ポケモンストーリーズ!投稿板
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.1830] 【書いてみた】しろいぼうし 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/09/05(Mon) 22:45:54   100clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 昼間だというのに鬱蒼としたウバメの森は、すでに薄暗かった。それでも何かを探すように緑のバンダナが動く。それを身につけているのは小さな女の子。緑色は森にとけて野生のポケモンから身を守るため。そしてその後ろでは、ピンク色のエネコが主人と一緒になって探していた。
 ポッポが横切り、キャタピーが葉を食べている中で、ひたすら探していた。時には上を向いて、探し物がないか確かめて。その顔は焦っている。日がくれる前に家に帰らなければならない。けれど探し物はいくどもいくども見つからない。
 ふと上を見上げた。ウバメの森の奥深く。来たことのない、人の通る道を大きく外れてしまったところ。後ろを振り返っても、横を見ても知らないところ。どちらに行けば元の道に戻れるのかも解らない。早起きなホーホーの鳴き声が聞こえた。
 薄暗い道、ホーホーの声。心細さに感情が溢れそうだった。大声を出しても誰も来ない。トレーナーだってこんな時間は滅多に通らない道。助けを求めることは不可能。勘で歩くけれど、いってもいっても覚えのある道は見つからない。足は疲労し、木の根に躓く。派手に転げ、落ち葉が体中につく。
「うわーーーん」
転げたことで感情の抑えが壊れた。その場でエネコを抱えて泣き出す。野生のポケモン達がその大声から逃げるように離れる。ただ一つの足音以外は。

