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  [No.1770] ライモンシティ・裏通り 投稿者:紀成   投稿日:2011/08/20(Sat) 15:09:41   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
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ライモン。ユエ、ミドリ、ミスミ、カズミ。そして沢山の人間達が住む場所。
昼夜問わず彼らは時間に追われそれぞれの時間を過ごす。
だが、ここに住むのは彼らだけはない。ある者は路地裏に。またある者は深夜の遊園地に。
そしてまたある者は黄昏時の静まり返ったリトルコートに…
眠らない町、ライモン。その裏で蠢いている者は、今日もそれぞれの時間を過ごす。

『なあ、見つかったか』
『いや、まだだ』
リトルコートの隅で、三体のコマタナが話をしていた。喧嘩でもしたのか、体のところどころに傷がある。
『ったく、だからきちんと見てろって言ったのに』
『すまん。チビのチョロネコ一匹だったからつい』
『こんな場所で愚痴っていても何も始まらん。キリキザン様に報告だ』
人が来た。だがその三匹の姿は既に何処にも無かった。

一匹のチョロネコが、口に何かを咥えていた。綺麗なガラスともプラスチックとも言えるようなアクセサリーだ。
『へへっ、うまく盗って来れたぜ』
『また貢物か』
『レパルダス様は俺たちチョロネコ軍団のリーダーなんだ。貢いでいて損は無い』
三匹のチョロネコ。あまり大きさに差は見られないが、口調からそろそろ進化する時期なのが見て取れる。
『急いだ方がいい。コマタナ達がさっき走っていくのが見えた』
『おうよ!』
三匹が駆け出した。

『お父さん、なんだか町が騒がしいね』
ヨーテリーとムーランドの親子が、遊園地の木陰で涼んでいた。ここらへんはいつも夏にはポケモン達の期間限定の縄張り争いの場となる。だが、今日は何故かレパルダス率いるチョロネコ軍団も、キリキザン率いるコマタナ組も来ていなかった。
『そうだな。騒がしいな』
お前は気にしないでいい、とムーランドの父親は息子に言った。その一方でふう、とため息をつく。
『今夜はここは戦場になるかもしれないな…』

「ユエさん、さっき変な物見たんですよ」
所変わってここはカフェ『GEK1994』。カウンター席に座った昼休みのサラリーマンが声をかける。
「変な物って?」
「何匹ものコマタナが、一斉にギアステーションに入って行ったんです。ここらへんにコマタナはいないはずなのに…」
「ああ、知られてないだけで割りと野良がいるのよ。ポケモン同士の伝達能力って、侮れないもの」
住みやすい土地があれば、それは自然と広がっていく。口コミで。それは人もポケモンも変わらない。
「そう、コマタナが」
「あとチョロネコもいやに見たな」
「へー」
ユエはぼそりと言った。
「また抗争になるかもね」

『奪われた!?』
『も、申し訳ありません』
『…』
ギアステーション、バトルサブウェイ。乗客おろか鉄道員の間でもあまり知られていない部屋がある。元々は痴漢やスリの被害に遭った人達の報告の場だったようだが、最近ではポケモンと一緒に乗る女性が多いため犯罪も激減し、全く使われていない。
安物のパイプ椅子に座る一匹のキリキザンと、床で正座するコマタナ達。
『チョロネコ軍団の下っ端に持っていかれました』
『動きだけはいいからな』
『おまけに来たばかりなのに土地勘があるし』
『静かに!』
キリキザンの一声で静まる部屋。
『あれはマスターが欲しがっていた物なんだ。やっと手に入れることが出来たんだ。それを、それを…』
『必ず取り返してみせます!ですからつじぎりだけは!』
スックと立ち上がるキリキザン。
『今宵こそ決着をつけてやる!』

深夜。人っ子一人いなくなった遊園地に、二つの軍勢が現れた。
一つは、レパルダス率いる『チョロネコ軍団』イメージカラーの旗は紫だ。
もう一つは、キリキザン率いる『コマタナ組』旗は赤と黒。
数時間前に降った夕立のせいで、真夏の暑さが取り払われてしまい、妙にさわやかだ。もっと風が吹いていた方がいいのかもしれないが、彼らは気にしない。
『久しぶりね、キリキザン。相変わらずジジ臭い顔だこと』
『フン。そっちこそ、レパルダス。このコンサバメイク』
罵りあいが続く。この集団の中で彼らに口げんかで敵う者はいないだろう。
『で?わざわざ果たし状を送り付けて来て、何の用?』
『言葉通りの意味だ。昼間、そちらの下っ端が奪った宝飾品を返してもらおう』
『あら』
レパルダスの長い尾がひょいと上がった。先にキラキラ光るゴムがついている。
『これ貴方のだったの?随分と可愛い趣味だこと』
『勘違いするな。それはある人への贈り物にする予定だったんだ』
『まあ!』
わざとらしく驚くレパルダスに、コマタナ達がキレかけた。が、キリキザンによって押えられる。
『思われている人が可哀想。こんな奴に気に入られてるなんて』
『なんとでも言え。俺はあの人の器量と度胸に惚れたんだ』
キャーキャーと♀のチョロネコ達が騒ぐ。当の本人は別に恥ずかしいことを言ったとはこれっぽっちも思っていないようだ。
『だから返せ』
『そう言われて返す性格じゃないの、知ってるでしょ?』
『ああ。そんなだったらチョロネコ軍団は今頃存在していなかっただろうからな』
バチバチッ、と二匹の間で火花が散った。
『返さないんだな?』
『もちろん』
『よろしい、ならば戦争だ!』

そして二つの軍は遊園地名物の観覧車の前で激突―しなかった。

「シャンデラ、オーバーヒート」

騒動を切り裂くような声が響いた。その瞬間、今度は二つの軍の激突を割く火柱が放たれる。
呆気に取られる下っ端達の前に、カツンというサンダルのヒールの音。
「今夜あたりじゃないかってマダムに言われて来たんだ。…騒がしいったらありゃしない」
白い仮面と長い髪が月明かりを浴びて輝いている。スラリとした足が美しい線を描いている。
『…怪人ファントム』
キリキザンが呟いた。フンとファントムは鼻を鳴らす。
「最近夜になると、遊園地の方で騒音がして眠れない。そういった苦情が相次いでいる。警察が動いたけど、人がいた形跡はなし。ライモンの七不思議に認定されかけてたよ」
『出て行けというのか』
「そこまでは言ってない。ただ、戦争はほどほどにしろって言ってんだ。あとチョロネコ軍団、その宝は返してやりなよ」
レパルダスがそっぽを向いた。
「タダとは言わない。これやるから」
パンツのポケットから絡まった鎖を取り出した。少しずつ解いていくと、チャームが現れる。
「ミドリ・ソラミネ秋の新作。まだ未発売」
『何処で手に入れたの?』
「あの子のポケモンはゲンガーの宅急便を通して私のことを知ってる。サンプルってことで送って来たんだ」
レパルダスがゴムを外した。変わりにブレスレットをかけてやる。それは街灯に照らされて一層輝いてみえた。
『…まあいいじゃない』
「これは返していいんだね」
『お好きにどうぞ』
ファントムはゴムをキリキザンに投げてやった。
「それ、樹脂だろ。今話題になってるブランドの」
『ああ』
「あそこのマスター、意外にお洒落なんだね」
『バクフーンから聞いた話だ。あまり信憑性は無いが』
向こうの方からサイレンの音が聞こえてきた。ファントムが肩を竦める。
「これの方がよっぽど安眠妨害だよ。君たち、早く逃げた方がいい」
そう言って振り向いた時には、二つの軍団は影も形もなくなっていた。
「…」
パトカーのライトが背中を照らす。振り向かない。そのまま走り出し、デスカーンに飛び乗った。

「ユエさん、その髪ゴム可愛いね!」
もうじき夏休みが終わるということで、朝からGEK1994はゼクロム片手に宿題をする学生で賑わっていた。相変わらず今日も暑い。温度計は三十五度を差している。
「ああ、これ?もらったのよ」
「えー!?誰に!?」
「この町にいる人よ」

ライモンシティ、裏通り。
今日も彼らは、それぞれの時間の中で、それぞれの道を歩いている。

――――――――――
キリキザーン!が書きたかった。格闘タイプに手も足も出なくても、私はキリキザン愛してる。
[ブームに乗っ取ってみたのよ]
[何をしてもいいのよ]


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