ポケモンストーリーズ!投稿板
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1002] 呼び歌 投稿者:   投稿日:2010/12/03(Fri) 14:19:30   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

遙か昔のこと。
西の地の南端に、山に囲まれた村がありました。村はひどく貧しく、人々は木々を木炭にする仕事で生計を立てていました。ある日、村の東にある洞窟を、1人の少女が背にかごを背負い、片手で松明を掲げ帰路を急いでいました。
少女は村の北にある町で木炭を売り、その金で木の実や野菜を買って帰る途中でした。
少女は寒さで身震いしました。少女の着ている服は薄手でひどく汚れ、おまけにそこかしこに穴が開いていました。
着物の隙間や穴から冷気が潜り込み、時折洞窟の天井から滴り落ちる水滴が、むき出しの腕にひどく冷たい感触を残します。
少女が両手をこすり、掌に白い息を吐きかけた時でした。
何か音が聞こえた気がして、少女は立ち止まりました。洞窟の風鳴りとは違うようでした。
どちらかといえば生き物の声のようです。
しかしよく洞窟にいる蝙蝠や鼠の鳴き声ともまた違った感じです。
それに、聞く者の心をかき乱すような悲しい声でした。
少女の脳裏を腹をすかして自分の帰りを待つ家族の姿がよぎりました。しかし素通りするのにも何やら気が引けて、ためらった末に少女は音の聞こえてくる方へ向かいました。音が聞こえてくるのは細い岩の割れ目でした。少女は岩の割れ目に身体を潜り込ませました。


……どれほど闇の中を歩いたでしょうか。不意に目の前が開けました。
少女は思わず歓声を上げました。目の前には岩に囲まれた地底湖が横たわっていたのです。
手に持った松明の光が黒々とした水面に反射し、ゆらゆらと波打っています。
好奇心に駆られ、驚くほど透き通った冷たい水に手を差し入れ、少女は1口飲み……慌てて吐き出しました。塩水だったのです。

―――――この湖、海と繋がっているのかな。

そう思って立ち上がった時、またあの音が聞こえてきました。しかも今度ははっきりと。
それは旋律でした。この世のものとは思えないほど美しく、そして悲しみに満ちた声。
少女は音の聞こえてくる岩陰からそっと顔を出し、目を見張りました。
背に甲羅を背負い、4つのひれを持つ1頭の海獣が水際に横たわっていたのです。
あの旋律は、この獣が出していたのです。しかし、海獣が苦しげに喘いで歌はふっつりと途切れました。
よく見ると首筋に傷があります。血が流れていました。あの歌声は、仲間に助けを求めてのものだったのでしょう。
少女は憐みの念に駆られて岩陰から出ました。その途端、海獣は恐ろしいうなり声を上げ始め、少女を睨みつけました。

――――食べられる……。

一瞬そんな事を思い、少女は足をすくませましたが、獣の唸り声はゆっくりと小さくなっていき、遂には力尽きたように身体を岩床に横たえてしまいました。少女は慌ててその傍に駆け寄りました。首筋の傷は深くはなかったようでしたが、ひどく出血しています。このままでは命に関わるかもしれません。その時、ふと少女は思いついて背中のかごから1つの木の実を取り出しました。黄色く、真中がくびれた木の実です。この木の実は獣の治療に使われる薬の元となるものでした。少女は木の実を片手に一瞬迷いました。この木の実は効き目が強い分なかなか見つけにくく、貴重品として重宝されていました。その薬を今ここでこの獣に与えてしまっていいのかと。
しかし、少女が次に顔を上げた時、もうその顔に迷いの色はありませんでした。


「おはよう、元気だった?」
聞きなれた声に、海獣は喉を鳴らして答えました。甘えるように身体をこすりつけてくる海獣の首に、少女が嬉しそうに抱きつきました。
獣の首の傷はかさぶたのようになっていて、もうほとんど治りかけていることが分かります。
少女をこの不思議な獣が出会ってから4カ月が過ぎようとしていました。7日に1回怪我の具合を見に来る少女に最初の内は警戒心をあらわにしていた獣も、徐々に心を開いていき、今では心が通い合う仲となっていました。
少女は水際に腰掛けて、裸足で水面を蹴りながらいつものように最近起こった出来事を話し始めました。
「この前ね、村に旅芸人が来たんだ。ほら、この前の祭りの時。それでさ、その一行の中に歌い手がいたんだけど、その歌がすごくきれいだったんだ!」
少女は無邪気に笑いながら語る姿を、獣は目を細めて見ています。
「でも、歌い手っていいよね。あぁ、あたしも大きくなったら歌い手になりたいなぁ。それで、国中旅して、歌って回るんだ」
そう言った時の少女の笑顔に、陰りはありませんでした。幼い子供が叶わない夢だとは分からずに夢を語る時の晴れやかな表情でした。
海獣は何も言わずにその横顔をじっと見つめていました。
その時、少女が獣に顔をむけ、あのね、と少し恥ずかしそうに切り出しました。
「それで、もしあたしが歌い手になったら一緒に行こうよ。2人で、歌ってさ」
海獣は少し瞬きした後、こっくりとうなずくように首を振りました。それを見て少女が弾けるような笑顔になりました。
「本当?! じゃあ、約束だよ!」


―――――しかし、別れは突然でした。
その年の秋、国中をひどい飢饉が襲いました。
あちこちの村で凶作が相次ぎ、米は病で黒く腐り、道のあちこちに骨と皮だけになった死骸が転がるようになりました。
やがて家族を養うことすらできなくなった大人達の中に、自分の家の娘を売るものが次々に現れ始めました。
あの少女も例外ではありませんでした。


少女がいつも洞窟に来る日が来ました。
海獣は日がな一日ずっと待っていました。少女の姿は見えません。声もなかなか聞こえてきません。待っていれば来ると思ったのでしょう、
いつもならその日の内に湖を抜けて自分の暮らす海へ戻るはずの獣は、岩床に身を横たえて眠りにつきました。


海獣はひどくやせ細っていました。もうどれほどの時間が経ったのでしょうか。水苔や、小魚を食べて命をつなぐにも限界が来ていました。
しかし獣は動こうとしませんでした。
澄んだ瞳から、涙がこぼれおちていきます。
『約束だよ』
海獣は横たえていた身体を起こし、首をもたげると美しい声で歌い始めました。
哀惜を帯びた旋律が大気を震わせ、こだまします。
その日、歌声はいつまでも止みませんでした。


冬が去り、春が来ました。歌声は止みません。
夏が過ぎ、次第に秋に近づいてきました。歌声は続いています。
冬が終わりに近づいたころ、ぱったりと歌声は止みました。
やがて春が来て、鳥達がさえずっても、洞窟から歌声は聞こえてきませんでした。


あれからどれほどの歳月が過ぎ去ったでしょうか。人は変わり、山も、村も変わりました。
あぁそうそう、いつからかは分かりませんが、再びあの洞窟から決まった日に美しい歌声が聞こえてきているそうですよ。


―――――ほら、耳を澄ますと聞こえませんか?


―――――――――――――――――
お久しぶりです、柊です。今回はつながりの洞窟の裏話を妄s……ゲフンゲフン。想像で書いてみました。
決まった曜日になると鳴くのは何故かな、ということで。ちなみに海獣というのはもちろんラプラスです。分かりづらいかもしれませんが(汗

PS:一部修正しました。セピア様、アドバイスありがとうございました!

【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【批評していいのよ】
【アドバイスくれたら嬉しいのよ】


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー