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114 鎮魂歌と導き リング(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 カロス地方にはかつて、絞首刑によって死亡した死刑囚から漏れ出した精液が零れ落ちた場所には、マンドレイク(マンドラゴラ)と呼ばれる植物が生えるという伝説がまことしやかに囁かれていました。
 このマンドレイク、不老不死や媚薬などの効果がある魔法の植物であると言われ、引っこ抜いた際にはおぞましい叫び声をあげて周囲にいる者を殺してしまうために、犬に引き抜かせた(ここではトリミアンの事)という伝説が残る植物です。実際に、処刑があった次の日に膝の高さはあろうかという植物の芽が突然伸びてきたという事例は数多く残されており、この植物の存在は不吉なものだとして恐れられ、時に燃やされるなどして駆除されていました。

 その植物の正体は、パンプジンと呼ばれるポケモンであったという説が今現在では有力です。その根拠とされているのは、パンプジンは髪のような腕で獲物を絞め殺しながら歌を歌う生態が確認されていることから、首を絞めるという行為そのものに、この種が惹かれる性質があるのではないだろうかと推測されています。
 歌を歌うという行為にも、自ら獲物の首を絞めて殺す必要はないようで、例えば蛇系のポケモンが獲物を絞め殺した現場にも現れ、その場所で歌う習性があるそうです。被害者が女性であろうと関係なく現れる事や、火あぶりの刑の後にも歌っている姿が発見された事例があることからも、絞首台の近くや精液の滴った場所という伝承とは関係はないというのが現在における見解です。

 この、歌うという行動の意味するところは諸説あり、現在有力な説は、進化前であるバケッチャに魂を譲り渡すためであるという説です。
 パンプジンの進化前のバケッチャは、カロス地方においては成仏できずにさまよう魂を体の中に入れて導いてあげる冥府への案内人であるという民間信仰が各地に残っており、実際にバケッチャに取り込まれた幽霊がバケッチャの中で消滅したという観測結果も存在します。
 楽しそうに歌っているように見えるのも、楽しそうな場所に魂が引き寄せられるからそうしているだけで、キルリアの協力による観測の結果では本当は悲しんでいるといった資料もあり、残忍な性質だと恐れられるパンプジンが実は慈悲深いポケモンではないかとする報告も現われています。自ら殺す際にも歌を歌うのは、生きる糧を得るために獲物を殺さなければいけない状況に涙しているためで、パンプジンにとっての鎮魂歌だとされています。

 もし、それらの観測結果や仮定が事実であるならば、処刑場に芽吹いたマンドレイクの芽は、魂の導き手であるという事になります。むやみに恐れたり駆除するよりも、無残に死んでいった犠牲者を送ってもらえたことに感謝するべきであったのかもしれません。