子をも組み込まれた。
 人間のこういった話は嫌でも耳に入ってきた。だから私は知っていた。
 我々は第二のミュウだ。扱いやすく、戦闘能力を強化されたミュウミュウの代わりであり、生物兵器だ。
 毎日考えてきた、だがしかし、考えたくないことを突き付けられた。

 私は一体どうすればいいのだろう?

 悩んでいる暇はあまりないようだった。間もなく我々は目覚めさせられる。その前に行動を起こさなければならない。
 そして、その時。私の中で微睡んでいた獣が目覚めた。



 殺せ……、殺すんだ……。全て壊してしまえ……。



 私は、その獣の言うままに行動した。








 気付くと辺りは炎に包まれ、血と何かが焦げるような臭いがした。生きているものはなく、ただ火のはぜる音がした。
 私がやったのだ。この目の前の惨状は。



  ――残酷表現につきカット――


 施設内のすべての生き物と機械を破壊した後、私は我に返った。しばらく呆然としていたが、徐々に自分のやったことを理解した。
 私は自分のやったことに恐怖を感じ、逃げ出した。




 燃えさかるそこを抜け出し私はただ当てもなく彷徨った。
 何も考えたくなかった。己のした行為に、自らの力に怯えていた。だが私が最も怯えたのは自分自身だった。
 自分の中に潜む獣に身を任せ、すべてを破壊する時、私は楽しんではいなかっただろうか? 命を奪うことに喜びを感じてはいなかっただろうか?
 私はこんな、命を奪うような生物兵器として生まれてきたのだ。そのことを突き付けられ、私はただ自分自身に怯えた。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



その後
疲れ果てたミュウツーは洞窟で眠りに就く。長い長い眠りから覚めたミュウツーは声なき声に導かれ山奥のとある施設にたどり着く。
そこにいたのはミュウツー同様に遺伝子をいじられ生み出された生き物たち。
実はミュウツーが破壊した研究施設に残ったわずかな資料から生み出された存在だった。
そのことに責任を感じるミュウツー。
彼らはミュウツーにその施設の破壊を頼む。そして同時に人間にしか見えない、けれどミュウツー同様に生み出された少女を連れ出してほしいと頼んだ。
迷うミュウツー。けれどこれ以上の悲劇を生みださないために施設の破壊を決意する。

で、まあ最終的にはどこぞに隠れ住む。みたいな内容でした。


少女の役どころが正直自分にも分らない。女の子出したかっただけです。
ただ、アイツーは無関係です。



精根尽き果てました。
クーウィさんに捧げます。


  [No.945] 皆さんに続いてみた。 投稿者:スズメ   投稿日:2010/11/09(Tue) 01:59:25   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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 処女作といえば・・・・この、ポケストで書かせていただいたものです。
 書いたのは、今年だったりします。
 一年遅れの厨二病・・・・・。いつになったら直るのか・・・
 
 ちなみに、処女作であるこの短編、何度見直しても何がしたかったのか分からないという大物でございます。
 あまりのはずかしさに削除したものだったり。
 とりあえず、すべてが厨二。おまけに読みづらさMAX。



特にやることも無いので取り合えず、目の前で繰り広げられる戦いを眺めた。

 特に珍しいことじゃない。 この二人が喧嘩まがいのバトルをするのは。

 喧嘩まがいというよりソヨカが一方的に吹っかけてるんだけど・・・。

 アブソル(イザヨイという)に向かってキレイハナ・・・(なーちゃんというらしい)
 
 が勇猛果敢に突進していく。

 まあ、なんというか、無謀だなって感じの風景だ。

 対格差的にもそうだし、近づけば近づくほど頭についている鎌の餌食になりやすいのだ。

 とりあえず、早く終わんないかな〜と空を見上げた。

 ・・・・ソヨカいわくメジロの為なんだよっ!! らしいが、俺から見るとなんというか。

 「いらないお世話・・・なんだよな・・・」

 芝生にむかって背中から倒れこんだ。と、同時に肩に乗ってたルットが飛び立ち、腹の上へと

 移動した。ちなみにルットとは俺のチルットのことだ。 

 チラッと見た限り、ソラメはいつもの迷惑そうな顔。

 対するソヨカは、見なくても分かる。

 だって・・・さ。

 「っていうかあんたって何なのよ!! なんか言うといっつも・・なーちゃん!しびれごな」

 ソラメへの罵倒が聞こえてるし。にしても器用だよね、罵倒と文句を同時にするなんて。

 なんか知らないんだけど、ソラメは目の敵にされてるんだよな。

 ソラメも言い返せばいいのに・・あ、一応言ってるか。

 「知らんな」 って。
 
 ソラメももう少し友好的だったら友達も増えるしいらない反感も買わないだろうになー。

 と・も・か・く

 「あーあーもうさっさと終われー!!」

 頭を抱えてルットも巻き込み丸まってみた。

 「その元凶がなにをいってるんですか。」

 そんなことを言いながら、コウ がサイコソーダをもって現れた。

 そういえばこいつ、ジュース買いに行ってたんだっけ。

 「元凶って何だよ、・・・俺も一口」

 見てみると、コウは、ぽっぽを頭の上からどけて、ぼさぼさになった黒い髪を直しているところだった。

 なおし終わったや否や、かばんから入れ物を取り出し、サイダーを注いでポッポに差し出す。

 ・・・お前それ、いつも持ち歩いてるのか?!

 「なにいってるんですか。 このソーダは、ぽっぽとケーシィにあげるぶんです。」

 ケーシィの分を注ぎながら、当たり前だとでも言うように答えた。

 「自分の分はどうしたんだ。」

 そう聞くと、待ってましたとばかりにかばんから2本のサイコソーダを取り出した。

 ・・・2本?

 「ここにありますよ、メジロもどうぞ。 160円になりまーす。」

 「サンキュ・・・って金取るのかよ! 」

 「あたりまえじゃないですか。 よければ宅配サービスってことで20円上乗せしますか? 」

 「やめてくれ・・払うから。」

 仕方が無いのでしぶしぶコウに160円渡す。

 あったときからだが、コウってよく分かんないんだよな。

 いきなり学校に編入してきたし、先生いわく他の世界に住んでたとかトリップしたとか。

 ポケモンもって無かったくせにやけに詳しいし。(最近何匹か捕まえたらしいが。)

 ソーダの栓を開け、のどに流し込んだ。

 冷たさと一緒にシュワシュワッとした爽快感を感じる。

 それにしても・・・とコウがぼそぼそ話し始めた。

 「本当に、目の前の戦いを見てるとソーダの冷たさが吹き飛んでしまいますね。」

 「そりゃあな・・わざわざこんな暑い日に日本晴れなんかしなくてもいいのにな」

 局地的に猛暑となったバトル場からは、もうもうと湯気のようなものが立ち上っている。

 とうぜん暑いわけで、そうするよう命令したソヨカは汗だくだく。

 対するソラメは、なぜか変わらず普通に立っている。

 あ、なーちゃんのソーラービームだ。

 イザヨイはかわしたっぽい。 あ、あられだ。 イザヨイかな?

 「なんで、アブソルがあられなんか使うんですか?」

 まわりの気温は一気に下がり、肌寒いくらいだ。

 「ああ、δ(デルタ)種だからな。」

 「ポケモンカードでしたっけ? ホロンの何やらってやつですか。」

 なるほどとうなずくコウ。 ・・・・って?!

 「お前、知ってるのか?! ・・・というかなんだ。 ポケモン何たらとは」

 「もといた世界の遊びですよ。 ただのカードです。」

  なんてことはなさそうに、コウは答えた。

 「どういうことだ? ・・・とにかく、何で知ってる?」

 「だから、ポケモンカードです。 そんなに知ってるの、珍しいんですか?」

 「もちろんっていうか・・・知ってる人なんて研究者ぐらいだろ。 正式には発表されてないんだから。」

 「へー、初めて知りました〜・・・イザヨイって何タイプですか?」

 だから、ポケモンカードって何だよという質問を無理やり飲み込む。

 また、異世界だか、ゲームだか言われるだけだろうし・・・よく分からん。

 「ああ、たしか氷とゴーストだったはずだけど。」

 見た目普通のアブソルだからなー、 変な研究者が追っかけてきたりとかして
 
 すごい事件に巻き込まれたのも・・・いい思い出だな。(良くない)

 「やっぱり、あくタイプは持ってないんですか。 あ、決着がついたみたいですよ。」

 バトル場を見ると、確かに試合は終わってた。

 何の感慨も無くたっているソラメに対し、ソヨカはツインテールを揺らしながら

 ワーワーギャーギャー負け惜しみを言っている。

 「結果は何時も通りみたいですよ。」

 「ま、そう簡単には変わらないだろうな。」

 ソラメを迎えにバトル場へと降りていく。

 それを見たソヨカは、ひときわ大きい声で叫んだ。

 「覚えてなさい! メジロはあんたなんか怪しい奴にはわたさないんだから! 」・・・と。

 言い終わったと同時にくるっと背を向け、走り去っていく。

 いつもの通り、小さくなって行く背中を見ると毎回思う。

 「渡すとかなんとか・・幼なじみじゃあるまいし。 むしろ幼なじみはソラメなんだけど。
  ましてやソラメは男なんだし、恋敵にはなりえないんだけどなあ。」

 「何ででしょうね。」

 「どちらにしても、迷惑するのは俺だ。」

 「そうなんだよな・・・なんでソラメなんだ?」

 「勘違いじゃないですか?」
 
 コウがそう言うものの・・・

 「それは無いだろ。」

 「あの時のですよ。 ちょうど3ヶ月ぐらい前の」

 3ヶ月・・・? もしかもして・・

 「あれを本気にするか? 直後に冗談だと言った筈なんだけど。」

 「思いつくのはそれぐらいですし。」

 うわ・・・本気で頭を抱え込みたくなった。

 「どちらにしても」

 今まで黙ってたソラメが口を開いて、

 「迷惑するのは俺なんだか。」

 そう、迷惑極まりなさそうにつぶやいた。

 いいかげんに、ソヨカにわけを聞かないとな。
 



 【批評は受け付けれないのよ・・・】

 ここで一言。
 みなさん、レベルが高すぎです。

 


  [No.946] わたし、9人目だと思うから・・・(?) 投稿者:サトチ   投稿日:2010/11/09(Tue) 19:45:53   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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高校時代のリレー小説とかはン十年の昔だし、HPに乗っけた文章は妄想はいりまくりと化したプレイ日記が先なんだけど、
そのへんはぜ〜んぶ置いといて、とりあえずHPに小説としてのっけた最初の作品を出してみます。
まあ、処女作とはいえないとしても10年前の作品(2001年アップ)なので勘弁してくださいな。

とりあえずポケスペ4〜7巻準拠の話です。


********************************************************

「お気に入りの場所」


 そこは、少年のお気に入りの場所だった。

 その泉は、トキワの森にほんの少し入ったところにあった。町からほど近いところだったが、少しくぼ地になっていたことと、ちょうど生い茂った木立に隠されていたために、ほとんど人の目にふれることはなかった。ふとしたことからその泉を見つけた彼は、そこを自分の秘密の場所と決めたのだった。

 その小さな泉には、一年中、透きとおった水がこんこんと底の砂を揺らしながら湧き出していた。 昔は水源として使われたこともあったらしく、壊れかけた水口の石組みが残っていたが、それも今はすっかり草木に覆われていた。

 春には、水晶のような泡をつけた緑色の水草が、白い小さな花を咲かせ、夏には、ガラスと宝石でできたヘアピンのような糸蜻蛉(いととんぼ)たちが、深い緑の葉陰を映す水面を踊るようにつつきながら、波紋を描き出していた。

 泉の岸に釣り糸をたれながら、静かに腰を下ろして、どこまでも続く緑の木陰と、かすかな小鳥の声と、こずえに吹くそよ風が葉をそよがせる音に包まれていると、彼はいつも、自分が森の一部になったように感じるのだった。

 釣り糸をたれる、といっても、特になにかを釣り上げようというわけではなかった。そこには少年の友達が住んでいたのだ。

 糸の先についたボールを、ぽんと水面に投げると、その波を感じて、水の底からゆったりと大きなコイキングが浮かび上がってきた。彼が1かけのパンを投げると、コイキングはかっぷりと飲み込み、そのまま悠然と泳ぎつづけた。

