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07 屏風の大唐犬  記事:No.017(HP)  絵:のーごく(pixiv


 屏風といえば、わが国の城郭には必ずと言っていいほど置かれ、贅を尽くした豪華なものが作られてきた。だが名作は数あれど、僕が好きなのは、カントー地方にある通称「赤犬寺」にある大唐犬――ウインディの屏風だ。
 そこに描かれた一癖あるその表情と対峙した時、すっかり私は惚れ込んでしまった。そして何より、それに付随した伝説を聞いた時、ますますこの屏風が好きになった。今回はこの赤犬寺に伝わる伝説を紹介しよう。
 
 昔、この寺がそこそこに大きくなり始めた頃、とある高名な絵師に屏風の製作を依頼した。住職は竹林に強そうな獣――すなわちポケモンを一匹、描いてくれるように注文したのだが、竹林を描き終えた時点で絵師は行方をくらましてしまったのだという。途方にくれた住職だったが、竹林のそれ自体はよく描けており、そのまま使う事にした。
 そして、事が起こったのはそれから一年程後の事であった。寺に一匹の大唐犬が逃げ込んできたのだ。突然、風のように現れた大唐犬は住職に言ったのだった。
「私の毛皮を目当てに野蛮な侍達に命を狙われている。いつもならばこの足の速さで振り切れるが、罠にかかり怪我をしてしまった。どうかここに匿って欲しい」
 住職は困った。大唐犬はとにかく身体が大きい。この寺に匿って隠しきれるかどうか。
 だが、大唐犬はこう言った。
「いいや、隠れるにはここが一番いいのだ。私は知っているぞ」
 そう言って、土足でどかどかと寺の中に上がり込んでいってしまった。足跡を追いかけていって住職は驚いた。
 なんと、竹林だけだった屏風に実に立派な大唐犬が描かれているではないか。足跡は屏風の前で消えている。
「ここに大唐犬が来なかったか」
 足跡をすっかりに消した頃になって、火の馬にまたがった侍達がやってきたが、住職は知らぬ存ぜぬを通した。
「はて、大唐犬ですか。こちらには来ませんでしたよ。この前、屏風に描いて貰ったのならいますけれどね」
 こうして、大唐犬は難を逃れたのだった。
 大唐犬は怪我をしていた為なのか、屏風に入ったまま出て来なかった。やがて、寺に素晴らしい屏風があると話題になり、寺にはよく訪問客が来るようになった。信者や檀家も増え、栄えたそうだ。
 さて、屏風に入ったまま、出てこなかった大唐犬だが、ある時、一度だけ抜け出した事があるという。それはとある旅の若侍が寺に寄った時の事だった。その若侍は密書を携え、道を急いでいた。だが、追っ手がかかり、寺に助けを求めたのだった。
「早くこの事をお殿様に伝えなければならないのです」
 若侍はそう言ったが、追っ手は寺を包囲していてどうしようもない。が、その時どこからか「話は聞いた」と声が聞こえた。振り返るとそこには大唐犬の屏風があった。にわかに絵が動き出し、大唐犬が屏風から抜け出した。そうして若侍の首根っこをひょいっとくわえ、自らの背中に乗せると風の如く走り出したのだった。すっかり傷の癒えた大唐犬の走る速度には誰も追いつく事が出来ず、若侍は無事に城に辿り着く事が出来た。その後、この事が殿様の耳に入り、使者がやってきて、褒美の品々を賜ったという。
 絵や屏風からポケモンが抜け出す話はこの他にも各地に伝わっている。特に名高い絵師の作品にはこういった伝説が多い。

「ポケモンが入るのは、何もモンスターボールばかりではありません」
 そう言って、屏風のウインディを眺めながら今の住職さんは笑ったのだった。


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