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  [No.1278] ちょっとイレギュラーな出会いと顛末 投稿者:   《URL》   投稿日:2011/06/04(Sat) 07:30:53   42clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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※オリジナルの地名が出てきますが、読み進める上で問題はありません。
 問題ないはず、うん。



 祭りの熱気に浮かれるニシカの街を、首に空色のスカーフを巻いたイーブイが一匹で歩いていた。
 彼の名はアル。普段はパートナーの人間と共にあちこち旅をする身だが、今日は暇(いとま)を貰って彼一匹で来ている。パートナーの彼女曰く、「いつも私の近くにいる必要ないんだよ。たまには離れて散歩でもしといでよ」というわけで、アルは同胞たちとも別れ、一匹きりで街を歩いていた。
 ニシカにある大学が今日は学園祭だそうで、あっちこっち、構内から出て道の方にも模擬店の屋台が出ている。ソースの濃い匂いやら、リンゴ飴や綿あめの甘ったるい匂いやら、食べ物の匂いが目くるめく――鼻くるめく移っていって、ブラブラ街を歩くだけで楽しい。アルの目の高さに小物や飾り物、それにきのみなんかを置いてある店もあって、目の方も十二分に楽しめた。別に、パートナーや同胞たちといて息が詰まるということはない。けれど、こうして誰かの前や後ろを歩かず、一匹気ままに歩くのも、たまにはいいかもしれない。
 アルはそんなことを考えながら、でもやっぱり皆でわいわい騒ぎながら歩くのも恋しいかな、なんて思いながら、祭りに集まってきた喧騒をスイスイとくぐり抜けていた。人だかりが薄まる方へ行って、また小物や飾り物の置いてある店の前に出た。店の人は小さな石を連ねたブレスレットの商談にかかっていた。それを邪魔せぬように、アルはそっと人の隙間を通り抜けた。その隣、きのみの置いてある店の方から甘い匂いが漂ってくるのを感じて、アルは、そういえばお腹すいたな、と思った。
 太陽はまだ一番高いところまで昇りきっていない。お昼ご飯にはまだ少し早いかもしれない。でも、アルはずいぶん歩き回っていたのでお腹が減っていた。それに、お小遣いとして、パートナーからきのみの一つぐらい買えるお金は貰っている。どうしようかな。首元のスカーフと自前の襟巻きに引っかかるようにして、金臭いコインがぶら下がっている。太陽は明るく照っていて、これからぐんぐん暑くなりそうだ。
 よし決めた、とアルは呟いた。きのみには日除けがしてあるし、保存も効くらしいのだけれど、暑さにやられて味が悪くなる前に買って食べるに如くはない。そんなことを考えて、本当は一匹で買い物をするという経験を早くやってみたかっただけなのだけれど、とにかくアルは一歩前に出て、きのみの店の主が気付くよう、声を出そうとした。
 とそこで、店の隅の隅、きのみが籠ごとに分けられたその影で蠢いているそれを発見した。

