ポケモンストーリーズ!投稿板
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1731] 向日葵前線異常ナシ 投稿者:紀成   投稿日:2011/08/11(Thu) 15:38:20   35clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

向日葵前線ニ異常アリ 至急応答セヨ
マダマダ水モ太陽モ ソシテ何ヨリ気持チが足リナイヨウデ


私はこの町を出たかった。
シンオウ地方はものすごく広い。とてつもなく広い。めっさ広い。町があったとしても次の町に行くのに車で二時間半かかるなんてザラだ。
おまけに灯りも無い。夏場はまだいいとして、冬は特に酷い。ホワイトアウトの中真っ暗闇をひたすら数キロ離れた学校から自宅まで歩いていかなくてはならない。よく観光客が『冬のシンオウ地方行ってみたーい』などと軽々しく口にするが、ふざけるなと言いたい。自宅のドアは二重構造、屋根は直角に限りなく近く、雪が降り積もり凍れば滑って転倒。スキーなんて簡単に出来るもんじゃない。
だが、シンオウにも都会と言えそうな物はある。コトブキシティ、ヨスガシティ、トバリシティ、ノモセ…も入るかな。あとホテル・グランドレイク経由で行くシンオウ最後の街、ナギサシティ。ここのジムリーダーが一時期退屈でたまらなくて街全体を改造して電力が足りなくなった、って新聞に書いてあった。結局街全体の通路をソーラーパネルにすることで回避したみたいだけど。
私も退屈で窮屈で仕方無い。ナギサのジムリーダーみたいなことも出来ないし(電気が全然通っていない)ポケモンは自宅の農家で乳搾りや精肉用に飼っているミルタンクやケンタロスしかいない。バトルには向いていない。
私ももう十七なんだけど、『農家の娘にポケモンバトルは必要無い』って言われて自分のポケモンを一匹を持たせてもらえない。まあ、両親も持ってないんだけどね…
確かにそれは一理あると思う。木の実泥棒は自分で追っ払えるし、毎日毎日早朝三時には起きて仕事三昧。夜寝るのは八時半。テレビはあることにはあるけど、チャンネルはたったの四つだけ。ラジオも電波が無くて聞けないし、本屋は『何世紀前からあるの?』って思うようなボロボロのが一軒。漫画雑誌は入荷は一ヶ月遅れ。
当然、ネットも通ってない。
だけどそれとこれとは話が別。もうこんなドがつく田舎はたくさん!学校の友達は十七年手伝って慣れている農家を継ぐって言うけど、私はそんなの嫌。
何が何でもここを出てやるんだから!


「いけません」
母さんのひと言。疲れた目をしている。手という手は皸としもやけだらけ。ものすごい寒い冬にずっと水仕事をしていると、皸が出来た場所にしもやけが出来て、腫れについていけなくてピシピシと割れるの。ものすごく痛いのよ。
「何で!」
「貴方はまだ若い。この町でもっと勉強しないといけないの。それに、町に出たとしても何がやりたいの?町は厳しいところなの。ここの寒さより、ずっと」
「…」
父さんが部屋に入って来た。リングマ髭が目立つ。この人の顔も赤い。
「どうした」
「マユが町に出たいって」
「駄目だ」
即答。融通が利かない頑固親父。
「お前はこの農家を継ぐんだ。勢いだけで町に出た奴は、皆片っ端からくたばっていく。人間恐怖症になって引きこもる奴もいる」
「私はそんなのにはならないもん」
「生まれてから一度もここを出たことが無いのに、か」
その通りだ。私はこの十七年、一度もここを出たことがない。親戚は米農家、木の実は自分で育ててるし。毎年秋になれば猟が解禁になるから、ハンターの人から肉はもらえる。正に自給自足の生活をしてきた。
「いい加減にしなさい。もう部屋に戻って頭を冷やしなさい」
これ以上話しても意味が無いと思ったのだろう。両親は私を部屋に入れた。

「都会に出る?」
次の日、私はクラスの友達に聞いてみた。うちの学校は全校生徒十九人。先生入れて二十七人。昔は賑わっていたらしいけど、皆町に引っ越して行ったらしく全然人が来ない。
「そ。もうこんな場所は嫌だから」
「でも都会に出て何がしたいの?」
両親のような落ち着いた返事が戻って来る。クールだ。
「…とりあえずバイトかな」
「マユ、農家の仕事しかやってないんでしょ?今って不景気なの知ってるよね。使えなかったらすぐ首切られるって母さん言ってたよ」
駄目だ。この子達に相談しても何も利益にならない。皆家業を継ぐ気でいるんだ。

帰り道。私は自宅までの数キロの道を歩いていた。駅前の灯りが全て消えるのは午後七時前後。なんつー田舎っぷり。
「結局たいした進展は無かったわね…」
私の歩く横を白樺林が延々と続く。観光客は綺麗だって騒いで写真撮るけど、もう見飽きた。
「何か出てこないかなー」
そう言って林の前を通り抜けようとした瞬間。

ガサガサッ

何かが聞こえた。ここらへんに足音を立てる動きをするポケモンは生息していない。まさか…リングマ?
私は鞄から一本のスプレーを出した。自家製・ウイの実スプレー。一回プッシュするだけで酸っぱい粉末が飛び散って相手の目くらましになる。私の父さんもこれで命拾いしたことがあるらしい。
どんどん音が近づいてくる。私はスプレーを構えた。
次の瞬間。

『ガシャーン!』

ものすごい音と光が私の目の前に落ちた。スプレー缶が私の手からすっぽ抜ける。私も勢いに押されてひっくり返った。
「いたた…」
目を開いた私の前に立っていた物は―

黒色のポケモンだった。

ここらへんに生息していないってことは、一発で分かった。見たことが無いし、電気タイプのポケモンだったから。鬣からは青い電気を放ち、体の模様は白いイナズマ。尻尾は白にスピカを思わせるようなデザイン。
『…』
そのポケモンは私に何も無いようなことを感じ取った後、踵を返しそのまま走り去ろうとした。
「待って!」
考えるより先に体が動く。農家で育つうちに刻み込まれた特性。多分町では足かせになるだろうけど、今はそんなこと言ってられない。かなり差があったけど、私はひたすらポケモンを追いかけた。
そして今気付いたけど、あのポケモン口に布の袋を咥えてる。
誰かのポケモン…?

どのくらい走っただろう。別の白樺林を抜けたところに、それはあった。
可愛らしいログハウス。周りには高い、でもまだ咲いていない向日葵たち。今にも咲きそうな物もあるけど、全然蕾すら出来ていないのもある。
ログハウスのテラスに小さなテーブルと椅子。看板には、『phantom』…ファントム?
「こんなカフェがあったんだ」
「そこのお嬢さん」
ビクッとした。慌てて周りを見渡すけど、誰もいない。
「ここだよ、ここ」
上から声がした。顔をあげて…驚いた。
赤い屋根の上(煙突つき)から、一人の男が手を振っている。ツナギ姿だ。多分修理でもしていたんだろう。ガチャリ、という金属が触れ合う音がした。
「ちょっと待っててくれ」
彼は死角に立ててあった梯子を降りてきた。するとさっきのポケモンがどこからともなく現れる。
「ありがとうな」
男に撫でられて、ポケモンは嬉しそうに目を細めた。袋を開ける。何かの缶、珈琲豆、砂糖、その他諸々。
「あの…」
「このポケモンを追って来たんだろ?最近多いんだよな、そういう人達。ゼブライカが珍しいからだろうけど…」
ゼブライカ?このポケモンのこと?
「豆や茶葉が切れるとこいつにお使いを頼むのさ。俺は車持ってないし、ゼブライカに頼んだ方が早いから」
そう言われて思い出した。ここってカフェ?こんな辺鄙な土地に?
「辺鄙な土地に、何でカフェがあるのか― そう思ってるだろ」
彼が笑った。でも目が笑ってないような気がするのは、気のせいだろうか。
「ここで話すのもあれだ。入れ。珈琲と紅茶、どっちがいい」
「えー… 珈琲で」
思わず声に出していた。なんなの一体。

店内も可愛かった。この人の口調と外見からは想像もできないくらい、アンティークっぽいインテリアの数々。白樺で作られたテーブルの上には、小花模様のテーブルクロス。カーテンは若草色。カウンターにある椅子はワインレッドだ。
いつの間にかツナギからカフェのマスターを思わせる服に着替えた彼が珈琲を入れていた。いい香りがする。
「どうぞ」
「…ありがとう、ございます」
一口飲んだ。美味しい。ふとカウンターの隅に置いてある写真立てが目に入った。木で作られた二つに、それぞれ一枚ずつ。
家族ぐるみで撮ったであろう物と、三歳くらいの女の子が向日葵を持って笑っている写真。とびきりの笑顔だ。
「この写真は」
「俺の弟夫婦とその娘だ。もう十五年になるな」
彼がタバコに火をつけた。なんかいやに絵になる。写真家がいたら思わず一枚撮ってそうな感じだ。
「可愛らしい姪っ子さんですね」
「…ああ」
「今はどちらに?」
彼は少し考えた後、タバコを持った手を窓に向かってさした。自嘲気味な笑顔が浮かぶ。
「あそこだ」
「…ごめんなさい」
「お嬢さんのせいじゃない。ここに来たのは初めてなんだからな」
私は風に揺れる向日葵を見た。いつ頃咲くのか。まだ分からない。
「何で」
「こんな所でカフェをしてるのか、だろ?…ちょいと長い話だが、聞いてくれるか」
私は頷いた。


俺は元々イッシュ地方にいたんだ。ここから何千キロも離れた地方だ。眠らない町が沢山あったよ。物や人が溢れていた。世界各地から来た人達が昼も夜も働き、自分のポジションを手に入れる。このご時勢だ、使えないやつはすぐに別地方の子会社に飛ばされる。
俺は弟がいた間は仕事してたんだがな。いなくなってからおかしくなっちまった。家にいることが多くなった。会社を辞めて、どっか別の場所に移住しようと思っていた。そんな時、シママ…今のゼブライカに遭ったんだ。
元々競走馬として生み出されたんだが、闘争心が足りないってことで殺されそうだったのを俺が引き取った。言っただろ。物が溢れてるって。ポケモンも溢れてんだよ。
人もポケモンも生存競争。俺はそんな生活に疲れたんだ。丁度いい頃合だったからな。ここに来た。
最初の一ヶ月は大変だったよ。ガスも水道も電気もない。夜は真っ暗闇だし、店が無い。それでもふと空を見上げてみれば、ちゃんと空があるんだ。
…高村光太郎って知ってるか?詩人だ。『あどけない話』っていうのを書いた。恋人が都会には空が無いと言う。確かにそんな感じだった。
ビルがひしめき合い、電線が張り巡らされた町は空を見ることすら難しいのさ。星も全く見えない。あるのは人工の星だけ…ネオンだ。
だから俺はここに住むことを決めたんだ。何があったとしても、ここに残ると。


私は冷めた珈琲を飲み干した。只の憧れだけで行きたいと思っていた都会のイメージが崩れていくような気がした。所詮辛いこともあるということは何処に行っても変わらない。
「…都会も大変なんですね」
「お嬢さん、あちらに行きたいのか」
「そう思ってたけど」
彼は方をすくめた。
「俺の言葉じゃないけどな。弟が昔言ってたんだ。『向日葵は一気に花開くんじゃない。少しずつ、少しずつ外側に向かって花を開いていく。人間も同じだ。
色んな経験をして、知識を蓄えて大人になっていく。だから少し小さな問題があったとしても諦めてはならない』
こういい続けてたからか、駆け落ちしてまで好きな女と結婚したのかもな」
向日葵にとっての水と太陽の光は、私たちにとっての経験だというのか。そして共通点は、時間がかかること。
それもいいかもしれない。長い時間をかけて説得していこう。ちゃんと勉強もして、知識を蓄えておくんだ。

マユが帰った後、男は写真立ての裏を外した。家族ぐるみの写真の裏に、もう一枚。姪が七五三の時に撮った写真だ。黒いワンピース姿で両親と一緒に映っている。
そして、もう一つ。向日葵を抱えた写真の裏にも―

写真では無かった。便箋が小さく折りたたまれていた。手書きでただひと言。『叔父様へ』
「…元気でやってるなら、それでいい」
男は再び手紙を戻した。


マユは夕暮れの道を歩いていた。自宅までの道は全て向日葵に囲まれている。
「…まだ咲いてないけど、少しずつでいい」
柔らかい風が、向日葵たちを優しく揺らしていった。

向日葵前線異常ナシ イツカ花開ク時マデ

―――――――――――
某さんが書きたい(?)と言ってくださったので試しに自分で書いてみた。意外に短い。
あと折角名前考えてくださったのにすみません。また今度使わせてもらいますね。
では。


- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー