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  [No.948] 歪んだ少女 投稿者:紀成   投稿日:2010/11/09(Tue) 22:27:25   32clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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時には異質な者が生き残ることもある。
他人には無い何かを持っていることで、あらゆる状況の中で生きることができるのだ。


そう、ゴーストタイプに懐かれるカオリのように。

カオリは絵本を読んでいた。小さな本だが、外見から高価な物だと判断できる。
赤色の皮のカバーが鮮やかに浮かび上がる。
カオリの周りにはいつものようにゴーストタイプ達が集まっている。
カオリは本を読み始めた。


『おはよう』
『こんにちは』
『こんばんは』

『はじめまして』
『さようなら』
『またあいましょう』

たった一本の糸が、彼の声を届ける。
毎日、毎日。
相手は隣の少女。引っ切り無しに話しかける。

「きょうはなにをしたの」
「きょうはだれといたの」

少女は、答えない。

ある時、一度の返事があった。

「わたし、とおくへいくの。さよなら」

だが、今も話し続けている少年には届かない。
少女がいなくなったことすら、気付かない。

「おはよう」
「こんにちは」
「こんばんは」

「へんじをください」

部屋からは声だけが聞こえている。

そして、ある日。

「だいすき」
「あいしてる」

糸電話の糸が、プツリと切れた。そのまま地面に落ちる。
それ以来、少年の声はおろか、声を聞いた者はいない。


それでも、

「だいすき、あいしてる、きょうはだれといたの」

落ちた糸くずから、勝手に少年の声が飛び出してくるという。


カオリは本を投げた。厚い本はベシッと壁に当たり、そのまま床に落ちる。
「つまらないな」
ゲンガーがケタケタ笑った。ゴース、ゴーストもくるくる回っている。
「一度でいいから、命懸けの何かをしてみたいな」
そして思いついたように手を叩く。
「ねぇ、知ってる?シンオウ地方って場所には、ギラティナっていうゴーストタイプの伝説のポケモンがいるんだって」
カオリは部屋の真ん中まで来ると、両手を広げた。
「私、その子とトモダチになりたいな」


人を愛するより、ゴーストタイプを愛する少女。
彼女の無邪気さが、自分自身の運命を大きく狂わせていく・・

それは、不幸か。
歪んだ幸せか。

カオリにしか、分からない。