 それは行儀悪く、体ごとモモンの実の籠に突っ込んで中身を漁っていた。柔らかいモモンは浅い籠に広げるようにして置いてあったから、それにも手が届いたのだろう。ぴちゃぴちゃとモモンの果汁が四方八方に飛び散り、甘ったるい匂いがそこから拡散して、アルの鼻は砂糖の霧に迷い込んだみたいに麻痺してしまった。
「何やってんの?」
 アルが甘い匂いに目をショボショボさせながら、それに問うた。それは今取りかかっていたモモンの実から顔を上げ、アルの方を真っ直ぐ見た。
 茶色い体に白の襟巻き、狐のような大きな尻尾。特徴を見ればアルにそっくりだし、それはアルと同じ種族のイーブイであることは間違いなさそうだった。けれど、
「……小さい」
 思わずアルはそう呟いていた。
 アルもイーブイとしては小柄な方で、平均の半分かそれぐらいしかない。しかし、目の前にいるイーブイはアルよりもっと小さかった。高々十センチかそこら、人間の手の平に軽々と乗っかりそうな大きさだ。
「ノナゥは小さくてもいいんでしよ!」
 ぱっとそれが声を上げた。耳が痛いくらい高い声で、キャンキャン騒いでいた。
「小さいからちょっとくらいつまみ食いしてもバレないじょ」
 そう言って、再び眼前のモモンの実を食らう作業に舞い戻る。
「ちょっと、つまみ食いなんていけないだろ」
「いいんでし。バレても“甘える”とか“嘘泣き”とかすれば誤魔化されるもんね」
「ダメだったら! お店の物、勝手に食べちゃ!」
 アルが声を大きくした。それに気付いたのか、お店を出している人間がアルたちの方へやってきた。
「ノナゥ、知ーらない」
 話し方からして恐らく一人称も名前も「ノナゥ」というらしい、小さなそれはモモンの籠の中でそっぽを向いた。明らかに現行犯である。人間もそれが分かったらしく、アルの方を一旦見てから、ノナゥを籠からつまみ上げた。
 それでもノナゥは肝が座っているというかいけ図々しいというか、人間の文字通り手の上にあって、焦りの顔も見せずそっくり返っていた。その余りの図々しさに、思わずアルが飛び出して「ごめんなさい」と言っていた。
「こいつ、ちょっとルールとか分かってないみたいなんだ。オレが後でちゃんと教えとくから」
 ポケモンの言葉は人間には通じないけれど、アルは声を張り上げてそう伝えようとした。人間は気のない声でふん、と言った後、手の上のちびを指先で撫で始めた。
「ごめんなさいでし。お腹がとっても空いてたんでしよ」
 何故だか人間の言葉を流暢に離すちびイーブイがそう言うと、人間は「仕方ないなあ」と言う代わりに顔を綻ばせていた。
 それを吉とばかり、ノナゥは小首を傾げて「悪いことをしたのは分かってるけど怒られたら困るなあ」みたいな顔を作ってみせた。目もちょっぴり潤んでいる。なるほど、先に言った通り“甘える”や“嘘泣き”で誤魔化すわけか。そうは問屋が卸さないはずが、あっさりと人間はノナゥを手の平から下ろし、「もう盗み食いするなよ」と言って放免してしまった。
「分かったでし」
「あと、これ」
 サービスだよ、と言って人間がモモンの実を一つノナゥに渡した。体ほどもあるきのみを受け取ってフラつきながら、ノナゥは「ありがとでし」を連呼していた。
「ほら、君にも」
 人間が事の次第をずっと見ていたアルにも、モモンの実の餞別を寄こした。アルが首を横に振っても、「いいから」と譲らない。せめてもの埋め合わせに、スカーフに挟み込んであった硬貨を籠の中に落として、モモンの実を入れ替わりにスカーフに挟み込んだ。
「モモンの実、ありがと……あ、こら、ちょっと!」
 事の発端になった癖に、平然とその場を後にするちびを追っかけて、アルも祭りの喧騒から離れる方へと駈け出していった。

「なんで追いかけて来るんでしか?」
「なんでって……」
 ノナゥはニシカの大学から外れた方、普段から人通りの少ない路地の端っこに座っていた。
 先程貰ったモモンの実はノナゥの口元と匂いにその痕跡を留めるのみになっていた。この小さな体のどこに入っているのやら。呆れながらもアルは用件を口にした。
「あのさ、あんな風に他人の物を勝手に食べちゃいけないよ? 今回はたまたま許してくれたけど、いつだってそうとは限らないし、それに行儀が悪いよ」
「ノナゥは誤魔化せるでしよ」
「そうじゃなくてさ」
 アルの説教に飽きたらしく、ピコピコと歩き出したノナゥの横に並びながら、アルは言葉を続けた。
「君さ、人間の言葉が上手だし、人のポケモンだと思うんだけど。やっぱり、だったらさ、いけないよ、盗み食いするのは。ノナゥは気にしないかもしれないけど、オレは、人のルールを守るのは大事だって思うよ。オレたち人の傍で生きてるわけだしさ」
 ノナゥの耳がパタパタ揺れた。聞いているのか、聞いていないのか、その丸くて黒々とした瞳からは判断が出来ない。
「ノナゥがルールでし」
 ちびはそう言って、道の真ん中にぽんと飛び出した。そして、たまたま通りがかった女の子の気を“甘える”のと同じ要領で引いて、その手に持っていたモモンの実をぱっと取り上げ、すかさず飲み込んでしまった。
「ちょっとノナゥ――」
「何すんのよ、このチビ!」
 女の子というのは仮の姿で中に雷親父でも入っているのかと見紛う剣幕で、女の子はスカートがまくれ上がるのも構わずノナゥを踏み付けた。容赦のないスニーカーの平底がノナゥを襲い、その一撃でノナゥはきゅうとなった。
「ああ、もうどうしよう!」
 ノナゥを踏み付けた女の子は、今度は真っ青になって細い路地の方へ入っていった。尋常ではない様子だった。
 気になったアルは、ひんし状態で道に転がっていたノナゥを口に加え、スカーフにモモンの実が挟まっているのを確認してから、女の子が消えた方へ、電光石火で駈け出していった。

