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121 黒い妖精 奏多


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 色違いのサーナイトを見たことはあるだろうか。通常、頭部が黄緑色、下半身の長いスカートのような部分は純白、胸から背中にかけて貫通している器官は赤色である。しかし色違いになると、頭部は青色、胸の器官がオレンジになる。その色違いの美しい色合いに魅せられて、多くのトレーナーは色違いのサーナイトを手に入れようと必死に探している。
 その美しさは、メガシンカしたときにはまた違った雰囲気を醸し出す。サーナイトのメガシンカは、胸の器官がリボンのような形になり、スカートの部分が膨らみを持ち、ドレスを着ているかのように美しい姿となる。だが、色違いの場合、このスカートの部分が黒となり、シックな雰囲気となるのだ。
 今でこそ、色違いのサーナイトのメガシンカは、強さと美しさの代名詞のようになっているが、昔は違った。黒い喪服のような姿から、死神と呼ばれ、人々から敬遠されていたのだ。特にカロス地方では、ヴァルキリーと呼ばれ、美しい乙女の姿で人の魂を狩る、死神だとされていた。刈り取る魂は、戦場で死した者の勇敢な魂であり、その魂は天上の宮殿へと連れられ、神々の戦いの際にその魂は呼び出されるとされていた。
 人々は、そういった神話を持つ黒いサーナイトに強い恐れを抱いていた。
 だが、実際のサーナイトは、そのようなことをする死神ではなかった。
 サーナイトは、辛く苦しんでいる人の記憶を自分の体に取り込み、その人の苦しい記憶を和らげる力を持っていた。苦しんだ分、これからの未来が素敵なものになるようにという願いを込めて。そうやって人を苦しみから救ってくれる、妖精のような存在だったという。
 この力は、サーナイトがもともと持っていた感情をくみ取る力を、メガシンカしたことでさらに強化したことで備わった力だといわれている。
 実際に昔のカロスの王が黒い妖精と出会ったことで、心の病を治すことができたという逸話が残されている。その王は、幼い時に流行り病で両親を亡くしたのだという。両親がいないという不安から、王位についた後、王の責務の重圧から病に倒れてしまった。そんなとき、王の寝室に黒いサーナイトが現れたという。サーナイトは優しく微笑むと、王に手をかざした。王はあまり眠れていなかったようすだったが、いきなり睡魔に襲われた。そして、次に目を覚ました時には、王の病はすっかり治っていたという。王は、黒い妖精が自分を救ってくれたと話したという。
 その黒の妖精こそが、黒いサーナイトではないかと言われている。
 強く、美しく。そして、苦しんでいる人間を助けてくれる存在のサーナイト。その姿に魅了されるトレーナーは、後を絶たない。