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  [No.1173] 【再掲】新緑讃歌 投稿者:イサリ   投稿日:2011/05/10(Tue) 22:07:24   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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※注意 この話には、ゲーム内の登場人物に関する過去の捏造等が含まれております。
 苦手な方はご注意ください。








 これは、あたしがまだコトブキのトレーナーズスクールに通っていた頃の話。
 あたしはハクタイ郊外の、花に囲まれた小さな家に住んでいた。

 あたしの家族はみんなお花や草ポケモンが大好きだった。
 父さんのドダイトスは、いつもお庭で昼寝をしていて、甲羅から生えた樹の枝には時々ムックルが止まりに来た。
 母さんのチェリムは、とても恥ずかしがり屋で、普段は顔を隠していたけれど、良く晴れた日には桃色の花びらを広げて嬉しそうに踊った。

 あたしにとってはお花や草ポケモンを育てることは、朝起きて『おはよう』と言うくらいに当たり前のことだった。
 ポケモンについてノートと鉛筆で勉強するだけだった頃から、自分も将来は両親と同じように草タイプのポケモンの専門家になるのだろうな、と漠然と信じていた。

 そしてあたしは、一つの鉢植えを育てていた。


 その鉢植えに花は咲いてない。それどころか葉っぱもない。枝もない。――外見上、それは土の入った植木鉢だ。
 種を植えてまだ芽が出ていないのだから当然とも言えた。

 種を植えたのが秋の終わり。順調にいけば春の訪れとともに芽を出すはずだ。
 自分の腕でも持ちあげられる小さな植木鉢に種を播き、土をかぶせた翌日から、あたしはその日を待っていた。



  ◇

 

 両親の他にもう一人、あたしの草ポケモン好きに影響を与えた人がいる。
 ソノオタウンに離れて暮らす祖父だった。街中の喧騒を嫌い、さびれた田舎町の、花と緑に囲まれた赤い屋根と白い壁のおしゃれな家で、彼は暮らしていた。
 ――私の生きている間にソノオの町を花でいっぱいにするんだよ。……このロズレイドと一緒に、ね。
 長年連れ添ってきたパートナーの隣で、彼は口癖のように呟いていた。
 
 ドダイトスもチェリムももちろん好きだが、祖父のロズレイドがあたしは一番好きだ。
 ラジオから流れるワルツに乗って、色取り取りの花びらを散らせ舞い踊る、その優美な様は言葉では言い表せないほど素晴らしかった。
 あたしも大きくなったらロズレイドと仲良くなりたい。自分が初めて扱うポケモンは、進化前のスボミーがいい。……そう、強く願っていた。



  ◇



 朝起きるたびに外に出て、玄関脇の宝物の様子を確認する。
 鉢植えから芽が出るのは今日かもしれない。今日がだめなら明日かもしれない。今週は寒くなると言っていたから……暖かくなったら、きっと……!
 毎日毎日、変化する様子のない植木鉢を観察した。水のやりすぎは良くないと知ってからは、コダックじょうろで大雨を降らしたりはしなくなった。



  ◇



 何時だったか、トレーナーズスクールの先生が、黒板を指しながら教えてくれた事を思い出した。

 ――みんな、いいかしら? ポケモンは皆、タマゴから生まれるのよ。
 ――鳥型や魚型、ドラゴンの姿をしたポケモンはもちろん、獣の形のポケモンも。

 ――植物の姿をしたポケモンさえも。

「ポケモンの誕生の瞬間は神秘に包まれているの。タマゴを持っているポケモンを見た人はいても、ポケモンがタマゴを生むところを見た人はいないわ。
 そして、ポケモンがタマゴ以外から生まれるところも、まだ誰も見たことがないのよ」


 あたしが育てているのは咲かない種だと人は言う。
 待つ甲斐無いと皆笑う。
 ――ブーケポケモンの腕から落ちた種子を拾って、いつかはスボミーになると信じているの? ポケモンはタマゴからしか生まれないのよ――

 

  ◇



 ――春よ来い、早く来い。
 地面に映る自分の影が最も短くなる時間帯にも関わらず、薄く煙をかぶせた様に白い空を見上げていると、無意識の内に口遊んでしまう。
 シンオウの冬は深い。
 


  ◇



 あたしにはわかっている。ロズレイドの花から落ちた小さな種子からスボミーは生まれないことを。……少なくとも、人の目の前で生まれる確率が限りなくゼロに近いことを。

 けれども草ポケモンの落とした種子は、死んでいる訳じゃない。いずれ芽を出すその時まで、じっと眠っているだけだ。それらは花になり、樹になり、生き物を取り巻く森になる。

 ずっと見てきたからこそわかる。

 鬱蒼と茂るハクタイの森を育ててきたのは草ポケモン達だ。
 種を植え、樹を育て、子供たちを守る揺り籠。
 ポケモンから森へ、森からポケモンへ。
 不思議な、不思議な、生命の輪が廻る――。
 


  ◇



 瞼を閉じて静かに想像する。
 秋に播かれた小さな種が、冬を耐え、やがて土を押し上げ双葉を開くその日を。
 


 春よ来い、早く来い。
 雪と氷に閉ざされた、長く暗い眠りの季節が今、明ける。




 若葉の萌ゆる春はもう、


 目の前だ。









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再掲載。
ジムリーダー、眠り、タマゴ という3つのお題を勝手に取り入れて書いたものです。
うっかり改行のおかしいバージョンを保存してしまっていたので、時間がかかってしまい申し訳ありません。

読んでくださり、ありがとうございました!!



【書いていいのよ】
【描いていいのよ】
【批評してもいいのよ】


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