アッカはしばらくの間飛び続け、ヤグルマの森へやってきました。聞くところによれば、ビリジオンは思索の原という場所にいるそうです。早速いってみると、それらしいポケモンがいました。
「……あら、なにかしらあなた」
「あのー、あなたがしんかのきせきを持っていると聞いたのですが」
「しんかのきせき?ああ、あの石のことね。ここにはないわよ」
「ま、またですか」
「またってことは、あなたコバルオンのとこにいったの?我輩なんて、変な言葉遣いでしょ?」
「ええ、確かに。……あなたがビリジオンさんですか?」
「正確にはビリジオン(78)ね。念のため繰り返すけど、これは年齢ではなくてレベルよ」
「……あの、誰に向かって言ってるんですか?」
「わからない?読者によ。『連載や普段の短編じゃメタ会話を書かないようにしているから、たまには良いよね?』って作者が言うものだから」
「な、なるほど」
「それで、さっきも言ったけど、しんかのきせきはもうここには無いの。せっかくあの弱いコバルオンが隠れてたところを探しだして手に入れたのに、ガチムチテラキオンに取られたわけ」
「そうですか。そのテラキオンというのがどこにいるかわかりますか?」
「あのガチムチなら、チャンピオンロードにいるわ。普段は自分のいる部屋の入り口をふさいでる引きこもりだから、すぐわかるわよ」
「情報提供ありがとうございます。それではこれで……」
「待ちなさい。手土産の1つもなしに引き上げるつもりかい?アタシはそんなに優しくないよ!」
「ひ、ひいいいい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんn(ry」
「謝るのはいいからさ、アタシと勝負してよ。しんかのきせきを狙うからには、かなりのやり手なんでしょ?」
「はあ、それなら大丈夫ですよ。ただ、お手柔らかに……」
そんなこんなで、アッカとビリジオンの勝負が始まりました。ビリジオンはその速さとレベル差でアッカを圧倒します。アッカも負けじとネギを振り回しますが、いかんせん上手く当たりません。それもそのはず、ビリジオンの聖なる剣は遠くからでも遠隔操作できますが、アッカはネギを握っています。リーチが違いすぎるのです。
ここでアッカは考えました。そして、とんでもない行動を取りました。なんと命の次に大事なネギを、ブーメランのように投げつけたのです。ネギブーメランはビリジオンの額に当たり、ビリジオンをひるませました。するとすかさずアッカは飛び上がりました。聖なる剣の攻撃をものともせずに空中のネギを掴み、そのまま一撃をたたき込んだのです。
「ど、どうだ、アクロバットの威力は!」
「あら、これは凄いわね……!」
ビリジオンはこう叫ぶと、攻撃を止めました。
「……どうして攻撃を止めるんですか?」
「それはね、アタシが満足したから。いってらっしゃい、アタシとこれくらいやりあえれば引きこもりのガチムチなんて相手じゃないわ」
「あ、ありがとうございます!それではいってきます!」
こうしてアッカは、一路チャンピオンロードへと向かうのでした。
「遂に俺様に挑む奴がやってきたか」
イッシュ地方のチャンピオンロード、試練の室という部屋に、最後の相手はいました。アッカは武者震いをしながらも尋ねました。
「あ、あなたがしんかのきせきの所持者、テラキオンさんですか?」
「いかにも、俺様がテラキオン(97)だ。世界中を旅し、あらゆる経験を積んだ俺様には、お前のことが手に取るようにわかる。お前はカントー地方のカモネギ(79)だな?」
「その通りです。僕はあなたのしんかのきせきを狙ってやってきました。」
「ほう、ではビリジオンに会ったか。『ボクッ娘がいるならアタシって言う男がいても良いはずだ!』なんて騒いでたが、影響されてないよな?」
「それは大丈夫です。それで、まずきせきを見せてもらえますか?」
「大丈夫だ、問題ない。ほらよ」
テラキオンは懐からしんかのきせきを取り出すと、アッカに見せ付けました。その淡い紫の石は、ともすれば宝石のようです。
「こ、これが……!」
「……やはり欲しいか。ならば俺様が最後の試練だ。見事勝ち取ってみせろ!」
テラキオンはこう言うと、守りを捨てて近づいてきました。
「くらいな、インファイト!」
「ぐ、ぐわぁっ!」
アッカは避けようとしますが、さすがにテラキオンも予測済みでした。テラキオンの立派な角がアッカの懐を襲います。
「ふん、まずはこれくらい耐えてもらわねばな……ん?」
テラキオンは、手応えが無いことを不思議に思いました。そこで自分の真上を見てみました。