「どうしたのかな、緑猫(みどりねこ)ちゃん」

優しくて明るい声に顔を上げる。目の前にいるのは女の人。なのだけれども。涙のせいなのか、輪郭がぼんやりとしている。いや違う。ぼんやりとしているのは薄く光っているようだった。肌が白くて綺麗な人。泣く子も黙る美しさ。というより奇妙さ。なんというか、不思議な絵画の世界に迷い込んでしまったかのようだった。
「どうしたのかな、緑猫ちゃん。お腹すいたのかな?」
にっこりと微笑まれても、言葉が出て来なかった。迷ったのと疲れたのと探し物がみつからないのと、全て言いたかったのだけど、緑猫から出てくる言葉はそうじゃなかった。
「お……ねえちゃんだれ?」
「わたし?ふふふ、教えなぁい」
今まで会ったことのないようなふわふわとした手応えのない会話。次に出てくる言葉が見つからずにしばらくその人を見た。
「そんなに見つめられたら困っちゃうなぁ」
語彙がそんなに無いので、形容のしようがない。一つだけ言えるのは、こちらの会話をのらりくらりかわす、手強い相手だということ。
「……わたし、みどりねこじゃないもん」
「かわいい緑のバンダナして、猫みたいだよね。だから緑猫ちゃん。連れているのはエネコかな?」
「そ、そうだよ。この前、ホウエン地方から来た人がくれたの」
エネコはその人の足元によって、匂いをかいだりしていたが、やがて不安になったのか主人の元へと戻って行く。
 変な名前を勝手につけられた。けれど緑のバンダナの巻き方が猫の耳のようだと言われたこともないわけではない。だが名前も聞かずに見た目で名前をつけるなんて。
「……おねえちゃん誰なの?」
「ないしょ。ここには寄り道しに来たの。これからヒワダの方に行くの」
かみ合ってない会話に混乱。けれどもヒワダに行くと聞いて、思わず立ち上がる。
「おねえちゃんヒワダ行くの?あのね、わたしコガネシティに行きたい!ついていっていい?」
「反対方向だけど、いいのかな?」
「途中まででいいの!帰る道が解らなくて、来た道に戻れれば後は帰れるから!」
帰れるなら何でも良かった。人間じゃなくても良かったのである。
「緑猫ちゃん、知らない人はそう信じちゃダメよ。この暗さならヤミカラスだって飛んでるんだから。ついていったら迷って食べられちゃうよ」
「でもお姉ちゃんはそんなことしないから大丈夫だよ」
「何を根拠に言うのかな?」
「解らないけど、お姉ちゃん悪い人じゃないもん!」
「緑猫ちゃんは疑うことも覚えようね。でもいいよ、途中までね」
その一つ一つのしぐさがやはり不思議だった。振り返り、歩き始める瞬間。踏みしめる落ち葉の音が自分より小さい。歩くたびにエネコがむずむずするのか落ち着かない様子で走り回る。
「あの、おねえちゃん」
「疲れたのかな?」
「ううん、あのね、白いぼうし、なかった?」
「ぼうし?見てないよ。探してるの?」
「ずっと探してるんだけど、見つからないの。大切なものなのに」
「大切なものはね、手放しちゃだめよ」
「うん……」
「どこで無くしたのかな?」
「それが解らなくて。気付いたらなかったの。でも昨日、ウバメの森にブリーの実を取りに来たからその時しか考えられなくて。どうしよう、明日のために買ってもらったのに」
「明日?どこかへ行くの?」
少しだけ、その質問に食いついてきた。けれどこの不思議な人が今さら何をしようが気になるわけもない。
「行くよ!明日は学校でラジオ塔の見学に行くんだ!展望台まで行くんだよ。いつもは帽子の代わりにバンダナだけど、せっかく行くからって私のお姉ちゃんに買ってもらったんだ!」
少し調子を狂わされた。そのまま無言で歩いて行ってしまったから。少し速度を早めたその人に、おいてかれまいと走る。
 突如、歩みを止める。その少し後ろで立ち止まった。
「緑猫ちゃん、明日は絶対に学校お休みしちゃいなよ」
突然のことで、言葉が出ない。楽しみにしていたことなのに、休めと言われて。
「ね?」
「明日は楽しみにしてたから、行かなきゃ。友達も楽しみにしてるから」
「そうかあ。でもね、本当明日はラジオ塔は見学するところじゃないんだよ。お家に帰ったら、明日は休んだ方がいいよ」
「なんでそんなこと言うの?」
「なんでかなあ、緑猫ちゃんだから話したくなっちゃったのかもね。ほら、ついたよウバメの森の道」
薄暗いけれど見える。森の神様を奉っているほこらがあって、遠くには低い柵のある池も見えて。
「ありがとう!おねえちゃんのおかげで……おねえちゃん?」
振り返ってもそこには何もなかった。淡く光る綺麗な人。薄暗いウバメの森ではすぐに見えるはずなのに、何も見えなかった。
「エネコ知らない?」
エネコは遠くを見つめていた。主人に呼ばれていることを知ると、エネコはすぐに返事をして寄ってきた。何かを持って。
「何拾ったの?みせてー!」
エネコが持っていたのは小さなつぶつぶ。よく見えないけれど、石ではなさそう。
「何かの、タネかなあ?どこで拾ったの?」
この辺りでみないタネ。家に帰ったら植えてみようと、ウバメの森を後にした。エネコもついていく。一回だけ、森の方を振り向くと、短い声で鳴く。そしてやたらと速い主人の後を追いかけた。



 あのお姉ちゃんは森の神様の使いだったのかな。
 その次の日、ラジオ塔が爆破された事件が、朝からニュースでやっていた。そのおかげで見学は中止。先生たちは何も被害がないうちで良かったといっていた。クラスの友達も中止になって残念そうだった。
 けれど、あのお姉ちゃんの言う通りじゃなかったら、どうなっていたのだろう。私には全く解らない。
 あれ以来、私を緑猫と呼ぶお姉ちゃんには会わなかった。ウバメの森で待っていても、ヒワダタウンに行っても。不思議な綺麗な女の人を、トレーナーは誰一人見ていないといった。
 
 そうそう、あの時エネコが持っていたタネを植えてみた。庭は狭いからほんの隅っこだけど、花が咲いたんだ。図鑑で調べたその花。
 ホウセンカ


ーーーーーーーーーーー
ゴーヤロック信者が、一生懸命ご神体を彫った結果のようです。
【ごめんなさい】【石を投げないでください】【食べないでください】【お好きにどうぞ】


- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー