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  [No.935] この2投目に私の全てを曝し出す 投稿者:CoCo   投稿日:2010/11/07(Sun) 22:36:08   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5

 

*処女作
 Pocket story だかなんとかとかいうタイトル
 内容は 十歳でミズゴロウ貰ったけどなんとなく自信なくてずっとミシロ〜コトキあたりをうろちょろしながら修行してた女の子が、進化したヌマクローで通りすがりのジムリーダー候補生のアスナさんとのバトルに勝利したのをキッカケに幼馴染の男の子と旅に出る。 かくかくしかじかのなりゆきで男の子がハギ老人ちの娘さんのキャモメを連れ盗んだ水上バイクで走り出していた頃、女の子はトウカの森でピカチュウにいじめられている研究員の少女と一緒にアクア団をタコ殴りにしていた。たまにミツルも出る。そんな話。

 当時中学三年生(笑)
 創作はおやつ程度に
 確かどこかのポケモン小説掲示板に投稿してたんですが探しても見当たりませんでした。
 しょうがないので同時期に初めてマサポケに投下した話(!)を発掘してきた。

 ↓



境界線は、いらない




 頭上を行く風が、ふっと前髪を撫でていった。

 そこは野草の香りが心地良い草原で、けれど視界に入るのは青い空ばかり。

 何故ここが草原だと解ったのかよく解らなかったが、

 そんな下らない疑問は風がすっとばしてくれた。

 この青い空に比べたら、ちょっと疑念や何かは、どうでもいいものなんだ――。

 満足な感想だった。さあ、もう一眠り。


 今なら、流れる風の姿が見えそうな気がする。

 さらさら、さらさら。

 まるで川底から、水面を眺めているようだ。


 ……、と。


 そんな素晴らしい沈黙を破る、大声。


「イズマ!」


 何語だ、イズマって。

 ……いや、固有名詞か。

 
「イズマぁ!」


 うるさい。うるさいうるさい。

 遠吠えの練習なら、他所でやってくれ。


 すると、視界の端に、人影が映った。

 長い前髪を振り乱す、男。

 背が高く見えるのは、俺が寝転がっているからか。


「何だ、イズマ、ここにいたのか」


 そいつは言った。全力疾走に疲れた笑顔で、俺に向かって。


「大丈夫か? 死んでないよな?」


 そう、俺に向かって――。


「え……っと」


 俺は起き上がった。

 随分寝ていたのか、くらくらする。


「どちらさま、ですか?」


 途端に、男の笑顔が凍りついた。


 そして、無表情におれをじろじろ観察すると、


「……貴様ぁーっ!」


 激怒の鬼へと表情を変えて、うなりをきかせてぶん殴った。

 俺を。


「――っ」


 痛い。手加減無しの痛みだ。

 ちょっと口を切った。


 非常事態を知らせるベルの音が、俺の頭の中で鳴り響く。

 何が起きた?

 脳ミソの処理速度が一気にダウンした。訳が解らん。


「お前……、約束したじゃないか!

何を忘れても親友の顔は忘れんと!」


 男は顔を真っ赤にして怒っている。


「ったく、こっちがどれだけ必死に探したと思ってんだ!

『殿堂入り』ぐらいどうってことないと言ったのはそっちだぞ?」


 ……ちょ、ちょっと待ってくれ。

 そんな言葉も、驚きや何かで全然声にならない。


 何を言ってるんだ、こいつは?


「あの、」俺は言った。「人違いじゃないですか?」


「……何だと?」


 男はまだ怒っていたが、半ば呆れているようにも見えた。


「お前、確かに言ったよな?死んでも忘れんと――」



 男は、ぱっと何かを取り出した。

 それは、金属製のボール。おめでたい紅白カラーだ。

 天高く、投げる。


 すると、眩い光と共に、現れた。

 大きな、橙色の竜が。


 もう、俺の頭じゃ処理しきれない現象だ。
 

 その竜の鼻腔からは呼吸の度炎がこぼれ、

 太く雄雄しい凶悪な尻尾の先にも、炎が宿っている。


「リザードン! 火炎放射!」


 まさか、炎を。


 竜が炎球を口腔に溜めているこの光景は、

 全て悪夢だと思い込むには、ちょっとリアルすぎた。

 だって、熱い――。


 訳も解らないまま死ぬのは、嫌だ、嫌だ、嫌だ!


 心ってのは案外と素晴らしいシロモノで、

 心の叫びは救世主やら奇跡やらを、

 拍子抜けするぐらい簡単に運んできてくれるものらしい。


 俺と迫る炎の間に、強力な水の大噴射が割って入ってきた。



 物凄い水蒸気の勢いで、俺が思いっきり後頭部を大地に打ちつけたってのは、

 まあちょっと余分な話。


--------------------------------------------------------------------------------


「待ちなさいよ、ソウ!」


 痛む頭を撫で撫で振り向くと、阿修羅の表情を浮かべた少女が仁王立ちしていた。

 そんなに背が高いわけではないのに、威圧感で随分大きな存在に見える。


「忘れちゃってて当然でしょう? 全く、どうしてそこで逆切れするのよ!」


 少女はぎろりと男を睨んだ。

 睨まれているのは自分じゃないのに、怖い。


「だが、イズマは……」


「うるさい、解からず屋の頭でっかち!

ここは『殿堂入り』に挑戦したことを称えるべきで、

不可抗力で忘れちゃったのを責めるのは場違いなの!」


 一方的に捲くし立てる少女に、男もたじたじ。

 さっきはあんなに恐ろしかった男が、とても小さく見える。


 と、少女はこっちを振り向いた。

 さっきとは打って変わって、最高の笑顔。

 一瞬前の表情が信じられない。

 女って怖いなぁ。


「……えっと、イズマ、ごめんね?」


 少女は、遠慮がちにそう言った。


「あ……」言葉が見つからない。状況が読めない。


「君たちは……誰?」


 俺の何気ない一言に、少女はしゅんと沈んでしまった。


 あれ?俺、何かまずいこと、言ったか?


「……本当に……覚えて無いんだ……」


 それでも、彼女は気丈に笑っている。


「……何だか、信じらんない」


 少し、見えてきた。

 話が解らない訳だ。

 ――どうやら、こいつらは、俺を誰かと勘違いしているらしい。

 それで、忘れられたと思っている。

 よっぽど顔が似ているのか。


 とにかく、今は、誤解を解かなければ。

 勘違いで焼き殺されたんじゃあ、堪らない。


「あの……さ、」


 少女の真剣な表情を前にすると、話しづらい。


「俺、本当に、君たちのこと知らないから。

人違いじゃ、ない、かなぁ……?」


 何より自分自身の頼りない態度に、一番いらいらする。


「馬鹿言え!」


 ふと、後ろで放心していた男が叫んだ。


 そして、こっちへずかずか歩み寄ると、俺の胸倉を掴み上げる。


「お前、『殿堂入り』に挑戦したんだぞ?

ミスったら記憶を失う、あの『殿堂入り』に!

そんでもって、お前は忘却したんだ!」


 ……は、

 何の、話だ。


「じゃあお前、何で自分がこの草原に倒れてたか、解るか?思い出せるか?」


 俺が、ここへ来た、理由。

 俺が、ここに来るまで、何をしていたか。


 …………。


 あ、れ。


 フリーズしている。

 真っ白だった。草原で目覚めるまでの時間が。『過去』が。


 思い出せない――

 覚えていない――

 忘れてしまった――


 忘却して――?


「どういうことだっ」


 覚えてないって、どういうことだよ!


 本来他人に問うことではない、自分のこと。

 しかし、全然思い出せないのだ。

 本当に、名前すら、何一つ。


 空白、そして未知というのは、いつだって恐怖の対象でしかない。


 だが、こいつらは、多分、『俺』のことを知っているのだ。


「……代償なの」


 少女は、辛うじてそう呟いた。

 今にも、涙が決壊しそうな横顔。



 俺は残念ながら、それ以上追求できるほどの残酷さは持ち合わせていなかった。


--------------------------------------------------------------------------------


「……あんたは、あたしとソウの友達だったの」


 俺は草原に正座して、彼女の話を聞くこととなった。

 草原に正座、何だか寂しく場違いな感覚だが、事は重大そうである。


 何より、俺という人間の存在がかかっているのだから。


「違う!……親友と言ってくれ」


 片膝を立てて座る男は、そんな的外れな相槌を入れて少女に睨まれた。


「ええっと……そう、出身地が同じで、同じ町に生まれて、ずっと小さいころから一緒だったのよ」


「幼馴染ってヤツだな」


 俺は、二人の顔を見比べた。


 知らない人間。知らない過去。

 だから、二人の話にも俺は何の反応もできなかった。

 どうしても、他人事に思えてならない。


「それで、アンガルリーグを目指して、三人で旅に出て……」


「アンガルリーグ?」


 俺は疑問部で話を止めた。


「何だ、それ」


 少女は男と顔を見合わせる。


「ここ、アンガル地方で行われるポケモンリーグのことよ」


「ぽけ……ポケモン?」


「ポケモンも忘れたのか!」


 男は突如だんっと立ち上がった。

 驚いて飛びのいてしまったが、その顔は怒っているというより、呆れているようだった。


「ポケモンっていうのは……」


 少女の目が宙を彷徨った。

 そんなに説明しにくいのか。


「こいつみたいなヤツらのことだ!」


 男が誇るように俺に見せたのは、さっきの橙色の竜。

 ぶほっと黒煙を吐き出すそれは、確かに俺の常識外。


「そう、まあ、そんな感じだけど」


 少女は咳払った。


「実質は、人間外で電波式分解できる細胞を持つ動物のことなの」


 デ、デンパシキ?

 サイボウ?


「そんな説明で解るわけないだろ」


 男は不満げに言う。


「やっぱり、感覚で解ってもらうのが一番だ」


「そういえば、イズマ、ポケモンは?」


 少女はくるっとこっちを見た。

 ポケモン……いったい何を指しているのかがまず解らない。


「ああ、説明することが多すぎる!」


 少女はとうとう音を上げた。


「今度ばかりはソウに賛成。ま、感覚で解ってもらえばいいのよね、感覚で」


 感覚……って、ちょっと待てよ、おい。

 本当に解らないんだぞ?


 異次元にでも取り残されたような気分。


「とにかく、名前ぐらいは覚えろよ。オレはソウ。そっちはアキナ」


「……えっと、何ていえばいいのかな、その……よろしく、ね?」


 知っている人間、それも幼馴染に『よろしくね』と言うのはどういう気分なんだろう。

 しかし、まず良く考えればそれが俺だというハッキリした確証もないわけだし、

 必ずしも俺が彼らの探す人物だとは言えないのだ。

 何より、俺の納得がいかない。


 きっと曇天よりも暗い顔をしていただろう俺に、しかし彼女――アキナは、

 困惑を振り払い、明るい笑顔で言ってくれたのだ。


「あんたの名前は、『イズマ』よ」


 ああ、俺は『イズマ』なのか。

 どうせ、どうせ解らないのならば、

 暫くは、『イズマ』でもいいかもしれない。


 少し、ほんの少し、心が揺れた。



 ――俺、誰?