 ほんの1かけ、コイキングにとっては1口にも足りない量だが、たくさんの餌をほうりこめば、水は濁ってしまうだろうし、コイキングは餌がほしくてやってきているわけではない。彼もそれは知っている。 いわば、それは、敬意を表するための儀式のようなものだった。

 この泉にはもう1ぴき、小さなミニリュウが棲んでいた。 近くの道を他人が通る気配がすると、敏感に気づいて泉の中に逃げ込んでしまうのだったが、彼がいつもの場所に腰をおろしてしばらくすると、どこからともなく現れて、なめらかな身体をすりつけるのだった。

 彼は、時間のあるときにはここに来て、ポケモンたちと楽しいひとときを過ごすのを常としていた。いつも一緒にいたいとは思ってはいたが、年のわりには大人びているとはいえ、彼はまだ、ポケモンを堂々と連れて歩ける年齢にはもう少々あったから、うっかり外に連れ出して、他人にゲットされる危険はおかしたくはなかったのだ。

 ある日のことだった。 いつものように泉のほとりに腰を下ろしてポケモンたちが来るのを待っていると、ふと、草ずれの音とともに、視界の端になにか黄色いものが動いた。

「あいつかな?」

 彼には心あたりがあった。 何日か前に、うっかり置き忘れた昼食の残りに味をしめたらしく、1匹のピカチュウが、ここしばらく、まわりをうろちょろしていたのだ。

 餌付けするのは簡単だっただろうが、彼はピカチュウをゲットするつもりはなかったし、もし人間の食べ物に味をしめてしまえば、好奇心の強いピカチュウのことだ。 森を出て、人間の住処を荒らして餌をあさるようになりかねない。 そして、そんなことになってしまえば、ひどい目にあうのは、そのポケモン自身なのだ。

 彼は、数年前に食料を荒らして捕らえられた、年老いたラッタのことを思い出した。誰か、ちゃんとしたトレーナーがひきとるというなら、助けられたかもしれなかったが、彼はまだその時は幼く、・・・結局、そのラッタがどうなったかは、どの大人も教えてくれなかった。

 まあ、それに何より、お昼ごはんが減るのはありがたくない。 ここは1つ、脅かしてやるにかぎる。 彼は、その音がすぐ後ろまで近づくのをじっと待ち、ふりむきざまにどなりつけた。

「こら!いたずらでんきねずみ!!」

 ところが、彼の後ろにちょこんと立っていたのは・・・・

 黄色いオーバーオールの、よちよち歩きの子供だった。

 その子はびっくりしてしりもちをつき、そのままわんわんと泣き出してしまった。

「な、なんで、こんな小さい子がこんなところにいるんだ?!」

 彼はあわててその子をあやそうとしたが、その子はますます泣きじゃくるばかりだった。手を変え品を変えあやしてはみたものの、どうしても泣きやませることができずに、彼が頭をかかえていると、・・・ふと、泣き声がやんだ。

 その子が、黒目がちの瞳を見張って見つめていたのは・・

(コイコイ、コイコイコイコイコイ;;;) ・・・浅瀬でピチピチはねているコイキングと、草むらからそうっと這い出してきたミニリュウだった。

 いつのまにか、ポケモンたちは2人のすぐそばまで近寄ってきていたのだ。 コイキングもともかくだが、いつもなら、知らない人間が来たら、すぐに隠れてしまうミニリュウが・・・と、彼は驚いたが、子どもは大喜びで、きゃっきゃっと笑い声をあげながら遊びだした。

30分後。
 しばらくご機嫌で2匹といっしょに遊んでいたその子は、遊びつかれたのか、すやすやと眠ってしまっていた。

「やれやれ。お前たちのおかげで、助かったよ。ありがとう。」
 コイキングは、また、池の深みでゆったりとした回遊を始め、ミニリュウは、枕にされていた尻尾を、そうっとはずして、草むらにもぐりこんだ。

 それにしても、なんだか自分の秘密の場所がとられてしまったようで、なにやら面白くないが・・、まぁ、こんな小さい子相手に、そんなことを考えるのも大人げない話だ、と考えていた彼は、遠くのほうで、だれかが呼んでいるような声を聞きつけた。

「・・・・! ・・・・イエロー!」

 若い女の人の声のようだ。 きっと、この子の母親が捜しているのに違いない。 秘密の場所まで来られては大変、と、彼はあわてて、ぐっすり眠ったその子を抱き上げると、声の方めざして急いで歩きだした。

 子どもをだっこしたままでは、藪のなかを抜けるいつもの近道を使うわけにもいかず、大まわりをして道まで出てみると、ちょうど、つば広の白い帽子に薄緑のワンピースの、若い女の人が、心配げに名前を呼びながら角を曲がって来るところだった。

 細く柔らかそうな金髪と、黒目がちの瞳は、この子にそっくりで、母親に間違いなさそうだ。心配げに曇った顔が、少年にだっこされた子どもが目に入った瞬間、まるで雲間から日が射したように明るく輝く。

「 ・・・あなたが見つけてくれたのね!ありがとう!」

「ママ!」目をさました子どもをそっと地面に降ろしてやると、子どもは転がるように駆けていって、小走りに駆けて来た母親に抱き着いた。

「ああ、よかった・・・! どこにでもトコトコいっちゃうんだから。また、どこかのポケモンについて行っちゃったのね。心配したのよ、ほんとにもう!」

 口で怒りながらも、やさしく抱きしめる様子を見て、立ちすくむ少年の胸のどこかがかすかにちくり、と痛んだ。

「あのね、おタカナがね、コイコイって。  みみりゅーちゃんも、いたの。」
「?  ああ、お兄ちゃんのポケモンに、遊んでもらったのね。 ・・・じゃ、お兄ちゃんにお礼をいおうね。・・・・あら?」

 彼女が見たのは、いっさんに走り去ってゆく少年の後ろ姿だった。

「照れ屋さんな子ねえ??
 ・・・うちのイエローを連れてきてくれて、ありがとうー!」
「おにいちゃん、ばいばいー!」

 手を振る母子を背に、少年が逃げるように走り帰ったのは、かすかな胸の苦しさからではなく、・・・・

「あー、・・・しまった! やられたぁ!!」

 ・・・昼食のバスケットを無防備に置いてきてしまったことに気がついたからだった。

 バスケットの掛け金ははずされ、中身はきれいに持ち去られていた。ラッタやコラッタなら、自慢の前歯で豪快にかじり開けるだろうから、たぶん、例のピカチュウのしわざだろう。ピカチュウは知能が高く、前足も器用だ。この程度の掛け金をはずすのは、朝飯前だったろう。 持ち主がいなくなったのをいいことに、ごちそうにありついたにちがいない。

「やれやれ・・・」

 今日は出直すとするか、と、彼は苦笑しながらバスケットをひろいあげると、「また来る!」とポケモンたちに一声かけて、家路についた。

 また明日来ればいい。 秘密の場所もポケモン達も、いつでも待っていてくれるさ。

 

・・・・そこはずっと、少年のお気に入りの場所だった。

 ある日突然、大規模な土木工事が始まり、木々は切り倒され、泉があった場所は無残にえぐりとられて、ぬかるみの中に息も絶え絶えに横たわるミニリュウ達をかきいだいて、彼−ワタルが、復讐を誓った、そのときまで・・・。

 

 「お気に入りの場所」 [ワタル編] 完


【ついでに宣伝するのよ<をい】

続編(イエロー編)を見てみたい物好きな方はこちらへ↓

http://www2u.biglobe.ne.jp/~endo-c/pokemon/yelowfun/wataru2.htm


  [No.947] なんて無謀な! 投稿者:こはる   投稿日:2010/11/09(Tue) 20:07:23   52clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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無謀である。まさに無謀である。しかし、ここで逝かねば女がすたる。
というわけで、ノートをあさって、ヘルガーを見つけて、難解文字を解読してテキストに起こしてみた。処女作って、たぶんコレじゃなかったはずだけど、一番古いノートだったから。

普通の小説書く→ポケモン金銀にはまる→ポケモン小説を書く。そして、これ↓ 長いのはホント長いから、一番短かったコレ↓を。

【コーラみたいな夜ってなんなのよ(爆死)】
【皆さん、上手すぎるのよ!!】

◇◆◇◆◇◆

 コーラみたいな夜だった。
 夜食を買いに出た帰り、近道をしようと公園を通った。両手に持ったビニール袋が指に食い込んできて痛かった。
 夏はまだ居座っていた。
 ねっとりとして肌にからみついてくる空気は蒸し暑い。炭酸の抜けたコーラみたいに、蒸し暑い夜は街を包んでいる。
 公園ももれなくコーラ蒸しだった。買ったジュースがぬるくならないようにと、歩くのを早めた。
 ぐうぐるるとなにかが唸った。はっとして立ち止まったボクを、草むらからなにかが見ている。このあたりで出没している群れの一頭だろうか。
 黒い影は草むらにうずくまっていた。ぐうぐるると何度も唸って、ボクを見上げるのは、たしかヘルガー。
 すらりとした黒い体と白いつのがざわざわ草むらをはい出してきた。いかにも凶暴そうなヘルガーに、ボクは数歩だけ後ろに下がった。
 ぐうぐるる。ぐうぐるる。なんどもなんどもぐうぐるると唸る。
 腰が抜けて動けないボクをにらみつけて、なんども唸った。逃げもしないし、おそってもこない。なのに、ヘルガーは唸りつづける。
 ポケモンは持っていない。だから、逃げるのが一番だ。でも、腰が抜けて動けない。ヘルガーがおそってきたらどうしよう。
 ヘルガーのかげから、もっとちいさな影が出てきた。デルビルだ。唸っていたヘルガーがあわてたようにデルビルを押し返そうとした。それでもデルビルは出てこようとする。
 ちいさなデルビルはなにかおかしい。後ろ足をひきずってるみたいだ。ヘルガーはデルビルを押し返して、もういちどボクを振り返ってぐうぐるると唸る。
「ケガしてるのか?」
 ボクが近づくと、ヘルガーは少しだけ前に出てきた。腰が抜けていたのも忘れて、ボクがあとずさる。すると、ヘルガーはもとの位置にもどる。
 ヘルガーは、ケガしたデルビルを守っているみたいだ。
「おまえ、意外と優しいんだな」
 コーラみたいな夜は、ほの甘い。ヘルガーもほの甘い優しさを持っていた。


  [No.949] 11番目は巳佑をくり出して来た!! 投稿者:巳佑   投稿日:2010/11/10(Wed) 12:28:22   83clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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★前置き:「行け!! 巳佑!! 『だいばくはつ』だ!!」

というわけで、
皆様の勇姿に続いて私も、
赤裸々(せきらら)に書いてみます!!(汗)

とりあえず今までの小説歴は……。

今まで書いたものは個人的に二種類に分けているのですが……。

『Another story』
これは、自分の好きになったアニメやゲームなどを
パロディ(例えばこの作品のキャラクターで学園生活を書いてみよう的な)
にしてみたりなどした物語で、
今まで長いのから短いのまで六本ぐらい完結させました。

『Original story』
これは自分でキャラクターや世界観を考えて書いてみた物語で
今まで長編(だと思う)一本と短編一本を完結させました。
(長編の方は所要時間5、6年。
 それを書いている間に、あれもこれも書いてみたい!
 といった感じに別の物語をやってしまい、後回しにしてたのですが、
 大学合格を機に一気に完成させました。
 今年の三月中旬ぐらいです。)

ちなみに(上記のとは別に)初めて物語を書くという体験をしたのは
恐らく、小学校6年生の時の授業で、
何か物語を書いてみようというものでした。
……たしか私が書いたのは当時の干支の辰(龍)が四季を旅して、
次の干支の巳にバトンタッチするといった物語だったはず……です。
記憶が間違えてなければ。(汗)

そしてポケモンの物語ですが長編の方はまだ完結作はありません。(汗)
一つはポケモン救助隊をベースにした物語。
もう一つは連載版の方でお世話になっている狐日和です。
(今は狐日和の方を進めています。)

ちなみにAnother storyでは
『ロス・タイム・ライフ』という物語(ドラマで放送されてました)を元にしたモノもあるのですが。
(『ロス・タイム・ライフ』とはオムニバス形式の物語で、
 ある人が死ぬ時に何故かサッカーの審判団が現れるんです。
 そして、その審判団が持っている電光掲示板には制限時間が表示されていて、
 その時間は、その人が今までの人生の中で無駄にしてきた時間みたいで、
 その残された時間の中での、その人の最期の物語……だったはずです。
 間違えてたらごめんなさい。)
それをポケモンの世界で
『ロス・タイム・ライフ ポケモンレンジャー編』とやってみたのが
初めて完結させた(別作品とのコラボですが)ポケモンの物語だと思います。

……それを投下してみても大丈夫でしょうか?
とりあえず、投下してみますね。(汗)


ちなみに、その物語を書いていたのは2009年の五月頃です。
えへへ……私、馬鹿でして。(汗)
『浪人生活二年目』の中、
勉強の傍らでボチボチとノートに書き上げてました。(汗)


(ここまでのことも含んで)49KBもあるので、
少々、長いですが……。
そして、ツッコミどころがたくさんあると思いますが……。
それでは、どうぞ!!


