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111 ポケモンと黒死病の関わり:病魔を呼んだ妖精 リング(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。



 中世のカロス地方において、優雅なポケモンや勇猛なポケモンというものは、権力の象徴として上流階級の人々に広く愛されておりました。とくに、強大な力を持ったドラゴンや、力を認めた者に仕えると言われるギルガルドなどのポケモンは、武勲によって国に忠誠を示す者達にこぞって狙われました。
 そして、同じ時代を生きた女性たちには、優雅なポケモンが好まれました。ドレスに似合うようなポケモンを、服装の一部のように飼いこなすことが、女性にとっての誇りであったのです。それこそ、美しいポケモンを連れているという事は、そのまますぐれた服装と同等の意味合いがあるとまで言われるほどに大きな意味を持っておりました。
 その際好まれたのは、美しい毛並みに定評のあるエネコロロや、花びらや香りの美しいロズレイドなど。しかし、頭一つ抜けて人気があったのは芳香ポケモンのフレフワンでありました。

 中世カロスでは、その当時カロス地方を支配していた教会が入浴は異教徒的な行為と断ぜられ、入浴の習慣はそれ以来途絶えてしまいました。
 とくにその当時流行病であった梅毒やペストは入浴によって伝染するという誤解もあったため、貴族・平民を問わず入浴の機会は極端に減ってしまっていました。当然、そうなると気になるのは自身の体臭です。風呂に入らない上に、ごてごてと着飾り厚着した貴族の体臭は、それはもうすさまじいものでして、入浴しない代わりにシャツを頻繁に取り換えるという手段をとってもどうにもなりません。
 結果、より強い匂いで体臭をごまかすという方法に落ち着き、その方法の一つとしてフレフワンが用いられたのです。フレフワンは見て居る分には優雅な体毛ですが、そのきつい匂いは現代では忌避される傾向にあり、レストランなどの公共施設では出すことを禁じている場所すらあるポケモンです。しかし上流階級の女性にとって、そのフレフワンをパーティーやお茶会へ連れていくことが当たり前でありステイタスであったことを考えれば、その体臭がいかにすごかったかを想像できるというものです。

 また。フレフワンの香りには消毒(当時の信仰を鑑みれば魔除けと言ったほうが正しいかもしれない)の作用があると信じられ、カロス地方でペスト(黒死病)が大流行した際に街から雇われた医師の中にはフレフワンの形をしたマスクに、フレフワンの体毛や数種類のハーブを詰めて患者の治療にあたった医者が現れています。それらは通称『ペスト医師』と呼ばれ、実際に有効な治療をできた者もいれば、全くの役立たずだったものまで様々です。
 実際にフレフワンの強烈な香り成分には強い殺菌作用があり、それを煎じて身の回りの物を消毒すれば確かに効果はあったことでしょう。しかし、皮肉なことにフレフワンを連れて体臭をごまかすという生活そのものがペストの最大の原因であり、きちんと入浴などの公衆衛生を整えることが、最も有用な予防法であると、長らくカロス地方の人々は気付けなかったのです。