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  [No.1371] 【勝手に書いてみた】その夜に震えるしかない 投稿者:クロトカゲ   投稿日:2011/06/28(Tue) 00:31:53   107clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 研究員はせわしなく、少々乱暴にキーボードを叩いていた。
 口元は歪み、眉間に皺をよせながら、ひたすらに指を動かす。しかし何度もタイプミスをおかし、乱暴にデリートキーを連打する。薬品で溶けてボロボロになった白衣の袖に手を包むと白い息を吐きかけた。

「クソッ! おい!室温を上げろ!」
「課長。これ以上エアコンやヒーターを稼動させると、館内の電力が維持できません!」
「俺を課長と呼ぶな!」

 忌々しい、そう何度も呟きながら彼は作業を続けていた。

 シルフカンパニー、ポナヤツングスカ支店。
 ロシアに奥にあるその場所は、ポケモンの進化や変化を中心とした研究を行っていた。
 しかし、支社とは名ばかりのその場所は、十分な予算も回されず、設備は壊れかけを騙し騙し使っている。施設は朽ちて崩れかけ、地元では幽霊がでる廃屋との噂まで流れていた。

「こんっなに広くてありがたいことだなーおい! ヒーター1台だけじゃ全く温まらねぇんだよ!」

 近くにあるパイプ椅子を蹴飛ばすと、ヒーターの前で両手を擦り合わせて無茶苦茶に体を動かし始めた。
 社員は以前4名いた。
 彼が転勤してきた当時はまだ予算も今ほど削られてはおらず、極寒の僻地から抜け出そうと様々な研究を続け、いつかは日本に戻る、それを目標に日夜稼動していた。
しかし、発注した資材はいつまで経っても届かず、届けば種類や数が間違っているは当たり前。予算はみるみる削られ、本社からの連絡も全く無くなったころ、一人の研究員が飛び出していった。

「本社のやつらに一泡吹かせてやる!」

 そう言った彼の衣服は乱れたまま、目は血走り防寒具も身につけずに吹雪の中飛び出していったが誰も止めるものもおらず、追いかけることもしなかった。訳の分からない呪文のような呟きをもう聞かされなくて済む安堵の気持ちもあったのかもしれない。三人は彼の気持ちが痛いほどわかっていたし、ひょっとしたら何か変わるかもしれないという期待もほんの少しあったかもしれない。
 しかし、ここは以前と何も変わらないままだ。

「おう、今日もやってるのか。 どうだ一杯、あったまるぞ」

 重役出勤の支店長が酒臭い息を撒きながら瓶を突き出した。彼は首を横に振って応える。凍える体にはあまりに魅力的な提案だったが、その強烈な濃度のアルコールは確実に頭の回転を鈍らせるだろう。

「ま、ほどほどにな」

 そのまま所長は瓶の中身をあおると机に突っ伏し、そのままずるずると床に崩れ落ちた。恨めしげに彼が瓶を眺めていると、しばらくして館内に大きないびきが響き始める。

「冗談じゃない」

 課長なんて冗談じゃない、そう彼は思う。
 本社では常に出世街道を歩いてきた。コネではなく、常に実力で大きなプロジェクトに携わってきた。世界初の人工ポケモンである『ポリゴン』は、開発が停滞していたところを彼のプログラムを導入したことによって完成への軌道にのった。彼の名を知らぬものは社内はおろか、業界でもいなくなっていた。
 しかし研究に専念するあまり社内のパイプを強化してこなかった彼は出世や利権の派閥争いに巻き込まれ、そのどちらにも属すことを拒んだ挙句、いわれの無い罪を着せられ、遙か遠くのこの地に左遷されてしまったのだ。
 様々なアプローチを行い、開発を続けてきたが、時には失敗をし、時には他の支店に先を越されてしまい全く成果を上げられない。何といっても設備が、人手が、何より予算が足りなかった。
そしてネームバリュー。僻地の支店の研究が多少優れていても、すでに似たようなものがあれば彼らの研究は無視され抹消された。
 支店長は勤務時間も気にせず酒に溺れるようになり、研究員の一人は何かに取り付かれたようにロケットがどうこう呟き続け誰も話しかけなくなり、ついにこの地を去った。
 唯一の部下である女研究員は、指示されたことはやるが、それ以外はただ机に座り天井を眺めて時が過ぎるのを待つようになった。必要以上の情熱は持たない。今日も言われた仕事を早々に終わらせた彼女は爪の手入れに余念がない。定時になったらまっ先に帰ってボーイフレンドでも探すのだろう。
 そして彼は、飛び出していった男とはまた違う狂気に取り付かれ、研究にのめり込んでいった。
 全てを手に入れ、そして失う原因となったポケモン、ポリゴンを使って会社に復讐する。