―――――――――――――――――――――――――

「最後まで諦めるな!!」
その言葉はまさしくそうだと俺から見たら、そう思うぜ。
だってよ最後までやってみなきゃ分からねぇだろ?
それに動かなきゃ何も起こらないだろ?
サッカーはボールを蹴らなきゃ始まらないし、
一人一人のプレイヤーが動かなきゃ攻撃も守備も始まらないだろ?
だから、オレも最後までこの戦いを諦めねぇ。

―――――――――――――――――――――――――

「ふぅ〜。疲れた疲れた。今回もお疲れ様、ピカチュウ」
「ピカッ」
とあるポケモンレンジャー施設。
ここは日頃、ポケモン関係の事件……。
例えばトレーナーがポケモンを盗難されたり、
ポケモンが災害にあったり、
他にも色々……。
そういった事件を解決する為に東西南北に奔走する組織の施設。
ポケモンレンジャーと呼ばれる、
まぁ、ポケモンを助ける奴等が集まる場所だという事だ、ここは。
かくいうオレもポケモンレンジャーでまだ4年目のこれからっていうヤツだ。
「ピカピカッ」
俺の肩に乗っているのは俺の唯一のポケモンでパートナーのピカチュウ。
オレが10歳の時、初めて出逢ったポケモンで、
パートナー以上に親友だ。だから気持ちも伝わる。
「メシ食いに行こうぜ。お前もハラが減っただろ?」
「ピカッ」
オレとピカチュウの絆は誰にも負けない自信がある。
ピカチュウの笑った顔を見ると
何故かそんな気持ちがオレの中に広がっていた。

――――――――――――――――――――――――――

場所は変わってレンジャー施設の食堂。
任務でヘトヘトに疲れきったポケモンレンジャー達の憩いの場でもあり、
かっこうのサボり場……おっと、今のは聞かなかった事にしてくれ。
食堂業界歴30年というベテランのおばちゃんから
Bランチ定食と特製ポケモンフーズを受け取って、
オレは適当な場所を見つけて座った。
「はいよピカチュウ。お待たせさん」
「ピカッ★」
オレから特製ポケモンフーズを受け取ったピカチュウは早速、食べ始めた。
むしゃむしゃ食う。
ガツガツ食う。
もうどうにも止まらないって感じ。
あはは。相当、腹減ってたみたいだな。
さ〜てオレもエコに貢献のMy箸(はし)を手にいざ食事……。
「冷たっ!?」
しかし、何か冷たい物を当てられて、
オレは飯(めし)を食うのを妨害されたぁ!!
「ハロ〜♪ 今回もお疲れ様、ゴウ♪ ピカチュウ♪♪」
「やっぱりお前か……! ラン……!」
「ピカッ♪」
ピカチュウの頭を撫でた後、ランはオレの隣に断りもなく座って来た。
彼女はラン。
ショートカットの亜麻色の髪。
背は小柄。
だけど性格は大胆。
見ての通り、相手に断りもなく隣に座ってくるのが証拠だ。
ランともポケモンレンジャーなのだがオレみたいにロードワークではなく、
主に情報などを取り扱うデスクワークの仕事を担当としている。
後、ロードワークのポケモンレンジャーのサポート役としても活躍していて。
ちなみにオレはランのサポートを受けている。
……まぁ、つまりオレとランは相棒だという事だ。
「それよりも……んぐぐ……ゴウ……モグモグ……んぐ……」
口の中にモノを入れながらピーチク、パーチクしゃべってはいけません。
「何だよ」
「んぐ……ふう〜。あっそうそう。今度の休日ってゴウの予定、空いてる?」
ポケモンレンジャーにも戦いの間、束の間(つかのま)の休みがある。
まぁ、万が一の大事件が起こった場合は返上になっちまうけど。
「まぁ……一応、空いているけど……」
おあいにくさま、オレには彼女がいないし。
休日の大体を暇人野郎として過ごしている。
……ごめん。
する事が他にないだけで、
本当の事を言うとピカチュウとトレーニングをしたりしている。
「じゃあさ、今度の買い物に付き合ってよ〜! バーゲンで欲しい服があってさ」
「オレはお前の戦闘兵かっつうの!」
「どうせ暇なんでしょ?」
「……はい、そうです」
否定出来ません。
メチャクチャ悔しいったらありゃしねぇ。
ランの目が笑っていて笑っていない。
「じゃあ、ヨロシクね★」
結局、表現出来ない、ランの殺気に屈してしまったオレであった。

―――――――――――――――――――――――――――

小さな頃。
「夢は何ですか?」とよく聞かれた事が誰にもあると思う。
オレも大人に訊かれて、ものスゴク迷った。
夢ってなんだ?
夢って何をするものなんだ??
そんな悩みがあった、お年頃の昔のオレはある日の事、
(実は)幼なじみだったランのおつかいに付き合わされていた。
そして、その店先で。
「全員、動くじゃねぇ!!」
マスクを被った黒ずくめの男達。
その手には銃を持っていた。
The 強盗事件。
逆らえば殺される――。
その時、その場にいた人達はそう思っただろう、
言われたとおりに皆、一歩も、眉一本も動かさなかった。
泣く子も黙るという言葉を体現しているかのように
オレもランもその場で止まっていた。
その15分ぐらいの頃だった。
「おわっ!?」
「きゃっ!?」
いきなり後ろから抱き抱えられて店の外へ。
そして、そのまま車の中へ。
そこにはあのマスク野郎達。
そして頭に突きつけられたのは銃口。
「動いたら、頭、アイちゃうから気をつけなよ? おチビちゃん?」
泣く子も黙る恐怖がガキなりにもオレの中で伝わった。
いわゆる人質というやつだと気付くのに時間はかからなかった。
このまま死んでしまうのか、オレ。
まだ今日のアニメも見ていないのに――。
ランもきっと絶望を感じていただろう、泣きそうな顔をしていた。
なんだよ、神様。
オレとランはおつかいに来ただけなのに!
ランなんか、明日、誕生日なのに!!
そんな行き場のない怒りと悔しさが溢れていた。
『犯人に告ぐぞ〜!! 
 今スグ、馬鹿な鬼の真似はやめて、素直に降伏しろぉ〜!!』
そんな時だった。
一人の男の声が電波に乗って聞こえて来た。
「オイッ、やべぇぞ!! 
 男一人がドードリオに乗って追いかけて来てるゾ!!」
仲間の一人が慌てたような口調で指を指していた。
『ったく……しょうがねぇな。
 五秒やるから降伏しろよなぁー!!』
「五秒って短くねぇかぁ!?」
……確かに。
この時ばかりはオレも心の中で、そうツッコンでしまっていた。
『5・4・3・2・1・0。
 はい、時間切れ〜!!
 これから強制施行に入るから、そのつもりでな!』 
そう、言葉が届き終わったや否や、急に場の空気が止まった感覚が体に走る。
「おい! どうした!?」
「く、車が動かなくなっちまったぁ!!」
時が止まった感じがしたのはソレが原因だった。
走っていた車は何故だか、何時の間に止まっていた。
オレだけではなくランも目を丸くしていた。
「クソ……!! こうなったら……!! おい、テメェら!!!」
車を止められて黒ずくめのマスク野郎達が逃げる術(すべ)をなくしたかと
オレは思っていたんだが……まだ実はあった事を数十秒後、知る事になる。
「おい!! 動くんじゃねぇぞ! 
 じゃなきゃ、このガキ達の命はねぇぜ!?」
唯一の方法。
それは人質。
オレとランを抱き抱えながら車から出た4人の黒ずくめ野郎達。
もちろん、オレとランの頭には銃口が当てられていた。
当然、セーフティーは外されている。
引き金が引かれたら、その先は地獄だ。
地……獄……なのに……。
「ったく。子供を人質にするなんてよ……
 お前等、卑劣の中の卑劣だよな〜」
この人、全く犯人の言う事、聞いてませんよ!?
馬耳東風ですよ!!??
ドードリオで追いついた謎の男は静かにこちらへと歩み寄って来た。
「お、おいヒトのハナシを聞いてんのカ!? 本当に撃つゾ!?」
「お前等の言う事を聞く事自体なぁ……嫌なんだよ、コッチはな」
逆撫で(さかなで)するような言葉で
黒ずくめのマスク野郎達から
プチッと何かが切れる音が聞こえて来た。
……まさか、理性がブッ飛んだってヤツじゃねぇ……よな……?
「だ……ダマれ! ダマれ!!
 本当にこのガキ達の頭を穴アキにするゾ!!??」
……マジでマジ切れする5秒前?
「撃てるもんなら撃ってみろよ」
衝撃の一言。
「腰抜けなお前等に出来るならな」
プチッ
トドメの一言。
……って、え?
「言ったナ!! 言いやがったナ!!!!
 こんなガキ達、すぐさま、あの世にいかしてやるヨォ!!!!!」
死を覚悟……という前に、
恐怖で何も考えられなかった。
思わず目をつむった。
………………。
…………。
……。
アレッ?
「な、なんで撃てねェンダ!?」
「セーフティーも外しているハズだゼェ!!?? って、うわァ!?」
「は〜い、ちょっと失礼するよ」
おそるおそるオレは目を開けてみた。
すると視界には例のおじさんが現れて来た。
「ちょっとじっとしててくれよ。スグに終わるからさ」
オレ達を安心させるかのように、おじさんは笑ってそう言うと、きびすを返した。
「お前等がなんで撃てなかったのか、教えてやるよ。サーナイト!」
おじさんが誰もいない方に叫んだかと思うと、急に光が現れて、そこからサーナイトが現れた。
まるで天使が舞い下りたかのようであった。
「サイコキネシス。ヨロシク!」
おじさんがそう一言、言った。
刹那――。
「ぐわぁっ!!」「動かネェ!?」「どわぁっ!?」「ギャアッ!?」
四方向から悲鳴があがった。
「いいか。まず一つにサーナイトをあらかじめ出しておき」
おじさんは黒ずくめのマスク野郎達に近づきながら、何処(どこ)からかロープを出した。
「お前等に気付かれないように隠れて」
一人目。
「お前等に気付かれないようにサイコキネシスを」
二人目。
「お前等の銃の引き金にかけておいて撃てなくしといたんだ」
三人目。
「引き金が引かれなきゃ、銃は撃てねぇもんだからな」
四人目。
「サーナイト、ご苦労様。ありがとな」
手慣れた手つきで黒ずくめのマスク野郎達をロープでぐるぐる巻きにしたおじさんが
サーナイトとハイタッチを交わすと、サーナイトと一緒にオレ達の方へと歩み寄った。
「すまなかったな。敵を騙すにはまず味方から、とは言うが、怖がらせちまって」
おじさんが静かに微笑むと今まで怖かったモノがせりあがって来ていたのか、ランは泣き出してしまった。
サーナイトが優しく、ランを抱き締めてくれた。
大丈夫だよ。
もう恐いモノなんかないよ。
と慰めてくれているかのようだった。
「だが、まぁ、もう大丈夫だ。ジュンサーさんも来てくれたようだしな」
気が付けばパトカーが辺りを囲んでいて、
黒ずくめのマスク野郎達はその場で現行犯逮捕、御用となった。
「よく頑張ったな、お前達。カッコ良かったぞ!」
おじさんが勇ましく白い歯を見せて笑ってくれた。
その時、俺の中で何かが吹っきれた。
そして心の中で何かが産まれた。
まだ、オレが幼かった頃、ポケモンレンジャーに命を助けてもらった時の事だった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

