何度も味わったが、この空気だけは全くなじめない。私は彼のなんなのだ。そして彼らの何なのだ。
「今回も彼は出ないつもりかしら」
もう何度みたら慣れるのだろう。金髪の美しいストレートの彼女。それなのに私を見る目は完全に敵を威殺す目。綺麗な花にはトゲがあるというけれど、この人の場合は毒針だ。
「いや、まあ、そうです……その、私が代わりに……」
会議室から異様な空気が流れる。ため息があちこちから聞こえた。
「仕方ありません。ホウエン代表は代理のミクリさんということで進めましょう」
赤いスーパーサイヤ人みたいな人は冷静にいってくれて、私に資料が配られる。この人はカントーの代表、ワタルという人らしい。噂では人に向かって破壊光線を発射したとか、むしろその破壊光線は自分自身が出したとか、恐ろしい噂しか持ってない人だ。それを聞いた時に真っ先に出たのは……いや全て言う必要はあるまい。とにかく敵にまわしたくない。
「全く。私は仕事しない人嫌いなのよね」
ほら毒針が突き刺さった。シロナという、これでもシンオウの代表で、しかも子供たちに人気があるというのだから私は信じられない。
しかし私に毒針を刺しても、全ての元凶には届かない。
そう、全ての元凶は今ごろどっかの洞窟で趣味に走ってる。ここまで言えば誰だか解るだろう?なんでこんなのと友達になってしまったのか、今でも後悔しているのだこれでも。
いつか見ていろ、ダイゴめ!
「あはははは、またシロナちゃん怒ってた?」
完全アウェーな会議室から開放されて、帰って私は彼に一部始終を少し脚色して話したら、この反応。人をおちょくるのもいい加減にして欲しいものだ。
「笑い事じゃありません! 貴方が仕上げた資料を私に渡さないものだから、みなさんご立腹でしたよ!」
「だって僕やってないもの。あんなのやるだけ無駄だって」
「じゃあどうしてそれを会議に出て会議で発言しないのでしょうかねえ!!!!」
私が怒っても無駄なのは知っている。小さい時から宿題を忘れてはのらりくらりと先生の怒りをかわし、面倒だからと文化祭は全てほっぽってもみんなから「でもツワブキ君だから仕方ないよね」で済まされてここまで来たダイゴが、反省するような人間でないことなんて知ってる。怒るだけのエネルギーがあったら、ミロカロスの毛繕いをしていた方がよっぽど建設的。
「僕が言ったところで、あんな堅物には話通じないんだもの。話すだけ無駄でしょ」
「もう私は行きませんからね! これが貴方に出された『宿題』です。次の会議は一ヶ月後の……」
「え、またミクリ行ってきてよ。僕はその日、シンオウの別荘にいってくるから」
「っ!! いい加減にしてくださいよ!! あの場に私が……」
「あれえ? 忘れたのかなあ、君の追っかけを追い払うのにデボン専属の弁護士かしてあげたこととか」
「!? そんなことまでタテに……」
「さらに君のストーカーを追い払ってあげたこととか。ポロックを作るというから僕の土地を むりょうで 貸してあげたこととか」
金持ちというのは嫌味なのが多いとはこういうことを言うのだ。人がピンチの時はにこにこしていて、後からそのことにつけこんで弱味を握り……もう友達の縁も切ってしまえ。別にそこで困るわけではあるまい!
「そういうならば、私は貴方と金輪際、縁を切ります。私は貴方の召使いではありません。いくら貴方がホウエンで一番強い代表だとしても、限度があります!」
私がこんなに怒ったのも初めて。けれど私は何かを間違えていた。のらりくらりと生きて来た人間が、他人の怒りなど理解できるわけがないことに。ダイゴはにこにこと笑って、何をそんなに怒ってるの?と聞いて来た。さすがに私もこの時はどっと疲れてしまった。
「いいじゃない、各地のチャンピオンに顔を売っておくいいチャンスだ。こんないい商談のチャンスはないと思うよ」
「そういうのは貴方の方がよっぽど適任かと思われますがね」
「そんなことないよ。じゃ、後はよろしく!」
天性の風来坊には、何を言っても無駄な様子。才能があるというのに、こんなに無駄に使っているのもダイゴくらいなものだ。むしろ才能に気付いていない。彼はよく私にお土産として宝石の原石を持ってくるのだが、それはダイゴのことを暗示しているかのよう。
むしろ研磨の技術がない私に原石そのものを持ってくる神経は全く解らないのだけどね。
「今回も彼は出ないつもりかしら」
またシロナは威殺す目を私に向けた。その度に心臓が止まりそうだ。
「私、仕事しない人嫌いなのよね。そもそもダイゴの顔も忘れそうだわ」
私は忘れなそうだ。そして縁が切れない私にもため息が出る。
「まあまあ。もうホウエン代表はミクリでいいんじゃないかな?」
「いやそれはちょっと……」
「あらいいわね。ダイゴと違ってミクリは働いてくれるし。それ賛成!」
私の意志は全くの無視だった。
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なんでチャンピオン交代したの?
きっとこうだから。
【好きにしてください】