「なに、角の間にいるだと!」
「ふう、危ない危ない。僕は体が小さいから、これだけ角と角の間が広ければ、そこにおさまることもできるんだよ」
「なるほど、中々知恵のある奴だ」
「今度はこっちからだ!」
アッカは自慢の茎を振り下ろしながらテラキオンと距離を取りました。茎はテラキオンの左前足を斬り付けました。
「少しはやるようだな。だが!」
テラキオンは周りに響くくらいの声で吠えました。すると、アッカの足元から岩が突き出してきたではありませんか。しかしアッカは空を飛び、何とか避けます。
「そこだ!」
これを待っていたと言わんばかりに、テラキオンはアッカに岩を飛ばしました。アッカはこれに直撃し、地面に打ち落とされてしまいました。そこを先程の岩の刃が襲い掛かります。
「うわあああ!」
「ふふふ、どうだ俺の力は。ゲーム的には『うちおとすとかww』だが、小説的には非常に優秀な技だからな。そう簡単には負けないぜ」
「く、くそ……」
「というわけで、さっさとかたをつけるぜ。悪く思うなよ!」
テラキオンが再びアッカに向かって走りだしました。ところが、アッカは動きません。ただただ、テラキオンが来るのを待っているかのようです。
「勝負を捨てたか!これで俺の勝ちだ!」
テラキオンは力いっぱい角をアッカに差し込みました。しかし、なんということでしょうか。攻撃したテラキオンがその場に沈んでしまったのです。
「ぐ、一体何が起こったというのだ!?この俺が一撃でやられるとは……」
「それはもちろん、弱者の切り札、カウンターのおかげだよ」
「か、カウンターだと……」
「僕はあまり能力に恵まれていないから、なるべく大きなダメージが入る技が必要なんだ。その結果がこれというわけ」
アッカは胸を張って言いました。するとテラキオンは立ち上がり、大声で笑いだしました。
「ぐはははは!こいつは一本取られたぜ!さて、俺に勝った証だ、こいつを持っていけ」
テラキオンは、何やら小さい塊をアッカに渡しました。それは薄い紫色をしていて、光を反射してほんのり輝いてます。
「こ、これがしんかのきせき!これで僕も強くなれるはず……」
「……ところで、少し聞いても良いか?」
「何ですか?」
「お前は進化できるポケモンなのか?」
「私ですか?いえ、カモネギという種族は進化しませんよ」
「やはりか。……せっかくだから言っておくが、しんかのきせきで強くなるのは『進化できる系統でまだ進化しきっていないポケモン』だけだぞ。進化しないポケモンが持っても強くはならん」
テラキオンの言葉を聞いたアッカは、思わずしんかのきせきを落としました。
「そ、それ……本当ですか?」
「そうだ。俺もこのことを知った時には愕然としたもんだ。まあ、せっかくだから大事に持っておけ」
「……はい」
「……結局、僕は強くなれなかったなあ」
数日後、アッカはカントーの森に帰ってきました。行きはスワンナに乗りましたが、帰りは自分で飛んで帰ったのです。
「あ、アッカ先輩じゃないっす……か……?」
「ただいまドードリオ。そっちは何かあった?」
「俺には何もないっすけど……それより先輩、どうしたんすか、こんなに強くなって!」
「え?」
アッカはドードリオの言ってることがよくわかりませんでした。するとドードリオは、血相を変えてこう言いました。
「先輩、気付いてないんすか?先輩のレベル、100になってるっすよ!」
「まさか、そんなはずが……ああ!」
アッカは悲鳴を上げました。アッカ(24)はアッカ(100)になっていたのです。
「こうしてはいるないっす。すぐにムクホーク先輩に知らせるっす!これならノーマル・飛行組が『鳥ポケモン・タイプ対抗大会』に優勝できるっす!」
アッカはしんかのきせきの旅で、森の誰よりも強くなってたのです。今では、アッカを弱いというポケモンは誰もいません。しかし、アッカの腰の低さは昔と変わることはありませんでした。それゆえ、アッカは森で最も信頼されるポケモンになっていくのでした。
おしまい
・あつあ通信特別号
チャットで「カモネギにスポットライトを当ててほしい」という発言を受けて、書きかけを投稿しました。すると思ったよりは好評だったので、調子に乗って完全版を作ってみました。いかがでしたでしょうか。
カモネギはポケモンスタジアム金銀でガラガラに並ぶお気に入りでして、いつかは活躍させたいと思っていました。こんな形で実現する日が来ようとは……夢にも思ってなかったです。
とりあえず一言。カモネギさん早く進化してください。
あつあ通信特別号、編者あつあつおでん