時には異質な者が生き残ることもある。
他人には無い何かを持っていることで、あらゆる状況の中で生きることができるのだ。
そう、ゴーストタイプに懐かれるカオリのように。
カオリは絵本を読んでいた。小さな本だが、外見から高価な物だと判断できる。
赤色の皮のカバーが鮮やかに浮かび上がる。
カオリの周りにはいつものようにゴーストタイプ達が集まっている。
カオリは本を読み始めた。
『おはよう』
『こんにちは』
『こんばんは』
『はじめまして』
『さようなら』
『またあいましょう』
たった一本の糸が、彼の声を届ける。
毎日、毎日。
相手は隣の少女。引っ切り無しに話しかける。
「きょうはなにをしたの」
「きょうはだれといたの」
少女は、答えない。
ある時、一度の返事があった。
「わたし、とおくへいくの。さよなら」
だが、今も話し続けている少年には届かない。
少女がいなくなったことすら、気付かない。
「おはよう」
「こんにちは」
「こんばんは」
「へんじをください」
部屋からは声だけが聞こえている。
そして、ある日。
「だいすき」
「あいしてる」
糸電話の糸が、プツリと切れた。そのまま地面に落ちる。
それ以来、少年の声はおろか、声を聞いた者はいない。
それでも、
「だいすき、あいしてる、きょうはだれといたの」
落ちた糸くずから、勝手に少年の声が飛び出してくるという。
カオリは本を投げた。厚い本はベシッと壁に当たり、そのまま床に落ちる。
「つまらないな」
ゲンガーがケタケタ笑った。ゴース、ゴーストもくるくる回っている。
「一度でいいから、命懸けの何かをしてみたいな」
そして思いついたように手を叩く。
「ねぇ、知ってる?シンオウ地方って場所には、ギラティナっていうゴーストタイプの伝説のポケモンがいるんだって」
カオリは部屋の真ん中まで来ると、両手を広げた。
「私、その子とトモダチになりたいな」
人を愛するより、ゴーストタイプを愛する少女。
彼女の無邪気さが、自分自身の運命を大きく狂わせていく・・
それは、不幸か。
歪んだ幸せか。
カオリにしか、分からない。