ある午後の昼下がり。
とある並木道の中を、
狐ポケモンのゾロアと散歩している青年がいた。
天気も良好で青年の足元ではゾロアが無邪気に走り回っていて、
近くに飛んでいたハネッコ達を夢中になって追いかけ始めた。
「おーい、ゾロア! 転ばないように気を……」
「ガウッ!?」
小さいつまずき音からコロコロと可愛げな音へと発展して、
「ガウァ!!」
大きな木からの激突音が寸劇(すんげき)を締めた。
「言わんこっちゃないんだから……もう」
並木道を通り抜け、
やがて青年とゾロアの目の前に現れたのは一軒のゲーム屋。
新品はもちろんのこと、中古品も扱っている店だった。
「ちょっと、のぞいていこうかな、いいよね? ゾロア」
「ガウッ」
ゾロアの了承を得た青年はそのまま店の中に入って行った。
店の中を進んでいくと、
青年とゾロアの前に面白そうなゲーム機があった。
テレビゲームとかのゲーム機ではなく、
そのゲームに勝つと景品がもらえる、プライズ系のゲームであった。
「……これ、本物のコイル、なのかな……? まさかね……」
そのゲーム機の中には
一本の鉄の棒。
そして小さなコイル達がコースを作っているようで、
筒のようにぐるっと下から上まで小さなコイル達が並べられていた。
なんか、懐かしさを感じさせる。
青年はルールを読んでみた。
・まずは欲しい景品を選んでね★
・このゲーム機は自動で回転ドラム式に動いて行くよ★
・プレイヤーはレバー操作で鉄の棒を上下に動かせるよ★
・コースを作ってくれているコイル達に触れないように
鉄の棒がゴールまで到達したらゲームクリアだよ★
「うーん、これなら俺にも出来るかも……?」
こういうゲームにあまり勝った試しがない青年だったが、
景品の中にあった、一つの欲しかったゲームがその瞳に映ると、
そんな悩みなんか、
フワンテのようにどこかへ飛んで行ってしまったのであった。
『チリーンッ★』
可愛い電子音が鳴った。
[1回目]
よし、欲しい景品を選んで……と。
これでスタート!
おぉ、自動で動いていく……って鉄の棒に集中しないと……。
コイル達に触れないように、落ち着いて……と。
バチッ★
火花とともに失敗を告げるBGM。
……まぁ、最初はこんなモンだよね。
[5回目]
……だいぶ慣れてきた感じはするんだけど。
このゲーム、コイルの視線が刺さってくる感があるんだけど……!
ぐるぐる回るから、見方によってはコイルからの流し目が……!!
バチッ★
火花とともに失敗を告げるBGM。
……お前らぁぁ!!
いつの間に『プレッシャー』なんか特性を身に付けたんだぁぁぁぁ!!??
[15回目]
コイルのプレッシャーになんか負けてたまるかっ!
……というより、あそこの細い道が一番、難しいんだよな。
傾斜は約30度ぐらい。
おまけに距離が若干あって、
遅く入ってはもちろん駄目だし。
ちょうど入るっていうのも駄目なんだよな……
あの細い道から出る前にどうしてもコイルにぶつかっちゃうんだよな……。
バチッ★
火花とともに失敗を告げるBGM。
「グヒヒヒ」
あっ、ゾロア。
お前、今、笑ったな?
もふもふの刑にしてやろうか……。
…………。
……。
ゾロアって狐だよな。
こいつと出逢ったのって確か神社だったよな。
二礼二拍一礼。
「ガウッ?」
あぁ、ゾロア。気にしなくていいぞ。
なんとなくそういう気分だったから。
[20回目]
多分、俺のPPもこれが限界かもな……って冗談はよして。
あの細い道に早めに、
でも早くしすぎて、入口でコイルにぶつからないようにしなきゃ……!!
ココだ!!
……………………。
…………。
……。
クリアを告げるめでたいBGM。
えっ、ウソ?
ま、マジで!?
あ、けいひん景品っと……。
や……やったぜ、新作ゲーム、ゲットだぜ!!
「ガウガウ♪」
ゾロア、お前、ポーズまで決めちゃって、ノリいいな。
青年はバックの中に景品を丁寧に入れるときびすを返した。
「そんじゃあ、帰るか、ゾロア」
「ガウッ!!」
心の中でルンルンとステップ気分で店を後にしようとする青年とゾロア。
『……アノ ヒト。
アノ ゲーム テニイレチャッタネ』
『ゲーム イッカイ 100エン デ
20カイ ッテコトハ……』
『ドウ ケイサン シテミテモ
チュウコ カラ モ シンピン カラ モ
プラス ナ ケッカ ダヨネ』
『…………』
『…………』
『『『『ナンカ ツマンナーーーーイ!!』』』』
急に立ち止まって例のゲーム機の方に振り返った青年。
「ガウッ?」
「いや、今、なんか言われたような……?
……ッくしゅん! ッくしゅん!!
げ、二回連続でクシャミをしちゃったよ」
「ガウウッ?」
「ん? あぁ、クシャミは一回だと誰かからほめられていて、
三回連続だと誰かが自分に気があって、
四回以上の連続は……多分風邪か、もしくは花粉症」
青年はゾロアから例のゲーム機へと視線を戻す。
「二回連続は……確か、悪口みたいなものだったかな?」
しかし、ゲーム機からは何の声も聞こえて来なかった。
「まぁ、気のせいだよね。
よし、ゾロア。帰ろうか。
お腹もすいたし、このゲームも気になるしね」
「ガウッ♪」
『『『『オニイサン ノ バカァァァーーーー!!』』』』
その日、青年の二回連続のクシャミは何回か繰り返されたという。
【実話を基に書いてみました】
実際にコイルではありませんでしたが(汗)
イライラ棒(と言われても分からない人がいましたらごめんなさい)みたいなゲームに勝ちました。
20回(一回100円)ぐらいだったはずなので、
中古からも新品からも差し引いてもプラスな結果になりました。
ちなみに、当時、くしゃみはしてません。念の為。(笑)
そして、なんか自慢話的な物語で、すいませんでした。(汗)
とりあえず、この看板を……。
【2010年10月31日
ブラックのポケモントレーナー、始めました。】
ありがとうございました。