テレポート 13/20
ごろりとやってきた場所は、なんかすごく静かだった。
鮮やかに広がる田畑は金色で、豊作の秋がその場を支配する。
なんつーか、えらく平和な場所に来てしまった。いやー、今までは586様ワールドばかりをさまよってたわけだからこういう呑気な場所だと落ち着く。
・・いや、落ち着きたいんだけど。
どうもここも穏やかな空気とは裏腹な気がする。
ごろごろごろり、転がっていくと何やらお祭り準備ムードをぶつかる。
雨降大社、と書かれた場所にうっかり出てしまった。中から声が聞こえる。
燃えよ、燃えよ、大地よ燃えよ
燃えよ、燃えよ、大地よ燃えよ
見よ、暗き空 現れし火を
火よ我が命に答えよ
燃え上がれ火 燃え上がれ火 燃え上がれ炎よ
燃え上がれ火 燃え上がれ火 燃え上がれ我が炎
我が眼前に広がるは紅き地平
燃えよ、燃えよ、大地よ燃えよ
恐れよ人の子 我が炎
燃えよ、燃えよ、野の火よ燃えよ
放たれし火 金色の大地に燃えよ
少し細いがまぁ窓越しに聞こえるから良いんじゃね、と適当な事を思っていたらなにやらダメ出しをされている。
妖怪九十九は人を食って云々、のあたりで納得する。なるほど、どうやらかの有名なツッキ―のお話らしい。
しばらくマシンガントークで怒られるツッキ―に多少同情。しかしどこかで何かを間違うと俺が喰われかけるかもしれない。ビリリダマだけど。
お話の展開的にそりゃないか。
長居してもあれかな、と思って転がり出す。後ろからはっきりとした声で雨の歌が聞こえた。
降らせ、降らせ、天よりの水
降らせ、降らせ、天よりの水
見よ、空覆う暗き雲を
雲よ我が命に答えよ
降らせ雨を 降らせ雨を 消え去れ炎よ
降らせ雨を 降らせ雨を 消え去れ悪しき火
我が眼前に広がるは豊かな田
降らせ、降らせ、大地を濡らせ
恐れよ妖 我が力
降らせ、降らせ、野の火を流せ
降らせ雨を 金色の大地を濡らせ
歌はまるである種の呪詛でもある。
毎年毎年歌い続けば、それだけ強くなるような気もする。
部外者が勝手なこと言ってんじゃねーよ、一人突っ込んで転がっていく。
あり、と気がつけばどうも不思議な時間になっていた。
先ほどまでは確かに昼だった。太陽は天辺近くにあり当分夜は来ないとばかりに思っていれば。
夕日だった。なんか、時間がおかしい。勢いよく風が吹いた。
ばったりと、ダ―テングにあった。
ただ普通のとちょっと違ってる感じで。威風堂々、というか、そりゃまぁ立派だった。蓄えた白髭がよく似合っている。
まるで風と一緒にそいつが現れて、なんというか、不思議と怖くなかった。
「この辺では見ない者だな」
狐の眷族ではないだろう、ぽつりと天狗は言った。
あぁ、そういえば、あの話のなかには居場所を奪われた山の神様が登場したなぁ。ふと思い出す。
「この景色が好きか?」
「へ、えぇ、まぁ、好きです」
突然聞かれて思わず適当な言葉を返す。風が波打つ金の穂、夕闇が僅かに橙色を残して田を染め抜いていく。
「そうか」
友の狐もこの景色が二番目に好きだと言っていた。
ほんの気まぐれで、間違いだらけで迷い込んだ俺に話しかける天狗は、少し寂しそうだった。
神としての名を呼ばれることが、この先に、おそらく二度とないだろうと先刻その妖孤と語ったばかりなんだろうと、思い立つ。
「俺は、忘れませんよ!」
「?」
テレポート間際に、どうにか思い出した山の神の名前を呼ぶ。
どんな表情したのか、見れば良かったと後悔したけど、まぁ、いいか。
部外者、読者、そこにいちゃいけない舞台裏。
ごろごろしながら俺は今日も迷子です。
つづけむっそ
――――――――――――――――――――――――――――――――――
余談 やっちまいました。野の火とのコラボ。いやなんかもうごめんなさい。白髭さん大好きです。
【コミケお疲れさまでした!という思いを込めて】
【もうお約束だ、拍手を(略】