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  [No.965] 空飛ぶ夢のその先は 投稿者:MAX   投稿日:2010/11/14(Sun) 04:20:06   38clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
タグ:TEST1】 【TEST2】 【TEST3】 【TEST4】 【TEST5


「おおぅい、おおぅい、コモルーさんや! コモルーさんはおらんかな!」

「うぅん、こいつはいったい何事か。声だけ聞くにはビブラーバ君か。しかしこの場は険しい山で、どうして君の声がしよう」

「この声は! やぁ、この声はコモルーさん!
 して、あんたはいったい何者か」

「そういう君こそ何者か。
 緑の身体のそこの君。その背の翼で空を舞い、長い身体をくねらせる。そんな知り合い、記憶にない」

「やや、ひとつ名乗りが遅れたか。あっしはかつて、ビブラーバだったものでさぁ。
 砂漠のすり鉢を古巣とし、砂上を走って幾星霜。走った跳ねたを繰り返しては、飛べない翼に悶えたものよ。
 しかしそいつも昔の話。今のあっしはフライゴン。羽の数こそ減ってはおれど、こうして空を舞えまする」

「あぁ、なんだ。やはり君がビブラーバ君か、いやフライゴン君か。
 すでに気づいているだろうが、こちらもきちんと名乗ろうか。
 自分はかつてコモルーだったもの。空飛ぶ身体になるためと、食うや眠るや身投げをするや、やはり気づけばこの通り。
 今の自分はボーマンダ。身体を包む甲羅は消えて、この背に真っ赤な翼も生えて、飛ぼうと思えば飛べる身だ」

「おぉ、おぉ、なんと! やはりあなたがコモルーさんか。いやさ、今ならボーマンダさんか。
 いやはや、知らない間に翼も生えて、なんと立派な翼なことか。それほど立派な翼なら、空の果てまで飛べましょう。
 しかしてどうだ。あんたの顔は不機嫌だ。何か事情があるのなら、不肖、あっしが相談などと」

「態度に出るほど不機嫌か。いや、不機嫌なのは本当だ。
 言うならば、背中の翼は立派だが、どういうわけだか空まで飛べず。
 立派な翼は無闇に風を起こすだけ、ということなのだ」

「なんと、そいつは面妖な。
 やはり身体が重いのか? はたまた飛び方がわからないだけか。
 あっしなら、進化してすぐ飛べたものだが。はて、羽ばたき方を知ってたからか。
 どれ、ボーマンダさんや。あっしに羽ばたき、見せてくれ」

「そういうことなら見てもらおうか。
 それ。やぁ、やぁ、やぁ!」

「おぉぅ、こりゃまた力強い。
 あぁ、しかし、上から下へ動かすだけじゃ、ちょいと空へは飛べませんぜ」

「……あぁ、ダメか。なかなかどうして難しい。念願かなって手にした翼、こうしただけでは持ち腐れか。
 なぁ、フライゴン君。ひとつ、頼まれてくれないか」

「どうすりゃ飛べるか教えてほしい。と言うつもりなら、おやすいご用でさ」

「あぁ、察していたなら話は早い。2枚の翼を持つもの同士、君の羽ばたき、見せてくれ」

「ほいさ、わかった、頼まれた。
 あっしが羽ばたき見せやすんで、ちょいと真似してみなんせぇ。
 まずは地面に足を着け、ほい、ほい、ほい、と。
 翼の動きは根本から、縮めて上げて、広げて下ろす。風を真下にぶつけるように」

「翼をしならせ、やぁ、やぁ、やぁ、と。こんな具合か?
 うむ、なにやら身体が軽くなる。持ち上がってる気がするぞ」

「おぉ、存外うまくやりやすな。もともと筋は良かったか。
 そんな感じでいきやしょう。下ろすときには力の限り、上げるときには焦らず急ぐ。
 ほい、あっしもそろそろ飛び立ちやすぜ」

「自分もだんだん浮かんできたぞ。これなら空も飛べそうだ。
 しかしこれでは上に向かって浮くばかり。このままどうして空を飛ぶ?」

「こっから少しコツがいる。ほい、首としっぽをまっすぐ伸ばし、軽く地面を蹴るんでさ」

「羽ばたいたまま、地面を蹴って進むのか。
 では、やぁ、やぁ、ややや!?」

「ありゃ!? ひっくり返って落ちるとは! 地面を蹴るのが強すぎた!
 こいつはとんだ一大事! 落ちるにゃ慣れてはいましょうが、いつも無事とは言えますまい!」

「あぁ! あぁ! 落ちる! この期に及んでまだ落ちる!
 ひっくり返って羽ばたけない! このまま地面に落ちるのか!」

「そうは問屋が卸さない! しっぽをつかんで持ち上げよう!
 むむ、こいつはとんだ重量級! 持って耐えるが精一杯!」

「おぉ、おぉ、これは宙ぶらりん。ゆっくり落ちてはいるものの、このまま落ちればケガもない」

「あまり長くはもちませぬ! ひと度放せば真っ逆さまだ! はやく自分で飛びなせぇ!!」

「やや、それはなんとも恐ろしい。そうなる前に羽ばたこう。
 やぁ、ちょっと身体をくねらせて、体勢なおして やぁ、やぁ、やぁ」

「おぉ、おぉ、おぉう! 暴れてくれると手が滑る!」

「ほんの少しの辛抱だ! もう少しだけ耐えてくれ!
 やぁ、やぁ、やぁ、やあやあやあ!!」

「おぉ、これは! まっすぐ飛んではいやせんか!」

「やぁ、飛んだ! 飛んでいる! やっと自分が飛んでいる!
 こんなに遠く、見渡せたとは! まだまだ雲は遠かれど、やけに地面が遠いじゃないか!
 いやしかし、こうして飛ぶのは疲れるな。地面もどんどん遠ざかる」