……とまぁ、こんな事件を通じて、
オレは人やポケモンなどを助ける仕事がしたいという夢を持って、
今、現在に至るという事だ。
ランも同じだった
「よぉ〜。相変わらず仲つむまじき夫婦だなぁ、お二人さん」
そう言いながら、オレの隣に座ったのは中年のおじさん。
昔の事を考えていたオレにとっては少し不意打ち気味で少しビックリしたけど。
「アハハ! 隊長ったら、そんなワケないですよ!!」
大笑いをして隊長の冗談をツッコむラン。
……なんだろう。
冗談の話題なのに涙が出そうになるんだけど。
気のせいという事にしておこう。
「全くビックリさせないで下さいよ、隊長」
「まぁ、そう言うなよ。ちょっとしたオチャメ・ジョークじゃねぇか」
……どの年がそう言う!?
と、オレが心の中でツッコミを入れた相手の隊長とはその名の通りで、
ここのポケモンレンジャー施設のリーダー的存在の一人である。
そして、ここだけの話……。
「それに飯は一緒に食った方が楽しいだろ?」
この隊長こそ、
この人こそが、
昔、オレとランを強盗犯から助けてくれた張本人である。
本名はダイチ・サトウ。
40歳一歩手前、妻子持ちである。
「それにしても、昔と比べて任務をこなすのがサマになって来たよな。お前等」
「い、いきなりどうしたんですか、隊長」
会話の急展開というのも隊長の特徴の一つである。
「昔は任務が終わらなくて、飯が食えないよ〜って泣いていたよな〜」
「そうなんですよ〜。ゴウが本当に要領が悪くて悪くて」
……ぐっ、確かに昔はよく失敗しては昼飯を食いそこねて、
結局、相棒であるランも連帯責任というヤツで昼飯にありつけず、
最終的に最終責任という事で決して多くない給料で
よくオレがランにおごっているというのがお決まりのパターンであった。
「……言い返す権力は滅相(めっそう)もございません」
「ハハハッ。素直が一番いいってな♪」
……あまりの恥ずかしさで体が燃えちゃいそうだぜ……!!
そんな赤面あり、イジりありの昼飯が続く……。
『各、ポケモンレンジャーに伝えます!
 各ポケモンレンジャーに伝えます!!』
刹那――。
その放送案内の声と共に少なくとも食堂にいた人達全員に緊張が走ったと思う。
……今のこの放送案内は間違いなく、緊急の時の放送音だったからな。
オレも生つばをゴクリッと喉(のど)で飲みこんでいた。
『ディレエン地方のバルバの森で大規模な大火事が発生!!
 至急、各ポケモンレンジャー達は現地に赴いて指示に従ってください!!!』
告げられた言葉が終わるか終わらないかの所でピカチュウがオレの肩に乗って来た。
そのヤル気に満ちた目にオレも熱いモノを心に感じて来る。
「行くぞ! ゴウ!! ラン!!」
「ウィッス!」
「はい!!」
ポケモンレンジャー総動員の戦いが始まった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ポケモンレンジャー施設から急いで出発して約10分。
オレや隊長を含むポケモンレンジャー達はディレエン地方のバルバの森に着いた。
バルバの森は山のような起伏があり、そして、そこには今……。
「……スッゲー燃えさかってるじゃねぇか……!!」
「……ピカッ」
大きな炎に包まれているバルバの森があった。
……さしずめ炎の森という感じが第一印象だ。
消防団も駆けつけており、なんとか消火に努めているが、
予想以上のボヤに手を焼いているようだった。
「よ〜し、全員そろってるな! 時間ねぇから手短に説明すっぞ!!」
隊長が大声で説明し始める。
「今回、俺達のやるべき事は、
 恐らくバルバの森に取り残されたと思われるポケモン達や人の救助!!
 それと……」
隊長が険しい顔をして続ける。
「……目撃者の証言などから、
 今回、このボヤ騒ぎを起こした張本人がバルバの森にいるかもしれない事が判明した」
全員の心に緊張が走った。
天候とかではなく、この大火事を起こした、
いわば犯罪者がいるという事に衝撃が走ったと思われる。
……オレもピカチュウも同じ心境だ。
「今回は救助と共に、そのホシの追跡、出来れば現行犯逮捕を頼む。
 ホシの特徴は身長170センチメートル前後、茶髪に、黒サングラス、黒のコートに青のジーンズ。
 そして……鼻ピアスをしているという事だ」
犯人の特徴も言い終わり、
後は出発するだけの時、隊長は咳ばらいを一つ。
「行く前に一つ、お前等に言っとくぞ」
これは大きな任務に行く前に隊長がやる恒例の儀式、喝入れみたいなもんだ。
「いいか、炎を甘く見るな! 煙をあまり吸うな!
 ……これだけの大火事だ。何が起こるか分からねぇ、いいか?
 絶対に無茶をしない事、そして絶対に死ぬな! 分かったな!?」
いつも隊長がくれる言葉は裏表がない一直線な力があって、
不思議と勇気が湧いて(わいて)来る。
……よし。
心も体も準備万たんだぜ!!
「よし! それじゃあ……」
その一声で皆、身構え、
「全員、出動!!」
任務開始の声と共に走り出した。
「ピカチュウ、行くぜ!!」
「ピカッ!!」
オレとピカチュウも燃えさかるバルバの森へと走り出した。
絶対に助ける!! 
その気持ちを心にしっかりと刻み込みながら。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

一人一人、別行動となった救助活動。
「スッゲー熱いな! 大丈夫か!? ピカチュウ!?」
「ピカ!!」
「よし、このまま突っ切るぜ!!」
バルバの森に入った瞬間、そこはもう別次元の世界だった。
炎があっちこっちで燃えさかっているし、温度だって桁違いに暑くなっている。
けど、だからこそ長居は無用だし、立ち止まっている暇はない。
早く取り残されたポケモン達を助けなきゃな!
『ゴウ、聞こえる? ゴウ、聞こえる?』
走っている途中、耳につけた通信機から声が聞こえ始めた。
間違いなくランの声だ。
「ああ、ランか。大丈夫だ。よ〜く聞こえてるよ」
『マイクテスト中、マイクテスト中』
「聞こえているって言ってるだろうが!」
……ったく、こんな時にでも冗談を出すとは。
『ごめんごめん。まぁ、これで緊張も取れたでしょう?』
……まぁ。ランらしいと言えばランらしいかな。
……良く言えばの話だが。
「まぁ、とりあえず今のところ無事だぜ」
『その声を聞けて安心したわ。
 適宜、連絡するから、ゴウの方も何かあったら、スグに連絡しなさいよね!!』
今回の火事の規模を聞かされて、心配しているかもしれないな。
だからオレは安心させる一言を言ってやった。
「……帰ったら、買い物、付き合ってやるから、サポート頼むぜ!」
そう一言、言うと、通信を一回切った。
「……ピカッ」
ピカチュウがなんか照れているようにこっちを見ている。
……そんなクサイセリフだったかな……。
……ってなんだか緊張が解けたのはいいが解けすぎて、
これじゃあ……緊張感がなさすぎだ!
……って隊長に怒られそうだな。
「……き、気を取り直して行くぞ!!」
一言、気合いを自分にピカチュウに入れ、走るスピードをあげていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

バルバの森に入って約20分経過頃。
「……だいぶ奥地に入ったな……」
燃えさかる炎は更に勢いを増し、辺りはその名の通り、炎の海となっていた。
オレとピカチュウは走る足を一旦止め、辺りを確認するように歩く。
「……ここには逃げ遅れたポケモンとかいなそうだな」
オレは一息、安堵(あんど)の息をつく。
ここにはいないという事は、
ここにいるポケモンの殆ど(ほとんど)が避難する事が出来た可能性があるしな。
それに地面にはポケモンらしき足跡が所々に森の外に向かって残っていた。
「……ピカッ!」
さて、次に行こうかと思った、そんな折だった。
ピカチュウが何かに気付いたような声を上げた。
「どうした、ピカチュウ?」
「ピカ、ピカチュッ!」
ピカチュウが必死で指を指している方向を見てみると。
……可愛らしい容姿に、頭の上には左右に花。そしてスカートのように伸びる葉。
…………あれって、キレイハナか?
「……って、大変じゃねぇか!! 行くぜピカチュウ!!」
「ピカッ!!」
オレとピカチュウは一緒に走り始めた。
キレイハナは周りが炎の海の状況に、もしかしたら仲間とはぐれてしまったかもしれない。
すごい困った顔を浮かべていた。
……キレイハナは草タイプのポケモンだ。炎には弱い。
それもキレイハナの足を止めさせている理由の一つかもしれない。
とにもかくにも早くキレイハナを助けなきゃ……!!
「……ピカッ!!」
「……あっ!!」
後10メートルぐらいのところで、
なんと燃えさかっていた一本の木が支えをなくしてしまったらしく、倒れて来た。
……しかもキレイハナに向かって!
「間に合えぇ!!!」
「ピカッ!!!」
とっさにオレとピカチュウは同時に
ヘッドスライディングの用法でキレイハナに向かって飛び込んでいった!
トンッ……!
わずかの差でオレとピカチュウの手はキレイハナの体を強めに押した。
軽い音と共にキレイハナの体は後ろへと飛び、キレイハナはなんとか無事。
問題はオレとピカチュウだが、
なんとか倒れこむ木を避ける事が出来て……。
「なっ……!?」
「ピカッ!?」
倒れこむ一本の木をなんとかキレイハナを助けながらすり抜けたと思ったんだが……。
いつのまにか、
もう一本の燃えさかる木がオレとピカチュウの方へと倒れこんで来た!
すり抜けた先に、
もう一本、木が倒れこんでくるなんて……!!
「うわぁぁぁ!!!」
「ピカァァァ!!!」
耳をふさぎたくなるほどの悲鳴を残してオレとピカチュウは……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

……死んじまったのか? オレは。
暗い意識の中でオレはそう心の中で呟いていた。
まだ、助けていないポケモンとかいるのに……!
……ランとの約束もまだ交わせていないのに……!!
……ピカチュウは無事だろうか……?
『ピィ――――!!』
様々な悔しさや悲しさやらで頭がごちゃごちゃになっていた、その時だった。
甲高く鋭い笛の音が響き渡った。
……って笛の音?
しかも、何処かで聞いた事があるような……ないような……。
……ていうか、オレ、生きているのか?
そんな、いちるの想いを胸に秘めながらオレは目を開けて……。
「……誰?」
そこにいたのは何処から現れたのか!?
……の謎の男4人組が2組。
「……なんで、サッカーの審判団?」
……その容姿はまさしくサッカーの主審らしき人と副審らしき人に時間係(?)の人。
そして時間係が持っていた電光掲示板には
『2:35』
と示されており、もう一人の時間係が持っていた電光掲示板にも
『2:35』
と示されていた。
「……ピカッ?」
「お、ピカチュウ、大丈夫……」
最後の「か?」という声はオレの喉から出る事はなかった。
オレは夢でも見ているのか?
そう思うのも無理はなかった。
……だって、オレとピカチュウにめがけて倒れて来たハズの大木が
空中で止まっていたから!!
……これってなんだ?
周りの様子を見ても、この倒れて来た大木が
どこかにつっかかった様子もなく、
文字通り、
大木は空中で止まっていた。
オレは物理とかよく分からないからアレだけど……。
これ、重力とか運動の方向とか無視してんだろ!!……というぐらいは分かった。
いったい……ぜんたい……どうなってん……
『ピッ!!』
不可解な状況に軽くパニックを起こしそうになった矢先に
オレの耳に響いた笛の音。
「あっ」
そういえば、こいつらの事、忘れてた。
謎のサッカー審判団。
『ピッピピッ!!』
笛の音に導かれるようにオレとピカチュウは立ち上がった。
「アンタたちは一体、何者なんだ?」
とりあえず最初の一言はこうでなきゃな。
『ピ……! ピピ!!』
……けれど返って来たのは笛の音のみ。
一瞬、ふざけてるのか!? とツッコミを入れようとした寸前で、
オレはハッと何かを思いつき、何とかツッコミの言葉を止めた。
「……もしかして、しゃべる事が出来ねぇとか……?」
『ピッ』
首を縦に振る謎のサッカー審判団。
なる程な。……どうりで最初の質問の時に審判団達の顔が曇ったと思ったぜ。
今日のオレ、もしかしたら、いつにもまして冴えてるかも?
『ピッピ!! ピッ!』
「ん?」
さて、どうやってこの審判団から正体やら何やら掴もう(つかもう)かと考えていたら、
再び、笛の音が鳴り響いた。
「ピカッ」
「ピカチュウ」
そして同時にピカチュウが俺の肩に乗って来た。
『ピッ!!』
四度目の笛の音が鳴ったと思いきや、
審判団が何やら意味深のダンスを始めやがった!
手を動かしたり、指をオレ達の方に指したり……って、
これって、もしかして……。
「ジェスチャーかっ!?」
審判団から首を縦に振るという肯定の答えをもらった。
「よし、分かった。とりあえず、それで説明ヨロシク!!」
本当は……早くミッションの方に戻りたかったのだが、
今はこの状況を理解するのが先決だ。
……そう、オレの体が語っているように思えたからだ。
『ピッ!!』
任された! と言わんばかりに審判団の笛が響く。
よし! こいっ。ジェスチャーは実は自信があったりするぜ。
というのも、ピカチュウが何かを伝えようする時は
よくジェスチャーや色々な百面相をしてくれる時があり、
それ当てっこしたりして、遊んでいる時もあるという、
カッコ良く言うと裏付けされた経験による自信という事だ。

指をまずオレとピカチュウの方に向ける謎のサッカー審判団。
ふむふむ、オレとピカチュウが。

謎のサッカー審判団の指は続いて空中で止まっている大木の方へ。
え〜と、その大木が……じゃなくて「に」かな?

