08 クサビラ様
No.017(HP)
ホウエン地方のトウカの森近く、山間にあるとある町には、通称「キノコ神社」と呼ばれる小さな社がある。祀神はキノガッサで、クサビラ様と呼ばれ親しまれている。クサビラとは漢字で茸、または菌と書く。
いかにも菌類が好みそうなじめじめとした場所に立っているこの社の起こりには次のようなエピソードがあるという。
昔、このあたり一帯でひどい飢饉(ききん)があった。何日も暗い雲が空を覆い、米が育たず、人々は餓死寸前になった。そんな時に、山からキノガッサがたくさんの眷属を連れて現れたのだという。彼らは人里に降りてくると尻尾を揺らし、身体を揺すり、胞子を撒き散らし始めた。
人々は恐怖した。というのもキノガッサやその眷属であるキノココの撒き散らす胞子には強烈な毒があり、ひどく痺れて痛んだり、腹痛を引き起こしたりするからだ。
それだけでは無い。彼らには一種の後ろめたさがあった。かつてこの地に人々が入植した際、山の木を倒し、獣達を追い出して田畑を作ったからだ。だから、人々はこれを機会に茸の物の怪達が復讐を果たしに来たのだと思ったのだろう。
撒き散らされた胞子は一晩で成長して、村のあちこちに大きな茸が生えてきた。最初、人々は罠だとか、毒があるとか、口にしたら死ぬなどと噂し合ったが、何しろ腹が減ってたまらない。一人が我慢できずに口にすると皆が貪るように食べ始めた。
結局、茸に毒は無かった。誰一人腹痛を起こしたものはいなかった。人々は茸のお陰で餓えから脱し、生き延びる事が出来たのだそうだ。
人々は社を作り、キノガッサ達を神様として祀る事にした。
その縁起から、毎年、町の人々は収穫の頃になると、その年の米と茸を使い、炊き込みご飯などを作って収穫を祝う。農家で無い家も何らかの茸を育て、食卓に乗せるという。町役場やポケモンセンターでしいたけの栽培セットなどを配布するイベントがあったりする。
さて、キノガッサの胞子から育つ茸だが、通常は毒がある事は先ほどにも述べた通りである。では伝説にあるように、人々が食べられるような無毒のものは育つのであろうか。
カントー地方のタマムシ大学付属植物園の園長によれば、毒性の弱いものを選び、世代を重ねていく事でそれは可能になるという。
また、キノココやキノガッサを特定の条件下で育てる事によってある程度はコントロールが可能という研究結果も出ているそうだ。薔薇も愛でながら育てると棘が生えないと言われるから、それと似たような理屈なのかもしれない。
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