「よし、これでポケセンと同条件の筈だ」

 装置にポリゴン2を入れる。作成したウイルスプログラムはポケモンセンターに感染させ、回復や交換を行ったポリゴン2に植え付けられる。そしてポリゴンがレベルアップや技を新しく覚えたときウイルスが発症する仕組みだ。

「よし。やれ」

 彼の合図と共に部下は機会を作動させる。

「どうだ?」
「順調です。70パーセント、80パーセント読み込み完了――」

 その言葉を遮るようポリゴン2から光が発せられた。姿見えなくなる程に眩しい輝きが収まると、現れたポリゴン2の姿が変わっていた。
 首は外れてくるくる回転し、妙な痙攣のような挙動を繰り返す。
 そして、ポリゴンは鳴く。彼を見ながら。二度、三度と鳴く。

「なんて姿だよ」

 呟くと同時に涙が溢れた。新たな姿となったポリゴンを抱き、次々と涙がこぼれ落ちる。腕の中のポリゴンは奇妙な挙動を見せ、彼と彼女を交互に見ている。

「あれ、どうして? 何で――」

 驚く声に彼が振り向くと、部下がモニターを見て停止していた。

「何だ?」
「ポリゴンの防御と特防の値、条件を満たす前にすでに減少してます」
「くそっ! 失敗かっ! 姿もこんなに変わっちまってチクショウ!」
「それが、上昇しているステータスもありまして」

 すぐに彼はモニターに駆け寄り覗きこむ。

「組み込んだのはレペルアップ時にステータスが下がるウイルスプログラムなんだぞ! 上がるやつがあるか!」
「見てください。特攻が約22.2パーセント、素早さは約33.3パーセントも上昇しています!!」
「そんな馬鹿な……」

 何がどう作用したのか、彼の作ったプログラムによってポリゴンは、姿を変えるだけでなく、能力が強化されていたのだった。

「フォルムチェンジ。姿が固定されていれば進化といってもおかしくありません。強襲型といったところでしょうか。凄い発明ですよ! おめでとうございます!」
「お、おめでたいことがあるかっ!」

 彼は怒気を含んだ大声を上げる。しかし部下は微笑みながら続ける。

「よかったですね。課長」
「何がいいものか!」
「大事なポリゴンが無事で」
「大事なことがあるか! これは道具だ! 俺が作った道具なんだ! こんな人工の、生きているか解らないポケモンに、俺は、俺は――」

 彼女は上司に駆け寄りハンカチを差し出す。

「そんなの、どっちでもいいじゃないですか」

 拭かないと凍っちゃいますよと子どもにするように、上司の顔を拭く。彼はされるがまま動かない。

「生きていようが、そうでなかろうが、魂があろうが無かろうが。それに愛着を持っても。そのポリゴンが大事でもいいじゃないですか」

 彼は動かない。

「これを持っていけば本社に返り咲くこともできるかもしれませんよ。どうしますか? 課長?」

 落ち着いてきたのか、やっとかすれた声が聞こえた。

「あいつが本社に使おうとしてたメールボム、残っていたな」
「はい、まだあると思います。でもどうするんですか?」
「どけ」

 彼は作成していたプログラムと現在のポリゴンのデータと見比べ、書き換え始める。そして完成したものをメールボムに組み込む。

「あーあ、課長。それがバレたら解雇どころじゃすみませんよ」

 そういう部下の声は、心なしか彼には弾んで聞こえた。

「見つかればな」
「私知りませんよ」
「あのプロテクトを突破してプログラムを解析できたとして、果たして奴らがみすみす俺達を手放せるかな? あとな」

 もし本社の人間が接触してきたとして、高い条件をつけるのと嘲笑って断るのとどっちが気持ちいいか考える。彼は嗤った。
そうして最後の仕上げに彼は震える手でキーボードを、押す。

「俺を課長と呼ぶな」

 席を立ち振り返る視界に入ってきたのは、胸元をヨダレで汚したまま、どこからか持ってきた高級酒とグラス五つを用意している赤ら顔の支店長だった。

Program................ run
/
/
/
Complete









 ある晩ポリゴン2を育てているあなたの元に、見覚えのないアドレスからメールが届く。
 開けてみるとそれはどこにでもあるスパムメールだとわかる。普段なら迷わず削除するのだけれど、あなたはなんとなくマウスをスクロールし文や画像を見る。
 それは官能的な絵や謳い文句だったり、簡単に儲ける方法だったり、楽してみるみる痩せる方法だったりする。あなたにとって魅力的な内容だ。ただし、それにも増して胡散臭い、うますぎる内容だ。あなたはそれに呆れ、笑いながら目を通す。時に自分なら思いつくもっとそれっぽい文章を考えたり、誤って引っかかってしまう子どもや愚か者を妄想しながら、メールの最後に書かれているものを見つける。

 乱雑なアルファベットと数字と記号の羅列。ジャンプアドレス。

 アンチウイルスソフトがしっかり起動しているのを知っているあなたは、その内容を本気にしているわけではなく、利用しようと思っているわけでもないが軽い気持ちでカーソルを動かして、ポン、と指をマウスに振り下ろす。

 突然浮かび上がる無数のウィンドウ。

 みるみる上がっていくダウンロードバー。

 様々ところを手当り次第クリックし、出鱈目にキーボードを押してもみるがそれは止まらない。強制終了が頭を掠めたとき、画面にあるムービーが流れ出す。

 幼児が描いた様なヘタクソな絵のポリゴン2にフロッピーが重なる。そのポリゴン2がボールに入れられ、ケーブルを伝ってもう一つのモンスターボールと入れ替わる。そして、他人の手に渡ったポリゴン2は白く光ると、ポリゴン2に似たアニメキャラクターが力こぶを作りウィンクをする。

 ムービーに見入っていたあなたは突然流れる相当大きいファンファーレの音にびくっとする。画面にはcongratulationの文字が大きく表示され、やがて全てのウィンドウが消える。いつものデスクトップだ。一点だけ違うのは、patchと書かれたファイル。慌ててパソコンをスキャンするがそのファイルにもパソコンにもウイルスは見つからない。
 そこであなたはやっとあの噂を思い出す。友人や知人、もしくはインターネットで聞いた噂を。どこかで出回っているポリゴン2を進化させる「怪しいパッチ」の存在を。
 後ろを見ると、ポリゴン2がいる。あなたがじっと見つめているので呼ばれているのかと思い、嬉しそうに鳴きながら擦り寄ってくる。
 どうしよう、とあなたは言う。
 ハッキングを受けながらも何も起きていないパソコンを見て、このパッチはひょっとしたら、とあなたは考える。
 外から近所の住人から夜中の大音量を出す者への罵声や抗議の声が聞こえるかもしれないが、あなたはそれには反応しない。何度も画面とポリゴンを見返すあなたは、そのパッチを削除できない。かといって使おうとも思えない。時計の秒針の動く音がやたらに大きく聞こえ、途方に暮れながら夜は更けていく。

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今更ながら、書いてみました。
インストールを読んでみて、じゃあ作った側はどんな人間なんだろうかと考えて書いてみました。
「インストール」に書かれているシルフカンパニーの面々の、なんとも言えない緊張感となんともいえない他人事な緊張感のなさは現場な感じで凄く好きです。

タグもなく、No.017さんの書く続きと内容の齟齬も生じるとは思ったのですが、リスペクト意味を込めて。

たぶん続けたいということで、そのうち忘れた頃に続きを上げられる予定なんですよね?ね?(笑)
私の書いたこちらの作品の内容はもう完全に無視して、インストールの続き、こっそりお待ちしてます。

【勝手に書いてみた】【ごめんなさい】【続きお待ちしてます】


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