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  [No.1382] 春風に導かれ 投稿者:キトラ   投稿日:2011/07/03(Sun) 02:25:10   72clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 目を開けた。朝日が入って来ている。堅いソファの上。あちこちが痛い体を起こし、ユウキは軽くあくびをする。もう何日も研究室にこもりきり。風呂に入る余裕などなく、自分でも体臭が解る。べとつく髪をかきあげ、昨日から行なっている実験の観察にかかる。
 大学院。ポケモンのことを詳しく研究するために進学した。しかし学部生だった時の予想通り、時間がない。身分は学生だというのに、家に帰れない。今は就職活動もしなければいけない時期。だがユウキを救ってくれたのは昔のツテ。デボンコーポレーションという大きな会社にすでに決まっている。同じ研究室の同級生は彼をうらやましがり、裏ではコネをつかわないと入れないような小物とバカにしている。そして、その自分ではどうにもならない恨みを、ユウキ一人に実験を押し付けることで晴らしていた。
 教授も感知していない。あるのは、便利に動く院生のユウキ、というくらい。一流企業に就職が決まっていることを誇らしく思ってくれていることだけが幸い。そうして同級生と距離がどんどん出来ていてー


 実験が終わった。結果をメモしたレポートをメモリに移し替え、鞄に入れる。何日分かのゴミをまとめ、研究室にカギをかけると、やっと家路につく。
 昔はポケモンが好きだった。どんどん知識が増えて行くのが楽しかった。けれど今では、ポケモンの知識が増えていくごとに苦痛が伴ってくる。なぜこんな自分の生活を犠牲にしてもやらなければならないのか。就職活動という名目でなぜ代わりに実験を一人で請け負わないといけないのか。
 外に出ると、やわらかな春の風がユウキをなでる。もういつの間にか春一番が吹き、道路脇では小さな青い花が咲いている。もうすぐ桜の季節だ。昔から好きだった。次々と芽吹いてくる植物と、冬眠から覚めてくるポケモンたち。春を喜ぶように、いろんなものと出会えるから。ああ、少し寄り道していこうか、こんな春風の中、公園で寝ていくのも悪くない。道の途中にある河川敷の公園にユウキは立ち寄った。そして木陰のベンチに座ると、今までの疲れか、そのまま眠ってしまっていた。

 かさりと音がする。その音にユウキは目を開ける。そして目の前の人物は起こしちゃったね、と笑っていた。ユウキは寝ぼけているのかと目をこする。まぎれもなく本物だ。もう子供ではなく、大人の女の人。けれど面影だけは変わらない。子供の頃に一緒にホウエン地方を駆け回っていたハルカだった。
「久しぶり! 元気してた?」
「ハルカ!? ハルカだ!」
 思わぬ再開に、研究室での嫌な気分は吹き飛んでしまった。ハルカもユウキと会えたことが嬉しそう。そして実験がいいタイミングで終わったことに感謝する。
「今、大学の近くで一人暮らししてんだ。散らかってるけど寄っていきなよ」
「すごーい! ユウキって家事できなそうなのに」
「ほっとけ」
 家までは後少し。それにしてもハルカはこの体臭なんとも思わないのか。ユウキは不安になってきた。こんなことならば、体を拭くくらいすればよかった。後悔しても遅い。玄関のカギを開けると、何日かぶりの自宅に入る。


 ハルカにお茶と適当なお菓子を出し、まず体を洗う。濡れてない風呂場が、どんどん湯気にそまっていく。久しぶりの水が伝わる感触は何とも言えず気持ちがいい。研究室にもシャワーくらいあればいいのだが、そんな施設はない。そもそも、研究室に泊まること事態が、学校側の許可が下りていないのだ。
 急いで着替え、今まできていたものは、全部洗濯機に放り込む。そしてバスタオルで髪を拭きながらハルカの前に出て行く。
「はやいね。ちゃんと乾かさないと」
 座ってるユウキのバスタオルを取ると、その手で優しく頭を拭く。一緒にフエンタウンの温泉に行った時もこうしてもらっていた。そしてあの時は……
「背伸びたね」
 ハルカも覚えてるのだろうか。まだ子供で、どうしていいか解らなかったあの感情。そして今、それが蘇ったようにユウキの心臓は鳴った。そのまま離ればなれになって、数年が経ったけれども。ハルカはバスタオルを取った。
「はい、終わり」
 バスタオルをベランダにかけていた。そこまでしなくてもいいのに。戻ってきたハルカは気にするなとしかいわない。久しぶりに会って、ハルカもぎこちないような感じがあったのかもしれない。
「ハルカ、ちょっといい?」
 手招きして自分の隣に引き寄せる。ハルカのいい香りが近づく。
「どうしたの?」
 聞くまでもなかった。肩を抱き、懐に寄せる。慌てるハルカに、ユウキは冷静に言った。
「ハルカ、覚えてる? 俺はあの時、ハルカが好きだった」
「え、そ、そんな昔のこと……」
「でも言えなかった。だから、今からでもいい。俺と……」
 ハルカは答えを言わなかった。そのかわり、ユウキの唇はやわらかいもので閉ざされる。長い歳月を超えた二人の想いが、そこにあった。ユウキの手に力が入る。ハルカを離さないように。
「私も好きだよ、ユウキ」
 今度こそは間違いないように。気づかないフリをしないように。再び唇を重ねて、誓った。



 オダマキのやつ、彼女できたらしいぞ
 デボンだし、まじリア充だよな
 いいじゃねえか、あいつに全部任しておけばよ
 来たぞ、黙ってろ


 ユウキがホールに入る。今日は研究の発表の日。実験を代わりにやって、データをとって集計してやった同級生たちも発表する。自分の研究よりも時間がかかったやつもいた。ユウキは進行役。教授のお気に入りだから仕方ない。
「それでは、研究発表を始めます。わたくしは司会、進行のオダマキ ユウキと申します。さて、発表してもらう前に、冊子をごらんください」
 聴衆が配られた冊子をめくる。何か訂正かと文字に釘付けだ。
「この中に、いくつか間違ったものがあるのですが、それは各人で発表していただきます。各人が解れば、の話ですけど」
 人任せにしておいた分、隅々に目を通してるはずだ。そうでなければ、間違いを即座に訂正し、恥をかかせてやる。ユウキのただならぬ目つきに、同級生はうろたえた。まさかまじめなユウキが偽のデータを渡すわけはないとたかをくくっていたからだ。
「では、順番通りに始めたいと思います」
 どこでユウキが訂正を入れるかなんて予想ができない。発表の順番が早く終われとみな願っていた。


 発表も終わり、テーブルや片付けをしている。担当教授からは、人のことまで解る素晴らしい院生だとユウキをほめたたえた。恥をかかされた院生たちは、気まずそうにしている。彼らをみて、なぜ院生で就職が決まらないかが少し解った気がした。そして自分がコネだけでなんとかなったわけでもないことに。
「自分のことも自分で出来ないなんて、大人としてやっていけませんからね、俺はまじめにしますよ」
 思わずハルカに話した、学校での現状。それを聞いたハルカが泣き出してしまったのには驚いた。そして今の自分をやっと解ってくれる人に会えたのと、つられたのでユウキも泣き出す。涙が止まらないのに、ハルカを泣かせてしまったことを悔やんだ。二度と泣かせないよう、この現状を変えてやる。
 ユウキの決意は、ただならぬものだった。時にはデータをかえ、計算を一つ間違ってやったり、学部生との交流の際には、あちらの方が詳しいと自分に来ないようにしたり。それを面倒見のいい相談役だと思っていたのだから。今まで人にばかりやらせていた罰だと、心の中で思った。



 それから1年が過ぎた。卒業式の日で就職が決まっていたのは10人中4人。他にもいたのだけれど、あの発表の事件から学校をやめてしまったのが何人かいて、卒業する頃にはここまで減った。
「じゃあ、連絡するから」
 就職してから住むところも決めていた。すでに移り住み、ユウキは家で待ってくれるハルカに伝える。わかったとハルカは言った。
「研究室だもんね、最後の集まり?」
「最後じゃないだろうけど、なんとか解ってくれた貴重なやつらだよ」
 あれから改心してまじめにやるようになった。そのおかげで、ユウキは何日も家に帰らないことなどない。毎日布団で寝て、ご飯も食べて。こんな当たり前のことが出来なかったのが不思議なくらい。
 ユウキは家を出る。式典と、かつての仲間に会うために。そして一つ、小さな箱を持って。見送ってくれるハルカに手を振った。
「ハルカ!」
「どうしたの!?」
「ありがとう!」
 大学院の生活を変えてくれた人。愛しい人。愛すべき人。気づかなかったなんてもう言いたく無い。大切にしよう、これからも。ずっと。


 
 卒業式は学部生も院生も一緒だった。まだ若い学部生のノリというのが懐かしい。そんなに年をとったわけじゃないけれど、傍目でみるととても若いのだ。サークルでは胴上げしたり、騒いだり。昔はああだったなと、卒業証書を手に急ぐ。研究室のやつらはもう二度と会わないかもしれない。
「オダマキ、これからどこか行かないか?」
 研究室の同級生が集まっていた。最後かもしれないけれど、ユウキは断る。問いただそうとする彼らより先に、ユウキは口を開く。
「待ってるやつがいるんだよ」
 後ろからはリア充リア充とはやし立てる声がする。それは陰湿な言い方ではなく、むしろ祝福に近い言葉。ユウキは渡すものを確認すると、約束の場所へと行く。


 春の冷たい風が吹く。けれど植物は黄緑色の新芽を出し始めていた。ホウエンの田舎町、ミシロタウン。ユウキの実家がここにある。卒業式のこの日、実家で騒ごうということになっていた。もちろん、ハルカも一緒に。
「卒業おめでとう。オダマキ博士Jr.だね」
 ハルカはそう言って大きな花束をくれた。父親はこれが世代交代というものか、と少し寂しそうだった。そんな父親を吹き飛ばすように、パーティは始まる。
「父さん、母さん」
 乾杯の前に、ユウキは改まって止めた。どうした、と両親はユウキを見る。
「俺が今日ここにハルカを呼んだのは、もう決めたんだ。結婚するって」
 ハルカは聞いてないという顔をしている。それもそのはず。渡すはずのものは、まだユウキの手の中。驚く両親を前に、ユウキはそれを渡す。銀色の婚約指輪。ハルカが寝てる間にサイズを計ったり、それはそれは意外なところで努力をして手に入れたもの。
「ありがとう、ユウキ」
 ハルカの左手の薬指にぴったりとはまる。どんな美しい宝石よりも輝いて見えた。


ーーーーーーーーーー
チャットでの恋愛もののことで、書き始めたら予定と違うものができあがりましたすみません。
予定のものは全く進んでおりません
ので、忘れてないよという意味もこめて。

【すきにしてください】【このリア充め】【ホウエン組ばかりうんざり?いいじゃねえか愛してる】


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