そして大木に向けられた指は胸の方にバッテンを示して、
そして一本の人指し指は

……空へ……?

…………。

……そして、もしかしてバッテンの印は。

………………停止?

……そして、そして、もしかして一本の人差し指が向けられている空は。

……………………………………………………天国?

………………これって、もしかして、オレとピカチュウは。

……………………………………………………………………………………。

…………死んだ、のか?

……信じられねぇ……嘘だろ……?

ピカチュウもオレと同じ答えにたどり着いたのだろう、瞳がこわばっていた。
信じられねぇ……まじで、信じられねぇよ……。
でも……。
「つまり……」
言い出せずにはいられなかった。
「オレとピカチュウは、あの大木によって死んだけど、
 アンタ達のおかげで、今、生きている……」
例の電光掲示板の方に目のやり場を移す。
「ただし、時間制限あり」

『2:25』

「時間になったら、オレとピカチュウは本当に死ぬ……てコトか?」

言い終えた。
……心臓の高鳴りが夢じゃない事を伝えている。
『ピッ』
審判団の首は縦に振られた。
それは、すなわち殉職(じゅんしょく)を意味し、
そして、
オレとピカチュウの死が真実だという揺るぎない答えだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『ゴウ、聞こえる!? ゴウ、応答して!!』

「あぁ、充分、聞こえてんぞ、ラン」

『……やっと出た。
 ちょっと、ゴウ!! アンタ、大丈夫!?
 何かあった!? ケガとかしてんじゃないでしょうね!!』

「……あぁ、なんとかな。どうかしたのか?」

『どうかしたか、じゃないわよ!!
 さっき、通信しようとしたけど、つながんなかったのよ!』

「多分、電波が悪かったんだろ。それより、なんかあったのか?」

『あぁ! そうよ。その事で通信したのよ』

「何が起こったんだ?」

『えぇ、さっき、他のレンジャーが今回の山火事の犯人と接触したらしいのよ』

「まじか!?」

『マジよ。それでその接触の際にGPSを犯人に付けたの。 
 それで、その犯人の位置が今一番、ゴウに近いの!」

「なる程な……。オレがそのホシを追う役になったっていうわけだな」

『……ゴウにしては珍しく冴えているじゃないの』

「珍しいっていうな! 流石って言えよ!!」

『まぁ、それぐらいの元気があるって事は無事ってことよね。安心したわ』

「……ハメやがったな」

『ま、ともかく、誘導していくから指示をよく聞いてよね!』

「あぁ、分かった! …………んで、あのさ、ラン」

『何よ?』

「…………」

『……ちょっと、ゴウ?』

「ヘマするなよ!」

『……アンタにだけは言われたくはないわ!!
 確認があるから、一回切るけど、スグにまた連絡入れるからね!!』

……ここで一旦、通信が切れた。
オレはピカチュウと一緒に燃えさかる山の中を走っていた。
近くには謎の審判団もいる。
……正直、自分が死ぬなんて信じられなくて、
受け入れろ、といっても、
言葉では簡単でも、実際には難しい。
だけど、これは幻でもなければ、夢でもねぇ。
おまけに生きていられる時間は残り………………。
『1:30』
2時間を切っていた。
だったらオレは今を最後まで走り切る。
最後の0時間0分0秒になるまで、この任務を務めてやる!!
それが、オレが出来る唯一の事だと思ったからだ。
ピカチュウも同じ気持ちで、一緒にこうやって最期の根性を見せていた。
ランから連絡があったのはキレイハナを救出し、安全な所へと逃がして、
再び、燃えさかる山の中、バルバの森の中を走り駆けめぐっていた時の事だった。
……オレが死んだって事、ランは知らないんだよな……。
………………。
けど、いまはソレで任務に支障をきたしたらマズイし、
オレとピカチュウは、もう、残り時間が少ない。
犯人を捕まえる為の時間は限られているんだ。
今、オレとピカチュウにしか出来ない事を最期に成し遂げたい。

オレの為にも。
人の為にも。
ポケモンの為にも。
ピカチュウの為にも。

……ランの為にも。

負けるわけにはいかねぇんだ。

「もしもし、ランか?」
プルルと無機質な機械音が響く通信機を手に取る。
『準備は整ったわ。それじゃ……行くわよ?』
「合点、しょうちのすけのラジャー!!」
「ピカチュッ!!」
ランの誘導と共にオレとピカチュウは走り始めた。

諦めねぇ!

その言葉と共に。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「大丈夫か? ピカチュウ?」
「ピ……ピカ……」
「無理するなって。ホラ、酸素を吸っとけ」
ランの誘導でバルバの森の更に奥地まで来たオレとピカチュウは小休止をとっていた。
奥地の燃えさかり度は入り口のと比べて、ハンパじゃなく、
もう、そこは一面、火の海と言っても過言ではなかった。
火の海の中では酸素がいちじるしく濃度が低くなっていく。
それを示すかのようにピカチュウが苦しそうな顔を見せていたが、
小型の酸素ボンベで新鮮な酸素を送ると、少しだけだが、顔色が良くなった。
……後ろの方では例の審判団がオレ達の事を見守っていた。
……苦しくねぇのかな?
……肩で息をしているけど。
……走り疲れしただけっていうような感じだし。
……ますます、謎の奴(やつ)達だな。
かっこうも何故かサッカーの審判団だし。
『0:45』
オレとピカチュウの残りの命とも言える、
2つの制限時間をチラリと見た。
……残り45分か。
まさしく、サッカーの後半戦ってトコだな。
……って問題はソコじゃなくて。
……残り45分。
なんとか体がもってくれればいいんだけど、と心配しているのは
実は酸素ボンベが今のピカチュウに使っている分で最後だったのだ。
……オレは約1時間前に使って、それっきりであった。
……って弱音を吐いている場合じゃねぇよな。
最後まで諦めねぇ!
……そう決めたんだからな。
「ピカ……」
「もう、大丈夫みたいだな。行けるか? ピカチュウ」
「ピカ! ……ピカ」
一回ヤル気満々の顔を見せてくれたピカチュウだが、
その次は申し訳なそうな顔を見せていた。
「……もしかして、最後の酸素ボンベを使って、ごめん……とか?」
「ピカッ」
こくりとうなずくピカチュウ。
いつもは明るいヤツなんだが、責任感の強いところもあるからな、ピカチュウは。
「水くさい事、言うなよ。仲間は支えあうもんだろ?
 オレ達、親友だろ? オレの事、信じてくれよ。
 オレもピカチュウを信じてるんだからさ」
「……ピカ!」
オレの言葉はピカチュウの心に届いたようで、ピカチュウは笑顔で答えた。
そうさ、オレとピカチュウは小さい頃から一緒に笑ったり泣いたりして来たんだ。
親友なんだ。
……だからピカチュウが困っている時は助けてやりたい。
力になってやりたい。
『ゴウ、ピカチュウ! 大丈夫?
 もうすぐ、犯人と接触するわ!
 ……犯人はナイフを持っているみたいだから、気を付けてよね!!』
「あぁ、分かった! ……それじゃ、行くか、ピカチュウ!!」
「ピカッ!!」
オレとピカチュウは再び走り始めた。
……心配しなくても大丈夫だぜ、ラン。
オレとピカチュウの絆は誰よりも強いんだから。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……いた! アイツか!!」
「ピカッ!!」
再び、ランの誘導を頼りに走り続ける事、約5分。
中年おじさんの雰囲気を漂わせる背中が一つ見えた。
「おいっ!! 待て、てめぇ!!」
叫び声、むなしく響いただけで、男の足を止める力とはならなかった。
にゃろう……聞こえてるハズだよな……!?
だが、ここでキレたら三流だ。
……という隊長の受け入りを心に唱えて、
オレは周りを見渡した。
燃えさかる炎に包まれている木々、といった風景が続く。
……少しずつ犯人との差は詰めていっているが、このままじゃキリがねぇ。
逃げ道さえ、塞げば(ふさげば)、一気に追い詰める事が……。
そこまで思ったオレの頭に一寸の電光が走った。
しめた! 木々をうまく使えばいいじゃねぇか!
「ピカチュウ! アイツがいる所から5本先の木に10万ボルトを打てるか!?」
「ピカッ!?」
「木を倒してアイツの逃げ道を塞いでいくんだ!!」
「ピカ!!」
一瞬、オレの突拍子もない意見に驚くピカチュウだったが、
オレの意図が分かると、
任せて! と言わんばかりの顔をした。
ソレを見たオレはこれ以上は何も言わなかった。
それだけピカチュウの事を信じていたからだ。
「ピーカ……」
ピカチュウの赤いほっぺた――電気袋からほとばしる電撃。
「チュッ!!」
ピカチュウのタイミングで放たれた電光は真っすぐに伸びてゆき――。
ドカッ!! と見事、矢で射抜いたように雷は犯人から5本先の木に命中。
「うわっ!!」
そのまま木は支えをなくして転倒した。
轟音(ごうおん)が響き渡って、犯人がビクついて、一回、立ち止まった。
「待ちやがれっつってんだろ!!」
「ピカッ!!」
「ヒぃっ!! く、来るなぁぁ!!」
オレとピカチュウが声を荒げると、犯人は明らかに驚き、ビビりまくっていた。
しかし、その恐怖は犯人の防衛本能、
捕まりたくない! という気持ちを促進させてしまったらしく、
犯人はすぐに他の道を見つけると再び逃走を図った。
「くそっ! まだ逃げる気か!!」
思いっきり舌打ちをしたオレであったが、
ピカチュウが足止めしてくれた時間の差は、
結構、オレ達と犯人の間を詰める事が出来た結果となった。
つまり、歯を喰いしばって、もう一段階スピードをアップさせれば……。
「ま・ち・や・が……」
手を伸ばして犯人の肩を掴む、3秒前……。
「ク……クるなァッ!!」
1秒前に見たのは赤い液体が横一閃に飛び散る様。
「痛っ!!」
犯人が捕まる寸前にナイフをオレに切りつけてきたというのは
鋭い光を見て、スグに分かった。
そういえば、犯人はナイフを持ってるってランが言ってたな……。
犯人が持っているナイフは刃渡り30センチメートルのサバイバルナイフ。
見た限り、切れ味の良さそうな鋭利な光を帯びているエモノだ。
「ピカッ!!」
「あぁ、大丈夫だ、ピカチュウ。それよりも……」
心配そうな顔で駆け寄ってくるピカチュウにオレは安心させるかのように笑顔を見せる。
まぁ、実際に切りつけられた右腕からは血が少し流れ出ているが、深い傷ではない。
……少し、痛いけどな、やっぱり。
まぁ、今、大事な問題は、こっちじゃなくて……。
「テメェが、今回の放火魔って事で……いいよな?」
オレは睨み(にらみ)付けて、犯人に問いかけた。
中肉中背の風貌(ふうぼう)、
印象的な無精ヒゲ、
そして鼻ピアス。
犯人はもう逃げても無駄だと分かったのか、
立ち止まって、オレとピカチュウの方に面(つら)を向かわせているが、
代わりに、例のサバイバルナイフを両手で持って構えていた。
「ア……アンタ、何モンだ!!?」
「オレ? オレはポケモンレンジャーをやっているモンだけど?」
オレが一歩、前へと進むと犯人の手の震えが大きくなっていく。
しかし、ナイフを向ける方向はオレに向いたままだった。
「さてと、テメェの質問に答えてやったんだ。
 今度はテメェがオレの質問に答えてやる、番だよな?」
もう一歩、オレが前へと進むと、犯人の手の震えは更に大きくなっていく。
「テメェが今回の放火魔だよな?」
更にもう一歩、オレが足を前へと踏み出す――。
「わぁァァァァ!!!!」
犯人の恐怖感が臨界点を突破したらしい。
けど、オレは慌てなかった。
もう少しで犯人の真意が聞けそうだったからだ。

