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  [No.1099] 幻影幻想曲 投稿者:紀成   投稿日:2010/12/27(Mon) 14:02:45   34clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

真冬、しかも聖夜の闇の中に映し出される家。
紅い炎に綺麗に包まれていく。
(今までありがとう、なんて)

全く思いもしなかった。早く消えて無くなってしまえばいいと思った。


カオリの部屋には、等身大の鏡がある。時々そこに立って、目を凝らすのだ。
やぶれたせかいへの、扉が開かないかと。
「あっちの世界は、どんな生き物が住んでいるんだろうね」
カーテンを開けると、冬独特の日差しが部屋に入って来て、暫く窓を明けていないことを思い出す。
そして、ヨノワールのことも。
彼とは二ヶ月近く会っていない。冷たく凍りつくような寒波のせいで、魂の回収が間に合っていないのだろうか。
貧富の差が激しいこの世界。自分はおそらく富のポジションだったのだろう。火宮の家は広く、数年住んだ自分でも分からない部屋が沢山あった。
御祖父様、御祖母様、自分の母となった叔母様。その他にも沢山の人間が住んでいたが、思い出せない。
いや、覚えていないの間違いかもしれない。だって、あの晩に自分以外全て一緒くたになったから。

ただの、醜い物に。

『とんでもない事を考えているな』
後ろから肩を叩かれて、カオリは我に返った。
「あの日にああしなければ、逆に自分が危なかった」
『重すぎたか』
「全く。逆に軽いくらい」
デスカーンは心の中で思い返していた。
あれから、一年近く経つ。ただの失火と警察では判断されたが、本当は・・
「私は自分の夢を叶えたかっただけなんだ。それなのに皆邪魔した」
夢は人を盲目にさせる。
「だから、全部一緒くたにした」

私達とカオリがやったことだ。
当初、警察も少しはカオリに疑いの目を向けたが四方向から同じ時間に火を出すことは時限爆弾でもないと限りなく不可能に近いため、結局失火による火事にまとめられた。
「そろそろ進展がある気がする」
『何がだ』
「ギラティナに会うシナリオが、始まる」


『・・その通りだ』


後ろから突然声がして、カオリは振り返った。気配を感じなかった。ゴーストタイプか。
カオリが、その名前を呼んだ。
「ヨノワール」
『今は、モルテと呼んでくれ』
モルテは柄に合わない態度だった。何か言わなくてはならないような、でも言いたくないような事を閉じ込めている感じだ。
「久しぶりだね」
『ああ。二ヶ月ぶりくらいか』
「自ら私の家に来るって無かったよね」
『・・・』
背後にいたデスカーン達は嫌な予感がしていた。いざとなったらモルテを攻撃するつもりで、戦闘態勢になっていた。
「で、用件は?」
『カオリ・・』

いつかは話さなくてはならないと思っていた。そうしなくては、カオリ自身も自分自身も両方報われない結末が待っていることになるからだ。
だが。

『私は・・』

言ったとしても、どちらかにはバッドエンドが訪れるのは決まっていた。

『ギラティナの、使いだ』

一分。ニ分。三分。普通なら短い時間だろう。だが後ろにいるデスカーン達と、返事を待つモルテには永遠に続くように思えるくらい長い時間だった。
「・・で?」
『は?』
カオリは肩を竦めた。
「質問してるのはこっちなんだけど」
『分かった。もう一つ付け加える』

考えれば分かることだ。
ギラティナは魂を冥界に送る仕事をしている。
その存在に会うということは、

『ギラティナに会うには・・死ぬ方法しか無いんだ』


・・今、こいつは何と言った?
死ぬしか無い?
夢を叶えるために、カオリは死ぬのか?

『ふざけるなっ!』
デスカーンが叫んだ。カオリの鼓膜がビリビリと震える。
『死ぬことで叶える夢なんて夢なんかじゃない!
ただの自己満足』
「黙れよ」
カオリが口を開いた。冷たい、凍てつくような声が全員の神経を震わせた。
「モルテ、それを私に言いに来たってことは・・
連れて行ってくれるんだよね?」
大きな手を取る。
「ねぇ?」
有無を言わさない口調。自分の死よりも、夢を叶えることを選ぶ・・
そういう意思が見て取れた。
『カオリ、私はお前を連れていくことは出来ない』
「・・どういうこと」
モルテの手がカオリの両肩を抱いた。
『死んで欲しく無いんだ』

暫くの沈黙。カオリはキョトンとしている。
不意に。
「・・はは」
カオリが笑い出した。
「モルテも私の夢を壊すつもりなんだね・・」
『さっきデスカーンが言った通りだ。死を持ってしてまで叶える夢なんて、夢じゃない』
「知らないよ」
冷たく言い放つ。モルテに抱きついた。
「この物語に幸せな終わりなんて誰も望んでないんだ。私の夢を壊すことが幸せな終わりになるの?」
『・・』
「答えてよ」

まるで駄々っ子だ、とモルテは思った。大人びているかと思いきや、玩具を奪われた子供の如く振る舞う。
カオリにとって、夢を叶えることは自分の存在意義だったのだろう。だからモルテに対して挑発的な態度を取っている。
(所詮はまだ子供、か)
そんな彼女を愛おしく思ったのもまた事実だ。そして、死んで欲しく無いと思ったのも、事実だ。
『夢を叶えられれば、死んでも構わないというんだな』
「そうだよ」
『では、反対に聞く』


『お前は何故・・震えている?』

モルテの胴体に抱きついたままのカオリの体は、震えていた。
「武者震いだよ」
『こんな状況で震えるのは武者震いとは言わない。
ただの拒絶反応だ』
カオリの体がピクッと反応した。そっと体から引き離す。
両目に、涙が溜まっていた。
「何だよ、」
『誰も幸せな終わりを望んでいないと言ったな。私からも言わせてもらう。


お前が夢を叶える代わりに死ぬことなんて、誰も望んでいない』

カオリは目尻に涙を溜めていたが、流しはしなかった。
幻影は泣かない。
あの日、家を燃やしてからずっと定めていた掟だ。
戻らない。戻れない。
それでも姓を火宮のままにしたのには、まだ甘かったのかもしれない。
自ら死にたいなんて思ったことは無かった。火宮の人間のことはどうでもよかった。ただ、両親の分まで生きようと思った。
「・・」
私が夢を叶えるために死んだら、あの二人はどんな顔をするだろうか。
見たくはない。
ただ、火宮の人間が生きていたら、見てみたい気もする。
醜く歪んだ、鬼の顔。

そこでまた、私はあの時と同じことをしただろう。
皆、同じ塊に・・

『カオリ』
『マスター』
後ろでゴーストタイプ達の声がする。焦っている様子は感じられない。
「モルテ」
『・・』


「私は、私の道を行く」



また、静かな夜がやってこようとしていた。
ただ、かつての静けさとは少し違った。
念、怨み、妬み、復讐。
そんな物はどこにもなく。

ただ、希望と絶望の色が半分ずつ混ざり合った。
そんな夜だった。

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『ファントムファンタジア』


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