 見下した自分の両手からは、返事は返ってこなかった。



--------------------------------------------------------------------------------



「リザードン! ドラゴンクロー!」


 その男に付き従う、橙色の竜――名称『リザードン』は、振りかざした爪を煌かせ、大きな翼の鳥を一閃した。

 ギャッ、と緑色になびく地面へ叩きつけられ、悶絶する巨鳥。


 男の背後に俺と少女、そして大きな白いテントがある辺りで、

 もう彼が何故にして戦っているのかは想像がつくけれど、

 やはりそれは心苦しい光景だった。


 男――ソウの表情は、決死。

 それを見守る少女――アキナの表情は、必死。


 俺は、……ただ口をぽかんと開けて、阿呆みたいにそれを見つめていた。


「イズマ、解る?」


 突然何の前触れも無しにそんなことを言われても、困る。


「……何が?」


 暫し、沈黙。

 風の声をBGMに、決闘するソウと二匹の背中だけが、鮮明に目に焼きつく。


 不意に、アキナさんはこっちを振り向いた。


「リザードンは、炎タイプなの」


「……ホノオタイプ?」


「そう。タイプっていうのは、ええっと……」アキナさんは、言葉を探している。


「……そう、性質のことよ」


 性質。

 解らないことは、解っている人間に尋ねるしかない。


「ポケモンにはいくつかの種類のタイプがあって、それぞれに相性があるの。

例えば、火は水で消えるから、炎タイプは水タイプに弱いとか、そんな。」


 そこまで言って、彼女は堪えきれずに苦笑する。


「まさか、イズマにポケモンのこと教える羽目になるとはね。

私にポケモン教えてくれたの、イズマだったのに」


 はあ。

 と言うことは、俺はその『ポケモン』とやらのことを良く知っていた、そういうことか。


 ソウが戦っているのを見る限りでは、『ポケモン』というのは人間に従僕し、戦わせたりするものらしい。

 炎タイプ、水タイプ、種類があるからには、『ポケモン』だって多種類いるのだろう。


 何より、アキナやソウの態度から、

 ここで『ポケモン』なるものがどんなに重要な存在か伺える。


「あのさ、結局のところ、『ポケモン』って何なんだ?」


 言ってしまってから、敬語のほうが良かったか、と一人で気まずくなったが、

 良く考えれば彼女は俺のことを随分前から知っているのだ。

 彼女は気兼ねなく答えてくれた。


「ポケモンは……人間と一緒に生きる、何だろう……? 友達、仲間、そんなものかなぁ。

ポケモンバトルっていって、戦わせたりもするし」


 ふと見れば、ソウはリザードンに命令を下している。


「いけっ、そこで翼で打て!」


 リザードンは旋回し、巨鳥に突撃した。


 友達。仲間。

 友達や仲間を戦わせるのか。

 何か矛盾しているような、欠落しているような気がする。


 気のせいだろうか。

 それとも、それがここの常識なのだろうか――


 そんな疑念を抱き始めた矢先、視界の隅にかっと光るものが映った。

 何かと振り向くと、さっきの巨鳥の身体が輝いている。


 ぴひょお、と頭のがんがんするような高音で鳴いて、鳥はリザードンに猛突進した。


「あれは……まさか……」


 隣から漏れた驚愕の声にアキナの顔を見ると、

 その視線は鳥に釘づけになっていた。


「リ、リザードン! こ……こうなったら一気に行け!」


 ソウの指示が飛ぶ。


「ブラストバァーンッ!」


 リザードンは、只でさえ大きな口を裂けたように開き、

 俺に見せたのとは違う、赤々とした炎を溜め込み、そして、


 吐き出した。


 光る翼で流星の如く突っ込んできた鳥は、案の定その炎に巻き込まれ、

 黒焦げになって、ぱさりと落ちた。


「ふう、どうにかなったか」

「大丈夫、ソウ?」

「ああ。そっちに被害はないか?」

「大丈夫よ。ところで、気になることが……」


 俺は、ずっと黒い塊を見ていた。

 彼らが何事も無いようにそれを済ますのは、

 それが『ポケモンバトル』であって、常識だからなのか。


 思わず、俺はその鳥の傍に駆け寄っていた。



 解らないことばかりの世界でも、

 良心の赴くまま行動しちゃいけない規則なんかあってたまるか。



--------------------------------------------------------------------------------



 羽毛が焦げていたけれど、そいつはまだ生きていた。

 死んでない。まだ生きてる。


「こいつ、光ったぞ」


 いつの間にか、ソウもアキナも傍に居た。


「……このピジョット、ゴッドバードを使った……

野生じゃない。トレーナーが居るんだわ」


 深刻そうに呟くアキナ。

 けれど、二人の心配は、俺には理解し得ない。


 だから、俺は俺の心配を口にした。


「なあ……こいつ、助けられないのか?」


 暫く、二人の目はきょとんとしていた。

 ああ、タイミングを誤ったか。顔から火が出そうだ。

 それでも、今言わなければいけないような気がした。それだけの話。


「……あっはっはっはっは!」


 いきなり、ソウが笑い出した。


「イズマ、お前変わんないな!やっぱりイズマは死んでもイズマだ!

そのうち、また『お前はトレーナー失格だ!』とか言いながら殴りかかってくるぞ!」


 何、何、何だよ、何だってんだ。


「イズマ、そういう人だったんだよ」


 アキナも笑う。

 ああ、でも、ちょっと、自信が持てたような。


「そっか……俺って、『イズマ』なのかぁ」


「はっはっはっは!」ソウは俺の呟きにさらに大笑いした。

「当たり前だろ!お前は俺達の『イズマ』だよ。

忘れても忘れられない、お人よしの『イズマ』だ!」


 そして、俺の背中を豪快に叩く。


「何だ、実感なかったの?記憶喪失ってそういうものなんだ」


 アキナの笑い方は独特だ。

 含むような、堪えるような。


「大丈夫、あんたは『イズマ』だから。

あんたが知らなくても、あたし達が覚えてる。

あんたはあたし達の親友だよ」


 ああ、今やっと解った。

 思い出したのか、学んだのかは解らないけれど。


 友達って、こういうものか。


「……さあ!じゃあ、お人よしイズマ君の要望にお答えして、

ポケモンセンター直伝のアキナ流火傷治療、見せてあげる!」


「イズマ、テント入れよ。

お前の寝袋、捨ててないからな」


 招かれたテントの暖かさと懐かしさは、

 記憶の断片?それとも既視感?



