今日は七月八日。今日は七月八日。今日は七月よう……八日?
……あっ。
年をとると行事を忘れやすくなってしまう。子供の頃はあんなにも七夕七夕って騒いでたのに。町の笹にどきどきとしたものを感じて、短冊に願いと名前を書いて、それから七日の夜は晴れるようにっててるてる坊主作ったりしたっけ。
それが今ではどうだ……こうだ!何もしないだけでなく、忘れて、翌日に思い出す始末。あぁ、もう年かな年かなぁもう……!ん。
……どうやら、遊び人が帰ってきたようだ。最近、どこにいってるかは知らんがやたら出歩く。といっても、気づいたらいなくなってるし、玄関のドアは閉まっているしで、この部屋は三階だというのに、どこから外に出ているかも謎である。飛べるのか?なんにせよ最近ちょっとさびし
がたーん。
遠くから響いてきた何かを思いっきり倒したような音。相当何かを派手に倒したに違いない。何しやがったあいつ。重い身体を起こし、音の方へと足を進める。そこに広がっていたのはぶっ倒れた洋服かけと青い、青々しいにおい。そこにいたのは、霊の、いや例の俺の相棒である。いや、待て、この青いにおいのもとはなんだコラ。
「あのな、ジュペッタ……これは笹じゃない。竹だ」
ジュペッタが不思議そうに俺を見上げている。どこも違わないじゃない、そんな視線で俺を見ても、これは竹だ。笹じゃない。よくこんな大きい竹抜いてきたなお前。さすが馬鹿力だけはあるなおい。根っこ残ってるぞ。……それからもう一個言う。短冊は枝に突き刺すんじゃない、かけるんだ。
とは言うものの、多くの短冊が笹……じゃない竹に突き刺さっていた。色も様々。形も様々。文字も様々。実に個性豊かな短冊が笹につきささっていた。ジュペッタが文字を書けるはずはないし、こいつは裁縫以外の細かい作業はほぼ絶望的なほどに苦手なのだ。一体どうしたというのだろう、この短冊たちは。なんかトースト刺さってるし。
しょうがないし、もったいないから、ベランダに立てておくことにした。意外と大きくて、物干し竿に縛り付けた。斜めに手すりにもたれかかってるそれは、若干情けないような感じもしたが、それはそれでまぁ、七夕っぽくもあるかと思った。もっとも、もう七夕は終わってしまっているのだけども。
いや、それにしても人の願い事っていうのは様々だなぁ……うん。中にははっ倒したくなるような願い事もあれば、お前こんなこと書くなよ悲しすぎるだろなんて願い事もあったりして、読んでてちょっぴり面白い。
『新しいスプーンが欲しい』
スプーン……?
『普通の女の子に好かれたい』
どういうことだ。
『にーさんの世間知らずがいい加減直りますように』
にーさんおい。
「む」
一つだけ、真っ白な短冊が突き刺さっている。裏にも表にも何も書いていない真っ白な短冊。俺はそれをそっと竹の枝から引き抜いて、手にとった。……うーん、何を書くべきか。他人の短冊を見渡して、俺は考え込む。どの願いも個性的過ぎて俺のアレとは結びつきそうにない。うーん。そんな中、竹の下のほうにひっそりとある短冊があった。文字は小さくひかえめに、それでも、流れるような美しさのある文字だった。
『彼氏ができますように』
ふ。
ちょっと、さびしくやないかい。そう思って少し、少しだけ笑ってしまった。
「ま、俺も人のこと言えたもんじゃねぇか」
机の上に転がっていた、鉛筆を手に取り、『彼女ができますように』そう書いて、さびしい短冊の隣にかけた。誰の短冊かはわからんが、こうしておけば、願いがかないそうな気がした。傷の舐めあいっつうわけじゃねぇけどさ。
昨日の夜はあんなにも曇っていたのに、今日の天気は快晴快晴。
天の川だって一日くらい残ってはいるだろう。7日だけしかないわけじゃねぇしさ。宇宙はもっと広い心を持ってるだろうさ。願いの一つや二つかなえてくれたっていいだろ。七夕たなぼたたなばた。
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最近忙しくて何もかけてないてこです。たなばたくらいはかこうと思っていたら、とっくにとおりすぎました。のでこうなりました。いぇーい。
『ポケストのにぎやかさがいつまでも続きますよう』