 路地の奥の方には、たくさんのゴースと、一匹のムウマがいた。ムウマを心配そうに見つめる女の子の、遥か上の方にゴースがかたまっている。女の子もゴースたちも誰もが困り顔で、その渦中のムウマだけは、ただただ苦しそうに息を吸い、吐き、していた。顔色がおかしい。妙に赤紫がかっている。毒を食らっているのだ。
 ムウマたちに近付こうとしたアルの前に、ゴースたちが立ち塞がった。
「やっつけに来たんじゃないよ」
 ノナゥを口から離して、アルはゴースたちにそう言った。ゴースたちは、普段は凄みがあるだろう三白眼を昼の光に所在なげに晒して、不安げな表情をした。しかし、アルを通さないことで事態が動くとも思えなかったのだろう、すぐに道を通してくれた。
「ありがと」
 ゴースたちは野生らしい。この街の匂いがした。ずっとこの街にいて、街と匂いが同化してしまっているのだ。
 対して、毒を食らっているムウマの方は、ゴースたちよりも人間じみた匂いがした。今ムウマの傍にいる女の子とは、また別の香りだ。
「捨てられた。ムウマ、子ども」
 アルの頭に浮かんだ疑問に答えるように、ゴースの中の一匹が口にした。
「世話した、でも……」
 そこまで言って、目を伏せる。きっと、ゴーストタイプ同志のよしみでムウマの面倒を見てやろうとしたのだろう。しかし、何かの弾みでゴースの体の毒がムウマに回ってしまった。
「これから気をつければいいよ」
 殊に落ち込んでいる一匹――恐らくムウマに毒を盛ってしまった張本人――に声を掛け、アルは路地の奥へ進んでいった。
 女の子は可哀想なほど取り乱していた。よく見てみれば、かなり幼い。小学校には入ったろうが、まだトレーナー免許を取れる歳にはなっていないと断言できる。
「どうしよう」
 堪え切れなくなった涙が、一粒二粒、女の子の鼻先を伝ってムウマの頬に落ちた。ムウマが薄く目を開いて、口角を上げる。女の子はポケモンをゲットできる歳ではないし、ポケモンセンターはここから距離がある。動かすのはまずいからと女の子自らが走って買ってきたモモンの実は、さっきのアクシデントでなくなってしまった。八方塞がりだ。
「どうしよう」
 もう一度呟いた女の子に鼻面を押し付けて、アルの方を向かせた。アルがスカーフの中に優しく挟んだそれを見て、女の子の顔に血の気が戻った。
「それ、モモンの実だよね? もしかして、分けてもらえるの?」
 アルは了承の印に、モモンの実をスカーフから転がして出して、ついでに鼻先でムウマの方に押しやった。
「よかった」
 女の子はモモンの見に飛び付いて、それを指で小分けにしようとしてグチャグチャにしながら、ムウマの口に運んだ。見る見るうちにムウマの顔色が元の、夜空みたいな青っぽい黒に戻り、ムウマが目を開く。まだ体力は戻っていないようだが、ムウマは元気そうにヘヘヘと笑ってみせた。
「ありがとう、イーブイくん」
 お礼を言う女の子に尻尾を振って、アルは足早にその場を立ち去った。後は女の子とムウマとゴースたちの問題だと思ったのだ。
 路地の出口で不貞腐れていたノナゥをひょいとつまみ上げ、アルは路地を後にした。

「ノナゥはちょっと悪いことしたでし」
 ポケモンセンターの道すがら、アルの背中に乗って揺られているノナゥがそう呟いた。ポケモンセンターでトレーナーが待っているらしい。ゴースたちがいたあの路地からポケモンセンターまで、遠いのは知っていたが、いざ歩いてみるとかなりの距離があった。当然、話す時間もたっぷりある。
「しっかり反省して、もう盗み食いなんてやっちゃだめだよ」
 盗み食いより、ちゃんとしたご飯の方がきっと美味しい。
「トレーナーさんがノナゥのご飯を用意して待ってるんだろ?」
「用意してないかもしれないじょ」
 背中に乗っているノナゥが、顔を上げる気配があった。
「でも、帰るんだ」
 ノナゥがコクリと頷いた。

 その日、お腹ペコペコの状態で戻ってきたアルの前に、豪勢な菓子折りが差し出された。なんでも、氷を被った小さな竜が運んできたとか。入っていたのはお菓子と、小さなメッセージカードが一枚。
「何かいいことしたの、アル?」
「後で話すよ」
 アルはお菓子を後回しにして、パートナーが用意したご飯にがっついた。
 パートナーの彼女はそんなアルを見て微笑みつつ、メッセージカードに目を通した。

『空色のスカーフの騎士へ
 ご飯が美味しくなったお礼に』





**あとがき

いつかの閲覧チャットで頂いた「アルとノナゥ」というお題です。
アル、というのは拙作「イーブイの空を飛ぶ!」にて主役を張っているイーブイの名前であります。不甲斐ないかな、肝心の本編が一話しか書けてない故、仲間の名前も全て伏字となっております。ニシカってどこだよと思った方、もう何も聞かないでください。

【描いてもいいのよ】
【批評してもいいのよ】
【十年後にはニシカに着いてるといいなあ】


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