「ア、アイツらが悪リィんだァ!!
 おれに仕事を辞めさせやがってよォ!!!」

…………。
……………………。

オレ、怒りで理性が吹っ飛びそうなんだけど。

「……テメェ……それだけで、
 たった、そんだけの事で、この森に火をつけた、つうのか?」
「あぁ! そうダヨ!! なんか、文句でもあんのかぁ!!」
炎の中に消えていくのは身勝手な犯人の意見。
「ピカ……?」
「……んだと……?」
オレと、そして恐らくピカチュウも
心の中で沸々(ふつふつ)と怒りをこみ上げていた。
犯人がどんな経緯で仕事を辞めさせられたのかは分からねぇ。
理不尽な理由かもしれねぇし。
犯人の勤務態度が悪かったかもしれねぇ。
……けどな。
だからって、その怒りをそういう風に――森を火事にするっていうぶつけ方……が
一番、理不尽じゃねぇか!?
「……テメェ……」
森には多くのポケモン達が住んでいるし、
多くのトレーナーが通り道に使っているかもしれねぇ。
……この火事で、もしかしたら、
最悪な結果を迎えた奴がいるかもしれねぇ。
犯人は最悪な事をした。
「ふざけるのも、たいがいにしやがれぇ!!!」
仕事を辞めさせられたという怒りを
放火という殺人で晴らしているも同然だったからだ。
「ひぃっ!!」
オレが走りだしたのに反応して思いっきりナイフを振りまくって来た。
色々な方向に軌道を描くナイフの刃。
デタラメな、むちゃくちゃな武器の扱いだが、
それ故に動きが読みにくい。
だが、それ故にスキが生まれやすい。
「あめぇんだよ!」
相手がナイフを思いっきり振る。
直後にスキが生まれる。
オレはソコに目をつけて犯人の懐(ふところ)に入って一発ストレートを……。
「!?」
しかし、パンチが届く直前にオレの体がぐらついた。
……なんだ、体の自由が、今、きかなかったぞ!?
まるで、貧血を起こして、目まいをさせたかのような感覚だ……。
…………。
もしかして……酸素が足りなくなったのか!?
1時間以上火の中にいて、酸素ボンベを吸わなかった事。
それが、今、仇(あだ)となって、オレの体を襲って来たのか!?
「ピカッ!!」
ピカチュウの叫び声と共に、鳴り響いたのは何かを切る音。
『ズシャッ!!』
オレの左腕を深く切られた音だった。
……危なかっ……た……!!
ピカチュウの叫び声に気付いていなかったら、
間違いなく胸を切られる所だった……!!
なんとかギリギリの所で致命傷を防いだが、一難去ってまた一難。
犯人のナイフの切っ先は間違いなく、
今度はオレの心臓に向かっていた!
おまけにオレは意識がもうろうとしていて、かわしきる事が出来ない……!
ピカチュウが駆け寄って来る音と共に。
犯人のナイフがオレの心臓に向かって――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「隊長……!! これ以上は危険ですって!!!」
「いいから、もう少し待ってろ。もうすぐ、助けが来る」
かつての救助活動。
その矢先に起こった事故。
ゴウの体は宙に浮いていた。
隊長の手はゴウの手を繋いでいた。
一歩間違えば、死を招く、断崖絶壁。
「隊長……」
「なんだ、ゴウ?」
ゴクリと響く唾(つば)を飲み込む音。
「その手を放して下さい」
諦めの言葉。
そして、
道連れを防ぐ言葉。
「いやだね」
きっぱりと断りの言葉。
「ですけど……隊長! これ以上は……!!」
説得の言葉。
「るっせぇ!! 最後まで諦めんじゃねぇ!!」
喝の言葉。
「最後までやらなきゃ、まだ分からんだろうが!!」
それは救いの言葉となる。
「いいか、ゴウ! 
 運命っていうのは、
 ソイツの頑張りで変える事が出来るんだ!」
そして放った言葉は
この先
ゴウの熱血な性格を更に熱くする事になる。
「最初っから、もう、負けを認めんじゃねぇ!」

「最後まで諦めるな!! 
 それが生き様っていうもんだろうが!!!!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『ズシャッ!!!』
今度の音は何かを貫通させた音。

「なっ……!?」
「へへ……捕まえたぜ」
ナイフが手のひらから、そして手の甲へと貫通させた音。
そしてその音と同時にナイフが貫通しているオレの左手は
犯人の柄(つか)を握る手を掴んでいた。
「は、離せ……! 離しやがれェ!!!」
ジタバタする犯人。
けど、無駄だ……オレの握力をナメんなよ。
「ピカチュウ! オレの体ごとで構わねぇ! そのまま『でんじは』だ!」
「ピカッ!!」
分かった! と言わんばかりのピカチュウの鳴き声の後。
「ピ〜カ〜……」
ほとばしる電気の音。
「チュッ!!」
そして『でんじは』がオレの体を襲い、
「ウ……うわァァぁァァ!!!!」
『掴んだ手』経由で犯人の体にも『でんじは』が流れ込む!
電撃の音が鳴り止むと、オレは犯人が貫通させたナイフから引き抜く。
血が一瞬、引き抜かれた動きに飛び散る。
オレは唇を血がにじむ程、噛みしめて、
痛みと体のシビれに耐え、
そのまま一歩、二歩、ステップを後ろから前へと体ごと動かし、
「オレは最後まで諦めねぇぜ!!」
叫び声と共にケガをしていない右の拳を
「グぼわぁぁ!!!」
体重を乗せて、犯人の顔面に直撃させた。
犯人の顔から骨が軋む(きしむ)音がハッキリと聞こえる程、
力強く。
「ピカッ!!」
犯人が倒れると同時にオレも倒れた。
ピカチュウが急いで駆け寄って来てくれた。
「あぁ、大丈夫だ。ピカチュウ。悪リィな、心配かけさせちまって」
体のシビれ、そして手の痛みが残っているものの、
オレはなんとか立ち上がってピカチュウに笑顔を見せた。
一方、犯人の方は完全にノビているようで、
今の所、目を覚ます気配はなかった。
……勝負アリってとこだな。
『0:37』
……そして確実にオレとピカチュウの終わりが近づいていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『0:27』
だいぶ消火が進んだ場所にオレとピカチュウがいた。
そう、オレとピカチュウが本来、死んだ場所だ。
例の空中で止まっている大木が夢のように。
けれど、手に走る痛みが嘘ではない事を告げていた。
「ピカ……」
「戻って来たんだな……ココに」
辺りから焦げくさいにおいが漂う中、
オレとピカチュウはゆっくりと自分達が死んだ場所へと歩いていた。
そう、本来、死んだ場所へ……だ。
「いつつ!! ……あっ、ワリィ。ありがとな」
さっきの犯人との戦いでダメージを受けていたオレは足元をよろめいてしまうが、
あの例の審判団が肩を貸してくれた。
……優しい奴ら……なんだな……多分。
あっ、そうそう。
犯人の奴は近くにいたらしいポケモンレンジャーに
ランが連絡を取って確保してもらった。
オレの方はピカチュウと一緒に一回戻ると言って、
先に行かせた。
そして、今。
オレとピカチュウはこの場所にいる。
『プルル……』
さて、死んだ場所に向かおうとした時、
通信音が静かに鳴り響いた。
……最期ぐらい、我がまま言ってもいいよな……?
そう、オレが目で語ると審判団は『どうぞ』といった感じで手の平ををさし出した。
オレはその言葉に甘えさせてもらった。
「……もしもし、ランか?」
オレとランの最後の会話が始まった。

『ちょっと、ゴウ! あんた、今ドコにいるの!? 連絡はくれないし……!』

「あぁ、ワリィ。多分、森を下っていると思うから……そろそろ……かな」

『それなら、いいんだけど……。
 でも! あんたの通信機に備えつけてあったGPSが反応しなくなるし……。
 なんか、あったんじゃないのかな……って』

「多分、犯人とやり合っている時に、
 どこかヘンな所にぶつけたからかもしんねぇな」

『……もし壊れていたら、弁償だから。覚悟しなさいよね』

「……まじか?
 ……なんとかなんねぇかな。
 ホラ! 犯人も捕まえてたんだからさ!!」

『それと、これとは話は別!!』

「やべぇ……!
 もし、弁償だったら、払えねぇかも……給料前だし……!!」

『全く、貯金していないのがワルイんでしょ!』

「……厳しいな……おい」

『まぁ……今回は頑張ってくれたし、アタシからも払ってあげるわよ』

「今回は、じゃなくて、今回も! だろ。
 ……っていうか、ソレでまた昼メシおごって〜
 ……とか言うんじゃねぇだろうな……?」

『そうだけど、いけない事かしら?』

「……いや、喜んで、おごらせてもらいます……」

『分かれば、よろしい』

……そんな、いつもと同じような、
ランが上でオレが下の会話が続いた。
だが、もう、こう会話とも
そしてランとも、
別れる……と思うと、なんか胸が熱くなって来た。
話してて、今更ながら気付いた。
……そういえば、もう死ぬのに、この先の事を話してたな……。
正直に言うと、もちろん……もっと生きたかった。
……この先もポケモンレンジャーとして、
たくさんのポケモンや人を助けたかった……。
でも、もう、この死は回避出来ねぇ、死だ。
……この通信が最期に告げられる言葉なんだな……。
オレは意を決して言葉を出した。

「なぁ、ラン。
 ……一言、言っておかなきゃいけねぇんだけどよ……」

『なによ、改まった感じだけど?』

「この前の約束、買い物に付き合うっつう約束……守れなさそうになった」

『まぁ……約束は約束だし。
 とまでは、流石のワタシも言わないわよ』

「……そうじゃなくてよ」

『なによ?』

「ラン……オレは……オレとピカチュウはもう……」


『プツンッ!!』


「え?」

「死んだんだ」と言う前に通信がなんと切れてしまった。
……なんで切れたんだ? と一瞬、疑問が出て来たんだが、スグに分かった。
……例の審判団が勝手に通信を切ったのだ。
「なに勝手に……!!」
『ピッ!!』
オレは怒った。
最期に告げる言葉だったのに!
もう、ランと話す最後のチャンスだったのに!!
『ピッピピ!!!』
オレの怒りと共に笛の音が鳴り響き、
そして、指でつくったバツ印をオレの前にいきなり指し出された。
オレはそれを見て、(というより審判団の勢いに押されて)
その意味を悟った。
……。
…………どうやら我がままが過ぎたらしい。
「……ピカ」
「気にすんな、ピカチュウ……どうやらオレが悪かったみてぇだから」
心配そうに見上げるピカチュウをオレは静かになだめた。
この制限時間付きの最期の時間は他言無用の約束らしい。
「……あっ、そうだ」
もう最後の言葉を
このまま歯切り悪くさせてしまっていいのだろうか? と。
オレがそう諦めかけた時、
一瞬、頭の中で何かが閃いた(ひらめいた)。
「なぁ……最後に、
 どうしても、アイツに……ランに伝えたい言葉があるんだ。
 ……言葉を録音して残すじゃ……ダメか?」
『ピッ……』
「もちろん、お前達の事とか、
 この時間についても言わねぇって約束する!」
オレがそう言うと、
審判団が何やら相談しあって、やがて――。
『ピッ』
首を縦に振った。
「ありがとな! 恩に着るぜ!」
オレはこの最後の機会をくれた感謝の意味も込めて礼を言った。
「ピカチュウ。ちょっと来てくれ。
 これからちょっと言葉を残すからさ」
ピカチュウを呼びながらオレは再び通信機を取り出した。
この通信機は通信機能だけではなく、
伝言を残しておける録音機能もあるのだ。
オレとピカチュウは静かに――。