 人間、一人で生きてはいかれないけれど、誰かが居ればどうにでも生きていける。

 必要なのは、信念ぐらいだ。――あと、食料と水な。



--------------------------------------------------------------------------------



 優しさと甘さをイコールで繋げることには、俺は賛成できない。

 優しさと愚かさを同じものと考えることも、俺にはできない。

 けれど、そういう考え方をするやつが存在するのも、解る。解るよ。

 時代なんて薄情なもので、恩は仇で三倍返しが基本なのだ。


 アキナの適切な処置と自身の生命力によりあっという間に回復し、

 俺の手から元気に大空へと飛び立っていった鳥――驚くことに、こいつもポケモンだった――は、

 数時間後、俺達のテントの元へ戻ってきた。

 凶悪そうな面をした、空の愉快な仲間達を無数に引き連れて。


「――逃げろ!」


 ソウがテントを畳むスピードは、目にも留まらぬほどだった。

 そうして俺達三人は今、無我夢中で草原を駆け抜けている。

 立ち止まったら命の保障はない。

 黄昏に染まる空を黒々と覆い隠すほどの翼が、全速力で追っかけてきているのだから。


「お前のせいだぞ、このお人よしがぁ!」


 テントを背負ったソウが、振り向いて叫んだ。

 この大きさのものを背負い、これだけの速さで走っていながら、よくもそんな大きな声で叫べるものだ。


「イズマは……人として……正しいことをしたまでよっ」


 俺の代わりに弁明しようと試みるアキナは既に限界気味で、

 気を抜いたら倒れてしまいそうな必死な目をしている。


 俺は……喋ったらぶっ倒れる。


 足はぎしぎしと悲鳴を上げていた。

 時間と距離が軽く三倍ぐらいに引き伸ばされているような感覚。

 顔が、手が、燃えるように熱い。

 どんどん暗くなる足元を見つめながら、

 世界の果てまで走ったような気がした。


 飛び込んだのは、森だった。

 鬱蒼と……なんて言うほどではない。木々に透けて、町の灯りが見え隠れしている。

 木陰に立ち止まって暫くは、誰も物を言えなかった。


「まさか……群れで戻ってくるとはなぁ……」


 それでも笑っていられるソウに乾杯。


「ひどいよね、治療用のチーゴの実が勿体無かった」


 ため息をつくアキナの傍らで、俺は夕闇にぼんやり浮かび上がり始めた灯を眺めた。

 ふと、考える。

 あれは未知じゃない。あれは街灯、知っている。

 今、大樹の根元に投げ出されているこれは?――足。

 今、湿った土の上に放り出されているこれは?――手。

 そんなことは解るけれど、友人だったらしい人間は解らない。

 そんなことは解るけれど、肝心の『ポケモン』のことは解らない。

 理不尽。余りにも理不尽な話だ。

 何で?

 何で俺は思い出せないんだ?


《お前、『殿堂入り』に挑戦したんだぞ?

ミスったら記憶を失う、あの『殿堂入り』に!》

 ソウの言葉。

《代償なの……》

 アキナの言葉。



『殿堂入り』の『代償』。



 ぞっとした。

 触れてはならない何かに触れて、警報が鳴らされたような。

 入ってはならない場所に足を踏み入れてしまったような。

  ――考えてはいけない。

 本能が警告していた。

 ――考えなければならない。

 理性が告げていた。

 一体どうしろってんだ、全く。



「おい、イズマ? 聞いてるか?」


 思考はソウの言葉によって遮られた。


「今日は宿屋でいいよな? イズマ」


 尋ねられても、記憶という名の盾を持たない俺みたいな無防備な人間が、選択できるわけがない。


「ここ、トルネイタウンじゃない?」


 アキナは小手を翳して街を観察している。


「トウモロコシのポタージュが美味しいのよ」


「んじゃ!」ソウは立ち上がった。大きな大きなテントを抱えて、何と逞しい。「行きますかぁ!」


 ――俺は、街へ行く。

 多分、幾度目かにして最初の『街』へ。



情けは人の為ならず、また己の為にもあらず。




以下つづく


***

 なんだこれ。いたいさすが厨房の自分いたい。
 今ならだいばくはつを使える気がする。
 耐え切れなくなったら本当に爆発するかもしれません つ削除キー


【みんな自爆すればいいのよ】
【しめりけなんて野暮なのよ】


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