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  [No.1887] ループ 投稿者:紀成   投稿日:2011/09/19(Mon) 21:12:44   20clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

彼に抱きしめられた時、私は頭の奥で自ら命を絶ったような感覚に陥った
今までの自分を壊したような、そんな感じ
『どんなに足掻いても、俺は君の思う人にはなれない』
『でも絶対に君に相応しい人になってみせる』
『なれたら、返事をくれるか』
自己完結した台詞を彼は吐いて、私の前から消えた
残ったのは、黄昏色に染まる廊下とただ立ち尽くしている私だけ


何かが、グルグル回り続けている
ジャローダやハブネークがとぐろを巻きながら、ひたすら無限ループしている
永久の記号のように二匹繋がって、私の脳内を侵食している
そんな切れない輪廻に侵食された私の足は、自然とギアステーションへと向かっていた
手持ちは二体 彼らに会うには、最低でも三体必要
だから先にカフェへ向かい、マスターに許可を取る
『最近運動してないから、鍛えてやって』そう言って、彼女はボールを預けてくれた


シングルトレイン 一体ずつのバトル
別に会えるならどちらでも良かったんだけど あの白の方に話したらあっという間に広がる気がした
どちらが秘密を守ってくれる? きっと黒の方だ
制服姿でバトルするのは流石に目立つみたいだけど
それでも私は戦った ただがむしゃらに
このままバトルするだけの人形になれたら どんなに楽なんだろう


二十一戦目 彼とのバトル
彼は私の顔見て少し驚いた顔をした いつも表情が変わらない人だからちょっと笑ってしまう
『先ほどのバトル、モニターで拝見させていただきました』
『気がついたことはありますか』
彼は躊躇った後、言った
『随分と余裕が無いように思えましたが…』


彼の顔が歪んだ 視界が悪くなる 喉の奥から悲鳴が漏れる
『ミドリ様!?』
違う 歪んだのは私の目 たくさんの雫が目を侵食していく
『ごめんなさい、ごめんなさい』
『落ち着いてくださいまし こちらへ』
ああ 私は何て最低な子なの たかが小娘の分際で彼らの手を煩わせてしまうなんて


バトルは中断 彼は手袋をした手で私の背中を擦ってくれた
『差し支えなければ 話していただけませんか』
『話すこと…』
何も話すことなんて無いの もう 放っておいてよ
『話すことなんて…ありません』
『何かを吐き出すことで楽になるのならば 私はずっと耳を傾けていますよ』


ごめんなさい そうとしか言えなかった
嗚咽が出るだけで 意味のある言葉なんて全然出てきやしない
『ライモンまではまだ十五分ほどかかります』
『私の愚痴をBGMにしても 耳が腐るだけですよ』
『…好きな人がいるんです』
いきなりの告白に 流石の彼も少し顔を赤らめた


『その人は無愛想で、口が悪くておまけに性格も悪かった』
『でもバトルは強くて 綺麗だった』
『私は憧れと同時に 恋慕という感覚を抱いていた』
『でもその人は女性で 敵わぬ恋だった』
『だからせめてその関係だけは保っていたかった』


『だけど二年前 突然その人は家を燃やして姿を消した』
『痕跡も何も見つからない 何も』
『私はあの人のことを知らなすぎた どんな道を歩み どんな思いで生きてきたのかも』
『被っていた仮面の内側を知ろうとしなかった』
『あの人が信用していたのは 自分だけ』


『そして今日 私は一人の男に告白された』
『別の組の男子 一度女子が騒いでいるのを聞いたことがある』
『家は代々続く芸術一家 彼もヴァイオリンの名手で頭もいい 性格もいい』
『そんな彼が私のことを好きだと言って来た』
『私は断った あの人のことが忘れられないの』
『そうしたら彼は抱きしめてきた 流石に面食らった』

『どんなに足掻いても、俺は君の思う人にはなれない』
『でも絶対に君に相応しい人になってみせる』
『なれたら、返事をくれるか』
あの人への思いと 彼の告白が頭の中でループして 訳が分からなくなった
頭を空にするために 私はここに来た
『一瞬でも 彼の言葉に心が揺れてしまった私が大嫌いで 殺したいくらい』


私の愛する人は もう何処にもいないのに――


彼は話の途中から 私の手を握ってくれていた
それがサブウェイマスターとして『義務』を果たしたつもりなのか
それとも『個人的に』握ってくれていたのかは
私にも分からない


でも その手がすごく温かかったのはよく覚えている


九月下旬の少し肌寒い夜だった


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