『それではピーッという音の後に伝言を残して下さい』

最後の言葉を告げた。

―――――――――――――――――――――――――――

『0:03』

「残り3分か。なぁ、ピカチュウ」
「ピカ……」
残りの時間も後わずかになり、
オレとピカチュウは審判団に先導されて、
あの時、
約2時間30分前と同じ、
倒木につぶされた時と同じかっこうで、
オレとピカチュウは横たわっていた。

『0:02』

「ピカチュウ……」
「ピカ?」
「死ぬ前に一言、
 言っておかなきゃいけねぇコトがあるんだけどよ……」
……もう、あとは死を待つ身なんだが……。
どうしても最期にピカチュウに言いたかった事があった。
……いや、ピカチュウと一緒に話したかったというのもあるが。
「……今まで、オレと一緒に頑張って来てくれて、ありがとな。
 お前と一緒だったから、乗り越えられた問題もあったし。
 ……それと、ごめんな……オレのせいで……」
今回、オレだけではなく、ピカチュウをも巻き込んだのは
間違いなくオレのせい……とオレは思った。
あの時、もっとオレがしっかりしてれば……。
「ピカッ!」
「痛ッ! な、なにすんだよ、ピカチュウ!?」
オレが後悔の念を引いていた時、
突然、
ピカチュウがオレの指を噛んで来た。
小さいけど、それでも鋭い牙は見事にオレの指にささっていた。
「ピカ! ピカピカ! ピカ! ピカチュッ!!」
オレの指から口を離したピカチュウは何やら勢いよく訴えかけて来た。
……なんか、怒ってる感100パーセントなんですけど……。
「ピカッ! ピカチュ!! ピカピカ!」

ピカチュウはちっちゃな手で
オレを指し、
自分も指し、
そして、
心臓の所に自分の手を当てた。

……何年もピカチュウと一緒にいたんだ。
……分からねぇ事はない。
だから、
ピカチュウが何を伝えたいのかが分かった瞬間、
オレは泣きそうになった。

「……オレとピカチュウは親友、だから、いつも一緒。
 ……オレのせいじゃねぇって言いたいんだな?」

……自分一人のせいにして……。
ピカチュウと一緒にいるっていう事を忘れてた。
ピカチュウは本気で思っている。
だから噛みついて来た。
心から、と言わんばかり、叫んだ。
オレのせいじゃない。
オレとピカチュウが頑張った、
その結果、
運悪く死んでしまった。
だから、
オレ一人で抱え込むな。
……そうピカチュウは言いたかったのだ。
「ピカ……」
ピカチュウは静かに微笑むと、
オレの噛まれた跡の指を静かに舐めてくれた。

『やっと……分かってくれたね。
 ……ボクはいつでも、ゴウの親友……なんだから』

一瞬、そんな言葉がピカチュウから聞こえた気がしたが、

今は、ただ、一言、こう言いたかった。

「ありがとな……ピカチュウ」

―――――――――――――――――――――――――――――

『0:01』

時間というのは、
あっという間に過ぎるもんで……。
未だに、オレとピカチュウが死んだ事を信じる事が出来ねぇが……。
犯人とのやり合いで出来たダメージの痛み。
ピカチュウに噛まれた指の痛み。
それらが夢でない事を告げていた。
「……なぁ、ピカチュウ」
「ピカ……?」
「オレ達、死んだ後、どうなんだろうな?」
正直、この後、どうなるのか分からねぇ。
……そういったところ、恐いけど。
「ピカッ、ピカチュッ」
ピカチュウは静かに頭を横に振った。
そして小さな手をオレの手に繋いで来た。
「……分からないけど……一人じゃねぇ。
 ずっと一緒だ……か?」
ピカチュウが静かに微笑んで、うなずいた。
「へへ、そうだよな」
オレは笑って、そう答えると、
ピカチュウの手をゆっくりと握った。
オレ達は今までずっと一緒だった。
だから、
きっと、
これからもずっと一緒だ。
この想いだって諦めなきゃ、絶対に叶う!
そう信じている。
……だって、
諦めない事が物語を始めさせるんだからな。

「ピカチュウ、ずっと、オレ達、親友だぜ!!」
「ピカ!」

『0:00』

『ピッピッピ――!!』

終了のホイッスルが森の中に響き渡った。
少年と電気鼠(でんきねずみ)は最期まで手を繋いでいた。
二人の絆を表すかのような
綺麗な
そして熱い
手と手の繋ぎだった。
少年と電気鼠を包み込む風は
とても優しかった。

一人と一匹の絆が輝いているかのように。

一人と一匹の絆が離れないように。

ゴウとピカチュウの親友の証が
死してもなお、
そこに、
輝き続けていた。

――――――――――――――――――――――――――

ピーッと鳴り響くのは開始の音色。


『ラン聞こえるか? オレだ、ゴウだ』

『ピカッ! ピカッチュッ!!』

『悪リィな、時間があまりなさそうだから……手短に話すな』

『ピカチュッ』

『そのさ……今まで、その、えっとぉ……』

『ピカッ!!』

『分かってるってピカチュウ!
 ……あ、え〜と。
 今まで、その、サポートしてくれて、ありがとな』

『ピカッピカッピカチュッ!』

『お前はいい女だからな。
 後は中身を磨いていくように』

『ピカ……?』

『いいんだよ、ピカチュウ。
 こういうのは、本当の事を言った方がいいもんだ』

『ピカ』

『ま、それは置いといてだな、ラン。
 後、一言だけ言いたい事があるんだけどよ』

『ピカッピカ』

『この先、
 色々と大変な事があるかもしんねぇけど、
 絶対、諦めるなよ!』

『ピカチュッ!!』

『隊長にも
 今までありがとうございましたって言っといてくれ。
 ……最後までオレ達は諦めなかった。
 という一言もヨロシク頼む』

『ピカチュッ!! ピカチュ……』

『……もう時間みたいだな。
 もう一言だけ、最後に言っとくぜ』

『ピカッ』

『……おめぇの事、
 ランの事……好きだぜ』

『ピカチュッ!!』

『それじゃあな、元気でな、ラン』

『ピカッ!!』


ピーッと鳴り響くのは終わりを告げる音色。


『以上、午後4時35分に残った伝言です』


通信機が伝える再生終了の案内。


一部屋に置かれていた
ゴウとピカチュウが残した言葉。
ランは静かにソレを聞いた後、
ゆっくり、立ち上がった。
「……今日も諦めないで、頑張るわよ〜!!」
ランは立ち上がると、
写真一枚、
ポケットの中から取り出した。
「ゴウ、ピカチュウ……アタシも……
 あんた達の事、大好きなんだから……見守っていてよね」
そこに映っていたのは
ゴウとランとピカチュウが笑顔で写っている写真。
……あのバルバの森での放火事件から約半年後。
悲しみはまだ心に残っている。
けれど、
ランはゴウとピカチュウの意志をもらった。
だから、
負けていられない。
そして、
だからこそ、
頑張る事が出来る。
「さて、今日もゴウやピカチュウに笑われないように、
 しっかりしなきゃね!」
そう言葉を出すランは前へと歩き始めた。

ゴウとピカチュウの想いと共に。

諦めない心と共に。

―――――――――――――――――――――――――――


【『だいばくはつ』しながら書いてみました】


この物語を書いたノートから若干、直していたりしますが
(漢字の間違いとかなど)
当時成分95%は含まれていると思います。
改めて、読み返しながらパソコンに打っていると、
「ここは……展開的に無理があるんじゃ……?」と
……読み返す事の大事さが伝わって来た今日この頃です。

ロス・タイム・ライフから
ポケモンレンジャーの熱血な物語を書いてみた結果がこれでした。(汗)
とりあえず改めて、自分の我がままに付き合ってくれた
この物語に「ありがとう」と言っておきます。

そして、ここまで読んで下さった方、
本当にありがとうございました!


それでは失礼しました。


【『だいばくはつ』を恐れないで!!】


  [No.959] 十二番目、逝ってみよー 投稿者:   《URL》   投稿日:2010/11/12(Fri) 21:16:40   79clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5



書いた作品の内、投稿しなかったものはほぼ消してしまっているので、私の黒歴史は消失しました!

と思ったら日記に小説の一部が残ってました。
ただそれも、日記自体を紛失したため、四、五年前からのしかありませんが。

書いた時期→三年前の大学入試の数日前

書いた理由→ストレスが溜まってたんでしょう

それまでの遍歴→演劇脚本1本、オリジナルの漫画1本は完結。その他書き散らしたオリジナル漫画は完結せず。
ポケモン長編小説に手をつけたけどろくに書いてない。
オリトレの冒険譚とか考えましたが、旅に出た次の日ぐらいで投げ。
ポケダンのニューバージョンとか考えましたが、主人公がギルド行ってチーム結成したら投げ。

というわけで、浪人時代に書いたものの第一話を晒します。
自分でも何の話の第一話か分からないんですが。(上のオリトレのでもポケダンのでもない……何これ)

タイトルは『二匹で怪盗を』

〜〜〜

 昔々、この大陸にポケモンの一団がやって来て、ここをポケモンの楽園にしようと決めた。
 人間が入って来られないように、何匹かのポケモンがこの大陸全体に結界をはった。
 そうしてここは、ポケモン達だけの大陸に――楽園になった。

 この大陸にはそんな言い伝えがある。
 嘘だ、という者もいるし、本当だ、という者もいる。
 ただ、この大陸に人間が入って来れないのは本当のことだったし、それが結界のせいであることも確かだった。
 だから、言い伝えは本当だという者の方が多かった。
 ただ、その言い伝えが、本当は何を意味するのかまで考える者は……


 クレイヴは思いっきり羽を伸ばすと、そのまま羽を振り下ろして、近くの街灯まで飛び上がった。
 様々に入り組んだ道を、様々なポケモンが行きかっている。

 その光景は、確かに“楽園”にふさわしい、穏やかそうな光景だった。


 クレイヴはぐるりとあたりを見回す。誰かの家の窓ガラスに自分の姿が映る。
 見慣れた山高帽のような頭、大きな嘴を持つ黒い鳥が映っている。
 あの窓の向こうで、誰が、どんな風に暮らしているのだろうかと考えながら、その下の階、そのまた下の階と視線を下ろしていく。

 そこで、一匹のグレイシアに気付いた。目が止まった、と言うべきかもしれない。
 ただ、そのグレイシアは見たことがあるような気がしたのだ。
 クレイヴはじっと、その姿を目で追う。

 雪と氷の力を授かったイーブイは、路地裏へと消える。
 A.M.8:00。
 クレイヴはそこで自分が出勤中だったことに気付き、慌てて飛び去る。

 A.M.8:15頃。グレイシアはある光景を目にする。
 それは、何の変哲もない、珍しくない光景だった。
 だから、このグレイシアが気にも止めず、通り過ぎて行ったとしても、何の不思議もなかった。
 もし、グレイシアがそうしていたら、このまま何も起こらず、物語はここで終わっていただろう。
 だが、そうはしなかった。
 そして、何もかもが変わった。

 道端で、小柄なポケモン2匹が何匹かの図体のデカいポケモン達に囲まれている、
 この楽園と呼ばれる場所で、残念なことに珍しくない風景であった。

 4匹のポケモン――ゴローン、エルレイド、ハッサム、ニョロトノ――が小さなポケモン2匹に難癖をつけていた。こういう場面ではいつも、難癖をつけている方が悪い奴で、その悪い奴が勝つと決まっている。道理ではないが、とにかくそうなっている。
 グレイシアはその光景をじっと見つめる。ただ、何となく見ている。

「ここいら俺たちのシマなわけ。分かる? 縄張り。領地。テリトリー。分かる?」
 不自然に語尾を上げて喋っているのはエルレイドというポケモンだ。一般にエルレイドは礼儀正しいポケモンらしいが、天地が引っくり返っても、このエルレイドは礼儀正しくないと言える。
「入って来ちゃだめなの。分かる?」
「それとも迷子でちゅか〜、おチビちゃんたち」
 エルレイドに続いて、不自然な赤ちゃん言葉で話し出したのはニョロトノだ。トノというのもおこがましい。
「ここは入って来ちゃいけないんだよ?」
 粘り着くような声で話すのは、ゴローンだ。
「入って来るような悪い子は、罰を受けなきゃねぇ……」
 そう言って、4匹全員が1歩進む。

「うっせーな」
 輪の中心から、声がした。その場にいた全員――4匹の悪い奴らと、グレイシアを含めたやじ馬たち――が驚いた。
 この場で下手な事を言ったら、あの世への切符が簡単に手に入る。そんな状況なのだ。
 にも関わらず、さらに声は続ける。
「俺たちがどこいよーとどこ行こーと俺たちの勝手だろうが。大体ここ道だろ。公有地じゃねえのか?
 公・有・地!」
 4匹が輪をくずしかけて、囲まれているポケモンがグレイシアに見えた。
 ピカチュウと、リオルだ。正直、勝ち目はなさそうだな、とグレイシアは思う。
 彼ら2匹は幼かった。ただいきがっているだけに見えた。その時は。

 ピカチュウが「文句あんのかこらあ!」と叫び、「お前も何か言ってやれよ」とリオルをけしかけた。
 ただ、リオルは「普通に謝って通してもらった方がいいんじゃないですか?」と言っている。
「そうだよ、嬢ちゃんはよく分かってるじゃないか」
 勢いを取り戻したゴローンがそう言った。
「いや、だめだ」ピカチュウが言った。「こういう輩は大人しくするとつけ上がるからな」
 リオルが、困ったような表情をした。4匹がさらに詰め寄る。

 リオルは半ば困ったような、半ば諦めたよな口調で喋り出した。
「でも……」
 その言葉の後にこんな言葉が続くと、この状況で誰が想像しただろうか。

「正直今、バトルするの面倒くさいです」

 場が凍りついた。


〜〜〜


設定を書き散らすのが趣味だったので、無駄に設定が多かったりします。
むしろ本編がなくて設定集だけあったりしてね。
設定集のために設定を考えてね。それも厨二病な設定をね。

きとかげ は だいばくはつ を くりだした!


【長編書くのに大風呂敷広げるのは若気の至り】
【みんなも恥ずかしい長編小説の設定を晒せばいいのよ】

オリトレの話は、何か主人公がポケモンと喋れる設定でした。
しかし手持ちの中に喋るポケモンがいました。なんという無駄。
ポケダンの方は主人公のチーム以外にも三つ四つチームがありましたが、全部話に絡んできませんでした。
あと、十人分くらいポケモントレーナーの設定を考えて、考えただけで終わりました。

なんだろう、綿胞子で首がしまるようなこの感じ。

【小説を読んでもらうためには本編を書くべきだ、と気付くのに六年かかりました】


  [No.970] 13爆目、しめりけなにそれおいしいの? 投稿者:海星   投稿日:2010/11/17(Wed) 18:19:22   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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ポケ小説を書き始めたのが最近なので、探すのに手間は要りませんでしたが、出すという勇気が出て来ず、今に至ります。

なんか長編書こうとしてて、でも結局飽きたっていうやつですねw
主人公はポケモンにトラウマみたいなのを持っていて、でも初心者トレーナーになってジョウトを旅し始めて、途中でライバル的存在も見つけたり、コンテストに覚醒したりする話――の予定――だったんですね。

第一話晒してみよー

――――――――――――――――――――――――――――

「いあぁあぁぁぁっ!!」

 ノエルは顔を真っ青にして飛び退き――思い切り転んだ。
 幸い周りは草むらだったので頭は打たなくて済んだが、草むらをかき分けてくるゴソゴソという音に彼は震えた。
 急いでポケットのあたりを探り、モンスターボールを掴もうとするが、こういう時に限ってベルトに引っかかったりする。
 やっとの思いで手に取ると、真ん中のボタンを押し、空中に勢い良く投げた。

「ブ、ブ、ブ、ブ、ブビィ! 出て来ォいっ!」

 モンスターボールが開くのと同時に中から白い光が出て、元気良くブビィが登場した――が、命令するはずの主人の声が聞こえないので不思議そうに振り向き、泡を吹いて気絶しているノエルを発見した。
 二度見したが、やはり彼の魂はどこかへ飛んでいっているようで、ブビィは焦った。
 (主人がっっいつも3回くらいおかわりする、運動は大得意だけど逆上がりだけできない、情にあつくて涙もろい、あの元気だけが取り柄の主人が倒れているっっっ!!!)

「ブビィィイ!! ブゥウビィ!!!」

 必死にノエルの頬を殴るが、一向に目を覚まさない。

「ブビィ……」

 どうしようかと悩むのと同時に怒りを感じたブビィは、ノエル腹に乗って飛び跳ねようかと足をかけ、そこで後ろに気配を感じた。
 振り向く。
 そこには、恐ろしい形相のリングマがいた……。
 流石のブビィもこれには失神しかけた。
 が、歯を食いしばってリングマを睨み付ける。
 弱い主人を守らなければいけない、という少々上目線な考えの為だった。
 リングマの視線が逸らされ、ノエルを見た、そのとき。
 ブビィは“えんまく”攻撃を繰り出した。
 口から真っ黒い煙をリングマの顔目がけて吐き出す。

「ガァア!」

 リングマは頭にきたようで、唸り声を上げ、爪をブビィに向けようとしたらしく、暴れ回った。
 リングマにはブビィが見えていないのだ。
 しかし、そこら中に広がる煙のせいで、ブビィにもリングマが見えていない。
 しゅっ、しゅっ、と空を切る鋭い音の気配から逃れるべく、自分なりに行動しながら、ブビィは(もう少し考えて“えんまく”をするんだった)と後悔した。

「……ウガァア!!」

 なかなか思うように攻撃ができないのでイライラし、リングマの怒りは更に高ぶる。
 ブビィの肩に爪がかすった!

「ちょっと、リングマったらどこに行……凄い煙! また小さいポケモン驚かしてたの!?」

 そのとき、突然女の子の声がして、リングマが甘えたように鳴いた。
 ブビィは何が起こったのか良く理解できないでいたが、とりあえず危険は終わったのだ、とほぅっと胸を撫で下ろした。
 が。

「まぁ! ブビィじゃない!! かぁわぁいぃ!! 次のコンテストにすぐ出られる可愛さだわ……! ゲットしちゃうー!」

「ブッブビィイ!!?」

 急に抱き上げられ、慌てるブビィ。
 そして、女の子に踏みつけられて目を覚ましたノエルであった……。


――――――――――――――――――――――――――――

HAHAHA、気にするな。

このモンスターボールは自爆製でな、投げるとすぐに爆発するんだ。

おぅ、待て待て。

落ち着きたまえ。

勿論落としたって爆発するさ……そう、押してもね。

だから十分に注意して扱ってくれたまえ。

ん?

中身?

ボールにシール貼ってあるだろ、そう、『海星』って。



【爆逃げするのよ】

【さぁ後に続けー!! (て下さいー)】


  [No.1201] まさかの14番目(?)降臨 投稿者:レイニー   投稿日:2011/05/18(Wed) 02:01:30   78clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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HDD整理してたら、2003年に書いたものが出てきたので。
どこかに投稿する度胸もなく、お蔵入りになったもの、まさかの本邦初公開です。

ポケスペ第3章の話です。ワタル→イエローのカップリング注意。
完全に妄想の産物。


タイトル「海に浮かぶ想い」

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ここは、うずまき列島。
一番南のその島に、彼は、いた。
彼の名は、カントー中に知れ渡っている。
そして、ジョウトにも知っている人は、大勢いるだろう。
彼のことが、テレビニュースで、大々的に放送されてもおかしくはない。
なぜなら、一年前、ポケモン達の理想郷を造るため、
カントー全土を造り替えようとした、四天王の一人だからだ。
「竜」の使い手、と言えば皆さん御分かりでしょう。
彼の名は、ワタル。

彼は、いつものようにポケモンと共に過ごしていた。
と、波の音に変化が起きた。
ラジオを聴いてみる。この辺りに、巨大な渦潮が発生したらしい。
「ルギア」が目覚めたな、と彼は思った。
1年前、俺が手に入れようとした、「力」が、だ。
最もあの時は、イエローの奴に邪魔されて、失敗に終わったが。
だが、彼のおかげで、「人とポケモンとの共存」ということにも目が向くようになったのも事実だ。
今は、理想郷計画が実現しなかったことに、未練はない。
それはイエローのおかげなのかもしれない。

そんな事を考えていると、この瀧の裏の洞窟に、何かが入り込んできたようだ。
人を近付けたくないと言うワタルの思いが通じたかのように出来た渦潮に、
何かが、巻き込まれたような音がする。
彼は、ハクリューに、何が巻き込まれたのか、見てくるように言った。
時々、この辺りに住んでいるポケモンが紛れ込んでくるのだ。
だが、ハクリューが連れてきたのは、ポケモンでは無かった。
黄色い長い髪を、一つに縛った、少女だった。

少女は、冷え切っていて、完全に気を失っていた。
彼は、カイリューに、少し弱めの大文字を命じた。
その火で、少女を、暖めた。
彼は、その時、自分の心臓が高鳴っているのを感じた。
そして、なぜか緊張している自分に気が付いた。
何故こんなにも、この少女のことを、ここまで世話するのか、不思議だった。
普段なら、人が入り込んできた時は、ハクリューに近くの町まで運ばせるだけなのに。

そう思っていた、その時だった。
とたんに、渦潮が収まり、瀧が割れた。
彼は、なぜかその時、カイリューで、少女の体を隠していた。
彼女と一緒にいる所を、他の人に、見られたくなかった。

「戻りました。」
シルバーの声だった。
ここに入って来られるまでに、成長したらしい。
彼は、そのまま少女を隠し、シルバーと、話をした。
まだ、彼の心臓は高鳴っていたが、それを顔に出さないよう努めた。
が、彼の顔は、赤らんでいた。
シルバーはその事に気づいたが、あえて何も言わなかった。
彼はシルバーの話を聞き、セキエイに行くように命じた。

シルバーが、「奥の間」から出て行くと、彼は内心ほっとしていた。
少女を見付けてしまうのではないかと、内心びくびくしていた。
彼女の体は、温かくなっていた。しかし、一向に目を覚まさなかった。
不安になり、少女の側に近づいた。
彼は、彼女が寝息を立てているのに、気が付いた。
どうやら、眠ってしまったらしい。

彼は、彼女とずっと一緒にいたかった。
しかし、彼の立場が、それを咎めた。
自分は、四天王のワタルだと。
彼女が起き、自分を見たらその事に気づくかもしれない。
その上、彼は、温かくなった彼女の体から、かすかに「故郷」の香りを感じた。
カントー出身で有るなら、ますます、彼女は怯えてしまうだろう。
それが、恐かった。
彼女に怖がられてしまうなら、この事は、自分の胸の中だけにしまっておこう、
彼はそう考えた。

彼は、少女をカイリューに乗せた。
彼女に触れるたび、胸の鼓動は高まる。
彼女を何処に降ろすか考えていたら、中年の男が、浜辺で倒れていた。
よく見てみると釣り人らしき男は、浜に打ち揚げられたようだった。
恐らく、荒波にのまれ、ここにたどり着いたのだろう。
彼は、男のとなりに、少女を降ろした。
そして大声で叫んだ。
「大変だー!!人が倒れているぞー!!」
そして、カイリューに乗り、上空に上がった。
村の人が次々にやってくる。
彼はそれを見届けると、元居た場所へ帰って行った。

彼は、気づかなかった。
釣り人の男が、黄色い麦藁帽子を持っていたことに。


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今見ると恥ずかしすぎて泣けてくる。

【どんどん爆発すればいいのよ】


追記:余談ですが、サトチさんの影響をバリバリ受けまくった代物です(爆)