「まだまだまっすぐ飛ぶだけなれど、そこまでできりゃぁまずまずだ。
 しかして、羽ばたくだけが飛ぶにはあらず。今度は翼を広げて風に乗ろう。そして右に左に飛び回ろう」

「やや、羽ばたかずとも飛べるのか? いや、飛び立つために羽ばたくのだな。
 そういえば、空飛ぶ鳥は羽ばたくが、いつもそうとは限らんな」

「そうそう、鳥がお手本さぁ。こうして身体をまっすぐ伸ばし、翼を大きく広げたならば、ゆっくり空を飛べますぜ」

「少々怖いが、やぁ、こんな具合か。
 なるほどな、これならなかなか疲れない。だがしかし、なにやら落ちてる気がするが?」

「や、羽ばたかなければ落ちるもの、そいつは仕方がないですぜ。上がりたかったら羽ばたきやしょう。疲れりゃもっかい、こうすりゃいい」

「そういうことか。上がって下りてを繰り返し、こうして空を飛ぶんだな。
 あぁ、だんだんコツがつかめてきたぞ」

「そうそう、そんな具合でさ。あとはゆっくり慣れればいい。
 身体を傾け上下左右、翼を広げて風に乗り、翼を縮めて風を切る。やるこたいろいろありやすが、急いで覚えることもない。
 まぁ、ちょいと手本を見せやしょう」

「やや、フライゴン君。離れて寄って、それが左右の動きかね」

「だいたいそんな感じでさ。あとは、身体を傾けて、翼を縮めて急降下!」

「おぉ、フライゴン君! どこへ行く!」

「翼を広げて風を受け、首を持ち上げ急上昇! ちょいと羽ばたき姿勢制御。まぁ、これぐらいならそのうちコツも掴めやしょう。
 お? 野を越え山越え森を越え、そろそろ海が見えてきた」

「海? おぉ、あれが! 山に棲み、木々に囲まれ生きてきて、こうして空から眺めることになろうとは!
 あぁ、すごい! これが雲の目線というわけか!」

「馴染みの砂漠も彼方にあるか。
 いつかどこかへ旅立ちたいと、願うことなどあるにはあるが。まさかここまで飛ぼうとは、正直夢にも思わなかった」

「ははは、いやまったくだ。自分もまさか、念願かなって手にした翼、ここまで飛ぶとは思いも寄らず、だ!
 あぁ、そうだ。これが感動だ! 自分は今、心の底から感動している!!」

「おぉ、おぉ、威勢の良い炎だ。
 さて、ボーマンダさん。そろそろねぐらに戻りやしょう。あんまり飛んでも疲れるさ」

「そうなのか。いや、自分はそれほど疲れてないが。
 できればこのまま海を行こう、と自分は思っちゃいたのだが」

「しかしまだまだ飛ぶのは不慣れ。海は広いし降りれない。疲れりゃどこで休めやす? 水に落ちたらどうしやす?
 あっしらまだまだ未熟さね。海の向こうはまだ遠く、もっと上手く、もっと長く、飛べればいずれ目指せやしょう」

「もっと上手く、もっと長くか。君はどうかな、フライゴン君。なかなか上手に飛んでるが」

「あっしもまだまだ未熟でさ。空飛ぶ翼が生えたのも、ついこの間のことでさぁ」

「なるほどそうか。君もまだまだ若いのか。
 しかしこうして翼が生えて、念願かなったところだが、まだまだ夢は広がるな」

「えぇ、そうでしょう。海の向こうはまだ遠く、雲の向こうは尚遠く、目指すは彼方のそのまた向こう。
 いやはや、茨の道というものか。退屈せずにすみそうだ」

「目指すは彼方、なるほどな。そういうことなら引き返そう。
 落ちるばかりの日々は終わった。今日から空を舞う日々だ。目指すは雲と海の向こう。
 今は下積み、その先に」

「夢は終わらず、良いことで。
 あっしも彼方を見てみたい。こうしてきたのも腐れ縁。行けるとこまで付き合いやしょう、ボーマンダさん」

「行けるとこまで行こうじゃないか、フライゴン君」

「さぁ、そうと決まりゃぁ特訓だ。特訓特訓また特訓」

「自分と君とで特訓だ。彼方を目指して特訓だ。
 彼方は遠く、まだ遠く。遙か遠くにあるのだから……」


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